浅野直樹の学習日記

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日商簿記検定3級・2級の受験記録

日商簿記検定3級と2級を初めて受験したときの記録です。先に結果を書いておくと、3級が93点で合格、2級が69点で不合格でした。

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1.勉強を始める前の状態

2015年の11月頃に簿記の試験を受けてみようと思い立ちました。会計学を教える必要が出てきそうだったからです。先に会計学から入ったのです。財務諸表などはそれなりに読めるものの、これをどうやって作っているのだろうという状態でした。

 

それとは別に団体の会計をすることなども多く、簿記の知識があったほうがよいだろうなと薄々感じていました。小さい団体なので単式簿記でも基本的に問題ないとはいえ、決算資料を作るときに迷うこともありました。

 

肝心の簿記の知識はゼロに等しかったです。複式簿記の何がすごいかもわかっていませんでした(負債や資産を正確に把握し、借方と貸方の数字を合わせることにより検算してミスを防ぎやすくする点に複式簿記のすごさがあると今では理解しています)。

 

電卓も普段は使わないので速く打てません。その代わりに計算を工夫して頭の中でやるといったことはできます。ある金額の5%ならその金額のゼロを一つ取って半分にするといった考え方です。

 

2.簿記3級の勉強

本屋で簿記試験のコーナーを見ると「スッキリ」シリーズと「サクッと」シリーズの2大勢力が目に付きました。両方をぱっと見た感触で「スッキリ」のほうが読みやすかったため、こちらに決めました。

 

絵がかわいいですし、左側(借方)はうれしいことで右側(貸方)は悲しいことのような直感的な理解も悪くありません。欲を言うなら、なぜ複式簿記が必要なのかということや、何のために決算整理をするのかといったことの説明も欲しかったです。特に決算整理は○○表というのがたくさん出てきて混乱しました。財務諸表を作るための作業だということを意識すると理解しやすくなります。精算表で当期純利益が損益計算書の借方から貸借対照表の貸方に移動することも、企業の活動を大きな視点で捉えて財務諸表を意識すればわかりました。

 

「スッキリ」に付属している問題を解き、過去問を10回分くらいやったら、満点に近いところで合格できそうな手応えを得ました。

 

3.簿記2級の勉強

2級も同じく「スッキリ」シリーズを活用しました。

 

商業簿記は3級の発展版なのでスムーズに入れました。こういう場合はこういう仕訳をするという細かいことを覚えるのが大変なだけです。苦労したのは社債を発行したときの調整と帳簿の記入方法あたりです。

 

工業簿記は全く初めての領域だったので戸惑いました。現金など→材料・賃金・経費→仕掛品→製品→売上原価→売上→現金などという大きな循環を大前提として、材料・賃金・経費→仕掛品の部分は直接算入される部分と製造間接費を経由する部分があると理解して、今学んでいる事柄がどこの話なのかということを意識できるようになってようやく慣れました。

 

ボックス図はほぼ完璧に使いこなせるようになったのでよいとして、差異分析のシュラッター図が嫌いです。金額が基準より大きくても小さくても外側に書くという点が視覚的な直感に反していますし、「よその」のように呪文として意味もわからず暗記しろと言われることに抵抗があるのです。それよりも予算差異は予算と実際との差、操業度差異はどれだけ固定費の分を使い倒したかという差異、能率差異は同じだけの製品を作るのにどれだけ多く(少なく)時間がかかったかという差と理解したほうが計算しやすいです。

 

「スッキリ」付属の問題を解いてから過去問を15回分くらいやって、平均的に70点は超えられるかなという状態になりました。

 

4.受験した感想

3級は多少自信がないところもあったものの、満点に近いところだろうという手応えでした。2級は微妙だなという手応えでした。200%定率法というのが何なのかわからず、帰ってから調べると新しく出題されるようになった範囲のようでした。最新情報は常にチェックすべきだと反省しました。

 

結果を見ると、記述式なので自己採点よりも実際の点数が低くなるように感じました。漢字を間違えていたり帳簿や表の書き方が違っていたりするせいでしょうか。

 

次は1級と2級を受けようと考えています。

 

 

 

 

 

 

 

 



複利計算(平均成長率)の計算のやり方

複利計算(平均成長率)の計算についてまとめます。数学的な概念の理解から手計算でのやり方、excelなどの表計算ソフトあるいはgoogle検索でのやり方まで網羅します。対数(log)の定義と基本性質を理解していることを前提にしています。手計算をする際にたびたび用いる常用対数表はインターネット上で検索すればすぐに見つかりますし、数学の教科書などに付属していることも多いです。

 

1.元金と利率から所定年後の満期金額を求める(基準年度の値と成長率から所定年後の値を求める)

100万円を5%の利率で15年預けたら満期時にいくらになるかという例を考えてみましょう。利率が5%というのは2000年以降の日本では考えにくい数字ですが、他の時代や国では十分あり得る数字です。100万円の売上高が毎年5%ずつ成長したら15年後の売上高はいくらになるかというのも同じことですね。求める金額を$x$とすると次の式が成り立ちます。

$x=100\times(1.05)^{15}$

1年目で最初の100万円が1.05倍になり、2年目でそれがさらに1.05倍になり…15年目では(1.05)$^{15}$倍になると考えるのです。

 

(1)手計算

根気よく1.05を15回かければ求めることができますが、電卓を使ってもそれなりに大変です。こういう場合は対数を使うと計算が楽になります。

$x=100\times(1.05)^{15}$

両辺を100で割って

$\frac{x}{100}=(1.05)^{15}$

両辺の常用対数(底が10の対数)を取って

$\log_{10}{\frac{x}{100}}=\log_{10}{(1.05)^{15}}$

$\log_{10}{\frac{x}{100}}=15\log_{10}{(1.05)}$

常用対数表より

$\log_{10}{\frac{x}{100}}=15\times{0.0212}$

$\log_{10}{\frac{x}{100}}=0.318$

常用対数表を逆に読んで

$\frac{x}{100}=2.08$

$x=208$

と求めることができました。約208万円になるのですね。

 

(2)excelなどの表計算ソフト

「=100*(1.05)^(15)」と入力すれば一発で207.89…と求められます。

 

(3)google検索

同様に「100*(1.05)^(15)」と検索窓に入力すれば207.89…と表示されます。

 

2.元金と所定年後の満期金額から利率を求める(基準年度の値と所定年後の値から成長率を求める)

100万円をある定期預金に入れておいたら15年後に200万円になったとときの利率は何%だったのかを求めたいという例を考えてみましょう。15年前の売上高が100万円で現在の売上高が200万円であるときの年平均成長率を求めると言ったほうが自然な状況です。いずれにしても求める利率を$y$%とすると次の式が成り立ちます。

$100\times(1+\frac{y}{100})^{15}=200$

これは少々難しいです。

 

(1)手計算

$100\times(1+\frac{y}{100})^{15}=200$

両辺を100で割って

$(1+\frac{y}{100})^{15}=2$

$(1+\frac{y}{100})=y’$と置くと

$(y’)^{15}=2$

両辺の常用対数を取って

$\log_{10}{(y’)^{15}}=\log_{10}{2}$

$15\log_{10}{(y’)}=\log_{10}{2}$

常用対数表より

$15\log_{10}{(y’)}=0.3010$

$\log_{10}{(y’)}=0.0201$

常用対数表を逆に読んで

$y’=1.05$

$y’$をもとに戻して

$1+\frac{y}{100}=1.05$

$\frac{y}{100}=0.05$

$y=5$

と5%だと求めることができました。常用対数表を用いる際に多少の誤差は生じています。

 

(2)excelなどの表計算ソフト

手計算のときと同じように$(1+\frac{y}{100})=y’$と置いて

$(y’)^{15}=2$

と変形しましょう。次に両辺を$\frac{1}{15}$乗して

$((y’)^{15})^{\frac{1}{15}}=2^{\frac{1}{15}}$

$y’=2^{\frac{1}{15}}$

と変形します。$2^{\frac{1}{15}}$は「=2^(1/15)」と入力すれば1.047…と求められます。

ここから

$1+\frac{y}{100}=1.047$

$\frac{y}{100}=0.047$

$y=4.7$

と4.7%と先ほどより細かく求めることができました。

 

(3)google検索

上記のexcelなどの表計算ソフトと全く同じ方法で求めます。「2^(1/15)」と検索窓に打ち込めば1.047…と表示されます。

 

3.元金と利率と満期金額から所定年数を求める(基準年度の値と成長率と目標値から所定年数を求める)

100万円を利率5%で預けて200万円になるまでに何年かかるかという例です。100万円の売上高が毎年5%ずつ成長して200万円になるまで何年かかるかと言い換えることもできます。求める年数を$z$年とすると以下の式が成り立ちます。

$100\times(1.05)^{z}=200$

これも式変形が必要になりそうです。

 

(1)手計算

$100\times(1.05)^{z}=200$

両辺を100で割って

$(1.05)^{z}=2$

両辺の常用対数を取って

$\log_{10}{(1.05)^{z}}=\log_{10}{2}$

$z\log_{10}{(1.05)}=\log_{10}{2}$

常用対数表より

$z\times{0.0212}=0.3010$

$z=14.198\cdots$

以上より、整数で答えるとすれば15年かかるとわかります。

 

(2)excelなどの表計算ソフト

$100\times(1.05)^{z}=200$

両辺を100で割って

$(1.05)^{z}=2$

まで変形します。対数(log)の定義より

$z=\log_{1.05}{2}$

です。excelなどの表計算ソフトにはlog(真数, 底)という関数があるはずなので「=log(2, 1.05)」とセルに入力すれば14.206…と表示されます。

 

(3)google検索

google検索での電卓にはlog(真数, 底)という機能が存在していないようです。そこで先ほどの式からひと工夫します。

$z=\log_{1.05}{2}$

底の変換公式により底を10に揃えて

$z=\frac{\log_{10}{2}}{\log_{10}{1.05}}$

これを活用して「log(2)/log(1.05)」と検索窓に打ち込めば14.206…と表示されます。

底の変換公式により底を$e$に揃えて

$z=\frac{\log_{e}{2}}{\log_{e}{1.05}}$

と変形して「ln(2)/ln(1.05)」と打ち込んでも同じ結果です。googleの電卓にはlogという底が10の対数と、lnという底が$e$の対数の二種類あります。

 

 

これで複利計算(平均成長率)の計算を網羅できたことでしょう。元金(基準年度の値)を求める場合も論理的には考えられますが、実用性に乏しいので省略させていただきました。

 

 



wubiでlubuntu16.04をインストールする

私はもう何年もlubuntuを快適に使っています。無料で軽快に動き、当面はサポートが切れるという心配もありません。windowsはもうすぐvistaのサポートが終了しますし、windowsの7や8はスペックの低いPCではなかなか快適に動きません。lubuntuのよさを広めるために、導入のやり方を共有します。

 

1.大まかな考え方

lubuntuとはlinuxの一種であるubuntuシリーズの中で最も軽いものです。linuxの中ではubuntuシリーズが最もメジャーでしょう。しかしubuntuそのものはけっこう重いので、その派生バージョンであるlubuntuをおすすめします。

 

windowsからlubuntuに乗り換える際には不安を感じることでしょう。そこで既存のwindowsを残しつつlubuntuをインストールする方法を探ります。WindowsとUbuntuを共存させる3つの方法 – 浅野直樹の学習日記でも書きましたように、wubiを用いるのが最も簡便です。windows上でアプリケーションをインストールする感覚でできます。

 

2.wubiの準備

最近では公式にwubiが提供されていないようです。そこでReleases · hakuna-m/wubiuefi · GitHubから手に入れることになります。16.04.1と書かれているものをダウンロードしてください。この記事を執筆している時点ではrev 311が最新であり、私はこれで試してみました。

 

3.lubuntu-16.04.1のisoファイルの準備

Lubuntu 16.04.1 LTS (Xenial Xerus)からisoファイルをダウンロードしてください。通常は32-bit PC (i386) desktop imageと書かれているものでよいと思います。

 

4.wubiでlubuntu16.04をインストール

2で手に入れたwubi16041r311.exe(数字はバージョンによって微妙に異なるかもしれません)と、3で手に入れたlubuntu-16.04.1-desktop-i386.isoを同じ階層(フォルダ)に置いてください。新しいフォルダを作ってもよいですし、ダウンロードフォルダのままでもよいです。

 

次に、wubi16041r311.exeを右クリックして、ショートカットを作成してください。これも同じ階層です。そしてそのショートカットを右クリックして、プロパティからリンク先のwubi16041r311.exeの後に半角スペースを入れてから「–32bit」と追記します。「–」は半角のマイナス2個です。

 

この作業をせずにwubi16041r311.exeをダブルクリックして実行すると、なぜか64bitのダウンロードを始めてしまいました。そこで強制的に 32bitバージョンをインストールするために、「–32bit」という引数を渡して実行するべく、上記の作業をしました。UbuntuTips/Install/WubiGuide – Ubuntu Japanese Wikiの「Wubi に強制的に 32 ビットバージョンの Ubuntu をダウンロード & インストールさせることはできますか?」をご参照ください。引数を渡して実行ということがわかりづらければ、exeに引数を渡して実行する方法  |  itecbook.comなどをご参照ください。

 

これでwubi16041r311.exeのショートカットをダブルクリックして実行すればうまくいくと思います。再起動してlubuntuをインストールして、インストールが完了すればもう一度再起動します。これらは自動的に行われます。けっこうな時間(おそらく数十分)がかかるので画面を見つめるよりも他の作業をするなりしたほうがよいです。長い時間放っておくとwindowsのログイン画面になってしまっているはずですので、手動で再起動して、windowsとlubuntuを選ぶ画面でlubuntuのほうを選びます。

 

5.lubuntu16.04の調整

lubuntuを導入して最初に戸惑うのはwifiの接続と日本語入力でしょう。

 

wifiの接続は画面右下のタスクバーでそれらしいところを右クリックや左クリックすると接続できるwifiが表示されると思います。そうすればその中から接続したいものを選んでパスワードを入力すれば接続できます。

 

日本語入力は、「設定」→「言語サポート」からアップデートして、その後再起動すれば「全角半角キー」などで日本語入力に切り替えられるようになっているはずです。fcitx+mozcという日本語入力環境がデフォルトとして採用されているようなので簡単です。

 

6.最後に

あとは適当にいじってみてください。トラブルが発生しても、最悪同じ手順を繰り返せばもう一度インストールすることができます。環境によってはこの通りに進まないかもしれませんが、検索して調べて考えれば解決できることもあります。少しがんばれば快適な環境を作れますので、がんばってください。

 

 

 

 

 



平成28年司法試験予備試験成績通知(短答)

平成28年司法試験予備試験短答の成績通知を公開します。1年前は平成27年司法試験予備試験成績通知、2年前は平成26年司法試験予備試験成績通知、3年前は平成25年司法試験予備試験成績通知です。

 

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試験科目 得点
憲法 21
行政法 15
民法 22
商法 12
民事訴訟法 14
刑法 25
刑事訴訟法 22
一般教養科目 30
合計点 161
順位 2703

 

一般教養科目が誤算でした。3年連続50点以上取っていたのですが、この年は難易度が高かったことと、体調不良のため、30点しか取れませんでした。

 



「非正規雇用」問題のわかりやすいまとめ

最近インターネット上で「非正規雇用」問題について盛り上がっているようです。いい機会なので「非正規雇用」問題についてわかりやすく整理してまとめます。

 

1.「非正規雇用」とは

「非正規雇用」という呼び方は、差別的であるかどうかはさておき、曖昧であることは間違いありません。その点に関しては、もう『非正規雇用』って言うのやめにしない? – ゆとりずむという記事にも書かれている通りです。法律の条文で「非正規雇用」や「正社員」と書かれているのは私も見たことがありません。

 

しかし、「非正規雇用」に近い概念として、「有期労働契約」があります。らくからちゃ(id:lacucaracha)さん「もう『非正規雇用』って言うのやめにしない?」記事への反論あるいは法律用語としては「非正規」ではなく「有期労働契約」だけどそう言い換えて何が解決するのか? – しいたげられたしいたけ のご指摘の通りです。

 

また、法律や実務上の慣行として、週あたりの労働時間が20時間未満だと、雇用保険・職場の健康保険・厚生年金保険の対象とはなりません。

 

これ以外の、有給休暇や残業代、労災保険などでは「非正規雇用」と「正社員」に相当する違いは発見できません。「非正規雇用」と呼ばれる人であっても、有給休暇や残業代、労災保険は適用されます。

 

法律などに基づいてはっきり言えるのはここまでです。しかしこれでは実感にあいませんね。同じ職場で長い間主力として働いている(無期雇用でかつフルタイムで働いている)アルバイトやパートの人もいますから。

 

社会通念上での「非正規雇用」の意味は、「気楽だが給与などの待遇がよくない働き方」だと私は思います。「気楽だが給与などの待遇がよくない働き方」をするのは、親や夫などに養ってもらえるからだという推測もそこに含まれていることでしょう。「正社員」は逆に考えて「責任は重いが給与などの待遇はよい働き方」になります。このあたりは「非正規雇用」の何が問題なのか? – しっきーのブログに書かれていることで、「正社員」は会社のメンバーとして重い責任を負う代わりに高い給与と福祉が与えられるという仕組みです。

 

このように考えると、「アルバイト」や「パート」など、法的には意味のない呼称がいろいろあるのも理解できます。私の解釈は次の通りです。

 

アルバイト…学生など親が養ってくれるので「気楽だが給与などの待遇がよくない働き方」をしている人

パート…主婦など夫が養ってくれるので「気楽だが給与などの待遇がよくない働き方」をしている人

嘱託社員…65歳以上など年金や退職金が養ってくれるので「気楽だが給与などの待遇がよくない働き方」をしている人

契約社員…特殊技能があるなど自営業(副業)が養ってくれるので「気楽だが給与などの待遇がよくない働き方」をしている人

(派遣社員は雇用契約を結ぶ相手が派遣元(派遣会社)、実際に働くのは派遣先という特殊な形態なので、ここでは考えません。)

 

自分で書いていても、最後の契約社員は無理矢理な説明だと感じました。一応は上記のように整理できるとしても、そのようにはっきりと分けられないのが現状だと思います。養ってくれる夫なんていないのに女性だからという理由でパートの低待遇に甘んじている人や、有期雇用で給与などの待遇も悪いが責任は重くてフルタイムで働いている人なんてたくさんいます。だからこそ、曖昧な「非正規雇用」という言葉にだまされず、問題の本質をしっかりと見極めたいです。

 

最後にここまでの分類を表にしておきます。

 

雇用期間 労働時間 社会通念
無期雇用 フルタイム 気楽だが給与などの待遇がよくない
有期雇用 パートタイム  責任は重いが給与などの待遇はよい

 

2.雇用期間(無期雇用と有期雇用)

雇用期間に関してははっきりしたことが言えます。それは、労働者にとっては無期雇用のほうがよいということです。無期雇用というのは期間の定めのない雇用という意味であって、定年まで働き続けなければならず自分から辞めることができないという意味ではありません。辞めたければ、2週間以上前に会社(使用者)に伝えれば、法的には何の問題もなく辞めることができます。他方で会社(使用者)からは正当な理由がなければ労働者を解雇することができません。

 

それは非対称的でフェアじゃないと思う方もいるかもしれませんが、会社はある人を雇わなくても他の人を雇ったり仕事の割り振りを工夫することで対応できるからそれほど困らないのに対し、労働者は雇われて仕事をしないと生活費を稼げないという力の差があるので、実質的に対等になるようにこうなっているのです。労働法全般に通ずる基本理念ですね。これが有期雇用だと、実質的には解雇であっても、契約の切り替わり目に更新しないということにすれば雇止めということで、かなり簡単に辞めさせられてしまいます。

 

このあたりは議論が激しく交わされているところでして、その妥協の産物として労働契約法が頻繁に改正されたりしています。私は、シンプルに、臨時的ではなく恒常的に発生する通常業務に関してはすべて無期雇用にすべきだと思います。有期雇用が認められるのは、クリスマスケーキの販売など、本当に臨時的な業務に限られるべきです。

 

「非正規雇用」問題について考えてみた – おのにちにも体験談が書かれていますように、労働契約法の改正に伴っていわゆる5年ルールが導入され5年以上長く勤務できないというのは馬鹿げた話です。会社としても仕事を覚えて慣れている人に長く働いてもらったほうがよいでしょうし。無期雇用といっても正当な理由があれば解雇できるのですから、やはり無期雇用が望ましいと思います。もし扶養の範囲内で働きたいということであれば、その範囲内で無期雇用にすればよいのです。短時間労働者は無期雇用にしてはいけないなんて決まりはありません。

 

もっとはっきり言えば、自分から希望して有期雇用で働いている人なんて論理的に考えられません。「正社員として働きたいのに(いわゆる)非正規雇用として働いている人の比率は16.9%」などといった表現にだまされてはいけません。もう『非正規雇用』って言うのやめにしない? – ゆとりずむという記事でせっかく「非正規雇用」という言葉の曖昧さを指摘しているのに、その記事の最後のほうで「正社員として働きたいのに(いわゆる)非正規雇用として働いている人の比率は16.9%」とその曖昧な言葉を使っているのはいただけません。

 

3.労働時間(フルタイムとパートタイム)

労働時間に関しては、人によって希望が異なるでしょう。できるだけ多く働きたいという人もいれば、いろいろな事情で労働時間を短くしたいという人もいます。

 

この記事の最初のほうでも述べたように、労働時間によって雇用保険・職場の健康保険・厚生年金保険に入れるかどうかが変わってきます。具体的には、通常、雇用保険なら1週あたり20時間以上、職場の健康保険と厚生年金保険は1週あたり30時間以上の労働時間が必要です。

 

職場の健康保険には病気やケガなどで仕事を休んだときに賃金の2/3が支給される傷病手当金があるのが大きいです。厚生年金は俗に2階立てと言われるように、1階部分に国民年金を含み込んでいるので、もらえる金額が必ず国民年金よりも多くなります。障害年金も国民年金では2級までなのに対し、厚生年金では3級まであるので、比較的軽い障害でも年金がもらえることがあります。職場の健康保険と厚生年金保険の両方に共通して、保険料を会社と労働者が折半するというメリットもあります。国民健康保険と国民年金は全額自分で払わなければなりません。

 

こうしたことを考えると、雇用保険・職場の健康保険・厚生年金保険に入るほうが得です。よって、労働時間がどれだけであっても、これらの保険に入れるようにすべきだと私は思います。ニュースなどを見ていると、政府も大きくはその方向に進んでいるように思われます。

 

4.社会通念

おさらいをすると、社会通念では、「気楽だが給与などの待遇がよくない働き方」が「非正規雇用」で、「責任は重いが給与などの待遇はよい働き方」が「正社員」です。ここでは責任の軽重と待遇の低高が対応しています。

 

常識的に考えて、責任と待遇が対応していないのはおかしいです。責任が軽くて高待遇ということは考えにくいので、もっぱら責任が重くて低待遇のことを言っています。これが「ワーキングプア」、「名ばかり正社員」、「名ばかり管理職」、「ブラック企業」といった言葉で表現されていることの本質です。「非正規雇用」と「正社員」の間の問題ではありません。責任と待遇が見合っていないことの問題なのです。

 

責任と待遇が見合わないのは論外として、見合っていればそれでよいのかというと、そうではないと私は思います。というのも、上記の「気楽だが給与などの待遇がよくない働き方」が「非正規雇用」で「責任は重いが給与などの待遇はよい働き方」が「正社員」という社会通念は、男性稼ぎ手モデルを前提にしており、その前提に問題があって現状は変わりつつあるからです。

 

悪く言うと、男性稼ぎ手モデルは、男性は会社で奴隷のように働いて高待遇を得て、女性や子供は軽い責任で働くかそもそも働かないかで会社で奴隷にならなくてもよい代わりに家庭でその男性(夫または父)の奴隷のようになるという構図です。実際にはいい会社やいい夫(父)もたくさん存在するでしょうが、構造としてそうした危険性をはらんでいます。扶養者がいない女性や子供の存在も忘れてはいけません。

 

幸い、そうした男性稼ぎ手モデルは弱まってきているように思われます。そうしたら、そのモデルを前提とした社会通念も変わる必要があります。責任など負担の重さで待遇が変わるのはよいとして、高待遇だけれども転勤や長時間残業も断れない状態か、責任は重くないけれども生活するのにぎりぎりの低待遇の状態かの二者択一を迫られる状況はおかしいです。適度な責任で適度な待遇も選べるようになりたいです。

 

5.まとめ

「非正規雇用」や「正社員」という言葉は曖昧です。雇用期間、労働時間、社会通念の3つの側面があります。

 

雇用期間 労働時間 社会通念
無期雇用 フルタイム 気楽だが給与などの待遇がよくない
有期雇用 パートタイム  責任は重いが給与などの待遇はよい

 

その側面ごとに考えれば、望ましい状況が見えてきます。このように分けて考えると、意見が一致しなくても、論点をはっきりさせることにつながります。

 




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