令和5(2023)年司法試験論文再現答案民法

再現答案

以下民法については条数のみを示す。

〔設問1〕(1)
第1 下線部アの反論の根拠
 Dの下線部アの反論の根拠は、配偶者居住権である。配偶者であるDは、被相続人Aの財産に属した甲建物に相続開始の時に無償で居住していた。1028条1項各号には該当しないので、同条の配偶者居住権は認められない。遺産分割は未了なので、1037条1項1号に該当し、Dは、配偶者短期居住権を有する。
第2 請求1について
 Dは、配偶者短期居住権を有するので、請求1を拒むことができるように思われる。しかし、令和5年5月1日、Dは、1階部分で惣菜店を始めるという計画の下、甲建物の改築工事を行った。これは、居住という従前の用法とは異なるので、1038条1項に違反する。1041条に準用される1033条の修繕にも当たらない。よって、居住建物取得者であるBは、その規定に違反した配偶者であるDに対し、請求1の意思表示により、配偶者短期居住権を消滅させた(1038条3項)。
 以上より、Dは、請求1を拒むことができない(下線部アの反論に基づいて)。
第3 請求2について
 先に見たように、Dは配偶者短期居住権を有するのだけれども、令和5年8月31日にBがDに対して請求1をすることにより、その配偶者短期居住権は消滅した。
 よって、Dは、下線部アの反論に基づいて、同年9月1日以降明渡しまで1か月当たり5万円の支払の請求を拒むことはできない。

〔設問1〕(2)
第1 下線部イの根拠
 Dの下線部イの根拠は、249条1項の持分に応じた使用である。Dは、B及びCとともにAを相続し、甲建物を共有している。
第2 請求1について
 共有者Dは、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる。甲建物は一体のものであるから、Dは、甲建物全体について、使用をすることができる。
 以上より、Dは、下線部イの反論に基づいて、請求1を拒むことができる。
第3 請求2について
 Dは、甲建物という共有物を使用する共有者である。別段の合意はないので、他の共有者に対し、自己の持分を超える利用の対価を償還する義務を負う(249条2項)。Bの甲建物の持分は4分の1である(900条1号)。よって、甲建物の賃料相当額である月額20万円の4分の1である5万円の支払を、Dは、Bに対し、する義務を負う。
 以上より、Dは、下線部イの反論に基づいて、請求2を拒むことはできない。

〔設問2〕(1)
第1 Eの主張の根拠
 Eの主張の根拠は、541条に基づき、契約①を解除したということである。以下、この主張の当否を検討する。
第2 Eの主張の当否
 契約①の当事者の一方であるFが、その債務を履行しない場合に当たるかが問題となる。売買契約の買主は、基本的に代金支払義務しか負わず、契約①で代金は引渡しから2か月以内に支払うこととされたので、当初の引渡し予定日の令和4年10月1日からでも10月31日の時点では2か月以内であるから、その代金支払義務の不履行はない。売買の目的物を保管するのに相当な負担がかかる場合には、信義則上(1条2項)、買主に引取義務が認められる。そのように理解できる判例も存在する。契約①の目的物は本件コイであり、生き物なので、これを保管するには場所や世話など相当な負担がかかる。よって、買主Fには、信義則上の引取義務がある。Fは、本件コイを引き取っておらず、その引取義務を履行していない。
 相手方であるEは、令和4年10月16日、Fに対し、同月30日までに本件コイを受け取るようにと、相当の期間を定めてその引取義務の履行の催告をした。その期間内にFの履行はなかった。この不履行により、Eは乙池を利用できなくなっているので、契約及び取引上の社会通念に照らしてこの不履行が軽微であるときではない(541条ただし書には当たらない)。
 以上より、Eの主張は当たっている。

〔設問2〕(2)
第1 Eの損害賠償請求の根拠
 Eが下線部イの損害について賠償を請求する根拠は、415条1項である。〔設問2〕(1)で見たように、債務者Fには債務不履行がある。よって、債権者Eは、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。同項ただし書の事情はない。
第2 Eの損害賠償請求の範囲
 損害賠償の範囲は、416条で定められる。
(1)本件コイの代金相当額
 通常損害は同条1項に規定されている。売買契約について、代金相当額は、通常損害である。しかし、債権者には、契約解除後に損害が拡大しないように対処することが求められ、それをせずに拡大した損害は通常損害に含まれない。
 本件コイの代金相当額は100万円であるが、契約①が解除された令和4年10月31日時点で損害が拡大しないように本件コイを売却していたとしたら、債権者Eは70万円を受け取ることができた。よって、Eは、100万円−70万円=30万円について、損賠の賠償を請求することができる。
(2)釣堀の営業利益
 釣堀の営業利益は、416条2項の特別損害である。当事者であるFは、令和4年10月16日にEから乙池は同年11月上旬に釣堀営業のために使用する予定があると聞いていたので、その事情を予見すべきであった。しかし、先に述べたように、債権者Eは、損害が拡大しないように、本件コイを同年10月31日に売却することが求められ、そうしていたら釣堀営業をすることができた。
 よって、釣堀の営業利益10万円について、損害の賠償を請求することができない。

〔設問3〕
第1 抵当権に基づく物上代位権の行使が認められるかどうか
 抵当権は、その担保する債権について不履行があったときは、その後に生じた果実(賃料)に及び(371条)、372条で304条が準用されるから、賃料債権について被担保債権の不履行後は、物上代位権を行使することができる。抵当権は、債務者又は第三者が占有を移転しないで債務の担保に不動産を供するものであるから、債務不履行までは債務者又は第三者が自由に収益することができるということである。
 本件において、被担保債権であるα債権は令和5年5月31日までに弁済することとされているので、その時点までは不履行がなく、同年5月分の賃料債権については抵当権に基づき物上代位権を行使することができない。
第2 304条1項ただし書
 同年6月分以降の賃料債権については、HとLの優劣が問題となる。LがG及びKに働きかけた結果、その賃料債権がGからLへと譲渡されたのと類似した事態になっているからである。これはHによる差押えに先立っている。
 304条1項ただし書で払渡し又は引渡しの前に差押えが要求されているのは、二重払いを避けるために債権の特定性を維持するためである。この趣旨からすると、債権譲渡やそれに類する行為は、「払渡し又は引渡し」には含まれない。そのように解した判例が存在する。Hは、同年6月20日、差押えを申し立てている。
 以上より、同年6月分以降の賃料債権について、Hは、抵当権に基づく物上代位権の行使をすることが認められる。
 抵当権は登記により公示されているので、これにより不測の損害を被ることはない。

以上

感想

 〔設問2〕までを書いた時点で残り時間が30分くらいしかありませんでした。〔設問3〕は問題もほとんど読んでいない状態でしたので、ミニマムな記述を心がけました。この再現答案を作っている途中で、共同相続の効力を定めた898条に言及していなかったことに気づきました。それ以外は大きく外していないだろうと思っているのですが、どうでしょうかね。



  • 再現答案いちはやくアップしていただきありがとうございます。
    毎回とても勉強になっています。

    設問2で損害拡大防止義務に言及しているのはとても良いと思います。
    損害拡大防止義務を民法の条文上どこに位置づけるかですが、
    浅野さんは民法416条に内在する法理とされるようですが、
    民法418条の過失相殺に法的根拠を求める見解もあり得るのかなと思いました。
    些末な指摘ですみませんw。

    • コメントをいただきありがとうございます。

      損害拡大防止義務を民法の条文上どこに位置づけるかは答案を書きながら少し悩みました。

      通常損害の場合は民法416条1項の解釈ということにしたのですが、特別損害の場合はどうしようかと思いつつも「先に述べたように」とだけ書きました。時間に迫られていたこともありましたので。

      カラオケ店が浸水した事例の判例があったことははっきりと意識していたのですが、その内容(民法の条文上の位置づけ)までは覚えていませんでした。

      その判例では民法416条1項の解釈から導いていました。

      判例チェック No.17 最高裁平成21年1月19日第2小法廷判決によると過失相殺を法的な根拠と解する見解が多かったそうです。

    • 設問1
      短期配偶者居住権
      →全額の支払拒絶できるのか。消滅請求時までは占有権原あるのではないか。
      共有持分権
      →全額の支払拒絶できるのか。判例の「【当然には】明渡し請求はできない」の解釈問題(射程)なのではないか。そう捉えないと事実を拾えない気がしませんか。

      設問2
      解除→解除の要件のどこを論じているのか。本旨不履行のないことなのか。信義則上の受領義務を意識されているとして、解除のどこの要件の問題なのか。
      損害賠償請求→通常損害と特別損害の区別がよく読み取れません。規範がない。そもそもこの伝統的な旧通説を採用する根拠は何か。鯉の価格の下落(この論文なら通常損害)のあてはめが浅い。損害回避義務を課すことが妥当か、との理由付けが特別損害と異なることもよくわからない。

      設問3
      問題文の誤読があると思われる。転賃料の物上代位が問題ではないか。つまり転貸人の有する債権が物上代位の対象となるのか。ここは最高裁判例もあるが意識されていないように読める。特定性維持説から債権譲渡的な状況が払渡しに当たらないとする理由が弱い。判例があるから、という読み方になってしまう。

      と、アイスを食べながら読んでおりましたが合格答案だと思います。多くの受験生は設問1でほとんどが落第。その意味で設問すべて構成を大きく外していないことは浮上するものと予想できます。
      私なら受領遅滞の413条2項類推適用から債権者に損害回避リスクを負わせて、鯉売ってる人に解除権認めますかね。
      全体的に改正前民法の論証に依っているようですね。

      • コメントをいただきありがとうございます。

        私がどこまで理解できているのか怪しいですが、可能な範囲でコメントを返させていただきます。

        > 短期配偶者居住権
        > →全額の支払拒絶できるのか。消滅請求時までは占有権原あるのではないか。

        はい、そのように考えて、〔設問1〕(1)では、「同年4月2日以降明渡しまで1か月当たり5万円の支払の請求を拒むことはできない」ではなく、「同年9月1日以降明渡しまで1か月当たり5万円の支払の請求を拒むことはできない」と書きました。

        > 共有持分権
        > →全額の支払拒絶できるのか。判例の「【当然には】明渡し請求はできない」の解釈問題(射程)なのではないか。そう捉えないと事実を拾えない気がしませんか。

        そこまで考えることができませんでした。その判例(最判昭和41年5月19日ですよね)を意識した記述のほうがよいと思います。

        > 解除→解除の要件のどこを論じているのか。本旨不履行のないことなのか。信義則上の受領義務を意識されているとして、解除のどこの要件の問題なのか。

        「その債務を履行しない場合に当たるかが問題となる」と書き、541条の「その債務を履行しない場合」という要件を論じているつもりでした。

        > 損害賠償請求→通常損害と特別損害の区別がよく読み取れません。規範がない。そもそもこの伝統的な旧通説を採用する根拠は何か。鯉の価格の下落(この論文なら通常損害)のあてはめが浅い。損害回避義務を課すことが妥当か、との理由付けが特別損害と異なることもよくわからない。

        ご指摘のとおりかと存じます。

        > 問題文の誤読があると思われる。転賃料の物上代位が問題ではないか。つまり転貸人の有する債権が物上代位の対象となるのか。ここは最高裁判例もあるが意識されていないように読める。特定性維持説から債権譲渡的な状況が払渡しに当たらないとする理由が弱い。判例があるから、という読み方になってしまう。

        ご指摘のとおりかと存じます。判例(最判平成元年10月27日)を意識せず、304条から転賃料の物上代位が当然可能だと考えていました。

        > 全体的に改正前民法の論証に依っているようですね。

        10年ほど前に予備試験を受けようと法律の学習を始めたので、改正前民法寄りになってしまいがちです。アップデートしていきたいところです。


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