令和4(2022)年司法試験予備試験論文再現答案刑事訴訟法

再現答案

 以下刑事訴訟法についてはその条数のみを示す。

第1 下線部①の行為の適法性
 日本国憲法35条で、逮捕又は令状がある場合を除いて、何人も、その所持品について、捜索及び押収を受けることのない権利が保障されている。その令状については、218条及び219条に詳しく規定されている。下線部①の行為が、その令状(捜索差押許可状)の範囲内であるかどうかを検討する。
 まず、差し押さえるべき物は「覚醒剤、注射器、計量器等」であり、本件キャリーケースの中に入る大きさなので、その点で本件キャリーケースは令状の範囲内である。
 次に、捜索すべき場所はA方居室であり、本件キャリーケースは捜索開始時にA方居室にあったのだから、その点でも令状の範囲内である。通常はA方居室に存在しないような物であれば別論となる可能性はあるが、本件キャリーケースにそのような事情はない。
 本件令状には、Aを被疑者とする被疑事件と記載されており、その点が問題となり得る。本件キャリーケースをAではなく甲が所持していたからである。しかし、甲はAの妻でAと同居しており、同居の夫婦は家の中にあるものをそこまで区別しないのが通常であるため、本件キャリーケースはAを被疑者とする被疑事件に関する物であると考えてもよい。
 以上より、本件キャリーケースは、本件令状の範囲内である。
 甲の承諾を得ることなく本件キャリーケースのチャックを開けてその中を捜索したことは、222条1項に準用される111条1項の必要な処分として許容される。「必要な処分」としてすることができるかどうかは、必要性と相当性から判断される。本件では、再三にわたりキャリーケースを開けて中を見せるように求められた甲が拒否し続けているため必要性があり、無施錠のキャリーケースのチャックを開けてその中を捜索するという行為は相当である。
 以上より、下線部①の行為は適法である。

第2 下線部②の行為の適法性
(1)本件ボストンバッグについて
 本件ボストンバッグが本件令状の範囲内であるかどうかを、第1と同じように検討する。
 本件ボストンバッグが大きさ的に本件令状の範囲内であることは第1のキャリーケースと同様である。
 A方居室という捜索すべき場所については、捜査開始時に本件ボストンバッグはA方居室になかったので、問題となり得る。もっとも、令状には捜索開始時刻が記載されておらず、たまたま捜索開始時に捜索すべき場所になかったとしても、通常その場所に存在するものであれば、令状の範囲内であると解する。本件ボストンバッグは、乙が特に抵抗せずA方居室に持ち込んだことから、通常A方居室に存在するものであると考えられる。よってこの点においても令状の範囲内である。
 本件ボストンバッグが、Aを被疑者とする被疑事件に関する物であるかが問題となり得る。Aと乙とは親子であり、夫婦ほどではないとしても同居の親子が物を共有・共用することは珍しくないので、本件ボストンバッグがAを被疑者とする被疑事件に関する物であると言える。
 以上より、本件ボストンバッグは、令状の範囲内である。
(2)乙の身体について
 日本国憲法33条で現行犯又は令状がなければ逮捕されないことが規定されている。また、刑法208条で暴行罪を処罰することが規定されている。Pらが乙を羽交い締めにしたことは、逮捕には至らないとしても、暴行には該当する。もっとも、正当行為(刑法35条)であれば罰されないのであり、下線部②の行為の適法性の検討に戻る。
 先にも述べたように、111条1項の必要な処分は、必要性と相当性から判断する。本件ボストンバッグは、一応は本件令状の範囲内であるとしても、その中にAを被疑者とする被疑事件について差し押さえるべき物が入っている可能性は低い。乙は再三にわたり中を見せることを拒否していたのだけれども、乙を羽交い締めにするということは、相当性を逸脱している。さらに説得を続ける、すきを見て確認するといった、他の手段が考えられるからである。よって必要な処分には含まれない。
(3)結論
 以上より、下線部②の行為は違法である。

以上

感想

 令状の範囲内であるかどうかという検討枠組みは合っていると思うのですが、うまく書けたという感じはありません。



  • 本文に「甲はコートを着て靴を履き、キャリーケースを所持していた」とあるため、持ち出される恐れがあり、緊急性があり、有形力を行使する必要性が高いです。一方、乙は帰宅したところであり、逃亡の恐れはなく、緊急性がないため、捜索差押許可状をとって捜索・差し押さえをすることが可能であったことにも触れるとよいかもしれません。事例を拾うという意味で。

    • 確かにそうですね。ご指摘を受けて、持ち出される恐れという緊急性に触れたほうがよいと思いました。ありがとうございます。

  • 私は、浅野さんの書かれている「必要な処分」は「必要性と相当性」から判断されるとする見解で良いのではないかと思います。
    刑訴法の注釈書をいろいろ調べましたが、任意捜査ではなく、強制処分において「緊急性」を適法性要件とする見解は見当たりませんでした。
    それに、捜索差押えにおいては執行中の出入禁止(112条)処分を採ることが可能であり、実際にも捜索差押え場所にどのくらいの関係者がいるか捜査機関には予想可能であるため、十分な警備用の人員を用意することが可能であるため、捜索差押場所からの関係者の逃亡を防止することは比較的容易と考えられるからです。

    • いろいろと調べられたことも共有していただきありがとうございます。おっしゃられることに説得力を感じました。緊急性と明示したほうがよいのか、必要性に含めたらよいのか、私には判断がつきませんが、キャリーケースを持ち出そうとしていたという事実は拾ったほうがよいのだろうとは思います。ただ、「甲はコートを着て靴を履き、キャリーケースを所持していた」という本文の記載からは、甲が司法警察員Pらの訪問に気づいてからキャリーケースを準備したのか、たまたま旅行か何かに出かけようとしていたときにPらが訪問したのか、わかりませんでした。Aや甲が捜査を察知していたことを窺わせる事情も記載されておらず、何を根拠に「Pは、甲が同室内から覚醒剤の密売に関する物を同キャリーケースに入れて持ち出そうとしていたのではないかとの疑いを抱」いたのかなと疑問を感じました。それで答案では触れることができませんでした。


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