浅野直樹の学習日記

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2016 / 6月

「非正規雇用」問題のわかりやすいまとめ

最近インターネット上で「非正規雇用」問題について盛り上がっているようです。いい機会なので「非正規雇用」問題についてわかりやすく整理してまとめます。

 

1.「非正規雇用」とは

「非正規雇用」という呼び方は、差別的であるかどうかはさておき、曖昧であることは間違いありません。その点に関しては、もう『非正規雇用』って言うのやめにしない? – ゆとりずむという記事にも書かれている通りです。法律の条文で「非正規雇用」や「正社員」と書かれているのは私も見たことがありません。

 

しかし、「非正規雇用」に近い概念として、「有期労働契約」があります。らくからちゃ(id:lacucaracha)さん「もう『非正規雇用』って言うのやめにしない?」記事への反論あるいは法律用語としては「非正規」ではなく「有期労働契約」だけどそう言い換えて何が解決するのか? – しいたげられたしいたけ のご指摘の通りです。

 

また、法律や実務上の慣行として、週あたりの労働時間が20時間未満だと、雇用保険・職場の健康保険・厚生年金保険の対象とはなりません。

 

これ以外の、有給休暇や残業代、労災保険などでは「非正規雇用」と「正社員」に相当する違いは発見できません。「非正規雇用」と呼ばれる人であっても、有給休暇や残業代、労災保険は適用されます。

 

法律などに基づいてはっきり言えるのはここまでです。しかしこれでは実感にあいませんね。同じ職場で長い間主力として働いている(無期雇用でかつフルタイムで働いている)アルバイトやパートの人もいますから。

 

社会通念上での「非正規雇用」の意味は、「気楽だが給与などの待遇がよくない働き方」だと私は思います。「気楽だが給与などの待遇がよくない働き方」をするのは、親や夫などに養ってもらえるからだという推測もそこに含まれていることでしょう。「正社員」は逆に考えて「責任は重いが給与などの待遇はよい働き方」になります。このあたりは「非正規雇用」の何が問題なのか? – しっきーのブログに書かれていることで、「正社員」は会社のメンバーとして重い責任を負う代わりに高い給与と福祉が与えられるという仕組みです。

 

このように考えると、「アルバイト」や「パート」など、法的には意味のない呼称がいろいろあるのも理解できます。私の解釈は次の通りです。

 

アルバイト…学生など親が養ってくれるので「気楽だが給与などの待遇がよくない働き方」をしている人

パート…主婦など夫が養ってくれるので「気楽だが給与などの待遇がよくない働き方」をしている人

嘱託社員…65歳以上など年金や退職金が養ってくれるので「気楽だが給与などの待遇がよくない働き方」をしている人

契約社員…特殊技能があるなど自営業(副業)が養ってくれるので「気楽だが給与などの待遇がよくない働き方」をしている人

(派遣社員は雇用契約を結ぶ相手が派遣元(派遣会社)、実際に働くのは派遣先という特殊な形態なので、ここでは考えません。)

 

自分で書いていても、最後の契約社員は無理矢理な説明だと感じました。一応は上記のように整理できるとしても、そのようにはっきりと分けられないのが現状だと思います。養ってくれる夫なんていないのに女性だからという理由でパートの低待遇に甘んじている人や、有期雇用で給与などの待遇も悪いが責任は重くてフルタイムで働いている人なんてたくさんいます。だからこそ、曖昧な「非正規雇用」という言葉にだまされず、問題の本質をしっかりと見極めたいです。

 

最後にここまでの分類を表にしておきます。

 

雇用期間 労働時間 社会通念
無期雇用 フルタイム 気楽だが給与などの待遇がよくない
有期雇用 パートタイム  責任は重いが給与などの待遇はよい

 

2.雇用期間(無期雇用と有期雇用)

雇用期間に関してははっきりしたことが言えます。それは、労働者にとっては無期雇用のほうがよいということです。無期雇用というのは期間の定めのない雇用という意味であって、定年まで働き続けなければならず自分から辞めることができないという意味ではありません。辞めたければ、2週間以上前に会社(使用者)に伝えれば、法的には何の問題もなく辞めることができます。他方で会社(使用者)からは正当な理由がなければ労働者を解雇することができません。

 

それは非対称的でフェアじゃないと思う方もいるかもしれませんが、会社はある人を雇わなくても他の人を雇ったり仕事の割り振りを工夫することで対応できるからそれほど困らないのに対し、労働者は雇われて仕事をしないと生活費を稼げないという力の差があるので、実質的に対等になるようにこうなっているのです。労働法全般に通ずる基本理念ですね。これが有期雇用だと、実質的には解雇であっても、契約の切り替わり目に更新しないということにすれば雇止めということで、かなり簡単に辞めさせられてしまいます。

 

このあたりは議論が激しく交わされているところでして、その妥協の産物として労働契約法が頻繁に改正されたりしています。私は、シンプルに、臨時的ではなく恒常的に発生する通常業務に関してはすべて無期雇用にすべきだと思います。有期雇用が認められるのは、クリスマスケーキの販売など、本当に臨時的な業務に限られるべきです。

 

「非正規雇用」問題について考えてみた – おのにちにも体験談が書かれていますように、労働契約法の改正に伴っていわゆる5年ルールが導入され5年以上長く勤務できないというのは馬鹿げた話です。会社としても仕事を覚えて慣れている人に長く働いてもらったほうがよいでしょうし。無期雇用といっても正当な理由があれば解雇できるのですから、やはり無期雇用が望ましいと思います。もし扶養の範囲内で働きたいということであれば、その範囲内で無期雇用にすればよいのです。短時間労働者は無期雇用にしてはいけないなんて決まりはありません。

 

もっとはっきり言えば、自分から希望して有期雇用で働いている人なんて論理的に考えられません。「正社員として働きたいのに(いわゆる)非正規雇用として働いている人の比率は16.9%」などといった表現にだまされてはいけません。もう『非正規雇用』って言うのやめにしない? – ゆとりずむという記事でせっかく「非正規雇用」という言葉の曖昧さを指摘しているのに、その記事の最後のほうで「正社員として働きたいのに(いわゆる)非正規雇用として働いている人の比率は16.9%」とその曖昧な言葉を使っているのはいただけません。

 

3.労働時間(フルタイムとパートタイム)

労働時間に関しては、人によって希望が異なるでしょう。できるだけ多く働きたいという人もいれば、いろいろな事情で労働時間を短くしたいという人もいます。

 

この記事の最初のほうでも述べたように、労働時間によって雇用保険・職場の健康保険・厚生年金保険に入れるかどうかが変わってきます。具体的には、通常、雇用保険なら1週あたり20時間以上、職場の健康保険と厚生年金保険は1週あたり30時間以上の労働時間が必要です。

 

職場の健康保険には病気やケガなどで仕事を休んだときに賃金の2/3が支給される傷病手当金があるのが大きいです。厚生年金は俗に2階立てと言われるように、1階部分に国民年金を含み込んでいるので、もらえる金額が必ず国民年金よりも多くなります。障害年金も国民年金では2級までなのに対し、厚生年金では3級まであるので、比較的軽い障害でも年金がもらえることがあります。職場の健康保険と厚生年金保険の両方に共通して、保険料を会社と労働者が折半するというメリットもあります。国民健康保険と国民年金は全額自分で払わなければなりません。

 

こうしたことを考えると、雇用保険・職場の健康保険・厚生年金保険に入るほうが得です。よって、労働時間がどれだけであっても、これらの保険に入れるようにすべきだと私は思います。ニュースなどを見ていると、政府も大きくはその方向に進んでいるように思われます。

 

4.社会通念

おさらいをすると、社会通念では、「気楽だが給与などの待遇がよくない働き方」が「非正規雇用」で、「責任は重いが給与などの待遇はよい働き方」が「正社員」です。ここでは責任の軽重と待遇の低高が対応しています。

 

常識的に考えて、責任と待遇が対応していないのはおかしいです。責任が軽くて高待遇ということは考えにくいので、もっぱら責任が重くて低待遇のことを言っています。これが「ワーキングプア」、「名ばかり正社員」、「名ばかり管理職」、「ブラック企業」といった言葉で表現されていることの本質です。「非正規雇用」と「正社員」の間の問題ではありません。責任と待遇が見合っていないことの問題なのです。

 

責任と待遇が見合わないのは論外として、見合っていればそれでよいのかというと、そうではないと私は思います。というのも、上記の「気楽だが給与などの待遇がよくない働き方」が「非正規雇用」で「責任は重いが給与などの待遇はよい働き方」が「正社員」という社会通念は、男性稼ぎ手モデルを前提にしており、その前提に問題があって現状は変わりつつあるからです。

 

悪く言うと、男性稼ぎ手モデルは、男性は会社で奴隷のように働いて高待遇を得て、女性や子供は軽い責任で働くかそもそも働かないかで会社で奴隷にならなくてもよい代わりに家庭でその男性(夫または父)の奴隷のようになるという構図です。実際にはいい会社やいい夫(父)もたくさん存在するでしょうが、構造としてそうした危険性をはらんでいます。扶養者がいない女性や子供の存在も忘れてはいけません。

 

幸い、そうした男性稼ぎ手モデルは弱まってきているように思われます。そうしたら、そのモデルを前提とした社会通念も変わる必要があります。責任など負担の重さで待遇が変わるのはよいとして、高待遇だけれども転勤や長時間残業も断れない状態か、責任は重くないけれども生活するのにぎりぎりの低待遇の状態かの二者択一を迫られる状況はおかしいです。適度な責任で適度な待遇も選べるようになりたいです。

 

5.まとめ

「非正規雇用」や「正社員」という言葉は曖昧です。雇用期間、労働時間、社会通念の3つの側面があります。

 

雇用期間 労働時間 社会通念
無期雇用 フルタイム 気楽だが給与などの待遇がよくない
有期雇用 パートタイム  責任は重いが給与などの待遇はよい

 

その側面ごとに考えれば、望ましい状況が見えてきます。このように分けて考えると、意見が一致しなくても、論点をはっきりさせることにつながります。

 




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