浅野直樹の学習日記

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2015 / 7月

平成27(2015)年司法試験予備試験論文再現答案民事訴訟法

問題

(〔設問1〕と〔設問2〕の配点の割合は,1:1)

 

 次の文章を読んで,後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい(なお,解答に当たっては,遅延損害金について考慮する必要はない。)。

 

【事例】
 弁護士Aは,交通事故の被害者Xから法律相談を受け,次のような事実関係を聴き取り,加害者Yに対する損害賠償請求訴訟事件を受任することになった。
1.事故の概要
 Xが運転する普通自動二輪車が直進中,信号機のない前方交差点左側から右折のために同交差点に進入してきたY運転の普通乗用自動車を避けられず,同車と接触し,転倒した。Yには,交差点に進入する際の安全確認を怠った過失があったが,他方,Xにも前方注視を怠った過失があった。
2.Xが主張する損害の内容
 人的損害による損害額合計 1000万円
(内訳)
(1) 財産的損害 治療費・休業損害等の額の合計 700万円
(2) 精神的損害 傷害慰謝料 300万円

 

〔設問1〕
 本件交通事故によるXの人的損害には,財産的損害と精神的損害があるが,これらの損害をまとめて不法行為に基づく損害賠償を求める訴えを提起した場合について,訴訟物は一つであるとするのが,判例(最高裁判所昭和48年4月5日第一小法廷判決・民集27巻3号419頁)の立場である。判例の考え方の理論的な理由を説明した上,そのように考えることによる利点について,上記の事例に即して説明しなさい。

 

〔設問2〕
 弁護士Aは,本件の事故態様等から,過失相殺によって損害額から少なくとも3割は減額されると考え,損害総額1000万円のうち,一部請求であることを明示して3割減額した700万円の損害賠償を求める訴えを提起することにした。本件において,弁護士Aがこのような選択をした理由について説明しなさい。

 

再現答案

以下民事訴訟法についてはその条数のみを示す。

 

[設問1]
第1 判例の考え方の理論的な理由
 不法行為に基づく損害賠償に関して、「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者」(709条)とあり、他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず(710条)とあるので、条文からは財産的損害と精神的損害が特に区別されていないと言えることが1つ目の理由である。
 請求を基礎づける事実は、どちらも同じ不法行為(交通事故)であるので、訴訟物が1つであると考えるほうが自然である。これが2つ目の理由である。
 民事訴訟では自由心証主義が採用されている(247条)。財産的損害と精神的損害とで訴訟物が1つだと考えたほうが、これによくなじむ。仮に財産的損害と精神的損害とで訴訟物を異にするとしたら、裁判所は財産的損害と精神的損害とでそれぞれ賠償額を決定しなければならず、きゅうくつである。これが3つ目の理由である。
第2 判例の考え方の利点
 仮に財産的損害と精神的損害とで訴訟物が異なるとしたら、本件事例で裁判所が財産的損害500万円、精神的損害400万円だという心証を形成した場合に、財産的損害については500万円、精神的損害については300万円の計800万円が認容されることになる。この場合に最初から精神的損害を400万円以上請求していたら、合計900万円認容されることになる。これは不合理であり、原告が提訴時に内訳について悩まなくて済むという利点がある。損害が生じたことが認められる場合において、損害の性質上その額を立証することが極めて困難であるときは、裁判所は、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき、相当な損害額を認定することができる(248条)のも、原告に過大な負担を課さないという意味合いで、これと趣旨を共通にしている。
 また、被告が精神的損害を認定されることを嫌がっている場合に、裁判所として、財産的損害と精神的損害を合わせた損害を認定するといった、柔軟な認定ができるという利点もある。

 

[設問2]
第1 貼用印紙額
 民事訴訟では、訴訟物の価額により、提訴時に納める貼用印紙額が変わる。1000万円の損害賠償を求める訴えを提起するよりも、700万円の損害賠償を求める訴えを提起するほうが貼用印紙額が小さくてすむので、弁護士Aはこのような選択をしたと考えられる。
第2 被告に与える印象
 民事訴訟ではおよそどの段階でも和解をすることができるし、裁判所を介さずに当事者同士が話し合うなどして和解することもできる。本件事例において、Xにも過失があるのに、過失がないかのように損害総額1000万円を請求すると、被告に悪い印象を与えて、和解に協力的でなくなるかもしれない。そのような事態を避けるために、弁護士Aはこのような選択をしたと考えられる。
第3 不利益のなさ
 第1、第2のような理由があったとしても、このような選択をすることに不利益があるとよくない。そこで不利益がないことを検討する。
 明示的一部請求では、一部請求した部分しか訴訟物にならず、相殺をする場合には請求総額を考慮するというのが判例の立場である。本件事例において、Xの過失が想定よりも少なく2割であったとしたら、残りの100万円を別訴で請求することができる。同じ不法行為により発生した損害賠償請求権同士で相殺(過失相殺ではない通常の相殺)をすることを認めたとして、Yが自分の損害賠償請求権で相殺すると主張した場合には、損害総額の1000万円から相殺される。
 このように、不利益がないことも、弁護士Aがこのような選択をした理由である。

 

感想

どちらも答えにくい問題でした。[設問1]では判例に心当たりがありませんでしたし、理由と利点をどう区別するかも悩みました。[設問2]も第1、第2で書いた理由しか思い浮かばず、苦肉の策として第3の記述をしました。

 

 



平成27(2015)年司法試験予備試験論文再現答案商法

問題

 次の文章を読んで,後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。

 

1.X株式会社(以下「X社」という。)は,昭和60年に設立され,「甲荘」という名称のホテルを経営していたが,平成20年から新たに高級弁当の製造販売事業を始め,これを全国の百貨店で販売するようになった。X社の平成26年3月末現在の資本金は5000万円,純資産額は1億円であり,平成25年4月から平成26年3月末までの売上高は20億円,当期純利益は5000万円である。
 X社は,取締役会設置会社であり,その代表取締役は,創業時からAのみが務めている。また,X社の発行済株式は,A及びその親族がその70%を,Bが残り30%をいずれも創業時から保有している。なお,Bは,X社の役員ではない。

2.X社の取締役であり,弁当事業部門本部長を務めるCは,消費期限が切れて百貨店から回収せざるを得ない弁当が多いことに頭を悩ませており,回収された弁当の食材の一部を再利用するよう,弁当製造工場の責任者Dに指示していた。

3.平成26年4月,上記2の指示についてDから相談を受けたAは,Cから事情を聞いた。Cは,食材の再利用をDに指示していることを認めた上で,「再利用する食材は新鮮なもののみに限定しており,かつ,衛生面には万全を期している。また,食材の再利用によって食材費をかなり節約できる。」などとAに説明した。これに対し,Aは,「衛生面には十分に気を付けるように。」と述べただけであった。

4.平成26年8月,X社が製造した弁当を食べた人々におう吐,腹痛といった症状が現れたため,X社の弁当製造工場は,直ちに保健所の調査を受けた。その結果,上記症状の原因は,再利用した食材に大腸菌が付着していたことによる食中毒であったことが明らかとなり,X社の弁当製造工場は,食品衛生法違反により10日間の操業停止となった。

5.X社は,損害賠償金の支払と事業継続のための資金を確保する目的で,「甲荘」の名称で営むホテル事業の売却先を探すこととした。その結果,平成26年10月,Y株式会社(以下「Y社」という。)に対し,ホテル事業を1億円で譲渡することとなった。X社は,その取締役会決議を経て,株主総会を開催し,ホテル事業をY社に譲渡することに係る契約について特別決議による承認を得た。当該特別決議は,Bを含むX社の株主全員の賛成で成立した。なお,X社とその株主は,いずれもY社の株式を保有しておらず,X社の役員とY社の役員を兼任している者はいない。また,X社及びY社は,いずれもその商号中に「甲荘」の文字を使用していない。

6.その後,Y社は,譲渡代金1億円をX社に支払い,ホテル事業に係る資産と従業員を継承し,かつ,ホテル事業に係る取引上の債務を引き受けてホテル事業を承継し,「甲荘」の経営を続けている。1億円の譲渡代金は,債務の引受けを前提としたホテル事業の価値に見合う適正な価額であった。

7.X社は,弁当の製造販売事業を継続していたが,売上げが伸びず,かつ,食中毒の被害者としてX社に損害賠償を請求する者の数が予想を大幅に超え,ホテル事業の譲渡代金を含めたX社の資産の全額によっても,被害者であるEらに対して損害の全額を賠償することができず,取引先への弁済もできないことが明らかとなった。そこで,X社は,平成27年1月,破産手続開始の申立てを行った。

8.Eらは,食中毒により被った損害のうち,なお1億円相当の額について賠償を受けられないでいる。また,X社の株式は,X社に係る破産手続開始の決定により,無価値となった。

9.Bは,X社の破産手続開始後,上記3の事実を知るに至った。

 

〔設問1〕
(1) A及びCは,食中毒の被害者であるEらに対し,会社法上の損害賠償責任を負うかについて,論じなさい。
(2) A及びCは,X社の株主であるBに対し,会社法上の損害賠償責任を負うかについて,論じなさい。

 

〔設問2〕
 ホテル事業をX社から承継したY社は,X社のEらに対する損害賠償債務を弁済する責任を負うかについて,論じなさい。

 

再現答案

以下会社法についてはその条数のみを示す。

 

[設問1]
(1)役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う(429条1項)。「役員等」とは取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人である(423条1項)。
 A及びCはX社の取締役であり、役員等である。Eらが食した弁当を製造することはA及びCの職務である。その弁当に大腸菌が付着していたことをA及びCは知らなかったであろうが、回収した弁当の消費期限の切れた食材を再利用していたので重大な過失がある。Aは直接再利用していたわけではないが、Cから再利用していることの報告を受け、黙認していたので、代表取締役という立場を考慮すると、A及びCの共同行為であると言ってよい。消費期限の切れた食材を用いることは食中毒が発生する危険性が十分考えられる行為であり、予見可能性はあった。そして食中毒の発生を避けるためには消費期限の切れた食材を再利用しなければよいだけであり(再利用させなければよいだけであり)、回避可能性もあった。Eらが食中毒の被害を受けたのはX社の製造した弁当を食したせいであると明らかに認められる(問題文の4)。
 以上より、A及びCは、食中毒の被害者であるEらに対し、会社法上の損害賠償責任を負う。
(2)事実関係は(1)と同じなので、X社の株主であるBが、429条1項の第三者に当たるかを検討する。
 Bが被った損害は、X社の株式が無価値になったことである。株式の価値は会社の価値を反映したものである。会社が被った損害は、429条1項ではなく、423条1項に基づき賠償される。このような会社法の構造からすると、会社が損害を被り、会社の価値が低下し、株式の価値も下がった場合は、423条1項に基づき損害賠償をして会社の被った損害を回復させ、会社の価値を上げ、その結果株式の価値を取り戻すという道筋をたどるべきである。よって、X社の株主であるBは、429条1項の第三者には当たらない。
 本件のように、破産開始手続きが開始した場合には、423条1項で損害を回復させるのは極めて困難であるが、そうならないように、株主としては、取締役の行為を差止めたり(360条1項)、取締役を解任したり(339条1項)すべきであるので、この結論は妥当である。
 以上より、A及びCは、X社の株主であるBに対し、会社法上の損害賠償責任を負わない。

 

[設問2]
第1 事業譲渡の基本的性質
 事業譲渡は、合併(748条)とは異なり、通常の商品の売買と同じであり、その事業以外に影響が及ぶことは基本的にはない。譲渡された事業に従事していた従業員の雇用契約も、当然には承継されず、締結し直さなければならない。しかしながら、場合によっては合併と同じような状態になるので、一定の規制に服している。
第2 事業譲渡に関する諸規制
 譲受会社が譲渡会社の商号を引き続き使用する場合には、その譲受会社も、譲渡会社の事業によって生じた債務を弁済する責任を負う(22条1項)。Y社は商号を続用していないので、これにより責任を負うことはない。債務引受けの広告をしたという事実も認められないので、23条1項の責任も負わない。譲渡会社が譲受会社に承継されない債務の債権者を害することを知って事業を譲渡した場合には、残存債権者は、その譲受会社に対して、承継した財産の価額を限度として、当該債務の履行を請求することができる(23条の2第1項前段)。ただし、その譲受会社が事業の譲渡の効力が生じた時において残存債権者を害すべき事実を知らなかったときは、この限りでない(23条の2第1項後段)。Y社としては、事業譲渡は価格・手続きとも適正に行われていたので、事業の譲渡の効力が生じた時において残存債権者を害すべき事実を知らなかったと言える。よって前段について検討するまでもなく、Y社は責任を負わない。
第3 結論
 以上より、ホテル事業をX社から承継したY社は、X社のEらに対する損害賠償債務を弁済する責任を負わない。なお、X社とY社の法人格を否認して、同一視し、Y社に責任を負わせるべきだという事情はない。

以上

 

感想

表現が拙く、論点の抜け落ちもありそうですが、最低限の記述はできたかなと思っております。

 



平成27(2015)年司法試験予備試験論文再現答案民法

問題

 次の文章を読んで,後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。

 

【事実】
1.Aは,A所有の甲建物において手作りの伝統工芸品を製作し,これを販売業者に納入する事業を営んできたが,高齢により思うように仕事ができなくなったため,引退することにした。Aは,かねてより,長年事業を支えてきた弟子のBを後継者にしたいと考えていた。そこで,Aは,平成26年4月20日,Bとの間で,甲建物をBに贈与する旨の契約(以下「本件贈与契約」という。)を書面をもって締結し,本件贈与契約に基づき甲建物をBに引き渡した。本件贈与契約では,甲建物の所有権移転登記手続は,同年7月18日に行うこととされていたが,Aは,同年6月25日に疾病により死亡した。Aには,亡妻との間に,子C,D及びEがいるが,他に相続人はいない。なお,Aは,遺言をしておらず,また,Aには,甲建物のほかにも,自宅建物等の不動産や預金債権等の財産があったため,甲建物の贈与によっても,C,D及びEの遺留分は侵害されていない。また,Aの死亡後も,Bは,甲建物において伝統工芸品の製作を継続していた。

2.C及びDは,兄弟でレストランを経営していたが,その資金繰りに窮していたことから,平成26年10月12日,Fとの間で,甲建物をFに代金2000万円で売り渡す旨の契約(以下「本件売買契約」という。)を締結した。本件売買契約では,甲建物の所有権移転登記手続は,同月20日に代金の支払と引換えに行うこととされていた。本件売買契約を締結する際,C及びDは,Fに対し,C,D及びEの間では甲建物をC及びDが取得することで協議が成立していると説明し,その旨を確認するE名義の書面を提示するなどしたが,実際には,Eはそのような話は全く聞いておらず,この書面もC及びDが偽造したものであった。

3.C及びDは,平成26年10月20日,Fに対し,Eが遠方に居住していて登記の申請に必要な書類が揃わなかったこと等を説明した上で謝罪し,とりあえずC及びDの法定相続分に相当する3分の2の持分について所有権移転登記をすることで許してもらいたいと懇願した。これに対し,Fは,約束が違うとして一旦はこれを拒絶したが,C及びDから,取引先に対する支払期限が迫っており,その支払を遅滞すると仕入れができなくなってレストランの経営が困難になるので,せめて代金の一部のみでも支払ってもらいたいと重ねて懇願されたことから,甲建物の3分の2の持分についてFへの移転の登記をした上で,代金のうち1000万円を支払うこととし,その残額については,残りの3分の1の持分と引換えに行うことに合意した。そこで,同月末までに,C及びDは,甲建物について相続を原因として,C,D及びEが各自3分の1の持分を有する旨の登記をした上で,この合意に従い,C及びDの各持分について,それぞれFへの移転の登記をした。

4.Fは,平成26年12月12日,甲建物を占有しているBに対し,甲建物の明渡しを求めた。Fは,Bとの交渉を進めるうちに,本件贈与契約が締結されたことや,【事実】2の協議はされていなかったことを知るに至った。
 Fは,その後も,話し合いによりBとの紛争を解決することを望み,Bに対し,数回にわたり,明渡猶予期間や立退料の支払等の条件を提示したが,Bは,甲建物において現在も伝統工芸品の製作を行っており,甲建物からの退去を前提とする交渉には応じられないとして,Fの提案をいずれも拒絶した。

5.Eは,その後本件贈与契約の存在を知るに至り,平成27年2月12日,甲建物の3分の1の持分について,EからBへの移転の登記をした。

6.Fは,Bが【事実】4のFの提案をいずれも拒絶したことから,平成27年3月6日,Bに対し,甲建物の明渡しを求める訴えを提起した。

 

〔設問1〕
 FのBに対する【事実】6の請求が認められるかどうかを検討しなさい。

 

〔設問2〕
 Bは,Eに対し,甲建物の全部については所有権移転登記がされていないことによって受けた損害について賠償を求めることができるかどうかを検討しなさい。なお,本件贈与契約の解除について検討する必要はない。

 

再現答案

以下民法についてはその条数のみを示す。

 

[設問1]
 平成26年4月20日にAが甲を所有していたことに争いはない。Bは、同日、本件贈与契約により、甲の所有権を取得した(549条)。これは書面をもって締結されているので、撤回することはできない(550条)。甲の登記はAのままであった。
 Fは、平成26年10月12日に、C及びDと本件売買契約を締結した。それ以前の平成26年6月25日にAが死亡したので、相続が開始し(882条)、C、D及びEはAの財産に属した一切の権利義務を承継し(896条)、それぞれ法定相続分に従い甲の持分を3分の1ずつ取得した(887条1項、900条4号)。平成26年10月12日の時点で、甲の登記はAのままであったか、C及びDで3分の2以上の持分を有していたかのいずれかであることはほぼ間違いないので、Fとしては登記を確認してもC及びDが権利を有していると考えたはずである。これは、AとC及びDを起点とした二重売買と同じであるので、BとFとは対抗関係に立つ。本件売買契約は有効に成立していた(555条)。
 不動産に関する物権の得喪及び変更は、その登記をしなければ、第三者に対抗することができない(177条)。平成27年3月6日の時点で、甲については、Bが3分の1、Fが3分の2の登記を有している。甲は不動産なので、B及びFは互いに相手の登記された持分については対抗できない。なお、BはAを相続したEから適切に登記の移転を受けている。
 各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる(249条)ので、FのBに対する【事実】6の請求は認められない。

 

[設問2]
 Eには故意や過失が認められないので、不法行為(709条)による損害賠償を請求することはできない。すると、Bが主張するのは債務不履行による損害賠償であると考えられる。
 [設問1]でも見たように、本件贈与契約は有効に成立しているので、AはBに対して、甲建物の全部について所有権登記を移転する義務を負っていた。これをしないと、「債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき」(415条前段)に当たる。その移転登記をしなければならない日は、平成26年7月18日であった。
 しかし、Aはそれより前の平成26年6月25日に死亡した。[設問1]で述べたように、EはAの一切の権利義務を承継するので、この移転登記をする義務も承継する。そうすると、平成26年7月18日にその移転登記をしなければ、「債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき」となり、Bはこれによって生じた損害の賠償を請求することができる(415条)。
 Eはこのような義務が存在することを知らなかったのであり、それを知ってからは自らの持分である3分の1の移転登記をしたので、自分のできることはしたのだから悪くないと言いたくなる気持ちも理解できる。しかし、債務不履行による損害賠償は債務者の責めに帰すべき事由が要求されていないので、それでも損害賠償をしなければならない。また、Eのような相続人は、こうしたことが嫌なのであれば、限定承認(922条)や相続放棄(938条)をすることができたのである。予期していない被相続人の債務が存在することは十分にあり得ることである。
 以上より、Bは、Eに対し、甲建物の全部については所有権移転登記がされていないことによって受けた損害について賠償を求めることができる。

以上

 

感想

ややこしい事案なのでこれでよいのかという疑念はつきまといますが、自分なりに記述はできたと思います。

 

 



平成27(2015)年司法試験予備試験論文再現答案法律実務基礎科目(刑事)

問題

次の 【事例】 を読んで、後記 [設問] に答えなさい。

 

【事 例】
1 A (男性、24歳) は、平成27年3月14日、V (男性、19歳) を被害者とする傷害罪の被疑事実で逮捕され、翌15日から勾留された後、同年4月3日に I地方裁判所に同罪で公判請求された。
 上記公判請求に係る起訴状の公訴事実には「被告人は、平成27年2月1日午後11時頃 H県 I市J町1丁目1番3号所在のK駐車場において、V (当時19歳) に対し、拳骨でそ の左顔面を殴打し、持っていた飛び出しナイフでその左腹部を突き刺し、よって、同人に加療約1か月間を要する左腹部刺創の傷害を負わせた。」旨記載されている。

2 受訴裁判所は、平成27年4月10日、Aに対する傷害被告事件を公判前整理手続に付する決定をした。検察官は、同月24日、証明予定事実記載書を同裁判所及びAの弁護人に提出・ 送付するとともに、同裁判所に証拠の取調べを請求し、Aの弁護人に当該証拠を開示した。検 察官が請求した証拠の概要は、次のとおりであった。
(1)  甲第1号証 診断書
 「Vの診断結果は左腹部刺創であり、平成27年2月2日午前零時頃、Vが救急搬送さ れ、直ちに緊急手術をした。加療期間は約1か月間である。」
(2)  甲第2号証 Vの検察官調書
 「私は、平成27年2月1日の夜、交際中のB子に呼び出され、同日午後11時頃、K 駐車場に行ったところ、黒色の目出し帽を被った男が車の陰から現れ、①『お前か。人の女に手を出すんじやねー。』と言って、いきなり私の左顔面を1回拳骨で殴った。私は, いきなり殴られてカッとなり、『何すんだ。』と怒鳴ったところ、その男は、どこからかナ イフを取り出したようで、右手にナイフを持っていた。私が刺されると思うや否や、その男は、『この野郎。』と言いながら、私に向かってナイフを持った右手を伸ばし、私の左脇 腹にナイフを突き刺した。その後、その男は駐車場から走って逃げていったが、私は、意 識がもうろうとしてしまい、気付いたら病院で寝ていた。
 私を刺した犯人の顔は見ていないが、Aが犯人ではないかと思う。私は、アルバイト先 の喫茶店でアルバイト仲間だったB子を好きになり。平成26年12月初旬頃から、3, 4回B子とデートをした。平成27年1月中旬頃、B子に、きちんと付き合ってほしいと言ったところ、B子も承諾してくれた。しかし、その後、私と一緒にいる時に、B子の携帯電話に頻繁にメールや電話が来るので、不審に思ってB子に尋ねると、B子は、『実は、前の彼氏であるAからよりを戻そうとしつこく言われている。Aとは、以前数箇月間同棲 していたことがあるが、異常なほど焼き餅焼きで、私が男友達とメールのやり取りをして いても怒り、私を殴ったりするので、付いていけないと思い、同棲していたA方から飛び 出して1人暮らしを始め、電話番号もメールアドレスも変えた。ところが、Aが私の友人 から新しい電話番号やメールアドレスを聞き出したようで、頻繁に電話を掛けてくるよう になった。新しい彼氏ができたと話したが、お前は俺のものだと言って聞く耳を持たない。 どうやら新しい住所も知られているようで怖い。』と言っていた。その際、B子はAの写真を見せてくれたので、B子の前の彼氏が逮捕されたAであることに間違いない。私は, B子のことは好きだったが、前の彼氏とのトラブルに巻き込まれたくないと思い、B子か らデートに誘われても最近は断りがちで、中途半端な付き合いになっていた。そのような 状況だった平成27年2月1日の午後8時頃、私は、B子から、相談したいことがあるので、どうしても会ってほしいという内容のメールをもらい、B子に会うことにし、B子に 指定されたとおり、同日午後11時頃、K駐車場に行った。ところが、現れたのはB子で はなく、先ほど話した黒色目出し帽の男だった。B子が私と会う約束をしたことを知って Aが私を待ち伏せしていたのではないかと思う。他に恨みを買うような相手に心当たりはない。」
(3)  甲第3号証 捜査報告書
 「平成27年2月1日午後11時10分頃、氏名不詳の女性から『黒色目出し帽の男が K駐車場で人を刺した。』旨の110番通報があり、同日午後11時25分頃、K駐車場に司法警察員が臨場し、付近の検索を行ったところ、同駐車場出入口から北側約10メー トルの地点の歩道脇に、飛び出しナイフ1丁が落ちており、犯人の遺留品の可能性があると思料されたため、同日。これを領置した。」
(4) 甲第4号証 飛び出しナイフ1丁 (平成27年2月1日領置のもの)
(5) 甲第5号証 捜査報告書
 「平成27年2月1日に領置した飛び出しナイフ1丁の柄から採取された指紋1個が。 Aの右手母指の指紋と一致した。」
(6) 甲第6号証 捜査報告書
 「平成27年2月1日に領置した飛び出しナイフ1丁の刃に人血が付着しており、その DNA型が、Vから採取した血液のDNA型と一致した。」
(7) 甲第7号証 B子の検察官調書
 「私は、以前AとA方で同棲していたが、Aの東縛が激しい上、私が男友達とメールの やり取りをしているだけでも嫉妬して私を殴るなどするので嫌になり。平成26年9月頃 A方から逃げ出して、電話番号やメールアドレスを変え、1人暮らしを始めた。その後。 Vと知り合い、平成27年1月頃、Vとの交際を始めた。ところが、Aは、私の電話番号。 メールアドレスを探り出し、私に何度も電話やメールを寄越して復縁を迫るようになった。 私が更に電話番号やメールアドレスを変えると、今度は私の自宅を突き止めたようで、私 の自宅に頻繁に来るようになった。私は、Aに、他に好きな人ができたので復縁するつも りはないと言ったが、Aは納得せず、『そいつと会わせろ。』と言っていた。私は、AがV に暴力を振るうかもしれないと思ったので、AにはVの詳しい情報を教えなかった。私は。 Aから逃げられないという恐ろしさを感じ、VにAとの関係やAに付きまとわれている状況を全部打ち明けた。しかし、Vは、次第に私との距離を置くようになってしまった。私は、私から距離を置こうとするVに腹が立ち、どうしていいのか分からなくなった。私は, 2人を引き合わせればVの態度もはっきりするだろう。Vが私を捨てるなら私も覚悟を決めようと思った。そこで、私は、平成27年2月1日午後8時頃、Vに『今日の午後11 時頃にK駐車場に来てほしい。』という内容のメーノレを送ってVを呼び出し、その後、A に、電話で、私がVを呼び出したことを伝えた。Aは、『俺が行って話を付けてくるから。 お前は家にいろ。』と言っていた。しかし、私は、Vの態度を見たかったので、同日午後 11時前頃、K駐車場付近に行き、2人が現れるのをこっそり待っていた。すると、Aが 現れてK駐車場に入っていき、しばらくするとVが現れてK駐車場に入っていった。私は K駐車場のフェンス脇まで近付き、K駐車場内の様子を見ると、Vが黒色の目出し帽を被 った男に顔を殴られているところだった。私は、目出し帽を被った男の服装が先ほど駐車 場に入っていったAの服装と同じだったので、Aだと分かった。Aは、右手にナイフを持 ち、Vのお腹の辺りに右手を突き出した。私は、Vが刺されたと思い。怖くなってその場 から走って逃げ出し、200メートルくらい離れた場所から匿名で110番通報をした。 私は、そのまま自宅に帰ったので、その後2人がどうなったのか見ていない。
 翌日の2月2日、Aから私に電話があり、Aは、②『Vをナイフで刺した。走って逃げている時に、そのナイフを落としてしまった。』と言っていた。
 平成27年2月1日に警察官が領置したという飛び出しナイフを見せてもらったが、そ のナイフは、Aと同棲していた時に、A方で見たことがある。ナイフの柄にある傷に見覚 えがあるので、Aが持っていたナイフに間違いない。
 私は、Aに自宅を知られているが、引っ越し費用を工面する余裕がなく、転居できる見込みがない。だから、怖くて仕方がない。」
(8) 乙第1号証 Aの司法警察員調書
 「私は、現在、H県 I市内で母と2人で暮らしている。両親は、私が中学生の時に離婚 し、私は母に引き取られた。それ以降、父とは一度も会っていない。私には兄弟はいない。 私は、21歳の時から1人暮らしをしていたが、平成26年5月頃から私の家でB子と同棲していた。しかし、同年9月頃に B子が家を出ていき、それから2週間くらい後の同年 10月頃、母が交通事故に遭って、脳挫傷の傷害を負い、左手と左足に麻痺が残ったため。 私は母が退院した同年12月上旬から実家に戻り、母と同居している。
 私は、高校卒業後、建設作業員として建築会社を転々としたが、現場で塗装工をしてい るCさんと知り合い、1年半くらい前からCさんの下で働いている。Cさんの下で働いて いるのは私だけなので、私が長期間不在にすると、受注していた現場の仕事を工期内に終 わらせることができなくなる。母は1人では日常生活に支障があり、私の手助けが必要だ し、Cさんにも迷惑を掛けたくないので、早く家に戻りたい。
 私には、前科前歴はなく、暴力団関係者との付き合いもない。」

3 Aの弁護人は、前記の検察官請求証拠を閲覧・騰写した後、平成27年5月3日、Aと接見 したところ、Aは、「B子からVをK駐車場に呼び出したことは聞いたが、私は、K駐車場に は行っていない。B子には未練があったので、B子の友達からB子の新しい電話番号などを聞き、連絡をしたことは事実だが、B子がVと付き合っていたのでB子のことは諦めた。むしろ。 最近は、B子から『Vが自分から距離を置こうとしているように感じる。』などと相談を持ち 掛けられていた。B子の家を知っているが、それはB子から相談を持ち掛けられて話をした後。 B子を家まで送っていったからで、B子に付きまとって家を突き止めたわけではない。飛び出 しナイフについては、全く身に覚えがなく、飛び出しナイフの柄になぜ私の指紋が付いていたのか分からない。V と B子が私を陥れようとしているのではないか。」と述べた。

4 Aの弁護人は、平成27年5月7日、検察官に類型証拠の開示請求をし、検察官は、同月13日、同証拠を開示した。Aの弁護人は、Aと犯人との同一性 (犯人性) を争う方針を固め。 同月20日の公判前整理手続期日において、③甲第2号証、甲第5号証及び甲第7号証につい ては「不同意。」。甲第4号証については、「異議あり。関連性なし。」。その他の甲号証及び乙号 証については「同意。」との意見を述べた。
 その後、Aの弁護人は、Aと接見を重ねた結果、飛び出しナイフにAの指紋が付着していた 事実自体は争わない方針に決め、同年6月1日の公判前整理手続期日において、甲第5号証に ついては「同意。」、甲第4号証については「異議なし。」との意見に変更した。
 そして、受訴裁判所は、同月15日に公判前整理手続を終了するに当たり、検察官及びAの 弁護人との間で、争点は犯人性であり、証拠については、甲第2号証及び甲第7号証を除く甲号証、乙号証並びにV及びB子の各証人尋問が採用決定されたことを確認した。
 Aの弁護人は、公判前整理手続終了直後に、V及びB子とは接触しない旨のAの誓約書、A を引き続き雇用する旨のCの上申書及びAの母親の身柄引受書を保釈請求書に添付して、④A の保釈を請求したが、検察官はこれに反対意見を述べた。
 なお、検察官は、証拠開示に当たり、Aの弁護人に、Vの住所、電話番号をAに秘匿するよ う要請し、Aの弁護人もこれに応じて、Aにそれらを教えなかった。

 

〔設問1〕
(1) 下線部③に関し、Aの弁護人が、検察官請求証拠について意見を述べる法令上の義務はあるか、簡潔に答えなさい。
(2) 下線部③に関し、Aの弁護人が、甲第4号証の飛び出しナイフ1丁について「異議あり。関連性なし。」との意見を述べたため。裁判官は、検察官に関連性に関する荻駅明を求めた。検 察官は、関連性についてどのように釈明すべきか、論じなさい。
(3) 甲第5号証の捜査報告書は、Aの犯人性を立証する上で、直接証拠又は間接証拠のいずれとなるか、理由を付して論じなさい。

 

〔設問2〕
 下線部④に関し、Aの弁護人が保釈を請求するに当たり、検討すべき事項及びその検討結果を論じなさい。

 

〔設問3〕
(1) 公判期日に実施されたVの証人尋問において、検察官は、甲第2号証の下線部①のとおりVに証言させようと考え、同人に対し、「そのとき、犯人は、何と言っていましたか。」とい う質問をしたところ、Vは、下線部①のとおり証言し始めた。Aの弁護人が、「異議あり。伝聞供述を求める質問である。」と述べたため、裁判官は、検察官に弁護人の異議に対する意見 を求めた。検察官は、どのような意見を述べるべきか、理由を付して論じなさい。
(2) 公判期日に実施されたB子の証人尋問において、検察官は、甲第7号証の下線部②のとおりB子に証言させようと考え、同人に対し、「Aは、電話でどのような話をしていましたか。」 という質問をしたところ、B子は、下線部②のとおり証言し始めた。Aの弁護人が、「異議あり。伝聞供述を求める質問である。」と述べたため、裁判官は、検察官に弁護人の異議に対す る意見を求めた。検察官は、どのような意見を述べるべきか、理由を付して論じなさい。

 

〔設問4〕
 Aの弁護人は、弁論が予定されていた公判期日の前日。Aから「先生にだけは本当のことを話 します。本当は、私がVを刺した犯人です。しかし、母を悲しませたくないので、明日の弁論は よろしくお願いします。どうか無罪を勝ち取ってください。」と言われ、同期日に、Aは無罪で ある旨の弁論を行った。このAの弁護人の行為は、弁護士倫理上どのような問題があるか、司法 試験予備試験用法文中の弁護士職務基本規程を適宜参照して論じなさい。

 

 

 

再現答案

以下刑事訴訟法についてはその条数のみを示す。

 

[設問1]
(1)弁護人は、316条の13第1項の書面の送付を受け、かつ、316条の14及び316条の15第1項の規定による開示をすべき証拠の開示を受けた場合において、その証明予定事実その他の公判期日においてすることを予定している事実上及び法律上の主張があるときは、裁判所及び検察官に対し、これを明らかにしなければならない(316条の17第1項前段)。Aの弁護人は、316条の13第1項の書面の送付を受け、かつ、316条の14及び316条の15第1項の規定による開示をすべき証拠の開示を受けているので、その証明予定事実その他の公判期日においてすることを予定している事実上及び法律上の主張があるときは、裁判所及び検察官に対し、これを明らかにしなければならない(意見を述べる法令上の義務がある)。
(2)本件の公訴事実は、Vにナイフを突き刺して傷害を負わせたことである。そして甲3号証にあるように、本件ナイフは、犯行時刻の直後に、犯行現場の近くに落ちていたものであるので、犯人の遺留品の可能性があると思料される、と検察官は釈明すべきである。
(3)Vはナイフを突き刺されて傷害を負わせられていることが認められるが、本件ナイフがそこで使われたかどうかは不明であり、犯人の遺留品の可能性があるというだけなので、AがVに傷害を負わせたことを直接示すものではなく、甲5号証の捜査報告書は間接証拠になる。

 

[設問2]
 弁護人は義務的保釈(権利保釈)の請求をすることができ(88条)、89条各号に該当しなければ保釈は許される。傷害罪(刑法204条)は1号の罪ではないし、3号の罪でもない。Aには前科前歴はないので2号にも当てはまらない。Aの氏名及び住所は明らかになっているので6号にも該当しない。主だった証拠はすでに収集されているので、罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとは言えず、4号にも該当しない。本件は私情のもつれからの犯行であると思われるので、被告人Aが、被害者Cや、その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者であるB子の身体に害を加え又はこれらの者を畏怖させる行為をすると疑うに足りる相当な理由があるときであると言えるので、5号に該当し、義務的保釈は許されない。B子との過去のいきさつもこの判断を補強する。なお、90条の裁量保釈の可能性がないわけではない。

 

[設問3]
(1)公判期日外における他の者の供述を内容とする供述を証拠とすることはできない(320条1項)のは、その供述(原供述)の真実性を確かめるためには、原供述者を公判期日で尋問するのが適当であるという趣旨である。供述には、知覚→記憶→保持→再現という心理的プロセスが介在し、誤りが入り込むことも多いので、このような処置がなされているのである。
 下線部①の証言は、その真実性ではなく、本件目出し帽の男が怒ったような口調でVを襲ったということを要証事実としている。よって伝聞法則が適用されないので、これを証拠とすることができる、という意見を検察官は述べるべきである。
(2)伝聞法則が認められるのは(1)で述べた通りであるが、それにはいくつかの例外がある。下線部②の証言は、被告人以外の者であるB子の公判期日における供述で、被告人Aの供述をその内容とするものなので、322条の規定が準用される(324条1項)。その322条1項では、被告人の署名若しくは押印が要求されているが、書面ではない口頭の供述について署名や押印は観念できないので、この点は問題とならない。Vをナイフで刺し、逃走中にそのナイフを落としたという発言は、AがVにナイフで傷害を負わせたことを基礎づけるので、被告人Aに不利益な事実の承認を内容とするものであり、322条1項本文の伝聞例外に該当する。この承認は、AがB子に電話をかけて、聞かれてもいないのに自ら進んで話したことなので、任意にされたものでない疑があると認められず、322条1項但書に該当しない。
 以上より、下線部②の証言は、伝聞例外に該当するので、証拠とすることができる、という意見を検察官は述べるべきである。

 

[設問4]
 弁護士は、その使命が基本的人権の擁護と社会正義の実現にあることを自覚し、その使命の達成に努める(弁護士職務基本規程(以下「規程」とする)1条)。弁護士は、真実を尊重し、信義に従い、誠実かつ公正に職務を行うものとする(規程5条)。弁護士は、良心に従い、依頼者の権利及び正当な利益を実現するように努める(規程21条)。このAの弁護人の行為は、AがVを刺した犯人であれば無罪ということはまずあり得ないので、社会正義や信義誠実、とりわけ真実の尊重に反するという問題がある。これは依頼者の正当な利益ではなく、良心に反するおそれもある。

 

感想

[設問2]が比較的単純な事実の条文へのあてはめで、[設問3]は刑事訴訟法の試験で問われそうな伝聞の問題だとすると、取り組みやすいように感じられました。

 



平成27(2015)年司法試験予備試験論文再現答案法律実務基礎科目(民事)

問題

([設問1]から[設問4]までの配点の割合は、14:10:18:8)

 

司法試験予備試験用法文を適宜参照して、以下の各設問に答えなさい。

 

〔設問1〕
 弁護士Pは、Xから次のような相談を受けた。 なお、別紙の不動産売買契約書「不動産の表示」記載の土地を以下「本件土地」といい、解答に おいても、「本件土地」の表記を使用してよい。

 

【Xの相談内容】
 「私は、平成26年9月1日、Yが所有し、占有していた本件土地を、Yから、代金250万 円で買い、同月30日限り、代金の支払と引き換えに、本件土地の所有権移転登記を行うこと を合意しました。
 この合意に至るまでの経緯についてお話しすると、私は、平成26年8月中旬頃、かねてか らの知り合いであったAからYが所有する本件土地を買わないかと持ちかけられました。当初, 私は代金額として200万円を提示し、Yの代理人であったAは350万円を希望したのですが、同年9月1日のAとの交渉の結果、代金額を250万円とする話がまとまったので、別紙 のとおりの不動産売買契約書 (以下「本件売買契約書」という。) を作成しました。Aは、その 交渉の際に、Yの記名右横に実印を押印済みの本件売買契約書を持参していましたが、本件売 買契約書の金額欄と日付欄 (別紙の斜体部分) は空欄でした。Aは、その場で、交渉の結果を 踏まえて、金額欄と日付欄に手書きで記入をし、その後で、私が自分の記名右横に実印を押印しました。
 平成26年9月30日の朝、Aが自宅を訪れ、登記関係書類は夕方までに交付するので、代金を先に支払ってほしいと懇願されました。私は、旧友であるAを信用して、Yの代理人であ るAに対し、本件土地の売買代金額250万円全額を支払いました。ところが、Aは登記関係 書類を持ってこなかったので、何度か催促をしたのですが、そのうちに連絡が取れなくなって しまいました。そこで、私は、同年10月10日、改めてYに対し、所有権移転登記を行うよ うに求めましたが、Yはこれに応じませんでした。
 このようなことから、私は、Yに対し、本件土地の所有権移転登記と引渡しを請求したいと考えています。」

 

 上記 (Xの相談内容】 を前提に、弁護士Pは、平成27年1月20日、Xの訴訟代理人として、 Yに対し、本件土地の売買契約に基づく所有権移転登記請求権及び引渡請求権を訴訟物として、本件土地の所有権移転登記及び引渡しを求める訴え (以下「本件訴訟」という。) を提起することにした。
 弁護士Pは、本件訴訟の訴状 (以下「本件訴状」という。) を作成し、その請求の原因欄に、次の①から④までのとおり記載した。なお、①から③までの記載は、請求を理由づける事実 (民事訴訟規則第53条第1項) として必要かつ十分であることを前提として考えてよい。
 ① Aは、平成26年9月1日、Xに対し、本件土地を代金250万円で売った(以下「本件売買契約」という。)。
 ② Aは、本件売買契約の際、Yのためにすることを示した。
 ③ Yは、本件売買契約に先立って、Aに対し、本件売買契約締結に係る代理権を授与した。
 ④ よって、Xは、Yに対し、本件売買契約に基づき、(以下記載省略) を求める。

 

 以上を前提に、以下の各問いに答えなさい。
(1) 本件訴状における請求の趣旨 (民事訴訟法第133条第2項第2号) を記載しなさい (付随的申立てを記載する必要はない。)。
(2) 弁護士Pが、本件訴状の請求を理由づける事実として、上記①から③までのとおり記載したのはなぜか、理由を答えなさい。

 

〔設問2〕
 弁護士Qは、本件訴状の送達を受けたYから次のような相談を受けた。

 

【Yの相談内容】
Ⅰ  「私は、Aに対し、私が所有し、占有している本件土地の売買に関する交渉を任せましたが、当初希望していた代金額は350万円であり、Xの希望額である200万円とは隔たりがありました。その後、Aから交渉の経過を聞いたところ、Xは代金額を上げてくれそうだ ということでした。そこで、私は、Aに対し、280万円以上であれば本件土地を売却して よいと依頼しました。しかし、私が、平成26年9月1日までに、Aに対して本件土地を250万円で売却することを承諾したことはありません。ですから、Xが主張している本件売 買契約は、Aの無権代理行為によるものであって、私が本件売買契約に基づく責任を負うこ とはないと思います。」
Ⅱ 「Xは、平成26年10月10日に本件売買契約に基づいて、代金250万円を支払った ので、所有権移転登記を行うように求めてきました。しかし、私は、Xから本件土地の売買代金の支払を受けていません。そこで、私は、念のため、Xに対し、同年11月1日到着の 書面で、1週間以内にXの主張する本件売買契約の代金全額を支払うように催促した上で同月15日到着の書面で、本件売買契約を解除すると通知しました。ですから、私が本件売 買契約に基づく責任を負うことはないと思います。」

 

 上記 【Yの相談内容】 を前提に、弁護士Qは、本件訴訟における答弁書 (以下「本件答弁書」という。)を作成した。

 

 以上を前提に、以下の各問いに答えなさい。なお、各問いにおいて抗弁に該当する具体的事実 を記載する必要はない。
(1) 弁護士Qが前記Iの事実を主張した場合、裁判所は、その事実のみをもって、本件訴訟における抗弁として扱うべきか否かについて、結論と理由を述べなさい。
(2) 弁護士Qが前記Iの事実を主張した場合、裁判所は、その事実のみをもって、本件訴訟における抗弁として扱うべきか否かについて、結論と理由を述べなさい。

 

〔設問3〕
 本件訴訟の第1回口頭弁論期日において、本件訴状と本件答弁書が陳述された。また、その口頭 弁論期日において、弁護士Pは、XとAが作成した文書として本件売買契約書を書証として提出し。 これが取り調べられたところ、弁護士Qは、本件売買契約書の成立を認める旨を陳述し、その旨の陳述が口頭弁論調書に記載された。
 そして、本件訴訟の弁論準備手続が行われた後、第2回口頭弁論期日において、本人尋問が実 施され、Xは、【Xの供述内容】のとおり、Yは、【Yの供述内容】のとおり、それぞれ供述した (A の証人尋問は実施されていない。)。
 その後、弁護士Pと弁護士Qは、本件訴訟の第3回口頭弁論期日までに、準備書面を提出することになった。
 

【Xの供述内容】
 「私は、本件売買契約に関する交渉を始めた際に、Aから、Aが本件土地の売買に関するす べてをYから任されていると聞きました。また、Aから、それ以前にも、Yの土地取引の代理 人となったことがあったと聞きました。ただし、Aから代理人であるという委任状を見せられたことはありません。
 当初、私は代金額として200万円を提示し、Yの代理人であったAは350万円を希望し ており、双方の希望額には隔たりがありました。その後、Aは、Yの希望額をで 300万円に引き下げると伝えてきたので、私は、250万円でないと資金繰りが困難であると返答しました。 私とAは、平成26年9月1日に交渉したところ、Aは、何とか280万円にしてほしいと要求してきました。しかし、私が、それでは購入を諦めると述べたところ、最終的には、本件土地の代金額を250万円とする話がまとまりました。
 Aは、その交渉の際に、Yの記名右横に実印を押印済みの本件売買契約書を持参していまし たが、本件売買契約書の金額欄と日付欄 (別紙の斜体部分) は空欄でした。Aは、Yが実印を 押印したのは250万円で本件土地を売却することを承諾した証であると述べていたので、A が委任状を提示していないことを気にすることはありませんでした。そして、Aは、その場で 金額欄と日付欄に手書きで記入をし、その後で、私が自分の記名右横に実印を押印しました。」

 

【Yの供述内容】
 「私は、Aに本件土地の売買に関する交渉を任せましたが、当初希望していた代金額は350万円であり、Xの希望額である200万円とは隔たりがありました。私は、それ以前に、A を私の所有する土地取引の代理人としたことがありましたが、その際はAを代理人に選任する 旨の委任状を作成していました。しかし、本件売買契約については、そのような委任状を作成したことはありません。
 その後、私が希望額を300万円に値下げしたところ、Aから、Xは代金額を増額してくれそうだと聞きました。たしか、250万円を希望しており、資金繰りの関係で、それ以上の増額は難しいという話でした。
 そこで、私は、Aに対し、280万円以上であれば本件土地を売却してよいと依頼しました。 しかし、私が、本件土地を250万円で売却することを承諾したことは一度もありません。
 Aから。平成26年9月1日よりも前に、完成前の本件売買契約書を見せられましたが、金 額欄と日付欄は空欄であり、売主欄と買主欄の押印はいずれもありませんでした。本件売買契 約書の売主欄には私の実印が押印されていることは認めますが、私が押印したものではありません。私は、実印を自宅の鍵付きの金庫に保管しており、Aが持ち出すことは不可能です。た だ、同年8月頃、別の取引のために実印をAに預けたことがあったので、その際に、Aが勝手 に本件売買契約書に押印したに違いありません。もっとも、その別の取引は、交渉が決裂して しまったので、その取引に関する契約書を裁判所に提出することはできません。Aは、現在行 方不明になっており、連絡が付きません。」

 

 以上を前提に、以下の各問いに答えなさい。
(1) 裁判所が、本件売買契約書をAが作成したと認めることができるか否かについて、結論と理由を記載しなさい。
(2) 弁護士Pは、第3回口頭弁論期日までに提出予定の準備書面において、前記 【Xの供述内容】及び 【Yの供述内容】 と同内容のXYの本人尋問における供述、並びに本件売買契約書に基づ いて、次の【事実】が認められると主張したいと考えている。弁護士Pが、上記準備書面に記載すべき内容を答案用紙1頁程度の分量で記載しなさい(なお、解答において、[設問2] の 【Yの相談内容】 については考慮しないこと。)。
【事案】
 「Yが、Aに対し、平成26年9月1日までに、本件土地を250万円で売却することを承諾した事実」

 

〔設問4〕
 弁護士Pは、訴え提起前の平成26年12月1日、Xに相談することなく、Yに対し、差出人を 「弁護士P」とする要旨以下の内容の「通知書」と題する文書を、内容証明郵便により、Yが勤務 するZ社に対し、送付した。
1
以上を前提に、以下の問いに答えなさい。
 弁護士Pの行為は弁護士倫理上どのような問題があるか、司法試験予備試験用法文中の弁護士職 務基本規程を適宜参照して答えなさい。

 

 

2

 

 

再現答案

以下民法についてはその条数のみを示す。

 

[設問1]
(1)被告は、原告に対し、平成26年9月1日売買を原因とした、本件土地の所有権移転登記手続をせよ。
 被告は、原告に対し、本件土地を引き渡せ。
(2)本件土地の売買契約に基づく所有権移転登記請求権及び引渡請求権が訴訟物なので、XはAとの売買契約の成立を主張する必要がある。売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる(555条)ので、①の記載が必要である。売買契約は、要物契約ではなく、諾成契約なので、意思表示だけでよい。
 本件訴訟の被告はYであるので、上記売買契約がYに帰属することを主張する必要がある。代理人がその権限内において本人のためにすることを示してした意思表示は、本人に対して直接にその効力を生じ(99条1項)、第三者が代理人に対してした意思表示も同様である(99条2項)。そこでAの顕名(Yのためにすることを示したこと)を主張する必要があるので、②の記載が必要である。「代理人がその権限内において」したことを示すために、③の記載も必要である。
 弁護士Pが、本件訴状の請求を基礎づける事実として、上記①から③までのとおり記載したのは、以上のような理由からである。

 

[設問2]
(1)弁護士QがⅠの事実を主張した場合、裁判所は、その事実のみをもって、本件訴訟における抗弁として扱うべきではない。Aの無権代理であるという主張は、[設問1]の③の記載と両立しないので、抗弁ではなく、否認である。
(2)弁護士QがⅡの事実を主張した場合、裁判所は、その事実のみをもって、本件訴訟における抗弁として扱うべきである。本件売買契約の解除という主張は、原告の主張と両立するので、抗弁である。一見すると売買契約の成立を否定しているように見えるが、事実レベルでは原告の主張と両立している(一旦有効に売買契約が成立した後に、それを解除している)。

 

[設問3]
(1)裁判所は、本件売買契約書をAが作成したとは認めることができない。
 私文書は、本人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する(民事訴訟法228条4項)。そして、本人の所持する印章による印影が現出していれば、本人が押印したと推定される(いわゆる二段の推定)。本件売買契約書は私文書である。そこにYの所持する実印(印章)による印影が現出していることに争いはない。よって、Yの記名しかなく署名はないが、押印があると推定されるので、真正に成立したものと推定される。Yはこの推定を反証により覆すことができるが、Yの供述内容からは反証に成功していない。この推定によりYに立証責任があるので、真偽不明の場合は、真正に成立したものと推定される。
 以上より、本件売買契約書は、Yが作成したと認められ、Aが作成したとは認められない。
(2)Yが、Aに対し、280万円以上で本件土地を売却することを承諾していたことに争いはない。また、Xが、250万円を希望しており、資金繰りの関係で、それ以上の増額は難しいということを、Yは、Aから聞いていた(そのことはYも認めている)。金額欄と日付欄が空欄であり、売主欄と買主欄の押印はいずれもなかった完成前の本件売買契約書をAが所持していたこともYは知っていた。これらは平成26年9月1日以前のことである。
 (1)より、本件売買契約書は、Yが作成したと認められる。そして、平成26年9月1日の、XとAとの交渉時には、AがYの記名押印済みで、金額欄と日付欄が空欄の本件売買契約書を持参していたことはほぼ間違いない(Yはそのことを積極的に争っていない)。そこから、常識的な金額で売買契約を締結することを承諾していたことが推認される。YはXが250万円を希望していることを聞いていたのだから、250万円というのは常識的な金額である。
 以上より、Yが、Aに対し、平成26年9月1日までに、本件土地を250万円で売却することを承諾した事実が認められる。なお、委任状がなかったということは何ら問題とならない。委任状がなくても本件土地を280万円以上で売却することについては承諾していたのであり、280万円で売却するには委任状が不要であるが、250万円で売却するためには必要であるというのは明らかに不合理である。

 

[設問4]
 弁護士は、名誉を重んじ、信用を維持するとともに、廉潔を保持し、常に品位を高めるように努める(弁護士職務基本規程(以下「規程」とする)6条)。弁護士Pがこのようなどうかつまがいの通知書を送ったことは、廉潔や品位にもとる行為であり、規程6条に反するという問題がある。
 また、弁護士は依頼者の意思を尊重するものとされ(規程22条1項)、事件の経過及び事件の帰趨に影響を及ぼす事項を報告して、依頼者と協議しなければならない(規程36条)。弁護士Pが、Xに相談することなくこのような通知書を送ったことは、これらに反するという問題がある。

以上

 

 

感想

時間が足りず[設問4]は急いで書きました。[設問3]の(2)は何を論じてほしいのかがいまいちつかめませんでした。全体的に確信が持てません。

 




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