浅野直樹の学習日記

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平成24年司法試験論文民事系第3問答案練習

問題

〔第3問〕(配点:100〔〔設問1〕から〔設問3〕までの配点の割合は,3.5:4:2.5〕)
次の文章を読んで,後記の〔設問1〕から〔設問3〕までに答えなさい。

 

【事例】
 Xは,Aに対し,300万円を貸し渡したが,返済がされないまま,Aについて破産手続が開始された。Xは,BがAの上記貸金返還債務を連帯保証したとして,Bに対し,連帯保証債務の履行を求める訴えを提起した(以下,この訴訟を「訴訟1」という。)。

 第1回口頭弁論期日において,被告Bは,保証契約の締結の事実を否認した。
 原告Xは,書証として,連帯保証人欄にBの記名及び印影のある金銭消費貸借契約書兼連帯保証契約書(資料参照。以下「本件連帯保証契約書」という。なお,その作成者は証拠説明書においてX,A及びBとされている。)を提出した。
 Bは,本件連帯保証契約書の連帯保証人欄の印影は自分の印章により顕出されたものであるが,この印章は,日頃から自分の所有するアパートの賃貸借契約の締結等その管理全般を任せている娘婿Cに預けているものであり,押印の経緯は分からないと述べた。Xが主張の補充を検討したいと述べたことから,裁判所は,口頭弁論の続行の期日を指定した。

 以下は,第1回口頭弁論期日の後にXの訴訟代理人弁護士Lと司法修習生Pとの間でされた会話である。
弁護士L:証拠として本件連帯保証契約書がありますから,立証が比較的容易な事件だと考えていましたが,予想していなかった主張が被告から出てきました。被告の主張は,現在のところ裏付けもなく,そのまま鵜呑みにすることはできませんから,当初の請求原因を維持し,本件連帯保証契約書を立証の柱としていく方針には変わりはありません。もっとも,Xによれば,本件連帯保証契約書の作成の経緯は「主債務者AがCとともにX方を訪れた上,連帯保証人欄にあらかじめBの記名がされ,Bの押印のみがない状態の契約書を一旦持ち帰り,後日,AとCがBの押印のある本件連帯保証契約書を持参した」ということのようですから,こちら側から本件連帯保証契約書の作成状況を明らかにしていくことはなかなか難しいと思います。

修習生P:二段の推定を使えば,本件連帯保証契約書の成立の真正を立証できますから,それで十分ではないでしょうか。

弁護士L:確かに,保証契約を締結した者がB本人であるとの前提に立てば,二段の推定を考えていけば足りるでしょう。他方で,仮にCがBから印章を預かっていたとすると,CがBの代理人として本件連帯保証契約書を作成したということも十分考えられます。

修習生P:しかし,本件連帯保証契約書には「B代理人C」と表示されていないので,代理人Cが作成した文書には見えないのですが。

弁護士L:代理人が本人に代わって文書を作成する場合に,代理人自身の署名や押印をせず,直接本人の氏名を記載したり,本人の印章で押印したりする場合があり,このような場合を署名代理と呼んでいます。その法律構成については,考え方が分かれるところですが,ここでは取りあえず通常の代理と同じであると考え,かつ,代理人の作成した文書の場合,その文書に現れているのは代理人の意思であると考えると,本件連帯保証契約書の作成者は代理人Cとなります。
 そこで,私は,念のため,第2の請求原因として,Bではなくその代理人Cが署名代理の方式によりBのために保証契約を締結した旨の主張を追加し,敗訴したときには無権代理人Cに対し民法第117条の責任を追及する訴えを提起することを想定して,Cに対し,訴訟告知をしようと考えています。

修習生P:訴訟告知ですか。余り勉強しない分野ですのでよく調べておきます。しかし,本件連帯保証契約書を誰が作成したかが明らかでないからといって,第2の請求原因を追加する必要までありますか。裁判所が審理の結果を踏まえてCがBの代理人として保証契約を締結したと認定すれば足りるのではないでしょうか。最高裁判所の判決にも,傍論ながら,契約の締結が当事者本人によってされたか,代理人によってされたかは,その法律効果に変わりがないからとして,当事者の主張がないにもかかわらず契約の締結が代理人によってされたものと認定した原判決が弁論主義に反しないと判示したもの(最高裁判所昭和33年7月8日第三小法廷判決・民集12巻11号1740頁)があるようですが。

弁護士L:その判例の読み方にはやや難しいところがありますから,もう少し慎重に考えてください。先にも言ったとおり,本件連帯保証契約書の作成者が代理人Cであるという前提に立つと,本件連帯保証契約書において保証意思を表示したのは代理人Cであると考えられ,その効果がBに帰属するためには,BからCに対し代理権が授与されていたことが必要となります。そうだとすると,第2の請求原因との関係では,BからCへの代理権授与の有無が主要な争点になるものと予想され,本件連帯保証契約書が証拠として持つ意味も当初の請求原因とは違ってきますね。なぜだか分かりますか。

修習生P:二段の推定が使えるかどうかといったことでしょうか。

弁護士L:良い機会ですから,当初の請求原因(請求を基礎付ける事実)が,①XA間における貸金返還債務の発生原因事実,②XB間における保証契約の締結,③②の保証契約が書面によること及び④①の貸金返還債務の弁済期の到来であり,第2の請求原因(請求を基礎付ける事実)が,①XA間における貸金返還債務の発生原因事実,②代理人Cが本人Bのためにすることを示してXとの間で保証契約を締結したこと(顕名及び法律行為),③②の保証契約の締結に先立って,BがCに対し,同契約の締結についての代理権を授与したこと(代理権の発生原因事実),④②の保証契約が書面によること及び⑤①の貸金返還債務の弁済期の到来であるとして,処分証書とは何か,それによって何がどのように証明できるかといった基本に立ち返って考えてみましょう。

 

〔設問1〕
 (1) Xが当初の請求原因②の事実を立証する場合と第2の請求原因③の事実を立証する場合とで,本件連帯保証契約書が持つ意味や,同契約書中にBの印章による印影が顕出されていることが持つ意味にどのような違いがあるか。弁護士Lと司法修習生Pの会話を踏まえて説明せよ。
 (2) Xが第2の請求原因を追加しない場合においても,裁判所がCはBの代理人として本件連帯保証契約書を作成したとの心証を持つに至ったときは,裁判所は,審理の結果を踏まえて,CがBの代理人として保証契約を締結したと認定して判決の基礎とすることができるというPの見解の問題点を説明せよ。

 

【事例(続き)】
 第2回口頭弁論期日において,原告Xは,第2の請求原因として,被告Bではなくその代理人Cが署名代理の方式によりBのために保証契約を締結した旨の主張を追加した。Bは,第2の請求原因に係る請求原因事実のうち,保証契約の締結に先立ちBがCに対し同契約の締結についての代理権を授与したこと(代理権の発生原因事実)を否認し,代理人Cが本人Bのためにすることを示してXとの間で保証契約を締結したこと(顕名及び法律行為)は知らないと述べた。
 第3回口頭弁論期日において,Xは,第3の請求原因として,Xは,Cには保証契約を締結することについての代理権があるものと信じ,そのように信じたことについて正当な理由があるから,民法第110条の表見代理が成立する旨の主張を追加した。Bは,表見代理の成立の要件となる事実のうち,基本代理権の授与として主張されている事実は認め,その余の事実を否認した。
 同期日の後,Xは,Cに対し,訴訟告知をし,その後,BもCに対して訴訟告知をしたが,Cは,X及びBのいずれの側にも参加しなかった。

 裁判所は,審理の結果,表見代理が成立することを理由として,XのBに対する請求を認容する判決を言い渡し,同判決は確定した。Bは,CがBから代理権を与えられていないにもかかわらず,Xとの間で保証契約を締結したことによって訴訟1の確定判決において支払を命じられた金員を支払い,損害を被ったとして,Cに対し,不法行為に基づき損害賠償を求める訴えを提起した(以下,この訴訟を「訴訟2」という。)。

 

〔設問2〕
 訴訟2においてBが,①CがBのためにすることを示してXとの間で保証契約を締結したこと,②①の保証契約の締結に先立って,Cが同契約の締結についての代理権をBから授与されたことはなかったこと,を主張した場合において,Cは,上記①又は②の各事実を否認することができるか。Bが訴訟1においてした訴訟告知に基づく判決の効力を援用した場合において,Cの立場から考えられる法律上の主張とその当否を検討せよ。

 

【事例(続き)】
 以下は,訴訟1の判決が確定した後に原告Xの訴訟代理人弁護士Lと司法修習生Pとの間でされた会話である。

弁護士L:今回は幸いにして勝訴することができましたが,私たちの依頼者Xとしては,仮にBに敗訴することがあったとしても,少なくともCの責任は問いたいところでした。そこで,B及びCに対する各請求がいずれも棄却されるといういわゆる「両負け」を避けるため,今回は訴訟告知をしましたが,民事訴訟法にはほかにも「両負け」を避けるための制度があることを知っていますか。

修習生P:同時審判の申出がある共同訴訟でしょうか。

弁護士L:そうですね。良い機会ですから,今回の事件の事実関係の下で同時審判の申出がある共同訴訟によったとすれば,どのようにして,どの程度まで審判の統一が図られ,原告が「両負け」を避けることができたのか,整理してみてください。例えば,以下の事案ではどうなるでしょうか。

 

(事案) XがB及びCを共同被告として訴えを提起し,Bに対しては有権代理を前提として保証債務の履行を求め,Cに対しては民法第117条に基づく責任を追及する請求をし,同時審判の申出をした。第一審においては,Cに対する代理権授与が認められないという理由で,Bに対する請求を棄却し,Cに対する請求を認容する判決がされた。

 

〔設問3〕
 同時審判の申出がある共同訴訟において,どのようにして,どの程度まで審判の統一が図られ,原告の「両負け」を避けることができるか。上記(事案)の第一審の判決に対し,①Cのみが控訴し,Xは控訴しなかった場合と,②C及びXが控訴した場合とを比較し,控訴審における審判の範囲との関係で論じなさい。

 

【資料】
金銭消費貸借契約書兼連帯保証契約書
平成○○年○月○日
住 所 ○○県○○市・・・(略)
貸 主X印
住 所 ○○県○○市・・・(略)
借 主A印
住 所 ○○県○○市・・・(略)
連帯保証人 B 印
1 本日,借主は,貸主から金三百萬円を次の約定で借入れ,受領した。
弁済期 平成○○年○月○日
利 息 年3パーセント(各月末払)
損害金 年10パーセント
2 借主が次の各号の一にでも該当したときは,借主は何らの催告を要しないで期限の利益を失い,
元利金を一時に支払わなければならない。
⑴ 第三者から仮差押え,仮処分又は強制執行を受けたとき
・・・・(略)
3 連帯保証人は,借主がこの契約によって負担する一切の債務について,借主と連帯して保証債務
を負う。

 

練習答案

民事訴訟法については以下でその条数のみを示す。

 

[設問1]
 (1)
 (ア)当初の請求原因②の事実を立証する場合
 本件連帯保証契約書はこの②の事実を直接証明するという意味を持つ。そして同契約書中にBの印章による印影が顕出されていることは、その印章をBが所持していたことを示せばBがその印影を顕出させた、つまり押印したことが推定され、その結果228条4項により文書の成立の真正が推定される(二段の推定)という意味を持つ。
 (イ)第2の請求原因③の事実を立証する場合
 本件連帯保証契約書は、その成立が真正であると認められても、この③の事実を証明することはない。同契約書中にBの印章による印影が顕出されていることも同様である。その印章をBがCに預けていたことが認められればこの③の事実を示す1つの証拠となる。
 (2)
 設問中に書かれたPの見解には、裁判に関与していないCが不利益を被ってしまうという問題点がある。また、裁判に関与しているBにとっても不意打ちとなってしまうという問題点がある。
 Pの見解のような裁判がなされると、その後にBがCに対して不法行為に基づく損害賠償請求の訴えを提起することが十分想定できる。既判力が主文に包含するものに限り及ぶ(114条1項)ので、BのXに対する連帯保証債務の存在を後の裁判で争うことが原則的にできなくなる。既判力は判決の理由にまでは及ばないので、CはBの代理人として保証契約を締結したことを争うことができるといっても、連帯保証債務の存在そのものを争うことができなくなる。Cにとっては、自らの関与しなかった裁判によって不利益を負わされるので問題である。
 Pの見解はBが十分に防御できないという問題点もある。Bとしては、Xの当初の請求原因に対して防御が成功しているのに、不意打ちで敗訴させられたと感じられるだろう。Xが第2の請求原因を追加していれば代理権の発生原因事実を争うことができたのに、その機会が与えられなかったからである。

 

[設問2]
 Cは、設問中の①及び②の各事実を否認することができる。
 [設問1]でも述べたように、既判力は判決の理由にまでは及ばないので、①及び②の各事実に既判力は作用しない。
 よってBが援用した訴訟告知に基づく判決の効力とは、自らが一度裁判で行った主張を正当な理由なく変更してはならないという信義誠実の原則(2条)であると考えられる。CはX及びBから53条1項の訴訟告知を受けたのだから、同条4項及び46条により、訴訟1の裁判の効力はCに及ぶ。①の主張をXの側で、②の主張をBの側でしたのと同じなのであるから、訴訟2でもその主張を変更してはならないとBは主張するのである。
 しかしCにとって、Bの側に立って①の事実を争い、Xの側に立って②の事実を争うのは、訴訟1で対立している当事者の両側に立たなければならないもので困難であった。だからこそCは訴訟1に参加しなかったのであろう。このCのふるまいは信義誠実の原則に反していない。よってCは訴訟2で①及び②の各事実を否認することができる。

 

[設問3]
 同時審判の申出がある共同訴訟では、弁論及び裁判は分離しないでしなければならない(41条1項)が、すべての当事者が控訴を強制されるわけではない。
 ①Cのみが控訴しXは控訴しなかった場合
 この場合はBに対する請求棄却の部分は確定し、Cに対する請求だけが控訴審で審判される。第一審判決の取消し及び変更は、不服申立ての限度においてのみ、これをすることができる(304条)からである。この場合に控訴審で第一審判決が取消されたり変更されたりすると、原告が「両負け」をすることになる。原告(X)としては控訴することができたのにこれをしなかったのであるから、このような結果になってもやむを得ない。
 ②C及びXが控訴した場合
 この場合はBに対する請求棄却部分もCに対する請求認容の部分も控訴審における審判の範囲に入る。297条によって41条を含む第一審の訴訟手続が控訴審の訴訟手続で準用されるので、原告(X)が「両負け」になる心配はない。

以上

 

修正答案

民事訴訟法については以下でその条数のみを示す。

 

[設問1]
 (1)
 (ア)当初の請求原因②の事実を立証する場合
 本件連帯保証契約書は、その成立が真正であると証明される(228条1項)と、この②の事実を直接証明するという意味を持つ。というのもこれは連帯保証契約という法律行為がそこで行われている処分文書だからである。そして同契約書はBが作成者であると考えられるところ、そこにBの印章による印影が顕出されていることは、その印章をBが所持していたことを示せばBがその印影を顕出させた、つまり押印したことが推定され、その結果228条4項により文書の成立の真正が推定される(二段の推定)という意味を持つ。
 (イ)第2の請求原因③の事実を立証する場合
 本件連帯保証契約書は、その成立が真正であると証明され(228条1項)ても、この③の事実を証明することはない。これは代理権を付与するという法律行為がそこで行われている処分文書ではないからである。さらに言うなら、同契約書中には代理であることを示す文言がないので、これだけでは代理権付与という法律行為とそもそも関係がない。同契約書中にBの印章による印影が顕出されていることも同様である。同契約書はCが作成者であると考えられるところ、Bが自分の印章を本件連帯保証契約の締結のためにCに預けていたことが認められれば、この③の事実を示す1つの証拠となる。
 (2)
 設問中に書かれたPの見解には、Bにとって不意打ちとなってしまうという問題点がある。
 民事訴訟では、私的自治や個人の自己決定という原則から、対等な当事者が自ら主導して訴訟活動を行い、その結果を引き受けるのが基本原則である。これは弁論主義と一般に呼ばれ、裁判所は当事者が主張しない事実を判決の基礎としてはならないとされる。そうはいってもこの原則を細部に至るまで厳密に適用しすぎると裁判が硬直し、真実の発見や適切な結果を大いに損なう事態が生じてしまう。そこで、法律効果の発生に直接つながる主要事実については弁論主義を厳密に適用しつつ、些細な事実については当事者の主張しない事実も判決の基礎としてよいとしたのがPの引用する判例の意図であると考えられる。
 本件におけるCがBの代理人として保証契約を締結したという事実は、保証契約の成立という法律効果の発生に直接つながるので主要事実である。これを当事者の主張なしに判決の基礎としてよいとするPの見解は、民事訴訟の基本原則である弁論主義に反するという問題点がある。Bとしては、Xの当初の請求原因に対して防御が成功しているのに、不意打ちで敗訴させられたと感じられるだろう。Xが第2の請求原因を追加していれば代理権の発生原因事実を争うことができたのに、その機会が与えられなかったからである。Bという当事者の決定ではどうすることもできない事情から不利益を負わされているので、私的自治や個人の自己決定の原則からすると問題になる。

 

[設問2]
 Cは、設問中の①及び②の各事実を否認することができる。
 既判力は主文に包含するものに限り及び(114条1項)、判決の理由にまでは及ばないので、①及び②の各事実に既判力は作用しない。よってBが援用した訴訟告知に基づく判決の効力とは、自らが一度裁判で行った(行うことのできた)主張を正当な理由なく変更してはならないという信義誠実の原則(2条)に由来するものであると考えられる。CはX及びBから53条1項の訴訟告知を受けたのだから、同条4項及び46条により、訴訟1の判決の効力はCに及ぶ。①の主張をXの側で、②の主張をBの側でしたのと同じなのであるから、訴訟2でもその主張を変更してはならないとBは主張するのである。
 これに対してCは2つの反論を主張することができる。1つは判決の効力が及ぶ客観的範囲に関する反論である。主文だけでなく判決の理由にも判決の効力が及ぶとしても、それが際限なく及ぶわけではない。傍論にすぎない部分にまで判決の効力が及んでしまうと裁判所の負担が増えるだけでなく、判決の効力を恐れて訴訟活動が不自由になってしまう。よって判決の効力が及ぶのは主文を導き出すのに必要十分な部分に限られる。本件について見ると、表見代理の成立を示す①の事実はここに含まれるが、無権代理の成立を示す②の事実は含まれない。以上より、②の事実にはBの援用する判決の効力が及ばないとするCの反論の主張は正当である。
 もう1つの反論は、訴訟告知を受けても参加を期待できないような場合には判決の効力が及ばないという主張である。訴訟告知の意義は敗訴責任を分担するところにあるからである。本件におけるCにとって、Bの側に立って①の事実を争い、Xの側に立って②の事実を争うのは、訴訟1で対立している当事者の両側に立たなければならないもので困難であった。言い換えると、Cは訴訟1で敗訴の責任を分担するような立場にはなかった。だからこそCは訴訟1に参加しなかったのであろう。このCのふるまいは信義誠実の原則に反さず、判決の効力がCに及ぶべきではない。よって訴訟2で①及び②の各事実を否認することができるというCの主張は正当である。

 

[設問3]
 同時審判の申出がある共同訴訟では、弁論及び裁判は分離しないでしなければならず(41条1項)、証拠や裁判官の心証が共通になるので、事実上裁判の統一が図られ、実体法上両立しないような「両負け」の事態を避けることができる。しかし必要的共同訴訟(40条)ではなく通常共同訴訟なので、共同訴訟人の一人について生じた事項は他の共同訴訟人に影響を及ぼさない(39条)ため、独立に控訴をすることができる。
 ①Cのみが控訴しXは控訴しなかった場合
 この場合はBに対する請求棄却の部分は確定し、Cに対する請求だけが控訴審で審判される。第一審判決の取消し及び変更は、不服申立ての限度においてのみ、これをすることができる(304条)からである。この場合に控訴審で第一審判決が取消されたり変更されたりすると、原告が「両負け」をすることになる。原告(X)としては控訴することができたのにこれをしなかったのであるから、このような結果になってもやむを得ない。
 ②C及びXが控訴した場合
 この場合はBに対する請求棄却部分もCに対する請求認容の部分も控訴審における審判の範囲に入る。297条によって41条を含む第一審の訴訟手続が控訴審の訴訟手続で準用されるので、弁論及び裁判は分離しないでしなければならず、原告(X)が「両負け」になる心配は事実上ない。

以上

 

感想

[設問1]の(1)では処分証書とは何かの理解が曖昧だったので言及しそこねてしまいました。(2)では裁判外のCにとっての不利益という的外れなことを書いてしまいました。[設問2]は判例をよくは知らないなりに記述できたほうだと思います。[設問3]の結論は知っていたので書きやすかったのですが、必要的共同訴訟と通常共同訴訟の違いを掻き落としてしまいました。

 



平成24年司法試験論文民事系第2問答案練習

問題

〔第2問〕(配点:100〔〔設問1〕から〔設問3〕までの配点の割合は,2:5:3〕)
次の文章を読んで,後記の〔設問1〕から〔設問3〕までに答えなさい。

 

1.甲株式会社(以下「甲社」という。)は,主に情報サービス事業を営む監査役会設置会社であり,その株式を東京証券取引所に上場している。
 甲社の資本金は30億円,その発行済株式の総数は100万株である。
 甲社の取締役は,平成20年6月に選任されたA,B,C及びDの4名であり,Aが代表取締役社長である。なお,Aは,甲社の株式1万株を有している。
 甲社の監査役は,平成19年6月に選任されたE,F及びGの3名であり,Eが常勤監査役,F及びGが非常勤の社外監査役である。

2.甲社の定款には,(a)定時株主総会の議決権の基準日は,毎年3月31日とすること,(b)株主総会は,取締役社長がこれを招集し,議長となること,(c)取締役の員数は,6名以内とすること,(d)取締役の選任決議は,議決権を行使することができる株主の議決権の3分の1以上を有する株主が出席し,その議決権の過半数をもって行うこと,(e)取締役の選任決議は,累積投票によらないものとすること,(f)取締役会は,その決議によって取締役会長及び取締役社長各1名を定めることができること,(g)事業年度は,4月1日から翌年3月31日までの1年とすることなどが定められている。
 なお,甲社には,取締役の任期を短縮する旨の定款の定めや株主総会の決議はない。

3.甲社は,平成20年秋頃の経営環境の著しい悪化を受け,その業績及び株価は,共に下落の一途をたどった。それにもかかわらず,Aは,効果的な経営立て直し策を実施できないままでいたため,甲社内外のAに対する評価は,日増しに厳しくなる一方であった。
 これに危機感を抱いたB,C及びDは,Aに対し,Aは取締役会長となって一線を退き,新たに外部から経営者を迎えて代表取締役社長とすることを求めた。結局,Aも,この求めに応じざるを得ず,Hを新たに甲社の代表取締役社長として迎えることに同意した。
 これを受けて,平成21年6月に開催された甲社の定時株主総会において,Hが取締役に選任され,就任し,また,その後に開かれた甲社の取締役会において,Hが代表取締役社長に選定され,Aは代表権のない取締役会長となった。

4.乙株式会社(以下「乙社」という。)は,設立以来,株主も取締役もPだけの会社であるが,実際の事業活動は,ほとんど行っていない。
 乙社は,平成21年7月に入り,金融業者から融資を受けて市場において甲社の株式を買い集め,平成22年1月に,甲社の株式33万株を有するに至った。

5.平成22年6月に開催された甲社の定時株主総会(以下「22年総会」という。)では,その終結の時をもって,取締役5名のうちHを除くA,B,C及びDの4名について取締役の任期が満了するため,A,B,C及びDの4名を候補者とする取締役選任議案が会社提案として提出された。
 ところが,甲社の株主である乙社から,上記の取締役選任につき,会社法第304条に基づき,P,Q及びRの3名を候補者として追加する旨の議案が提出された。なお,乙社は,Dの選任については賛成する意向であった。
 議長であるHは,事前に何も知らされていなかったためやや驚いたものの,淡々と議事を進めることとし,A,B,C,D,P,Q,Rの順に,候補者ごとに投票による採決をした。
 投票による採決の結果,Hは,Aから上記の順に得票数(候補者の選任に賛成する議決権の数をいう。以下同じ。)を集計し,Pの得票数を集計した時点で,出席株主の議決権の過半数の賛成を得た候補者が4名に達したので,Q及びRの得票数については議場で集計しないで,B,C,D及びPの4名だけが取締役に選任された旨を宣言した。なお,各候補者の実際の得票数等は,次のとおりであった。

議決権を行使することができる株主の議決権の数:100万個
出席株主の議決権の数:77万個
各候補者の得票数
A:33万個
B:39万個
C:43万個
D:65万個
P:42万個
Q:41万個
R:40万個

6.22年総会の後に開かれた甲社の取締役会には,H,B,C,D及びPが取締役として,また,E,F及びGが監査役として,それぞれ出席した。
 この取締役会で,Pは,甲社が乙社に対して平成22年7月中に15億円の貸付けを無担保で行う旨の提案をした(以下この貸付けを「本件貸付け」という。)。これに対し,説明が不十分であるとしてFが強く異議を述べたものの,この提案は,議決に加わらなかったPを除くH,B,C及びDの賛成により承認された。

7.Fは,この取締役会の後に引き続いて開かれた甲社の監査役会でも,本件貸付けはさせるべきでない旨を強く主張したが,E及びGは,これに取り合わなかった。最終的には,Eが,本件貸付けについては問題視しないことを監査役会の方針とする旨の提案をし,Fが反対したものの,Gは,この提案に賛成した。

8.E,F及びGは,平成23年6月に開催される甲社の定時株主総会(以下「23年総会」という。)の終結の時をもって監査役の任期が満了するところ,同年3月に,Hは,甲社の監査役会に対し,23年総会に提出する監査役選任議案の候補者は,E,Q及びRの3名としたい旨を伝えた。

9.平成23年4月上旬に,Eが,甲社の監査役会において,上記の監査役選任議案の提出に同意する旨の提案をしたが,F及びGが賛成しなかったため,この提案は可決されなかった。
 他方,Fが,この監査役会において,E,F及びGの3名を候補者とする監査役選任議案(以下「議案①」という。)を23年総会に提出することを取締役に対して請求する旨の提案をした。この提案は,F及びGの賛成により,可決された。そこで,甲社の監査役会は,Hに対し,議案①を23年総会に提出することを請求した。

10.平成23年4月下旬に,Pは,甲社の株主である乙社を代表して,甲社に対し,監査役3名の選任を23年総会の目的とすること並びにE,Q及びRの3名を候補者とする監査役選任議案(以下「議案②」という。)の要領を招集通知に記載することを請求した。なお,社債,株式等の振替に関する法律第154条第3項所定の通知(いわゆる個別株主通知)に係る要件は満たされていた。

11.平成23年6月7日に,Hは,H,B,C,D及びPの賛成による取締役会決議に基づき,議案①及び議案②を含む23年総会に係る招集通知を発した。

12.平成23年6月29日に,Hが議長となって23年総会が開催された。この株主総会に監査役として出席したFは,議案①及び議案②の審議の際に,監査役の選任について意見を述べようと,議長であるHに対して発言の機会を求めた。しかし,Hがこれを制止したため,Fは,意見を述べることができなかった。
 Hは,採決の結果,議案①については,出席した株主の議決権の過半数の賛成を得られなかったことから,否決を宣言し,議案②については,出席した株主の議決権の過半数の賛成を得たことから,可決を宣言した。これに基づき,E,Q及びRが監査役に就任した。

 

〔設問1〕 上記5のとおり,22年総会において,Hは,B,C,D及びPの4名だけが取締役に選任された旨を宣言したが,この取締役選任の当否について,論じなさい。
 なお,解答に当たっては,次の2点を前提としてよい。
ア.22年総会における甲社の会社提案の提出及び乙社による会社法第304条に基づく議案の提出は,いずれも適法であったこと。
イ.22年総会の日から3か月以内に,株主総会の決議の取消しの訴えは,提起されなかったこと。

 

〔設問2〕 上記1から上記7までを前提として,次の(1)及び(2)に答えなさい。
 (1) Hが甲社を代表して本件貸付けを実行しようとしている場合,A及びFが本件貸付けをあらかじめ阻止するために行使することができる会社法上の権限について,論じなさい。
 (2) Hが甲社を代表して本件貸付けを実行し,その後,乙社が倒産し,甲社が本件貸付けの返済を受けられなくなった場合,A及びFは,本件貸付けに関し,H,D及びPに対し,会社法上,どのような責任追及をすることができるかについて,論じなさい。

 

〔設問3〕 上記12の後,A及びFは,23年総会において否決を宣言された議案①及び可決を宣言された議案②につき,株主総会の決議の取消しの訴えを提起しようと検討している。この訴えに関して考えられるA及びFの主張並びにその当否について,論じなさい。

 

練習答案

以下会社法についてはその条数のみを示す。

 

[設問1]
 この取締役選任は適当である。
 取締役選任については会社法で最低限の基準が定められているが、それを満たしていればあとは基本的に当該会社内部の問題である。そして当該会社の基本方針は定款に示される。
 甲社定款の(d)は341条に適合しているし、取締役の選任決議は累積投票によらないとする定款の(e)も342条1項に適合している。その他本文中で示された(a)〜(c)、(f), (g)も会社法上問題ない。そして設問中のアより議案の提出はいずれも適法であった。
 22年総会の議決権を行使することができる株主の議決権の数は100万個であったので、その3分の1以上というのは33万3334個以上ということになるので、B、C、D及びPの4名が取締役に選任されたのは適当である。累積投票によらないと明確に定款で定められているので、これによることは考えられない。だから39万個を獲得したBを取締役に選任して、それぞれ41万個、40万個を獲得したQ、Rを取締役に選任しなかったとしても、そのことが直ちに不適当になるわけではない。
 22年総会で取締役に選任されたのは4名であるが、定款の(c)では6名以内となっているので、Hを除いても22年総会で5名の取締役を選任することが定款上可能であった。しかし会社提案はA、B、C及びDの4名が候補者になっていたので、22年総会で選任する取締役は多くとも4名にするのが会社の意図であったと言える。よって4名だけを取締役に選任した22年総会決議が不適切であるとは言えない。
 このような選任方法だと投票の順序によって有利不利が大きく左右される。しかし事前の提案を先にして総会の場での提案を後にすることにも一定の合理性があり、それが不適当だとは言えない。
 設問中のイの事情も考慮して、この取締役選任は適当であると言える。

 

[設問2]
 平成22年7月の時点でAは1万株を有する甲社株主であり、Fは非常勤の社外監査役である。
 (1)
 ①Aの権限
 6ヶ月前から引き続き株式を有するAは、甲社に対し、役員であるHの責任を追及する訴えの提起を請求することができる(847条1項)。さらに、期間の経過により甲社に回復することができない損害が生ずるおそれがある場合だとして、直ちにHの責任追及の訴えを提起することもできる(847条5項)。
 Aは、甲社の目的外の行為をして甲社に回復することのできない損害が生ずるおそれがある場合だとして、Hに対し本件貸付けをやめることを請求することができる(360条1項、3項)。
 ②Fの権限
 監査役であるFは、取締役であるHが甲社の目的の範囲外の行為をし、甲社に著しい損害が生ずるおそれがあるときだとして、Hに対し本件貸付けをやめることを請求することができる(385条1項)。
 (2)
 H、D及びPに共通して423条1項に基づき役員等の株式会社に対する損害賠償責任を追及することができる。また、本件貸付けは356条1項2号の利益相反取引に当たる。本件貸付の相手方である乙社はPの一人会社であり、取締役であるPと同視してもよいからである。
 ①Hの責任
 Hは423条3項2号及び3号に該当するので任務を怠ったものと推定される。
 ②Dの責任
 監査役は取締役の職務の執行を監査する(381条1項)ので、Hによる本件貸付けを防げなかった責任がある。
 ③Pの責任
 Pは本件貸付けが利益相反となる当事者なので423条3項1号に該当し、その任務を怠ったものと推定される。そして本件貸付けで得た利益の額が損害の額と推定される。

 

[設問3]
 株主総会の決議の取消しの訴えは、831条1項各号に掲げる場合に提起するものなので、その各号に沿った主張をA及びFはすることとなる。
 ①HによるFの意見陳述の制止
 監査役であるFは著しく不当な事項があると認めるときは、その調査の結果を株主総会に報告しなければならない。その内容はともかく、監査役であるFがこうした意見を述べようとしたときにこれを制止して意見を述べさせないことは、株主総会の決議の方法が法令に違反し又は著しく不公正(831条1項1号)である。
 ②監査役の同意の欠如
 取締役は監査役の選任に関する議案を株主総会に提出するには、監査役の過半数の同意を得なければならない(343条1項)。議案②の提出は取締役であるPが行っているところ、監査役の過半数の同意を得ていない。この規程は監査役による取締役の監査を実効的にするためのものであり、取締役が株主であることも珍しくないのだから、取締役が株主として提出してこの規程を潜脱することは防がなければならない。これは株主総会の招集の手続が法令に違反している(831条1項1号)。

以上

 

修正答案

以下会社法についてはその条数のみを示す。

[設問1]
 この取締役選任は適当である。
 取締役選任については会社法で最低限の基準が定められているが、それを満たしていればあとは基本的に当該会社内部の問題である。そして当該会社の基本方針は定款に示される。
 甲社定款の(d)は341条に適合しているし、取締役の選任決議は累積投票によらないとする定款の(e)も342条1項に適合している。その他本文中で示された(a)〜(c)、(f), (g)も会社法上問題ない。そして設問中のアより議案の提出はいずれも適法であった。
 22年総会の議決権を行使することができる株主の議決権の数は100万個であったので、その3分の1以上というのは33万3334個以上であるから出席要件は満たしている。出席株主の議決権の数は77万個だからその過半数は38万5001個以上ということになるので、それを超えているB、C、D及びPの4名が取締役に選任されたのは適当である。累積投票によらないと明確に定款で定められているので、これによることは考えられない。だから39万個を獲得したBを取締役に選任して、それぞれ41万個、40万個を獲得したQ、Rを取締役に選任しなかったとしても、そのことが直ちに不適当になるわけではない。
 22年総会で取締役に選任されたのは4名であるが、定款の(c)では6名以内となっているので、Hを除いても22年総会で5名の取締役を選任することが定款上可能であった。しかし会社提案はA、B、C及びDの4名が候補者になっていたので、22年総会の議題は多くとも4名の取締役を選任することであると解釈できる。株主は株主総会において議題に対する議案を提出することができる(304条)が議題の提案は株主総会の日の8週間前までにしなければならない(303条1項)ので、Pが5名の取締役を選任するという議題を提出したとは考えられない。よって4名だけを取締役に選任した22年総会決議が不適切であるとは言えない。
 このような選任方法だと選任の順序によって有利不利が大きく左右される。しかし事前の提案を先にして総会の場でなされた提案を後にすることにも一定の合理性があり、それが不適当だとは言えない。
 設問中のイの事情も考慮して、この取締役選任は適当であると言える。

 

[設問2]
 本件貸付けが行われた平成22年7月の時点でAは1万株を6ヶ月以上引き続き有する甲社株主であり、Fは非常勤の社外監査役である。
 本件貸付けは、甲社と、甲社の取締役であるPとが乙社を代表して取引するものなので、利益相反取引である(356条1項2号)。そうであれば取締役会の承認が必要であるところ(356条1項、365条1項)、その承認は得られている。しかしながら、主に情報サービス事業を営む甲社が、実際の事業活動をほとんど行っていない乙社に15億円の貸付けを無担保で行うことは、甲社に損害を与える可能性を強く疑わせるものである。よって取締役会の承認があったとしても、本件貸付けを行う取締役のHは善管注意義務(330条、民法644条)に違反している。
 本件貸付けによって生じる損害は資本金の半分に相当する15億円であり、担保を取っていないのだから、理論上は金銭賠償が可能だといっても事実上不可能に近いので、回復することのできない損害だと考えられる。
 (1)
 ①Aの権限
 Aは、法令に違反する行為をして甲社に回復することのできない損害が生ずるおそれがある場合だとして、Hに対し本件貸付けをやめることを請求することができる(360条1項、3項)。
 ②Fの権限
 Fは、取締役であるHが法令に違反する行為をし、甲社に著しい損害が生ずるおそれがあるときだとして、Hに対し本件貸付けをやめることを請求することができる(385条1項)。そして担保を立てずに、その行為をやめる仮処分を裁判所に求めることもできる(385条2項)。監査役はいつでも、取締役に対して事業の報告を求め、又は監査役設置会社の業務及び財産の状況の調査をすることができ(381条2項)、それは監査役会の決定によっては妨げられない(390条2項ただし書)ので、本件貸付けについては問題視しないことが監査役会で決定されていても上記請求は妨げられない。
 (2)
 H、D及びPに共通して423条1項に基づき取締役の株式会社に対する損害賠償責任を追及することができる。Aは847条1項に基づき取締役の責任を追及する訴えの提起を請求することができるし、Fは386条1項に基づいて甲社を代表して取締役に対して訴えを提起することができる。
 ①Hの責任
 Hは本件貸付けを実行し、423条3項2号に該当するので任務を怠ったものと推定される。
 ②Dの責任
 Dは本件貸付けを承認する取締役会の承認の決議に賛成し、423条3項3号に該当するので任務を怠ったものと推定される。
 ③Pの責任
 Pは本件貸付けが利益相反となる当事者であり、423条3項1号に該当するので任務を怠ったものと推定される。そして428条1項より、任務を怠ったことがPの責めに帰することができない事由によるものであることをもって責任を免れることができない。

 

[設問3]
 株主総会の決議の取消しの訴えは831条1項に規定されている。
 可決された決議(決議②)の取消しを請求することは当然予定されているとして、否決された決議(決議①)の取消しを請求することができるかが問題となり得る。しかし株主総会の決議の取消しをの訴えは株主総会の決議を正常に復することを目的としたものなのでその点において否決された決議を除外する理由はないし、本件の決議①についてはどの程度の賛成を得られたのか定かではないが、もし議決権の10分の1以上の賛成を得られなかったとしたら3年を経過するまで同一の議案を提起できなくなる(304条)のだから、否決された決議の取消しを請求する実益がある。
 この株主総会の決議の取消しの訴えを提起することのできる原告には、株主(A)が含まれることはもちろん、当該決議の取消しにより取締役、監査役又は清算人となる者(F)も含まれる(831条、346条1項)。また、株主が株主総会の決議の取消しの訴えを提起する理由は、直接的な自己の利益の追求だけではなく、会社の利益を通じた間接的な自己の利益の追求でもあるので、自己以外についての法令違反や著しい不公正を主張することは差し支えない。
 そして株主総会の決議の取消しの訴えは831条各号に掲げる場合に提起するものなので、その各号に沿った主張をA及びFはすることとなる。以下ではその主張及びその当否について検討する。
 ①HによるFの意見陳述の制止
 監査役であるFは監査役の選任若しくは解任又は辞任について意見を述べることができる(345条1項、4項)。Fがこの意見を述べようとしたときにこれを制止して意見を述べさせないことは、株主総会の決議の方法が法令に違反している(831条1項1号)。
 ②監査役の同意の欠如
 取締役は監査役の選任に関する議案を株主総会に提出するには、監査役の過半数の同意を得なければならない(343条1項)。議案②の提出は取締役であるPが行っているところ、監査役の過半数の同意を得ていない。この規程は監査役による取締役の監査を実効的にするためのものであり、取締役が株主であることも珍しくないのだから、取締役が株主として提出してこの規程を潜脱することは防がなければならない。これは株主総会の招集の手続が法令に違反している(831条1項1号)。

以上

 

 

感想

最も配点が大きく勉強していれば書けるはずの[設問2]があまりできなかったのはよくないです。全体を通じて取締役選任に必要とされる議決権の数やDが取締役なのに監査役だと勘違いしていたのもひどいです。 多くの人が指摘していたであろう論点はだいたい拾えていたのはせめてもの救いです。

 



平成24年司法試験論文民事系第1問答案練習

問題

〔第1問〕(配点:100〔〔設問1〕,〔設問2〕及び〔設問3〕の配点の割合は,3:4:3〕)
次の文章を読んで,後記の〔設問1〕から〔設問3〕までに答えなさい。

 


【事実】
1.Aは,店舗を建設して料亭を開業するのに適した土地を探していたところ,平成2年(1990年)8月頃,希望する条件に沿う甲土地を見つけた。
 甲土地は,その当時,Bが管理していたが,登記上は,Bの祖父Cが所有権登記名義人となっている。Cは,妻に先立たれた後,昭和60年(1985年)4月に死亡した。Cには子としてD及びEがいたが,Dは,昭和63年(1988年)7月に死亡した。Dの妻は,Dより先に死亡しており,また,Bは,Dの唯一の子である。

2.Aが,平成2年(1990年)9月頃,Bに対し甲土地を購入したい旨を申し入れたところ,Bは,その1か月後,Aに対し,甲土地を売却してもよいとする意向を伝えるとともに,「甲土地は,登記上は祖父Cの名義になっているが,Cが死亡した後,その相続について話合いをすることもなくDが管理してきた。Dが死亡してからは,自分が管理をしている。」と説明した。Aが,「Bを所有権登記名義人とする登記にすることはできないのか。」とBに尋ねたところ,Bは,「しばらく待ってほしい。」と答えた。

3.AとBは,平成2年(1990年)11月15日,甲土地を代金3600万円でBがAに売却することで合意した。そして,その日のうちに,Aは,Bに代金の全額を支払った。また,同月20日,Aは,甲土地を柵で囲み,その中央に「料亭「和南」建設予定地」という看板を立てた。

4.平成3年(1991年)11月頃,Aは,甲土地上に飲食店舗と自宅を兼ねる乙建物を建設し,同年12月10日,Aを所有権登記名義人とする乙建物の所有権の保存の登記がされた。そして,Aは,平成4年(1992年)3月14日から,乙建物で料亭「和南」の営業を開始した。なお,料亭「和南」の経営は,Aが個人の事業者としてするものである。

5.Aは,平成15年(2003年)2月1日に死亡した。Aの妻は既に死亡しており,FがAの唯一の子であった。Fは,他の料亭で修業をしていたところ,Aが死亡したため,料亭「和南」の営業を引き継いだ。乙建物は,Fが居住するようになり,また,同年4月21日,相続を原因としてAからFへの所有権の移転の登記がされた。

 

〔設問1〕 【事実】1から5までを前提として,以下の(1)及び(2)に答えなさい。
(1)⑴ Fは,Aが甲土地をBとの売買契約により取得したことに依拠して,Eに対し,甲土地の所有権が自己にあることを主張したい。この主張が認められるかどうかを検討しなさい。
(2)⑵ Fが,Eに対し,甲土地の占有が20年間継続したことを理由に,同土地の所有権を時効により取得したと主張するとき,【事実】3の下線を付した事実は,この取得時効の要件を論ずる上で法律上の意義を有するか,また,法律上の意義を有すると考えられるときに,どのような法律上の意義を有するか,理由を付して解答しなさい。

 

Ⅱ 【事実】1から5までに加え,以下の【事実】6から17までの経緯があった。
【事実】
6.料亭「和南」は順調に発展し,名店として評判となった。そこで,Fは,「和南」ブランドで,瓶詰の「和風だし」及びレトルト食品の「山菜おこわ」を販売することを考えるようになった。

7.まず,Fは,「和風だし」を2000箱分のみ製造し,二つの地域で試験的に販売することとした。そして,料亭「和南」とその周辺でF自らが1000箱分を販売するが,別の地域における販売は,食料品販売業者のGに任せることとし,FがGに「和風だし」1000箱を販売し,Gがそれを転売することとした。

8.「和風だし」は,一部に特殊な原材料が必要なことから,平成23年9月に製造する必要があった。しかし,試験販売の開始は,準備の都合上,平成24年3月からとされた。そこで,Fは,「和風だし」2000箱分を製造した上,販売開始時期まで,どこかに保管することを考えた。そして,甲土地のすぐ近くで,かつて質店を経営していたが,現在は廃業しているHならば,広い倉庫を所有しているだろうと考え,Hと交渉した結果,H所有の丙建物に,Fが製造した「和風だし」を出荷まで保管してもらい,これに対しFが保管料を支払うこととなった。

9.Fは,平成23年9月10日,Gとの間で,「和風だし」2000箱のうち1000箱をFがGに対し代金500万円で売却し,丙建物で同月25日にFがGに現実に引き渡す旨の契約を締結した。そして,平成23年9月25日,「和風だし」2000箱が丙建物に運び込まれ,そのうち1000箱がFからGに現実に引き渡された後直ちに,FとH,GとHは,それぞれ【別紙】の内容の寄託契約を締結した。これらの結果,丙建物では,合わせて「和風だし」2000箱が保管されることとなった。
 なお,平成23年9月25日までに実際に製造された「和風だし」は予定どおり2000箱分であり,それ以外には,「和風だし」は製造されていない。また,製造された「和風だし」2000箱分は,種類及び品質が同一であり,包装も均一であった。

10.また,Fは,平成24年1月中には,料亭「和南」で飲食した顧客のために,お土産用「山菜おこわ」の販売を始めることとし,製造する「山菜おこわ」の保管場所につきHに相談した。Hは,既に「和風だし」の寄託を受けて丙建物が有効活用されていること,さらに,丙建物にはなお保管場所に余裕があることから,Fの「山菜おこわ」を丙建物において無償で保管することをFと合意した。

11.Fは,平成24年1月に入ると,「山菜おこわ」の製造を開始し,同月10日,Hの立会いを得て,「山菜おこわ」500箱を丙建物に運び込んだ。

12.平成24年1月12日,Fは,これまで取引のなかった大手百貨店Qの本部から,「山菜おこわ」をQ百貨店本店の地下1階食品売場で販売し,その評判が良ければ,「山菜おこわ」をQ百貨店の全店舗の食品売場で販売したいとの申出を受けた。

13.Fは,平成24年1月16日,Qとの間で,丙建物に保管されている「山菜おこわ」500箱をFがQに対し代金300万円で売却し,これを同月31日に丙建物で引き渡す旨の契約を締結した。Fは,この売買契約が成立したことから,Qが「山菜おこわ」の販売を始めるまでは,これを料亭「和南」で販売しないこととした。

14.Fは,Q百貨店で「山菜おこわ」を取り扱ってもらえることになったことを大いに喜び,平成24年1月22日,たまたまHが料亭「和南」を訪れた際,「Q百貨店本店の食品売場に「山菜おこわ」を置いてもらえることになった。その評判が良ければ,Q百貨店は,全店舗で「山菜おこわ」を取り扱うことを申し出てくれている。「和南」の味を広める大きなチャンスだから張り切っている。」とHに話した。

15.ところが,平成24年1月24日,丙建物に何者かが侵入し,丙建物内に保管されていた「和風だし」2000箱のうち1000箱及び「山菜おこわ」500箱全てが盗取された。なお,丙建物に何者かが侵入することを許したのは,その日はHが丙建物の施錠を忘れていたためである。また,Fが,同月31日までに「山菜おこわ」500箱分を新たに製造することは不可能である。

16.Qにおいて,この盗難事件を受け,Fとの取引を進めるかどうかについて社内で協議したところ,Fの商品保管態勢が十分であるとはいえないとして,その経営姿勢に疑問が呈せられた。そこで,Qは,平成24年2月1日,「山菜おこわ」500箱分の売買契約を解除すること及び「山菜おこわ」販売に関するFQ間の交渉を打ち切ることをFに通知した。

17.なお,【事実】16までに記載した以外には,丙建物に保管されている「和風だし」及び「山菜おこわ」について出し入れはなく,丙建物に侵入した者は不明であり盗品を取り戻すことは不可能である。
 また,「和風だし」及び「山菜おこわ」を丙建物で保管する行為は商行為ではなく,Hは商人でない。

 

〔設問2〕 Gは,Hに対し,丙建物に存在する「和風だし」1000箱を自己に引き渡すよう求めている。これに対して,Hは,寄託された「和風だし」はFの物と合わせて2000箱であるところ,その半分がもはや存在しないことと,残りの1000箱全てをGに引き渡せば,Fの権利を侵害することとを理由に,Gの請求に応ずることを拒んでいる。このHの主張に留意しながら,Gのする「和風だし」1000箱の引渡請求の全部又は一部が認められるか否かを検討しなさい。

 

〔設問3〕 Fは,Hに対し,「山菜おこわ」を目的とする寄託契約の債務不履行を理由として損害賠償を請求しようと考えている。この債務不履行の成否について検討した上で,Fが,【事実】16の下線を付した経過があったためQ百貨店の全店舗で「山菜おこわ」を取り扱ってもらえなくなったことについての損害の賠償を請求することができるか否かについて論じなさい。

 

【別紙】
寄託契約書
第1条
寄託者は,受寄者に対し,料亭「和南」製「和風だし」1000箱(以下「本寄託物」という。)を寄託し,受寄者は,これを受領した。
第2条
1 受寄者は,本寄託物を丙建物において保管する。
2 受寄者は,本寄託物を善良な管理者の注意をもって保管する。
第3条
1 受寄者が他の者(次項及び次条において「他の寄託者」という。)との寄託契約に基づいて本寄託物と種類及び品質が同一である物を保管する場合において,受寄者は,その物と本寄託物とを区別することなく混合して保管すること(以下「混合保管」という。)ができ,寄託者は,これをあらかじめ承諾する。
2 前項の場合において,受寄者は,寄託者に対し,他の寄託者においても寄託物の混合保管がされることを承諾していることを保証する。
第4条
寄託者及び受寄者は,寄託者及び他の寄託者が,混合保管をされた物について,それぞれ寄託した物の数量の割合に応じ,寄託物の共有持分権を有することを確認する。
第5条
受寄者は,本寄託物に係る保管料を別に定める方法で計算し,寄託者に請求する。
第6条
受寄者は,寄託者に対し,混合保管をされていた物の中から,寄託者の寄託に係るものと同一数量のものを返還する。
〔以下の条項は,省略。〕

 

練習答案

以下民法についてはその条数のみを示す。

 

[設問1]
 (1)
 この主張は認められない。その理由を以下で説明する。
 1985年4月の時点ではCが実体上も登記上も甲土地を所有していた。その時点でCが死亡することにより、Cの子であるDとEが法定相続分(第900条第4号)に従い、甲土地の持分を2分の1ずつ有することとなる(第882条)。これと異なる遺言や遺産分割の存在は確認できない。そしてその2分の1の甲土地の持分権を1988年7月にBが相続により*1取得した。
 その後の1990年11月にBが甲土地をAに売るという売買契約が成立した。Aは契約成立日に代金を全額払っている。この時点でBは甲土地の持分を2分の1だけ有しており、残りの2分の1はEが有している。他人物売買も有効でありBは甲土地全部の所有権をAに移転する義務を負う(第560条)が、Eの協力がなければそれは不可能である。そして本件でEの協力があった形跡はない。よってAは甲土地の2分の1の持分は売買契約により取得するが、残りの2分の1の持分については取得しない。相続によりこのAの立場は包括的に承継したFは、甲土地の所有権について、2分の1の持分の限度について主張できるにすぎず、全部の所有権が自己にあるとの主張は認められない。
 (2)
 下線を付した事実は、この取得時効の要件を論ずる上で法律上の意義を有する。この取得時効は第162条第1項に規定されており、そこでは「所有の意思をもって」という要件が挙げられている。下線を付した事実は、この所有の意思を推認させるという法律上の意義を有する。

 

[設問2]
 Gのする「和風だし」1000箱の引渡請求の全部が認められるが、Hは供託をすることによりその引渡義務を免れることができる。
 FとH、GとHは、それぞれ別紙の内容の寄託契約を締結した。寄託契約書第1条によるとGはHに「和風だし」1000箱を寄託しており、同第6条により受寄者(H)は、寄託者(G)に対し、寄託者の寄託に係るものと同一数量のもの(「和風だし」1000箱)を返還する義務を負う。よってGのする「和風だし」1000箱の引渡請求の全部が認められることになる。
 しかしHはFとも同様の寄託契約を結んでおり、Fの権利を侵害することを理由に、Gの請求に応ずることを拒んでいる。「和風だし」2000箱分は、種類及び品質が同一であり、包装も均一であったし、それらについてFとGは共有持分権を有する(寄託契約書第4条)ので、残存している1000箱がすべてGの寄託したものであるとは言えない。これは弁済者(H)が過失なく債権者を確知することができないときに当たるので、Hは供託をすることにより、その債務を免れることができる(第494条)。ここでの過失は債権者を確知することができないことに係る過失であり、「和風だし」1000箱が盗取されたことに係る過失ではないので、Hには過失がないと言える。
 以上により冒頭で述べた結論となる。

 

[設問3]
 1.債務不履行の成否
 Hは、Fの「山菜おこわ」を丙建物において無償で保管することをFと合意した。これは無償の寄託契約である。「和風だし」を目的物とする有償の寄託契約とは動機の部分で関係しているにすぎず、契約の内容とはなっていないので、「山菜おこわ」を目的物とする寄託は無償の寄託である。
 そうであれば、Hは、自己の財産に対するのと同一の注意をもって、寄託物(「山菜おこわ」)を保管する義務を負う(第659条)。自己の財産を保管している建物には施錠をするのが通常であるから、丙建物の施錠を忘れていたために「山菜おこわ」が盗取されたというのは、この注意義務に反している。よってHの債務不履行となる。
 2.Q百貨店の全店舗で「山菜おこわ」を取り扱ってもらえなくなったことについての損害の賠償(以下「本件損害賠償」とする)を請求することができるか否か
 Fは、Hに対し、本件損害賠償を請求することができる。
 1で検討したようにHの債務不履行により「山菜おこわ」が500箱全て盗取され、Fはその返還を受けることができなかった。債務不履行に対する損害賠償は、原則として通常生ずべき損害に限られるが、特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見し、又は予見することができたときには、その賠償を請求することができる(第416条第1項、第2項)。
 Q百貨店の全店舗で「山菜おこわ」を取り扱ってもらえなくなったことについての損害(本件損害)は第416条第2項の特別損害に当たる。平成24年1月12日のやり取りから、FはQとの間で、先行的に販売された「山菜おこわ」の評判がよいという条件付で、Q百貨店の全店舗で「山菜おこわ」を販売するという契約が成立していたと考えられる。もし実際にそうなればFは「山菜おこわ」の販売から利益を得られていたはずなので、その契約がなくなってしまったことはFの損害に当たる。しかし、受寄していた目的物を返還できないとそれを超えた契約に影響を与えるということは通常生じないので特別損害に当たり、Hがその事情を予見し、又は予見することができたときに限り、Fはその賠償を請求することができる。
 Hは平成24年1月22日に料亭「和南」にて行われたFとの会話を通じて、Hが受寄している先行販売用の「山菜おこわ」がその後のQ百貨店全店舗での取り扱いの条件となっていることを知った。もしその先行販売用の「山菜おこわ」がなくなってしまうと、評判がよいとか悪いとかの以前の話になり、FがQ百貨店全店舗での取り扱いをしてもらえなくなるであろうことは容易に予見できたはずである。そしてこの予見はHが注意義務に違反した平成24年1月24日の時点で可能であった。
 以上より冒頭の結論となる。

*1 「Bが相続によりDから取得した」となるように「Dから」を挿入する。

以上

 

修正答案

以下民法についてはその条数のみを示す。

[設問1]
 (1)
 この主張は認められない。その理由を以下で説明する。
 1985年4月の時点ではCが実体上も登記上も甲土地を所有していた。その時点でCが死亡することにより、Cの子であるDとEが法定相続分(第900条第4号)に従い、甲土地の持分権を2分の1ずつ共有することとなる(第882条、第898条)。これと異なる遺言や遺産分割の存在は確認できない。そしてその2分の1の甲土地の持分権を1988年7月にBが相続によりDから取得した。
 その後の1990年11月にBが甲土地をAに売るという売買契約が成立した。Aは契約成立日に代金を全額払っている。この時点でBは甲土地の持分権を2分の1だけ有しており、残りの2分の1はEが有している。他人物売買も有効でありBは甲土地全部の所有権をAに移転する義務を負う(第560条)が、Eの協力がなければそれは不可能である。そして本件でEの協力があった形跡はない。よってAは甲土地の2分の1の持分権は売買契約により取得するが、残りの2分の1の持分権については取得しない。相続によりこのAの立場は包括的に承継したFは、甲土地の所有権について、2分の1の持分権の限度について主張できるにすぎず、全部の所有権が自己にあるとの主張は認められない。
 なお、Fが甲土地全部について自己を所有者とする登記をしていたとしてもこの結論に変わりはない。不動産の得喪については登記をしなければ第三者に対抗することができない(第177条)ところ、その第三者とは正当な利益を有する者に限定されると解釈するのが適切であり、Eが持分権を有している部分に関してFは正当な利益を有する者ではないからである。

 (2)
 下線を付した事実は、この取得時効の要件を論ずる上で法律上の意義を有する。この取得時効は第162条第1項に規定されており、そこでは「所有の意思をもって」という要件が挙げられている。この所有の意思は占有開始時を基準にして判断される。FはAと合わせて甲土地の占有が20年間継続したと主張するはずであるから、この場合はAの占有開始時が基準となる。下線を付した事実は、その基準となる時点で、Aが所有の意思をもっていたことを基礎づけるという法律上の意義を有する。占有者は所有の意思をもっていることが推定される(第186条第1項)が、下線を付した事実にはその推定を覆すことを妨げるという意義がある。また、第162条第1項は取得時効が成立する対象物として「他人の物」と規定しているので、下線を付した事実は甲土地がAにとって他人の物なのかそれとも自己の物なのかを決定する際にも意義を有している。長期に及ぶ事実状態を尊重するという取得時効の存在意義から考えると、仮に自己の物であったとしても取得時効を認めない理由はないとするのが判例である。

 

[設問2]
 Gのする「和風だし」1000箱の引渡請求の全部が債権的には認められるが、そのうちの500箱についてはFの共有持分権が及ぶので、結果的には残りの500箱についてのみ引渡請求が認められる。
 別紙の寄託契約書からだけでは、今回のように寄託物が滅失した場合についてどうすればよいかを一義的に決めることができないので、民法の規程を参考にしながら当事者の意思に沿うような解決が求められる。
 FとH、GとHは、それぞれ別紙の内容の寄託契約を締結した。寄託契約書第1条によるとGはHに「和風だし」1000箱を寄託しており、同第6条により受寄者(H)は、寄託者(G)に対し、寄託者の寄託に係るものと同一数量のもの(「和風だし」1000箱)を返還する義務を負う。よって本来であれば、Gのする「和風だし」1000箱の引渡請求の全部がこの寄託契約に基づき認められることになる。
 しかしHはFとも同様の寄託契約を結んでおり、Fの権利を侵害することを理由に、Gの請求に応ずることを拒んでいる。寄託者及び他の寄託者(FとG)が、混合保管をされた物について、それぞれ寄託した物の数量の割合(F:G=1:1)に応じ,寄託物の共有持分権を有する(寄託契約書第4条)ので、残存している1000箱についてはFとGが1:1の割合で共有持分権を有することとなる。そして各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更を加えることができない(第251条)ので、Fの権利(共有持分権)を侵害するというHの主張は正当である。しかしGの引渡請求は共有物分割請求(第256条)だと解釈することができるので、Gが共有持分権を有している範囲(500箱)でそれが認められる。「和風だし」は1000箱まとまっていることに重要な意味があるものではなく小分けして売却することが予定されているものなので、このように共有物分割請求を認めるのが当事者の意思に適うと考えられる。
 以上により冒頭で述べた結論となる。

 

[設問3]
 1.債務不履行の成否
 Hは、Fの「山菜おこわ」を丙建物において無償で保管することをFと合意し、それを丙建物に運び込んだので、寄託契約が成立している(第657条)。これは無償の寄託契約である。「和風だし」を目的物とする有償の寄託契約とは動機の部分で関係しているにすぎず、契約の内容とはなっていないので、「山菜おこわ」を目的物とする寄託は無償の寄託である。
 そうであれば、Hは、自己の財産に対するのと同一の注意をもって、寄託物(「山菜おこわ」)を保管する義務を負う(第659条)。自己の財産を保管している建物には施錠をするのが通常であるから、丙建物の施錠を忘れていたために「山菜おこわ」が盗取されたというのは、この注意義務に反している。よってHの債務不履行となり、Fはこれによって生じた損害の賠償を請求することができる(第415条)。
 2.Q百貨店の全店舗で「山菜おこわ」を取り扱ってもらえなくなったことについての損害の賠償(以下「本件損害賠償」とする)を請求することができるか否か
 Fは、Hに対し、本件損害賠償を請求することができる。
 1で検討したようにHの債務不履行により「山菜おこわ」が500箱全て盗取され、Fはその返還を受けることができなかったので、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。そこでFにHの債務不履行による損害が生じているかどうか、そして損害が生じているとすればどのような性質の損害であるかを順次検討する。
 平成24年1月12日のやり取りから、FとQとの間で、先行的に販売された「山菜おこわ」の評判がよいという条件付で、Q百貨店の全店舗で「山菜おこわ」を販売するという契約が成立していたと考えられる。条件付とはいってもQ百貨店のほうから声をかけたといった事情などを考慮すると、それが実現する蓋然性は高い。そしてもし実際にそうなればFは「山菜おこわ」の販売から利益を得られていたはずなので、その契約がなくなってしまったことはFの損害に当たる。多少の不確定要素は損害額の部分で反映させることもできるのだから、額はともかくとして損害が発生しているとするのが適切である。Qは先行販売用の「山菜おこわ」が盗取されてしまったことを受けてFの商品保管態勢が十分であるとはいえないとして、Q百貨店の全店舗で「山菜おこわ」を販売するという話を取りやめた。こうした経緯から、Hの債務不履行によりFに損害が生じていると言える。
 しかしながら、このような損害が発生するとは通常考えづらいので、Hにその責任を負わせるのは酷である。こうした事態に配慮しているのが第416条で、債務不履行に対する損害賠償は、原則として通常生ずべき損害に限られる(第416条第1項)が、特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見し、又は予見することができたときには、その賠償を請求することができる(第416条第2項)と規定されている。その予見は、債務不履行をした者が、債務不履行時にすることができたかどうかで判断するのが責任主義の観点から妥当である。Q百貨店の全店舗で「山菜おこわ」を取り扱ってもらえなくなったことについての損害(本件損害)は第416条第2項の特別損害に当たり、Hが注意義務に違反して「山菜おこわ」を盗取されて時点でその事情を予見し、又は予見することができたときに限り、Fはその賠償を請求することができる。
 Hは平成24年1月22日に料亭「和南」にて行われたFとの会話を通じて、Hが受寄している先行販売用の「山菜おこわ」がその後のQ百貨店全店舗での取り扱いの条件となっていることを知った。ある物を受寄する際には、それがどのような性質のものであり、どのような目的に用いられるかなどを知っておくはずであるという事情もある。もしその先行販売用の「山菜おこわ」がなくなってしまうと、評判がよいとか悪いとかの以前の話になり、FがQ百貨店全店舗での取り扱いをしてもらえなくなるであろうことは容易に予見できたはずである。そしてこの予見はHが注意義務に違反した平成24年1月24日の時点で可能であった。
 以上より冒頭の結論となる。

以上

 

 

感想

[設問2]はどう論じたらよいかわからず悩んだ末に、出題者から求められていない供託という記述をしてしまいました。[設問1]と[設問3]は一応の水準くらいには達していたのではないかと思いますが、不十分な点が多々あったので、それを修正しました。

 

 



平成25年司法試験論文公法系第1問答案練習

問題

〔第1問〕(配点:100)

 Aは,B県が設置・運営するB県立大学法学部の学生で,C教授が担当する憲法ゼミナール(以下「Cゼミ」という。)を履修している。Cゼミの202*年度のテーマは,「人間の尊厳と格差問題」である。Cゼミ生は,C教授の承諾も得て,ゼミの研究活動の一環として貧富の格差の拡大に関して多くの県民と議論することを目的としたシンポジウム「格差問題を考える」を県民会館で開催した。そのシンポジウムでの活発な意見交換を経て,「格差の是正」を訴える一連のデモ行進を行うことになった。そのデモ行進については,Cゼミ生を中心として実行委員会が組織され,Aがその委員長に選ばれた。実行委員会は,第1回目のデモ行進を202*年8月25日(日)に行うこととして,ツイッター等を通じて参加を呼び掛けたところ,参加希望者は約1000人となった。そこで,Aは,主催者として,B県集団運動に関する条例第2条(【参考資料1】参照)の定めにより,B県の県庁所在地であるB市の金融街から市役所,県庁に至る片道約2キロメートルの幹線道路を約1000人の参加者が往復するデモ行進許可申請書を提出した。デモ行進が行われる幹線道路沿いには多くの飲食店があり,市の中心部にある県庁や市役所の周りは県内最大の商業ゾーンでもある。B県公安委員会は,デモ行進は片側2車線の車道の歩道寄りの1車線内のみを使うことという条件付きで許可した。
 第1回目のデモ行進の当日,Aら実行委員会は,デモ参加者に対し,デモ行進中は拡声器等を使用しないこと,また,ビラの類は配らず,ゴミを捨てないようにすることを徹底させた。第1回目のデモ行進は,若干の飲食店から売上げが減少したとの県への苦情があったが,その他は特に問題を起こすことなく終えた。そこで,Aら実行委員会は,第2回目のデモ行進を同年9月21日(土)に,第1回目と同じ計画で行うこととし,同月5日(木)にデモ行進の許可申請を行った。これに対し,B県公安委員会は,第1回目と同様の条件を付けて許可した。
 B県では,次年度以降の財政の在り方をめぐり,社会福祉関係費の削減を中心として,知事と県議会が激しく対立していた。知事は,同月13日(金)に,B県住民投票に関する条例(【参考資料2】参照)第4条第3項に基づき,「社会福祉関係費の削減の是非」を付議事項として住民投票を発議し,翌10月13日(日)に住民投票を実施することとした。
 第2回目のデモ行進も,拡声器等を使用せず,ビラの類も配らずに無事終了した。ただし,住民投票実施ということもあって参加者は2000人近くに達し,「県の社会福祉関係費の削減に反対」という横断幕やプラカードを掲げる参加者もいたし,「社会福祉関係費の削減に反対票を投じよう」というシュプレヒコールもあった。また,デモ行進が行われた道路で交通渋滞が発生したために,幹線道路に近接した閑静な住宅街の道路を迂回路として使う車が増えた。第2回目のデモ行進終了後,市民や町内会からは,住宅街で交通事故が起きることへの不安や騒音被害を訴える苦情が県に寄せられた。また,第1回目よりも更に多くの飲食店から,デモ行進の影響で飲食店の売上げが減少したという苦情が県に寄せられた。
 Aら実行委員会は,第3回目のデモ行進を同年9月29日(日)に行うことにして,参加予定人員を2000人とし,その他は第1回目・第2回目と同様の計画で許可申請を行った。しかし,B県公安委員会は,住民投票日が近づいてきて一層住民の関心が高まっており,第3回目のデモ行進は,市民の平穏な生活環境を害したり,商業活動に支障を来したりするなど,住民投票運動に伴う弊害を生ずる蓋然性が高いと判断し,当該デモ行進の実施がB県集団運動に関する条例第3条第1項第4号に該当するとして,当該申請を不許可とした。
 この不許可処分に抗議するために,Aら実行委員ばかりでなく,デモ行進に参加していた人たち約200人が,B県庁前に集まった。そこに地元のテレビ局が取材に来ていて,Aがレポーターの質問に答えて,「第1回のデモ行進と第2回のデモ行進が許可されたのに,第3回のデモ行進が不許可とされたのは納得がいかない。平和的なデモ行進であるのにもかかわらず,デモ行進を不許可としたことは,県の重要な政策問題に関する意見の表明を封じ込めようとするものであり,憲法上問題がある」と発言する映像が,ニュースの中で放映された。そのニュースを,B県立大学学長や副学長も観ていた。
 AたちCゼミ生は,当初から,学外での活動の締めくくりとして,学内で「格差問題と憲法」をテーマにした講演会の開催を計画していた。デモ行進が不許可になったので学内講演会の計画を具体化することとなったが,知事の施策方針に賛成する県議会議員と反対する県議会議員を講演者として招き,さらに,今回のデモ行進の不許可処分に関するC教授による講演を加えて,開催することにした。C教授の了承も得て,Aたちは,Cゼミとして教室使用願を大学に提出した。同じ頃,Cゼミ主催の講演会とは開催日が異なるが,経済学部のゼミからも,2名の評論家を招いて行う「グローバリゼーションと格差問題:経済学の観点から」をテーマとした講演会のための教室使用願が提出されていた。
 B県立大学教室使用規則では,「政治的目的での使用は認めず,教育・研究目的での使用に限り,これを許可する」と定められている。この規則の下で,同大学は,ゼミ活動目的での申請であり,かつ,当該ゼミの担当教授が承認していれば教室の使用を許可する,という運用を行っている。同大学は,経済学部のゼミからの申請は許可したが,Cゼミからの申請は許可しなかった。大学側は,Aらが中心となって行ったデモ行進が県条例に違反すること,ニュースで流されたAの発言は県政批判に当たるものであること,また講演者が政治家であることから,Cゼミ主催の講演会は政治的色彩が強いと判断した。
 Aは,B県を相手取ってこの2つの不許可処分が憲法違反であるとして,国家賠償訴訟を提起することにした。

 

〔設問1〕
 あなたがAの訴訟代理人となった場合,2つの不許可処分に関してどのような憲法上の主張を行うか。
 なお,道路交通法に関する問題並びにB県各条例における条文の漠然性及び過度の広汎性の問題は論じなくてよい。

 

〔設問2〕
 B県側の反論についてポイントのみを簡潔に述べた上で,あなた自身の見解を述べなさい。

 

【参考資料1】B県集団運動に関する条例(抜粋)

第1条 道路,公園,広場その他屋外の公共の場所において集団による行進若しくは示威運動又は集会(以下「集団運動」という。)を行おうとするときは,その主催者は予めB県公安委員会の許可を受けなければならない。
第2条 前条の規定による許可の申請は,主催者である個人又は団体の代表者(以下「主催者」という。)から,集団運動を行う日時の72時間前までに次の事項を記載した許可申請書三通を開催地を管轄する警察署を経由して提出しなければならない。
一 主催者の住所,氏名
二 集団運動の日時
三 集団運動の進路,場所及びその略図
四 参加予定団体名及びその代表者の住所,氏名
五 参加予定人員
六 集団運動の目的及び名称
第3条 B県公安委員会は,前条の規定による申請があつたときは,当該申請に係る集団運動が次の各号のいずれかに該当する場合のほかは,これを許可しなければならない。
一~三 (略)
四 B県住民投票に関する条例第14条第1項第2号及び第3号に掲げる行為がなされることとなることが明らかであるとき。
2 B県公安委員会は,次の各号に関し必要な条件を付けることができる。
一,二 (略)
三 交通秩序維持に関する事項
四 集団運動の秩序保持に関する事項
五 夜間の静ひつ保持に関する事項
六 公共の秩序又は公衆の衛生を保持するためやむを得ない場合の進路,場所又は日時の変更に関する事項

 

【参考資料2】B県住民投票に関する条例(抜粋)

第1条 この条例は,県政に係る重要事項について,住民に直接意思を確認するための住民投票に係る基本的事項を定めることにより,住民の県政への参加を推進し,もって県民自治の確立に資することを目的とする。
第2条 住民投票に付することができる県政に係る重要事項(以下「重要事項」という。)は,現在又は将来の住民の福祉に重大な影響を与え,又は与える可能性のある事項であって,住民の間又は住民,議会若しくは知事の間に重大な意見の相違が認められる状況その他の事情に照らし,住民に直接その賛成又は反対を確認する必要があるものとする。
第4条 (略)
2 (略)
3 知事は,自ら住民投票を発議し,これを実施することができる。
4 住民投票の期日は,知事が定める。
第14条 何人も,住民投票の付議事項に対し賛成又は反対の投票をし,又はしないよう勧誘する行為(以下「住民投票運動」という。)をするに当たっては,次に掲げる行為をしてはならない。
一 買収,脅迫その他不正の手段により住民の自由な意思を拘束し又は干渉する行為
二 平穏な生活環境を害する行為
三 商業活動に支障を来す行為
2 (略)

 

練習答案

 以下日本国憲法についてはその条数のみを示す。

[設問1]
 1.デモ行進不許可処分について
 デモ行進は、動く集会だと捉えるにせよ、言論活動だと捉えるにせよ、第21条第1項で保障される表現の自由に含まれる。しかしそれが無条件で絶対的に保障されるわけではなく他の権利との調整が必要となる。他の権利とは例えば生命・身体の自由(第13条)や営業の自由(第22条第1項)である。これらの権利に関する状況は地域ごとに異なっているので、条例でその調整を行ってもよい。こうした調整を目的とするB県集団運動に関する条例(以下条例①とする)の存在そのものは合憲である。
 しかしその適用が違憲になることがある。それは理論的には表現の自由と他の権利との調整が不適当になる場合であるが、事例ごとに検討して判断するしかないので、以下では本件の具体的事情に即して考える。
 本件デモ行進不許可処分の根拠は条例①第3条第1項第4号であり、そこではB県住民投票に関する条例(以下条例②とする)第14条第1項第2号及び第3号に掲げる行為がなされることとなることが明らかであるときという理由が書かれている。そうであっても表現の自由を制限するのは他の権利でなければならず、住民投票の円滑な実施や、ましてや住民投票での特定の結果のために表現の自由を制限してはならない。住民投票という事情は、平穏な生活環境(生命・身体の自由及び幸福追求権)を害する行為や商業活動(営業の自由)に支障を来す行為を評価するためだけに考慮されなければならない。
 本件第1回目・第2回目のデモでは、平穏な生活環境や商業活動に多少の影響を与えたが、デモ行進を不許可とすべきほどではなかった。第3回目はその影響が増大することが予想されるが、Aもそれを見越して参加予定人員を2000人として許可申請を行っていた。これらの事情を総合的に考えると、デモ行進の場所・時間・様態に何らかの条件を付すことはあっても、デモ行進そのものを不許可とすることは権利調整といえども不適当であり、条例①及び条例②の適用違憲である。
 2.教室使用不許可処分
 大学で講演会を開催することは先に述べた表現の自由に加えて学問の自由(第23条)にも関係する。教室使用不許可処分には学問の自由をも制約するに足る理由が必要となる。
 そもそも本件教室使用不許可処分について国家賠償訴訟を提起する相手方としてB県が適当であるのかという疑念が生じるかもしれないが、その点に問題はない。大学には一定の自治権があるが、それは無制限に認められるものではなく、憲法に違反して構成員に損害を与えた場合などには被告として適格である。本件で登場する大学はB県立大学なので、B県が被告になる。
 本件教室使用不許可処分の理由は、Cゼミ主催の講演会は政治的色彩が強いというものである。経済学部のゼミからの申請は許可されていることからしても、他の理由はないようである。
 戦前に特定の思想的傾向を有する研究をしている教授を大学から追放したことなどの反省から日本国憲法では学問の自由がはっきりと保障された。その趣旨は学問を政治から独立させることだと言えるが、学問を政治と関わらせないということではない。むしろどのような政治的傾向を有している学問も保障するということである。
 この観点からB県立大学教室使用規則の文言を検討すると、「政治的目的での使用は認めず」とあるのは「もっぱら政治的目的での使用は認めず」という意味であり、教育・研究目的(学問目的)と政治性が併存していたとしても教育【原文ママ】使用は可能であると解釈しなければならない。
 そうすると本件教室使用不許可処分はB県立大学教室使用規則を誤って解釈した結果Aらの学問の自由を侵害したことになるので憲法違反である。

 

[設問2]
 1.B県側の反論
 (1)デモ行進不許可処分について
 本件デモ行進不許可処分は、条例①及び条例②に基づくものであって違憲ではない。既に交通事故への不安や飲食店の売上げ減少の苦情が寄せられていたところ、第3回目の本件デモを許可すると、平穏な生活環境が害され商業活動に支障を来すことは明らかだからである。
 (2)教室使用不許可処分について
 本件教室使用不許可処分は大学の自治権の範囲内でB県立大学教室使用規則に従って行ったものであり違憲ではない。大学は教育・研究機関であり、政治活動の場ではない。
 2.私自身の見解
 (1)デモ行進不許可処分について
 本件デモ行進不許可処分は違憲であると考える。Aらの表現の自由と周辺住民の生命・身体の自由、幸福追求権、営業の自由との調整がここでの論点であるが、不許可にするのではなく適当な条件を付すという他のより制限的でない手段が存在するので、本件処分は違憲である。表現の自由は一度失われてしまうと取り戻せない(同じ状況で同じ表現はもうできない)ので、それを制限するときは厳密に考えなければならない。
 (2)教室使用不許可処分について
 本件教室使用不許可処分は違憲であると考える。確かに大学には一定の自治権があり、教室使用にも一定の裁量が認められる。教室の数は有限なのだから、地域住民の利用よりも構成員の利用を優先するといった運営は許される。しかしその内容に立ち入って許可・不許可を決めることは学問の自由を脅かす。ましてや政治性を基準にすれば何とでも言えてしまい、運営者の意に沿わない学問が排除されてしまいかねない。各自が個別に学問を追究することは制限されていないといっても、講演会のような場で意見を交流するのは学問の中でも重要な位置を占める営みである。よって不当にこれを制限する本件教室使用不許可処分は違憲である。

以上

 

修正答案

 以下日本国憲法についてはその条数のみを示す。

[設問1]
 1.デモ行進不許可処分について
 デモ行進は動く集会であり、デモ行進をする自由は第21条第1項で保障される表現の自由に含まれる。自らの思想を表現することとその反作用として他者の表現に触れることは、個人の思想形成の上でも民主主義の上でも重要であり、デモ行進はその目的に大いに資するので、表現の自由として保障されるべきである。このように表現の自由として保障されるデモ行進を、法律の授権もなく公安委員会が不許可とすることのできることを定めたB県集団運動に関する条例(以下条例①とする)は、条例そのものが違憲である。デモ行進を不許可とすることは表現の事前抑制であり、表現の自由を大きく制約するものとなる。表現には表現で対抗するのが民主主義社会の原則であり、表現を事前に抑制することは、第21条第2項で検閲が禁止されていることからしても、よほどのことがない限り許されてはならない。
 また、仮に条例そのものが違憲ではないとしても、その適用が違憲になることがある。本件デモ行進不許可処分の根拠は条例①第3条第1項第4号であり、そこではB県住民投票に関する条例(以下条例②とする)第14条第1項第2号及び第3号に掲げる行為がなされることとなることが明らかであるときという理由が書かれている。そうであっても表現の自由を制限するのは、生命・身体の自由(第13条)や営業の自由(第22条第1項)などの他の権利でなければならず、住民投票の円滑な実施や、ましてや住民投票での特定の結果のために表現の自由を制限してはならない。住民投票という事情は、平穏な生活環境(生命・身体の自由及び幸福追求権)を害する行為や商業活動(営業の自由)に支障を来す行為を評価するためだけに考慮されなければならない。
 本件第1回目・第2回目のデモでは、平穏な生活環境や商業活動に多少の影響を与えたが、デモ行進を不許可とすべきほどではなかった。第3回目はその影響が増大することが予想されるが、Aもそれを見越して参加予定人員を2000人として許可申請を行っていた。住民投票が近づいていたのでデモ参加人数が2000人を超えることも想定されるが、平穏な生活環境を害する行為や商業活動に支障を来す行為が明らかに発生するとまでは言えない。交通事故は警察の誘導などで防ぐことができるし、商業活動に支障を来すといっても数時間のことであるから継続的な道路工事などよりもましであり、受忍限度内である。デモ行進の場所・時間・様態に何らかの条件を付すことを選択肢に入れるとなおさらである。道路がデモ行進に適した場所であることは言うまでもない。よってデモ行進そのものを不許可とすることは権利調整といえども不適当であり、条例①及び条例②の適用を誤ったものとして違憲になる。
 2.教室使用不許可処分
 大学で講演会を開催することは先に述べた表現の自由に加えて学問の自由(第23条)にも関係する。「格差問題と憲法」をテーマにした講演会は学問的活動の一環であり、その教室使用を不許可とする処分には学問の自由をも制約するに足る理由が必要となる。
 本件教室使用不許可処分の理由は、Cゼミ主催の講演会は政治的色彩が強いというものである。これと類似した経済学部のゼミからの申請は許可されていることからしても、他の理由はないようである。
 学問の自由の沿革を見ると、戦前に特定の思想的傾向を有する研究をしている教授を大学から追放したことなどの反省から、日本国憲法ではこれがはっきりと保障されることとなった。その趣旨は学問を政治から独立させることだと言えるが、学問を政治と関わらせないということではない。むしろどのような政治的傾向を有している学問も保障するということである。
 この観点からB県立大学教室使用規則の文言を検討すると、「政治的目的での使用は認めず」とあるのは「もっぱら政治的目的での使用は認めず」という意味であり、教育・研究目的(学問目的)と政治性が併存していたとしても教室使用は可能であると解釈しなければならない。類似したテーマの経済学部のゼミからの申請は許可されているのだから、Aの申請が差別的に取り扱われているとも考えられる。
 そうすると本件教室使用不許可処分はB県立大学教室使用規則を誤って解釈した結果Aらの学問の自由を侵害したことになり、平等原則(第14条第1項)にも違反しているので憲法違反である。

 

[設問2]
 1.B県側の反論
 (1)デモ行進不許可処分について
 道路は公の施設である。地方自治法第244条第2項の反対解釈により、地方自治体は正当な理由があれば住民が公の施設を利用することを拒むことができる。平穏な生活環境を害する行為や商業活動に支障を来す行為を防ぐためというのは正当な理由であるから、それに基づいてデモ行進を不許可とすることのできる条例は地方自治法の授権の範囲内である。表現の自由との関連で言っても、デモでの主張内容とは関わらない付随的な規制であるので憲法に反していない。
 本件デモ行進不許可処分は、上記の正当な理由に基づくものであって違憲ではない。既に交通事故への不安や飲食店の売上げ減少の苦情が多数寄せられていたところ、第3回目の本件デモを許可すると、平穏な生活環境が害され商業活動に支障を来すことは明らかだからである。B県の警察だけでは対応し切れない。
 (2)教室使用不許可処分について
 本件教室使用不許可処分は大学の自治権の範囲内である。学生にすぎないAに教育・研究の自由は保障されていない。本件処分はB県立大学教室使用規則に従って行ったものであり違憲ではない。大学は教育・研究機関であり、政治活動の場ではない。Aからの申請を特に差別的に取り扱ってはいない。
 2.私自身の見解
 (1)デモ行進不許可処分について
 条例①そのものが違憲とはいえないまでも、本件デモ行進不許可処分は条例①の適用を誤ったもので違憲であると考える。
 表現の自由といえども無条件で絶対的に保障されるわけではなく他の権利との調整が必要となる。その調整を行うことを目的とする条例①そのものは合憲である。「許可」という文言が使われていても、条例①の第3条の各号のいずれかに該当する場合のほかは許可しなければならないと規定されているので、実質的には届出制である。
 本件での条例①及び条例②の適用については、Aらの表現の自由と周辺住民の生命・身体の自由、幸福追求権、営業の自由との調整が適当に行われているかが論点になる。表現の自由は一度失われてしまうと取り戻せない(同じ状況で同じ表現はもうできない)ので、それを制限するときは厳密に考えなければならない。そう考えると、デモ行進を不許可にするのではなく適当な条件を付すという他のより制限的でない手段が存在するので、本件処分は違憲である。仮にB県の警察だけでは対応し切れないとしても、事前に日時がわかっているのだから、近隣から応援を頼むこともできたはずである。
 (2)教室使用不許可処分について
 本件教室使用不許可処分は違憲であると考える。
 そもそも本件教室使用不許可処分について国家賠償訴訟を提起する相手方としてB県が適当であるのかという疑念が生じるかもしれないが、その点に問題はない。大学には一定の自治権があるが、それは無制限に認められるものではなく、憲法に違反して構成員に損害を与えた場合などには適法な訴えとなる。本件で登場する大学はB県立大学なので、B県が被告になる。
 Aは学生であり教育・研究の自由は保障されていないという見解があるが、学生にも可能な限り教育・研究の自由が保障されるべきだと私は考える。大学では教員だけが教育・研究活動を行っているわけではなく、院生や学生も行っている。とりわけゼミではそうである。ゼミでの学生の発表に着想を得て教員が研究を進めることも珍しくない。教員と学生の申請がかち合ったときに教員の申請を優先するということはあっても、本件のように学生が教員の意思を体現している場合はその学生にも教育・研究の自由が認められるべきである。
 確かに大学には一定の自治権があり、教室使用の許可・不許可にも一定の裁量が認められる。教室の数は有限なのだから、地域住民の利用よりも構成員の利用を優先するといった運営は許される。しかしその内容に立ち入って許可・不許可を決めることは学問の自由を脅かす。ましてや政治性を基準にすれば何とでも言えてしまい、運営者の意に沿わない学問が排除されてしまいかねない。各自が個別に学問を追究することは制限されていないといっても、講演会のような場で意見を交流するのは学問の中でも重要な位置を占める営みである。よって不当にこれを制限する本件教室使用不許可処分は違憲である。これと類似した経済学部のゼミからの申請は許可されていることに着目すると、平等原則違反でもある。

以上

 

 

感想

練習では[設問1]と[設問2]の振り分けに失敗しました。[設問1]で自分の考えを書いてしまったのです。[設問1]では法令違憲と適用違憲の両方を主張するのが実際的かなと思いました。修正答案では出題趣旨で触れられていることをなかば無理矢理盛り込みました。

 



平成25年司法試験論文公法系第2問答案練習

問題

〔第2問〕(配点:100〔〔設問1〕と〔設問2〕の配点割合は,6:4〕)

 
 Aは,土地区画整理法(以下「法」という。)に基づいて1987年に設立されたB土地区画整理組合(以下「本件組合」という。)の組合員である。本件組合の施行する土地区画整理事業(以下「本件事業」という。)については,当初,国及びC県からの補助金並びに保留地(事業費を捻出するために売却に用いられる土地をいう。)の処分による収入により実施する計画であったが,地価の下落により,保留地の処分が計画どおり進まなかったため,本件組合は,度々資金計画を変更して,補助金の増額や事業資金の借入れにより対応してきた。しかし,なおも地価の下落が続き,事業費不足が生じたため,本件組合は,組合員に対して総額15億円の賦課金の負担を求めることとした。
 本件組合は,2012年6月17日に開催された臨時総会(以下「本件臨時総会」という。)において,賦課金の新設を内容とする定款変更(以下「本件定款変更」という。その内容については,【資料1】を参照。)について議決した。また,本件臨時総会においては,賦課金の額及び徴収方法を定める賦課金実施要綱(以下「本件要綱」という。)が議決された。本件要綱によると,300平方メートル以下の小規模宅地の所有者又は借地権者(以下「所有者等」という。)には,賦課金は課されず,300平方メートルを超える宅地の所有者等に対して,300平方メートルを超える地積に比例して,賦課金が割り当てられる。すなわち,各組合員の賦課金の額は,{(地積-300㎡)×賦課金単価}とされ,賦課金単価は,{15億円÷(総地積-総賦課金免除地積)}とされている。本件臨時総会で,本件組合の理事Dは,小規模宅地の所有者等に対する政策的配慮から,小規模宅地の所有者等については一律に賦課金支払義務を免除した旨を説明した。
 本件臨時総会における本件定款変更の議決状況は,【資料2】のとおりである。書面による議決権行使の書類については,本件組合の理事Dが組合員により署名捺印された白紙のままの書面議決書500通を受け取り,後で議案に賛成の記載を自ら施していた。
 本件組合は,法第39条第1項の規定に基づき,本件定款変更について認可を申請し,C県知事は,2012年12月13日付けで,本件定款変更の認可(以下「本件認可」という。)を行った。
 本件事業の施行区域内に2000平方メートルの宅地を所有するAは,本件認可に不満を持ち,C県の担当部署を訪れて,本件認可を見直すよう申し入れるとともに,聞き入れられない場合には,本件認可の取消しを求めて訴訟を提起する考えを伝えた。しかし,C県職員からは,本件認可を見直す予定はないこと,及び,本件認可は取消訴訟の対象とならないことを告げられた。途方に暮れたAは,知り合いの弁護士Eに相談した。
 以下に示された【法律事務所の会議録】を読んだ上で,弁護士Eの指示に応じ,弁護士Fの立場に立って,設問に答えなさい。
 なお,土地区画整理法の抜粋は【資料3】に掲げてあるので,適宜参照しなさい。ただし,土地区画整理法及び同法施行令の規定によると,費用の分担に関する定款変更は総会の特別議決事項とされており,組合員の3分の2以上が出席し,出席組合員の(人数及び地積における)3分の2以上で決することとされているが,これに関する規定は【資料3】には掲げていない。

 
〔設問1〕
 本件認可は,取消訴訟の対象となる処分に当たるか。土地区画整理組合及びこれに対する定款変更認可の法的性格を論じた上で,本件認可の法的効果を丁寧に検討して答えなさい。

 
〔設問2〕
 本件認可は適法か。関係する法令の規定を挙げながら,適法とする法律論及び違法とする法律論として考えられるものを示して答えなさい。

 
【法律事務所の会議録】

 
弁護士E:Aさんは,本件認可の取消訴訟を提起したい意向です。そこで,まず,訴訟要件について検討しましょう。本件認可に処分性は認められるでしょうか。
弁護士F:「認可」という文言からして,処分性は問題なく認められるのではないでしょうか。
弁護士E:本件では,土地区画整理組合に対する認可である点に注意が必要です。Aさんの話では,C県の職員は,「本件組合は,行政主体としての法的性格を与えられている」と述べたそうです。
弁護士F:本件組合が行政主体であるとは,どういうことでしょうか。土地区画整理法にそのようなことが規定されているのでしょうか。
弁護士E:認可の法的性格を考える上で前提になりますから,検討をお願いします。それから,C県の職員は,「下級行政機関である本件組合に対する本件認可は,処分に該当しない」と明言していたようです。なぜ本件認可の処分性が否定されることになるのか,C県側の立脚している考え方について,整理してください。その際,C県側の主張の論拠となり得る土地区画整理法の規定があれば,挙げてください。
弁護士F:承知しました。ただ,本件認可の法的効果を幅広く検討することによって,処分性が認められる余地があるのではないでしょうか。
弁護士E:なるほど。本件認可の法的効果を条文に即して幅広く検討する必要がありますね。Aさんの話では,C県の職員は,「市町村が土地区画整理事業を行う場合には,定款ではなく施行規程を条例で定めることとされています。条例の制定行為に処分性が認められないのと同様に,本件認可は処分に該当するものではありません。」と述べたそうです。この主張がどのような法的根拠に基づいており,何を理由に処分性を否定する趣旨なのか,明らかにする必要があります。また,この主張に対してどのように反論すべきかについて,重要な点ですから,賦課金の具体的な仕組みに即した丁寧な検討をお願いします。
弁護士F:承知しました。
弁護士E:次に,本件認可の適法性について検討しましょう。Aさんの話では,本件事業は,地価が高騰しつつあったバブル経済期に計画され,保留地を高値で売却できることが資金計画の前提とされていました。ところが,バブル経済の崩壊により,この前提が大きく崩れたにもかかわらず,本件組合は,地価はいずれ持ち直すという楽観的な見通しのもとに資金計画を変更し,さらに資金計画の変更を迫られるということを繰り返しています。今回の資金計画の変更は,事業当初から数えて7回目に当たります。このような度重なる資金計画の変更は,本件組合が本件事業を遂行できるのかについて大きな疑問を抱かせるものであること,また,本件事業は既に実質的に破綻しており,賦課金の新設を認めることは違法であることなどが,Aさんの主張です。Aさんの主張が本件認可の違法事由として法律構成できるものなのかについて,土地区画整理法の条文に即して検討してください。
弁護士F:承知しました。
弁護士E:それから,Aさんの不満は,本件定款変更が本件臨時総会で議決された経緯にもあるようです。費用の分担に関する定款変更は,特別議決事項とされていますが,本件臨時総会の議決状況を見ると,形の上では,議決の要件を満たしていますね。ただ,書面議決書の取扱いに問題があるように思われますので,この点についての違法性を,C県側の反論も想定した上で,検討してください。
弁護士F:承知しました。Aさんは,賦課金の算定方法が不公平であるという点にも不満を持っておられるようですね。私の方で少し調査しましたところ,本件組合の組合員1人当たりの平均地積は約482平方メートルですが,300平方メートル以下の宅地の所有権等を有し,賦課金が免除される組合員は930名で,総組合員の約80パーセントを占めています。また,賦課金が免除される宅地の総地積は約23万平方メートルで,施行地区内の宅地の総地積の約41パーセントを占めています。
弁護士E:なるほど。そのデータを踏まえ,本件の賦課金の算定方法の違法性につき,土地区画整理法の規定に照らして,検討してください。ただ,賦課金の算定方法は本件定款において直接定められているわけではありませんので,C県側は,賦課金の算定方法の違法性が本件認可の違法性をもたらすわけではないという主張をしてくるかもしれません。これに対する反論についても検討をお願いします。
弁護士F:承知しました。
【資料1 本件定款変更の内容】
賦課金に関する規定を新設し,第6条第2号を挿入して同条第3号以下を繰り下げるとともに,第7条及び第8条を挿入して第9条以下を繰り下げる。変更後の第6条ないし第8条は,以下のとおりである。
(収入金)
第6条 この組合の事業に要する費用は,次の各号に掲げる収入金をもってこれに充てる。
一 補助金及び助成金
二 次条の規定による賦課金
三 第9条の規定による保留地の処分金
四 (略)
五 寄付金及び雑収入
(賦課金)
第7条 前条第2号の賦課金の額及び賦課金徴収の方法は,総会の議決に基づき定める。
(過怠金及び督促手数料)
第8条 前条の規定による賦課金の滞納に督促状を発した場合においては,督促1回ごとに80円の督促手数料及びその滞納の日数に応じて当該督促に係る賦課金の額に年利10.75パーセントの割合を乗じて得た金額を延滞金として徴収するものとする。

 
【資料2 本件臨時総会における本件定款変更の議決状況】

 
総組合員数 1161名
宅地の総地積 56万平方メートル
出席組合員数 907名
(投票者287名,書面による議決権行使者620名)
賛成した出席組合員数 795名
(投票者225名,書面による議決権行使者570名)
賛成した出席組合員が所有権又は借地権を有する宅地総地積 39万平方メートル
(投票者18万平方メートル,書面による議決権行使者21万平方メートル)

 
【資料3 土地区画整理法(昭和29年5月20日法律第119号)(抜粋)】

 
(この法律の目的)
第1条 この法律は,土地区画整理事業に関し,その施行者,施行方法,費用の負担等必要な事項を規定することにより,健全な市街地の造成を図り,もつて公共の福祉の増進に資することを目的とする。
(定義)
第2条 この法律において「土地区画整理事業」とは,都市計画区域内の土地について,公共施設の整備改善及び宅地の利用の増進を図るため,この法律で定めるところに従つて行われる土地の区画形質の変更及び公共施設の新設又は変更に関する事業をいう。
2~8 (略)
(土地区画整理事業の施行)
第3条 (略)
2 宅地について所有権又は借地権を有する者が設立する土地区画整理組合は,当該権利の目的である宅地を含む一定の区域の土地について土地区画整理事業を施行することができる。
3 (略)
4 都道府県又は市町村は,施行区域の土地について土地区画整理事業を施行することができる。
5 (略)
(設立の認可)
第14条 第3条第2項に規定する土地区画整理組合(以下「組合」という。)を設立しようとする者は,7人以上共同して,定款及び事業計画を定め,その組合の設立について都道府県知事の認可を受けなければならない。(以下略)
2~4 (略)
(定款)
第15条 前条第1項(中略)の定款には,次に掲げる事項を記載しなければならない。
一 組合の名称
二 施行地区(中略)に含まれる地域の名称
三 事業の範囲
四 事務所の所在地
五 (略)
六 費用の分担に関する事項
七~十二 (略)
(設立の認可の基準等及び組合の成立)
第21条 都道府県知事は,第14条第1項(中略)に規定する認可の申請があつた場合においては,次の各号(中略)のいずれかに該当する事実があると認めるとき以外は,その認可をしなければならない。
一 申請手続が法令に違反していること。
二 定款又は事業計画若しくは事業基本方針の決定手続又は内容が法令(中略)に違反していること。
三 (略)
四 土地区画整理事業を施行するために必要な経済的基礎及びこれを的確に施行するために必要なその他の能力が十分でないこと。
2~7 (略)
(組合員)
第25条 組合が施行する土地区画整理事業に係る施行地区内の宅地について所有権又は借地権を有する者は,すべてその組合の組合員とする。
2 (略)
(総会の組織)
第30条 組合の総会は,総組合員で組織する。
(総会の議決事項)
第31条 次に掲げる事項は,総会の議決を経なければならない。-6-
一 定款の変更
二 事業計画の決定
三 事業計画又は事業基本方針の変更
四~六 (略)
七 賦課金の額及び賦課徴収方法
八~十二 (略)
(議決権及び選挙権)
第38条 1,2 (略)
3 組合員は書面又は代理人をもつて(中略)議決権及び選挙権を行うことができる。
4 前項の規定により議決権及び選挙権を行う者は,(中略)出席者とみなす。
5,6 (略)
(定款又は事業計画若しくは事業基本方針の変更)
第39条 組合は,定款又は事業計画若しくは事業基本方針を変更しようとする場合においては,その変更について都道府県知事の認可を受けなければならない。(以下略)
2 (中略)第21条第1項(中略)の規定は前項に規定する認可の申請があつた場合又は同項に規定する認可をした場合について準用する。(以下略)
3~6 (略)
(経費の賦課徴収)
第40条 組合は,その事業に要する経費に充てるため,賦課金として(中略)組合員に対して金銭を賦課徴収することができる。
2 賦課金の額は,組合員が施行地区内に有する宅地又は借地の位置,地積等を考慮して公平に定めなければならない。
3 (略)
4 組合は,組合員が賦課金の納付を怠つた場合においては,定款で定めるところにより,その組合員に対して過怠金を課することができる。
(賦課金等の滞納処分)
第41条 組合は,賦課金(中略)又は過怠金を滞納する者がある場合においては,督促状を発して督促し,その者がその督促状において指定した期限までに納付しないときは,市町村長に対し,その徴収を申請することができる。
2 (略)
3 市町村長は,第1項の規定による申請があつた場合においては,地方税の滞納処分の例により滞納処分をする。(以下略)
4 市町村長が第1項の規定による申請を受けた日から30日以内に滞納処分に着手せず,又は90日以内にこれを終了しない場合においては,組合の理事は,都道府県知事の認可を受けて,地方税の滞納処分の例により,滞納処分をすることができる。
5 前2項の規定による徴収金の先取特権の順位は,国税及び地方税に次ぐものとする。
(施行規程及び事業計画の決定)
第52条 都道府県又は市町村は,第3条第4項の規定により土地区画整理事業を施行しようとする場合においては,施行規程及び事業計画を定めなければならない。(以下略)
2 (略)
(施行規程)
第53条 前条第1項の施行規程は,当該都道府県又は市町村の条例で定める。
2 前項の施行規程には,左の各号に掲げる事項を記載しなければならない。
一 土地区画整理事業の名称
二 施行地区(中略)に含まれる地域の名称-7-
三 土地区画整理事業の範囲
四 事務所の所在地
五 費用の分担に関する事項
六~八 (略)
(換地処分)
第103条 換地処分は,関係権利者に換地計画において定められた関係事項を通知してするものとする。
2 換地処分は,換地計画に係る区域の全部について土地区画整理事業の工事が完了した後において,遅滞なく,しなければならない。(以下略)
3 個人施行者,組合,区画整理会社,市町村又は機構等は,換地処分をした場合においては,遅滞なく,その旨を都道府県知事に届け出なければならない。
4 国土交通大臣は,換地処分をした場合においては,その旨を公告しなければならない。都道府県知事は,都道府県が換地処分をした場合又は前項の届出があつた場合においては,換地処分があつた旨を公告しなければならない。
5,6 (略)
(報告,勧告等)
第123条 国土交通大臣は都道府県又は市町村に対し,都道府県知事は個人施行者,組合,区画整理会社又は市町村に対し,市町村長は個人施行者,組合又は区画整理会社に対し,それぞれその施行する土地区画整理事業に関し,この法律の施行のため必要な限度において,報告若しくは資料の提出を求め,又はその施行する土地区画整理事業の施行の促進を図るため必要な勧告,助言若しくは援助をすることができる。
2 (略)
(組合に対する監督)
第125条 都道府県知事は,組合の施行する土地区画整理事業について,その事業又は会計がこの法律若しくはこれに基づく行政庁の処分又は定款,事業計画,事業基本方針若しくは換地計画に違反すると認める場合その他監督上必要がある場合においては,その組合の事業又は会計の状況を検査することができる。
2~7 (略)

 

練習答案

[設問1]
 1.土地区画整理組合の法的性質
 C県の職員が述べているように本件の土地区画整理組合が下級行政機関であれば、本件認可は処分に該当しないことになる。というのも、行政事件訴訟法の規律を受ける処分とは私人を名あて人にしたものだからである。通達のように行政機関内部でのやり取りはもっぱら行政権に関わるものであり、三権分立の観点から司法審査になじまない。法律の文言上は「認可」となっていても、それが行政機関内部でのやり取りであるならば、やはり司法審査になじまない。
 このC県側の主張の論拠となり得る土地区画整理法の規定がいくつかある。まず第3条の第2項と第4項で、土地区画整理事業の試行主体として、土地区画整理組合と都道府県又は市町村が並列的に挙げられている。そして第123条で都道府県知事や市町村長が土地区画整理組合に対して報告の要求や勧告ができると規定されている。さらに第125条で都道府県知事による組合に対する監督が規定されている。しかし土地区画整理組合が都道府県や市町村から命じられたことをしなければならないわけでもなく、これが下級行政機関であるとは言えない。
 2.本件定款変更認可の法的性格
 C県の職員が言うように、条例の制定行為は基本的に処分性が認められない。その理由は、条例が一般に不特定多数を一般的・抽象的に対象とするものであり、民主主義や住民自治の観点から、議会に委ねられるべきだという点にある。逆に言うと、条例という形式をとっていても、特定の者に義務を負わせるのであれば、それは処分に該当すると言える。
 本件認可は賦課金を新設する定款変更に対する認可である。その賦課金の具体的な仕組みは300平方メートルを超える宅地の所有者等に対して、300平方メートルを超える地積に比例して賦課金が割り当てられるというものであり、Aほか約200名に限って義務を負うことになる。よって先の基準からすると条例という形式であっても行政事件訴訟法で規律される処分に該当するとAは反論することができ、それが認められるべきである。
 3.結論
 以上より、本件認可は、取消訴訟の対象となる処分に当たる。

[設問2]
 1.本件事業の実態(実質的に破綻しているので違法であるというAの主張)
 本件認可は土地区画整理法第39条第1項に規定される組合の定款変更に係る都道府県知事の認可であり、同2項により第21条第1項の規定が準用される。そこで第21条第1項を見ると、その第四号にある「土地区画整理事業を施行するために必要な経済的基礎及びこれを的確に施行するために必要なその他の能力が十分でないこと」に該当する事実がある場合は、同項の反対解釈によりその認可をしてはならないことになる。Aによる本件事業は既に実質的に破綻しているという主張は、土地区画整理法第21条第1項第四号に該当するとして、本件認可の違法事由として法律構成できる。C県側としては、本件事業は既に実質的に破綻しているとは言えず、むしろ事業を施行するために必要な経済的な基礎を固めるためにも本件認可が必要であると反論するだろう。
 2.書面決議書の取扱い
 本件臨時総会において、本件組合の理事Dが組合員により署名捺印された白紙のままの書面議決書500通を受け取り、後で議案に賛成の記載を自ら施していた。書面議決そのものは土地区画整理法第38条第3項及び第4項により可能であるが、Dが賛成の記載を後からしていたことが問題になり得る。この500通の書面議決書が無効になれば組合員の3分の2以上の出席という要件を満たさなくなるので、本件認可は違法となる。しかし第38条第3項及び第4項では代理人による議決も認められているのでこの書面議決書が無効にはならないとC県は反論できる。白紙のままの書面議決書に署名捺印してDに渡すことは、Dに本件議決の代理を委任するに等しいという根拠がある。
 3.本件賦課金の算定方法の違法性
 問題文に示されたデータによると、本件賦課金を課されるのは、総組合員の約20パーセントに過ぎず、総地積から計算しても60パーセントに満たない。土地区画整理法第40条第2項に「賦課金の額は、組合員の試行区域内に有する宅地又は借地の位置、地積等を考慮して公平に定めなければならない」とあるところ、これに反する疑いが濃厚である。ただ、賦課金の算定方法は本件定款において直接定められているわけではないので、C県側は、賦課金の算定方法の違法性が本件認可の違法性をもたらすわけではないという主張をしてくるかもしれない。しかしながら、定款に直接定められていないといっても、本文中に記載された方法で賦課金が徴収されることはほぼ確実である。そのような事情下で違法だと判断しないことは、行政一般に妥当する公平の原則にもとる。
 4.結論
 本件認可が違法であると言えるほどに本件事業が破綻しているとは認められない。また、書面決議書の取扱いに多少の問題はあったとしても、それが無効になるほどではない。しかし本件賦課金の算定方法は著しく不公平であり、それを許すことになる本件認可は違法である。

以上

 

 

修正答案

[設問1]
 1.土地区画整理組合の法的性質
 C県の職員が述べているように本件の土地区画整理組合が下級行政機関であり、本件認可が行政機関の間での内部行為であれば、それは処分に該当しないことになる。というのも、行政事件訴訟法の規律を受ける処分とは、国民の権利義務ないし法律上の地位に直接具体的な法律上の影響を与えるものだからである。通達のように行政機関内部でのやり取りはもっぱら行政権に関わるものであり、三権分立の観点から司法審査になじまない。法律の文言上は「認可」となっていても、それが実質的に行政機関内部でのやり取りであるならば、やはり司法審査になじまない。
 このC県側の主張の論拠となり得る土地区画整理法の規定がいくつかある。まず第3条の第2項と第4項で、土地区画整理事業の試行主体として、土地区画整理組合と都道府県又は市町村が並列的に挙げられている。より具体的には、第25条第1項で組合につき強制加入制がとられていること、第40条や第41条で賦課金及び過怠金の賦課徴収及び滞納処分申請の権限が組合に付与されていること、第103条第3項で換地処分の権限が組合に付与されていることが規定され、地方自治体類似の権能が与えられている。そして第123条で都道府県知事や市町村長が土地区画整理組合に対して報告の要求や勧告ができると規定されており、さらに第125条で都道府県知事による組合に対する監督が規定されている。これらの点から、土地区画整理組合が都道府県や市町村の下級行政機関という側面を有していると言える。
 しかしながら、本件認可は下級行政機関という側面を有する土地区画整理組合に対するものであるとはいえ、Aをはじめとした組合員に賦課金の納入という義務を負わせる効果を生じさせるので、行政機関内部でのやり取りに収まらず、処分性が認められる余地がある。
 2.本件定款変更認可の法的性格
 本件定款変更認可はAをはじめとした組合員に賦課金の納入という義務を負わせる効果を生じさせるので処分性が認められる余地があるとしても、本件認可から直ちに組合員が賦課金の納入義務を負うわけではなく、賦課金の徴収といった土地区画整理事業を施行する場合には施行規程を定めなければならず(土地区画整理法第52条)、その施行規程は当該都道府県又は市町村の条例で定められる(土地区画整理法第53条第1項)。C県の職員が言うように、条例の制定行為に処分性が認められないとすると、条例の制定とセットになっている本件認可にも処分性が認められないという主張が成り立つ。条例の制定に処分性が認められない理由は、条例が不特定多数を一般的・抽象的に対象とするものであり、民主主義や住民自治の観点から、議会に委ねられるべきだという点にある。逆に言うと、条例という形式をとっていても、特定の者に義務を負わせるのであれば、それは処分に該当すると言える。
 本件認可は賦課金を新設する定款変更に対する認可である。その賦課金の具体的な仕組みは、定款変更と同時に議決された本件要綱に基づき300平方メートルを超える宅地の所有者等に対して、300平方メートルを超える地積に比例して賦課金が割り当てられるというものであり、Aほか約200名に限って義務を負うことになる。よって先の基準からすると条例という形式であっても特定の者に直接具体的な義務を負わせるので行政事件訴訟法で規律される処分に該当するとAは反論することができ、それが認められるべきである。
 3.結論
 以上より、本件認可は、取消訴訟の対象となる処分に当たる。

[設問2]
 1.本件事業の実態(実質的に破綻しているので違法であるというAの主張)
 本件認可は土地区画整理法第39条第1項に規定される組合の定款変更に係る都道府県知事の認可であり、同2項により第21条第1項の規定が準用される。そこで第21条第1項を見ると、その第4号にある「土地区画整理事業を施行するために必要な経済的基礎及びこれを的確に施行するために必要なその他の能力が十分でないこと」に該当する事実がある場合は、同項の反対解釈によりその認可をしてはならないことになる。Aによる本件事業は既に実質的に破綻しているという主張は、土地区画整理法第21条第1項第4号に該当するとして、本件認可の違法事由として法律構成できる。C県側としては、本件事業は既に実質的に破綻しているとは言えず、むしろ事業を施行するために必要な経済的な基礎を固めるためにも本件認可が必要であると反論するだろう。
 2.書面決議書の取扱い
 本件臨時総会において、本件組合の理事Dが組合員により署名捺印された白紙のままの書面議決書500通を受け取り、後で議案に賛成の記載を自ら施していた。書面議決そのものは土地区画整理法第38条第3項及び第4項により可能であるが、Dが賛成の記載を後からしていたことが問題になり得る。この500通の書面議決書が無効になれば組合員の3分の2以上の出席という要件を満たさなくなるので、本件認可は違法となる。しかし第38条第3項及び第4項では代理人による議決も認められているのでこの書面議決書が無効にはならないとC県は反論できる。白紙のままの書面議決書に署名捺印してDに渡すことは、Dに本件議決の代理を委任するに等しいという根拠がある。
 3.本件賦課金の算定方法の違法性
 問題文に示されたデータによると、本件賦課金を課されるのは、総組合員の約20パーセントに過ぎず、総地積から計算しても60パーセントに満たない。土地区画整理法第40条第2項に「賦課金の額は、組合員の試行区域内に有する宅地又は借地の位置、地積等を考慮して公平に定めなければならない」とあるところ、これに反する疑いが濃厚である。ただ、賦課金の算定方法は本件定款において直接定められているわけではないので、C県側は、賦課金の算定方法の違法性が本件認可の違法性をもたらすわけではないという主張をしてくるかもしれない。しかしながら、定款に直接定められていないといっても、本件要綱が定款変更と同時に議決されているので、本文中に記載された方法で賦課金が徴収されることはほぼ確実である。そのような事情下で違法だと判断しないことは、土地区画整理法第40条第2項の趣旨に反する。
 4.結論
 本件認可が違法であると言えるほどに本件事業が破綻しているとは認められない。また、書面決議書の取扱いに多少の問題はあったとしても、それが無効になるほどではない。しかし本件賦課金の算定方法は著しく不公平であり、それを許すことになる本件認可は違法である。

以上

 

 

感想

[設問2]はまだマシだったとしても、[設問1]が意図をつかめずひどい答案を書いてしまいました。全体的に国語力で解いているような気がしてなりません。




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