令和5(2023)年司法試験論文再現答案商法

再現答案

以下会社法については条数のみを示す。

〔設問1〕
〔小問1〕
第1 Gの請求の根拠
 取締役は、株式会社に対する忠実義務を負う(355条)。会社にとって不要な財産を取得する、ましてや時価よりも高額で取得する契約を締結することは、忠実義務に違反する。甲社の取締役であるAは、甲社にとって不要な土地を、5000万円で購入する契約(本件売買契約)を締結した。これは忠実義務違反である。
 忠実義務に違反することは、423条1項の任務を怠ったときに当たる。本件売買契約の締結により、甲社には、4000万円の損害が発生している。購入額5000万円−甲土地の時価1000万円で4000万円である。
第2 Aの反論
 株式会社は株主のものであり、総株主の同意がある行為については、忠実義務に違反せず、株式会社に損害も発生しないと、Aは反論する。424条で総株主の同意による責任免除が定められていることもこの解釈を裏付ける。明示的な責任免除の同意がない場合でも、総株主の同意がある場合は、その趣旨が及ぶ。
 本件売買契約を締結した当時、Aは甲社の発行済株式6万株の全部を保有していたので、そのAが本件売買契約を締結することは、総株主が同意した行為である。よって、忠実義務に違反せず、損害も発生していない。
第3 Aの反論の当否
 株式会社の本質からして、Aの反論には説得力があり、妥当である。

〔小問2〕
第1 429条の性質
 429条は、社会生活における株式会社の影響力の大きさに鑑み、民法709条とは別に、取締役に特別の法定責任を課した規定であると考えられる。悪意又は重大な過失は、他人の権利又は法律上保護される利益を侵害することについてではなく、その職務を行うについてのことである。
 429条は、民法709条の特則であるという考え方もあるが、株式会社の取締役について「故意又は過失」を「悪意又は重大な過失」に軽減する合理的な理由はなく、この考え方は妥当ではない。
第2 乙社の請求が認められるか否か
 429条1項に沿って検討する。
 Aは、甲社の役員等である(423条1項参照)。〔小問1〕で見たように、Aは、悪意で忠実義務に違反し、本件売買契約を締結した。これによって乙に損害が生じたかどうか、因果関係が問題となる。
 甲社は、本件売買契約に基づく代金の支払により実質的な債務超過に陥った。仮に本件売買契約を締結していなかったとしたら、本件提起預金を取り崩すか担保に入れることにより本件債務の返済が予定されていた。これらの事情からすると、Aによる本件売買契約の締結と、返済を受けられなかった乙社の本件債務の額に相当する3000万円の損害との間には、因果関係があると言える。
 以上より、乙社による請求は認められる。

〔設問2〕
〔小問1〕
第1 Iの原告適格
 本件訴えは、831条1項に基づく、株主総会の決議の取消しの訴えである。よって、同項に基づいてIの原告適格を判断する。
 Iは、甲社の株主等(828条2項1号参照)である。Iは、本件準共有株式を共有している者であるが、そのような者も106条に従い当該株式についての権利を行使することができるので、株主等から除外する合理的な理由はない。
 取消しを求める本件決議1がなされた本件株主総会1は令和3年6月25日に開催され、Iはその日から3か月以内の同年9月15日に本件訴えを提起しているので、出訴期間も満たしている。
 以上より、Iの原告適格は認められる。
第2 訴えの利益
 株主総会の決議の取消しの訴えは、判決により法的効果が発生する形成訴訟であり、原則として訴えの利益が認められる。判決により決議を取消したとしても法的効果が発生しない場合は、例外的に、訴えの利益が否定される。
 本件決議1は、H及びJを、初めて甲社に取締役に選任した決議である。よって、その決議が取り消されると、H及びJは、甲社の取締役でなくなるという法的効果が発生する。H及びJは、この決議で初めて甲社の取締役に選ばれているので、346条1項により権利義務者となる余地はない。
 以上より、原則通り、訴えの利益が認められる。
第3 本件訴えに係る請求が認められるか否か
 Iは、本件株主総会1においてHが本件準共有株式の全部について議決権を行使したことが、831条1項1号の決議の方法が法令に違反するときに当たると主張する。
 準共有株式について議決権を行使することは、民法252条1項の共有物の管理である(議決権を行使することにより準共有株式の価値が変わり得るので、民法252条5項の保存行為ではない)。よって、各共有者の持分の価格の過半数で決する。本件準共有株式については、HとIが2分の1ずつの持分を有するので、Hだけで過半数には達しない。よって、Hによる議決権行使は、この法令に違反している。
 議長を務めるBが、Hによる議決権の行使について、甲社を代表して同意しており、これが106条ただし書との関係で問題となる。しかし、そのただし書は同条本文と対応するものであって、同条本文は、適法な権利行使者の通知があったことを前提として、会社との対抗関係を定めた規定である。よって、会社の同意によって民法に違反する権利行使者の通知が適法となることはない。
 以上より、本件訴えに係る請求が認められる。甲社株式のかなりの割合について議決権が行使できない者が議決権を行使しているので、その違反の事実は重大であり、831条2項の裁量棄却の余地はない。

〔小問2〕
 〔小問1〕第2に記載した枠組みで検討する。本件決議1が取り消された場合に法的効果が発生するかどうかで判断する。
 本件決議1は、B、C及びDを甲社の取締役に再任するというものであり、その決議が取り消されると、B、C及びDは甲社の取締役に再任されなかったことになる。もっとも、B、C及びDは、346条1項の役員としての権利義務者となる。
 本件株主総会2は、Bが、甲社の代表取締役として招集したものであるから、権利義務者であったとしても、その招集は適法である。
 そして、適法に招集された本件株主総会2において、B、H及びKを取締役として選任するという本件決議2が成立している。本件準共有株式の全部についてH及びIが議決権を共同で行使しているので適法である。
 そうすると、本件決議1を取り消しても、現在の取締役は、B、H及びKであることに変わりがなく、法的効果が発生しない。
 以上より、例外的に、本件訴えに係る訴えの利益は、否定される。
 本件株主総会2は、C及びDが姿を現さなかったので、いわゆる全員出席総会ではないが、それでも適法に招集されて本件決議2が成立したことに変わりはないので、この結論になる。

以上

感想

 一見しただけでは何を論じたらよいのかあまりわかりませんでした。〔設問1〕〔小問1〕では問題文の「4000万円」を見落としていて、「5000万円」で論じようとしてしまいました。〔小問2〕はどこが争点になるのかつかめず、強いて言うなら429条の性質と因果関係だろうと判断して上記の記述にしました。〔設問2〕は〔小問1〕と〔小問2〕の対比がヒントになっているのだろうと判断しました。

 

 



  • 質問よろしいでしょうか。問題文には反論を書くことや、429条の性質に触れるような指示はありません。
    にもかかわらず、浅野さんがそれらを記載するのは、どういう意図があるのでしょうか??
    過去問からその方が点数が入ると分析なさったのでしょうか。何卒ご教授お願いします。

    • 端的に申し上げますと、他に書くことが思いつかなかったからです。一つの小問になっているということはそれなりの分量を書くことが求められているはずだけれども、この問題で他に書くことが思いつかず、429条の性質や反論を書くべきなのかなと判断した次第です。


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