浅野直樹の学習日記

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平成28年司法試験予備試験論文(法律実務基礎科目(民事))答案練習

問題

 司法試験予備試験用法文を適宜参照して,以下の各設問に答えなさい。

 

〔設問1〕
弁護士Pは,Xから次のような相談を受けた。

 

【Xの相談内容】
 「私は,自宅を建築するために,平成27年6月1日,甲土地の所有者であったAから,売買代金1000万円で甲土地を買い受け(以下「本件第1売買契約」という ,同月30日に売買 。)代金を支払い,売買代金の支払と引換えに私宛てに所有権移転登記をすることを合意しました。
 私は,平成27年6月30日,売買代金1000万円を持参してAと会い,Aに対して甲土地の所有権移転登記を求めましたが,Aから,登記識別情報通知書を紛失したので,もうしばらく所有権移転登記を待ってほしい,事業資金が必要で,必ず登記をするので先にお金を払ってほしいと懇願されました。Aは,大学時代の先輩で,私の結婚に際し仲人をしてくれるなど,長年お世話になっていたので,Aの言うことを信じ,登記識別情報通知書が見つかり次第,所有権移転登記をすることを確約してもらい,代金を支払いました。しかし,その後,Aからの連絡はありませんでした。
 ところが,平成27年8月上旬頃から,Yが私に無断で甲土地全体を占有し始め,現在も占有しています。
 私は,平成27年9月1日,Yが甲土地を占有していることを確認した上で,Yに対してすぐに甲土地を明け渡すよう求めました。これに対して,Yは,Aが甲土地の所有者であったこと,自分が甲土地を占有していることは認めましたが,Aから甲土地を買い受けて所有権移転登記を経由したので,自分が甲土地の所有者であるとして,甲土地の明渡しを拒否し,私に対して甲土地の買取りを求めてきました。
 甲土地の所有者は私ですので,Yに対し,甲土地について,所有権移転登記と明渡しを求めたいと考えています 」。

 弁護士Pは 【Xの相談内容】を受けて甲土地の登記事項証明書を取り寄せたところ,平成27 ,年8月1日付け売買を原因とするAからYへの所有権移転登記(詳細省略)がされていることが判明した。弁護士Pは 【Xの相談内容】を前提に,Xの訴訟代理人として,Yに対し,所有権に基づく妨害排除請求権としての所有権移転登記請求権及び所有権に基づく返還請求権としての土地明渡請求権を訴訟物として,甲土地について所有権移転登記及び甲土地の明渡しを求める訴訟(以下「本件訴訟」という )を提起することにした。

 以上を前提に,以下の問いに答えなさい。
(1) 弁護士Pは,本件訴訟に先立って,Yに対し,甲土地の登記名義の変更,新たな権利の設定及び甲土地の占有移転などの行為に備え,事前に講じておくべき法的手段を検討することとした。弁護士Pが採るべき法的手段を2つ挙げ,そのように考えた理由について,それらの法的手段を講じない場合に生じる問題にも言及しながら説明しなさい。
(2) 弁護士Pが 本件訴訟の訴状 以下 本件訴状 という において記載すべき請求の趣旨 (民事訴訟法第133条第2項第2号)を記載しなさい(附帯請求及び付随的申立てを考慮する必要はない 。)。
(3) 弁護士Pは,本件訴状において,甲土地の明渡請求を理由づける事実(民事訴訟規則第53条第1項)として,次の各事実を主張した。
 Aは,平成27年6月1日当時,甲土地を所有していた。
 〔                 〕
 〔                 〕
 上記イ及びウに入る具体的事実を,それぞれ答えなさい。

 

〔設問2〕
 弁護士Qは,本件訴状の送達を受けたYから次のような相談を受けた。

【Yの相談内容】
 「Aは,私の知人です。Aは,平成27年7月上旬頃,事業資金が必要なので甲土地を500万円で買わないかと私に持ちかけてきました。私は,同年8月1日,Aから甲土地を代金500万円で買い受け(以下「本件第2売買契約」という。) ,売買代金を支払って所有権移転登記を経由し,甲土地を資材置場として使用しています。したがって,甲土地の所有者は私です 」。

上記【Yの相談内容】を前提に,以下の問いに答えなさい。
 弁護士Qは,本件訴訟における答弁書(以下「本件答弁書」という )を作成するに当たり,抗弁となり得る法的主張を検討した 弁護士QがYの訴訟代理人として主張すべき抗弁の内容(当該抗弁を構成する具体的事実を記載する必要はない。)を述べるとともに,それが抗弁となる理由について説明しなさい。

 

〔設問3〕
 本件答弁書を受け取った弁護士Pは,Xに事実関係を確認した。Xの相談内容は以下のとおりである。

【Xの相談内容】
 「Yは,既に甲土地について所有権移転登記を経由しており,自分が甲土地の所有者であるとして,平成27年9月1日,甲土地を2000万円で買い取るよう求めてきました。Yは,事情を知りながら,甲土地を私に高値で買い取らせる目的で,本件第2売買契約をして所有権移転登記をしたことに間違いありません。このようなYが甲土地の所有権を取得したことを認めることはできません 」。

 上記【Xの相談内容】を前提に,弁護士Pは,再抗弁として,以下の事実を記載した準備書面を作成して提出した。
 〔                 〕
オ Yは,本件第2売買契約の際,Xに対して甲土地を高値で買い取らせる目的を有していた。

以上を前提に,以下の問いに答えなさい。
 上記エに入る具体的事実を答え,そのように考えた理由を説明しなさい。

 

〔設問4〕
 第1回口頭弁論期日において,本件訴状と本件答弁書が陳述され,第1回弁論準備手続期日において,弁護士P及び弁護士Qがそれぞれ作成した準備書面が提出され,弁護士Qは の ,〔設問3〕エ及びオの各事実を否認し,弁護士Pは,以下の念書(斜体部分は全て手書きである。以下「本件念書」という。)を提出し,証拠として取り調べられた。なお,弁護士Qは,本件念書の成立の真正を認めた。
 その後 2回の弁論準備手続期日を経た後 第2回口頭弁論期日において 本人尋問が実施され ,Xは,下記【Xの供述内容】のとおり,Yは,下記【Yの供述内容】のとおり,それぞれ供述した(なお,Aの証人尋問は実施されていない 。)。

 

念書

A殿

 今般,貴殿より甲土地を買い受けましたが,売却して利益が生じたときにはその3割を謝礼としてお渡しします。

          平成27年8月1日
            Y   Y印

 

【Xの供述内容】
 「Yは,建築業者で,今でも甲土地を占有し,資材置場として使用しているようですが,置かれている資材は大した分量ではなく,それ以外に運搬用のトラックが2台止まっているにすぎません。
 不動産業者に確認したところ,平成27年7月当時の甲土地の時価は,1000万円程度とのことでした。
 私は,平成27年9月1日,Y宅を訪れて,甲土地の明渡しを求めたところ,Yはこれを拒絶して,逆に私に2000万円で甲土地を買い取るよう求めてきましたが,私は納得できませんでしたので,その場でYの要求を拒絶しました。
 その後,私は,Aに対し,Yとのやりとりを説明して,Aが本件第2売買契約をして,甲土地をYに引き渡したことについて苦情を述べました。すると,Aは,私に対して謝罪し 『事業資金が必要だったので,やむなくYに甲土地を売却してしまった。その際,既にXに甲土地を売却していることをYに対して説明したが,Yはそれでも構わないと言っていた。Yから,代金500万円は安いが,甲土地を高く売却できたら謝礼をあげると言われたので,Yにその内容の書面を作成してもらった。』と事情を説明して 私に本件念書を渡してくれました ただ それ以降,Aとは連絡が取れなくなりました 」。

【Yの供述内容】
 「私は,建築業者で,現在,甲土地を資材置場として使用しています。本件第2売買契約に際して不動産業者に確認したところ,当時の甲土地の時価は,1000万円程度とのことでした。
 私は,平成27年9月1日,Xが自宅を訪れた際,甲土地を2000万円で買い取るよう求めたことはありません。Xと話し合って,Xが希望する価格で買い取ってもらえればと思って話をしただけで,例えば2000万円くらいではどうかと話したことはありますが,最終的にXとの間で折り合いがつきませんでした。
 Aは 本件第2売買契約をした時 甲土地を高く転売できたときには謝礼がほしいと言うので,本件念書を作成してAに渡しました。その際,AがXに甲土地を売却していたという話は聞いていません。」

以上を前提に,以下の問いに答えなさい。
 弁護士Pは 本件訴訟の第3回口頭弁論期日までに 準備書面を提出することを予定している。その準備書面において,弁護士Pは,前記【Xの供述内容】及び【Yの供述内容】と同内容のXYの本人尋問における供述並びに本件念書に基づいて〔設問3〕の再抗弁について,オの事実 ,(Yは 本件第2売買契約の際 Xに対して甲土地を高値で買い取らせる目的を有していた 」)が認められること(Yに有利な事実に対する反論も含む )を中心に〔設問3〕の再抗弁についての主張を展開したいと考えている。弁護士Pにおいて,上記準備書面に記載すべき内容を答案用紙1頁程度の分量で記載しなさい。

 

 

練習答案

〔設問1〕
 (1)
 甲土地の登記名義の変更を禁止する仮処分を検討すべきである。本件訴訟の訴訟物はYからXへの所有権移転登記請求権であり、Y以外の者が登記を得てしまうと、原則的には本件訴訟の効力が及ばなくなってしまい不都合だからである。また、同様の理由から、甲土地の占有を他の者に移転させることを禁止する仮処分も検討すべきである。
 (2)
 Yは、Xに対し、甲土地について、所有権移転登記請求手続をせよ。
 Yは、Xに対し、甲土地を明渡せ。
 (3)
 イ Xは、平成27年6月1日、Aより甲土地を買い受けた。
 ウ Yは、甲土地を占有している。

〔設問2〕
 主張すべき抗弁の内容は、Yが平成27年8月1日にAから甲土地を買い受け、その所有権移転登記を経由したことである。この主張はXの主張(本件第1売買)と両立するので否認ではなく抗弁である。この主張によりYが甲土地の所有権を取得し、その結果Xは甲土地の所有権を失うので、Xの請求を妨げるので抗弁として機能する。

〔設問3〕
 エ Yは、本件第2売買契約の際、本件第1売買について知っていた。
 このように考えたのは、Xがいわゆる背信的悪意者の再抗弁をして自らの請求を復活させようとしていると考えられるからである。Yは民法177条を根拠にして甲土地の所有権を有しているとの抗弁を提出しているところ、いわゆる背信的悪意者は同条の第三者に含まれないとするのが判例の立場だからである。背信的悪意者とは、本件に即して言うと、甲土地がすでにXに売り渡されていることを知っているのみならず、Xが登記を欠いていることを利用してXに害を与えようとする者である。害意はオの主張に現れているので、悪意を主張するためにエの主張が必要となる。

〔設問4〕
 Yが、本件第2売買契約の際、Xに対して甲土地を高値で買い取らせる目的を有していたことは明らかである。
 その理由として、本件念書の存在がまず挙げられる。甲土地の転売を予定していなければそのような念書を作ることは考えづらい。そしてYは不動産業者ではないので、転売先の候補としてX以外の人物を見つけるのは困難であろう。Yの主張するようにこの念書の作成をAから持ち掛けたとしても、転売の見込みが薄いにもかかわらず念書を作るのは考えづらいので、明示又は黙示にAがYのXに転売するという意図を汲み取っていたのであろう。
 Yにとって甲土地を使用する必要性が小さいということも理由になる。Xによると、Yは少しの資材とトラック2台だけを甲土地に置いている。場所にもよるが、少しの資材とトラック2台であれば、ひと月当たり数万円も出せば置くことができると思われる。確かに時価の半額というのは魅力的ではあるが、それでも500万円というのは大金であり、レンタルすれば月数万円ですむもののために支出するには高額である。
 XのほうからY宅を訪れているのではないかとYは反論するかもしれない。しかし甲土地を自宅建築のため切実に欲しているXが、このような事態になればYを訪問することは目に見えている。現にYが占有を始めてから1か月もしないうちにXがYを訪問している。Yとしてはもう少し様子を見てXから訪問がなければ自分から接触しようとすることもできた。XY間の具体的なやり取りについては多少の食い違いはあるものの、2000万円という金額を口にしたのはYであることは共通している。時価が1000万円なのに2000万円というのは通常思い至らないので、やはりYは当初からXに高値で売るつもりだったのであろう。

以上

 

 

修正答案

〔設問1〕
 (1)
 甲土地の処分禁止の仮処分及び占有移転禁止の仮処分(民事保全法23条1項)の申立てを検討すべきである。本件訴訟の訴訟物は、甲土地についてのYからXへの所有権移転登記請求権及び明渡し請求権であり、Y以外の者が登記を得たり占有を得たりしてしまうと、原則的には本件訴訟の効力が及ばなくなってしまい不都合だからである。
 (2)
 Yは、Xに対し、甲土地について、真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続をせよ。
 Yは、Xに対し、甲土地を明渡せ。
 (3)
 イ Aは、平成27年6月1日、Xに対し、甲土地を代金1000万円で売った。
 ウ Yは、甲土地を占有している。

〔設問2〕
 主張すべき抗弁の内容は、Yが平成27年8月1日にAから甲土地を買い受け、それに基づき所有権移転登記を経由したことである。この主張はXの主張(本件第1売買)と両立するので否認ではなく抗弁である。この主張によりYが甲土地の所有権を取得し、その結果Xは甲土地の所有権を失うので、Xの請求を妨げるので抗弁として機能する。

〔設問3〕
 エ Yは、本件第2売買契約の際、本件第1売買について知っていた。
 このように考えたのは、Xがいわゆる背信的悪意者の再抗弁をして自らの請求を復活させようとしていると考えられるからである。Yは民法177条を根拠にして甲土地の所有権を有しているとの抗弁を提出しているところ、いわゆる背信的悪意者は同条の第三者に含まれないとするのが判例の立場だからである。背信的悪意者とは、本件に即して言うと、甲土地がすでにXに売り渡されていることを知っているのみならず、Xが登記を欠いていることを利用してXに害を与えようとする者である。害意(背信性)を基礎づける評価根拠事実はオの主張に現れているので、悪意を主張するためにエの主張が必要となる。

〔設問4〕
 Yが、本件第2売買契約の際、Xに対して甲土地を高値で買い取らせる目的を有していたことは明らかである。
 その理由として、本件念書の存在がまず挙げられる。甲土地の転売を予定していなければそのような念書を作ることは考えづらい。そしてYは不動産業者ではないので、転売先の候補としてX以外の人物を見つけるのは困難であろう。Yの主張するようにこの念書の作成をAから持ち掛けたとしても、転売の見込みが薄いにもかかわらず念書を作るのは考えづらいので、明示又は黙示にAがYのXに転売するという意図を汲み取っていたのであろう。
 Yにとって甲土地を使用する必要性が小さいということも理由になる。Xによると、Yは少しの資材とトラック2台だけを甲土地に置いている。場所にもよるが、少しの資材とトラック2台であれば、ひと月当たり数万円も出せば置くことができると思われる。確かに時価の半額というのは魅力的ではあるが、それでも500万円というのは大金であり、レンタルすれば月数万円ですむもののために支出するには高額である。
 XのほうからY宅を訪れているのではないかとYは反論するかもしれない。しかし甲土地を自宅建築のため切実に欲しているXが、このような事態になればYを訪問することは目に見えている。現にYが占有を始めてから1か月もしないうちにXがYを訪問している。Yとしてはもう少し様子を見てXから訪問がなければ自分から接触しようとすることもできた。XY間の具体的なやり取りについては多少の食い違いはあるものの、2000万円という金額を口にしたのはYであることは共通している。時価が1000万円なのに2000万円というのは通常思い至らないので、やはりYは当初からXに高値で売るつもりだったのであろう。

以上

 

 

感想

全体としてまずまずできたとは思いますが、請求の趣旨の文言が不正確であるなどの改善点がありました。

 

 

 



平成28年司法試験予備試験論文(一般教養科目)答案練習

問題

 以下の[A][B]の文章を読んで,後記の各設問に答えなさい。

 

[A] インターネットの普及によって人々は,様々な情報に簡単にアクセスできるようになってきている。その一方で 「知識」と「情報」を概念的に区分することに固有の関心=利害(interest)を持つ人々も,いまだに存在する。例えば法律・医療・会計などの領域では,各種の専門家が一定の条件下で知識を独占的に運用し続けている。個々の学問分野において研究者が果たしている役割も,基本的にこれと同じである。すなわち研究者は 「斯界の権威」として学問的知識の生産や流通にコミットし続けている。

 

〔設問1〕
 一般に「学問的知識」が「学問的知識」であるためには,何が求められるであろうか。学問における専門家集団(いわゆる研究者のコミュニティー)の役割に触れつつ,15行程度で論述しなさい。

 

[B] インターネットの普及によって(地理的・空間的に)遠方にいる人々と,手軽にコミュニケーションを取ることが可能になってきている。その一方で (地理的・空間的に)身近な人々との関係が より疎遠になる傾向が認められる 人々が中間的な集団から解放されることを「個人化(individualization 」と呼ぶならば,グローバル化は個人化と軌を一にしている。グローバル化=個人化は今日,社会の各所に多大な影響を及ぼしつつある。例えば家族や地域のコミュニティーは,その中で恒常的な解体圧力にさらされている。

 

〔設問2〕
 グローバル化=個人化が進行する中で 「国家」はいかなる立場に置かれているであろうか。 具体的な事象を取り上げつつ,15行程度で論述しなさい。

 

 

練習答案

〔設問1〕
 一般に「学問的知識」が「学問的知識」であるためには、反証可能性に開かれていることが求められる。専門家集団が反証を試みてきた中で、その反証に耐えた知識が現時点での最良の「学問的知識」となる。このプロセスにより、「学問的知識」はたえずよりよいものになっていくのである。
 「学問的知識」と「情報」との違いもそこにある。論文に代表される「学問的知識」には出典や実験方法などが必ず記されていて、読者が反証を試みることができる。もっとも、実際に反証を試みるのはたいていの場合で専門家集団であろう。そうなると論文執筆者も専門家集団の目を意識してできるだけ客観的になろうと努めるはずである。他方で「情報」には出典や実験方法などが基本的には書かれていない。そうなるとその情報を主観的に信じるか信じないかということになり、客観性や進歩が保証されない。

 

〔設問2〕
 グローバル化=個人化が進行する中で、「国家」は影響が低下するという立場に置かれている。
 「国家」はグローブ(地球)でも個人でもないので、中間的な集団である。家族や地域のコミュニティーよりも規模が大きく、強大な主権を有しているとはいえ、「国家」もやはり影響力が低下している。
 タックスヘイブンがその具体的な事象である。投資会社やIT企業は、インターネットを活用することにより、事業所をどこに置くこともできる。そうなると法人税等の税金が最も低いところに事業所を構えるだろう。これがタックスヘイブンである。このようにして国家の徴税権が無効化されるのである。これについては、グローバルに対処するか、諦めて個人化の進むままにするかのどちらかしかない。

 

 

感想

出題趣旨を読んでもどう修正すればよいかわかりませんでした。「グローバル社会においては,国家そのものが「中間的な集団」として位置付けられつつあることを前提に,グローバル化(個人化)が,国家的な結合を弱める側面と再強化する側面を併せ持つことにつき,適切な具体例を挙げつつ説明することが求められる」と出題趣旨にありますが、結合を再強化する側面があるという根拠が不明です。

 



平成28年司法試験予備試験論文(民事訴訟法)答案練習

 

問題

 次の文章を読んで,後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。

 

【事例】
 Xは,XからY₁,Y₁からY₂へと経由された甲土地の各所有権移転登記について,甲土地の所有権に基づき,Y₁及びY₂(以下「Y₁ら」という。)を被告として,各所有権移転登記の抹消登記手続を求める訴えを提起した(以下,当該訴えに係る訴訟を「本件訴訟」という。)。本件訴訟におけるX及びY₁らの主張は次のとおりであった。

X の 主 張:甲土地は,Xの所有であるところ,Y₁らは根拠なく所有権移転登記を経た。Y₁らが主張するとおり,XはY₁に対して1000万円の貸金返還債務を負っていたことがあったが,当該債務は,XがY₂から借り受けた1000万円の金員を支払うことによって完済している。
 仮に,Y₁らが主張するように,甲土地について代物弁済によるY₁への所有権の移転が認められるとしても,Xは,その際,Y₁との間で,代金1000万円でY₁から甲土地を買い戻す旨の合意をしており,その合意に基づき,上記の1000万円の金員をY₁に支払うことによって,Y₁から甲土地を買い戻した。

Y₁らの主張:甲土地は,かつてXの所有であったが,XがY₁に対して負担していた1000万円の貸金返還債務の代物弁済により,XからY₁に所有権が移転した。これにより,Y₁は所有権移転登記を経た。
 その後,Y₂がY₁に対して甲土地の買受けを申し出たので,Y₁は甲土地を代金1000万円でY₂に売り渡したが,その際,Y₂は,Xとの間で,Xが所定の期間内にY₂に代金1000万円を支払うことにより甲土地をXに売り渡す旨の合意をした。しかし,Xは期間内に代金をY₂に対して支払わなかったため,Y₂は所有権移転登記を経た。

 

〔設問1〕
 本件訴訟における証拠調べの結果,次のような事実が明らかになった。
 「Y₁は,XがY₁に対して負担していた1000万円の貸金返還債務の代物弁済により甲土地の所有権をXから取得した。その後,Xは,Y₂から借り受けた1000万円の金員をY₁に対して支払うことによって甲土地をY₁から買い戻したが,その際,所定の期間内に借り受けた1000万円をY₂に対して返済することで甲土地を取り戻し得るとの約定で甲土地をY₂のために譲渡担保に供した。しかし,Xは,当該約定の期間内に1000万円を返済しなかったことから,甲土地の受戻権を失い,他方で,Y₂が甲土地の所有権を確定的に取得した。」

 

以下は,本件訴訟の口頭弁論終結前においてされた第一審裁判所の裁判官Aと司法修習生Bとの間の会話である。

 

修習生B:証拠調べの結果明らかになった事実からすれば,本件訴訟ではXの各請求をいずれも棄却する旨の判決をすることができると考えます。
裁判官A:しかし,それでは,①当事者の主張していない事実を基礎とする判決をすることになり,弁論主義に違反することにはなりませんか。
修習生B:はい。弁論主義違反と考える立場もあります。しかし,本件訴訟では,判決の基礎となるべき事実は弁論に現れており,それについての法律構成が当事者と裁判所との間で異なっているに過ぎないと見ることができると思います。
裁判官A:なるほど。そうだとしても,それで訴訟関係が明瞭になっていると言えるでしょうか。②あなたが考えるように,本件訴訟において,弁論主義違反の問題は生じず,当事者と裁判所との間で法律構成に差異が生じているに過ぎないと見たとして,直ちに本件訴訟の口頭弁論を終結して判決をすることが適法であると言ってよいでしょうか。検討してみてください。
修習生B:分かりました。

 

(1) 下線部①に関し,証拠調べの結果明らかになった事実に基づきXの各請求をいずれも棄却する旨の判決をすることは弁論主義違反であるとの立場から,その理由を事案に即して説明しなさい。
(2) 下線部②に関し,裁判官Aから与えられた課題について,事案に即して検討しなさい。

 

〔設問2〕(〔設問1〕の問題文中に記載した事実は考慮しない。)
 第一審裁判所は,本件訴訟について審理した結果,Xの主張を全面的に認めてXの各請求をいずれも認容する旨の判決を言い渡し,当該判決は,控訴期間の満了により確定した。
 このとき,本件訴訟の口頭弁論終結後に,Y₂が甲土地をZに売り渡し,Zが所有権移転登記を経た場合,本件訴訟の確定判決の既判力はZに対して及ぶか,検討しなさい。

 

練習答案

以下民事訴訟法については条数のみを示す。

〔設問1〕
 (1)
 下線部①にあるように、裁判所は、当事者の主張していない事実を基礎とする判決をしてはいけない。そもそも民事訴訟では訴えを提起するもしないも自由であり、そうした処分権主義からの当然の帰結として裁判所が当事者の主張に拘束されるのである。
 裁判所が当事者の主張していない事実を基礎とする判決をすると、当事者にとってはふい打ちとなり、裁判所を信頼できなくなるかもしれない。本件事実に即して言うと、Xは譲渡担保契約の成立やY₂の甲土地の所有権の確定時期について争いたかったのに、その機会が与えられなかったと感じるおそれがある。
 (2)
 まず、裁判所は求釈明(151条1項)をすべきである。下線部②のように前提するとしても、求釈明をするのが望ましい。
 また、譲渡担保であれば清算金が支払われるまでは受戻権を失わないと解されているので、そのあたりの事情を明確にしなければならない。具体的には甲土地の市場価格、Y₂からXへの清算金の支払の有無及びその時期を明らかにしなければならない。

〔設問2〕
 本件訴訟の確定判決の既判力はZに対して及ぶ。
 確定判決の既判力は当事者に及び(115条1項1号)、その当事者の口頭弁論終結後の承継人にも及ぶ(115条1項3号)。本件訴訟においてY₂は被告であり、当事者である。Zは本件訴訟の口頭弁論終結後にY₂から甲土地を買い受けて、本件訴訟の訴訟物である所有権移転登記の抹消登記手続義務を承継している承継人である。よって本件訴訟の確定判決の既判力はZに対して及ぶ。
 仮にZに対して既判力が及ばないとすると、本件訴訟のXのような立場の者は、いつまで経っても目的を達成できなくなってしまい不当である。
 他方Zとしては本件訴訟のことをY₂から聞いているはずであり、仮に聞いていないとしてもそれはZがY₂に対して責任追及すべきことなので、不当ではない。

以上

 

 

 

修正答案

以下民事訴訟法については条数のみを示す。

〔設問1〕
 (1)
 下線部①にあるように、裁判所は、当事者の主張していない事実を基礎とする判決をしてはいけない。そもそも民事訴訟では訴えを提起するもしないも自由であり、そうした処分権主義からの帰結として裁判所が当事者の主張に拘束されるのである。裁判所が、当事者が主張していない事実を認定してはいけないということは弁論主義の第1テーゼと呼ばれている。
 もっとも、この弁論主義の第1テーゼがあらゆる主張に妥当するわけではない。法律効果を直接発生させたり消滅させたりする要件となる主要事実については妥当させるべきであるが、そうした主要事実を推認させるという働きをする間接事実にまで妥当させると、裁判所の自由心証主義(247条)を実質的に制限してしまうことになるので、間接事実については妥当しない。
 本件訴訟における証拠調べの結果明らかとなった事実は、譲渡担保の受戻権喪失という事実である。他方で、Y1は代物弁済によりXから甲土地を取得したと主張し、Y₂はそのY1から売買により甲土地を取得したと主張し、XはY1への代物弁済を否定するとともに予備的にY1から甲土地を買い戻したと主張している。代物弁済や売買を基礎付ける事実と、譲渡担保の受戻権喪失を基礎付ける事実とでは、主要事実レベルで異なっているので、弁論主義の第1テーゼが妥当する。よって、裁判所は、当事者の主張していない事実を基礎とする判決をしてはいけない。
 (2)
 本件訴訟において、弁論主義違反の問題は生じず、当事者と裁判所との間で法律構成に差異が生じているに過ぎないと見たとしても、裁判所が当事者の主張していない事実を基礎とする判決をすると、当事者にとっては不意打ちとなり、裁判所を信頼できなくなるかもしれない。本件事案に即して言うと、Xは譲渡担保契約の成立やY₂の甲土地の所有権の確定時期について争いたかったのに、その機会が与えられなかったと感じるおそれがある。
 そこで、裁判所は釈明権(149条1項)を行使すべきである。まず、Y₁らに対して、譲渡担保の受戻権喪失という法律構成を主張するかどうかを確認すべきである。そしてY₁らがその主張をするとなると、譲渡担保であれば清算金が支払われるまでは受戻権を失わないと解されているので、Xに対して、そのあたりの事情について主張があるかどうか問いかけるべきである。具体的には甲土地の市場価格、Y₂からXへの清算金の支払の有無及びその時期についてである。
 裁判所の釈明権は、「〜することができる」という文言になっているが、公平かつ迅速な裁判という観点から、一定の場合には釈明義務が生じると考えられている。本件のように弁論主義の第1テーゼ違反の疑いがあり、仮に違反していないとしても当事者にとって不意打ちだと感じられる可能性が高い場合には、釈明義務が生じていると言える。よって、直ちに本件訴訟の口頭弁論を終結して判決をすることは違法となる。

〔設問2〕
 本件訴訟の確定判決の既判力はZに対して及ぶ。
 確定判決の既判力は当事者に及び(115条1項1号)、その当事者の口頭弁論終結後の承継人にも及ぶ(115条1項3号)。本件訴訟においてY₂は被告であり、当事者である。Zは、本件訴訟の口頭弁論終結後に、Y₂から甲土地を買い受けている。Zは、本件訴訟の訴訟物であるY₁及びY₂という登記の抹消義務そのものを承継しているわけではないが、抹消登記手続義務が付着した甲土地を買い受けているので、実体として承継人である。よって本件訴訟の確定判決の既判力はZに対して及ぶ。
 仮にZに対して既判力が及ばないとすると、本件訴訟のXのような立場の者は、訴訟の目的となっている不動産が転々と譲渡されると、いつまで経っても目的を達成できなくなってしまい不当である。
 他方、Zとしては、本件訴訟のことをY₂から聞いているはずであり、仮に聞いていないとしてもそれはZがY₂に対して責任追及すべきことなので、不当ではない。また、Zが、民法177条や94条2項の類推適用を主張する場合は、本件訴訟の既判力が及びつつも口頭弁論終結後の新事情として別途主張することが許されるので問題ない。

以上

 

感想

何を論じればよいのかわからず2ページも書けませんでした。釈明についても記述が不正確でした。

 



平成28年司法試験予備試験論文(商法)答案練習

問題

 次の文章を読んで,後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。

 

1.甲株式会社(以下「甲社」という。)は,平成18年9月に設立された株式会社であり,太陽光発電システムの販売・施工業を営んでいる。甲社の発行済株式の総数は1000株であり,そのうちAが800株,Bが200株を有している。甲社は,設立以来,AとBを取締役とし,Aを代表取締役としてきた。なお,甲社は,取締役会設置会社ではない。

2.Aは,前妻と死別していたが,平成20年末に,甲社の経理事務員であるCと再婚した。甲社は,ここ数年,乙株式会社(以下「乙社」という。)が新規に開発した太陽光パネルを主たる取扱商品とすることで,その業績を大きく伸ばしていた。ところが,平成27年12月20日,Aは,心筋梗塞の発作を起こし,意識不明のまま病院に救急搬送され,そのまま入院することとなったが,甲社は,Aの入院を取引先等に伏せていた。

3.平成27年12月25日は,甲社が乙社から仕入れた太陽光パネルの代金2000万円の支払日であった。かねてより,Aの指示に従って,手形を作成して取引先に交付することもあったCは,当該代金の支払のため,日頃から保管していた手形用紙及び甲社の代表者印等を独断で用いて,手形金額欄に2000万円,振出日欄に平成27年12月25日,満期欄に平成28年4月25日,受取人欄に乙社と記載するなど必要な事項を記載し,振出人欄に「甲株式会社代表取締役A」の記名捺印をして,約束手形(以下「本件手形」という。)を作成し,集金に来た乙社の従業員に交付した。
 乙社は,平成28年1月15日,自社の原材料の仕入先である丙株式会社(以下「丙社」という。)に,その代金支払のために本件手形を裏書して譲渡した。

4.Aは,意識を回復することのないまま,平成28年1月18日に死亡した。これにより,Bが適法に甲社の代表権を有することとなったが,甲社の業績は,Aの急死により,急速に悪化し始めた。
 Bは,Cと相談の上,丁株式会社(以下「丁社」という。)に甲社を吸収合併してもらうことによって窮地を脱しようと考え,丁社と交渉したところ,平成28年4月下旬には,丁社を吸収合併存続会社,甲社を吸収合併消滅会社とし,合併対価を丁社株式,効力発生日を同年6月1日とする吸収合併契約(以下「本件吸収合併契約」という。)を締結するに至った。

5.Aには前妻との間に生まれたD及びEの2人の子がおり,Aの法定相続人は,C,D及びEの3人である。Aが遺言をせずに急死したため,Aの遺産分割協議は紛糾した。そして,平成28年4月下旬頃には,C,D及びEの3人は,何の合意にも達しないまま,互いに口もきかなくなっていた。

6.Bは,本件吸収合併契約について,C,D及びEの各人にそれぞれ詳しく説明し,賛否の意向を打診したところ,Cからは直ちに賛成の意向を示してもらったが,DとEからは賛成の意向を示してもらうことができなかった。

7.甲社は,本件吸収合併契約の承認を得るために,平成28年5月15日に株主総会(以下「本件株主総会」という。)を開催した。Bは,甲社の代表者として,本件株主総会の招集通知をBとCのみに送付し,本件株主総会には,これを受領したBとCのみが出席した。A名義の株式について権利行使者の指定及び通知はされていなかったが,Cは,議決権行使に関する甲社の同意を得て,A名義の全株式につき賛成する旨の議決権行使をした。甲社は,B及びCの賛成の議決権行使により本件吸収合併契約の承認決議が成立したものとして,丁社との吸収合併の手続を進めている。なお,甲社の定款には,株主総会の定足数及び決議要件について,別段の定めはない。

 

〔設問1〕
 丙社が本件手形の満期に適法な支払呈示をした場合に,甲社は,本件手形に係る手形金支払請求を拒むことができるか。

 

〔設問2〕
 このような吸収合併が行われることに不服があるDが会社法に基づき採ることができる手段について,吸収合併の効力発生の前と後に分けて論じなさい。なお,これを論ずるに当たっては,本件株主総会の招集手続の瑕疵の有無についても,言及しなさい。

 

 

練習答案

以下会社法については条数のみを示す。

〔設問1〕
 丙社が本件手形の満期に適法な支払呈示をした場合に、乙社から丙社へと裏書が連続しているので、手形特有の問題はない。
 Cが、日頃から保管していた手形用紙及び甲社の代表者印等を独断で用いて本件手形を振り出したことが、甲者にとって有効となるかどうかが問題となり得る。
 代表取締役であるAが甲社にとって有効な行為をすることができることに異論はない。CがAの代理を有効になしているかが問題となる。
 本件以前にAはCに対して手形の振り出しの代理権を授与していたことが問題文からうかがえる。本件手形の振り出しはCの独断でありその代理の権限外の行為である。そして甲社が日頃から使用している手形用紙に「甲株式会社代表取締役A」の記名押印があるのを見た乙社は、Cに代理人の権限があると信ずべき正当な理由がある。乙社はAが入院していたことを知らなかったのであり、いつものようにCがAの指示を受けて代理をしていると思うのが当然である。よって民法110条の権限外の行為の表見代理により、Cの乙社に対する本件手形の振り出し行為はAに帰属し、その結果甲社にとっても有効となる。
 以上より、甲社は、本件手形に係る手形金支払請求を拒むことはできない。

〔設問2〕
第1 吸収合併の効力発生前
 一方を吸収合併存続会社とし他方を吸収合併消滅会社とする吸収合併は合併契約に定められた効力発生日にその効力が発生する。本件においては平成28年6月1日である。
 消滅株式会社は、効力発生日の前日までに、株主総会の決議によって、吸収合併契約の承認を受けなければならない(783条1項)。
 そこで、Dは、本件吸収合併契約の承認をした本件株主総会の決議の取消しの訴え(831条)という手段を採ることができる。
 Aの遺産分割協議が未了であるので、法定相続分に従って、DはAが有していた甲社株式800株の4分の1の持分を有してC、Eと共有している。共有であっても株主総会の決議の取消しの訴えの原告となることができると解する。そうしないと本件のような共有が問題となる内容を取り扱えないので不合理である。平成28年6月1日以前であれば、株主総会の決議の日から3か月以内という出訴期間の要件も満たす。
 Dは本件株主総会の招集の手続が法令に違反し、決議の方法が法令に違反する(831条1項1号)と主張する。
 先に述べたように、C、D、EはAが有していた甲社株式800株を共有している。しかし本件株主総会の通知がD、Eには送付されていない。これは299条違反である。
 また、C、D、Eが共有している甲社株式について、権利行使者の指定及び通知はされていなかったのに、それをCが単独で議決権行使するのを許しているので、106条に違反している。議決権の行使は共有物の管理であるので持分の価格の過半数で決する(民法252条)。本件ではCとD、Eが対立していて、どちらも過半数に達しない。106条但書は共有者の持分の過半数により議決権をどのように行使するかが決まった後で、手続的に権利行使者の指定及び通知がされていない場合に会社が同意することを認めたものであり、会社が好き勝手に議決権を行使できる者を指定できるわけではない。
 上記は重大な違反なので、裁量棄却(831条2項)の余地はないと考えられる。
第2 吸収合併の効力発生後
 Dは会社の組織に関する行為の無効の訴え(828条1項7号)によらなければならない。その際には平成28年12月1日までに訴えを提起しなければならない。この訴えの認容には対世効がある(838条)ので、認容には慎重さが求められる。第1で述べた違反は重大なので、Dが平成28年6月1日以後に詳しい事情を初めて知ったような場合には、請求が認容されるべきである。

以上

 

 

 

 

修正答案

以下会社法については条数のみを示す。

〔設問1〕
 丙社が本件手形の満期に適法な支払呈示をした場合に、乙社から丙社へと裏書が連続しているので、手形特有の問題はない。
 Cが、日頃から保管していた手形用紙及び甲社の代表者印等を独断で用いて本件手形を振り出したことが、甲者にとって有効となるかどうかが問題となり得る。
 代表取締役であるAが甲社にとって有効な行為をすることができることに異論はない。CがAの代理を有効になしているかが問題となる。
 Cは「A代理人C」と表示せずに直接「甲株式会社代表取締役A」と記名押印している。これは手形の偽造であり、被偽造者は原則的に責任を負わない。しかし、これを署名代理と見る余地もあり、民法の代理の規定を類推適用することができる。
 本件以前にAはCに対して手形の振り出しの代理権を授与していたことが問題文からうかがえる。本件手形の振り出しはCの独断でありその代理の権限外の行為である。そして甲社が日頃から使用している手形用紙に「甲株式会社代表取締役A」の記名押印があるのを見た乙社は、Cに代理人の権限があると信ずべき正当な理由がある。乙社はAが入院していたことを知らなかったのであり、いつものようにCがAの指示を受けて代理をしていると思うのが当然である。よって民法110条の権限外の行為の表見代理の類推適用により、Cの乙社に対する本件手形の振り出し行為はAに帰属し、その結果甲社にとっても有効となる。
 以上より、甲社は、本件手形に係る手形金支払請求を拒むことはできない。

〔設問2〕
第1 吸収合併の効力発生前
 一方を吸収合併存続会社とし他方を吸収合併消滅会社とする吸収合併は合併契約に定められた効力発生日にその効力が発生する。本件においては平成28年6月1日である。
 その吸収合併の効力発生前には、Dが、吸収合併をやめることの請求(784条の2)をすることができる。本件株主総会の決議の取消しの訴え(831条)という手段も採ることができるが、吸収合併をやめることの請求のほうがより直接的なので、こちらのほうが望ましい。仮処分(民事保全法23条)も検討すべきである。
 まず、本件吸収合併が法令に違反するかどうかを検討する。
 消滅株式会社は、効力発生日の前日までに、株主総会の決議によって、吸収合併契約の承認を受けなければならない(783条1項)。Aの遺産分割協議が未了であるので、法定相続分に従って、C、D、EはAが有していた甲社株式800株をそれぞれ2分の1、4分の1、4分の1ずつ共有している。その共有されている甲社株式について、権利行使者の指定及び通知はされていなかったのに、本件株主総会においてCが単独で議決権行使するのを許しているので、106条に違反している。議決権の行使は共有物の管理であるので持分の価格の過半数で決する(民法252条)。本件ではCとD、Eが対立していて、どちらも過半数に達しない。106条但書は共有者の持分の過半数により議決権をどのように行使するかが決まった後で、手続的に権利行使者の指定及び通知がされていない場合に会社が同意することを認めたものであり、会社が好き勝手に議決権を行使できる者を指定できるわけではない。
 なお、本件株主総会の通知がD、Eには送付されていないという本件株主総会の招集手続は違法ではない。126条3項の共有者の通知がない場合には、株式会社が株式の共有者に対してする通知又は催告は、そのうちの一人に対してすれば足りる(126条4項)からである。本件では126条3項の共有者の通知がなかった。
 次に、Dが消滅株式会社の株主であるかどうかを検討する。先述のようにDは甲社株式を共有しているが、共有であっても株主総会の決議の取消しの訴えの原告となることができると解する。そうしないと本件のような共有が問題となる内容を取り扱えないので不合理である。
 本件合併契約の詳細は明らかになっていないが、条件次第では消滅会社の株主であるDが不利益を受けるおそれがある。
 以上より、Dは、吸収合併をやめることの請求をすることができる。
第2 吸収合併の効力発生後
 Dは会社の組織に関する行為の無効の訴え(828条1項7号)によらなければならない。このように会社の組織に関する行為の無効の訴えが法定されている以上、本件株主総会の決議の取消しの訴え(831条)によることはできない。その際には平成28年12月1日までに訴えを提起しなければならない。この訴えの認容には対世効がある(838条)ので、認容には慎重さが求められる。第1で述べた違反は重大なので、請求が認容されるべきである。平成28年5月15日に自らが通知を受けていなかった本件株主総会が開催され、同年6月1日に効力が発生するという本件の状況下では、効力発生前に差止請求をしなかったことでDを責めることもできないであろう。

以上

 

 

 

感想

〔設問1〕の手形はわからないなりにも書けたほうかなと思います。〔設問2〕は吸収合併の差止請求を書けなかったのが致命的です。

 



平成28年司法試験予備試験論文(民法)答案練習

問題

 次の文章を読んで,後記の〔設問〕に答えなさい。

 

【事実】
1.Aは,自宅の一部を作業場として印刷業を営んでいたが,疾病により約3年間休業を余儀なくされ,平成27年1月11日に死亡した。Aには,自宅で同居している妻B及び商社に勤務していて海外に赴任中の子Cがいた。Aの財産に関しては,遺贈により,Aの印刷機械一式(以下「甲機械」という。)は,学生の頃にAの作業をよく手伝っていたCが取得し,自宅及びその他の財産は,Bが取得することとなった。

2.その後,Bが甲機械の状況を確認したところ,休業中に数箇所の故障が発生していることが判明した。Bは,現在海外に赴任しているCとしても甲機械を使用するつもりはないだろうと考え,型落ち等による減価が生じないうちに処分をすることにした。
 そこで,Bは,平成27年5月22日,近隣で印刷業を営む知人のDに対し,甲機械を500万円で売却した(以下では,この売買契約を「本件売買契約」という。)。この際,Bは,Dに対し,甲機械の故障箇所を示した上で,これを稼働させるためには修理が必要であることを説明したほか,甲機械の所有者はCであること,甲機械の売却について,Cの許諾はまだ得ていないものの,確実に許諾を得られるはずなので特に問題はないことを説明した。同日,本件売買契約に基づき,甲機械の引渡しと代金全額の支払がされた。

3.Dは,甲機械の引渡しを受けた後,30万円をかけて甲機械を修理し,Dが営む印刷工場内で甲機械を稼働させた。

4.Cは,平成27年8月に海外赴任を終えて帰国したが,同年9月22日,Bの住む実家に立ち寄った際に,甲機械がBによって無断でDに譲渡されていたことに気が付いた。そこで,Cは,Dに対し,甲機械を直ちに返還するように求めた。
 Dは,甲機械を取得できる見込みはないと考え,同月30日,Cに甲機械を返還した上で,Bに対し,本件売買契約を解除すると伝えた。
 その後,Dは,甲機械に代替する機械設備として,Eから,甲機械の同等品で稼働可能な中古の印刷機械一式(以下「乙機械」という。)を540万円で購入した。

5.Dは,Bに対し,支払済みの代金500万円について返還を請求するとともに,甲機械に代えて乙機械を購入するために要した増加代金分の費用(40万円)について支払を求めた。さらに,Dは,B及びCに対し,甲機械の修理をしたことに関し,修理による甲機械の価値増加分(50万円)について支払を求めた。
 これに対し,Bは,本件売買契約の代金500万円の返還義務があることは認めるが,その余の請求は理由がないと主張し,Cは,Dの請求は理由がないと主張している。さらに,B及びCは,甲機械の使用期間に応じた使用料相当額(25万円)を支払うようDに求めることができるはずであるとして,Dに対し,仮にDの請求が認められるとしても,Dの請求が認められる額からこの分を控除すべきであると主張している。

 

〔設問〕
 【事実】5におけるDのBに対する請求及びDのCに対する請求のそれぞれについて,その法的構成を明らかにした上で,それぞれの請求並びに【事実】5におけるB及びCの主張が認められるかどうかを検討しなさい。

 

 

練習答案

以下民法については条数のみを示す。

第1 Dの請求の法的構成
 (1)契約解除による原状回復
 事実4よりDは履行不能による解除権を行使している(543条)。履行不能とは物理的不能に限られず、本件のように事実上の不能も含まれる。よってこの解除は適法である。
 解除の効果として各当事者には原状回復義務が生じる(545条)。Bに対する支払済みの代金500万円の返還請求はこの原状回復義務を根拠にしている。
 (2)債務不履行による損害賠償
 債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる(415条)。BがCの同意を得られずに甲機械の所有権を確定的にDに移転できなかったのはBの責めに帰すべき事由である。Dが乙機械を購入するために要した増加代金分の40万円は、これによって生じた損害である。Bに対する40万円の支払請求はこの債務不履行による損害賠償を根拠にしている。
 (3)不当利得
 法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う(703条)。
 Dには甲機械を修理する法的義務はないので、修理による甲機械の価値増加分50万円は法律上の原因なく、現に甲機械を所有しているB及びCが受けた利益である。そしてその分の損失をDが受けている。修理代にかけたのは30万円であるが、20万円分の労務を提供したという主張である。その利益は現存している。
 B及びCに対する50万円の支払請求は、この不当利得を根拠としている。

第2 Dの請求並びにB及びCの主張の当否
 (1)契約解除による原状回復
 BからDへの本件売買契約の代金500万円の返還は認められる。先に述べた契約一般の規定からも、他人物売買で買主に移転することができなかったときの解除(561条前段)でもそれは同様である。Dはすでに甲機械を返還しているので、同時履行の抗弁(546条、533条)も問題とはならない。
 (2)債務不履行による損害賠償
 他人物売買の場合は、契約の時においてその権利が売主に属しないことを知っていたときは、損害賠償の請求をすることができない(561条後段)という特則がある。これは他人物売買では買主がその権利を得られない可能性が十分にあることを含んだ上で契約しているのだから、損害賠償請求をするのは不当であるという趣旨である。本件売買契約時にBが、甲機械の所有者はCであることを伝えていたので、Dは他人物であることにつき悪意である。Bが確実に許諾を得られるはずだと説明したのは取引行為によくある誇張表現であり、特に法的な意味はない。よってDのBに対する増加代金分の費用40万円の請求は認められない。
 (3)不当利得
 DのB及びCに対する不当利得50万円の支払請求は認められる。Dによる修理の労務提供が20万円であるかどうかはわからないが、それを否定する積極的な材料もなく、印刷業を営み甲機械を使いこなしていたという専門性から考えても不当であるとは考えづらい。
 (4)使用料相当額25万円の控除
 甲機械の使用期間に応じた使用料相当額は甲機械の果実であり、それをB及びCに返還せよという主張を理解できなくはない。しかしそれならばDが平成27年5月22日に支払った本件売買契約の代金500万円からの果実(利息)をBからDに返還しなければならない。これらをわざわざ計算してお互いに返還するというのははんざつなので、本件のような双務契約の解除の場合はお互いに果実を返還せずともよいと考えるのが合理的である。よってこのB及びCの主張は認められない。
 (5)結論
 以上より、DのBに対する支払済みの代金500万円についての請求と、B及びCに対する修理による甲機械の価値増加分50万円の支払い請求が認められ、その余の請求及び控除は認められない。

以上

 

 

 

修正答案

以下民法については条数のみを示す。

第1 Dの請求の法的構成
 (1)契約解除による原状回復
 事実4よりDは履行不能による解除権を行使している(543条)。履行不能とは物理的不能に限られず、本件のように事実上の不能も含まれる。よってこの解除は適法である。
 解除の効果として各当事者には原状回復義務が生じる(545条)。Bに対する支払済みの代金500万円の返還請求はこの原状回復義務を根拠にしている。
 (2)債務不履行による損害賠償
 債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる(415条)。BがCの同意を得られずに甲機械の所有権を確定的にDに移転できなかったのはBの責めに帰すべき事由である。Dが乙機械を購入するために要した増加代金分の40万円は、これによって生じた損害である。Bに対する40万円の支払請求はこの債務不履行による損害賠償を根拠にしている。
 (3)占有者による費用の償還請求
 占有者が占有物の改良のために支出した金額その他の有益費については、その価格の増加が現存する場合に限り、回復者の選択に従い、その支出した金額又は増価額を償還させることができる(196条2項本文)。
 Dは甲機械を占有していた。Dが30万円をかけて甲機械に行った修理は、それにより甲機械の価値が50万円増大しているので、必要費ではなく有益費である。そしてその価値の増加は現存している。増価額は50万円である。よってB及びCに対する50万円の支払請求は、この占有者による費用の償還請求を根拠としている。

第2 Dの請求並びにB及びCの主張の当否
 (1)契約解除による原状回復
 BからDへの本件売買契約の代金500万円の返還は認められる。先に述べた契約一般の規定からも、他人物売買で買主に移転することができなかったときの解除(561条前段)でもそれは同様である。Dはすでに甲機械を返還しているので、同時履行の抗弁(546条、533条)も問題とはならない。
 (2)債務不履行による損害賠償
 他人物売買の場合は、契約の時においてその権利が売主に属しないことを知っていたときは、損害賠償の請求をすることができない(561条後段)という特則がある。これは他人物売買では買主がその権利を得られない可能性が十分にあることを含んだ上で契約しているのだから、損害賠償請求をするのは不当であるという趣旨である。本件売買契約時にBが、甲機械の所有者はCであることを伝えていたので、Dは他人物であることにつき悪意である。Bが確実に許諾を得られるはずだと説明したのは取引行為によくある誇張表現であり、特に法的な意味はない。よってDのBに対する増加代金分の費用40万円の請求は認められない。
 (3)占有者による費用の償還請求
 DのB及びCに対する占有者による費用の償還請求を根拠とした50万円の支払請求は、30万円の限度で認められる。B及びCは甲機械の返還を受けた回復者であり、占有者が支出した金額又は増価額のどちらを償還するか選択することができる。前者は30万円で後者は50万円であるため、合理的に考えれば前者を選択するはずである。
 DはB及びCに請求しているが、厳密には甲機械の返還を受けた所有者のCに対して請求すべきである。もっとも、B及びCが親子ということもあり一体として請求に応じるのであればこの点は問題とならない。
 (4)使用料相当額25万円の控除
 甲機械の使用期間に応じた使用料相当額は甲機械の果実であり、それをB及びCに返還せよという主張は190条1項の悪意の占有者による果実の返還を根拠にしていると考えられる。しかしそれならばDが平成27年5月22日に支払った本件売買契約の代金500万円からの果実(利息)をBからDに返還しなければならない。これらをわざわざ計算してお互いに返還するというのは繁雑なので、本件のような双務契約の解除の場合はお互いに果実を返還せずともよいと考えるのが合理的である。よってこのB及びCの主張は認められない。
 (5)結論
 以上より、DのBに対する支払済みの代金500万円についての請求と、B及びCに対するDが支出した修理費用30万円の支払い請求が認められ、その余の請求及び控除は認められない。

以上

 

感想

占有者による費用の償還請求ではなく不当利得だと考えたのはまずかったです。占有権の効力がすっかり抜け落ちていました。

 




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