浅野直樹の学習日記

この画面は、簡易表示です

未分類

平成21年司法試験論文刑事系第2問答案練習

問題

〔第2問〕(配点:100)
 次の【事例】を読んで,後記〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。なお,【資料1】の供述内容は信用できるものとし,【資料2】の捜索差押許可状は適法に発付されたものとする。

 

【事 例】
1 警察は,平成21年1月17日,軽自動車(以下「本件車両」という。)がM埠頭の海中に沈んでいるとの通報を受け,海中から本件車両を引き上げたところ,その運転席からシートベルトをした状態のVの死体が発見された。司法解剖の結果,Vの死因は溺死ではなく,頸部圧迫による窒息死であると判明した。警察が捜査すると,埠頭付近に設置された防犯カメラに本件車両を運転している甲野太郎(以下「甲」という。)と助手席にいるVの姿が写っており,その日時が同年1月13日午前3時5分であった。同年1月19日,警察が甲を取り調べると,甲は,Vの頸部をロープで絞めて殺害し,死体を海中に捨てた旨供述したことから,警察は,同日,甲を殺人罪及び死体遺棄罪で逮捕した。勾留後の取調べで,甲は,Vの別居中の妻である乙野花子(以下「乙」という。)から依頼されてVを殺害したなどと供述したため,司法警察員警部補Pは,その供述を調書に録取し,【資料1】の供述調書(本問題集8ページ参照)を作成した。

2 警察は,前記供述調書等を疎明資料として,殺人,死体遺棄の犯罪事実で,捜索すべき場所をT化粧品販売株式会社(以下「T社」という。)事務所とする捜索差押許可状の発付を請求し,裁判官から【資料2】の捜索差押許可状(本問題集9ページ参照)の発付を受けた。なお,同事務所では,T社の代表取締役である乙のほか,A及びBら7名が従業員として働いている。
 Pは,5名の部下とともに,同年1月26日午前9時,同事務所に赴き,同事務所にいたBと応対した。乙及びAらは不在であり,Pは,Bを介して乙に連絡を取ろうとしたが,連絡を取ることができなかったため,同日午前9時15分,Bに前記捜索差押許可状を示して捜索を開始した。Pらが同事務所内を捜索したところ,電話台の上の壁にあるフックにカレンダーが掛けられており,そのカレンダーを外すと,そのコンクリートの壁にボールペンで書かれた文字を消した跡があった。Pらがその跡をよく見ると,「1/12△フトウ」となっており,「1/12」と「フトウ」という文字までは読み取ることができたが,「△」の一文字分については読み取ることができなかった。そこで,Pらは,壁から約30センチメートル離れた位置から,その記載部分を写真撮影した[写真①]。

3 同事務所内には,事務机等のほかに引き出し部分が5段あるレターケースがあり,Pらがそのレターケースを捜索すると,その3段目の引き出し内に預金通帳2冊,パスポート1通,名刺10枚,印鑑2個,はがき3枚が入っていた。Pが,Bに対し,その引き出しの使用者を尋ねたところ,Bは,「だれが使っているのか分かりません。」と答えた。そこで,Pらがその預金通帳2冊を取り出して確認すると,1冊目はX銀行の普通預金の通帳で,その名義人はAとなっていて,取引期間が平成20年6月6日からであり,現在も使われているものであった。2冊目はY銀行の普通預金の通帳で,その名義人はAとなっていて,取引期間が平成20年10月10日からであり,現在も使われているものであった。X銀行の預金口座には,不定期の入出金が多数回あり,その通帳の平成21年1月14日の取引日欄に,カードによる現金30万円の出金が印字されていて,その部分の右横に「→T.K」と鉛筆で書き込まれていたが,そのほかのページには書き込みがなかった。また,Y銀行の預金口座には,T社からの入金が定期的にあり,電気代や水道代などが定期的に出金されているほか,カードによる不定期の現金出金が多数回あった。その通帳には書き込みはなかった。次に,Pらがその引き出し内にあるパスポートなどを取り出し,それらの内容を確認すると,パスポートの名義が「乙野花子」で,名刺10枚は「乙野花子」と印刷されており,はがき3枚のあて名は「乙野花子」となっていた。印鑑2個は,いずれも「A」と刻印されていて,X銀行及びY銀行への届出印と似ていた。Pらは,その引き出し内にあったものをいずれも元の位置に戻した上,その引き出し内を写真撮影した。

4 引き続き,Pらは,X銀行の預金通帳を事務机の上に置き,それを写真撮影しようとすると,Bは,「それはAさんの通帳なので写真を撮らないでください。」と述べ,その写真撮影に抗議した。しかし,Pらは,「捜査に必要である。」と答え,その場で,その表紙及び印字されているすべてのページを写真撮影した[写真②]。さらに,Pらは,Y銀行の預金通帳を事務机の上に置き,同様に,その表紙及び印字されているすべてのページを写真撮影した[写真③]。なお,Pらは,X銀行の預金通帳を差し押さえたが,Y銀行の預金通帳は差し押さえなかった。

5 次に,Pらは,パスポート,名刺,はがき及び印鑑を事務机の上に置き,パスポートの名義の記載があるページを開いた上,そのページ,名刺10枚,はがき3枚のあて名部分及び印鑑2個の刻印部分を順次写真撮影した[写真④]。なお,Pらは,そのパスポート,名刺,はがき及び印鑑をいずれも差し押さえず,捜索差押えを終了した。

6 その後,捜査を継続していたPらは,平成21年2月3日,甲の立会いの下,M埠頭において,海中に転落した本件車両と同一型式の実験車両及びVと同じ重量の人形を用い,本件車両を海中に転落させた状況を再現する実験を行った。なお,実験車両は,本件車両と同じオートマチック仕様の軽自動車であり,現場は,岸壁に向かって約1度から2度の下り勾配になっていた。
 Pらは,甲に対し,犯行当時と同じ方法で実験車両を海中に転落させるよう求めると,甲は,本件車両を岸壁から約5メートル離れた地点に停車させたと説明してから,その地点に停車した実験車両の助手席にある人形を両手で抱えて車外に持ち出した。甲は,その人形を運転席側ドアまで移動させてから車内の運転席に押し込み,その人形にシートベルトを締めた。そして,甲は,運転席側ドアから車内に上半身を入れ,サイドブレーキを解除した上,セレクトレバーをドライブレンジにして運転席側ドアを閉めた。すると,同車両は,岸壁に向けて徐々に動き出し,前輪が岸壁から落ちたものの,車底部が岸壁にぶつかったため,その上で止まり,海中に転落しなかった。甲は,同車両の後方に移動し,後部バンパーを両手で持ち上げ,前方に重心を移動させると,同車両が海中に転落して沈んでいった。その後,Pらが海中から同車両を引き上げ,その車底部を確認したところ,車底部の損傷箇所が同年1月17日に発見された本件車両と同じ位置にあった。

7 Pは,この実験結果につき,実況見分調書を作成した。同調書には,作成名義人であるPの署名押印があるほか,実況見分の日時,場所及び立会人についての記載があり,実況見分の目的として「死体遺棄の手段方法を明らかにして,証拠を保全するため」との記載がある。加えて,実況見分の経過として,写真が添付され,その写真の下に甲の説明が記載されている。
 具体的には,岸壁から約5メートル離れた地点に停止している実験車両を甲が指さしている場面の写真,甲が両手で抱えた人形を運転席に向けて引きずっている場面の写真,甲が運転席に上半身を入れて,サイドブレーキを解除し,セレクトレバーをドライブレンジにした場面の写真,同車両の前輪が岸壁から落ちたものの車底部が岸壁にぶつかってその上で同車両が止まっている場面の写真,甲が同車両の後部バンパーを両手で持ち上げている場面の写真,同車両が岸壁から海中に転落した場面の写真,同車両底部の損傷箇所の位置が分かる写真が添付されている。そして,各写真の下に「私は,車をこのように停止させました。」,「私は,助手席の被害者をこのように運転席に移動させました。」,「私は,このようにサイドブレーキを解除してセレクトレバーをドライブレンジにしました。」,「車は,このように岸壁の上で止まりました。」,「私は,このように車の後部バンパーを持ち上げました。」,「車は,このように海に転落しました。」,「車の底には傷が付いています。」との記載がある。

8 その後,同年2月9日,検察官は,被告人甲が乙と共謀の上,Vを殺害してその死体を遺棄した旨の公訴事実で,甲を殺人罪及び死体遺棄罪により起訴した。被告人甲は,第一回公判期日において,「自分は,殺人,死体遺棄の犯人ではない。」旨述べた。その後の証拠調べ手続において,検察官が,前記実況見分調書につき,「被告人が本件車両を海中に沈めることができたこと」という立証趣旨で証拠調べ請求したところ,弁護人は,その立証趣旨を「被告人が本件車両を海中に沈めて死体遺棄したこと」であると考え,証拠とすることに不同意の意見を述べた。

 

〔設問1〕 [写真①]から[写真④]の写真撮影の適法性について,具体的事実を摘示しつつ論じなさい。

 

〔設問2〕 【事例】中の実況見分調書の証拠能力について論じなさい。

 

【資料1】
供述調書
本籍,住居,職業,生年月日省略
甲野 太郎
 上記の者に対する殺人,死体遺棄被疑事件につき,平成21年1月24日○○県□□警察署において,本職は,あらかじめ被疑者に対し,自己の意思に反して供述をする必要がない旨を告げて取り調べたところ,任意次のとおり供述した。
1 私は,平成21年1月13日午前2時ころ,V方前の道で,Vの首をロープで絞めて殺し,その死体を海に捨てましたが,私がそのようなことをしたのは,乙からVを殺すように頼まれたからでした。
2 私は,約2年前に,クリーニング店で働いており,その取引先に乙が経営していたT化粧品販売という会社があったため,乙と知り合いました。私は,次第に乙に惹かれるようになり,平成19年12月ころから,乙と付き合うようになりました。乙の話では,乙にはVという夫がいるものの,別居しているということでした。
3 平成20年11月中旬ころ,私は,乙から「Vに3000万円の生命保険を掛けている。Vが死ねば約2000万円ある借金を返すことができる。報酬として300万円をあげるからVを殺して。」と言われました。私は,最初,乙の冗談であると思いましたが,その後,乙と話をするたびに何回も同じ話をされたので,乙が本気であることが分かりました。そのころ,私にも約300万円の借金があったため,報酬の金が手に入ればその借金を返すことができると思い,Vを殺すことに決めました。そこで,平成21年1月11日午後9時ころ,乙から私に電話があったとき,私は,乙に「明日の夜,M埠頭で車の転落事故を装ってVを殺す。」と言うと,乙から「お願い。」と言われました。
4 1月12日の夜,私がV方前の道でVを待ち伏せしていると,翌日の午前2時ころ,酔っ払った様子のVが歩いて帰ってきました。私は,Vを殺すため,その後ろから首にロープを巻き付け,思い切りそのロープの端を両手で引っ張りました。Vは,手足をばたつかせましたが,しばらくすると,動かなくなりました。私が手をVの口に当てると,Vは,息をしていませんでした。
5 私は,Vの服のポケットから車の鍵を取り出し,その鍵でV方にあった軽自動車のドアを開け,Vの死体を助手席に乗せました。そして,私は,Vが運転中に誤って岸壁から転落したという事故を装うため,その車を運転してM埠頭に向かいました。私は,午前3時過ぎころ,M埠頭の岸壁から少し離れたところに車を止め,助手席の死体を両手で抱えて車外に持ち出し,運転席側ドアまで移動して,その死体を運転席に押し込み,その上半身にシートベルトを締めました。そして,私は,運転席側ドアから車内に上半身を入れ,サイドブレーキを解除し,セレクトレバーをドライブレンジにしてからそのドアを閉めました。すると,その車は,岸壁に向けて少しずつ動き出し,前輪が岸壁から落ちたものの,車の底が岸壁にぶつかってしまい,車がその上で止まってしまいました。そこで,私は,車の後ろに移動し,思い切り力を入れて後ろのバンパーを両手で持ち上げ,前方に重心を移動させると,軽自動車であったため,車が少し動き,そのままザッブーンという大きな音を立てて海の中に落ちました。私は,だれかに見られていないかとドキドキしながらすぐに走って逃げました。
6 その後,私は,乙にVを殺したことを告げ,1月15日の夕方,乙と待ち合わせた喫茶店で,乙から報酬の一部として現金30万円を受け取り,その翌日の夕方,同じ喫茶店で,乙から報酬の一部として現金20万円を受け取りました。
甲 野 太 郎 指印
以上のとおり録取して読み聞かせた上,閲覧させたところ,誤りのないことを申し立て,欄外に指印した上,末尾に署名指印した。(欄外の指印省略)
前同日
○○県□□警察署
司法警察員 警部補 P 印

 

【資料2】
捜索差押許可状
被疑者の氏名
及び年齢 甲野太郎
昭和 32 年 9 月 29 日生
罪 名 殺 人,死体遺棄
捜 索 す べ き 場 所 , ○○県□□市桜が岡6丁目24番4号日本橋ビル1階
身 体 又 は 物 T化粧品販売株式会社事務所
差 し 押 さ え る べ き 物 本件に関連する保険証書,借用証書,預金通帳,金銭出納帳,手帳,メモ,ノート
請求者の官公職氏名 司法警察員警部補 P
有 効 期 間 平成 21 年 2 月 1 日まで
有効期間経過後は,この令状により捜索又は差押えに着手することができない。この場合には,これを当裁判所に返還しなければならない。
有効期間内であっても,捜索又は差押えの必要がなくなったときは,直ちにこれを当裁判所に返還しなければならない。
被疑者に対する上記被疑事件について,上記のとおり捜索及び差押えをすることを許可する。
平成 21 年 1 月 25 日
□□簡易裁判所 印
裁判官 某 印

 

練習答案

以下刑事訴訟法についてはその条数のみを示す。

 

[設問1]
 捜査については、その目的を達するために必要な取調をすることができるが、強制の処分は刑事訴訟法に特別の定のある場合でなければ、これをすることができない(197条1項)。司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、裁判官の発する令状により、差押え、捜索をすることができる(218条1項)。その執行については、錠をはずし、封を開き、その他必要な処分をすることができる(222条1項に準用される111条1項)。
 T社事務所に立ち入り、そこにある物品の写真撮影をすることは、その物品の持ち主や管理者のプライバシーを侵害するので強制の処分である。よって適法に発付された捜索差押許可状の範囲内では適法であるが、それを超えると違法になる。その判断をする際には、写真撮影が111条1項の「その他必要な処分」に含まれるかどうかが決め手になる。差押をすることのできる物を写真撮影することは、写真撮影のほうが差押えよりも法益侵害の度合いが小さいので、その他必要な処分として許されるが、差押をすることのできない物を写真撮影して事実上差押をしたに等しい状態を作り出すことは、令状の範囲を超えるので、違法である。
 写真①は、差押をすることのできる本件に関するメモを撮影したものなので、適法である。「1/12△フトウ」というのは本件の発生した時間・場所と一致するので、本件に関連するメモである。
 写真②に写っているX銀行の預金通帳(以下「X通帳」とする)と、写真③に写っているY銀行の預金通帳(以下「Y通帳」とする)のそれぞれについて検討する。X通帳には平成21年1月14日の取引日欄に、カードによる現金30万円の出金が印字されていて、その部分の右横に「→T.K」と鉛筆で書き込まれていた。これは甲が同年1月15日の夕方に乙から本件の報酬の一部として現金30万円を受け取ったという事実に対応すると考えられる(「T.K」は甲野太郎のイニシャルである)ので、X通帳は本件に関連する預金通帳であり、差押できる(実際に差し押さえられている)。名義人こそAであるが、Aが雇われている乙社【原文ママ】内に通帳が存在していて、乙の意思で30万円が引き出されたと考えるのも不自然ではない。他方でY通帳は何ら本件との関連を思わせる部分がなかったので差押できない物であり、そのすべてのページを撮影して差し押さえたに等しくする写真③は違法である。記述が前後するが、写真②は適法である。
 パスポート、名刺、はがき、印鑑はいずれも令状の差し押さえられるべき物に記載されておらず、差押できない物なので、それらを撮影した写真④は違法である。
 以上より、写真①及び写真②は適法であるが、写真③及び写真④は違法である。

 

[設問2]
 伝聞法則より、公判期日における供述に代えて、本件実況見分調書という書面を証拠とすることは、いくつかの例外に該当しない限りできない(320条1項)。
 まず、弁護人は証拠とすることに不同意の意見を述べたので、326条の伝聞例外には該当しない。
 本件実況見分調書は、司法警察職員であるPが検証の結果を記載した書面であると考えられるので、Pが公判期日において証人として尋問を受け、その真正に作成されたものであることを供述したときは、伝聞例外として、これを証拠とすることができる(321条3項)。ただし、その中で被告人の供述をその内容とするものについては、被告人の署名若しくは押印がなければこれを証拠とすることができない(324条1項に準用される322条1項)。甲の署名も押印もないので、甲の供述部分の証拠能力は否定される。
 具体的には、「被告人(のような身体的特徴を有する者)が本件車両を海中に沈めることができたこと」を立証趣旨としたPの供述部分と写真の証拠能力は肯定されるが、「被告人(甲自身)が本件車両を海中に沈めて死体遺棄したこと」を立証趣旨とした甲の写真下の説明部分の証拠能力は否定される。
 しかしながら、321条ないし324条の規定により証拠とすることができない書面であっても、公判準備又は公判期日における被告人の供述の証明力を争うためには、これを証拠とすることができる(328条)ので、「被告人(甲自身)の供述は信用できないこと」を立証趣旨とした甲の写真下の説明部分の証拠能力は肯定される。
 甲は公判期日において殺人や死体遺棄を認める供述をしていないが、【資料1】の供述調書が本件実況見分調書と同様に321条3項、324条1項、322条1項が適用され、今度は甲の押印がありかつ被告人甲に不利益な事実の承認を内容とする書面なので供述に代えた証拠とすることができるからである。供述調書の供述が任意にされたものではない疑いはない。そうすると供述調書の内容を甲が公判期日に供述したのと同視できるので、328条を適用することができるのである。

以上

 

修正答案

以下刑事訴訟法についてはその条数のみを示す。

 

[設問1]
第1 前提
 捜査については、その目的を達するために必要な取調をすることができるが、強制の処分は刑事訴訟法に特別の定のある場合でなければ、これをすることができない(197条1項)。司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、裁判官の発する令状により、差押え、捜索をすることができる(218条1項)。その執行については、錠をはずし、封を開き、その他必要な処分をすることができる(222条1項に準用される111条1項)。
 T社事務所のような会社事務所に立ち入り、そこにある物品の写真撮影をすることは、その物品の持ち主や管理者のプライバシーを侵害するので強制の処分である。よって適法に発付された捜索差押許可状の範囲内では適法であるが、それを超えると違法になる。その判断をする際には、写真撮影が111条1項の「その他必要な処分」に含まれるかどうかが決め手になる。差押をすることのできる物を写真撮影することは、写真撮影のほうが差押えよりも法益侵害の度合いが小さいので、必要性と相当性が認められる限りその他必要な処分として許されるが、差押をすることのできない物を写真撮影して事実上差押をしたに等しい状態を作り出すことは、令状の範囲を超えるので、違法である。
第2 写真①撮影の適法性
 写真①の撮影は、差押をすることのできる本件に関するメモを対象としたものなので、適法である。「1/12△フトウ」というのは本件の発生した時間・場所と一致するので、本件に関連するメモである。コンクリートの壁を壊して差押をするよりも、その写真を撮るほうが合理的なので、必要性と相当性が認められる。
第3 写真②及び③撮影の適法性
 次に写真②に写っているX銀行の預金通帳(以下「X通帳」とする)と、写真③に写っているY銀行の預金通帳(以下「Y通帳」とする)のそれぞれについて検討する。X通帳には平成21年1月14日の取引日欄に、カードによる現金30万円の出金が印字されていて、その部分の右横に「→T.K」と鉛筆で書き込まれていた。これは甲が同年1月15日の夕方に乙から本件の報酬の一部として現金30万円を受け取ったという事実に対応すると考えられる(「T.K」は甲野太郎のイニシャルである)ので、X通帳は本件に関連する預金通帳であり、差押できる(実際に差し押さえられている)。名義人こそAであるが、Aが雇われているT社内に通帳が存在していて、乙の意思で30万円が引き出されたと考えるのも不自然ではない。そして鉛筆での書き込みが捜索時から存在したということを記録するために写真撮影をする必要性があると言える。すべてのページを撮影したことも、鉛筆での書き込み部分が本当にX通帳のものであることを示すことに資するという点で相当である。よって写真②の撮影は適法である。他方でY通帳は何ら本件との関連を思わせる部分がなかったので差押できない物であり、そのすべてのページを撮影して差し押さえたに等しくする写真③の撮影は違法である。
第4 写真④撮影の適法性
 パスポート、名刺、はがき、印鑑はいずれも令状の差し押さえられるべき物に記載されておらず、差押できない物なので、それらを撮影した写真④の撮影は違法である。適法に差押をすることができるX通帳の保管状態を示すために写真撮影をすることが必要であると考えることもできるが、それならばX通帳が入っていた引き出しを遠景で撮影すべきであり、パスポート等をわざわざ取り出して机の上に置いて1つずつ、つまり大きな画像で撮影したことは、本来であれば差押できないものを写真撮影して差押えたに等しい効果を生み出しているという点で違法と言わざるを得ない。
第5 結論
 以上より、写真①及び写真②の撮影は適法であるが、写真③及び写真④の撮影は違法である。

 

[設問2]
第1 要証事実
 本件実況見分調書は本件と関連性があり、違法に収集されたという事情もないので、その証拠能力が否定されるとすれば伝聞法則が理由となる。ある証拠に伝聞法則が適用されるかどうかは要証事実を基準として判断されるので、まず要証事実をはっきりさせる。
 当事者主義という構造から、第一次的には、証拠調べ請求をする当事者からの立証趣旨が要証事実を画定することになる。本件で検察官は「被告人が本件車両を海中に沈めることができたこと」という立証趣旨で証拠調べ請求した。これはもう少し詳しく言うと「被告人のような身体的特徴を有する者が物理的に本件車両を海中に沈めることができたこと」であり、本件では物理的にそのような犯行が可能かということを証明しなければならないので、そのための証拠であると合理的に解釈できる。裁判所の認定する要証事実は検察官の立証趣旨に必ずしも拘束されないというのが判例であるが、本件では敢えて検察官の立証趣旨を離れる理由を見出し難い。よって本件実況見分調書の要証事実は「被告人が本件車両を海中に沈めることができたこと」である。
第2 伝聞法則
 伝聞法則より、公判期日における供述に代えて、本件実況見分調書という書面を証拠とすることは、いくつかの伝聞例外に該当しない限りできない(320条1項)。
 まず、弁護人は証拠とすることに不同意の意見を述べたので、326条の伝聞例外には該当しない。
 本件実況見分調書は、司法警察職員であるPが検証の結果を記載した書面であると考えられるので、Pが公判期日において証人として尋問を受け、その真正に作成されたものであることを供述したときは、伝聞例外として、これを証拠とすることができる(321条3項)。被告人が物理的に本件車両を海中に沈めることができたことの検証である。写真や被告人の説明部分も、「被告人が本件車両を海中に沈めることができたこと」という要証事実との関係では、現場供述ではなく現場指示に過ぎず、その真実性が問題となることはないので、一括して本件実況見分調書全体の証拠能力が肯定される。ただし、裁判所がその要証事実から離れて「被告人(甲自身)が本件車両を海中に沈めて死体遺棄したこと」を証明する証拠として用いることはできない。

以上

 

 

感想

[設問1]は踏み込み不足ではあっても大きな間違いはしていなかったかなと思っております。[設問2]はひどいことをしていまいました。要証事実をきちんと検討せずに漫然と伝聞の処理をしたせいで時間とスペースが余ったので、弾劾証拠のことを書くという失態を重ねてしまいました。出題趣旨等を読んでから後付けで書くなら修正答案のようなものになるでしょう。

 



平成21年司法試験論文刑事系第1問答案練習

問題

〔第1問〕(配点:100)
以下の事例に基づき,甲及び乙の罪責について,具体的な事実を摘示しつつ論じなさい(特別法違反の点を除く。)。

 

1 甲は,「Aクレジット」名で高利の貸金業を営むAに雇われて,同貸金業務に従事していた。甲は,「Aクレジット」の開業時からの従業員であり,Aの信頼が厚かったため,同貸金業の営業について,新規貸付けの可否,貸付金額・貸付条件等を判断し,その判断に従って顧客との間で金銭消費貸借契約を締結し,貸付けを実行する事務を行っていたほか,同貸金業の資金管理について,現金出納,取引先に対する支払や「Aクレジット」名義の銀行預金口座(以下「Aの口座」という。)の預金の出し入れ,帳簿等経理関係の書類作成・保管等の事務を行っていた。
 「Aクレジット」では,Aの口座の通帳(以下「Aの通帳」という。)及びその届出印,同口座のキャッシュカード(以下「Aのカード」という。)を事務所内の金庫に入れて保管し,同金庫の鍵は,甲が所持していた。甲は,Aの口座の預金の出し入れをする場合には,自ら金庫の鍵を開けてAのカード及びAの通帳を取り出し,これを甲の部下である経理担当の事務員に手渡した上,金額や出金先等を指示して預金の出し入れに関する事務を行わせていた。なお,「Aクレジット」では,取引先に対する経費の支払は,Aの口座から取引先の銀行口座に直接振り込むことによって行っていたが,顧客に対する貸付けは,その要望に応じて,銀行口座への振込みによるほか,現金を直接顧客に手渡して行うこともあった。
 また,甲は,自ら金銭消費貸借契約書,請求書,領収証等を確認して帳簿の記載を行い,同帳簿を自己の机の引き出しに入れて保管していた。
 一方,Aは,ほぼ毎日事務所に顔を出すものの,甲が作成・保管する帳簿及びAの通帳に目を通して収入・支出の状況を確認するだけであり,帳簿と金銭消費貸借契約書,請求書,領収証等とを突き合わせることはなかった。
 乙は,甲の部下として営業を担当する事務員であり,顧客との契約交渉,貸付金の回収等を行っていたが,経理事務は担当しておらず,Aのカードの暗証番号を知らなかった。

2 甲は,愛人との遊興のため浪費が続き,次第に金銭に窮するようになっていたところ,Aが帳簿及び通帳に目を通すだけであったことから,通帳の記載に合う架空の出金事由を帳簿に記載しておけば,Aのカードを使って金銭を手に入れてもAに発覚することはないと考えた。
 そこで,甲は,当面の遊興費として200万円を,Aの口座から,甲自身が代表者となっており,自ら通帳,届出印及びキャッシュカードを保管しているB社名義の銀行口座(以下「B社の口座」という。)に振り込むこととする一方,帳簿に広告宣伝費としてB社に200万円を支払った旨記載することとした。
 ただ,経理担当の事務員は「Aクレジット」の取引先にB社がないことを知っていたため,同事務員にB社の口座への振込手続を行わせると不審に思われるおそれがあった。そこで,甲は,営業担当の事務員である乙であれば,経費の支払先のことを詳しくは知らないはずなので,自分の不正に気付かれることはないと考え,経理担当の事務員がいない時を見計らって,乙に振込手続を行わせることとした。

3 某日,経理担当の事務員が休暇を取って不在であったため,甲は,前記計画を実行することとし,自ら金庫を開けてAのカード及びAの通帳を取り出し,事務所にいた乙に「今日は経理担当者がいないから代わりに銀行に行ってくれ。B社から支払請求が来ているからB社の口座に200万円を振り込んでくれ。忘れずに記帳してきてくれ。」と指示してAのカード及びAの通帳を手渡すとともに,Aのカードの暗証番号,B社の口座番号等を伝えた。

4 他方,この指示を受けた乙は,かつて甲の机の中にB社名義の通帳があるのを見たことがあった上,他の営業担当の事務員から,B社は甲がAに内緒で代表者となっている実体のない会社で,「Aクレジット」との取引関係が生ずることはあり得ない会社であると聞いたことがあったので,甲がB社の口座に振り込むことにより不正に200万円を手に入れようとしていることに気付いた。
 しかし,乙は,甲が上司であったことから,とりあえずその指示に従うこととし,甲から受け取ったAのカード及びAの通帳を持って銀行に向かった。ところが,自己の借金の返済資金に窮していた乙は,銀行に行く途中で,経理事務の責任者である甲が200万円を不正に手に入れようとしているのだから,甲はその範囲内ならば経理関係の書類をごまかせるはずだと考え,この機会に便乗して自分も金銭を手に入れることとした。そして,乙は,すぐにも120万円の借金の返済が必要だったことから,Aの口座から120万円を引き下ろして自己の借金の返済に充て,甲から指示された金額との差額の80万円は,甲の指示どおりAの口座からB社の口座に振り込むこととした。

5 銀行に着いた乙は,Aのカードを現金自動預払機(以下「ATM」という。)に挿入し,まず80万円をAの口座からB社の口座に口座間で直接振り込む操作を行ってB社の口座に入金した後,すぐに同じATMにAのカードを再び挿入し,Aの口座から現金合計120万円を引き下ろしてこれを自己のポケットに入れた。そして,乙は,Aの通帳にB社に対する80万円の振込みと120万円の現金出金の取引を記帳した後,直ちに同銀行の窓口に行き,自己の借金の返済のため前記現金120万円をサラ金業者の銀行口座に振り込む手続を行った。
 その後,乙は,銀行を出て「Aクレジット」の事務所に戻り,Aのカード及びAの通帳を甲に渡した。

6 乙からAの通帳等を受け取った甲は,Aの通帳の記帳内容を見て,B社に80万円しか振り込まれていない上,120万円の現金出金がなされていたことから,乙に問いただしたところ,乙は,甲に「120万円は私の方で借金の返済に使ってしまいました。あなたも同じようなことをやっているじゃないですか。私の分も何とかしてくださいよ。」と言った。
 甲は,それまで,乙が甲の不正を知っているとは思っておらず,また,乙がそのような不正をするとは予想もしていなかった。
 甲は,乙が指示に従わずに120万円を引き下ろしたことに腹が立ったが,このことがAに発覚すれば,自己の不正も発覚し,暴力団と関係があり粗暴なAにどんなひどい目に遭わされるか分からないため,そのような事態は何としても避けなければならないと考えた。そこで,甲は,乙に「分かった。お前の下ろした120万円は今回は何とかしてやるが,もう二度とこんなことはするな。」と言った。

7 「Aクレジット」では,前記のとおり取引先に対する経費の支払は,Aの口座から取引先の口座に直接振り込むことによって行っていたことから,甲は,Aの口座からB社の口座に振り込まれた80万円については,当初の計画どおり帳簿に架空の広告宣伝費を計上しておけばAに発覚せずに済むが,120万円については,現金出金であるため,架空経費の計上を装ってごまかすことは難しいと考えた。
 そこで,「Aクレジット」では,前記のとおり顧客に対する貸付けは,現金で行うこともあったので,甲は,120万円の現金出金日に,甲の友人でAと面識のない丙に対して返済期日を10日後とする現金120万円の貸付けを行ったことにした上で,その返済期日に集金した現金を強盗に奪われたように装うこととした。

8 その数日後,甲は,乙に「お前が下ろした120万円は,出金日の10日後を返済期日として丙に貸し付けたことにしてある。お前が丙の住んでいるCマンションで丙から集金して帰る途中,その地下駐車場で強盗に襲われて集金した金を奪われたことにしたい。お前は自動車のトランクに入ってくれ。俺がガムテープでお前の手足を縛り,口を塞いでやる。そうすれば,強盗に襲われたように見える。30分くらいしたら俺が警察に通報してやるから大丈夫だ。警察にはけん銃を持った強盗に襲われたと言ってくれ。」と持ちかけた。乙は,自己の借金の返済に充てた金銭の後始末であることやAが粗暴な人間であることを考えると,甲の言うとおりにするのが最も良いと思い,これを承諾した。
 なお,甲は,警察に事情を聴かれた場合に備えて,丙に対し,前記事情を一切告げずに,「『Aクレジット』から120万円を借りて10日後に返済したことにしてくれ。迷惑はかけない。」と依頼した。

9 前記120万円の返済期日とした日,甲と乙は,Cマンションの地下駐車場で落ち合った。乙は,集金の際に平素から使用している営業用の自動車に乗ってきており,これを同地下駐車場に駐車していた。甲は,その自動車のトランク内に横たわった乙の両手首と両足首をガムテープで縛り,乙の口を更にガムテープで塞ぎ,乙が鼻で呼吸できることを確認した後,トランクを閉めてその場を立ち去った。

10 その約30分後,甲は,匿名で警察に電話をかけて,「Cマンションの地下駐車場に駐車中の車のトランクの中からゴトゴトと不審な音がするから調べてほしい。」と通報した。この通報を受けて間もなく同駐車場に駆けつけた警察官により,乙は発見された。乙は,警察官に「けん銃を持った強盗に襲われて丙から集金した現金120万円とその利息を奪われ,自動車のトランクに閉じ込められた。」と説明した。

 

練習答案

以下刑法についてはその条数のみを示す。

 

第1 Aの口座から200万円を引き出した(振り込んだ)行為(問題文の1〜6)
 (1)横領か背任か
 横領罪(252条)と背任罪(247条)は重なり合う部分があると考えられるので、先に刑罰の重い横領罪について検討し、それが成立しない場合に背任罪を検討することにする。背任罪は罰金刑が選択できるので、同じ5年以下の懲役でも背任罪のほうが刑罰が軽いと言えるし、業務上横領罪(253条)と比べるとなおさらである。
 (2)甲、乙それぞれの罪責
 業務上横領罪の構成要件は、「業務上自己の占有する他人の物を横領した者」である(253条)。
 甲は貸金業という業務上で、他人である雇い主Aの通帳及びカードを占有していた。貸金業そのものが違法であったかどうかはともかく、甲の担当していた経理業務が違法であるとは考えられない。甲が物理的に占有していたのはAの通帳及びカードであったが、甲はその暗証番号を知っていたので、通帳及びカードで引き出したり振り込んだりできるAの金銭を占有していたと言える。銀行で預金を引き出したり他の口座へ送金したりする際に特段の障害がないからである。
 そして乙にAの通帳及びカードを手渡すとともに、カードの暗証番号等を教えて、結果的に、甲が代表者をしていて管理もしているB社の口座に80万円を、Aの口座から送金した。いわば道具たる乙を利用した間接正犯か、乙との共同正犯かは後で論じるとして、甲に業務上横領罪が成立する。
 乙も甲から振り込みを依頼されてAの通帳及びカードを手渡されることによって、業務上、他人Aの通帳及びカード、ひいてはそれらを使って自由になるAの金銭を占有するに至った。そして自己の借金返済の原資とするためにAの口座から現金120万円を引き下ろし、甲の管理下に置く目的でB社の口座に80万円の振込みをした。つまりAの金銭を故意に横領したのである。よって乙に業務上横領罪が成立する。
 (3)共犯関係
 当初、甲は乙と共同して犯罪を実行する意図はもっていなかった。乙が、甲が横領を実行しようとしていることに気づき、その計画に乗りつつ自らも横領する意思を発現させた。共同正犯がすべて正犯とされる(60条)のは、共同することで犯罪の実現が容易になるので、一部しか分担していなかったとしても正犯にするという趣旨である。そこから考えると、乙は甲のおかげで横領を容易に実行しているので甲と共犯になり200万円全額につき責任を負う。他方で甲は乙が120万円を自分のために引き出すとは全く予想していなかったので、その部分については責任を問うことができず、80万円についてのみ乙との共犯となる。

 

第2 甲が乙をガムテープで縛り、トランクに閉じ込めた行為(問題文の9)
 甲は乙をガムテープで縛り、自動車のトランク内に閉じ込めた。これは乙の同意があるので暴行には該当せず、暴行罪(208条)は成立しない。乙の身体という法益を事実上侵害していないからである。また、監禁罪(220条)の監禁は移動しようと思ったときに移動できない状態を指しているのであって、移動しようと思わない人が密閉されたところにいたとしても監禁には当たらないので、監禁罪も成立しない。移動の自由が同罪の保護法益だからである。

 

第3 強盗に見せかけて警察を呼んだ行為(問題文の7〜10)
 (1)公務執行妨害と業務妨害の関係
 一般の業務妨害(233、234条)とは別に公務執行妨害(95条)が法定されているので、その関係が問題になる。公務員は実力で妨害を排除できるのだから一般の業務妨害が公務については成立しないという見解もあるが、偽計の場合などは実力で排除することも困難であるので、公務についても一般の業務妨害が成立し得ると考えるのが適切である。
 (2)甲、乙の罪責
 偽計業務妨害罪の構成要件は、「偽計を用いて人の業務を妨害した者」である。甲と乙とは、共同して、実際には強盗事件が発生していないのに発生したと見せかけることで警察官を出動させた。警察官の人員には限りがあり、1つの現場に警察官が出動すると他の場所に行けなくなることもあるし、行けたとしても時間がかかったりするし、その間に他の仕事はできなくなる。このように甲と乙とは偽計により警察の業務を妨害しているので、偽計業務妨害罪が成立する。甲と乙とは共同正犯になる。

 

第4 結論
 以上より、甲はAの80万円について、乙はAの200万円について業務上横領罪が成立する。また、甲乙の両者に偽計業務妨害罪が成立する。これら両罪は併合罪(45条)の関係に立つ。

以上

 

修正答案

以下刑法についてはその条数のみを示す。

 

第1 Aの口座から200万円を引き出した(振り込んだ)行為(問題文の1〜6)
 1.横領か背任か
  横領罪(252条)と背任罪(247条)は重なり合う部分があると考えられるので、先に刑罰の重い横領罪について検討し、それが成立しない場合に背任罪を検討することにする。背任罪は罰金刑が選択できるので、同じ5年以下の懲役でも背任罪のほうが刑罰が軽いと言えるし、業務上横領罪(253条)と比べるとなおさらである。
 2.甲、乙それぞれの罪責
  (1)甲の罪責
   業務上横領罪の構成要件は、「業務上自己の占有する他人の物を横領した者」である(253条)。
   甲は貸金業を営むAに雇われて各種の経理業務に従事し、その業務上で他人であるAの通帳及びカードを占有していた。甲が物理的に占有していたのはAの通帳及びカードであったが、甲はその暗証番号を知っていたので、対銀行との関係で払戻権限を有しており、通帳及びカードで引き出したり振り込んだりできるAの金銭を占有していたと言える。このような場合には、銀行で預金を引き出したり他の口座へ送金したりする際に特段の障害が存在せず、実際に甲はこれまでの業務でAの預金の出し入れをしていた。
   そして乙にAの通帳及びカードを手渡すとともに、カードの暗証番号等を教えて、結果的に、Aの口座から200万円を不法領得した。甲が代表者をしていて管理もしているB社の口座に80万円を送金したことはもちろん、乙が勝手に120万円を引き出したのも、構成要件内での結果の錯誤に過ぎず、不法領得したことに変わりはない。いわば道具たる乙を利用した間接正犯か、乙との共同正犯かは後で論じるとして、甲に業務上横領罪が成立する。
  (2)乙の罪責
   乙も甲から振り込みを依頼されてAの通帳及びカードを手渡されることによって、業務上、他人Aの通帳及びカード、ひいてはそれらを使って自由になるAの金銭を占有するに至った。乙は日頃営業を担当していたが、経理担当者が不在のときなどに上司の指示で経理の業務を行うこともその業務に含まれる。そして自己の借金返済の原資とするためにAの口座から現金120万円を引き下ろし、甲の管理下に置く目的でB社の口座に80万円の振込みをした。つまりAの金銭を故意に横領したのである。よって乙に業務上横領罪が成立する。
 3.共犯関係
  当初、甲は乙と共同して犯罪を実行する意図はもっていなかった。乙が、甲が横領を実行しようとしていることに気づき、その計画に乗りつつ自らも横領する意思を発現させた。乙は自らの意思で実行行為を行っているのであり、もはや道具性は失われているので、甲が間接正犯となることはない。
  甲は本件横領を計画し、通帳やカード、暗証番号を用意し、さらに結果として80万円を自らの管理下に置いているので、直接の実行行為こそしていないものの、正犯性が認められる(教唆では足りない)。乙は本件の計画や準備こそしていないが、自らの意思で実行行為を担当し、120万円を自分のために領得したので、正犯性が認められる(幇助では足りない)。そうすると意思の連絡はないものの、甲と乙とは共同正犯になるとするのが適切である。共同正犯がすべて正犯とされる(60条)のは、共同することで犯罪の実現が容易になるので、一部しか分担していなかったとしても正犯にするという趣旨である。そこから考えると、甲と乙とは互いに犯罪の実現を容易にしているので、共同正犯となる。

 

第2 甲が乙をガムテープで縛り、トランクに閉じ込めた行為(問題文の9)
 甲は乙をガムテープで縛り、自動車のトランク内に閉じ込めたが、乙はそのことに同意していた。監禁罪(220条)の監禁は現実に移動しようと思ったときに移動できない状態を指しているのであって、現実に移動しようと思わない人が密閉されたところにいたとしても監禁には当たらないので、監禁罪は成立しない。移動の自由が同罪の保護法益であるので、移動の自由を侵害していない場合は監禁罪が成立しない。

 

第3 強盗に見せかけて警察を呼んだ行為(問題文の7〜10)
 1.公務執行妨害と業務妨害の関係
 一般の業務妨害(233、234条)とは別に公務執行妨害(95条)が法定されているので、その関係が問題になる。公務員は実力で妨害を排除できるのだから一般の業務妨害が公務については成立しないという見解もあるが、偽計の場合などは実力で排除することも困難であるので、公務についても一般の業務妨害が成立し得ると考えるのが適切である。
 2.甲、乙の罪責
 偽計業務妨害罪の構成要件は、「偽計を用いて人の業務を妨害した者」である。甲と乙とは、共同して、実際には強盗事件が発生していないのに発生したと見せかけること(偽計)で警察官を出動させた。警察官の人員には限りがあり、1つの現場に警察官が出動すると他の場所に行けなくなることもあるし、行けたとしても時間がかかったりするし、その間に他の仕事はできなくなる。このように甲と乙とは偽計により警察の業務を妨害しているので、偽計業務妨害罪が成立する。甲と乙とは共同正犯になる。

 

第4 結論
 以上より、甲乙の両者にAの200万円についての業務上横領罪と、偽計により警察の業務を妨害したことについての偽計業務妨害罪が成立する。これら両罪は併合罪(45条)の関係に立つ。

以上

 

 

感想

難しい問題だと感じましたが、それは多くの人が感じるところだったようで、少し安心しました。努力の跡は示せたと思います。構成要件内の錯誤である120万円について甲の責任を免れさせてしまったのはミスだと言えます。片面的共犯を認めるという立場をもっと強く打ち出せばよかったと思いました。

 



平成21年司法試験論文民事系第2問答案練習

問題

〔第2問〕(配点:200〔〔設問1〕から〔設問6〕までの配点の割合は,1.4:4.8:3.8:3:4:3〕)
 以下の【事実】1から9までを読んで〔設問1〕から〔設問3〕までに,【事実】10から14までを読んで〔設問4〕に,【事実】15から20までを読んで〔設問5〕及び〔設問6〕にそれぞれ答えよ。

 

【事実】
1.X株式会社(以下「X社」という。)は,機械を製造して販売する事業を営む会社である。X社が製造する機械のうち,金属加工機械は,25の機種があり,それぞれの機種に1つの型番が付されていて,その型番はPS101からPS125までである。
 Y株式会社(以下「Y社」という。)は,ナイフやフォークなど金属製の食器を製造する事業を営む会社である。Y社が製造する商品の中でも,合金を素材とするコップは,特徴的なデザインと独特の触感が好評を得ていて,人気の商品である。
 A株式会社(以下「A社」という。)は,物品を販売する事業を営む会社である。A社は,従来,Y社に物品を納入してきた実績がある。

2.Y社は,数年ぶりに,主力商品のコップを製造するために使用する金属加工機械を更新することを決定し,これをA社から調達する方針を固め,Y社の役員であるBが,その実行に携わることとなった。Bは,これまでA社との折衝に当たってきた従業員のCに対し,A社との交渉においては,Y社の主力商品の製造に使用する高額の機械の調達であるから,諸事について慎重を期するよう指示した。

3.Cは,A社の担当者と相談したところ,X社製の型番PS112という番号で特定される機種の金属加工機械を調達することが適切であると考えるに至った。Cの意向を知ったA社の担当者は,X社に問い合わせをし,型番PS112の機械の在庫があることを確認した。

4.このようにして,YAの両社間で交渉が進められた結果,Y社は,平成20年2月1日,A社との間で,X社製の型番PS112の金属加工機械1台(新品)を代金1050万円(消費税相当額を含む。)で買い受ける旨の契約を締結した。売買代金は,まず,そのうち200万円を契約締結時に,また,残金の850万円は目的物の引渡しを受ける際に,それぞれ支払うこととされた。そして,Y社は,同日,A社に代金の一部として200万円を支払った。
 なお,A社は,前記の売買契約を締結する際,型番PS112の機械をX社から近日中に売買により調達することをY社に伝えていた。

5.A社の担当者は,Y社との売買契約が締結された平成20年2月1日の夕刻,改めてX社の担当者に電話をし,Y社に転売する予定であることを告げた上,X社から同社製の型番PS112の金属加工機械1台(新品)を購入するに当たっての契約条件を協議した。この契約条件の中には,AX間の売買代金額(消費税相当額を含む。)を840万円とすること,内金100万円は銀行振込みとし,残金740万円についてはA社が支払のために約束手形1通を振り出して交付すること,引渡しの時期及び場所のほか,次に示す注文書の備考欄①②の内容の条件が含まれていた。契約条件の協議が整った後,A社の担当者はX社の担当者に対し,「後ほど発注権限のある上司の決裁を得て,正式に注文書をお送りしますのでよろしくお願いします。」と述べた。A社の担当者は,発注権限のある上司に対し,Y社に売り渡す型番PS112の機械をX社から調達するための協議が整ったことの報告をし,その上司の決裁を得た上,次の注文書を作成し,これをX社の担当者に送付した。この注文書の記載は,担当者間の前記の協議内容を反映するものであるが,品名欄には,型番の誤記があった。

 

No.0751
平成20年2月4日
注文書
X株式会社 御中
○県○市○区○町3-5-1
A株式会社
代表取締役 ○○○○ 印
下記のとおりご注文いたします。
(1) 品 名 貴社製の金属加工機械(型番PS122)
(2) 数 量 1台
(3) 金 額 840万円(消費税を含む)
(4) 支払方法 内金100万円は平成20年2月12日に貴社銀行預金口座に振込み。残金は,引渡完了の際に,弊社振出の約束手形1通を交付(額面額740万円,支払期日平成20年4月30日)。
(5) 引渡時期 平成20年2月15日
(6) 引渡場所 Y株式会社工場(○県○市○町1-4-12)に貴社から直接納品。
〔備考〕
① 本件機械の所有権は,弊社が上記(4)記載の代金を完済するまで貴社が留保し,代金完済時に移転するものとします。
② 弊社が上記(4)記載の代金の一部でも支払わない場合,貴社は,催告をすることなく直ちに契約を解除することができるものとします。

 

6.この注文書を受け取ったX社の担当者は,受注を決定する権限のある上司に対し,A社の担当者と協議した契約条件で型番PS112の機械の販売を受注したいと説明し,その決裁を得た上,平成20年2月7日,【事実】5記載の注文書と同一内容である注文請書をA社に送付した。なお,この注文請書においても,「(1) 品 名 弊社製の金属加工機械(型番PS122)」と記載されていた。同月8日,これを受け取ったA社の担当者は,確かに注文請書を受け取った旨をX社に連絡した(以下このXA間の売買契約を「本件売買契約」という。)。そして,A社は,X社に対し,同月12日,代金の一部として100万円をX社の銀行預金口座に振り込んだ。

7.X社の納品作業を担当する従業員は,注文請書の写しを参照しながら納品の準備を進め,平成20年2月15日の午前に,A社との約定により直接にY社の工場に,型番PS122の機械1台を搬入しようとした。しかし,Y社の側から,調達しようとしたのは型番PS112の機械であることが指摘されたため,X社の前記従業員は,X社の受注事務担当者と連絡を取ったところ,Y社の指摘のとおりであることが確認された。そこで,いったん搬入を取りやめ,改めて同日午後に型番PS112の機械1台をY社の工場に運んだ(以下この1台の機械を「動産甲」という。)。Y社の担当者が,間違いなく動産甲が型番PS112の機械であることを確認し,動産甲は,滞りなく同日中にY社の工場に搬入された。
 そこで,同日,Y社は,A社に対し,両社間の売買の残代金850万円を支払った。また,A社は,X社に対し,支払期日を平成20年4月30日とするA社振出しの額面額740万円の約束手形を交付した。

8.動産甲の取引を担当したA社の担当者は,平成20年2月20日,Y社を訪ね,搬入の過程で機種の取り違いがあった不手際を詫び,それにもかかわらず一連の取引が無事に終了したことへの謝辞を述べた。応接に当たったCは,取引を慎重に進めるように求めた【事実】2記載のBの指示を踏まえ,XAの両社間の代金決済について特にトラブルが起きていないか,ということを質した。これに対し,A社の担当者は,代金の一部が既に支払われていること,及び残代金の支払のため平成20年4月30日を支払期日とするA社振出しの約束手形を交付したことを説明したが,代金が完済されるまでX社が動産甲の所有権を留保していることは告げなかった。Cは,この説明を受けたことで一応納得し,直接にX社に対し取引経過を照会することはしなかった。

9.その後,A社は,平成20年4月30日に前記約束手形に係る手形金の支払をせず,そのころに事実上倒産した。そこで,X社は,A社に対し,【事実】5記載の注文書の備考欄②の特約に基づき,同年5月2日到達の書面により,本件売買契約を解除する旨の意思表示をし,また,Y社に対し,同年5月7日到達の書面により,動産甲の返還を請求した。しかし,Y社がこれに応じないので,X社は,Y社に対し,所有権に基づき動産甲の返還を請求する訴訟を提起した(以下この訴訟を「本件訴訟」という。)。

 

〔設問1〕 本件売買契約は,何を目的物として成立したものであると考えられるか,理由を付して結論を述べなさい。その際,【事実】5記載の注文書及び【事実】6記載の注文請書にあった型番誤記が本件売買契約の効力に影響を与えるか,錯誤の成否にも言及しつつ述べなさい。

 

〔設問2〕
⑴ X社のY社に対する本件訴訟において,Y社が,自己の即時取得によりX社が動産甲の所有権を喪失したことを主張しようとするときに,「A社が,平成20年2月1日,Y社との間で,【事実】4記載の売買契約を締結したこと」のほか,次に掲げる事実①及び事実②を主張立証する必要があると考えられるか。それぞれ理由を付して説明しなさい。

① A社が,Y社に対し,平成20年2月15日,【事実】4記載の売買契約に基づき動産甲を引き渡したこと。
② Y社が,①の引渡しを受ける際,A社がX社に対し代金全額を弁済していない事実を知らなかったこと。

⑵ 本件訴訟においてY社のする即時取得の主張に対し,X社から,それへの反論として「Y社は,A社に動産甲の所有権があると信じたことについて過失がある。」との主張がされた場合において,Y社の過失の有無を認定判断する上で,次に掲げる事実③及び事実④は,どのように評価されるか。それぞれ理由を付して説明しなさい。

③ 【事実】4記載のとおり,Y社が,A社がX社との売買により目的物を調達することを知っていたこと。
④ 【事実】8記載のとおり,Y社が,本件売買契約の残代金が平成20年4月30日を支払期日とする約束手形で支払われることを知っていたこと。

 

〔設問3〕 X社は,本件訴訟において,Y社に対し,動産甲の使用料相当額の支払も併せて請求したいと考えた。X社は,どのような法的根拠に基づいて,いつからの使用料相当額の請求をすることができるか,考えられる法的根拠を一つ示し,その法的根拠が成り立つ理由及びいつからの請求をすることができるかの理由を付して説明しなさい。

 

【事実】 以下の10から14までは,【事実】1から9までのX社に関するものである。
10.X社は,監査役会設置会社であり,発行済株式総数(普通株式のみ)10万株,株主数5000人の上場企業である(単元株制度は採用していない。)。X社は,財務状況が悪化したため,同じ機械メーカーであり,X社の発行済株式の5%を長年保有して友好関係にあるZ株式会社(以下「Z社」という。)に対し,事業の柱の一つである精密機械製造事業を譲渡するとともに,同社との間に研究,開発,販売等の面における協同関係を築くことにより,この苦境を乗り切ろうと考えた。そして,X社は,平成20年6月2日,Z社との間で,事業の譲渡及び協同関係の構築に向けた交渉を始めるための基本合意を締結した(以下この合意を「本件基本合意」という。)。

11.ところが,本件基本合意の締結後,X社は,財務状況の悪化が急速に進み,キャッシュフローの確保も難しくなったため,本件基本合意に基づくZ社への事業の譲渡によって得ることができる対価による収入や,同社との協同関係の構築だけでは,企業としての存続が危うくなってきた。

12.そのような折,Z社のライバル企業である機械メーカーのD株式会社(以下「D社」という。)がX社に対して合併を申し入れてきた。合併の条件は,X社の普通株式4株にD社の普通株式1株を交付するという合併比率によって,D社を吸収合併存続株式会社とし,X社を吸収合併消滅株式会社とする吸収合併を行うというものであり,D社は,X社の精密機械製造事業に魅力を感じ,同事業を含めてX社の事業全部を吸収合併により取得することを申し入れてきたものであった。

13.X社の取締役会は,Z社よりも企業体力に優るD社に吸収合併されれば,X社は独立した企業ではなくなるものの,同社の財務状況の悪化やキャッシュフロー不足の問題が解決され,事業全体の存続や従業員の雇用の確保につながると考え,平成20年10月8日,Z社との本件基本合意を白紙撤回した上,D社から申入れのあったとおりの合併条件により,X社がD社に吸収合併されることを受け入れることを決めた。

14.これに対し,Z社は,X社の精密機械製造事業を何としても手に入れたいと考え,X社に対し,本件基本合意に基づく事業の譲渡及び協同関係の構築の実現を迫り,D社との合併に反対した。Z社は,本件基本合意に基づき,X社を債務者として,D社との合併の交渉の差止めの仮処分命令の申立てを行ったが,当該申立てが却下されたため,X社に対する本件基本合意違反を理由とする損害賠償請求の訴えの提起を準備している。また,Z社は,X社とD社の合併は,両社の企業規模や1株当たり純資産の比較,X社の培ってきた取引関係や評判等からすれば,その合併比率がX社の株主にとって不当に不利益なものとなっており,また,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独禁法」という。)第15条第1項第1号に規定する「当該合併によって一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合」に当たり,同法に違反するものであると主張し(独禁法違反の点は,実際に認定され得るものであった。),合併に反対している。

 

〔設問4〕 Z社は,X社の株主としての権利を行使し,合併契約の締結や当該合併契約の承認を目的とする株主総会の招集を阻止したいと考えている。Z社は,X社の株主として,どのような会社法上の手段を採ることができるか。理由を付して説明しなさい。

 

【事実】 【事実】10から14までのX社については,その後,以下の15から20までの経過があった。
15.X社は,Z社の反対にもかかわらず,D社との間で合併契約を平成20年10月15日に締結し,X社取締役会は,当該合併契約の承認を目的とする臨時株主総会を同年12月1日に開催することを決定したことから,同社取締役は,その招集通知を発するとともに,株主総会参考書類及び次の議決権行使書面を株主に交付した。

 

議 決 権 行 使 書 株主番号 議決権行使個数 個
X株式会社 御中
私は,平成20年12月1日開催の 議案 第 1 号 議 案
貴社臨時株主総会(継続会又は延会を (略)
含む。)における議案につき,右記の
とおり(賛否を○印で表示)議決権を 賛 賛
行使します。 否
平成20年 月 日 表

欄 否
議案につき賛否の表示
をされない場合は,賛成
の表示があったものとし
て取り扱います。 株主 住所
X株式会社 氏名
届出印

 

16.これに対し,Z社は,合併条件がX社の株主にとって不利益であるとして,X社の株主に対し,合併契約の承認に反対する内容の委任状勧誘を行った。このZ社による委任状勧誘は,次の委任状用紙に基づいて行われており,金融商品取引法に従って行われたものであった。

 

委任状
私は, を代理人と定め,下記の権限を委任します。
1 平成20年12月1日開催予定のX株式会社臨時株主総会並びにその延会及び継続総会に出席し,下記議案につき,私の指示(○印で表示)に従って議決権を行使すること。ただし,賛否を明示しない場合,代理人名を記載しない場合及び原案に対し修正案が提出された場合は,いずれも白紙委任します。
2 復代理人の選任の件

X株式会社とD株式会
社が平成20年10月
15日に締結した合併 原案に対し 賛 否
契約の承認についての
議案
平成20年 月 日
議決権行使個数 個
株主 住所
氏名
届出印

 

17.X社に議決権行使書面を提出して行使された議決権の数は,合計3万6000個であった。そのうち,合併契約の承認議案に賛成と記載されていた数は5000個で,同議案に反対と記載されていた数は2000個,さらに,同議案に対する賛否の記載がされていない数は2万9000個であった。これに対し,Z社に委任状を交付した株主の議決権の数は,合計1万2050個であった。そのうち,会社提案の合併契約の承認議案に反対と記載されている委任状の議決権の数は2000個で,同議案に賛成と記載されている委任状の議決権の数は50個,さらに,同議案に対する賛否の記載がされていない委任状の議決権の数は1万個であった。

18.平成20年12月1日,X社の臨時株主総会が開催された。この臨時株主総会において議決権を行使することができる者を定める基準日現在において,X社は自己株式を保有しておらず,また,相互保有株式も存在しなかった。

19.Z社は,X社の臨時株主総会の議場に1万2050株分のすべての委任状を持参し,自ら保有する5000株分と合わせて,特に留保なしに,合併契約の承認議案につき,議決権を行使して反対の意思表示を行った。当該臨時株主総会におけるZ社以外のX社株主による議決権行使(議決権行使書面によるものを除く。)は,合併契約の承認議案への賛成が6000個で,反対が1000個であった。議場においては,X社とZ社が議案の当否及び投票内容の賛否への算入方法をめぐって激しく対立し,混乱したが,定款の定めにより議長とされているX社の代表取締役社長Eは,Z社の提出した議長不信任動議や,投票数の算入方法に対する抗議を無視し,合併契約の承認決議の成立を宣言した。

20.その後,X社は,平成21年4月1日を合併の効力発生日とする合併の登記を行うこととしている。

 

〔設問5〕 X社の臨時株主総会において,合併契約の承認議案に対し,賛否それぞれどれだけの数の議決権の行使があったと考えるべきか。次の①及び②の場合に分け,それぞれ理由を付して説明しなさい。

① X社株主には,X社に議決権行使書面を提出しつつ,Z社に委任状を交付した者はいなかった場合
② X社株主には,X社に議決権行使書面を提出するとともに,Z社に委任状も交付し,いずれにおいても合併契約の承認議案に対する賛否の欄に賛否を記載しなかったFがおり,同人の有する議決権が100個含まれていた場合

 

〔設問6〕 X社の臨時株主総会の終了後,Z社が合併の実現を阻止するためには,会社法に基づき,どのような手段を採ることができるか(〔設問4〕で解答した手段を除く。)。合併の効力が発生する前と後とで分け,それぞれ理由を付して説明しなさい。

 

練習答案

[設問1]
 売買契約は売主と買主の意思が表示され、それらが合致したときに成立する。書面であるか口頭であるかは問わない。
 本件売買契約の売主はX社で買主はA社である。両者とも株式会社であり法人なので(会社法3条)、売買契約の当事者となることができる。A社の担当者CはX社に対して型番PS112の金属加工機械1台(以下「PS112」とする)の在庫があることを確認したり、X社の担当者とPS112を購入するに当たっての契約条件を協議していた。その後注文書と注文請書が両者の間で交わされ、その書面上は型番PS122と誤記されていたが、上記交渉の経緯から当事者の意思はPS112を売買することであったと容易に決定できる。現に搬入の際に誤りに気づいてPS112が結果的に搬入されている。以上より、本件売買契約は、PS112を目的物として成立したものであると考えられる。意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは無効とされる(民法95条)が、上で見たようにX社とA社とも錯誤はなかったので、本件売買契約は無効とはならない。

 

[設問2]
(1)
 取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する(民法192条)。
 
  占有権の移転は、引き渡し(民法182条)だけでなく、占有改定(民法183条)や指図による占有移転(民法184条)でも発生する。よって即時取得に必要な占有の開始を主張するためには、A社が、平成20年2月1日、Y社との間で【事実】4記載の売買契約を締結したことから帰結する*1の主張だけで足り、A社が、Y社に対し、平成20年2月15日、【事実】4記載の売買契約に基づき動産甲を引き渡したことまで主張する必要はない。 *1に「指図による占有移転」を挿入
 
  即時取得には善意の占有が求められているが、占有者は善意で占有するものと推定される(民法186条1項)ので、Y社が、①の引き渡しを受ける際、A社がX社に対し代金全額を弁済していない事実を知らなかったことを主張する必要はない。
(2)
 
  A社のような物品を販売する事業を営む会社は、どこかから物品を仕入れて別のどこかへ販売するのが通例である。よって、【事実】4記載のとおり、Y社が、A社がX社との売買により目的物を調達することを知っていたとしても、それは何ら異常なことではなくA社がX社から適法に所有権を取得するだろうと考えるのも合理的なので、これがY社の過失を認定するように評価されることはない。
 
  売買契約のような双務契約では同時履行の抗弁(民法533条)が許されるので、売主が先に目的物を引き渡さなければならないということはない。それにもかかわらず、X社はA社の求めに応じてY社に、高額な代金の大部分を受領する前に目的物を引き渡している。これはいわば未払代金をX社がA社に融資したに等しい状況であり、何らかの担保を取るのが通常である。その担保を売買の目的物とする(所有権を留保する)というのは自然な発想であり、広く用いられている手段である。よって【事実】8記載のとおり、Y社が、本件売買契約の残代金が平成20年4月30日を支払期日とする約束手形で支払われることを知っていたことは、Y社は、A社に動産甲の所有権があると信じたことについて過失があるという主張が正しいことを推認させる間接事実であると評価できる。

 

[設問3]
 法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(受益者)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負い(民法703条)、悪意の受益者は、その受けた利益に利息を付して返還しなければならない(民法704条前段)。
 動産甲の所有権がX社にありY社になければ、Y社は法律上の原因なく他人であるX社の財産である動産甲によって動産甲の使用という利益を受け、そのためにX社に動産甲を使用収益できないという損失を及ぼしている。つまりY社は不当利得の受益者である。そしてY社は平成20年5月7日に、X社からの動産甲の返還を請求する書面の到達により、自らが不当利得の受益者であることを知った。
 以上より、X社は、本件訴訟において、Y社に対し、Y社が悪意の不当利得の受益者であるとして、平成20年5月8日以降の動産甲の使用料相当額の支払を併せて請求することができる。

 

[設問4]
 六箇月前から引き続き株式を有する株主は、取締役が法令に違反する行為をし、又はこれらの行為をするおそれがある場合において、当該行為によって当該株式会社に著しい損害が生ずるおそれがあるときは、当該取締役に対し、当該行為をやめることを請求することができる(会社法360条1項)。
 Z社はX社の株式を長年有する株主である。X社の取締役は、本件合併契約を締結してD社と合併することで独禁法に違反する行為をするおそれがある。そしてそうなると制裁を受けたりイメージが悪化したりすることでX社に著しい損害が生ずるおそれがある。よってZ社は本件合併を進めようとしている取締役に対し、合併契約の締結や当該合併契約の承認を目的とする株主総会の招集をやめることを請求することができる。

 

[設問5]

 X社に議決権行使書面を提出して行使された議決権の数は、同書面中に「議案につき賛否の表示をされない場合は、賛成の表示があったものとして取り扱います」という文言があるのでそれに従って計算すると、賛成が3万4000個、反対が2000個となる。Z社に委任状を交付した株主の議決権の数は、委任状用紙に「賛否を明示しない場合、(中略)は、いずれも白紙委任します」とあり、Z社は本件株主総会で議決権を行使して反対の意思表示を行ったので、賛否が記載されていないものを反対だとして計算すると、賛成が50個、反対が1万2000個となる。また、Z社の有する5000株分は反対の意思表示がされたので反対5000個と計算する。そして本件株主総会でそれ以外に議決権が行使されたのは賛成6000個、反対1000個である。以上を合計すると、賛成が4万50個、反対が2万個となる。

 Fは100個の議決権しか有していないのに、都合200個の議決権を行使したことになるので、このまま算入することは株式会社の基本原理からして許されない。しかも本件では、賛否を記載しないと、X社への議決権行使書面では賛成とカウントされ、Z社への委任状では反対とカウントされる。こういった場合には株主Fの真意が定まらず、議決権の行使に瑕疵があるので、Fの議決権行使はすべて無効とされるべきである。会社法313条1項で議決権の不統一行使が認められているが、同条2項で事前にその旨とその理由の通知が求められており、同条3項ではその株主が他人のために株式を有する者でないときは、不統一行使を拒むことができるとされていることからしても、Fの議決権を賛成50個反対50個とするのは適当ではない。
 以上より①をもとにして計算すると、賛成3万9950個、反対1万9900個となる。

 

[設問6]
第1 合併の効力が発生する前
 (1)株主総会の決議無効の確認の訴え
  株主総会の決議については、決議の内容が法令に違反することを理由として、決議が無効であることの確認を、訴えをもって請求することができる(会社法830条2項)。本件合併は独禁法に違反するので、その決議は無効であることの確認の訴えを請求することができる。
 (2)株主総会の決議の取消しの訴え
  株主総会の決議の方法が法令に違反し、又は著しく不公正なときは、株主は、株主総会の決議の日から三箇月以内に、訴えをもって当該決議の取消しを請求することができる(会社法831条1項1号)。
 取締役は、株主総会において、株主から特定の事項について説明を求められた場合には、当該事項について必要な説明をしなければならない(会社法314条本文)ところ、柱主【原文ママ】であるZ社から求められた議案の当否や投票数の参入方法について説明をしていないので、同条に違反する。なお、同条但書に該当する事情は見当たらない。
 また、議長不信任動議や投票数の参入方法に対する抗議を無視した点につき、決議の方法が不公正である。
 よってX社株主であるZ社は、本件決議の日から三箇月以内の平成21年3月1日までに、当該決議の取消しを請求することができる。
第2 合併の効力が発生する後
 会社の吸収合併の無効は、吸収合併の効力が生じた日から六箇月以内に、訴えをもってのみ主張することができる(会社法828条1項7号)。その訴えは、吸収合併の効力が生じた日において吸収合併をする会社の株主が提起することができる(会社法828条2項)。
 上記第1で記述した理由でX社の吸収合併の無効を主張する場合は、吸収合併の効力が生じた日から六箇月以内である平成21年10月1日までに、平成21年4月1日時点でZ社がX社の株主であれば、訴えを提起して行うことができる。

以上

 

修正答案

[設問1]
 売買契約は売主と買主の意思が表示され、それらが合致したときに成立する。書面であるか口頭であるかは問わない。
 本件売買契約の売主はX社で買主はA社である。両者とも株式会社であり法人なので(会社法3条)、売買契約の当事者となることができる。A社の担当者CはX社に対して型番PS112の金属加工機械1台(以下「PS112」とする)の在庫があることを確認したり、X社の担当者とPS112を購入するに当たっての契約条件を協議していた。その後注文書と注文請書が両者の間で交わされ、その書面上は型番PS122と誤記されていたが、上記交渉の経緯から当事者の意思はPS112を売買することであったと容易に決定できる。つまり、物理的・客観的には「PS122」と記載されているが、それが当事者間では「PS112」を意味するということである。現に搬入の際に誤りに気づいてPS112が結果的に搬入されている。以上より、本件売買契約は、PS112を目的物として成立したものであると考えられる。意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは無効とされる(民法95条)が、上で見たようにX社とA社とも錯誤はなかったので、本件売買契約は無効とはならない。

 

[設問2]
(1)
 取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する(民法192条)。
 
  即時取得するためには、取引行為によって動産の占有を始めることが要件とされているので、Y社は、A社が、Y社に対し、平成20年2月15日、【事実】4記載の売買契約に基づき動産甲を引き渡したことを主張する必要がある。
 
  即時取得には善意・無過失の占有が求められているが、占有者は善意で占有するものと推定され(民法186条1項)、占有者が占有物について行使する権利は適法に有するものと推定される(民法188条)結果、無過失も推定される。①の引き渡しを受ける際、A社がX社に対し代金全額を弁済していない事実を知らなかったことは、その即時取得に必要な善意・無過失を推認させる間接事実になるが、前述の推定の効果として一義的な主張責任はこれを否定する側(X社)にあるので、Y社がこの事実を主張する必要はない。
(2)
 
  A社のような物品を販売する事業を営む会社は、どこかから物品を仕入れて別のどこかへ販売するのが通例である。よって、【事実】4記載のとおり、Y社が、A社がX社との売買により目的物を調達することを知っていたとしても、それは何ら異常なことではなくA社がX社から適法に所有権を取得するだろうと考えるのも合理的なので、これがY社の過失を認定するように評価されることはない。
 
  Y社が動産甲の引き渡しを受けることによって占有を開始したのは平成20年2月15日である。他方で、【事実】8記載のとおり、Y社が、本件売買契約の残代金が平成20年4月30日を支払期日とする約束手形で支払われることを知ったのは同年2月20日である。「Y社は、A社に動産甲の所有権があると信じたことについて過失がある」ということの判断は、即時取得の要件からして占有開始時を基準とすべきであるので、その基準より後の事実④は評価の対象とならない。

 

[設問3]
 法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(受益者)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う(民法703条)。
 動産甲の所有権がX社にありY社になければ、Y社は法律上の原因なく他人であるX社の財産である動産甲によって動産甲の使用という利益を受け、そのためにX社に動産甲を使用収益できないという損失を及ぼしている。つまりY社は不当利得の受益者である。しかしながら、善意の占有者は占有物から生ずる果実を取得する(民法189条1項)ので、善意の占有者でいる間は動産甲を使用することができる。このように民法189条1項を民法703条の特則だと解釈することは、所有権留保についての当事者の期待に合致する。X社は所有権こそ留保していたものの、Y社が動産甲を使用することを認容していたのであり、X社が留保していた所有権を自らのものとするまでは、Y社が適法に動産甲を使用することができたというべきである。Y社は平成20年5月7日に、X社からの動産甲の返還を請求する書面の到達により、自らが不当利得の受益者であることを知り、悪意の占有者となった。
 以上より、X社は、本件訴訟において、Y社に対し、Y社が悪意の不当利得の受益者であるとして、平成20年5月8日以降の動産甲の使用料相当額の支払を併せて請求することができる。

 

[設問4]
 監査役設置会社については、六箇月前から引き続き株式を有する株主は、取締役が法令に違反する行為をし、又はこれらの行為をするおそれがある場合において、当該行為によって当該株式会社に回復することができない損害が生ずるおそれがあるときは、当該取締役に対し、当該行為をやめることを請求することができる(会社法360条1項、3項)。
 X社は監査役設置会社であり、Z社はX社の株式を長年有する株主である。X社の取締役は、本件合併契約を締結してD社と合併することで独禁法に違反する行為をするおそれがある。会社法360条の「法令」は条文上何らの限定も付されていないので、独禁法もそこに含まれると考えられる。また、取締役は株式会社に対して善管注意義務(会社法330条、民法644条)や、忠実義務(会社法355条)を負うところ、基本合意違反による損害賠償債務を発生させることは、これらの義務に違反する行為であると言える。合併比率の不公正さは法令違反ではない。
 そして上記の違法な行為をすると、制裁を受けたりイメージが悪化したりすることや、多額の賠償金を支払わせられることによってX社に回復することのできない損害が生ずるおそれがある。よってZ社は本件合併を進めようとしている取締役に対し、合併契約の締結や当該合併契約の承認を目的とする株主総会の招集をやめることを請求することができる。

 

[設問5]

 書面による議決権の行使は認められており(会社法311条)、賛否の記載のない議決権行使書面について各議案につき賛成又は反対とみなす旨を記載することも可能である(会社法施行規則66条1項2号)。議決権の代理行使も認められており(会社法310条)、代理権を証明する書面の提出は求められているが(会社法310条1項)、その書面の形式は定められていない。よって白紙委任も可能であり、代理行為の効果は民法に従って決定される。
 X社に議決権行使書面を提出して行使された議決権の数は、同書面中に「議案につき賛否の表示をされない場合は、賛成の表示があったものとして取り扱います」という文言があるのでそれに従って計算すると、賛成が3万4000個、反対が2000個となる。Z社に委任状を交付した株主の議決権の数は、委任状用紙に「賛否を明示しない場合、(中略)は、いずれも白紙委任します」とあり、Z社は本件株主総会で議決権を行使して反対の意思表示を行ったので、賛否が記載されていないものを反対だとして計算すると、反対が1万2000個となる。賛成と書かれたものも50個あるが、代理人であるZが賛成の意思表示をしていないので、有効な賛成として数えることはできない。他方で無権代理となるので有効な反対としても数えることはできない(民法113条1項)。また、Z社が自ら有する5000株分は反対の意思表示がされたので反対5000個と計算する。そして本件株主総会でそれ以外に議決権が行使されたのは賛成6000個、反対1000個である。以上を合計すると、賛成が4万個、反対が2万個となる。

 Fは100個の議決権しか有していないのに、都合200個の議決権を行使したことになるので、このまま算入することは株主平等という株式会社の基本原理からして許されない。しかも本件では、賛否を記載しないと、X社への議決権行使書面では賛成とカウントされ、Z社への委任状では反対とカウントされる。こういった場合には株主Fの真意が定まらず、議決権の行使に瑕疵があるので、Fの議決権行使はすべて無効とされるべきである。会社法313条1項で議決権の不統一行使が認められているが、同条2項で事前にその旨とその理由の通知が求められており、同条3項ではその株主が他人のために株式を有する者でないときは、不統一行使を拒むことができるとされていることからしても、Fの議決権を賛成50個反対50個とするのは適当ではない。また、F自身が株主総会に出席して会場での説明などを聞いて翻意し、先に送付した議決権行使書面を破棄してそこに記載したのとは別の内容で議決権を行使することは許されるとしても、事前に同じような状況下で送付された議決権行使書面と委任状とが食い違っている場合は、委任状に基づいて議決権を行使した代理人の内容を重視することに合理性もない。
 以上より①をもとにして計算すると、賛成3万9900個、反対1万9900個となる。

 

[設問6]
第1 合併の効力が発生する前
 (1)株主総会の決議無効の確認の訴え
  株主総会の決議については、決議の内容が法令に違反することを理由として、決議が無効であることの確認を、訴えをもって請求することができる(会社法830条2項)。本件合併は独禁法に違反するので、その決議は無効であることの確認の訴えを請求することができる。合併の実現を阻止するためには仮処分の申請もすべきである。会社法830条2項の「法令」は条文上何らの限定も付されていないので、独禁法もそこに含まれると考えられる。合併比率の不公正さは法令違反ではない。
 (2)株主総会の決議の取消しの訴え
  株主総会の決議の方法が法令に違反し、又は著しく不公正なときは、株主は、株主総会の決議の日から三箇月以内に、訴えをもって当該決議の取消しを請求することができる(会社法831条1項1号)。
 取締役は、株主総会において、株主から特定の事項について説明を求められた場合には、当該事項について必要な説明をしなければならない(会社法314条本文)ところ、株主であるZ社から求められた議案の当否や投票数の参入方法について説明をしていないので、同条に違反する。なお、同条但書に該当する事情は見当たらない。
 また、議長不信任動議や投票数の参入方法に対する抗議を無視した点につき、決議の方法が不公正である。
 よってX社株主であるZ社は、本件決議の日から三箇月以内の平成21年3月1日までに、当該決議の取消しを請求することができる。合併の実現を阻止するためには仮処分の申請もすべきである。
第2 合併の効力が発生する後
 会社の吸収合併の無効は、吸収合併の効力が生じた日から六箇月以内に、訴えをもってのみ主張することができる(会社法828条1項7号)。その訴えは、吸収合併の効力が生じた日において吸収合併をする会社の株主が提起することができる(会社法828条2項)。
 上記第1で記述した理由でX社の吸収合併の無効を主張する場合は、吸収合併の効力が生じた日から六箇月以内である平成21年10月1日までに、平成21年4月1日時点でZ社がX社の株主であれば、訴えを提起して行うことができる。ただし、株主総会の決議の取消しの訴えを提起することが可能であったにもかかわらず、特段の理由なくその訴えを提起せずに出訴期間を徒過した場合は、もはやそこで主張すべきであった理由は主張できないと解すべきである。

以上

 

 

感想

民法に関しては、占有や取得時効についてきちんと理解できていませんでした。 会社法の部分では監査役設置会社なので「著しい損害」ではなく「回復することのできない損害」だということを書けなかったのは単純なミスです。その他にも落としている論点が多々あり、勉強不足を感じました。

 

 



平成21年司法試験論文民事系第1問答案練習

問題

〔第1問〕(配点:100〔設問1と設問2の配点の割合は,4:6〕)
次の文章を読んで,以下の1と2の設問に答えよ(なお,本問における賃貸借契約については借地法(大正10年法律第49号)の規定が適用されることを前提とする。)。
1 Xは,父Aの唯一の子であったが,Aが平成19年2月に他界したため,Aの所有する土地(以下「本件土地」という。)を単独で相続した。本件土地上にはAの知り合いであるYの所有する建物(以下「本件建物」という。)が存在しているが,Yは,現在,家族とともに他県に居住しており,2か月に一度程度,維持管理のため,本件建物を訪れている。Xは,以前,Aから,Yが不法に本件土地を占拠していると聞いたことがあったため,Aの他界後,Yに対し,本件建物を取り壊し,本件土地を明け渡すように求めた。すると,Yは,Aの相続人が明らかになったことから地代を支払いたいとして,30万円をX方に持参したが,Xは,本件土地をYに貸した覚えはないとして,Yの持参した金銭の受領を拒絶した。
 Yが本件土地の明渡しに応じなかったことから,Xは,同年12月25日,Yを被告として,T地方裁判所に建物収去土地明渡しを求める訴え(以下「第1訴訟」という。)を提起した。平成20年1月29日に開かれた第1回口頭弁論の期日において,Xは訴状を陳述し,Xが本件土地を現在所有していること,Yが本件土地上に本件建物を所有して本件土地を占有していることを主張し,本件建物の収去及び本件土地の明渡しを求めた。これに対し,Yは,同期日において,答弁書を陳述し,Xの主張する事実はいずれも認めるが,Yは,昭和53年3月8日,Aとの間において,本件土地につき,賃料を年額30万円,存続期間を30年とし,建物の所有を目的とする賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。)を締結しており,本件賃貸借契約の効力はなお継続しているから,Xの請求には理由がないと反論した。
 第1回口頭弁論の期日において,裁判所は,当事者の意見を聴いて,事件を弁論準備手続に付した。平成20年2月26日に開かれた第1回弁論準備手続の期日において,Xは,YからAに対し賃料の支払がされた形跡はなく,AがYとの間に本件賃貸借契約を締結したことはないと反論した。これに対し,Yは,本件賃貸借契約の成立や賃料の支払に関する書証を提出し,その取調べが行われた。
 第1回弁論準備手続の期日の結果を踏まえ,Xは,本件賃貸借契約の成立を前提とする訴訟活動を行うことも必要であると考えるに至り,同年3月28日に開かれた第2回弁論準備手続の期日において,Yが主張する本件賃貸借契約の内容に基づき,仮に本件賃貸借契約の成立の事実が認められる場合であっても,その契約は訴え提起後に30年の存続期間(昭和53年3月8日から平成20年3月7日まで)が満了したので終了したと主張した。また,Xは,同期日において,平成20年3月1日にYから本件賃貸借契約の更新を請求されたが,その翌日,その更新を拒絶したと主張した。
 同年4月25日に開かれた第3回弁論準備手続の期日において,Xは,本件賃貸借契約の更新を拒絶する正当事由として,Yは他県に自宅を構えて家族とともに居住しており,今後,本件土地を使用する必要性に乏しいこと,他方,Xは,現在,築45年の木造賃貸アパートに居住しているが,老朽化に伴う危険性から建て替え工事が必要であり,家主からも強く立ち退きを求められていることから,本件土地を使用する必要性が高いことなどを主張したが,Yは,正当事由の存在を争った。
 その後,同年5月28日に開かれた第4回弁論準備手続の期日において,Xは,以下の事実を主張した。
 「第3回弁論準備手続の期日の2日後である平成20年4月27日,Yから突然電話があり,本件訴訟の件で話合いをしたいと言われたので,Xの自宅近くの喫茶店でYと会った。Yは,訴えを提起されている以上,Xの主張に対しては必要な反論をせざるを得ないが,Aの長男であるXと長期間にわたり訴訟で争うことは必ずしも自らの本意ではないと述べて,本件建物をその時価である500万円で買い取ってほしいと依頼してきた。自分としては,弁護士から,建物買取請求権という制度があるとの説明を受けたことがあり,知り合いの不動産鑑定士から,本件建物の時価は500万円程度ではないかと聞いていたことから,本来は,Yの費用で本件建物を収去してほしいところではあるが,Yが本件建物から早期に退去してくれるのであれば,500万円で本件建物を買い取ることもやむを得ないと考えた。そこで,Yに対し,本件賃貸借契約が存続期間の満了により終了したことを認めた上で,本件建物を500万円で買い取ることを請求するのですかと確認したところ,Yは,そのとおりであると回答した。このようにして,Yは,本件建物の買取請求権の行使の意思表示を行った。」

 

 以下は,第4回弁論準備手続の期日が終了した直後に,裁判長と傍聴を許された司法修習生との間で交わされた会話である。

裁判長:本期日におけるXの主張についてはどのように理解すればよいでしょうか。

修習生:Xの主張は,Yが,Xに対し,平成20年4月27日,本件建物の買取請求権を行使する旨意思表示をしたという主張であると理解できます。

裁判長:そうですね。この主張は,本件訴訟の主張立証責任との関係ではどのような意味を有するのでしょうか。

修習生:本件訴訟において,Xは,所有権に基づく建物収去土地明渡しを請求しています。これに対し,Yは,本件土地の占有権原に関する主張として,建物の所有を目的とする本件賃貸借契約をYとの間で締結し,それに基づき本件土地の引渡しを受けたと主張していますが,Xは,更に本件賃貸借契約が存続期間の満了により終了し,その更新拒絶について正当事由があると主張しています。Yによる建物買取請求権の行使は,本件賃貸借契約の存続期間が満了し,契約の更新がないことを前提として,借地権者であるYが,借地権設定者であるXに対し,本件建物を時価である500万円で買い取ることを請求するものです。

裁判長:建物買取請求権の行使は,本件訴訟のように建物収去土地明渡請求がされている場合には,いずれの当事者が主張すべきものですか。

修習生:建物買取請求権の行使の事実を主張するのは,本来,借地権者であるYのはずです・・・。しかし,本件訴訟ではXが主張しています。

裁判長:Xとしては,本件賃貸借契約が認められるのであれば,とにかくYに建物から早期に退去してもらい,土地を明け渡してほしいと望むことも考えられますが,Yによる建物買取請求権の行使の事実が認められると,本件建物の所有権は建物買取請求権の行使と同時にXに移転することになりますから,少なくとも,XはYに対し建物収去を求めることはできなくなりますね。ところで,仮に,裁判所が,Yに対し,本件建物の買取請求権の行使について釈明を求めた場合,Yとしては,どのような対応をすることが考えられるでしょうか。

修習生:Yの対応としては,①Yが本件建物の買取請求権を行使したというXの主張する事実を争う場合,②Xの主張する事実を自ら援用する場合,③裁判所が釈明を求めたにもかかわらず,Xの主張する事実を争うことを明らかにしない場合,の3通りが考えられるのではないでしょうか。

裁判長:そうですね。本件賃貸借契約の終了が認められる場合において,Yが本件建物の買取請求権を行使したというXの主張する事実を,証拠調べをすることなく,判決の基礎とすることはできますか。あなたが考えた3通りの各場合について検討してください。

修習生:はい。わかりました。

 

〔設問1〕
前記会話を踏まえた上で,本件賃貸借契約の終了が認められる場合において,「YはXに対して本件建物を時価である500万円で買い取るべきことを請求した」というXの主張する事実を,(i)Yが否認したとき,(ii)Yが援用したとき,(iii)Yが争うことを明らかにしなかったときについて,それぞれ,証拠調べをすることなく,判決の基礎とすることができるかどうかについて論じなさい。

 

2 第1訴訟のその後の審理において,Yは,Xの主張する建物買取請求権の行使の事実を援用するとともに,本件建物の時価相当額である500万円の支払があるまでは本件建物の引渡しを拒むと申し立てたことから,裁判所は,結局,Yに対し,本件建物の代金500万円の支払を受けるのと引換えに本件建物を退去して本件土地を明け渡すよう命ずる旨の判決を言い渡し,その判決は平成20年11月21日の経過により確定した。
 Xは,平成21年1月ころ,親戚の集う新年会の席上,親戚Bから,「数年前にAと会った際,本件土地をめぐってYとトラブルになっており,その件で,今は亡き兄Cと相談していると言っていた。」と聞いた。そこで,Xは,すぐにAの亡兄Cの家族を訪ねて事情を聞いたところ,確かに,数年前にAが書類を封筒に入れて持参し,Cと2人で相談していたことがあったとのことであり,AがC方に持参した書類は,封筒に入れたまま保管しているとのことであった。そこで,Xは,Cの家族からその封筒を受け取って自宅に戻り,封筒内の書類を整理したところ,AからYにあてた平成18年4月3日付け内容証明郵便が見付かった。同内容証明郵便には,Aが,Yに賃料支払の催告を行い,2週間以内に未払賃料の支払がないときは本件賃貸借契約を解除するとの意思表示を行った旨の記載があり,Yが同内容証明郵便を同月6日に受領したことを示す郵便物配達証明書も同封されていた。
 そこで,Xは,Yを被告として,平成21年4月13日,別紙の訴状をT地方裁判所に提出して,新たな訴え(以下「第2訴訟」という。)を提起した。これに対し,Yは,弁護士に委任して答弁書を裁判所に提出し,Xの提起した訴えは,訴えの利益が認められないので却下されるべきであると主張するとともに,第2訴訟におけるXの請求には,第1訴訟の確定判決の効力が及ぶので,第2訴訟の請求は,少なくとも建物収去を求める部分については棄却されるべきであると主張した。この答弁書の送達を受けたXは不安になり,自分も弁護士に相談した方がよいと考え,第2訴訟の第1回口頭弁論の期日の前に,D弁護士を訪れた。

 

 以下は,Xから相談を受けたD弁護士と同弁護士の下で修習中の司法修習生との会話である。

弁護士:Xは,第1訴訟の判決確定後に新たな事実が判明したとの理由から,Yに対して第2の訴えを提起したのですね。

修習生:はい。第2訴訟は,賃料不払による賃貸借契約の解除の場合には建物買取請求権の行使ができないことを前提とする訴訟です。建物買取請求権は,誠実な借地人の保護のための規定ですので,借地人の債務不履行による賃貸借契約の解除の場合には,借地人には建物買取請求権は認められないとする最高裁判所の判例があります。

弁護士:よく勉強していますね。次に,第2訴訟の訴訟物について考えてみましょう。第2訴訟において,Xは,Yに対し,本件土地の所有権に基づき,本件建物の収去と本件土地の明渡しを求めていますが,土地所有者が,土地上に建物を所有してその土地を占有する者に対して,所有権に基づき建物収去土地明渡しを請求する場合の訴訟物については,どのように考えられますか。

修習生:はい。この場合の訴訟物については,考え方が分かれていますが,一般的な考え方によれば,この場合の訴訟物は所有権に基づく返還請求権としての土地明渡請求権1個であり,判決主文に建物収去が加えられるのは,土地明渡しの債務名義だけでは別個の不動産である地上建物の収去執行ができないという執行法上の制約から,執行方法を明示するためであるにすぎないとされています。したがって,建物収去は,土地明渡しの手段ないし履行態様であって,土地明渡しと別個の実体法上の請求権の発現ではないということになります。

弁護士:その考え方に立つと,第2訴訟の訴訟物と第1訴訟の訴訟物とが同一かどうかについては,どのように考えるべきでしょうか。

修習生:第1訴訟の判決は,Yに対し,本件建物の代金500万円の支払を受けるのと引換えに,本件建物を退去して本件土地を明け渡すよう命ずるものです。建物収去土地明渡訴訟の訴訟物について先ほどお話しした一般的な考え方に立つとすれば,建物退去土地明渡訴訟についても,訴訟物は所有権に基づく返還請求権としての土地明渡請求権であり,「建物退去」の点については「建物収去」の点と同様に,土地明渡しの手段ないし履行態様にすぎないと考えることができますので,その訴訟物は同一であるといえるかと思います。

弁護士:そうですね。ここでは,第1訴訟と第2訴訟の訴訟物は同一であるという考え方を前提として考えてみましょう。ところで,Yは,第2訴訟において,どのような主張をしていますか。

修習生:Xの提起した訴えは,訴えの利益が認められないので却下されるべきであると主張するとともに,第2訴訟におけるXの請求には,Yに対し,本件建物の代金500万円の支払を受けるのと引換えに本件建物を退去して本件土地を明け渡すよう命じた第1訴訟の確定判決の効力が及ぶので,第2訴訟の請求は,少なくとも建物収去を求める部分については棄却されるべきであると主張しています。

弁護士:Yの主張を理解するには,建物収去土地明渡請求と,建物代金の支払を受けるのと引換えに建物退去土地明渡しを命ずる判決との関係をどのように考えるかが問題となりそうですね。まず,Yのそれぞれの主張について,その論拠をまとめてみた方がよいかもしれません。その上で,それぞれの主張について,どのような反論をすべきか,検討してください。

修習生:はい。わかりました。

 

〔設問2〕
⑴ 前記会話を踏まえた上で,Xには第2訴訟について訴えの利益が認められないので,その訴えは却下されるべきであるとするYの主張につき,その考えられる論拠を説明しなさい。
⑵ 前記会話を踏まえた上で,第2訴訟におけるXの請求には第1訴訟の確定判決の効力が及ぶので,第2訴訟の請求は,少なくとも建物収去を求める部分については棄却されるべきであるとのYの主張につき,その考えられる論拠を説明しなさい。
⑶ 上記⑴及び⑵の論拠を踏まえた上で,第2訴訟におけるYの主張に対し,Xとしてはいかなる反論をすべきかについて論じなさい。

 

【別 紙】
訴 状
平成21年4月13日
T地方裁判所
原告 X 印
当事者の表示 (省略)
建物収去土地明渡請求事件
訴訟物の価額 (省略)
貼用印紙額 (省略)
第1 請求の趣旨
1 被告は,原告に対し,別紙物件目録1(省略)記載の建物を収去して同目録2(省略)記載の土地を明け渡せ
2 訴訟費用は被告の負担とする
との判決を求める。
第2 請求の原因
1 別紙物件目録2記載の土地(以下「本件土地」という。)は,もと原告の父である訴外亡A(以下「亡A」という。)が所有していたところ,平成19年2月3日,亡Aが死亡した。原告は,亡Aの唯一の相続人であったことから,本件土地を相続した。
2 被告は,昭和53年8月10日から本件土地上に別紙物件目録1記載の建物(以下「本件建物」という。)を所有して,本件土地を占有し続けている。
3 よって,原告は,被告に対し,本件土地の所有権に基づき,本件建物の収去及び本件土地の明渡しを求める。
第3 事情
1 原告は,被告に対し,かつて本件土地につき建物収去土地明渡しを求める訴えを提起したが(T地方裁判所(ワ)第○○号事件),裁判所は,亡Aと被告間の昭和53年3月8日付け土地賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。)の存在と被告の建物買取請求権の行使を前提に,建物代金500万円の支払を受けるのと引換えに,建物退去土地明渡しを命ずる旨の判決を言い渡し,この判決は確定した。
2 しかし,もともと被告は,平成16年分及び平成17年分の賃料の支払を怠り,平成18年4月6日配達の内容証明郵便によって,亡Aから賃料不払を理由とする解除の意思表示を受けていた。したがって,被告が建物買取請求権を行使した時点で,本件賃貸借契約は消滅していたのであって,本件賃貸借契約の存続を前提にYが行った建物買取請求権の行使は無効な行為というほかない。被告は,原告に対し,本件建物を収去して本件土地を明け渡すべきである。
証拠方法 (省略)
附属書類 (省略)
【資 料】
○ 借地法(大正10年法律第49号)
第2条 借地権ノ存続期間ハ石造,土造,瓦造又ハ之ニ類スル堅固ノ建物ノ所有ヲ目的トスルモノニ付テハ60年,其ノ他ノ建物ノ所有ヲ目的トスルモノニ付テハ30年トス但シ建物カ此ノ期間満了前朽廃シタルトキハ借地権ハ之ニ因リテ消滅ス
2 契約ヲ以テ堅固ノ建物ニ付30年以上,其ノ他ノ建物ニ付20年以上ノ存続期間ヲ定メタルトキハ借地権ハ前項ノ規定ニ拘ラス其ノ期間ノ満了ニ因リテ消滅ス
第3条 契約ヲ以テ借地権ヲ設定スル場合ニ於テ建物ノ種類及構造ヲ定メサルトキハ借地権ハ堅固ノ建物以外ノ建物ノ所有ヲ目的トスルモノト看做ス
第4条 借地権消滅ノ場合ニ於テ借地権者カ契約ノ更新ヲ請求シタルトキハ建物アル場合ニ限リ前契約ト同一ノ条件ヲ以テ更ニ借地権ヲ設定シタルモノト看做ス但シ土地所有者カ自ラ土地ヲ使用スルコトヲ必要トスル場合其ノ他正当ノ事由アル場合ニ於テ遅滞ナク異議ヲ述ヘタルトキハ此ノ限ニ在ラス
2 借地権者ハ契約ノ更新ナキ場合ニ於テハ時価ヲ以テ建物其ノ他借地権者カ権原ニ因リテ土地ニ附属セシメタル物ヲ買取ルヘキコトヲ請求スルコトヲ得
3 第5条第1項ノ規定ハ第1項ノ場合ニ之ヲ準用ス第5条 当事者カ契約ヲ更新スル場合ニ於テハ借地権ノ存続期間ハ更新ノ時ヨリ起算シ堅固ノ建物ニ付テハ30年,其ノ他ノ建物ニ付テハ20年トス此ノ場合ニ於テハ第2条第1項但書ノ規定ヲ準用ス
2 当事者カ前項ニ規定スル期間ヨリ長キ期間ヲ定メタルトキハ其ノ定ニ従フ

 

練習答案

以下民事訴訟【原文ママ】についてはその条数のみを示す。

 

[設問1]
 裁判所において当事者が自白した事実及び顕著な事実は、証明することを要しない(179条)。「YはXに対して本件建物を時価である500万円で買い取るべきことを請求した」というXの主張する事実(以下「本件事実」とする)は顕著な事実ではないので、当事者が自白した事実に該当すれば証明することを要しない、つまり証拠調べをすることなく判決の基礎とすることができるが、当事者が自白した事実に該当しなければ証拠調べをすることなく判決の基礎とすることはできない。自白というのは自らが法律上不利になるような事実の告白のことである。
 (i)Yが否認したとき
 建物買取請求権の行使は、賃貸借契約の存続期間が満了し契約の更新がないことを前提にしている(借地法4条2項)という点でYにとって法律上不利になる事実である。Yは、Xの主張する本件賃貸借契約の更新を拒絶する正当事由の存在を争っているのだから、契約の更新を主張しているのである。よって本件事実をYが否認したときはYの自白がないので、証拠調べをすることなく判決の基礎とすることはできない。
 (ii)Yが援用したとき
 本件事実をYが援用したときはYが自白したことになる。Xも同様に本件事実を主張することで自白をしている。よって本件事実は証拠調べをすることなく判決の基礎とすることができる。民事訴訟法の基調となっている当事者主義の原則からもこの結論は妥当である。
 (iii)Yが争うことを明らかにしなかったとき
 Yが争うことを明らかにしなかったときは、黙示の自白があったということで、(ii)と同様に証拠調べをすることなく判決の基礎とすることができる。裁判長がYに対し「本件事実は契約の更新がないことを前提としているが、その点についてはどう考えているのか」と問いを発して釈明を求める(149条1項)ほうが当事者の主張をはっきりさせられるので望ましい。

 

[設問2]
 確定判決は、主文に包含するものに限り、既判力を有する(114条1項)。既判力に反する訴えが提起された場合にその訴えが却下されるのか棄却されるのかという問題があるが、形式上の不備か本案での不適切な主張のどちらに近いかで判断することになる。また、いずれの場合でも、既判力の範囲をめぐって争いになる可能性がある。その際には「主文に包含するもの」をいかに解釈するかがポイントとなる。
 (1)
 このYの主張は、Xの提起した第2訴訟は第1訴訟の既判力に反しており、しかもそれが形式上の不備に等しいということを論拠にしている。本件土地を明け渡せという第1訴訟が確定しているのだから、第2訴訟でそれと同じことを請求しても同じ訴訟を繰り返しているだけであって、請求の趣旨及び原因に不備があるのだから、訴えが却下されるべきだということである(133条2項2号、137条1項及び2項)。
 (2)
 このYの主張は、第1訴訟の確定判決の効力(既判力)が及ぶので、それに反するXの主張は失当であり、第2訴訟の請求は棄却されるべきだということを論拠にしている。より詳しく言うと、第2訴訟で建物収去を求める部分が、建物退却【原文ママ】して本件土地を明け渡せという第1訴訟の確定判決と矛循【原文ママ】するということである。
 (3)
 まずXは(1)のYの主張に対し、第2訴訟は第1訴訟と同じ請求をしているということはなく、従って請求の趣旨及び原因に不備はなく、訴えが却下されることはないと反論すべきである。
 次にXは(2)のYの主張に対し、第1訴訟の既判力の範囲は土地を明け渡せという部分だけであり、執行方法の明示にすぎない建物退却【原文ママ】の部分は含まれないと反論すべきである。114条1項の「主文に包含するもの」というのは主文と呼ばれるところに書かれていることをそのまま含めるのではなく、訴えの実情に応じて真に主文と言える部分のみを含めるべきであるという理屈である。執行方法の明示などはあくまでも執行のために便宜上主文に配されたまでであって、本来であれば主文ではなく理由中に書くべき事柄である。

以上

 

修正答案

以下民事訴訟法についてはその条数のみを示す。

 

[設問1]
 現行の民事訴訟法は当事者主義を基調にしており、当事者の主張しない事実を判決の基礎としてはならない(弁論主義の第1テーゼ)。これは裁判所と当事者との役割分担について言ったもので、当事者の主張が、ある点においては一方に有利で別の点においては他方に有利な場合があることからしても、ここでの当事者は原告と被告のどちらでもよいと解釈すべきである(主張共通の原則)。そして主要事実については、当事者に争いがなければ(自白が成立すれば)、証明することを要しない(179条)だけでなく、むしろ証拠調べをすることなくこれを判決の基礎としなければならない(弁論主義の第2テーゼ)。証拠調べをする場合は、当事者の申し出た証拠に基づく(弁論主義の第3テーゼ、職権証拠調べの原則的禁止)。
 「YはXに対して本件建物を時価である500万円で買い取るべきことを請求した」というXの主張する事実(以下「本件事実」とする)は、建物買取請求権の行使をしたという意味では建物収去を免れるという点でYにとって有利な主要事実であるが、本件賃貸借契約の満了を推認させるという意味ではYにとって不利な間接事実である。
 (i)Yが否認したとき
 主張共通の原則から、本件事実を判決の基礎としてもよい。しかしYが否認してこれを争っているので、自白は成立しておらず、証拠調べを要するのが原則である。建物買取請求権を行使して建物収去を免れるという主要事実の面では主張責任を負うYが否認して、逆に不利になるXが自ら主張しているのだから、訴訟経済などを考慮して例外的に証拠調べを要さずに事実認定をしてもよいという考え方もある。しかし本件事実は同時に本件賃貸借契約の満了を推認させるという意味でYにとって不利な間接事実にもなっており、証拠調べの結果次第ではそもそも契約が満了していないという結論になるかもしれないので、原則通り、証拠調べをすることなく判決の基礎とすることはできないとすべきである。
 (ii)Yが援用したとき
 本件事実をYが援用したときは、間接事実についてはYが自白したことになり、主要事実についてはXが自白をしたことになる。先に一方が自白をして後に他方が援用しようが、先に一方が他方の自白に相当する事実を主張して後に他方がそれを認めることで自白をしようが、自白が有効に成立していることに変わりはない。よって本件事実は当事者に争いのないものであって、証拠調べをすることなく判決の基礎とすることができる。当事者主義の原則からもこの結論は妥当である。
 (iii)Yが争うことを明らかにしなかったとき
 当事者が口頭弁論において相手方の主張した事実を争うことを明らかにしない場合には、その事実を自白したものとみなす(159条1項、擬制自白)。自白というのは自らが法律上不利になることを告白することなので、ここでの相手方の主張とは、相手方が主張責任を負う事実の主張を指している。本件事実は主要事実の面ではYが主張責任を負うものであるので、擬制自白の規定をそのまま適用することはできない。しかし擬制自白の制度趣旨は、争うことを明らかにしない場合には黙示的にその事実を認めるなり主張するなりしたとみなすことで審理を簡略化しても当事者主義に反しないという点にあるので、(ii)と同様に証拠調べをすることなく判決の基礎とすることができるとしても差し支えない。

 

[設問2]
 (1)
 Yは、Xには第2訴訟について訴えの利益が認められないので、その訴えは却下されるべきであると主張している。給付訴訟では原則として訴えの利益は認められるところ、同一訴訟物について既に債務名義を得ているときは、訴えの利益が否定される。裁判所に訴える意味がないのに訴えることにより訴訟資源を浪費して関係者を煩わせるのを避けるためである。そして訴えの利益が認められない場合には、その訴えが却下されるべきだということに異論はない。
 (2)
 Yは、第2訴訟におけるXの請求には第1訴訟の確定判決の効力が及ぶので、第2訴訟の請求は,少なくとも建物収去を求める部分については棄却されるべきであると主張している。確定判決は、主文に包含するものに限り、既判力を有する(114条1項)ところ、第1訴訟では建物退去土地明け渡しが主文に包含されているので、それに反するXの主張は失当であり、第2訴訟の請求は棄却されるべきだということを論拠にしている。より詳しく言うと、第2訴訟で建物収去を求める部分が、第1訴訟の主文に含まれる建物退去と矛盾しているということである。
 (3)
 まずXは(1)のYの主張に対し、第2訴訟は同一訴訟物について既に債務名義を得ているといっても、その債務名義には「本件建物の代金500万円の支払を受けるのと引換えに」という条件が付されており、その条件をなくすということに意味(実益)があるので、例外的に訴えの利益が認められ、訴えが却下されることはないと反論すべきである。
 次にXは(2)のYの主張に対し、第1訴訟の既判力の範囲は土地を明け渡せという部分だけであり、執行方法の明示にすぎない建物退去の部分は含まれないと反論すべきである。114条1項の「主文に包含するもの」というのは主文と呼ばれるところに書かれていることをそのまま含めるのではなく、訴えの実情に応じて真に主文と言える部分のみを含めるべきであるという理屈である。執行方法の明示などはあくまでも執行のために便宜上主文に配されたまでであって、本来であれば主文ではなく理由中に書くべき事柄である。
 仮に建物退去の部分が既判力の範囲に入るとしても、亡Aから賃料不払を理由とする解除の意思表示を受けていたことをXが第1訴訟で主張することは不可能であったので、基準時(第1訴訟の最終口頭弁論時)以前の事実であっても既判力に妨げられずに主張できるとするのが相当である。
 Yは信義則(2条)の観点から第2訴訟でのXの主張を排斥するように求めるかもしれないが、先に述べたように第1訴訟でXが主張することが不可能であった事実をYは容易に主張することができたという点からしても、このようなYの要求は不当である。

以上

 

 

感想

全体的にひどい出来でした。[設問1]では弁論主義の原則を理解できていないことを思い知らされました。[設問2]も暗中模索でした。修正答案をまとめる作業をして理解は進んだので、次につなげたいと思います。

 



平成22年司法試験論文公法系第2問答案練習

問題

〔第2問〕(配点:100〔〔設問1〕から〔設問3〕までの配点の割合は,2:4.5:3.5〕)
 A村は,人口が昭和30年には約5000人であったが,年々減少し,平成20年には約2400人にまで落ち込んでいる。その間,過疎地域の指定も受け,村の財政は極めて厳しい状況が続いている。こうした状況下で,A村は,人口減少対策・過疎対策として,A村の保有する土地(10区画)(以下「本件土地」という。)を,希望者を募って平成21年4月20日に売却した。本件土地は,近隣市の中心部まで自動車で30分程度の通勤圏に位置している。前年にもA村は売却を試みたが,相場並みに価格を定めたところ,1区画に応募があったのみであり,この1区画についても契約の締結に至らなかった。そこで今回は,下限の価格を定めずに,「分譲価格と条件は購入希望者と直接相談させていただきます」という内容を記載した村民向けチラシ,近隣市町村における折り込みチラシ,新聞広告,現地看板などにより広報を行い,10区画すべてをそのとおりに売却した。成約価格は結果として,最も高い区画で560万円,最も安い区画で400万円,全区画の売却価格の総額は4800万円であった。購入者の中には,側溝部分など,一部の土地対価について支払を免除された者も多数存在する。また,購入者の中には,A村の部長の弟や売却担当部局職員の妻も含まれていた。さらに,村内の利便性を欠く地区に住む者による買換えが,複数見られた。
 ある週刊誌に,本件土地の売買に疑惑があるとする記事が掲載されたことを契機として,村民B及びCは,平成22年3月19日に地方自治法第242条による住民監査請求を行った。B及びCは,本件土地は慎重に時間を掛ければより高価で売却できる物件であったにもかかわらず,性急に破格の安値で売却した村長Eの措置は,村の財政を悪化させ,村の財産を無駄遣いするものであり,また,このような財産の処分のために必要な議会の議決を欠くことのほか,本件土地の売買は村関係者の身内に便宜を図るものであり,売却の方式や相手方の選定に関して公正を欠くことを主張した。しかしA村の監査委員は,B及びCの請求には理由がないと判断し,その旨を同年4月23日にB及びCに通知した。そこでB及びCは,Eによる本件土地の売買契約の締結によって,A村が売却価格と時価との差額分(約3200万円)の損害を被ったとして,Eに損害賠償を求めるための住民訴訟を提起しようとしている。このうちCは,同年5月1日にA村から転出しており,現在は他の市に住んでいる。また,村民Dは,住民監査請求を行っていないが,B及びCが提起を検討している住民訴訟に原告として加わろうとしている。
 他方,A村議会の議員の一部は,Eは,平成19年に村長に就任して以来,厳しい環境の中でA村の財政再建に貢献してきた功労者であるし,必ずしも裕福ではないことから,村がEに損害賠償を請求するのは適切でないと主張して,B,C及びDの3名(以下「Bら」という。)の動きに反発している。これらの議員は,Bらの請求を認容する一審判決が出された場合には,控訴した上で,Eに対する村の損害賠償請求権を放棄する議会の議決を行うことを検討し始めている。A村はこれまで行政訴訟を提起された経験がないことから,Eは,急きょ,そうした訟務に詳しい顧問弁護士Fと同村の総務課職員G,H及びIとで,対応策を検討する会議(以下「検討会議」という。)を平成22年5月6日に開催することとした。検討会議の中では,職員から様々な疑問,質問,課題が提示されたため,弁護士Fが,その整理・検討を任されることとなった。
 【資料1 検討会議の会議録】を読んだ上で,弁護士Fの立場に立って,以下の設問に答えなさい。
 なお,地方自治法施行令の抜粋を【資料2 関係法令】に,また関連する裁判例を【資料3 議会による請求権放棄に関する裁判例】に,それぞれ掲げるので,適宜参照しなさい。

 

〔設問1〕
 Bらが提起することが予想される住民訴訟を具体的に示して,これをBらが適法に提起できるかどうかについて検討しなさい。

 

〔設問2〕
 Bらによる住民訴訟が適法とされる場合には,Eが本件土地の売買契約を締結したことの適法性が争点になると考えられる。この契約締結の適法性について,詳細に検討しなさい。

 

〔設問3〕
 Bらの請求を認容する一審判決が出されて,A村議会が請求権を放棄する議決を行う場合を想定して,以下の小問に答えなさい。
⑴ 【資料3】に挙げた二つの判決の間で,地方議会による請求権放棄の議決の適法性に関して考え方が分かれた点を説明しなさい。
⑵ その上で,これらの判決の考え方をそれぞれ当てはめた場合,本件で村議会議員が検討している請求権放棄の議決の適法性についてはどのように判断されることになるか検討して,自らの意見を述べなさい。

 

【資料1 検討会議の会議録】
総務課長G:我が村は本当に小さな所で,これまで村を相手に村民が行政訴訟を起こした例など全くありませんでした。今回のBらの動きは驚きなのですが,聞くところでは,Bらは弁護士にも相談しながら訴訟の準備を進めているようですので,村としても,対応方針を立てておく必要があります。今日は,行政訴訟に通じた顧問弁護士のF先生にも出席いただきました。初回の会合ですので,この際,疑問に思っている点を率直に出してください。

職 員 H:村の行った売買に,それとは関係のないBらが裁判を起こすことなんてできないと考えていました。Bらは売買で損をしたわけでもないし,一体どういった権利や利益を根拠にして訴えを起こすつもりなのでしょうか。聞くところでは,住民訴訟という特別の制度があるようですが,それであれば利用できるのですか。

職 員 I:住民訴訟という特別の制度があるとしても,だれでも無条件に住民訴訟を起こせるわけではないですよね。今回のBらは適法に住民訴訟を起こせるのですか。

職 員 H:BやCの行った監査請求では,違法な契約によって村の土地がたたき売りされて,村が損をした点を問題にしているようですね。住民訴訟ではBらは4号請求で行く意向だといううわさです。

総務課長G:それは,地方自治法第242条の2第1項各号に挙げられた4つの請求のうち,第4号に規定された請求をするという意味ですね。F先生の方で,Bらが今回の売却に対して,どういった訴えを起こしてくるのか,4号請求の具体的な内容を示してもらえると参考になります。その上で,Bらが提起する訴えが適法かを,B,C及びDのそれぞれについて検討していただけますか。

弁護士F:分かりました。それでは,Bらが提起するであろう訴訟について,その具体的内容と適法性を記したペーパーを,早速用意いたします。

総務課長G:よろしくお願いします。次に,裁判になったとして,本件土地の売却のいかなる点が違法になるのか,この点の議論に移りたいと思います。本件土地の時価をどのように計算するかという問題もありますが,村としては,適正な対価を得て本件土地を売却したと考えています。ですから,契約の締結には議会の議決は不要であるという立場です。しかし,この点について,Bらは争っていますので,F先生に御検討をお願いしたいと思います。

弁護士F:議会の議決というのは,地方自治法第96条第1項第6号,第237条第2項に規定された議決のことですね。このほか,第96条第1項第5号も議決を定めていますが,これは請負契約を念頭に置いた規定ですから,本件では考えなくてもよいでしょう。また,第8号の議決の要否については,Bらは今の段階では問題にしていませんので,差し当たり検討の対象から除くことにします。

総務課長G:これ以外に,契約締結の適法性に関して,遠慮なく,疑問点を出してください。

職 員 H:入札手続を採らなかった点など,契約の手続や内容に様々な違法があるとBらは攻撃していますが,村としてはそのようには考えていません。週刊誌には,契約が不透明だと書かれたのですが,一体何が問題なのですか。

職 員 I:職員や議員の中では,過疎に悩む本村で採り得る政策として,やっとのことで買手を見付けて本件土地を売却したのは当然のことではないかとか,現に税収面でも貢献しているではないかという意見が圧倒的です。この売却の何が違法と言われるのか,理解に苦しむところです。

職 員 H:先日来,総務課でも,地方自治法第234条や同条第2項に基づく政令を検討し始めたのですが,今回の事案にどのように関連するのか,うまくまとめ切れていません。村がどのような手続によって,どのような内容の契約を締結するかは,当然に村長の裁量で決められると思うのですが。

総務課長G:契約締結の適法性に関する問題,特にH君が挙げていた条文の解釈が,最も重要な課題になりそうですね。まず,これらの法律や政令の規定のうち本件にかかわるものの趣旨を御説明いただけませんか。その上で,Bらが,本件土地の売買契約の締結のどういった点を違法だと主張してくるか,また,村の側では,契約締結を適法というためにどのような主張をすることが考えられるか,F先生の方で具体的に検討いただき,契約締結の適法性に関するF先生の御意見をお聞かせいただけますと助かります。契約締結の適法性は,何といっても村の職員にとって最も関心がある点ですので,できるだけ包括的に検討していただけませんか。

弁護士F:それでは,御質問の点について,次回の会合までに,ここは入念に整理しておくこととします。

総務課長G:お願いいたします。それと,先日もお話ししましたが,議員の間では,Bらの動きに反発する意見が強いのです。週刊誌でたたかれた点が影響しているのかもしれません。

職 員 H:ベテラン議員の中には,どこかの会合で聞いてきたようなのですが,Bらが村長の損害賠償責任を裁判に訴えたとしても,さらに,それを認める判決が出されたとしても,控訴した上で,村の損害賠償請求権を放棄する議決を議会が行えば大丈夫だといった意見を説く者もいます。こうした主張が日増しに強くなっている状況です。議会は,こうした議決を適法に行うことが可能なのですか。この点は,議会事務局も心配しています。

職 員 I:議決というのは,地方自治法第96条第1項に規定されている議決のことですか。

弁 護 士 F:ええ,その第10号ですね。地方議会による請求権放棄に関しては,これまで出された裁判例で,判断が分かれています。手元にある二つの判決【資料3】が,その例です。

総務課長G:村の請求権がどのような手続によって消滅するのかといった点も,議論する必要がありそうですが,今の段階では差し当たり,請求権を放棄する内容の議決を議会は適法に行うことができるのか,という点に絞って検討したいと思います。

職 員 H:それぞれの判決がよって立つ考え方の違いを整理していただけないでしょうか。特に,判決の中で「住民訴訟の制度が設けられた趣旨」といわれているのですが,住民訴訟の制度趣旨と議会による請求権放棄とは,どのように関連するのですか。

職 員 I:私が関心がありますのは,お話のあった二つの判決を本件の事案に当てはめた場合に,どういった判断が予想されるのかという点です。

総務課長G:いろいろと要望や質問が出ましたが,議決の適法性の問題に関しては,本村の議員にも説明する必要があると考えています。H君とI君も申しておりましたが,二つの判決がそれぞれどのような考え方に立っているのか,そしてそれぞれの判決によれば,今回の案件がどのように判断されるか,住民訴訟制度の趣旨を踏まえて分かりやすく整理していただき,本村議会の議員が検討している請求権放棄の議決の適法性について,F先生の御意見をお聞かせいただけませんか。

弁護士F:了解しました。早速,両判決の分析を進めまして,課題について検討結果を送らせていただきます。

総務課長G:お願いばかりで恐縮ですが,よろしくお願いいたします。他に質問がなければ,本日の会議は終了といたします。

 

【資料2 関係法令】
○ 地方自治法施行令(昭和22年5月3日政令第16号)(抜粋)
(指名競争入札)
第167条 地方自治法第234条第2項の規定により指名競争入札によることができる場合は,次の各号に掲げる場合とする。
一 工事又は製造の請負,物件の売買その他の契約でその性質又は目的が一般競争入札に適しないものをするとき。
二 その性質又は目的により競争に加わるべき者の数が一般競争入札に付する必要がないと認められる程度に少数である契約をするとき。
三 一般競争入札に付することが不利と認められるとき。
(随意契約)
第167条の2 地方自治法第234条第2項の規定により随意契約によることができる場合は,次に掲げる場合とする。
一 売買,貸借,請負その他の契約でその予定価格(貸借の契約にあつては,予定賃貸借料の年額又は総額)が別表第五上欄(注:左欄)に掲げる契約の種類に応じ同表下欄(注:右欄)に定める額の範囲内において普通地方公共団体の規則で定める額を超えないものをするとき。
二 不動産の買入れ又は借入れ,普通地方公共団体が必要とする物品の製造,修理,加工又は納入に使用させるため必要な物品の売払いその他の契約でその性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき。
三,四 (略)
五 緊急の必要により競争入札に付することができないとき。
六 競争入札に付することが不利と認められるとき。
七 時価に比して著しく有利な価格で契約を締結することができる見込みのあるとき。
八 競争入札に付し入札者がないとき,又は再度の入札に付し落札者がないとき。
九 落札者が契約を締結しないとき。
2 前項第8号の規定により随意契約による場合は,契約保証金及び履行期限を除くほか,最初競争入札に付するときに定めた予定価格その他の条件を変更することができない。
3 第1項第9号の規定により随意契約による場合は,落札金額の制限内でこれを行うものとし,かつ,履行期限を除くほか,最初競争入札に付するときに定めた条件を変更することができない。
4 前二項の場合においては,予定価格又は落札金額を分割して計算することができるときに限り,当該価格又は金額の制限内で数人に分割して契約を締結することができる。
(せり売り)
第167条の3 地方自治法第234条第2項の規定によりせり売りによることができる場合は,動産の売払いで当該契約の性質がせり売りに適しているものをする場合とする。
別表第五(第167条の2関係)
一 工事又は製造の請負 都道府県及び指定都市 250万円
市町村(指定都市を除く。以下この表において同じ。)
130万円
二 財産の買入れ 都道府県及び指定都市 160万円
市町村 80万円
三 物件の借入れ 都道府県及び指定都市 80万円
市町村 40万円
四 財産の売払い 都道府県及び指定都市 50万円
市町村 30万円
五 物件の貸付け 30万円
六 前各号に掲げるもの以外 都道府県及び指定都市 100万円
のもの 市町村 50万円

 

【資料3 議会による請求権放棄に関する裁判例】
○ 適法とする判決:東京高等裁判所平成18年7月20日判決(抜粋)
 「住民訴訟が提起されたからといって,住民の代表である地方公共団体の議会がその本来の権限に基づいて住民訴訟における個別的な請求に反した議決に出ることまで妨げられるべきものではない。本件は,(略)損害賠償請求権(注:長に対する地方公共団体の損害賠償請求権)の発生原因のいかんによって放棄の可否を定めた法令はなく,その放棄の可否は,住民の代表である議会が,損害賠償請求権の発生原因,賠償額,債務者の状況,放棄することによる影響・効果等を総合考慮した上で行う良識ある合理的判断にゆだねられているというほかないのであって,(略)甲町の住民の代表で構成される甲町議会は,本件議案について質疑,討論を行い,民主主義の原則にのっとり,多数決で本件損害賠償請求権を放棄する旨議決したのであるから,本件議決によって本件損害賠償請求権は消滅しており,そのことによって『法治主義に反する状態が続く』ことになるものでもない。」

○ 違法とする判決:大阪高等裁判所平成21年11月27日判決(抜粋)
 「控訴人(注:乙市長)は,地自法(注:地方自治法)96条1項10号により,権利の放棄が議会の議決事項とされている以上,乙市議会がした本件権利の放棄の議決は当然有効であると主張する。しかし,(略)①(略),②控訴人は上記財務会計行為(注:乙市による乙市の外郭団体(以下「本件各団体」という。)への補助金等の支出)は適法であるとして争っていたところ,原審は,上記財務会計行為の一部は違法であると認定し,乙市の本件各団体に対する不当利得返還請求権,乙市長に対する損害賠償請求権をそれぞれ一部認めたこと(本件権利),③控訴人は,この判決に対して控訴し,控訴審において引き続き上記財務会計上の行為は適法であると主張して争ったところ,当裁判所は平成21年1月21日弁論を終結し,判決言渡期日を同年3月18日と指定したこと,④控訴人は,平成21年2月20日,本件権利の放棄を含む(略)条例を提出し,議会は後記のと
おり合理的な理由もないまま本件権利を放棄する旨の決議をなしたこと,⑤控訴人は,平成21年3月4日,弁論再開の申立てをし,当裁判所は,同月11日弁論を再開する旨の決定をしたこと,⑥本件権利は,乙市の執行機関(市長)が行った違法な財務会計上の行為によって乙市が取得した
多額の不当利得返還請求権ないし損害賠償請求権であり,この権利の放棄が乙市の財政に与える影響は極めて大きいと考えられること,⑦議会は,上記権利を放棄する旨の決議をした際,本件と同種の事案(略)等についても,不当利得返還請求権及び損害賠償請求権をいずれも放棄する旨の決議をしたこと,⑧本件権利及び上記⑦の権利を放棄するについて,請求を受けることとなる者の資力等の個別的・具体的な事情について検討された形跡は窺えないことが認められる。
 (略)住民訴訟の制度が設けられた趣旨,一審で控訴人が敗訴し,これに対する控訴審の判決が予定されていた直前に本件権利の放棄がなされたこと,本件権利の内容・認容額,同種の事件を含めて不当利得返還請求権及び損害賠償請求権を放棄する旨の決議の乙市の財政に対する影響の大きさ,議会が本件権利を放棄する旨の決議をする合理的な理由はなく,放棄の相手方の個別的・具体的な事情の検討もなされていないこと等の事情に照らせば,本件権利を放棄する議会の決議は,地方公共団体の執行機関(市長)が行った違法な財務会計上の行為を放置し,損害の回復を含め,その是正の機会を放棄するに等しく,また,本件住民訴訟を無に帰せしめるものであって,地自法に定める住民訴訟の制度を根底から否定するものといわざるを得ず,上記議会の本件権利を放棄する旨の決議は,議決権の濫用に当たり,その効力を有しないものというべきである。」

 

練習答案

[設問1]
 Bらが提起することが予想される住民訴訟は行政事件訴訟法(以下「行訴法」とする)5条の民衆訴訟であって、自己の法律上の利益にかかわらない資格で提起するものである。これは法律に定める場合において、法律に定める者に限り、提起することができる(行訴法42条)。その法律がここでは地方自治法(以下「地自法」とする)242条の2第1項4号であるので、これに従ってBらが適法に本件訴訟を提起できるか検討する。
 地自法242条の2第1項には「普通地方公共団体の住民は」とあるので、現在A村の住民ではないCの原告適格は否定される。また、「前条第1項の規定による請求をした場合において」とあるので、その請求(住民監査請求)をしていないDの原告適格も否定される。自己の法律上の利益にかかわらない訴訟を特別に法定したものなので、その原告適格は法律に従って厳格に判断しなければならない。
 Bについてはこれら2つの要件を満たし、かつ監査委員の監査の結果に不服があるので、同項4号の請求をすることができる。その4号請求は、本件土地の売買契約の締結によってA村が被った損害の賠償をA村長Eに対して請求するというものである。
 以上よりBは本件訴訟を適法に提起できるが、C及びBは適法に提起できない。

 

[設問2]
第1 本件土地の売買に関して議会の議決がないことの適法性
 地自法238条の4第1項の規定の適用がある場合を除き、普通地方公共団体の財産は、条例又は議会の議決による場合でなければ、適正な対価なくしてこれを譲渡してはならない(地自法237条2項、96条1項6号)。
 本件は地自法238条の4第1項の規定の適用がある場合ではなく、条例も議会の議決もないので、適正な対価があったかどうかが適法性の判断の分れ目になる。
 ここでの適正な対価とは、時価と完全に一致しなければならないものではなく、社会通念上およそ適正な対価であればよい。時価を少しでも下回れば議会の議決が必要だということになれば手続があまりにも繁雑になってしまい、普通地方公共団体の運営に支障をきたしてしまいかねない。
 本件では時価総額が8000万円のところを4800万円という6割の水準で売却する契約が締結されているが、以前に時価での売却ができなかったという事情も考慮すると、社会通念上適正な対価があったと言える。
 以上より議会の議決がなくても適法である。
第2 契約締結方法の適法性
 売買契約は、一般競争入札、指名競争入札、随意契約、又はせり売りの方法により締結するものとされる(地自法234条1項)が、指名競争入札、随意契約又はせり売りは、政令で定める場合に該当するときに限り、これによることができる(地自法234条2項)。これは一般競争入札を原則とすることで公正に普通地方公共団体にとって最も有利な金額で契約を締結するのがよいという趣旨である。だからその政令である地方自治法施行令167条の2第1項6号に、競争入札に付することが不利と認められるときという規定があるのである。
 本件土地の売買契約は随意契約によって行われているが、競争入札に付すと入札がほとんどないことが予想され、そうして売却できないと随意契約で時価を多少下回って売却するよりも不利になるので、随意契約によることが許される(地方自治法施行令167条の2第1項、地自法234条2項)。
 以上より本件の契約締結方法は適法である。

 

[設問3]
 (1)
 民主主義の原則から、地方議会による請求権放棄の議決は基本的に適法である。しかし損害賠償請求権の発生原因、賠償額、債務者の状況、放棄することによる影響・効果等を総合考慮して、場合によっては住民訴訟の制度を根底から否定するような議決権の濫用として無効になることもある。
 この枠組みで、違法とする判決(大阪高等裁判所平成21年11月27日判決)では、住民訴訟が確定して損害賠償請求権がまさに確定されようとしているときに、多額の賠償を、債務者の事情も検討せずに、同種の事件を含めて放棄するという極めて影響の大きい議決をしたということで、無効という結論になっている。
 (2)
 本件ではまだ住民訴訟が提起されていない段階である。賠償額も最大で3200万円であり村民1人当たり1万円強でそこまで多額とも言えない。債務者である村長Eは過疎に悩まされる中でやむを得ず本件土地の売買契約を締結したという事情もある。本件で村議会議員が検討している請求権放棄の議決は今回限りのものであり、他に望ましくない影響が波及するということも考えられない。
 以上より、これらを総合考慮した議会の議決は民主主義の原則から尊重されるので、有効である。

以上

 

修正答案

[設問1]
 Bらが提起することが予想される住民訴訟は行政事件訴訟法(以下「行訴法」とする)5条の民衆訴訟であって、自己の法律上の利益にかかわらない資格で提起するものである。これは法律に定める場合において、法律に定める者に限り、提起することができる(行訴法42条)。その法律がここでは地方自治法(以下「地自法」とする)242条の2第1項4号であるので、これに従ってBらが適法に本件訴訟を提起できるか検討する。
 地自法242条の2第1項柱書には「普通地方公共団体の住民は」とあるので、現在A村の住民ではないCの原告適格は否定される。また、「前条第1項の規定による請求をした場合において」とあるので、その請求(住民監査請求)をしていないDの原告適格も否定される。自己の法律上の利益にかかわらない訴訟を特別に法定したものなので、その原告適格は法律に従って厳格に判断しなければならない。
 Bについてはこれら2つの要件を満たし、かつ監査委員の監査の結果に不服があるので、同項4号の請求をすることができる。その4号請求は、本件土地の売買契約の締結によってA村が被った損害の賠償を個人であるEに対して請求するように執行機関であるA村長Eに求めるというものである。なお、この住民訴訟の提起は、監査の結果の通知があった日から30日以内、つまり平成22年5月23日までにしなければならない(地自法242条の2第2項1号)。
 以上よりBは本件訴訟を適法に提起できるが、C及びBは適法に提起できない。

 

[設問2]
第1 本件土地の売買に関して議会の議決がないことの適法性
 地自法238条の4第1項の規定の適用がある場合を除き、普通地方公共団体の財産は、条例又は議会の議決による場合でなければ、適正な対価なくしてこれを譲渡してはならない(地自法237条2項、96条1項6号)。
 本件は地自法238条の4第1項の規定の適用がある場合ではなく、条例も議会の議決もないので、適正な対価があったかどうかが適法性の判断の分れ目になる。
 ここでの適正な対価とは、時価と完全に一致しなければならないものではなく、社会通念上およそ適正な対価であればよい。時価を少しでも下回れば議会の議決が必要だということになれば手続があまりにも繁雑になってしまい、普通地方公共団体の運営に支障をきたしてしまいかねない。
 本件では時価総額が8000万円のところを4800万円という6割の水準で売却する契約が締結されているが、以前に時価での売却ができなかったという事情も考慮すると、社会通念上適正な対価があったと言える。
 以上より議会の議決がなくても適法である。
第2 契約締結方法の適法性
 売買契約は、一般競争入札、指名競争入札、随意契約、又はせり売りの方法により締結するものとされる(地自法234条1項)が、指名競争入札、随意契約又はせり売りは、政令で定める場合に該当するときに限り、これによることができる(地自法234条2項)。その政令である地方自治法施行令167条の2第1項2号にはその性質又は目的が競争入札に適しないものをするときという規定があり、同6号には競争入札に付することが不利と認められるときという規定がある。地自法でこのように定められているのは、性質や目的上可能な場合は一般競争入札を原則とすることで公正に普通地方公共団体にとって最も有利な金額で契約を締結するのがよいという趣旨である。
 本件土地の売買契約は随意契約によって行われている。その結果A村の部長の弟や売却担当部局職員の妻が購入者の中に含まれていて公正さを疑わしめるし、売却価格の総額も4800万円と時価総額の6割の水準にとどまっている。しかし、財政が厳しくて収入を得る必要性が高いところ、競争入札に付すと入札がほとんどないことが予想され、そうして売却できないと随意契約で時価を多少下回って売却するよりも不利になるので、随意契約によることが許される(地方自治法施行令167条の2第1項6号)。また、人口減少対策・過疎対策という目的も併せ持っているので、本件土地を誰かに買ってもらってそこに住んでもらうことに意義があり、競争入札に適しないとも言える(地方自治法施行令167条の2第1項2号)。人口が2400人規模の村なので、職員の親族などが購入者の中にいても不思議ではない。成約価格が最も高い区画で560万円、最も安い区画で400万円とそれほど大きな差はないので、職員の親族が顕著に優遇されているということもない。
 以上より本件の契約締結方法は適法である。

 

[設問3]
 (1)
 民主主義の原則から、地方議会による請求権放棄の議決は基本的に適法である。地自法96条1項10号で権利の放棄を議決することが規定されており、住民訴訟によって確定された権利は除くといった規定はないということも、請求権放棄の議決を適法にできるという見解を補強する。しかし損害賠償請求権の発生原因、賠償額、債務者の状況、放棄することによる影響・効果等を総合考慮して、場合によっては住民訴訟の制度を根底から否定するような議決権の濫用として無効になることもある。住民訴訟制度の趣旨は、普通地方公共団体の違法を有志の住民が直接是正することにあるが、その訴訟の経過なども踏まえて議会が熟慮して議決したことは、民主主義の原則から尊重されるということである(司法は立法に対して謙抑的であるべきだということである)。
 この枠組みで、違法とする判決(大阪高等裁判所平成21年11月27日判決)では、住民訴訟が確定して損害賠償請求権がまさに確定されようとしているときに、多額の賠償を、債務者の事情も検討せずに、同種の事件を含めて放棄するという極めて影響の大きい議決をしたということで、無効という結論になっている。
 (2)
 本件では請求権放棄の議決を一審敗訴後に控訴してから行うにしても、まだ住民訴訟が提起されていない段階から熟慮が重ねられている。賠償額も最大で3200万円であり村民1人当たり1万円強でそこまで多額とも言えない。債務者である村長Eは過疎に悩まされる中でやむを得ず本件土地の売買契約を締結したという事情もある。本件で村議会議員が検討している請求権放棄の議決は今回限りのものであり、他に望ましくない影響が波及するということも考えられない。
 以上より、これらを総合考慮した議会の議決は民主主義の原則から尊重されるので、有効である。

以上

 

 

感想

判例知識よりも現場での思考力を問う問題だったのである程度はできたと思っています。[設問1]では出訴期間を書き落としていました。行政法では特に期間を意識したいです。[設問2]は練習ではほぼ村側の記述しかできなかったので、B側の主張を盛り込めば記述に厚みが増したと反省しています。[設問3]素直に国語力で解きましたが、それでよいのか少し不安です。

 

 




top