再現答案
以下刑事訴訟法については条数のみを示す。
〔設問1〕
第1 捜査の適法性一般
197条1項ただし書より、強制の処分は、刑事訴訟法に特別の定のある場合でなければ、これをすることができない。「強制の処分」とは、対象者の明示または想定される意思に反し、憲法で保障される重要な権利を制約する処分のことをいう。
「強制の処分」ではない処分(任意捜査)については、197条1項本文から、必要性があることを前提として、被疑事件の重大さなど事案の性質を考慮しつつ、社会通念上相当な範囲で許容されると解する。任意捜査だからといって無制限に許容されるわけではない。
第2 【捜査①】の領置の適法性
大家から任意提出を受けて領置しているので、大家の意思に反するということはない。
これは甲がアパートの敷地内にあるごみ置場に投棄したごみ袋を領置したものであるが、ごみ袋からはプライバシーをうかがい知ることができるので、甲の想定される意思に反すると考えられる。私生活をみだりにのぞかれないというプライバシーの権利は、日本国憲法13条で保障される。もっとも、本件ごみ袋は、大家の確認を経て、公道上のごみ集積所に搬出することが予定されており、甲もそれに同意していた。よって、このごみ袋を領置することは、プライバシーの権利を制約するとしても軽微であり、憲法で保障される重要な権利を制約する処分には当たらない。本当に見られたくないものは、別のところに自分で捨てることもできた。よって、「強制の処分」ではない。
110番通報の際にVから伝えられたことと防犯カメラの映像から甲が本件事件の犯人である可能性が高いと考えられていたので、本件事件の手がかりを得るために甲が出したごみ袋を領置する必要があった。本件被疑事件は住居侵入・強盗殺人未遂事件という重大事件であり、このごみ袋の所有権・占有権を甲は放棄しており、プライバシーを侵害するとしても軽微であるから、社会通念上相当な範囲である。よって、任意捜査として可能である。
以上より、【捜査①】の領置は、適法である。
第3 【捜査②】の領置の適法性
この領置により、DNA型の情報が取得される。DNA型は、地球上で一人というレベルで特定されることに加え、病気の有無や親族関係も把握されかねないので、その情報を取得されることは望まないのが一般的であるから、甲はDNA型の情報取得につながる本件領置に同意しなかったことが想定される(仮に尋ねられたとしたら同意しなかったものと思われる)。自己に関する情報をどこに取得させてどこに取得させないかを決める自己情報コントロール権は、日本国憲法13条で保障される。甲は炊き出しで食事の提供を受けただけであるので、その自己情報コントロール権を放棄していたとは考えられない(一般に、炊き出しで食事の提供を受けることによりDNA型の情報を取得されることは想定されない)。よって、本件領置は、対象者である甲の想定される意思に反し、憲法で保障される重要な権利を制約する処分であって、「強制の処分」に当たる。
これは差押えであるが、218条1項にも220条1項2号にも基づいていない(令状によっておらず、逮捕の際の差押えでもない)。
以上より、【捜査②】の領置は、違法である。
〔設問2〕
第1 実況見分調書の証拠能力一般
実況見分調書は、書面である。よって、320条1項で証拠とすることができないか(証拠能力が否定されるか)が問題となる。同項で公判期日における供述に代わる書面の証拠能力が原則として否定されているのは、人の供述には知覚・記憶・表現の各段階で誤りが混入しやすく、公判期日において裁判官の観察と反対尋問にさらして初めて証拠とすることができるようにする趣旨である(伝聞法則、伝聞証拠の禁止)。よって、その内容の真実性に依拠して要証事実を証明しようとする書面は、伝聞証拠として、原則的に証拠能力が否定される。
第2 【実況見分調書①】の証拠能力
【実況見分調書①】の要証事実は、「甲がV方の施錠された玄関ドアの錠を開けることが可能であったこと」である(要証事実は、そのままでは意味をなさないような例外的な場合を除き、当事者が主張する立証趣旨と一致する)。その要証事実を、本件実況見分調書のQの供述の真実性に依拠して、証明しようとしている。よって、320条1項より、伝聞証拠として原則として証拠能力が否定される。
321条3項で検証の結果を記載した書面について伝聞例外が定められているのは、同項記載の主体が専門性に基づいて記載することは、類型的に正確性が高いので、同項の要件で証拠能力を認めるという趣旨である。実況見分は、強制の処分である検証とは異なり、任意捜査であるが、同項記載の主体が専門性に基づいて記載するという点では共通している(五官を通じて感知した内容を記載するというのは同じである)。よって、実況見分調書について、321条3項を準用することができる。
以上より、本件実況見分調書のQが供述した部分については、Qが公判期日において証人として尋問を受け、その真正に作成されたものであること(確かに自分が作成したことと、内容が正確であること)を供述したときは、証拠能力が認められる。
本件実況見分調書の甲の供述部分(【事例】5の『』部分)については、その供述内容の真実性に依拠して要証事実を証明しようとしているのではなく、Qの供述部分に付加してQが甲からそのように聞いたことを根拠として要証事実を証明しようとしている。よって、この部分については320条1項で証拠能力が否定されることはない。
以上より、【実況見分調書①】は、その全部について、証拠能力が認められる。
第3 【実況見分調書②】の証拠能力
第2と同様に考えて、【実況見分調書②】の要証事実は、「被害再現状況」である。その要証事実を、本件実況見分調書のR供述部分、V供述部分(【事例】6の「」内の供述は、犯人から殴られた私、すなわち供述者が、Vである)、写真を一体としてその内容の真実性に依拠して、証明しようとしている。
Rの供述部分については、第2で述べたのと同じように、Rが公判期日において証人として尋問を受け、その真正に作成されたものであることを供述したときは、証拠能力が認められる。Vの供述部分について、確かにVからそのように聞いたということも、Rは供述する必要がある。
Vの供述部分については、321条1項3号に沿って検討する。供述者であるVは死亡しており、公判準備又は公判期日において供述することができない。本件事件は、他に目撃者がいるわけでもなく、甲は黙秘に転じており、特に強盗殺人未遂の殺人未遂の部分については、Vの供述が犯罪事実の存否の証明に欠くことができない。Vは、自発的に検察官Rに対して供述しており、その供述が特に信用すべき情況の下にされたものであるときに当たる(同号ただし書には該当しない)。よって、321条1項3号の伝聞例外として、証拠能力が認められる。
写真は、それ自体は供述証拠ではなく、「このようにして」のようにRまたはVの供述と一体となっている部分はRまたはVの供述として、証拠能力が認められる。
以上より、【実況見分調書②】の証拠能力は、その全部が一体として、認められる。
以上
感想
これは過去問にも近い典型論点だから、しっかりと準備している人はきちんと書けるのだろうなと思いました(私の記述は怪しいです)。〔設問1〕の【捜査①】について実際に記載した答案では、アパートの敷地内にあるごみ置場と道上のごみ集積所がごっちゃになっていたような気もします。〔設問2〕の【実況見分調書②】の「このようにして、犯人は、右手に持っていたゴルフクラブで私の左側頭部を殴りました。」の供述者はVとしか考えられないのですが、その供述者がVであると問題文に明記されていないことが引っかかり、上記のように()内でその旨を断りました。