浅野直樹の学習日記

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高校から大学受験(京大)までの学習記録

中学校から高校受験(茨木高校、洛南高校)までの学習記録から、高校入学以後、大学受験(京大)までの記録です。

 

高1――いろいろなショック

高校に入ってすぐにカルチャーショックを受けました。休み時間にみな行儀よく座っているのです。出身中学では休み時間はおろか授業中でも立ち歩く人が珍しくなかったので、これはショックでした。

 

塾つながりで既に関係性がある程度できていたのもびっくりしました。塾に行っていなかったのは学年でも私だけだったかもしれないほどです。

 

これは先入観のせいかもしれませんが、どことなく嫌な感じの人が多かった印象があります。自己中心的だが頭は回るので言い訳などはうまいといったような印象です。その代わり殴る蹴るといった物理的な暴力はほとんど見られなかったように記憶しています。

 

学習面でもそれなりの衝撃はありました。初めての定期テストで数学が70点くらいしか取れなかったのです。といっても平均点が3、40点台のテストだったので、クラスメイトからはできるという目で見られました。実力テストでは平均して100点中の40点くらいしか取れなくてさすがにへこみましたが、これでも学年1ケタの順位だと後で知りました。それまでは何となくバカにされているように感じていたのが、テストで相対的によい成績を取っていることが知れると見る目が変わったことのほうが印象深かったです。

 

その難しい数学のテストを作った先生は教科書を一切使わず自作の体系的なノートで授業をして、遅刻したり宿題を忘れたりした生徒を立たせるような先生で恐れられていましたが、その独特の説明は今でもよく覚えています。ほかにも「水はスペシャルなんです」が口癖の化学の先生や、いかにも平安時代が大好きそうな古文の先生など、教え方もさることながら、その情熱に感銘を受けました。

 

高2――迷いのない選択

高2になるときにいくつかの選択科目があって、理科で地学を選ぶと自動的に文系になるという仕組みになっていたところで、地学を選びました。適性は理系のようでしたが、社会的な興味がはっきりしていたので、文系コースになることにためらいはありませんでした。数学はさらに磨きをかけたかったので、基礎から丁寧にする少人数クラスを選びました。そのクラスは数学が苦手な人向けだったようで、それでよいのかと何度も先生から確認されましたが、基礎からしっかりとやりたいということで意思を貫きました。どちらの選択もいい判断だったと思います。

 

ある時の数学の定期テストで、普通のベクトルの問題と、公開鍵暗号の問題とを選択できたことがあり、興味本位で後者を選んだということを覚えています。楽しみつつ苦労もしつつ90点くらい取れました。これもまたいい選択でしたし、後で普通のベクトルの問題も解き直したのも我ながら立派だと思います。

 

さて、高2のときの同じクラスには学年一成績がよいと評判の人がいました。現役で京大理学部に行って司法試験にも合格した人です。確かにその人はよくできましたが、勉強のためにいろいろなものを犠牲にしているのではないかと思わされるような人でした。その点私は総合的な成績では負けていたでしょうが、勉強のために何も犠牲にはしませんでした。

 

陸上部に打ち込んでいたことはいい思い出です。地区予選も突破できないような選手でしたが、全力で打ち込んだので悔いはないです。陸上を通じて学んだ、己を知るということや、試合当日にピークを合わせるといったことは、勉強や試験でも大いに生きています。人間関係なども含めて青春ですね。

 

 

高3――何も知らないまま京大入試に向けて勉強

自分の中では高校を卒業したら働くものだという感覚があったのですが、99%以上進学する環境でしたし、先生に相談したら政治家など社会を変えるような仕事をしたいのであれば大学に行ったほうがよいと言われたので、大学に進学することまではすんなりと決まりました。

 

そこからさてどうしようかと考えました。経済的な理由から国公立大学しか考えられず、距離と雰囲気から京都大学がいいかなと思いました。学部は社会や政治に興味を持ちつつ、心理学にもかなり関心が出てきていたので、総合人間学部がよいのではないかと思いました。高3になっても相変わらず塾へ通わず、通信教育もやらずだったので、それが適切な志望なのかどうかは全くわかりませんでした。

 

高校受験のときと同様に、夏までは学校の教材でひたすら復習をしました。しかし中学のときとは違って、手応えを得ることはできませんでした。

 

数学は定理や公式を理解できた(暗記ではなく論理的に証明できた)のですが、入試問題のパターンなどは把握できていませんでした。英語は文法事項などは何となく聞いたことがある状態でしたが、理解が甘く、語彙力が不足していました。国語は古文の助動詞あたりは意識できていましたが、漢文に句形というものがあるという発想すらありませんでした。社会は地理、世界史、現社を入試で使う予定でしたが、どれも練習量が圧倒的に不足していました。理科は地学でセンター試験だけだったので、一番ましだったと思います。受験業界に身を置く今となればこのような分析もできますが、当時は何をすればよいのかわかっていませんでした。

 

というより受験勉強をするということを体感的にわかっておらず、図書館で心理学関係の本を借りて読んだりすることのほうが多かったです。京大の入試形式からすればこれが結果オーライになるのですが、入試形式などつゆ知らず興味の赴くままに本を読んでいました。陸上部も高3の冬休みまで続けました。

 

受験対策らしきことは模試を数回受けたくらいです。それも数千円を払うのが惜しくて受けるかどうか迷った挙句に、何となく受けることを決めたものです。マーク模試と記述模試、大学別模試の区別さえついていないような状況です。それでもD判定やE判定が多い中にB判定も見たことがあるので、それなりの実力はあったのでしょう。

 

冬休みからは学校で借りられたお下がりの赤本で練習を積みました。センター試験は10年分近く時間を計って解きましたし、京大の二次試験の過去問と京大模試を集めた問題集もだいたい解きました。国語では解答欄の大きさを計って再現して、それを適度に埋めることまでしました。習うより慣れろです。

 

センター試験――1日目に調子に乗って、2日目にこける

1日目は英語、地理、数学という時間割でした。雪がうっすら積もっている山のほうの大学へ受験しに行ったことをよく覚えています。

 

当時の総合人間学部(文系)ではセンター英語が足切りにしかカウントされなかったので、英語は気楽に受けました。過去問でもそうでしたが、長文問題はパーフェクトペースで進んで発音や文法はけっこう間違えるという形でした。地理はたまたま知っている問題を多く引いたのか、かなりの手応えがありました。

 

次は数学です。当時のセンター数学1Aは数列、平面幾何、コンピュータの中から1つ選択するという形式でした。大多数の人は数列を選ぶのですが、それだと時間が厳しいので、私はコンピュータを選ぶという秘策を温めていました。誰に教わったわけでもありません。まず入試要項のどこを見てもコンピュータが禁じられているとは書いていないことを確認し、自分で問題を見て、理解し、過去問で試して実行可能だと感じていました。本番では予定通りにコンピュータを選びました。当時の数学2Bはベクトル、複素数、確率分布、コンピュータの4つから2つを選びます。確率は大の得意だったので当然選ぶとして、もう1つはコンピュータを軸にしていました。本番ではコンピュータが少し考えてもわからなかったので、その場の判断で解きやすそうなベクトルを選びました。

 

当日の夜か翌日の朝に自己採点をすると、英語が166、地理が91、数学1Aが100、数学2Bが100だったので、これはいけると思いました。後から振り返るとその油断がいけませんでした。

 

2日目は国語、地学、現代社会です。国語は大問1の評論はめったに間違わなかったので本番でも慎重に解きました。小説、古文、漢文は過去問でもできるときはできる、できないときはできないと不安定でした。そして手応えもよくわかりません。地学は範囲が狭かったので満点を狙いたいところでしたが、2,3問怪しかったです。現代社会は社会の予備用科目で、1日目の地理の91点を超えられる可能性は低かったので、念のために受けただけです。

 

2日目の結果がひどいもので、国語が148、地学が94、現代社会が80でした。現代社会を抜いて699/800、実際の入試換算得点は社会と理科が2分の1、数学と国語が4分の1換算だったので、179/200でした。1日目のプラスを2日目で使ってしまった感じで、ボーダーのほんの少しだけ上でした。

 

二次試験――実力を最大限に発揮する

京大の入試ではセンター試験よりも二次試験の割合がかなり高いので、二次試験が実質的な勝負です。

 

国語は現代文、擬古文、古文の3題で、ひたすら記述式の問題でした。本文を読んで理解し、設問にできるだけ丁寧に答えました。科目の性質上、どういう点数になるのか予想しづらいものですが、誠意は伝えられたと思います。

 

数学は大きな問題が5つあるというシンプルなものです。2問を完答してもう1問もほぼ解いて、残りも精一杯の記述はしたので、文系数学としては上出来です。

 

英語は和訳と英訳というシンプルな形式です。英文というよりも背景知識から内容がだいたいわかったので、大きな間違いはしなかったと思います。

 

世界史は300字の論述が2題あり、残りは語句などを答える問題でした。個人的には知識不足のためにこの4科目の中では最も苦手としていましたが、自分の中ではましなほうだったという手応えを覚えています。

 

実力を出し切った感触はありました。

 

後日談

これで無理なら後期試験を受ける、それでもダメならもう一年やるつもりでした。浪人するとなればアルバイトをしながら宅浪することしか考えられませんでした。アルバイトをしながらどこまで勉強できただろうかと考えると、今でもヒヤヒヤします。

 

無事に合格できて本当によかったです。後で成績開示をしたら、そこそこ上位だったようです。

 

2015年04月02日21時08分22秒

 

出身高校では合格体験記を募集していたので張り切って原稿を書いたら何とボツになりました。「世の中には経済的な事情などで勉強できない人がたくさんいる、勉強したくなければしなければよいではないか」といった内容だったせいでしょうか。それが本音でしたし、今でも基本的な部分で考えは変わっていません。

 

 



中学校から高校受験(茨木高校、洛南高校)までの学習記録

(狭い意味での勉強法や受験に関する事柄は最後の節にあります)

 

中学入学以前の学習記録からいよいよ中学入学、そして高校受験(茨木高校、洛南高校)までを振り返ります。中学受験をした人は学年に一人いるかどうかといった程度だったので、当然のこととして地域の公立中学校に進みました。

 

中1――最大の転機、退塾事件

小学校の勉強にはついていけていたので、中学校に入ってもそれほど戸惑いませんでした。最初の定期テストも平均80点くらいあったと思います。

 

一つ戸惑ったのが英語で、私は初めて習うのに、塾で先取りをしている人もけっこういて、苦手意識を持ってしまいました。youとyourの違いがよくわからなかったことを今でも覚えています。

 

中1の中頃には私の学習人生において最大の転機が訪れます。それは塾を辞めたことです。

 

中学に入学する頃に友人から誘われてある進学塾に入りました。よくできたほうではあったのですが、その塾の競争を煽るような雰囲気に違和感を覚えました。偏差値の高い高校に進学することを当然のごとく目標にして、テストの成績上位者の名前を壁に貼り出すようなところだったのです。他方で中学校の友人のかなりの部分は勉強よりも友人関係の義理などを重視する価値観を持っていました。定期テストの勉強をするという理由で遊びの誘いを断るなどという発想はありませんでした。私もこうした価値観を身に付けていたので、塾に違和感を覚えたのでしょう。

 

塾ではあからさまに反抗的な態度を取っていたので、ある日とうとう退塾を迫る電話が家にかかってきました。また、ほぼ同時期に、上記の価値観から学歴主義に反発して、学校の定期テストでわざと悪い点数を取るということもしました。そして親からは頭ごなしに怒られました。

 

この時期にかなり悩んだ結果、およそ次のような解決を図りました。自分のためだけの勉強はせず他の人のためになるような勉強をすることと、塾には行かずに今まで以上の学力をつけることです。それからは覚悟を決めて勉強に取り組み、定期テストの予想問題をクラスで配ったり友人の質問に答えたりし始めました。この決意をしてから最初の定期テストでは英語で100点を取り、全科目で平均しても95点くらいありました。

 

勉強を放棄するのではなくこのような解決に向かったのは、勉強そのものは好きだったことと、自分は勉強で身を立てるのだという意識があったからだと思います。理不尽なことに対抗するためにも力をつけなければならないということもありました。

 

中2――社会性の目覚め

自分の中での転機を迎えることで、社会への関心も目覚めてきました。新聞をよく読むようになり、図書館でも政治関係の本をたくさん借りました。家には本がほとんどいような環境ではありましたが、新聞と公共図書館が利用可能だったのは幸いでした。

 

こうした意識から学校では生徒会長になりました。特に何かの業績を残したわけではありませんでしたが、朝礼などで話す際には当たり障りのない原稿を読むのではなく、メモは見ずに自分の言葉で語ることを心がけました。

 

図書館では政治関係の本とともに、ギャンブル関係の本をよく借りました。ダビスタというゲームの影響もあって競馬にはまりました。必勝法を求めて、本に書かれた方法を一つずつ自分の手で検証していました。どれ一つとして検証に耐え得る方法はありませんでしたが。

 

高い意識を保っていたので、学校の定期テストの平均点は90点以上ありました。

 

中3――進路の迷い

高校進学を考える段になると進路に迷いました。同級生の多くが進学する地元の公立高校と遠く離れた進学校との間でです。中1の転機を乗り切った考え方からすれば前者を選びたかったのですが、親の圧力もあり結局は後者を選びました。

 

実はこれが根深い問題で、学校の先生方の間でもどちらがよいか意見が分かれるところだったことでしょう。キーワードで言うと「地元集中」か「偏差値」かです。高校にはいろいろな学力生徒がいたほうがよいのか、それとも学力別に高校を編成したほうがよいのかという問題です。私のときは学校の先生からどちらかに強制や誘導されることはありませんでした。そして今でもどちらを選択したほうがよかったのかわかりません。進学校を選択することで結果として学歴的にはエリートコースを歩みましたが、その世界の価値観に適応できなかったものですから。

 

内申書という制度にも疑問がありました。相対評価で10が何人、9が何人…と決められていたので、自分がいい点を取るとその分誰かが悪い点を取ることになったのです。自分の点数の途中経過を聞いて、高すぎると感じて下げるように頼んだこともあります。

 

高校受験――制度と勉強法

結局進学校のほうを受験することにして、公立高校と私立高校を併願しました。

 

当時の大阪府立高校の入試制度は、内申点が440点満点、当日の試験が400点満点の合計で合否が決まりました。内申点は10段階評価をされて、5教科(英、数、国、社、理)は4倍、副教科(音、美、技家、体育)は6倍で計算します。確か私は英語が9、数学が10、国語が10、社会が10、理科が10、音楽が9、美術が6、技術家庭が9、体育が10で合計400点でした。それだけあれば内申点でリードしていることになり、当日の試験は進学校であれば満点に近いところで勝負が繰り広げられるのでそれほど差がつかず、まず合格は間違いないという状態でした。私立高校のほうはどうなっていたのかよくわかりませんが、基本的に当日の試験が重視されたのだと想像します。

 

なぜそこまで制度や内申点のことを覚えているのかというと、当時自分の周りに手取り足取り教えてくれる人がいなかったので、自分で理解するように努めたからです。

 

勉強法としては学校でやることを大事にして、中3になって配布された問題集やプリントを活用してとにかく復習を重視しました。夏休みを終える頃にはかなりの手応えをつかんでいました。

 

数学は得意だったので図形問題でひらめきが足りずに解けない以外はまずどの問題も解けました。国語は漢字や文法はコツコツやってきていたので得点できましたし、大人向けの本をたくさん読んでいたので読解問題の文章も簡単に思えました。英語は最も弱い科目でしたが、それでも練習量でカバーして文型やso ~ that …構文なども何となくは理解していました。社会は公民や時事問題には自信を持っていて地理や歴史も無難にできましたし、理科は理屈を理解したり関連づけて記憶したりで対応できていました。

 

直前期には過去問をしました。私立は何も考えずに言われるがまま洛南高校を受験したのですが、過去問には驚かされました。習っていないことがたくさん出題されていたのです。6割くらいしか解けずにへこみましたが、資料をよく読んで合格最低点という欄を見つけ、その点数は超えていたので、それで大丈夫なのではないかと考えました。合格最低点と比べるという方法は正しいと今でも信じています。

 

私立の洛南高校を実際に受験したときも全部の問題が解けたわけではなかったので気持ち悪かったですが、合格最低点のことを考えてベストを尽くし、合格できました。公立の茨木高校を受験したときは自己採点で数学が満点、その他の科目も基本満点ペースだったので、安心して合格発表を迎えました。

 

 

 



中学入学以前の学習記録

年度替わりで時間に余裕があり、家の片付けをしていたら過去を振り替えるモードになってきたので、これまでの人生の学習記録をまとめておきます。

 

まずは中学入学以前です。

 

小学校入学以前

保育園ではなく幼稚園に通っていたので、お勉強の時間も少しあったような記憶があります。それが嫌だったということはありません。絵本を読んだりするのも好きなほうでした。絵を描いたり運動をしたりするのは苦手でした。

 

これは生まれながらの性格による部分が大きいでしょう。大人しい子だとよく言われていましたし、実際家の中にいることのほうが好きでした。何か早期教育を受けたということはありませんが、「物覚えがよい」と祖父からほめられたことは今でもいい思い出です。

 

まとめると、もともと芸術や運動よりも学業に適性があったところを、そのまま素直に発揮したと言えます。

 

小学校

学校での勉強にはついていけました。といっても授業を聞いて宿題を真面目にするというだけで、特にそれ以外の勉強はしませんでした。

 

むしろ図工や給食、人間関係などのほうが苦労しました。図工の絵が苦手だったのは先ほど述べましたが、給食は決められた枠組みで食べさせられるということに反発を覚えていました。1、2年の頃は引っ込み思案で、そのせいで作文が苦手でした。それも3,4年の頃に克服したのはいいとして、その勢い余ってケンカをよくしたりしていました。

 

塾や問題集での「勉強」はしませんでしたが、身の回りの材料を使って考えるということはしていました。具体的にはパズル雑誌やファミコンです。パズル雑誌ではイラストロジックなどの論理ものを自分なりに工夫して解いていました。ファミコンはいろいろやりましたが、マージャンなどのギャンブル的なものが特に好きでした。当時流行していたドラクエ4でもカジノに入り浸っていました。

 

なんというか、ろくな小学生じゃありませんね。

 



平成21年司法試験論文公法系第2問答案練習

問題

〔第2問〕(配点:100)
 建設会社Aは,B県C市内に所在するA所有地(以下「本件土地」という。)において,鉄筋コンクリート造,地上9階,地下2階で,住戸100戸のほか,135台収容の地下駐車場を備えるマンション(以下「本件建築物」という。)の建築を計画した。本件建築物は,高さ30メートル,敷地面積5988平方メートル,建築面積3321平方メートル,延べ面積2万1643平方メートルである。本件土地は,都市計画法上の第二種中高層住居専用地域に位置している。
 Aは,平成20年7月23日,本件土地の周辺住民からの申出に基づき,本件建築物の建築計画に関する説明会を開催した。本件土地の周辺住民で構成する「D地域の生活環境を守る会」は,B県建築主事E(C市には建築主事が置かれていない。)に対し,同年9月26日付け申入書をもって,周辺住民とAとの協議が整うまで,Aに対し,本件建築物に係る建築計画について建築基準法第6条第1項に基づく確認をしないこと,また,同計画については,建築基準法等に違反している疑いがあり,周辺住民の反対も強いので,公聴会を開催することを求める申入れをした。
 その後,Aと周辺住民の間で何度か協議が行われたが,話合いはまとまらなかった。同年12月12日,Aは,Eに対し,建築基準法第6条第1項により建築確認の申請を行った。Eは,公聴会を開催することなく,Aに対し,平成21年1月8日付けで建築確認(以下「本件確認」という。)をした。
 本件土地の周辺住民であるF,G,H,Iの4名(以下「Fら」という。)は,同年1月22日,B県建築審査会に対し,本件確認の取消しを求める審査請求をしたが,同年4月8日,B県建築審査会は,これを棄却する裁決を行った。
 そこで,Fらは,訴訟の提起を決意し,同年4月14日,弁護士Jの事務所を訪問して,同事務所に所属する弁護士Kと面談した。これを受けて,同月下旬,本件に関し,弁護士Jと弁護士Kが会議を行った。
 【資料1 法律事務所の会議録】を読んだ上で,弁護士Kの立場に立って,弁護士Jの指示に応じ,設問に答えなさい。
 なお,本件土地等の位置関係は【資料2 説明図】に示してあり,また,建築基準法,B県建築安全条例,B県中高層建築物の建築に係る紛争の予防と調整に関する条例(以下「本件紛争予防条例」という。)の抜粋は,【資料3 関係法令】に掲げてあるので,適宜参照しなさい。

 

〔設 問〕
1.Fらが本件建築物の建築を阻止するために考えられる法的手段(訴訟とそれに伴う仮の救済措置)を挙げた上で,それを用いる場合の行政事件訴訟法上の問題点を中心に論じなさい。

 

2.考え得る本件確認の違法事由について詳細に検討し,当該違法事由の主張が認められ得るかを論じなさい。また,原告Fがいかなる違法事由を主張できるかを論じなさい。

 

【資料1 法律事務所の会議録】
弁護士J:本日はFらの案件について基本的な処理方針を議論したいと思います。Fらは,本件建築物が違法であると主張しているようですが,その理由はどのようなものですか。

弁護士K:本件土地は,幅員6メートルの道路(以下「本件道路」という。)に約30メートルにわたって接しているのですが,Fらは,本件建築物のような大きなマンションを建築する場合,この程度の道路では道路幅が不十分だと主張しています。また,本件道路が公道に接する部分にゲート施設として遮断機が設置されているため,遮断機が下りた状態では車の通行が不可能であり,遮断機を上げた状態でも実際に車が通行できる道路幅は3メートル弱しかないそうです。さらに,Aの説明では,遮断機の横にインターホンが設置されており,非常時には遮断機の設置者であるL神社の事務所に連絡して遮断機を上げることができるそうですが,Fらは,常に連絡が取れて遮断機を上げることができるか心配であると話しています。つまり,火災時などに消防車等が進入することが困難で,防災上問題があると述べております。

弁護士J:どうして,道路に遮断機が設置されているのですか。

弁護士K:本件道路は,L神社の参道なのですが,B県知事から幅員6メートルの道路として位置指定を受けており,いわゆる位置指定道路に当たるそうです。L神社では,参道への違法駐車が後を絶たないことから,本件道路が公道に接する部分に遮断機を設置しているとのことです。

弁護士J:なるほど,位置指定道路ですか。宅地造成等の際に,新たに開発される敷地予定地が接道義務を満たすようにするため,位置の指定を受けた私道を建築基準法上の道路として扱う制度ですね(建築基準法第42条第1項第5号)。まず,本件土地については,幅員がどれだけの道路に,どれだけの長さが接していなければならないか調べてください。その上で,本件道路との関係で,本件建築物の建築に違法な点がないかを検討してください。

弁護士K:分かりました。このほか,本件建築物の地下駐車場出入口から約10メートルのところに,市立図書館(以下「本件図書館」という。)に設置されている児童室(以下「本件児童室」という。)の専用出入口があります。Fらは,地下駐車場の収容台数が135台とかなり大規模なものなので,本件児童室を利用する子供の安全性に問題がある,と主張しています。

弁護士J:本件児童室は一体どのようなものですか。

弁護士K:本件図書館内にあって,児童関係の図書を一箇所に集め,一般の利用者とは別に閲覧場所等を設けたもので,児童用の座席が10人分程度用意されています。本件児童室には,本件図書館の出入口とは別に,先ほど触れた専用出入口が設けられ,専用出入口は午後5時に閉鎖されますが,本件図書館の他の部分とは内部の出入口でつながっており,本件図書館の利用者はだれでも自由に行き来できるようです。本件児童室内には,児童用のサンダルが置かれたトイレがあり,また,幼児の遊び場コーナーがあるなど,児童の利用しやすい設備が整っています。本件図書館は,総床面積3440平方メートル,地下1階,地上4階ですが,本件児童室は,1階部分のうち約100平方メートルを占めています。

弁護士J:なるほど。本件児童室との関係で,本件建築物の建築に違法な点がないかを検討してください。確認ですが,本件建築物は,容積率,高さ,建ぺい率の点では法令に合致しているのですね。

弁護士K:はい,そのようです。

弁護士J:Fらの主張はそれだけですか。

弁護士K:Aは,本件建築物の建築について一応説明会を開催したのですが,情報の開示が不十分で,住民に質問の機会を与えず,一方的に終了を宣言するなど,形ばかりのものだったそうです。

弁護士J:そもそもAには説明会の開催義務があるのですか。

弁護士K:本件紛争予防条例には,説明会の開催についての規定があり,Fらは,Aの行為は条例違反に当たると主張しております。

弁護士J:そうですか。本件において当該条例違反が認められるか,仮に認められるとして,それが本件確認との関係でどのような意味を持つのか,それぞれについて検討してください。

弁護士K:分かりました。最後になりますが,Fらは,本件確認を行う際には,公聴会を開催する必要があったにもかかわらず,建築主事Eはこれを行っていない,という点も強調しておりました。

弁護士J:なるほど。それでは,以上のFらの主張について,その当否も含めて検討しておいてください。

弁護士K:はい,分かりました。

弁護士J:次に,訴訟手段についてですが,本件建築物の建築を阻止するためには,どのような方法が考えられるか検討してください。建築基準法第9条第1項に基づく措置命令をめぐる行政訴訟も考えられますが,これについては後日議論することとして,今回は検討の対象から外してください。また,検査済証の交付を争っても建築の阻止には役立ちませんから,これも除外してください。

弁護士K:了解しました。それでは,本件確認を争う手段を検討してみます。

弁護士J:本件確認が処分に当たることは疑いありませんし,審査請求も既に行われています。出訴期間も現時点では問題ないようですね。訴訟を提起するとして,Fらは本件建築物とどのような関係にあるのですか。

弁護士K:Fは,本件土地から10メートルの地点にあるマンションの一室に居住しています。Gは,Fの居住するマンションの所有者ですが,そこには住んでおりません。したがって,FとGは,本件建築物から至近距離に居住するか,建築物を所有しているといえます。

弁護士J:HとIはどうですか。

弁護士K:Hは,小学2年生で,本件児童室に毎週通っており,Iはその父親です。二人は,本件土地から500メートル離れたマンションに住んでいます。

弁護士J:そうですか。全員が訴訟を提起する資格があるのか,ここは今回の案件で特に重要だと思いますので,個別具体的に丁寧に検討してください。

弁護士K:はい,分かりました。

弁護士J:訴訟を適法に提起できるとして,自らの法律上の利益との関係で,本案においていかなる違法事由を主張できるのでしょうか。まず,Fについて検討してみてください。

弁護士K:分かりました。

弁護士J:建築工事の進ちょく状況はどうですか。

弁護士K:急ピッチで進められており,この調子でいくと,余り遠くない時期に完成に至りそうです。

弁護士J:Fらが望んでいるのは建築を阻止することですし,本件建築物が完成してしまうと訴訟手続上不利になる可能性もありますね。本件建築物が完成した場合,どのような法的問題が生じるかを整理した上で,訴訟係属中の工事の進行を止めるための法的手段について,それが認容される見込みがあるかどうかも含めて検討してください。

弁護士K:そうですね。よく調べてみます。

 

【資料2 説明図】

平成21行政法

 

【資料3 関係法令】
○ 建築基準法(昭和25年5月24日法律第201号)(抜粋)
(目的)
第1条 この法律は,建築物の敷地,構造,設備及び用途に関する最低の基準を定めて,国民の生命,健康及び財産の保護を図り,もつて公共の福祉の増進に資することを目的とする。
(用語の定義)
第2条 この法律において次の各号に掲げる用語の意義は,それぞれ当該各号に定めるところによる。
一~九 (略)
九の二 耐火建築物 次に掲げる基準に適合する建築物をいう。
イ その主要構造部が(1)又は(2)のいずれかに該当すること。
(1) 耐火構造であること。
(2) 次に掲げる性能(外壁以外の主要構造部にあつては,(ⅰ)に掲げる性能に限る。)に関して政令で定める技術的基準に適合するものであること。
(ⅰ) 当該建築物の構造,建築設備及び用途に応じて屋内において発生が予測される火災による火熱に当該火災が終了するまで耐えること。
(ⅱ) 当該建築物の周囲において発生する通常の火災による火熱に当該火災が終了するまで耐えること。
ロ (略)
九の三~三十五 (略)
(建築物の建築等に関する申請及び確認)
第6条 建築主は,第1号から第3号までに掲げる建築物を建築しようとする場合(中略),これらの建築物の大規模の修繕若しくは大規模の模様替をしようとする場合又は第4号に掲げる建築物を建築しようとする場合においては,当該工事に着手する前に,その計画が建築基準関係規定(この法律並びにこれに基づく命令及び条例の規定(以下「建築基準法令の規定」という。)その他建築物の敷地,構造又は建築設備に関する法律並びにこれに基づく命令及び条例の規定で政令で定めるものをいう。以下同じ。)に適合するものであることについて,確認の申請書を提出して建築主事の確認を受け,確認済証の交付を受けなければならない。(以下略)
一~四 (略)
2,3 (略)
4 建築主事は,第1項の申請書を受理した場合においては,同項第1号から第3号までに係るものにあつてはその受理した日から35日以内に,同項第4号に係るものにあつてはその受理した日から7日以内に,申請に係る建築物の計画が建築基準関係規定に適合するかどうかを審査し,審査の結果に基づいて建築基準関係規定に適合することを確認したときは,当該申請者に確認済証を交付しなければならない。
5~15 (略)
(建築物に関する完了検査)
第7条 建築主は,第6条第1項の規定による工事を完了したときは,国土交通省令で定めるところにより,建築主事の検査を申請しなければならない。
2,3 (略)
4 建築主事が第1項の規定による申請を受理した場合においては,建築主事又はその委任を受けた当該市町村若しくは都道府県の職員(以下この章において「建築主事等」という。)は,その申請を受理した日から7日以内に,当該工事に係る建築物及びその敷地が建築基準関係規定に適合しているかどうかを検査しなければならない。
5 建築主事等は,前項の規定による検査をした場合において,当該建築物及びその敷地が建築基準関係規定に適合していることを認めたときは,国土交通省令で定めるところにより,当該建築物の建築主に対して検査済証を交付しなければならない。
(違反建築物に対する措置)
第9条 特定行政庁は,建築基準法令の規定又はこの法律の規定に基づく許可に付した条件に違反した建築物又は建築物の敷地については,当該建築物の建築主,当該建築物に関する工事の請負人(請負工事の下請人を含む。)若しくは現場管理者又は当該建築物若しくは建築物の敷地の所有者,管理者若しくは占有者に対して,当該工事の施工の停止を命じ,又は,相当の猶予期限を付けて,当該建築物の除却,移転,改築,増築,修繕,模様替,使用禁止,使用制限その他これらの規定又は条件に対する違反を是正するために必要な措置をとることを命ずることができる。
2~15 (略)
(大規模の建築物の主要構造部)
第21条 高さが13メートル又は軒の高さが9メートルを超える建築物(その主要構造部(床,屋根及び階段を除く。)の政令で定める部分の全部又は一部に木材,プラスチックその他の可燃材料を用いたものに限る。)は,第2条第9号の2イに掲げる基準に適合するものとしなければならない。ただし,構造方法,主要構造部の防火の措置その他の事項について防火上必要な政令で定める技術的基準に適合する建築物(政令で定める用途に供するものを除く。)は,この限りでない。
2 延べ面積が3000平方メートルを超える建築物(その主要構造部(床,屋根及び階段を除く。)の前項の政令で定める部分の全部又は一部に木材,プラスチックその他の可燃材料を用いたものに限る。)は,第2条第9号の2イに掲げる基準に適合するものとしなければならない。
(道路の定義)
第42条 この章の規定において「道路」とは,次の各号の一に該当する幅員4メートル(特定行政庁がその地方の気候若しくは風土の特殊性又は土地の状況により必要と認めて都道府県都市計画審議会の議を経て指定する区域内においては,6メートル。次項及び第3項において同じ。)以上のもの(地下におけるものを除く。)をいう。
一 道路法(昭和27年法律第180号)による道路
二~四 (略)
五 土地を建築物の敷地として利用するため,道路法(中略)によらないで築造する政令で定める基準に適合する道で,これを築造しようとする者が特定行政庁からその位置の指定を受けたもの
2~6 (略)
(敷地等と道路との関係)
第43条 建築物の敷地は,道路(中略)に2メートル以上接しなければならない。(以下略)
一,二 (略)
2 地方公共団体は,特殊建築物,階数が3以上である建築物,政令で定める窓その他の開口部を有しない居室を有する建築物又は延べ面積(中略)が1000平方メートルを超える建築物の敷地が接しなければならない道路の幅員,その敷地が道路に接する部分の長さその他その敷地又は建築物と道路との関係についてこれらの建築物の用途又は規模の特殊性により,前項の規定によつては避難又は通行の安全の目的を充分に達し難いと認める場合においては,条例で,必要な制限を付加することができる。
(容積率)
第52条 建築物の延べ面積の敷地面積に対する割合(以下「容積率」という。)は,次の各号に掲げる区分に従い,当該各号に定める数値以下でなければならない。(以下略)
一 (略)
二 第一種中高層住居専用地域若しくは第二種中高層住居専用地域内の建築物又は第一種住居地域,第二種住居地域,準住居地域,近隣商業地域若しくは準工業地域内の建築物(中略) 10分の10,10分の15,10分の20,10分の30,10分の40又は10分の50のうち当該地域に関する都市計画において定められたもの
三~六 (略)
2~15 (略)
(建築物の各部分の高さ)
第56条 建築物の各部分の高さは,次に掲げるもの以下としなければならない。
一,二 (略)
三 第一種低層住居専用地域若しくは第二種低層住居専用地域内又は第一種中高層住居専用地域若しくは第二種中高層住居専用地域(中略)内においては,当該部分から前面道路の反対側の境界線又は隣地境界線までの真北方向の水平距離に1.25を乗じて得たものに,第一種低層住居専用地域又は第二種低層住居専用地域内の建築物にあつては5メートルを,第一種中高層住居専用地域又は第二種中高層住居専用地域内の建築物にあつては10メートルを加えたもの
2~7 (略)

 

○ B県建築安全条例(昭和25年B県条例第11号)(抜粋)
(趣旨)
第1条 建築基準法(以下「法」という。)(中略)第43条第2項による建築物の敷地及び建築物と道路との関係についての制限の付加(中略)については,この条例の定めるところによる。
(建築物の敷地と道路との関係)
第4条 延べ面積(同一敷地内に2以上の建築物がある場合は,その延べ面積の合計とする。)が1000平方メートルを超える建築物の敷地は,その延べ面積に応じて,次の表に掲げる長さ以上道路に接しなければならない。
延べ面積 長さ
1000平方メートルを超え,2000平方メートル以下のもの 6メートル
2000平方メートルを超え,3000平方メートル以下のもの 8メートル
3000平方メートルを超えるもの 10メートル
2 延べ面積が3000平方メートルを超え,かつ,建築物の高さが15メートルを超える建築物の敷地に対する前項の規定の適用については,同項中「道路」とあるのは,「幅員6メートル以上の道路」とする。
3 前二項の規定は,建築物の周囲の空地の状況その他土地及び周囲の状況により知事が安全上支障がないと認める場合においては,適用しない。
(敷地から道路への自動車の出入口)
第27条 自動車車庫等の用途に供する建築物の敷地には,自動車の出入口を次に掲げる道路のいずれかに面して設けてはならない。ただし,交通の安全上支障がない場合は,第5号を除き,この限りでない。
一 道路の交差点若しくは曲がり角,横断歩道又は横断歩道橋(地下横断歩道を含む。)の昇降口から5メートル以内の道路
二 勾配が8分の1を超える道路
三 道路上に設ける電車停留場,安全地帯,橋詰め又は踏切から10メートル以内の道路
四 児童公園,小学校,幼稚園,盲学校,ろう学校,養護学校,児童福祉施設,老人ホームその他これらに類するものの出入口から20メートル以内の道路
五 前各号に掲げるもののほか,知事が交通上支障があると認めて指定した道路

 

○ B県中高層建築物の建築に係る紛争の予防と調整に関する条例(昭和53年B県条例第64号)
(抜粋)
(目的)
第1条 この条例は,中高層建築物の建築に係る計画の事前公開並びに紛争のあつせん及び調停に関し必要な事項を定めることにより,良好な近隣関係を保持し,もつて地域における健全な生活環境の維持及び向上に資することを目的とする。
(定義)
第2条 この条例において,次の各号に掲げる用語の意義は,それぞれ当該各号に定めるところによる。
一 中高層建築物 高さが10メートルを超える建築物(第一種低層住居専用地域及び第二種低層住居専用地域(都市計画法(昭和43年法律第100号)第8条第1項第1号に掲げる第一種低層住居専用地域及び第二種低層住居専用地域をいう。)にあつては,軒の高さが7メートルを超える建築物又は地階を除く階数が3以上の建築物)をいう。
二 紛争 中高層建築物の建築に伴つて生ずる日照,通風及び採光の阻害,風害,電波障害等並びに工事中の騒音,振動等の周辺の生活環境に及ぼす影響に関する近隣関係住民と建築主との間の紛争をいう。
三 建築主 中高層建築物に関する工事の請負契約の注文者又は請負契約によらないで自らその工事をする者をいう。
四 近隣関係住民 次のイ又はロに掲げる者をいう。
イ 中高層建築物の敷地境界線からその高さの2倍の水平距離の範囲内にある土地又は建築物に関して権利を有する者及び当該範囲内に居住する者
ロ 中高層建築物による電波障害の影響を著しく受けると認められる者
(知事の責務)
第3条 知事は,紛争を未然に防止するよう努めるとともに,紛争が生じたときは,迅速かつ適正に調整するよう努めなければならない。
(当事者の責務)
第4条 建築主は,紛争を未然に防止するため,中高層建築物の建築を計画するに当たつては,周辺の生活環境に及ぼす影響に十分配慮するとともに,良好な近隣関係を損なわないよう努めなければならない。
2 建築主及び近隣関係住民は,紛争が生じたときは,相互の立場を尊重し,互譲の精神をもつて,自主的に解決するよう努めなければならない。
(説明会の開催等)
第6条 建築主は,中高層建築物を建築しようとする場合において,近隣関係住民からの申出があつたときは,建築に係る計画の内容について,説明会等の方法により,近隣関係住民に説明しなければならない。
2 知事は,必要があると認めるときは,建築主に対し,前項の規定により行つた説明会等の内容について報告を求めることができる。

 

練習答案

1.
 (1)Fらが本件建築物の建築を阻止するために考えられる法的手段
 Fらが本件建築物の建築を阻止するために考えられる法的手段は、本件確認の取消しの訴え(行政事件訴訟法(以下「行訴法」とする)3条2項)である。そして仮の救済措置として本件確認の効力の停止(執行停止)を求める(行訴法25条2項)。
 (2)Fらの原告適格
 裁判所は、処分の相手方以外の者について前項に規定する(行訴法9条1項の原告適格の)法律上の利益の有無を判断するに当たつては、当該処分の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮するものとする(行訴法9条2項前段)。この場合において、当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たつては、当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌するものとし、当該利益の内容及び性質を考慮するに当たつては、当該処分がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案するものとする(行訴法9条2項後段)。
 本件確認処分はAを名宛人としたものであり、Fらは処分の相手方以外の者である。本件処分の根拠は建築基準法であり、B県建築安全条例(以下「安全条例」とする)及びB県中高層建築物の建築に係る紛争の予防と調整に関する条例(以下「紛争予防条例」とする)も当該建築基準法と目的を共通にする関係法令である。
 建築基準法の目的は「建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低の基準を定めて、国民の生命、健康及び財産の保護を図」ることである(建築基準法1条)。この目的のために建築物の各種基準が定められており、それはその建築物の近接した場所に居住したり建築物を所有したりする者の生命、健康及び財産を個別的に保護していると解釈できるので、本件土地から10メートルの地点に居住しているFと建築物を所有しているGに原告適格が認められる。もし建築基準法に違反した建築物が作られたら、Fは救急車が入れないために生命を失うかもしれないし、Gはそうした危険のために入居者がいなくなると所有するマンションの財産的価値を失ってしまう。F及びGには本件確認処分の取消しを求めるにつき法律上の利益がある。他方で安全条例27条4号の施設の利用者の利益は一般公益的なものであり、個別的に保護されたものとは言えないので、本件児童室に毎週通っているHとその父親Iの原告適格は否定される。本件児童室に必ず行かなければならないというわけではないし、毎週通い続けるとしても十分に注意をすれば建築基準法違反の状態でもそれほど危険であるとも限らない。
 (3)執行停止の可否
 処分の取消しの訴えが提起されても、執行不停止が原則である(行訴法25条1項)。処分により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があるときは、裁判所は、申立により、決定でもつて、処分の効力の全部又は一部の停止をすることができる(行訴法25条2項本文)。裁判所は、前項に規定する重大な損害を生ずるか否かを判断するに当たつては、損害の回復の困難の程度を考慮するものとし、損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質をも勘案するものとする(行訴法25条3項)。
 Fらは建築の祖師を望んでいて、それは本件確認処分の執行又は手続の続行の停止では目的を達することができないので、ここで問題になるのは処分の効力の停止である(行訴法25条2項但書)。
 本件確認処分に基づいて建築物が作られると、Fらの生命、健康及び財産が危険にさらされる。特に生命や健康は一度害されると回復は不可能か可能であっても困難である。他方で建築物が完成してから取り壊すのも不合理である。よって執行停止が認められる。
 公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれはないし、本案について理由がないともみえないので、行訴法25条4項の除外規定には当てはまらない。

 

2.
 (1)接道義務
 本件建築物は延べ面積が2万1643平方メートルなので、安全条例で建築基準法43条2項に付加された制限を考慮すると、10メートル以上の長さの道路に接しなければならない(安全条例4条1項)。また、本件建築物の高さは30メートルなので、その道路は幅員6メートル以上の道路である(安全条例4条2項)。本件建築物は幅員が6メートルの位置指定道路(建築基準法42条1項5号)に接しているので、その部分の長さが10メートル以上になれば適法である。遮断機については上げることができるので問題ない。
 (2)児童室
 本件児童室は、「児童公園、小学校、幼稚園、盲学校、ろう学校、養護学校、児童福祉施【原文ママ】、老人ホーム、その他これらに類するもの」と考えられるので、その出入口から20メートル以内の道路に面して自動車の出入口を設けてはならない(安全条例27条4号)。本件建築物の地下駐車場出入口から約10メートルのところに本件児童室の専用出入口があるので、違法である。本件図書館から本件児童室に入ることができるが、それだと余計に駐車場出入口に近くなってしまうので、違法であることに変わりはない。
 (3)説明会
 本件は中高層建築物を建築しようとする場合であり、近隣関係住民から申出があったので、建築に係る計画の内容について、説明会等の方法により、近隣関係住民に説明しなければならない(紛争予防条例6条1項)。Aは説明会を開催して計画の内容を説明したので、住民に質問の機会を与えなかったとしても、違法ではない。
 また、仮に違法であったとしても、この説明義務は近隣関係住民に取消し訴訟の提起などを判断する機会を与えるためなどのものであるので、この違法のみで確認処分が取消されることはない。
 (4)公聴会
 知事は、紛争を未然に防止するよう務めるとともに、紛争が生じたときは、迅速かつ適正に調整するよう努めなければならない(紛争防止条例3条)が、公聴会の開催までは義務づけられていない。よって公聴会を開かなかったとしても違法ではない。
 (5)Fの主張
 以上より違法なのは(2)児童室だけであるが、その違法はFの法律上の利益(Fの生命、健康)とは関係がないので、Fはその違法を主張できない。

以上

 

修正答案

1.
 (1)Fらが本件建築物の建築を阻止するために考えられる法的手段
 Fらが本件建築物の建築を阻止するために考えられる法的手段は、本件確認の取消しの訴え(行政事件訴訟法(以下「行訴法」とする)3条2項)である。そして仮の救済措置として本件確認の効力の停止(執行停止)を求める(行訴法25条2項)。
 本件確認の処分性、審査請求前置、出訴期間には問題がないので、以下ではその他の問題を論じる。
 (2)Fらの原告適格
 裁判所は、処分の相手方以外の者について前項に規定する(行訴法9条1項の原告適格の)法律上の利益の有無を判断するに当たつては、当該処分の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮するものとする(行訴法9条2項前段)。この場合において、当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たつては、当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌するものとし、当該利益の内容及び性質を考慮するに当たつては、当該処分がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案するものとする(行訴法9条2項後段)。
 本件確認処分はAを名宛人としたものであり、Fらは処分の相手方以外の者である。本件処分の根拠は建築基準法であり、B県建築安全条例(以下「安全条例」とする)及びB県中高層建築物の建築に係る紛争の予防と調整に関する条例(以下「紛争予防条例」とする)も当該建築基準法と目的を共通にする関係法令である。安全条例は建築基準法に制限を付加するものであるので当然目的を共通にするとして、紛争予防条例も中高層建築物に関しては特に近隣住民との利害調整を綿密にしなければならないという点で、建築基準法に上乗せしたものであるからである。
 建築基準法の目的は「建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低の基準を定めて、国民の生命、健康及び財産の保護を図」ることである(建築基準法1条)。この目的のために、火災を起こして周囲に被害を及ぼしたりしないように建築物の各種基準が定められており、それはその建築物の近接した場所に居住したり建築物を所有したりする者の生命、健康及び財産を個別的に保護していると解釈できるので、本件土地から10メートルの地点に居住しているFと建築物を所有しているGに原告適格が認められる。もし建築基準法に違反した建築物が作られたら、Fは救急車が入れないために生命を失うかもしれないし、Gはそうした危険のために入居者がいなくなると所有するマンションの財産的価値を失ってしまう。F及びGには本件確認処分の取消しを求めるにつき法律上の利益がある。
 他方で本件児童室は安全条例27条4号の施設には該当しないので、そこに毎週通っているHとその父親Iの原告適格は否定される。そこでは「児童公園、小学校、幼稚園、盲学校、ろう学校、養護学校、児童福祉施設、老人ホーム、その他これらに類するもの」と規定されており、交通弱者である児童や高齢者を特に保護する趣旨であると考えられるが、児童公園を除いては多人数が日常的に多くの時間を過ごす施設であるところ、本件児童室はそのような施設ではない。児童公園についてはボール遊びなどで交通事故の危険性が飛躍的に高まることが考慮されていると推測できる。児童室以外の点において、H及びIは本件土地から500メートル離れたところに居住しているので、建築基準法に違反した建築物が作られても生命、健康及び財産に危険が及ぶこともまず考えられない。
 (3)執行停止の可否
 処分の取消しの訴えが提起されても、執行不停止が原則である(行訴法25条1項)。処分により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があるときは、裁判所は、申立により、決定でもつて、処分の効力の全部又は一部の停止をすることができる(行訴法25条2項本文)。裁判所は、前項に規定する重大な損害を生ずるか否かを判断するに当たつては、損害の回復の困難の程度を考慮するものとし、損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質をも勘案するものとする(行訴法25条3項)。
 Fらは建築の祖師を望んでいて、それは本件確認処分の執行又は手続の続行の停止では目的を達することができないので、ここで問題になるのは処分の効力の停止である(行訴法25条2項但書)。
 本件確認処分に基づいて建築物が作られると、Fらの生命、健康及び財産が危険にさらされる。特に生命や健康は一度害されると回復は不可能か可能であっても困難である。他方で建築物が完成してから取り壊すのも不合理であり、確認処分の取消しを争う際には執行停止をすることの合理性がある。よって執行停止が認められる。
 公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれはないし、本案について理由がないともみえないので、行訴法25条4項の除外規定には当てはまらない。
 (4)訴えの利益の消滅
 建築確認は適法に工事をすることができるようにする効果をもつ処分なので、本件建築物が完成した場合は、その確認処分を争う訴えの利益が消滅し、訴えが却下される。

 

2.
 (1)接道義務
 本件建築物は延べ面積が2万1643平方メートルなので、安全条例で建築基準法43条2項に付加された制限を考慮すると、10メートル以上の長さの道路に接しなければならない(安全条例4条1項)。また、本件建築物の高さは30メートルなので、その道路は幅員6メートル以上の道路である(安全条例4条2項)。本件建築物は幅員が6メートルの位置指定道路(建築基準法42条1項5号)に30メートルの長さ接しているので、接道義務は満たされている。遮断機については設置に合理的理由があり、インターホンで連絡して上げることができるし、仮に連絡がつかなくても車体を傷つけることを厭わなければ無理矢理遮断機を押し上げて緊急車両が通行することも可能なので問題ない。遮断機を上げた状態でも実際に車が通行できる道路幅は3メートル弱しかないとのことであるが、本件土地と接する部分では6メートルの幅があり、消火活動をする際などに支障をきたさないので、それも違法とはならない。
 (2)児童室
 本件児童室は、前述のように、安全条例27条4号の施設には該当しないので、本件建築物の地下駐車場出入口から約10メートルのところに本件児童室の専用出入口があったとしても違法にはならない。
 (3)説明会
 本件は中高層建築物を建築しようとする場合であり、近隣関係住民から申出があったので、建築に係る計画の内容について、説明会等の方法により、近隣関係住民に説明しなければならない(紛争予防条例6条1項)。Aは説明会を開催して計画の内容を説明したので、住民に質問の機会を与えなかったとしても、違法ではない。
 また、仮に違法であったとしても、この説明義務は近隣関係住民に取消し訴訟の提起などを判断する機会を与えるためなどのものであるので、この違法のみで確認処分が取消されることはない。
 (4)公聴会
 知事は、紛争を未然に防止するよう務めるとともに、紛争が生じたときは、迅速かつ適正に調整するよう努めなければならない(紛争防止条例3条)が、公聴会の開催までは義務づけられていない。行政庁は、申請に対する処分であって、申請者以外の者の利害を考慮すべきことが 当該法令において許認可等の要件とされているものを行う場合には、 必要に応じ、公聴会の開催その他の適当な方法により 当該申請者以外の者の意見を聴く機会を設けるよう努めなければならない(行政手続法10条)が、これも努力義務に過ぎず、さらに本件では既に紛争防止条例に基づいて説明会がなされて住民との話し合いが膠着状態になっていたので、公聴会を開催する必要性が薄い。よって公聴会を開かなかったとしても違法ではない。
 (5)Fの主張
 Fは接道義務により生命や健康を保護されている者であり、近隣関係住民であり(紛争予防条例2条4号イ)、行政手続法10条に規定される申請者以外の者にも該当すると考えられるが、児童室を利用する児童ではない。よって(2)児童室が仮に違法であったとしても、自己の法律上の利益に関係のない違法を理由として取消しを求めることができない(行訴法10条1項)ので、その違法を主張することはできない。

以上

 

 

感想

誘導が親切だったので、大きな論点を落とさずにすんでよかったです。 しかし訴えの利益の消滅を論じ損ね、行政手続法10条、行政事件訴訟法10条という条文を挙げていなかったのは確実に減点対象です。本件事例特有の事情への踏み込みも不足していたように感じられます。

 



平成21年司法試験論文公法系第1問答案練習

問題

〔第1問〕(配点:100)
 遺伝子は,細胞を作るためのタンパク質の設計図である。人間には約2万5000個の遺伝子があると推測されている。遺伝情報は,子孫に受け継がれ得る情報で,個人の遺伝的特質及び体質を示すものであるが,その基になる遺伝子に係る情報は,当該個人にとって極めて機微に係る情報である。遺伝子には,すべての人間に共通な生存に不可欠な部分と,個人にオリジナルの部分とがある。もし生存に不可欠な遺伝子が異常になると,細胞や体の働きが損なわれるので,その個体は病気になることもある。既に多数の遺伝子疾患が知られており,また,高血圧などの生活習慣病や癌,そして神経難病なども遺伝子の影響を受けることが解明されつつある。
 遺伝子治療とは,生命活動の根幹である遺伝子を制御する治療法であり,正常な遺伝子を細胞に補ったり,遺伝子の欠陥を修復・修正することで病気を治療する手法である。遺伝子治療の実用化のためには,動物実験の次の段階として,人間を対象とした臨床研究も必要である。遺伝子治療においては,まず,当該疾患をもたらしている遺伝子の異常がどこで起こっているかなどについて調べる必要がある。それを確定するためには,遺伝にかかわるので,本人だけではなく,家族の遺伝子も検査する必要がある。遺伝子治療は,難病の治癒のための新たな可能性を有する治療法ではあるが,安全性という点でなお不十分な面があるし,未知の部分もある。例えば,治療用の正常な遺伝子の導入が適切に行われないと,癌抑制遺伝子等の有益な遺伝子を壊すことがある。さらに,遺伝子という生命の根幹にかかわる点で,遺伝子治療によって「生命の有り様」を人間が変えることにもなり得るなど,遺伝子治療それ自体をめぐって様々なレベルで議論されている。
【注:本問では,遺伝子治療に関する知見は以上の記述を前提とすること。】
 政府は,遺伝子を人為的に組み換えたり,それを生殖細胞に移入したりして操作することには人間を改造する危険性もあるが,研究活動は研究者の自由な発想を重視して本来自由に行われるべきであることを考慮し,研究者の自主性や倫理観を尊重した柔軟な規制の形態が望ましいとして,罰則を伴った法律による規制という方式を採らなかった。2002年に,文部科学省及び厚生労働省が共同して,制裁規定を一切含まない「遺伝子治療臨床研究に関する指針」(2004年に全部改正され,2008年に一部改正された【参考資料1】。以下「本指針」という。)を制定した。こうして,遺伝子治療の臨床研究(以下「遺伝子治療臨床研究」という。)について研究者が遵守すべき指針が定められ,大学や研究所に設置される審査委員会で審査・承認を受けた後,さらに文部科学省・厚生労働省で審査・承認されて研究が行われている。
 2009年に,国立大学法人A大学医学部B教授らのグループによる遺伝子治療臨床研究において,被験者が一人死亡する事故が起きた。また,遺伝子に係る情報の漏洩事件も複数起きた。そこで,同年,Y県立大学医学部は,「審査委員会規則」を改正し,専門機関としてより高度の倫理性と責任性を持つべきであるとして,遺伝子治療臨床研究によって重大な事態が生じたときには当該研究の中止を命ずることができるようにした【参考資料2】。さらに,同医学部は,「遺伝子情報保護規則」【参考資料3】を新たに定め,匿名化(その個人情報から個人を識別する情報の全部又は一部を取り除き,代わりに当該個人情報の提供者とかかわりのない符号又は番号を付すことをいう。)されておらず,特定の個人と結び付いた形で保持されている遺伝子に係る情報について規律した。当該規則は,本人の求めがある場合でも,「遺伝子治療の対象である疾病の原因となる遺伝子情報」以外の開示を禁止している。その理由は,すべての遺伝子に係る情報を開示することが本人に与えるマイナスの影響を考慮したからである。また,当該規則は,被験者ばかりでなく,遺伝子検査・診断を受けたすべての人の遺伝子に係る情報を第三者に開示することを禁止している。その理由は,その開示によって生じるかもしれない様々な問題の発生等を考慮したからである。
 Y県立大学医学部の,X教授を代表者とする遺伝子治療臨床研究グループは,2003年以来難病性疾患に関する従来の治療法の問題点を解決する新規治療法の開発を目的として,動物による実験を行ってきた。201※年に,X教授のグループは,X教授を総括責任者とし,本指針が定める手続に従って,遺伝子治療臨床研究(以下「本研究」という。)を実施することの承認を受けた。X教授は,難病治療のために来院したCを診断したところ,Cの難病の原因は遺伝子に関係する可能性が極めて高いと判断した。Cは成人であるので,X教授は,Cの同意を得てその遺伝子を検査した。さらに,X教授はCに,家族全員(父,母,兄及び姉)の遺伝子も検査する必要があることを説明し,その家族4人からそれぞれ同意を得た上で,4人の遺伝子も検査した。その結果,Cの難病が遺伝子の異常によるものであることが判明した。X教授は,動物実験で有効であった遺伝子治療法の被験者としてCが適切であると考え,Cに対し,遺伝子治療を行う必要性等,本指針が定める説明をすべて行った。説明を受けた後,Cは,本研究の被験者となることを受諾する条件として,自己ばかりでなくその家族4人の遺伝子に係るすべての情報の開示をX教授に求めた。X教授は,Cの求めに応じて,C以外の家族4人の同意を得ずに,C自身及びその家族4人の遺伝子に係るすべての情報をCに伝えた。Cは,本研究の被験者になることに同意する文書を提出した。
 Cを被験者とする本研究が実施されたが,その過程で全く予測し得なかった問題が生じ,Cは重体に陥り,そのため,Cに対する本研究は続けることができなくなった(その後,Cは回復した。)。
 Y県立大学医学部長は,定められた手続に従い慎重に審査した上で,X教授らによる本研究の中止を命じた。その後,この問題を契機として調査したところ,「遺伝子情報保護規則」に違反する行為が明らかとなった。任命権者である学長は,X教授によるCへのC自身及びその家族4人の遺伝子に係る情報の開示が「遺伝子情報保護規則」に違反していることを理由に,X教授を1か月の停職処分に処した。

 

〔設問1〕
 X教授は,本研究の中止命令(注:行政組織内部の職務命令自体の処分性については,本問では処分性があるものとする。)の取消しを求めて訴訟を提起することにした。あなたがX教授から依頼を受けた弁護士であったならば,憲法上の問題についてどのような主張を行うか述べなさい。
 そして,大学側の処分を正当化する主張を想定しながら,あなた自身の結論及び理由を述べなさい。

 

〔設問2〕
 X教授は,遺伝子に係る情報の開示(注:個人情報に関する法令や条例との関係については,本問では論じる必要はない。)に関する1か月の停職処分の取消しを求めて訴訟を提起することにした。あなたがX教授から依頼を受けた弁護士であったならば,憲法上の問題についてどのような主張を行うか述べなさい。
 そして,大学側の処分を正当化する主張を想定しながら,あなた自身の結論及び理由を述べなさい。

 

【参考資料1】
文部科学省/厚生労働省「遺伝子治療臨床研究に関する指針」平成14年3月27日
(平成16年12月28日全部改正;平成20年12月1日一部改正)(抄録)
第一章 総則
第一 目的
この指針は,遺伝子治療の臨床研究(以下「遺伝子治療臨床研究」という。)に関し遵守すべき事項を定め,もって遺伝子治療臨床研究の医療上の有用性及び倫理性を確保し,社会に開かれた形での適正な実施を図ることを目的とする。
第二 定義
一 この指針において「遺伝子治療」とは,疾病の治療を目的として遺伝子又は遺伝子を導入した細胞を人の体内に投与すること及び二に定める遺伝子標識をいう。
二 この指針において「遺伝子標識」とは,疾病の治療法の開発を目的として標識となる遺伝子又は標識となる遺伝子を導入した細胞を人の体内に投与することをいう。
三 この指針において「研究者」とは,遺伝子治療臨床研究を実施する者をいう。
四 この指針において「総括責任者」とは,遺伝子治療臨床研究を実施する研究者に必要な指示を行うほか,遺伝子治療臨床研究を総括する立場にある研究者をいう。
五~九 (略)
第三~第五 (略)
第六 生殖細胞等の遺伝的改変の禁止
人の生殖細胞又は胚(一の細胞又は細胞群であって,そのまま人又は動物の胎内において発生の過程を経ることにより一の個体に成長する可能性のあるもののうち,胎盤の形成を開始する前のものをいう。以下同じ。)の遺伝的改変を目的とした遺伝子治療臨床研究及び人の生殖細胞又は胚の遺伝的改変をもたらすおそれのある遺伝子治療臨床研究は,行ってはならない。
第七 適切な説明に基づく被験者の同意の確保
遺伝子治療臨床研究は,適切な説明に基づく被験者の同意(インフォームド・コンセント)が確実に確保されて実施されなければならない。
第八 (略)
第二章 被験者の人権保護
第一 (略)
第二 被験者の同意
一 総括責任者又は総括責任者の指示を受けた医師である研究者(以下「総括責任者等」という。)は,遺伝子治療臨床研究の実施に際し,第三に掲げる説明事項を被験者に説明し,文書により自由意思による同意を得なければならない。
二 同意能力を欠く等被験者本人の同意を得ることが困難であるが,遺伝子治療臨床研究を実施することが被験者にとって有用であることが十分に予測される場合には,審査委員会の審査を受けた上で,当該被験者の法定代理人等被験者の意思及び利益を代弁できると考えられる者(以下「代諾者」という。)の文書による同意を得るものとする。この場合においては,当該同意に関する記録及び同意者と当該被験者の関係を示す記録を残さなければならない。
第三 被験者に対する説明事項
総括責任者等は,第二の同意を得るに当たり次のすべての事項を被験者(第二の二に該当する場合にあっては,代諾者)に対し十分な理解が得られるよう可能な限り平易な用語を用いて説明しなければならない。
一 遺伝子治療臨床研究の目的,意義及び方法
二 遺伝子治療臨床研究を実施する機関名
三 遺伝子治療臨床研究により予期される効果及び危険
四 他の治療法の有無,内容並びに当該治療法により予期される効果及び危険
五 被験者が遺伝子治療臨床研究の実施に同意しない場合であっても何ら不利益を受けることはないこと。
六 被験者が遺伝子治療臨床研究の実施に同意した場合であっても随時これを撤回できること。
七 個人情報保護に関し必要な事項
八 その他被験者の人権の保護に関し必要な事項
(以下略)

 

【参考資料2】
Y県立大学医学部「審査委員会規則」
第1条~第7条 (略)
第8条 医学部長は,被験者の死亡その他遺伝子治療臨床研究により重大な事態が生じたときは,総括責任者に対し,遺伝子治療臨床研究の中止又は変更その他必要な措置を命ずるものとする。
(以下略)

 

【参考資料3】
Y県立大学医学部「遺伝子情報保護規則」
第1条 本学部において,遺伝子に係る情報であって,匿名化されておらず個人を識別することができるもの(以下「遺伝子情報」という。)の取扱いについては,この規則によるものとする。
第2条~第5条 (略)
第6条 本学部の教職員は,いかなる理由による場合であっても,遺伝子情報を開示しないものとする。
2 前項の規定にかかわらず,総括責任者は,遺伝子検査又は診断を受けた者からの求めがある場合には,遺伝子治療の対象である疾病の原因となる遺伝子情報に限り,本人に開示しなければならない。
(以下略)

 

練習答案

以下日本国憲法についてはその条数のみを示す。

 

[設問1]
第1 X教授側の主張
 「学問の自由は、これを保障する」(23条)とあるところ、本研究の中止命令はX教授の学問の自由を侵害するので、違憲である。
 学問の自由は留保なく保障されているので、他の憲法で保障された権利と衝突しない限り制約されない。ここで想定される他の権利はCの身体や生命であると考えられるが、Cは本研究について適切に説明をされた上で真しな同意をしている。本研究はCの難病の治療法を開発するのに必要でもある。このように不法ではない内容について本人の有効な同意があるのだから、たまたま重体に陥ったからといって、C本人の身体や生命を侵害したとは言えない。
 また、学問の自由が保障される典型的な主体は大学教授であり、その職にあるXの学問の自由を制約するためにはより一層慎重であるべきである。
第2 大学側の処分を正当化する主張
 学問の自由も絶対無制約に保障されるのではなく、他の憲法上の権利との調整が必要である。「すべて国民は個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、(中略)立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」(13条)のであり、「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」(25条2項)。つまり国、ひいては地方自治体には国民の生命等を守る義務があるのである。
 本研究の中止命令は、そうした公益的な見地から国民の生命等を守るために必要な措置であり、学問の自由を一定制約するのもやむを得ない。Cが同意していたとしても、遺伝子治療には未知の部分も大きいので、そうした同意時には未知であった危険から守ることも必要である。さらにCだけでなく今後X教授の研究に参加するかもしれない国民の生命等を守るためにも、本件中止命令は必要である。
第3 私自身の結論及び理由
 生命等の権利により学問の自由が制約され得る点は共通しているので、本研究が生命等の権利を侵害しているかどうか、特にCの同意をどう捉えるかが争点となる。
 すべて国民は個人として尊重されるという日本国憲法の理念からして、個人の意思は、それによってその人の生命等をいくらか危険にさらすとしても、最大限に尊重されるべきである。もしかするとCの難病はQOL(生活の質)を著しく低下させるもので、そのまま寿命を少しのばすよりも、生命を短縮する危険があったとしても治療法を見つけたいとCは思ったかもしれない。そのあたりの判断は本人にしかできない。本研究では指針が定める説明がすべてなされた上でCが真しに同意しているので、Cの生命等を侵害しているとは言えない。未知の部分が現れたらCはその時点で研究から抜けることができるのであるし(参考資料1第2章第3、6号)、今後本研究に参加するかもしれない人についても同様である。
 以上より、本研究の中止命令は違憲であって取消されるべきものである。

 

[設問2]
第1 X教授側の主張
 「何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪われ、又はその他の刑罰を科せられない(31条)。1か月の停職処分が刑罰に含まれるかどうかには議論があるだろうが、少なくとも刑罰に近い処分なので、31条の罪刑法定主義が類推適用されるべきである。よって法律に根拠のない本件停職処分は違憲である。
 仮に罪刑法定主義に違反しないとしても、本件停職処分はXの財産権(29条1項)や職業選択の自由(22条1項)を侵害するものなので、正当な理由がなければ違憲である。本件停職処分の根拠はY県立大学医学部「遺伝子情報保護規則」違反とのことであるが、その6条2項に規定される開示をしただけなので、正当な処分理由は存在しない。
第2 大学側の処分を正当化する主張
 31条の罪刑法定主義が想定している刑罰を課す主体は国家であり、大学のような団体には一定の内部統制権が認められるので、本件停職処分は違憲ではない。
 また、本件停職処分には正当な理由がある。Y県立大学医学部「遺伝子情報保護規則」6条2項が規定しているのは本人の遺伝子情報であり、家族の遺伝子情報の開示は同1項により禁止されているからである。
第3 私自身の結論及び理由
 大学には一定の内部統制権があるので、罪刑法定主義(の類推適用)は、一部の者が全くし意的に重大な権利侵害を行った場合にのみ問題となるので、本件停職処分では問題とならない。おそらく就業規則か何かで停職処分の規定はされていただろうし、一部の者がし意的に処分を決定したわけでもなく、停職1か月はそこまで重大な権利侵害でもない。
 本件停職処分に正当な理由があるかどうかは、Y県立大学医学部「遺伝子情報保護規則」の解釈にかかっている。その6条2項の「遺伝子治療の対象である疾病の原因となる遺伝子情報」は本人のものだけであると解釈するほうが前後と整合的である。各個人が13条の幸福追求権から自己の情報をコントロールする権利を有しているという考え方からも、ある情報の開示をできるのはその本人に限ると解釈できる。
 以上より本件停職処分は違憲ではない。

以上

 

修正答案

以下日本国憲法についてはその条数のみを示す。

 

[設問1]
第1 X教授側の主張
 「学問の自由は、これを保障する」(23条)とあるところ、本研究の中止命令はX教授の学問の自由を侵害するので、違憲である。
 23条の文言からもわかるように、学問の自由は留保なく保障されている。そして学問の自由が保障される典型的な主体は大学教授であり、その職にあるXの学問の自由を制約することには慎重であるべきである。さらに、学問は研究の上に成り立つものなので、学問の自由は研究の自由を当然に含む。研究は純粋な思索とは違って外界に働きかける行為なので、他の憲法で保障された権利との調整をするために制約され得る。しかしながら、学問の自由は国家権力から恣意的に制約されやすく、そうなると民主主義も脅かされかねないので、その制約の合憲性は厳格に審査されなければならない。つまり、重要な目的のための必要最小限度の制約でなければならない。
 本研究の中止命令の根拠はY県立大学医学部「審査委員会規則」8条を根拠にしているが、その条文自体が違憲である。医学部長に研究を中止させる過度に広範な裁量を認めているからである。
 仮にこの条文自体が違憲でないとしても、具体的な本研究の中止命令は違憲である。本件処分の目的はCの生命等を守ることであると考えられるが、Cは本研究について適切に説明をされた上で真摯な同意をしている。本研究はCの難病の治療法を開発するのに必要でもある。このように不法ではない内容について本人の有効な同意があるのだから、たまたま重体に陥ったからといって、C本人の身体や生命を侵害したとは言えない。Cに対する本研究は事実上続けることができなくなっているにもかかわらず、本研究全体を中止させるという処分は必要最小限度を超えているとも言える。
第2 大学側の処分を正当化する主張
 学問の自由も絶対無制約に保障されるのではなく、他の憲法上の権利との調整が必要である。「すべて国民は個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、(中略)立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」(13条)のであり、「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」(25条2項)。つまり国、ひいては地方自治体には国民の生命等を守る義務があるのである。
 本研究の中止命令は、そうした公益的な見地から国民の生命等を守るために必要な措置であり、学問の自由を一定制約するのもやむを得ない。Cが同意していたとしても、遺伝子治療には未知の部分も大きいので、そうした同意時には未知であった危険から守ることも必要である。さらにCだけでなく今後X教授の研究に参加するかもしれない国民の生命等を守るためにも、本件中止命令は必要である。
 また、学問の自由を保障するための制度的側面として大学には一定の自治が認められており、大学が自主的に規則を制定することは違憲でないばかりかむしろ学問の自由に資するものである。
第3 私自身の結論及び理由
 生命等の権利により学問の自由が制約され得る点は共通している。大学の自治と個人の研究の自由とが衝突する場合にどう判断すべきかということが一つの争点になっている。本研究が生命等の権利を侵害しているかどうか、特にCの同意をどう捉えるかということと、本件処分が必要最小限度であったかということが二つ目の争点になっている。
 研究活動をして学問を追究するのは個人がベースである。大学当局が国家権力と結びつくということも容易に想定できる。よって大学の自治と個人の研究の自由とが衝突した場合には、基本的には個人の研究の自由のほうが尊重されるべきである。とはいえある大学のある個人が無茶な研究をして、そのせいで同じ大学の他の個人の研究活動が阻害されてもいけないので、そうした事態を防ぐような規則を大学が制定することは許される。本件では、文部科学省/厚生労働省「遺伝子治療臨床研究に関する指針」(以下「指針」とする)では制裁規定が含まれていないことも考慮して、Y県立大学医学部「審査委員会規則」8条の「重大な事態」を「このまま研究を続けると他の個人が研究をすることに支障をきたすような重大な事態」と限定的に解釈した場合にのみ合憲となる。
 本件処分に関して、すべて国民は個人として尊重されるという日本国憲法の理念からして、個人の意思は、それによってその人の生命等をいくらか危険にさらすとしても、最大限に尊重されるべきである。もしかするとCの難病はQOL(生活の質)を著しく低下させるもので、そのまま寿命を少しのばすよりも、生命を短縮する危険があったとしても治療法を見つけたいとCは思ったかもしれない。そのあたりの判断は本人にしかできない。本研究では指針が定める説明がすべてなされた上でCが真摯に同意しているので、Cの生命等を侵害しているとは言えない。未知の部分が現れたらCはその時点で研究から抜けることができるのであるし(指針第2章第3の第6号)、今後本研究に参加するかもしれない人についても同様である。必要最小限度の制約を逸脱しているとも言える。
 以上より、本研究の中止命令は違憲であって取消されるべきものである。

 

[設問2]
第1 X教授側の主張
 本件停職処分はY県立大学医学部「遺伝子情報保護規則」(以下「規則」とする)をその根拠としているが、憲法違反の内容である規則をもとにした処分は無効である。
 規則6条の1項及び2項から、遺伝子治療の対象である疾病の原因となる遺伝子情報以外はいかなる場合にも開示してはならないことになり、X教授はそれに違反したとして本件停職処分を受けた。
 13条の幸福追求権から各個人は自己の情報をコントロールする権利を有していると解釈できる。その権利が重要となる一つの場面が本件のような医療現場でのインフォームド・コンセントであり、指針にもそれが適切に実施されなけれなならないことが規定されている。インフォームド・コンセントのためには可能な限り多くの情報が与えられることが必要であるのに、規則6条に従うと遺伝子治療の研究に参加するかどうかを決める患者が得られる情報が限定されてしまう。そのような規則が作られたのはすべての遺伝子に係る情報を開示することが本人に与えるマイナスの影響を考慮したからとのことであるが、実際に生じるかどうかもわからないマイナスの影響よりも、情報を与えられないことによる不利益のほうが大きいので、正当化することはできない。
 よって規則6条の内容は違憲であり、それに基づく本件停職処分は無効である。処分を受けたXとは別の第三者の権利に関する違憲ではあるが、違憲の定めは当然無効と解すべきであり、さらに本件では間接的にXの学問の自由も侵害しているので、Xがそのことを主張することができる。
第2 大学側の処分を正当化する主張
 そもそも大学には一定の内部統制権が認められるので、本件停職処分に司法審査は及ばない。
 仮に司法審査が及ぶとして、規則6条の内容は合憲である。遺伝子治療は専門家にとってさえ難しいものであり、専門知識を持ち合わせていない一般人にすべての遺伝情報を与えたところで無用な不安を与えることこそあっても、益するところはない。
 また、Xには遺伝子治療の対象である疾病の原因となる遺伝子情報以外を開示したことに加えて、家族の同意を得ずに家族の遺伝子情報を開示したという規則6条違反もある。
第3 私自身の結論及び理由
 大学には一定の内部統制権があるとはいっても、「何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない」(32条)のであって、裁判を受ける権利を簡単に否定することはできない。全くの内部的な事柄ならともかく、本件停職処分は一般市民法秩序との関わりを有しているので、司法審査が及ぶ。
 また、Xは研究を進める上でCと密接な関係にあり、XがCの権利を主張しても不具合はないので、XがCの権利を援用しても差し支えない。
 規則6条の内容は、自己の情報をコントロールする権利を侵害するものとして、違法のそしりは免れない。遺伝子治療は難解で一般人には完全に理解できないとしても、担当者が適切に噛み砕いて説明することは十分に可能である。そして合理的な選択をするためというだけでなく、選択をした際に納得を感じるためにも、可能な限り多くの情報が与えられるべきである。遺伝子治療の対象である疾病の原因となる遺伝子情報だけをはっきりと切り分けることができるかどうか疑問であることに加えて、それが可能であってもその情報だけを与えられては他にも有用な情報があるのではないかという本人の疑念を晴らすことができない。そもそも自己情報のコントロール権は原則的に認められるべき性質のものであり、それが役立つかマイナスの影響をもたらすかを決めるのは本人である。
 可能な限り多くの情報が与えられるべきだとはいっても、他人のプライバシーを侵害してもよいことにはならない。他人の情報には他人の情報コントロール権が及ぶ。家族であってもその点を別様に解する理由はない。かえって家族だからこそ知られたくないこともあるだろう。この点に関して、XはCの家族に無断で家族の遺伝情報をCに開示したので、規則6条1項に違反している。
 以上より本件停職処分は違憲ではない。

以上

 

 

感想

どのように憲法上の主張をすればよいのかで困りました。[設問1]ではXの学問の自由と大学の自治とが対立するという構図を見逃していました。[設問2]では第三者(C)の憲法上の主張をXが援用するという発想が思いつかずに、無理矢理な答案を仕上げました。自己決定V.S.パターナリズムという論点や、家族の情報コントロール権という論点は見えていただけに悔やまれます。修正答案はまずまずの出来になっているのではないかなと思っています(おかしな点があればコメント欄でご指摘ください)。

 




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