浅野直樹の学習日記

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令和5(2023)年司法試験論文再現答案民事訴訟法

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以下民事訴訟法については条数のみを示す。

〔設問1〕
第1 不当な方法で収集された証拠方法の証拠能力の有無を判断する基準
 不当な方法で収集された証拠方法の証拠能力が否定される法的根拠は、2条の信義則である。刑事訴訟法とは異なり、民事訴訟法には、それ以上の法的根拠がない。よって、著しく人権を侵害する方法で収集された証拠方法に限り、例外的に証拠能力が否定されると解する。
第2 本件文書の証拠能力
 本件文書は、Xがプライベートで利用しているアカウントのメールで配偶者Aに対して送った電子メールの内容をプリントアウトしたものである。一般に、このようなプライベートなメールの内容をのぞかれない権利は、日本国憲法13条で保障されるプライバシーの権利という人権に属する。
 もっとも、本件では、Xが自らYを自室に招き入れ、Yがそのメールを閲覧できる状況を作り出した。よって、この状況下でYが自分のUSBメモリに保存したという収集方法は、Xの人権を著しく侵害するということはない。Xは、Yに対し、かなりの程度プライバシーの権利という人権を放棄していたからである。
 以上より、本件文書の証拠能力は認められる。

〔設問2〕
第1 (ア)の場合
 (ア)甲債権は弁済により消滅したという判断に至った場合は、甲債権の支払を請求している本件訴訟におけるXの請求を棄却すべきにも思われる。しかし、304条の不利益変更禁止原則より(第一審判決の取消し及び変更は、不服申立ての限度においてのみ、これをすることができるということは、裏から言うと控訴人の不利益に変更することが禁止されるということである)、控訴したXにとって不利益となる請求棄却の判決をすることは許されない。
 以上より、控訴棄却の判決(302条1項)をすべきことになる。
第2 (イ)の場合
 (イ)甲債権と乙債権はいずれも弁済による消滅はしていないが、丙債権の存在は認められないという判断に至った場合は、乙債権を自働債権とする相殺が認められることを理由として、Xの請求を棄却すべきようにも思われる。しかし、第1と同様に、不利益変更禁止原則との兼ね合いが問題となる。今回は、乙債権の不成立の判断について既判力が生じるので(114条2項)、控訴したXにとって不利益がないとも考えられる。それでもやはり、請求認容と請求棄却を比べると後者のほうが不利益なので、不利益変更禁止原則に抵触する。
 以上より、控訴棄却の判決(302条1項)をすべきことになる。
第3 (ウ)の場合
 (ウ)甲債権は弁済による消滅はしていないが、乙債権は弁済により消滅したという判断に至った場合は、丙債権を自働債権とする相殺を理由としない請求認容判決をすべきであるように思われる。第一審の丙債権を自働債権とする相殺の再抗弁を認めたXの請求認容判決については、丙債権の不成立の判断について既判力が生じるので(114条2項)、同じ請求認容判決でも異なる。訴訟上で初めて相殺の主張をした場合も、訴訟外で意思表示をした相殺の主張を訴訟上でした場合も、114条2項により既判力が生じる。
 以上より、第一審(原審)判決を取消し、丙債権による相殺を理由としないXの請求認容判決をすべきである(305条、307条ただし書)。

〔設問3〕
第1 課題1
 甲債権の存在を認めた(Xの甲債権の支払請求権を認めた)前訴確定判決の既判力がZに及ばないかが問題となる。前訴に補助参加したZが115条1項1号の当事者に当たるかという問題である(同項2号ないし4号に該当することはない)。補助参加人は、45条2項より、被参加人と比べて、従属的な地位にある。現に前訴補助参加人Zも、同項により、免除の事実の主張やZの証人尋問の申出が、被参加人Yの訴訟行為と抵触して、することができなかった。よって、Zは、115条1項1号の当事者には当たらないと解すべきである。115条1項各号は、すべて何らかの形で手続保障がなされていたと評価できるから、既判力を及ぼすことが正当化される類型である。主たる立場の被参加人と比べて従たる立場の補助参加人は、手続保障が十分ではないので、既判力が及ぼされるべきではない。
 また、46条の参加的効力については、先に見たように同条2号に該当するので、補助参加人Zに及ばない。そもそも、46条は敗訴責任の分担という制度趣旨から参加的効力を認めたものであるから、前訴でYの側に補助参加してXの側に補助参加していない本件では、Xとの関係で参加的効力が生じることはない。
 以上より、XのZに対する訴えに係る訴訟手続において、甲債権の存在を認めた前訴確定判決に基づく何らかの拘束力が作用することはない。
第2 課題2
(1)補助参加人が被参加人に対して前訴確定判決を援用することが許されるか
 被参加人が補助参加人に対して前訴確定判決を援用することが一般的である。しかし、被参加人から訴訟告知(53条)を受けて補助参加人が補助参加することもあれば、本件のZのように訴訟告知を受けずに自らの意思で補助参加人が補助参加することもある。補助参加は、被参加人のための制度であるとともに、補助参加人のための制度でもある。また、46条の参加的効力の精度趣旨は、敗訴責任の分担である。そうすると、被参加人からの補助参加人に対する援用だけでなく、補助参加人から被参加人に対する援用も認められるべきである。本件のZのように、その実益もある。
 以上より、補助参加人が被参加人に対して前訴確定判決を援用することが許される。
(2)前訴確定判決の効力が作用するか否か
 本件では、第1で確認したように、45条2項の規定により、前訴補助参加人Zの訴訟行為が効力を有しなかった。よって、46条2号に該当し、参加的効力が生じないようにも思われる。しかし、これは、主たる立場の被参加人と比べて従たる立場の補助参加人を保護するための規定である。よって、補助参加人が被参加人に対して援用をする場合には適用されない。
 以上より、ZのYに対する訴えに係る訴訟手続において、前訴確定判決の効力(46条の参加的効力)が作用し、Yは甲債権の存在を否定することができなくなる。

以上

感想

 配点と内容から、〔設問1〕が令和4(2022)年の〔設問3〕に相当する実務よりの問題かなと思い、あまり時間をかけすぎないようにしました。〔設問2〕と〔設問3〕は自分なりに考えて書いたつもりですが、正解筋なのかどうかわかりません。このように多くの人が考えたことのないような試験問題をよく思いつくものだと感心します。



令和5(2023)年司法試験論文再現答案商法

再現答案

以下会社法については条数のみを示す。

〔設問1〕
〔小問1〕
第1 Gの請求の根拠
 取締役は、株式会社に対する忠実義務を負う(355条)。会社にとって不要な財産を取得する、ましてや時価よりも高額で取得する契約を締結することは、忠実義務に違反する。甲社の取締役であるAは、甲社にとって不要な土地を、5000万円で購入する契約(本件売買契約)を締結した。これは忠実義務違反である。
 忠実義務に違反することは、423条1項の任務を怠ったときに当たる。本件売買契約の締結により、甲社には、4000万円の損害が発生している。購入額5000万円−甲土地の時価1000万円で4000万円である。
第2 Aの反論
 株式会社は株主のものであり、総株主の同意がある行為については、忠実義務に違反せず、株式会社に損害も発生しないと、Aは反論する。424条で総株主の同意による責任免除が定められていることもこの解釈を裏付ける。明示的な責任免除の同意がない場合でも、総株主の同意がある場合は、その趣旨が及ぶ。
 本件売買契約を締結した当時、Aは甲社の発行済株式6万株の全部を保有していたので、そのAが本件売買契約を締結することは、総株主が同意した行為である。よって、忠実義務に違反せず、損害も発生していない。
第3 Aの反論の当否
 株式会社の本質からして、Aの反論には説得力があり、妥当である。

〔小問2〕
第1 429条の性質
 429条は、社会生活における株式会社の影響力の大きさに鑑み、民法709条とは別に、取締役に特別の法定責任を課した規定であると考えられる。悪意又は重大な過失は、他人の権利又は法律上保護される利益を侵害することについてではなく、その職務を行うについてのことである。
 429条は、民法709条の特則であるという考え方もあるが、株式会社の取締役について「故意又は過失」を「悪意又は重大な過失」に軽減する合理的な理由はなく、この考え方は妥当ではない。
第2 乙社の請求が認められるか否か
 429条1項に沿って検討する。
 Aは、甲社の役員等である(423条1項参照)。〔小問1〕で見たように、Aは、悪意で忠実義務に違反し、本件売買契約を締結した。これによって乙に損害が生じたかどうか、因果関係が問題となる。
 甲社は、本件売買契約に基づく代金の支払により実質的な債務超過に陥った。仮に本件売買契約を締結していなかったとしたら、本件提起預金を取り崩すか担保に入れることにより本件債務の返済が予定されていた。これらの事情からすると、Aによる本件売買契約の締結と、返済を受けられなかった乙社の本件債務の額に相当する3000万円の損害との間には、因果関係があると言える。
 以上より、乙社による請求は認められる。

〔設問2〕
〔小問1〕
第1 Iの原告適格
 本件訴えは、831条1項に基づく、株主総会の決議の取消しの訴えである。よって、同項に基づいてIの原告適格を判断する。
 Iは、甲社の株主等(828条2項1号参照)である。Iは、本件準共有株式を共有している者であるが、そのような者も106条に従い当該株式についての権利を行使することができるので、株主等から除外する合理的な理由はない。
 取消しを求める本件決議1がなされた本件株主総会1は令和3年6月25日に開催され、Iはその日から3か月以内の同年9月15日に本件訴えを提起しているので、出訴期間も満たしている。
 以上より、Iの原告適格は認められる。
第2 訴えの利益
 株主総会の決議の取消しの訴えは、判決により法的効果が発生する形成訴訟であり、原則として訴えの利益が認められる。判決により決議を取消したとしても法的効果が発生しない場合は、例外的に、訴えの利益が否定される。
 本件決議1は、H及びJを、初めて甲社に取締役に選任した決議である。よって、その決議が取り消されると、H及びJは、甲社の取締役でなくなるという法的効果が発生する。H及びJは、この決議で初めて甲社の取締役に選ばれているので、346条1項により権利義務者となる余地はない。
 以上より、原則通り、訴えの利益が認められる。
第3 本件訴えに係る請求が認められるか否か
 Iは、本件株主総会1においてHが本件準共有株式の全部について議決権を行使したことが、831条1項1号の決議の方法が法令に違反するときに当たると主張する。
 準共有株式について議決権を行使することは、民法252条1項の共有物の管理である(議決権を行使することにより準共有株式の価値が変わり得るので、民法252条5項の保存行為ではない)。よって、各共有者の持分の価格の過半数で決する。本件準共有株式については、HとIが2分の1ずつの持分を有するので、Hだけで過半数には達しない。よって、Hによる議決権行使は、この法令に違反している。
 議長を務めるBが、Hによる議決権の行使について、甲社を代表して同意しており、これが106条ただし書との関係で問題となる。しかし、そのただし書は同条本文と対応するものであって、同条本文は、適法な権利行使者の通知があったことを前提として、会社との対抗関係を定めた規定である。よって、会社の同意によって民法に違反する権利行使者の通知が適法となることはない。
 以上より、本件訴えに係る請求が認められる。甲社株式のかなりの割合について議決権が行使できない者が議決権を行使しているので、その違反の事実は重大であり、831条2項の裁量棄却の余地はない。

〔小問2〕
 〔小問1〕第2に記載した枠組みで検討する。本件決議1が取り消された場合に法的効果が発生するかどうかで判断する。
 本件決議1は、B、C及びDを甲社の取締役に再任するというものであり、その決議が取り消されると、B、C及びDは甲社の取締役に再任されなかったことになる。もっとも、B、C及びDは、346条1項の役員としての権利義務者となる。
 本件株主総会2は、Bが、甲社の代表取締役として招集したものであるから、権利義務者であったとしても、その招集は適法である。
 そして、適法に招集された本件株主総会2において、B、H及びKを取締役として選任するという本件決議2が成立している。本件準共有株式の全部についてH及びIが議決権を共同で行使しているので適法である。
 そうすると、本件決議1を取り消しても、現在の取締役は、B、H及びKであることに変わりがなく、法的効果が発生しない。
 以上より、例外的に、本件訴えに係る訴えの利益は、否定される。
 本件株主総会2は、C及びDが姿を現さなかったので、いわゆる全員出席総会ではないが、それでも適法に招集されて本件決議2が成立したことに変わりはないので、この結論になる。

以上

感想

 一見しただけでは何を論じたらよいのかあまりわかりませんでした。〔設問1〕〔小問1〕では問題文の「4000万円」を見落としていて、「5000万円」で論じようとしてしまいました。〔小問2〕はどこが争点になるのかつかめず、強いて言うなら429条の性質と因果関係だろうと判断して上記の記述にしました。〔設問2〕は〔小問1〕と〔小問2〕の対比がヒントになっているのだろうと判断しました。

 

 



令和5(2023)年司法試験論文再現答案民法

再現答案

以下民法については条数のみを示す。

〔設問1〕(1)
第1 下線部アの反論の根拠
 Dの下線部アの反論の根拠は、配偶者居住権である。配偶者であるDは、被相続人Aの財産に属した甲建物に相続開始の時に無償で居住していた。1028条1項各号には該当しないので、同条の配偶者居住権は認められない。遺産分割は未了なので、1037条1項1号に該当し、Dは、配偶者短期居住権を有する。
第2 請求1について
 Dは、配偶者短期居住権を有するので、請求1を拒むことができるように思われる。しかし、令和5年5月1日、Dは、1階部分で惣菜店を始めるという計画の下、甲建物の改築工事を行った。これは、居住という従前の用法とは異なるので、1038条1項に違反する。1041条に準用される1033条の修繕にも当たらない。よって、居住建物取得者であるBは、その規定に違反した配偶者であるDに対し、請求1の意思表示により、配偶者短期居住権を消滅させた(1038条3項)。
 以上より、Dは、請求1を拒むことができない(下線部アの反論に基づいて)。
第3 請求2について
 先に見たように、Dは配偶者短期居住権を有するのだけれども、令和5年8月31日にBがDに対して請求1をすることにより、その配偶者短期居住権は消滅した。
 よって、Dは、下線部アの反論に基づいて、同年9月1日以降明渡しまで1か月当たり5万円の支払の請求を拒むことはできない。

〔設問1〕(2)
第1 下線部イの根拠
 Dの下線部イの根拠は、249条1項の持分に応じた使用である。Dは、B及びCとともにAを相続し、甲建物を共有している。
第2 請求1について
 共有者Dは、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる。甲建物は一体のものであるから、Dは、甲建物全体について、使用をすることができる。
 以上より、Dは、下線部イの反論に基づいて、請求1を拒むことができる。
第3 請求2について
 Dは、甲建物という共有物を使用する共有者である。別段の合意はないので、他の共有者に対し、自己の持分を超える利用の対価を償還する義務を負う(249条2項)。Bの甲建物の持分は4分の1である(900条1号)。よって、甲建物の賃料相当額である月額20万円の4分の1である5万円の支払を、Dは、Bに対し、する義務を負う。
 以上より、Dは、下線部イの反論に基づいて、請求2を拒むことはできない。

〔設問2〕(1)
第1 Eの主張の根拠
 Eの主張の根拠は、541条に基づき、契約①を解除したということである。以下、この主張の当否を検討する。
第2 Eの主張の当否
 契約①の当事者の一方であるFが、その債務を履行しない場合に当たるかが問題となる。売買契約の買主は、基本的に代金支払義務しか負わず、契約①で代金は引渡しから2か月以内に支払うこととされたので、当初の引渡し予定日の令和4年10月1日からでも10月31日の時点では2か月以内であるから、その代金支払義務の不履行はない。売買の目的物を保管するのに相当な負担がかかる場合には、信義則上(1条2項)、買主に引取義務が認められる。そのように理解できる判例も存在する。契約①の目的物は本件コイであり、生き物なので、これを保管するには場所や世話など相当な負担がかかる。よって、買主Fには、信義則上の引取義務がある。Fは、本件コイを引き取っておらず、その引取義務を履行していない。
 相手方であるEは、令和4年10月16日、Fに対し、同月30日までに本件コイを受け取るようにと、相当の期間を定めてその引取義務の履行の催告をした。その期間内にFの履行はなかった。この不履行により、Eは乙池を利用できなくなっているので、契約及び取引上の社会通念に照らしてこの不履行が軽微であるときではない(541条ただし書には当たらない)。
 以上より、Eの主張は当たっている。

〔設問2〕(2)
第1 Eの損害賠償請求の根拠
 Eが下線部イの損害について賠償を請求する根拠は、415条1項である。〔設問2〕(1)で見たように、債務者Fには債務不履行がある。よって、債権者Eは、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。同項ただし書の事情はない。
第2 Eの損害賠償請求の範囲
 損害賠償の範囲は、416条で定められる。
(1)本件コイの代金相当額
 通常損害は同条1項に規定されている。売買契約について、代金相当額は、通常損害である。しかし、債権者には、契約解除後に損害が拡大しないように対処することが求められ、それをせずに拡大した損害は通常損害に含まれない。
 本件コイの代金相当額は100万円であるが、契約①が解除された令和4年10月31日時点で損害が拡大しないように本件コイを売却していたとしたら、債権者Eは70万円を受け取ることができた。よって、Eは、100万円−70万円=30万円について、損賠の賠償を請求することができる。
(2)釣堀の営業利益
 釣堀の営業利益は、416条2項の特別損害である。当事者であるFは、令和4年10月16日にEから乙池は同年11月上旬に釣堀営業のために使用する予定があると聞いていたので、その事情を予見すべきであった。しかし、先に述べたように、債権者Eは、損害が拡大しないように、本件コイを同年10月31日に売却することが求められ、そうしていたら釣堀営業をすることができた。
 よって、釣堀の営業利益10万円について、損害の賠償を請求することができない。

〔設問3〕
第1 抵当権に基づく物上代位権の行使が認められるかどうか
 抵当権は、その担保する債権について不履行があったときは、その後に生じた果実(賃料)に及び(371条)、372条で304条が準用されるから、賃料債権について被担保債権の不履行後は、物上代位権を行使することができる。抵当権は、債務者又は第三者が占有を移転しないで債務の担保に不動産を供するものであるから、債務不履行までは債務者又は第三者が自由に収益することができるということである。
 本件において、被担保債権であるα債権は令和5年5月31日までに弁済することとされているので、その時点までは不履行がなく、同年5月分の賃料債権については抵当権に基づき物上代位権を行使することができない。
第2 304条1項ただし書
 同年6月分以降の賃料債権については、HとLの優劣が問題となる。LがG及びKに働きかけた結果、その賃料債権がGからLへと譲渡されたのと類似した事態になっているからである。これはHによる差押えに先立っている。
 304条1項ただし書で払渡し又は引渡しの前に差押えが要求されているのは、二重払いを避けるために債権の特定性を維持するためである。この趣旨からすると、債権譲渡やそれに類する行為は、「払渡し又は引渡し」には含まれない。そのように解した判例が存在する。Hは、同年6月20日、差押えを申し立てている。
 以上より、同年6月分以降の賃料債権について、Hは、抵当権に基づく物上代位権の行使をすることが認められる。
 抵当権は登記により公示されているので、これにより不測の損害を被ることはない。

以上

感想

 〔設問2〕までを書いた時点で残り時間が30分くらいしかありませんでした。〔設問3〕は問題もほとんど読んでいない状態でしたので、ミニマムな記述を心がけました。この再現答案を作っている途中で、共同相続の効力を定めた898条に言及していなかったことに気づきました。それ以外は大きく外していないだろうと思っているのですが、どうでしょうかね。



令和5(2023)年司法試験論文再現答案行政法

再現答案

〔設問1〕(1)
第1 処分性一般
 取消訴訟(行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)3条2項)の対象となる処分とは、公権力の主体たる国または公共団体の行為のうち、その行為により直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているもののことをいう。処分性を認めるかどうかの判断には、どの段階で訴訟において争うのが適当かという観点も採り入れる。
第2 本件解職勧告の処分性
 本件解職勧告が取消訴訟の対象となる処分に該当するか否か(処分性が認めれるかどうか)を検討する。
 本件解職勧告は、B県知事が、社会福祉法(以下「社福法」という。)56条7項に基づきAに対して一方的に行ったものであるから、公権力の主体たる公共団体の行為である。
 これは「勧告」であってCの解職を勧めるということであるから、AにCを解職するように義務づけるものではないと解釈することができる。AがCを解職しなかったとしても、社福法上罰則などが予定されているわけではない。よって、本件解職勧告に処分性は認められないように思われる。
 同じ「勧告」であっても、医療法上の病院開設中止の勧告について処分性を認めた最高裁判決が存在する。これは、その勧告に従わずに病院を開設した場合に、相当程度の確実さをもって保険診療ができないことが見込まれるため、例外的に処分性を認めたと考えられる。病院の開設にはかなりの資本投下が必要であり、保険診療をしない病院というのは現実的ではないから、その前に訴訟において争うのが適当だという判断がされたと考えられる。
 本件では、その後に多大な資本投下が予定されているわけではなく、必要になったときにAがCを解職する義務のないことの確認を求める当事者訴訟(行訴法4条)などで争うのが適当であり、勧告の段階で処分性を認める必要はない。
 行政手続法13条1項1号ハで聴聞が定められているのは、役員の解任は、名あて人である法人とは別に役員個人にも大きく関わることだから、慎重な手続を求める趣旨であると解釈することができる。社福法56条9項で弁明の機会が設けられているのも、同じ趣旨であると考えられる。よって、この点も本件解職勧告に処分性を認める根拠とはならない。
 以上より、本件解職勧告は、取消訴訟の対象となる処分に該当しない(処分性が認められない)。

〔設問1〕(2)
第1 原告適格一般
 取消訴訟の原告適格は、当該処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者に認められている(行訴法9条1項)。「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により、自己の権利もしくは法律上保護された利益が、侵害され、または必然的に侵害されるおそれのある者のことをいう。そして、当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益をもっぱら一般的公益に解消するにとどめず、これが帰属する個々人の具体的利益として保障する趣旨であると解されるときには、このような利益も法律上保護された利益に当たる。
第2 Dの原告適格
 Dは、Aの業務の執行について、役員報酬等の対価を得ていたと想定される。本件解散命令によりAが解散すると、そのような対価を得られなくなる。しかし、社福法には、役員報酬等の対価を保障する趣旨であると解される条項はない。よって、Dに原告適格が認められないように思われる。
 形式的には処分の相手方以外の第三者に当たるけれども、処分の相手方(名あて人)に準ずる者として不服申立適格または原告適格を認めた複数の最高裁判決がある。しかし、それはいずれも、処分の相手方(名あて人)と同質の利害を有する者である。本件の処分の相手方(名あて人)は、社会福祉法人であるAであり、DはそのAの理事長以外の理事である。確かにDは社会福祉法人の業務を執行する理事ではあるが、法人全体の業務執行と、一理事としての業務執行とでは、質的に異なる。よって、処分の相手方(名あて人)に準ずる者としてDに原告適格が認められることもない。
 以上より、Dに当該取消訴訟の原告適格は認められない。

〔設問2〕(1)
第1 「重大な損害」一般
 行訴法25条2項の「重大な損害」とは、事後的な金銭賠償になじまないまたは不適当な損害のことをいう。そのような損害については、行政庁の処分による公定力を排し、執行停止を認めるという趣旨である。
第2 Aの主張
 Aは、本件解散命令により、経営している複数の社会福祉事業を継続できなくなって信頼が失われ、またAの福祉サービス利用者もAが経営する事業所に通い続けられなくなるという不利益が生じ、これは事後的な金銭賠償になじまないと主張すべきである。
 これに対し、B県は、すでに本件改善勧告に関するAの不遵守が公表されているからこれ以上信頼が失われることもなく、現状を放置してAの福祉サービスの利用者の待遇が悪化したり突然Aが経営する事業所に通えなくなるほうが不利益だと反論することが想定される。しかし、すでに本件改善勧告に関するAの不遵守が公表されているとしても解散命令に伴い信頼はさらに低下すると考えられ、通い慣れた事業所に通えなくなることが利用者の不利益であることに変わりはないのであるから、やはり事後的な金銭賠償になじまず、「重大な損害」に当たると再反論すべきである。
 弁護士に対する業務停止3か月の懲戒処分について執行停止を認めた最高裁決定とは、損害の性質や程度等は異なるかもしれないが、一度失った信頼を取り戻すのは困難であるということや、非代替的なサービスが停止されるという点は共通しており、この決定を参考にしても「重大な損害」に当たると、Aは主張すべきである。

〔設問2〕(2)
 Aは、本件解散処分については社福法56条各項の「できる」という文言や地域的な専門性などからB県知事に一定の裁量が認められるとしても、社福法27条に該当する理事であるDではなく、改善に向けて努力しているCを解職するようにという勧告を出し、それに従わないことを主な理由とする本件解散処分は、裁量権の逸脱・濫用であって(行訴法30条)、取り消されるべきであると主張すべきである。
 これに対し、B県は、Cは理事長であって、Dを監督する立場にあるから、それができていないCの解職勧告も適切であって、裁量権の逸脱・濫用はないと反論する。Aは、CがまさにDから事事実経緯の一部を聴取して監督して改善しようとしているところでCの解職を勧告することは、裁量権の逸脱・濫用であると再反論すべきである。
 また、B県が公表している類似事案に照らしても、本件解散処分は重すぎて平等原則に違反するとも、Aは主張すべきである。これに対しては、金額よりも改善の見込みが重要なのであって、類似事案に照らして平等原則違反はないとB県は反論する。Aは、改善の見込みがないわけではなく、改善に協力する姿勢であったと再反論すべきである。

以上

感想

 処分性と原告適格という行政法の二大論点が問われながらも、ひとひねりされているように感じました。誘導に乗り切れず、書いていてもこれでよいのかという疑問がつきまといました。解答用紙の5ページ目に突入はしたので、分量的に少なすぎるということはないかなと思っています。



令和5(2023)年司法試験論文再現答案憲法

再現答案

〔設問1〕
第1 生存権を具体化する法律の合憲性
 25条1項は国民の権利という観点から生存権を規定し、25条2項は国の責務という観点から生存権を規定している。どちらも抽象的な規定である。よって、生存権を具体化する法律について、立法府には広い裁量が認められる。
第2 年齢を理由にした異なる取扱い
 14条1項で平等権が規定されている。そこで禁止されている差別とは不合理な区別のことであり、合理的な区別は許される。同項で列挙されている事柄についての区別は、不合理性が推定される。
 年齢は、同項で列挙されている事柄ではない(社会的身分は、人が社会生活上占める継続的な地位のことであり、年齢はこれに当たらない)。よって不合理性が推定されることはない。
 新制度では、遺族について、例えば39歳の女性と40歳の女性、54歳の男性と55歳の男性とで、遺族年金が受給できなかったり受給できたりするので、年齢を理由にした異なる取扱いがされている。これは、年齢が高くなると職を得ることが難しくなるので、一定年齢以上の遺族に年金を支給するという趣旨である。確かに、1歳違いで遺族年金を受給できたりできなかったりするのは不合理であるようにも思われるが、どこかで線引きしなければならないので、これが不合理であるとは言えない。
 以上より、年齢を理由にした異なる取扱いについては、合憲である。
第3 性別を理由にした異なる取扱い
 新制度では、遺族について、例えば50歳の女性と男性のように、遺族年金を受給できたり受給できなかったりするので、性別を理由にした異なる取扱いがされている。第2と同じ枠組みで考える。
 性別は、14条1項で列挙されている事柄であり、それについての区別には不合理性が推定される。ある企業において、性別を理由にした定年の違い(女性のほうが低かった)が、同項に反すると判断された判例が存在する。給与所得者の平均年収や就業形態(正規雇用か非正規雇用か)について、現実に男女差があることが、この区別の理由である。しかし、これは現状を固定化することにもつながりかねず、不合理性を覆す事情にはならない。
 以上より、性別を理由にした異なる取扱いについては、違憲である。
第4 旧制度との関係
 一度生存権を具体化する制度(法律)が作られると、そこには期待や信頼が発生するので、原則としてその制度(法律)から水準を後退させることはできない。いわゆる制度後退禁止原則である。
 新制度案では、既に生じている遺族年金受給権を消滅させてしまうので、一度作られた生存権を具体化する制度(法律)から水準が後退している。経過措置があるといっても、5年だけであり、しかも3年目からは支給額が半減されることになっている。例えば40歳から65歳までだと25年間遺族年金を受給することになるので、5年では短すぎる。この不利益を、旧制度の下では同じ事情でも受給できている人がいるという不公平感をなくすという理由では正当化できない。
 よって、既に生じている遺族年金受給権を消滅させてしまう部分は、違憲である。

〔設問2〕
第1 生存権を具体化する法律の合憲性
 25条1項は救貧政策を、25条2項は防貧政策を規定したものであり、両者を区別する見解もあるが、〔設問1〕で述べたXの意見のほうが素直な文言解釈である。
 25条はあくまでも目指す目標を定めたにすぎないとするプログラム規定説は妥当でないけれども、同条を根拠に具体的な請求をすることができるとする具体的権利説も、月額○○円を請求できるほど具体的な規定ではないので妥当ではない。Xの意見である抽象的権利説が妥当である。
第2 年齢を理由にした異なる取扱い
 14条1項では、不合理な区別が差別として禁止されており、合理的な区別は許されるというXの意見は妥当である。しかし、同項列挙の事柄についての区別には不合理性が推定されるという意見は、あまりにも機械的すぎであり、妥当ではない。区別の程度や態様、その理由などから総合的に判断して、不合理な区別は許されないと解する。
 本件では、年齢を理由にした異なる取扱いがされているが、子どもがいる場合の差額は2万円であり、その程度はそれほど大きくない。〔設問1〕記載の理由は合理的である。年金は、その性質上、年齢による区別を予定しており、年金を受給できない場合に年齢不問の生活保護を受給することが妨げられるわけではない。
 以上より、年齢を理由にした異なる取扱いの部分は、合憲である。
第3 性別を理由にした異なる取扱い
 14条1項に列挙されている事柄だからといって不合理性は推定されないのだけれども、性別については、24条1項から、別異に考えるべきである。性別による区別がやむを得ない場合のみ合理的な区別として許容されると解する。
 本件では、〔設問1〕で述べたように、性別を理由にした異なる取扱いがされている。給与所得者の平均年収や就業形態が異なるからというのがその理由であるが、そうすると性別は間接的な理由となる。平均年収や就業形態を遺族年金の受給要件とすることもできる。
 以上より、性別による区別がやむを得ない場合ではないので、合理的な区別として許容されず、不合理な区別であるため、性別を理由にした異なる取扱いの部分は、違憲である。
第4 旧制度との関係
 Xが言うような制度後退禁止原則にも一理はあるが、そのような原則を認めてしまうと、立法府の裁量の幅が狭まってしまい、かえって生存権の保障にもとる事態にもなりかねない。よって、合憲性を判断する一つの要素にはなるけれども、制度後退禁止原則のような強い原則は認められない。制度後退禁止原則を根拠にして違憲という判断をした判例も存在しない。
 本件では、旧制度の下では同じ事情でも受給できている人がいるという不公平感をなくすという理由だけでなく、限られた財源の中でより適切に生存権を保障しようと新制度案が考えられた。確かに、既に生じている遺族年金受給権が消滅したり、金額が減額されたりする可能性があるが、3年目からは減額されるとしても、5年の経過措置がある。減額されない2年に限っても、一般に仕事を探すには十分な期間である。
 以上より、旧制度との関係で違憲となることはない。Xの意見は妥当ではない。

以上

感想

 分量からしても内容からしても、過去問に見られるような典型的な問題ではないとすぐに直感しました。〔設問1〕を書き終わる頃まで「批判的な見地から意見をまとめてください」という部分を読み落としており、合憲を支えるXの意見を書いてしまいました。子の有無による異なる取扱いについても書くべきか悩みつつも、はっきりとした誘導はなく、結局盛り込みませんでした。




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