浅野直樹の学習日記

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平成28年司法試験予備試験論文(民事訴訟法)答案練習

 

問題

 次の文章を読んで,後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。

 

【事例】
 Xは,XからY₁,Y₁からY₂へと経由された甲土地の各所有権移転登記について,甲土地の所有権に基づき,Y₁及びY₂(以下「Y₁ら」という。)を被告として,各所有権移転登記の抹消登記手続を求める訴えを提起した(以下,当該訴えに係る訴訟を「本件訴訟」という。)。本件訴訟におけるX及びY₁らの主張は次のとおりであった。

X の 主 張:甲土地は,Xの所有であるところ,Y₁らは根拠なく所有権移転登記を経た。Y₁らが主張するとおり,XはY₁に対して1000万円の貸金返還債務を負っていたことがあったが,当該債務は,XがY₂から借り受けた1000万円の金員を支払うことによって完済している。
 仮に,Y₁らが主張するように,甲土地について代物弁済によるY₁への所有権の移転が認められるとしても,Xは,その際,Y₁との間で,代金1000万円でY₁から甲土地を買い戻す旨の合意をしており,その合意に基づき,上記の1000万円の金員をY₁に支払うことによって,Y₁から甲土地を買い戻した。

Y₁らの主張:甲土地は,かつてXの所有であったが,XがY₁に対して負担していた1000万円の貸金返還債務の代物弁済により,XからY₁に所有権が移転した。これにより,Y₁は所有権移転登記を経た。
 その後,Y₂がY₁に対して甲土地の買受けを申し出たので,Y₁は甲土地を代金1000万円でY₂に売り渡したが,その際,Y₂は,Xとの間で,Xが所定の期間内にY₂に代金1000万円を支払うことにより甲土地をXに売り渡す旨の合意をした。しかし,Xは期間内に代金をY₂に対して支払わなかったため,Y₂は所有権移転登記を経た。

 

〔設問1〕
 本件訴訟における証拠調べの結果,次のような事実が明らかになった。
 「Y₁は,XがY₁に対して負担していた1000万円の貸金返還債務の代物弁済により甲土地の所有権をXから取得した。その後,Xは,Y₂から借り受けた1000万円の金員をY₁に対して支払うことによって甲土地をY₁から買い戻したが,その際,所定の期間内に借り受けた1000万円をY₂に対して返済することで甲土地を取り戻し得るとの約定で甲土地をY₂のために譲渡担保に供した。しかし,Xは,当該約定の期間内に1000万円を返済しなかったことから,甲土地の受戻権を失い,他方で,Y₂が甲土地の所有権を確定的に取得した。」

 

以下は,本件訴訟の口頭弁論終結前においてされた第一審裁判所の裁判官Aと司法修習生Bとの間の会話である。

 

修習生B:証拠調べの結果明らかになった事実からすれば,本件訴訟ではXの各請求をいずれも棄却する旨の判決をすることができると考えます。
裁判官A:しかし,それでは,①当事者の主張していない事実を基礎とする判決をすることになり,弁論主義に違反することにはなりませんか。
修習生B:はい。弁論主義違反と考える立場もあります。しかし,本件訴訟では,判決の基礎となるべき事実は弁論に現れており,それについての法律構成が当事者と裁判所との間で異なっているに過ぎないと見ることができると思います。
裁判官A:なるほど。そうだとしても,それで訴訟関係が明瞭になっていると言えるでしょうか。②あなたが考えるように,本件訴訟において,弁論主義違反の問題は生じず,当事者と裁判所との間で法律構成に差異が生じているに過ぎないと見たとして,直ちに本件訴訟の口頭弁論を終結して判決をすることが適法であると言ってよいでしょうか。検討してみてください。
修習生B:分かりました。

 

(1) 下線部①に関し,証拠調べの結果明らかになった事実に基づきXの各請求をいずれも棄却する旨の判決をすることは弁論主義違反であるとの立場から,その理由を事案に即して説明しなさい。
(2) 下線部②に関し,裁判官Aから与えられた課題について,事案に即して検討しなさい。

 

〔設問2〕(〔設問1〕の問題文中に記載した事実は考慮しない。)
 第一審裁判所は,本件訴訟について審理した結果,Xの主張を全面的に認めてXの各請求をいずれも認容する旨の判決を言い渡し,当該判決は,控訴期間の満了により確定した。
 このとき,本件訴訟の口頭弁論終結後に,Y₂が甲土地をZに売り渡し,Zが所有権移転登記を経た場合,本件訴訟の確定判決の既判力はZに対して及ぶか,検討しなさい。

 

練習答案

以下民事訴訟法については条数のみを示す。

〔設問1〕
 (1)
 下線部①にあるように、裁判所は、当事者の主張していない事実を基礎とする判決をしてはいけない。そもそも民事訴訟では訴えを提起するもしないも自由であり、そうした処分権主義からの当然の帰結として裁判所が当事者の主張に拘束されるのである。
 裁判所が当事者の主張していない事実を基礎とする判決をすると、当事者にとってはふい打ちとなり、裁判所を信頼できなくなるかもしれない。本件事実に即して言うと、Xは譲渡担保契約の成立やY₂の甲土地の所有権の確定時期について争いたかったのに、その機会が与えられなかったと感じるおそれがある。
 (2)
 まず、裁判所は求釈明(151条1項)をすべきである。下線部②のように前提するとしても、求釈明をするのが望ましい。
 また、譲渡担保であれば清算金が支払われるまでは受戻権を失わないと解されているので、そのあたりの事情を明確にしなければならない。具体的には甲土地の市場価格、Y₂からXへの清算金の支払の有無及びその時期を明らかにしなければならない。

〔設問2〕
 本件訴訟の確定判決の既判力はZに対して及ぶ。
 確定判決の既判力は当事者に及び(115条1項1号)、その当事者の口頭弁論終結後の承継人にも及ぶ(115条1項3号)。本件訴訟においてY₂は被告であり、当事者である。Zは本件訴訟の口頭弁論終結後にY₂から甲土地を買い受けて、本件訴訟の訴訟物である所有権移転登記の抹消登記手続義務を承継している承継人である。よって本件訴訟の確定判決の既判力はZに対して及ぶ。
 仮にZに対して既判力が及ばないとすると、本件訴訟のXのような立場の者は、いつまで経っても目的を達成できなくなってしまい不当である。
 他方Zとしては本件訴訟のことをY₂から聞いているはずであり、仮に聞いていないとしてもそれはZがY₂に対して責任追及すべきことなので、不当ではない。

以上

 

 

 

修正答案

以下民事訴訟法については条数のみを示す。

〔設問1〕
 (1)
 下線部①にあるように、裁判所は、当事者の主張していない事実を基礎とする判決をしてはいけない。そもそも民事訴訟では訴えを提起するもしないも自由であり、そうした処分権主義からの帰結として裁判所が当事者の主張に拘束されるのである。裁判所が、当事者が主張していない事実を認定してはいけないということは弁論主義の第1テーゼと呼ばれている。
 もっとも、この弁論主義の第1テーゼがあらゆる主張に妥当するわけではない。法律効果を直接発生させたり消滅させたりする要件となる主要事実については妥当させるべきであるが、そうした主要事実を推認させるという働きをする間接事実にまで妥当させると、裁判所の自由心証主義(247条)を実質的に制限してしまうことになるので、間接事実については妥当しない。
 本件訴訟における証拠調べの結果明らかとなった事実は、譲渡担保の受戻権喪失という事実である。他方で、Y1は代物弁済によりXから甲土地を取得したと主張し、Y₂はそのY1から売買により甲土地を取得したと主張し、XはY1への代物弁済を否定するとともに予備的にY1から甲土地を買い戻したと主張している。代物弁済や売買を基礎付ける事実と、譲渡担保の受戻権喪失を基礎付ける事実とでは、主要事実レベルで異なっているので、弁論主義の第1テーゼが妥当する。よって、裁判所は、当事者の主張していない事実を基礎とする判決をしてはいけない。
 (2)
 本件訴訟において、弁論主義違反の問題は生じず、当事者と裁判所との間で法律構成に差異が生じているに過ぎないと見たとしても、裁判所が当事者の主張していない事実を基礎とする判決をすると、当事者にとっては不意打ちとなり、裁判所を信頼できなくなるかもしれない。本件事案に即して言うと、Xは譲渡担保契約の成立やY₂の甲土地の所有権の確定時期について争いたかったのに、その機会が与えられなかったと感じるおそれがある。
 そこで、裁判所は釈明権(149条1項)を行使すべきである。まず、Y₁らに対して、譲渡担保の受戻権喪失という法律構成を主張するかどうかを確認すべきである。そしてY₁らがその主張をするとなると、譲渡担保であれば清算金が支払われるまでは受戻権を失わないと解されているので、Xに対して、そのあたりの事情について主張があるかどうか問いかけるべきである。具体的には甲土地の市場価格、Y₂からXへの清算金の支払の有無及びその時期についてである。
 裁判所の釈明権は、「〜することができる」という文言になっているが、公平かつ迅速な裁判という観点から、一定の場合には釈明義務が生じると考えられている。本件のように弁論主義の第1テーゼ違反の疑いがあり、仮に違反していないとしても当事者にとって不意打ちだと感じられる可能性が高い場合には、釈明義務が生じていると言える。よって、直ちに本件訴訟の口頭弁論を終結して判決をすることは違法となる。

〔設問2〕
 本件訴訟の確定判決の既判力はZに対して及ぶ。
 確定判決の既判力は当事者に及び(115条1項1号)、その当事者の口頭弁論終結後の承継人にも及ぶ(115条1項3号)。本件訴訟においてY₂は被告であり、当事者である。Zは、本件訴訟の口頭弁論終結後に、Y₂から甲土地を買い受けている。Zは、本件訴訟の訴訟物であるY₁及びY₂という登記の抹消義務そのものを承継しているわけではないが、抹消登記手続義務が付着した甲土地を買い受けているので、実体として承継人である。よって本件訴訟の確定判決の既判力はZに対して及ぶ。
 仮にZに対して既判力が及ばないとすると、本件訴訟のXのような立場の者は、訴訟の目的となっている不動産が転々と譲渡されると、いつまで経っても目的を達成できなくなってしまい不当である。
 他方、Zとしては、本件訴訟のことをY₂から聞いているはずであり、仮に聞いていないとしてもそれはZがY₂に対して責任追及すべきことなので、不当ではない。また、Zが、民法177条や94条2項の類推適用を主張する場合は、本件訴訟の既判力が及びつつも口頭弁論終結後の新事情として別途主張することが許されるので問題ない。

以上

 

感想

何を論じればよいのかわからず2ページも書けませんでした。釈明についても記述が不正確でした。

 



平成28年司法試験予備試験論文(商法)答案練習

問題

 次の文章を読んで,後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。

 

1.甲株式会社(以下「甲社」という。)は,平成18年9月に設立された株式会社であり,太陽光発電システムの販売・施工業を営んでいる。甲社の発行済株式の総数は1000株であり,そのうちAが800株,Bが200株を有している。甲社は,設立以来,AとBを取締役とし,Aを代表取締役としてきた。なお,甲社は,取締役会設置会社ではない。

2.Aは,前妻と死別していたが,平成20年末に,甲社の経理事務員であるCと再婚した。甲社は,ここ数年,乙株式会社(以下「乙社」という。)が新規に開発した太陽光パネルを主たる取扱商品とすることで,その業績を大きく伸ばしていた。ところが,平成27年12月20日,Aは,心筋梗塞の発作を起こし,意識不明のまま病院に救急搬送され,そのまま入院することとなったが,甲社は,Aの入院を取引先等に伏せていた。

3.平成27年12月25日は,甲社が乙社から仕入れた太陽光パネルの代金2000万円の支払日であった。かねてより,Aの指示に従って,手形を作成して取引先に交付することもあったCは,当該代金の支払のため,日頃から保管していた手形用紙及び甲社の代表者印等を独断で用いて,手形金額欄に2000万円,振出日欄に平成27年12月25日,満期欄に平成28年4月25日,受取人欄に乙社と記載するなど必要な事項を記載し,振出人欄に「甲株式会社代表取締役A」の記名捺印をして,約束手形(以下「本件手形」という。)を作成し,集金に来た乙社の従業員に交付した。
 乙社は,平成28年1月15日,自社の原材料の仕入先である丙株式会社(以下「丙社」という。)に,その代金支払のために本件手形を裏書して譲渡した。

4.Aは,意識を回復することのないまま,平成28年1月18日に死亡した。これにより,Bが適法に甲社の代表権を有することとなったが,甲社の業績は,Aの急死により,急速に悪化し始めた。
 Bは,Cと相談の上,丁株式会社(以下「丁社」という。)に甲社を吸収合併してもらうことによって窮地を脱しようと考え,丁社と交渉したところ,平成28年4月下旬には,丁社を吸収合併存続会社,甲社を吸収合併消滅会社とし,合併対価を丁社株式,効力発生日を同年6月1日とする吸収合併契約(以下「本件吸収合併契約」という。)を締結するに至った。

5.Aには前妻との間に生まれたD及びEの2人の子がおり,Aの法定相続人は,C,D及びEの3人である。Aが遺言をせずに急死したため,Aの遺産分割協議は紛糾した。そして,平成28年4月下旬頃には,C,D及びEの3人は,何の合意にも達しないまま,互いに口もきかなくなっていた。

6.Bは,本件吸収合併契約について,C,D及びEの各人にそれぞれ詳しく説明し,賛否の意向を打診したところ,Cからは直ちに賛成の意向を示してもらったが,DとEからは賛成の意向を示してもらうことができなかった。

7.甲社は,本件吸収合併契約の承認を得るために,平成28年5月15日に株主総会(以下「本件株主総会」という。)を開催した。Bは,甲社の代表者として,本件株主総会の招集通知をBとCのみに送付し,本件株主総会には,これを受領したBとCのみが出席した。A名義の株式について権利行使者の指定及び通知はされていなかったが,Cは,議決権行使に関する甲社の同意を得て,A名義の全株式につき賛成する旨の議決権行使をした。甲社は,B及びCの賛成の議決権行使により本件吸収合併契約の承認決議が成立したものとして,丁社との吸収合併の手続を進めている。なお,甲社の定款には,株主総会の定足数及び決議要件について,別段の定めはない。

 

〔設問1〕
 丙社が本件手形の満期に適法な支払呈示をした場合に,甲社は,本件手形に係る手形金支払請求を拒むことができるか。

 

〔設問2〕
 このような吸収合併が行われることに不服があるDが会社法に基づき採ることができる手段について,吸収合併の効力発生の前と後に分けて論じなさい。なお,これを論ずるに当たっては,本件株主総会の招集手続の瑕疵の有無についても,言及しなさい。

 

 

練習答案

以下会社法については条数のみを示す。

〔設問1〕
 丙社が本件手形の満期に適法な支払呈示をした場合に、乙社から丙社へと裏書が連続しているので、手形特有の問題はない。
 Cが、日頃から保管していた手形用紙及び甲社の代表者印等を独断で用いて本件手形を振り出したことが、甲者にとって有効となるかどうかが問題となり得る。
 代表取締役であるAが甲社にとって有効な行為をすることができることに異論はない。CがAの代理を有効になしているかが問題となる。
 本件以前にAはCに対して手形の振り出しの代理権を授与していたことが問題文からうかがえる。本件手形の振り出しはCの独断でありその代理の権限外の行為である。そして甲社が日頃から使用している手形用紙に「甲株式会社代表取締役A」の記名押印があるのを見た乙社は、Cに代理人の権限があると信ずべき正当な理由がある。乙社はAが入院していたことを知らなかったのであり、いつものようにCがAの指示を受けて代理をしていると思うのが当然である。よって民法110条の権限外の行為の表見代理により、Cの乙社に対する本件手形の振り出し行為はAに帰属し、その結果甲社にとっても有効となる。
 以上より、甲社は、本件手形に係る手形金支払請求を拒むことはできない。

〔設問2〕
第1 吸収合併の効力発生前
 一方を吸収合併存続会社とし他方を吸収合併消滅会社とする吸収合併は合併契約に定められた効力発生日にその効力が発生する。本件においては平成28年6月1日である。
 消滅株式会社は、効力発生日の前日までに、株主総会の決議によって、吸収合併契約の承認を受けなければならない(783条1項)。
 そこで、Dは、本件吸収合併契約の承認をした本件株主総会の決議の取消しの訴え(831条)という手段を採ることができる。
 Aの遺産分割協議が未了であるので、法定相続分に従って、DはAが有していた甲社株式800株の4分の1の持分を有してC、Eと共有している。共有であっても株主総会の決議の取消しの訴えの原告となることができると解する。そうしないと本件のような共有が問題となる内容を取り扱えないので不合理である。平成28年6月1日以前であれば、株主総会の決議の日から3か月以内という出訴期間の要件も満たす。
 Dは本件株主総会の招集の手続が法令に違反し、決議の方法が法令に違反する(831条1項1号)と主張する。
 先に述べたように、C、D、EはAが有していた甲社株式800株を共有している。しかし本件株主総会の通知がD、Eには送付されていない。これは299条違反である。
 また、C、D、Eが共有している甲社株式について、権利行使者の指定及び通知はされていなかったのに、それをCが単独で議決権行使するのを許しているので、106条に違反している。議決権の行使は共有物の管理であるので持分の価格の過半数で決する(民法252条)。本件ではCとD、Eが対立していて、どちらも過半数に達しない。106条但書は共有者の持分の過半数により議決権をどのように行使するかが決まった後で、手続的に権利行使者の指定及び通知がされていない場合に会社が同意することを認めたものであり、会社が好き勝手に議決権を行使できる者を指定できるわけではない。
 上記は重大な違反なので、裁量棄却(831条2項)の余地はないと考えられる。
第2 吸収合併の効力発生後
 Dは会社の組織に関する行為の無効の訴え(828条1項7号)によらなければならない。その際には平成28年12月1日までに訴えを提起しなければならない。この訴えの認容には対世効がある(838条)ので、認容には慎重さが求められる。第1で述べた違反は重大なので、Dが平成28年6月1日以後に詳しい事情を初めて知ったような場合には、請求が認容されるべきである。

以上

 

 

 

 

修正答案

以下会社法については条数のみを示す。

〔設問1〕
 丙社が本件手形の満期に適法な支払呈示をした場合に、乙社から丙社へと裏書が連続しているので、手形特有の問題はない。
 Cが、日頃から保管していた手形用紙及び甲社の代表者印等を独断で用いて本件手形を振り出したことが、甲者にとって有効となるかどうかが問題となり得る。
 代表取締役であるAが甲社にとって有効な行為をすることができることに異論はない。CがAの代理を有効になしているかが問題となる。
 Cは「A代理人C」と表示せずに直接「甲株式会社代表取締役A」と記名押印している。これは手形の偽造であり、被偽造者は原則的に責任を負わない。しかし、これを署名代理と見る余地もあり、民法の代理の規定を類推適用することができる。
 本件以前にAはCに対して手形の振り出しの代理権を授与していたことが問題文からうかがえる。本件手形の振り出しはCの独断でありその代理の権限外の行為である。そして甲社が日頃から使用している手形用紙に「甲株式会社代表取締役A」の記名押印があるのを見た乙社は、Cに代理人の権限があると信ずべき正当な理由がある。乙社はAが入院していたことを知らなかったのであり、いつものようにCがAの指示を受けて代理をしていると思うのが当然である。よって民法110条の権限外の行為の表見代理の類推適用により、Cの乙社に対する本件手形の振り出し行為はAに帰属し、その結果甲社にとっても有効となる。
 以上より、甲社は、本件手形に係る手形金支払請求を拒むことはできない。

〔設問2〕
第1 吸収合併の効力発生前
 一方を吸収合併存続会社とし他方を吸収合併消滅会社とする吸収合併は合併契約に定められた効力発生日にその効力が発生する。本件においては平成28年6月1日である。
 その吸収合併の効力発生前には、Dが、吸収合併をやめることの請求(784条の2)をすることができる。本件株主総会の決議の取消しの訴え(831条)という手段も採ることができるが、吸収合併をやめることの請求のほうがより直接的なので、こちらのほうが望ましい。仮処分(民事保全法23条)も検討すべきである。
 まず、本件吸収合併が法令に違反するかどうかを検討する。
 消滅株式会社は、効力発生日の前日までに、株主総会の決議によって、吸収合併契約の承認を受けなければならない(783条1項)。Aの遺産分割協議が未了であるので、法定相続分に従って、C、D、EはAが有していた甲社株式800株をそれぞれ2分の1、4分の1、4分の1ずつ共有している。その共有されている甲社株式について、権利行使者の指定及び通知はされていなかったのに、本件株主総会においてCが単独で議決権行使するのを許しているので、106条に違反している。議決権の行使は共有物の管理であるので持分の価格の過半数で決する(民法252条)。本件ではCとD、Eが対立していて、どちらも過半数に達しない。106条但書は共有者の持分の過半数により議決権をどのように行使するかが決まった後で、手続的に権利行使者の指定及び通知がされていない場合に会社が同意することを認めたものであり、会社が好き勝手に議決権を行使できる者を指定できるわけではない。
 なお、本件株主総会の通知がD、Eには送付されていないという本件株主総会の招集手続は違法ではない。126条3項の共有者の通知がない場合には、株式会社が株式の共有者に対してする通知又は催告は、そのうちの一人に対してすれば足りる(126条4項)からである。本件では126条3項の共有者の通知がなかった。
 次に、Dが消滅株式会社の株主であるかどうかを検討する。先述のようにDは甲社株式を共有しているが、共有であっても株主総会の決議の取消しの訴えの原告となることができると解する。そうしないと本件のような共有が問題となる内容を取り扱えないので不合理である。
 本件合併契約の詳細は明らかになっていないが、条件次第では消滅会社の株主であるDが不利益を受けるおそれがある。
 以上より、Dは、吸収合併をやめることの請求をすることができる。
第2 吸収合併の効力発生後
 Dは会社の組織に関する行為の無効の訴え(828条1項7号)によらなければならない。このように会社の組織に関する行為の無効の訴えが法定されている以上、本件株主総会の決議の取消しの訴え(831条)によることはできない。その際には平成28年12月1日までに訴えを提起しなければならない。この訴えの認容には対世効がある(838条)ので、認容には慎重さが求められる。第1で述べた違反は重大なので、請求が認容されるべきである。平成28年5月15日に自らが通知を受けていなかった本件株主総会が開催され、同年6月1日に効力が発生するという本件の状況下では、効力発生前に差止請求をしなかったことでDを責めることもできないであろう。

以上

 

 

 

感想

〔設問1〕の手形はわからないなりにも書けたほうかなと思います。〔設問2〕は吸収合併の差止請求を書けなかったのが致命的です。

 



平成28年司法試験予備試験論文(民法)答案練習

問題

 次の文章を読んで,後記の〔設問〕に答えなさい。

 

【事実】
1.Aは,自宅の一部を作業場として印刷業を営んでいたが,疾病により約3年間休業を余儀なくされ,平成27年1月11日に死亡した。Aには,自宅で同居している妻B及び商社に勤務していて海外に赴任中の子Cがいた。Aの財産に関しては,遺贈により,Aの印刷機械一式(以下「甲機械」という。)は,学生の頃にAの作業をよく手伝っていたCが取得し,自宅及びその他の財産は,Bが取得することとなった。

2.その後,Bが甲機械の状況を確認したところ,休業中に数箇所の故障が発生していることが判明した。Bは,現在海外に赴任しているCとしても甲機械を使用するつもりはないだろうと考え,型落ち等による減価が生じないうちに処分をすることにした。
 そこで,Bは,平成27年5月22日,近隣で印刷業を営む知人のDに対し,甲機械を500万円で売却した(以下では,この売買契約を「本件売買契約」という。)。この際,Bは,Dに対し,甲機械の故障箇所を示した上で,これを稼働させるためには修理が必要であることを説明したほか,甲機械の所有者はCであること,甲機械の売却について,Cの許諾はまだ得ていないものの,確実に許諾を得られるはずなので特に問題はないことを説明した。同日,本件売買契約に基づき,甲機械の引渡しと代金全額の支払がされた。

3.Dは,甲機械の引渡しを受けた後,30万円をかけて甲機械を修理し,Dが営む印刷工場内で甲機械を稼働させた。

4.Cは,平成27年8月に海外赴任を終えて帰国したが,同年9月22日,Bの住む実家に立ち寄った際に,甲機械がBによって無断でDに譲渡されていたことに気が付いた。そこで,Cは,Dに対し,甲機械を直ちに返還するように求めた。
 Dは,甲機械を取得できる見込みはないと考え,同月30日,Cに甲機械を返還した上で,Bに対し,本件売買契約を解除すると伝えた。
 その後,Dは,甲機械に代替する機械設備として,Eから,甲機械の同等品で稼働可能な中古の印刷機械一式(以下「乙機械」という。)を540万円で購入した。

5.Dは,Bに対し,支払済みの代金500万円について返還を請求するとともに,甲機械に代えて乙機械を購入するために要した増加代金分の費用(40万円)について支払を求めた。さらに,Dは,B及びCに対し,甲機械の修理をしたことに関し,修理による甲機械の価値増加分(50万円)について支払を求めた。
 これに対し,Bは,本件売買契約の代金500万円の返還義務があることは認めるが,その余の請求は理由がないと主張し,Cは,Dの請求は理由がないと主張している。さらに,B及びCは,甲機械の使用期間に応じた使用料相当額(25万円)を支払うようDに求めることができるはずであるとして,Dに対し,仮にDの請求が認められるとしても,Dの請求が認められる額からこの分を控除すべきであると主張している。

 

〔設問〕
 【事実】5におけるDのBに対する請求及びDのCに対する請求のそれぞれについて,その法的構成を明らかにした上で,それぞれの請求並びに【事実】5におけるB及びCの主張が認められるかどうかを検討しなさい。

 

 

練習答案

以下民法については条数のみを示す。

第1 Dの請求の法的構成
 (1)契約解除による原状回復
 事実4よりDは履行不能による解除権を行使している(543条)。履行不能とは物理的不能に限られず、本件のように事実上の不能も含まれる。よってこの解除は適法である。
 解除の効果として各当事者には原状回復義務が生じる(545条)。Bに対する支払済みの代金500万円の返還請求はこの原状回復義務を根拠にしている。
 (2)債務不履行による損害賠償
 債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる(415条)。BがCの同意を得られずに甲機械の所有権を確定的にDに移転できなかったのはBの責めに帰すべき事由である。Dが乙機械を購入するために要した増加代金分の40万円は、これによって生じた損害である。Bに対する40万円の支払請求はこの債務不履行による損害賠償を根拠にしている。
 (3)不当利得
 法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う(703条)。
 Dには甲機械を修理する法的義務はないので、修理による甲機械の価値増加分50万円は法律上の原因なく、現に甲機械を所有しているB及びCが受けた利益である。そしてその分の損失をDが受けている。修理代にかけたのは30万円であるが、20万円分の労務を提供したという主張である。その利益は現存している。
 B及びCに対する50万円の支払請求は、この不当利得を根拠としている。

第2 Dの請求並びにB及びCの主張の当否
 (1)契約解除による原状回復
 BからDへの本件売買契約の代金500万円の返還は認められる。先に述べた契約一般の規定からも、他人物売買で買主に移転することができなかったときの解除(561条前段)でもそれは同様である。Dはすでに甲機械を返還しているので、同時履行の抗弁(546条、533条)も問題とはならない。
 (2)債務不履行による損害賠償
 他人物売買の場合は、契約の時においてその権利が売主に属しないことを知っていたときは、損害賠償の請求をすることができない(561条後段)という特則がある。これは他人物売買では買主がその権利を得られない可能性が十分にあることを含んだ上で契約しているのだから、損害賠償請求をするのは不当であるという趣旨である。本件売買契約時にBが、甲機械の所有者はCであることを伝えていたので、Dは他人物であることにつき悪意である。Bが確実に許諾を得られるはずだと説明したのは取引行為によくある誇張表現であり、特に法的な意味はない。よってDのBに対する増加代金分の費用40万円の請求は認められない。
 (3)不当利得
 DのB及びCに対する不当利得50万円の支払請求は認められる。Dによる修理の労務提供が20万円であるかどうかはわからないが、それを否定する積極的な材料もなく、印刷業を営み甲機械を使いこなしていたという専門性から考えても不当であるとは考えづらい。
 (4)使用料相当額25万円の控除
 甲機械の使用期間に応じた使用料相当額は甲機械の果実であり、それをB及びCに返還せよという主張を理解できなくはない。しかしそれならばDが平成27年5月22日に支払った本件売買契約の代金500万円からの果実(利息)をBからDに返還しなければならない。これらをわざわざ計算してお互いに返還するというのははんざつなので、本件のような双務契約の解除の場合はお互いに果実を返還せずともよいと考えるのが合理的である。よってこのB及びCの主張は認められない。
 (5)結論
 以上より、DのBに対する支払済みの代金500万円についての請求と、B及びCに対する修理による甲機械の価値増加分50万円の支払い請求が認められ、その余の請求及び控除は認められない。

以上

 

 

 

修正答案

以下民法については条数のみを示す。

第1 Dの請求の法的構成
 (1)契約解除による原状回復
 事実4よりDは履行不能による解除権を行使している(543条)。履行不能とは物理的不能に限られず、本件のように事実上の不能も含まれる。よってこの解除は適法である。
 解除の効果として各当事者には原状回復義務が生じる(545条)。Bに対する支払済みの代金500万円の返還請求はこの原状回復義務を根拠にしている。
 (2)債務不履行による損害賠償
 債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる(415条)。BがCの同意を得られずに甲機械の所有権を確定的にDに移転できなかったのはBの責めに帰すべき事由である。Dが乙機械を購入するために要した増加代金分の40万円は、これによって生じた損害である。Bに対する40万円の支払請求はこの債務不履行による損害賠償を根拠にしている。
 (3)占有者による費用の償還請求
 占有者が占有物の改良のために支出した金額その他の有益費については、その価格の増加が現存する場合に限り、回復者の選択に従い、その支出した金額又は増価額を償還させることができる(196条2項本文)。
 Dは甲機械を占有していた。Dが30万円をかけて甲機械に行った修理は、それにより甲機械の価値が50万円増大しているので、必要費ではなく有益費である。そしてその価値の増加は現存している。増価額は50万円である。よってB及びCに対する50万円の支払請求は、この占有者による費用の償還請求を根拠としている。

第2 Dの請求並びにB及びCの主張の当否
 (1)契約解除による原状回復
 BからDへの本件売買契約の代金500万円の返還は認められる。先に述べた契約一般の規定からも、他人物売買で買主に移転することができなかったときの解除(561条前段)でもそれは同様である。Dはすでに甲機械を返還しているので、同時履行の抗弁(546条、533条)も問題とはならない。
 (2)債務不履行による損害賠償
 他人物売買の場合は、契約の時においてその権利が売主に属しないことを知っていたときは、損害賠償の請求をすることができない(561条後段)という特則がある。これは他人物売買では買主がその権利を得られない可能性が十分にあることを含んだ上で契約しているのだから、損害賠償請求をするのは不当であるという趣旨である。本件売買契約時にBが、甲機械の所有者はCであることを伝えていたので、Dは他人物であることにつき悪意である。Bが確実に許諾を得られるはずだと説明したのは取引行為によくある誇張表現であり、特に法的な意味はない。よってDのBに対する増加代金分の費用40万円の請求は認められない。
 (3)占有者による費用の償還請求
 DのB及びCに対する占有者による費用の償還請求を根拠とした50万円の支払請求は、30万円の限度で認められる。B及びCは甲機械の返還を受けた回復者であり、占有者が支出した金額又は増価額のどちらを償還するか選択することができる。前者は30万円で後者は50万円であるため、合理的に考えれば前者を選択するはずである。
 DはB及びCに請求しているが、厳密には甲機械の返還を受けた所有者のCに対して請求すべきである。もっとも、B及びCが親子ということもあり一体として請求に応じるのであればこの点は問題とならない。
 (4)使用料相当額25万円の控除
 甲機械の使用期間に応じた使用料相当額は甲機械の果実であり、それをB及びCに返還せよという主張は190条1項の悪意の占有者による果実の返還を根拠にしていると考えられる。しかしそれならばDが平成27年5月22日に支払った本件売買契約の代金500万円からの果実(利息)をBからDに返還しなければならない。これらをわざわざ計算してお互いに返還するというのは繁雑なので、本件のような双務契約の解除の場合はお互いに果実を返還せずともよいと考えるのが合理的である。よってこのB及びCの主張は認められない。
 (5)結論
 以上より、DのBに対する支払済みの代金500万円についての請求と、B及びCに対するDが支出した修理費用30万円の支払い請求が認められ、その余の請求及び控除は認められない。

以上

 

感想

占有者による費用の償還請求ではなく不当利得だと考えたのはまずかったです。占有権の効力がすっかり抜け落ちていました。

 



平成28年司法試験予備試験論文(刑事訴訟法)答案練習

問題

 次の【事例】を読んで,後記〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。

 

【事 例】
 平成28年3月1日,H県J市内のV方が放火される事件が発生した。その際,V方玄関内から火の手が上がるのを見た通行人Wは,その直前に男が慌てた様子でV方玄関から出てきて走り去るのを目撃した。
 V方の実況見分により,放火にはウィスキー瓶にガソリンを入れた手製の火炎瓶が使用されたこと,V方居間にあった美術品の彫刻1点が盗まれていることが判明した。
 捜査の過程で,平成21年1月に住宅に侵入して美術品の彫刻を盗みウィスキー瓶にガソリンを入れた手製の火炎瓶を使用して同住宅に放火したとの事件により,同年4月に懲役6年の有罪判決を受けた前科(以下「本件前科」という。)を有する甲が,平成27年4月に服役を終え,J市に隣接するH県K市内に単身居住していることが判明した。そこで,警察官が,甲の写真を含む多数の人物写真をWに示したところ,Wは,甲の写真を指し示し,「私が目撃したのはこの男に間違いありません。」と述べた。
 甲は,平成28年3月23日,V方に侵入して彫刻1点を盗みV方に放火した旨の被疑事実(以下「本件被疑事実」という。)により逮捕され,同月25日から同年4月13日まで勾留されたが,この間,一貫して本件被疑事実を否認し,他に甲が本件被疑事実の犯人であることを示す証拠が発見されなかったことから,同月13日,処分保留で釈放された。
 警察官は,甲が釈放された後も捜査を続けていたところ,甲が,同年3月5日に,V方で盗まれた彫刻1点を,H県から離れたL県内の古美術店に売却していたことが判明した。
 ①甲は,同年5月9日,本件被疑事実により逮捕され,同月11日から勾留された。間もなく甲は,自白に転じ,V方に侵入して,居間にあった彫刻1点を盗み,ウィスキー瓶にガソリンを入れた手製の火炎瓶を玄関ホールの床板にたたきつけてV方に放火した旨供述した。検察官は,同月20日,甲を本件被疑事実と同旨の公訴事実により公判請求した。
 公判前整理手続において,甲及びその弁護人は,「V方に侵入したことも放火したこともない。彫刻は,甲が盗んだものではなく,友人から依頼されて売却したものである。」旨主張した。
 そこで,検察官は,甲が前記公訴事実の犯人であることを立証するため,②本件前科の内容が記載された判決書謄本の証拠調べを請求した。

 

〔設問1〕
 ①の逮捕及び勾留の適法性について論じなさい。

 

〔設問2〕
 ②の判決書謄本を甲が前記公訴事実の犯人であることを立証するために用いることが許されるかについて論じなさい。

 

練習答案

以下刑事訴訟法については条数のみを示す。

[設問1]
第1 逮捕及び勾留一般の適法性
 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときは、裁判官のあらかじめ発する逮捕状により、これを逮捕することができる(199条1項)。甲が平成28年3月5日に、V方で盗まれた彫刻1点を、H県から離れたL県内の古美術店に売却していたことから、相当な理由があると言える。本件被疑事実は同条但書には該当しない。逮捕されてから72時間以内に勾留されているので205条2項に反しておらず、その他勾留についても一般的に違法な点は見当たらない。
第2 再逮捕及び再勾留の適法性
 199条3項の文言からして再逮捕は想定されている。もっとも、逮捕から勾留までに時間制限があることを無に帰さないために、逮捕を繰り返すことがあってはならない。新しい重要証拠が発見されて状況が大きく変わった時のみに再逮捕が許されると解すべきである。本件がまさにそのような例である。よって①の逮捕は再逮捕に当たるものの適法である。
 勾留については再勾留が想定されていると読める条文がなく、また身柄拘束も最大20日(特定の罪に関しては25日)と長期に及ぶため、再逮捕よりも厳格に判断して、原則的に許されないと解すべきである。本件では新証拠が発見されているが、そのようなことはよくあることであり、これで再勾留が適法となってはいけない。
 再逮捕と再勾留とで異なるのはおかしいのではないかという反論が予想されるが、逮捕しても証拠が不十分なら勾留の請求をしなければよいと言える。
 以上より、①の逮捕は適法であるが、勾留は違法である。

[設問2]
 事実の認定は証拠により(317条)、証拠の証明力は裁判官の自由な判断に委ねる(318条)。ただし、証明力以前に証拠には証拠能力が備わっていなければならない。要証事実と証拠との間に自然的連関性がない場合は証拠能力がない。
 ②の証拠の要証事実は、甲が平成28年3月23日、V方に侵入して彫刻1点を盗みV方に放火したことである。その彫刻とは美術品の彫刻であり、放火の方法はウィスキー瓶にガソリンを入れた手製の火炎瓶を使用するというものである。②の判決書謄本に記された本件前科でも住宅に侵入して美術品の彫刻を盗みウィスキー瓶にガソリンを入れた手製の火炎瓶を使用して同住宅に放火したと書かれている。現金や有価証券ではなく美術品の彫刻を盗み、その場でガソリンをまいたり業務用の容器で火炎瓶を作ったりするのではなくウィスキーの瓶にガソリンを入れて火炎瓶を作るというのは特徴的な犯行手口である。知識や技術がなければそのようなことはできない。②の判決書謄本により甲がそうした知識や技術をもっていて、実行したことがあるとわかるので、自然的連関性を有していると言えるので証拠能力が肯定され、甲が前記公訴事実の犯人であることを立証するために用いることが許される。
 起訴状には、裁判官に事件につき予断を生ぜしめる虞のある書類その他の物を添付し、又はその内容を引用してはならない(256条6項)と規定されている。この趣旨からすると単に前科があるとか悪性格であるとかいったことを示すための証拠は証拠能力を否定されるべきであるが、②の判決書謄本はそうした目的ではなく特徴的な犯行手口を示すために必要なので、許容される。

以上

 

 

修正答案

以下刑事訴訟法については条数のみを示す。

[設問1]
第1 逮捕及び勾留一般の適法性
 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときは、裁判官のあらかじめ発する逮捕状により、これを逮捕することができる(199条1項)。甲が平成28年3月5日に、V方で盗まれた彫刻1点を、H県から離れたL県内の古美術店に売却していたことから、相当な理由があると言える。本件被疑事実は同条但書には該当しない。逮捕されてから72時間以内に勾留されているので205条2項に反しておらず、その他勾留についても一般的に違法な点は見当たらない。
第2 再逮捕及び再勾留の適法性
 199条3項の文言からして再逮捕は想定されている。もっとも、逮捕から勾留までに時間制限があることを無に帰すような不当な逮捕の繰り返しを許してはならない。被疑者の負担を考慮して、重大犯罪に限り、新しい重要証拠が発見されるなどして状況が大きく変わった時のみに再逮捕が許されると解すべきである。本件被疑事実は現住建造物等放火罪を構成するので重大犯罪であると言える。また、甲が同年3月5日にV方で盗まれた彫刻1点をH県から離れたL県内の古美術店に売却していたことは新しい重要証拠である。よって①の逮捕は再逮捕に当たるものの適法である。
 再逮捕が予定されているのだから、再勾留についても想定されていると考えられる。しかし身柄拘束が最大20日(特定の罪に関しては25日)と長期に及ぶため、再逮捕よりも厳格に判断すべきである。甲は平成28年3月25日から同年4月13日まで20日間の勾留を受けており、再び勾留されてまた20日間の身柄拘束をされるという負担は非常に大きい。確かに先述したように新しい重要証拠が発見されているが、本来であれば最初の逮捕前、せめて最初の勾留中にこの証拠を発見して、それも踏まえて最初の勾留中に取り調べをすべきであった。そうせずに最初の勾留を最大の20日間行って、そこで自白が得られなかったとなって新証拠を探し、その新証拠に基づいて再勾留するというのは不当な蒸し返しである。よって①の勾留は違法である。
 再逮捕と再勾留とで異なるのはおかしいのではないかという反論が予想されるが、逮捕しても証拠が不十分なら勾留の請求をしなければよいと言える。
 以上より、①の逮捕は適法であるが、勾留は違法である。

[設問2]
 事実の認定は証拠により(317条)、証拠の証明力は裁判官の自由な判断に委ねる(318条)。ただし、証明力以前に証拠には証拠能力が備わっていなければならない。そこで②本件前科の内容が記載された判決書謄本に法律上証拠能力が認められるかを検討する。
 ②の証拠の要証事実は、甲が平成28年3月23日、V方に侵入して彫刻1点を盗みV方に放火したことである。その彫刻とは美術品の彫刻であり、放火の方法はウィスキー瓶にガソリンを入れた手製の火炎瓶を使用するというものである。②の判決書謄本に記された本件前科でも住宅に侵入して美術品の彫刻を盗みウィスキー瓶にガソリンを入れた手製の火炎瓶を使用して同住宅に放火したと書かれている。現金や有価証券ではなく美術品の彫刻を盗み、その場でガソリンをまいたり業務用の容器で火炎瓶を作ったりするのではなくウィスキーの瓶にガソリンを入れて火炎瓶を作るというのは特徴的な犯行手口である。知識や技術がなければそのようなことはできない。②の判決書謄本により甲がそうした知識や技術をもっていて、実行したことがあるとわかるので、自然的連関性を有していると言えるので証拠能力が肯定され、甲が前記公訴事実の犯人であることを立証するために用いることが許される。
 起訴状には、裁判官に事件につき予断を生ぜしめる虞のある書類その他の物を添付し、又はその内容を引用してはならない(256条6項)と規定されている。この趣旨からすると単に前科があるとか悪性格であるとかいったことを示すための証拠は証拠能力を否定されるべきであるが、②の判決書謄本はそうした目的ではなく特徴的な犯行手口を示すために必要なので、許容される。

以上

 

 

感想

[設問1]では最初の直感に従って再逮捕は適法、再勾留は違法と書きましたが、収まりが悪いような気もします。[設問2]で練習では自然的連関性と書いてしまいましたが、どちらかというと法律的関連性ですね。判決書謄本が323条1号の書面かどうかといった論点もあり得るでしょうが、出題趣旨では触れられていなかったので、論じなくてもよいようです。

 



平成28年司法試験予備試験論文(刑法)答案練習

問題

以下の事例に基づき,甲及び乙の罪責について論じなさい(特別法違反の点を除く。)。

 

1 甲(40歳,男性)と乙(35歳,男性)は,数年来の遊び仲間で,働かずに遊んで暮らしていた。甲は,住宅街にある甲所有の2階建て木造一軒家(以下「甲宅」という。)で一人で暮らしており,乙も,甲がそのような甲宅に一人で住んでいることを承知していた。乙は,住宅街にある乙所有の2階建て木造一軒家(以下「乙宅」という。)で内妻Aと二人で暮らしており,甲も,乙がそのような乙宅にAと二人で住んでいることを承知していた。甲宅と乙宅は,直線距離で約2キロメートル離れていた。

2 甲と乙は,某年8月下旬頃,働かずに遊びに使う金を手に入れたいと考え,その相談をした。そして,甲と乙は,同年9月1日に更に話合いをし,設定した時間に発火し,その火を周囲の物に燃え移らせる装置(以下「発火装置」という。)を製作し,これを使って甲宅と乙宅に放火した後,正当な請求と見せ掛けて,甲宅と乙宅にそれぞれ掛けてある火災保険の保険金の支払を請求して保険会社から保険金をだまし取り,これを折半することにした。その後,甲と乙は,二人でその製作作業をして,同月5日,同じ性能の発火装置2台(以下,それぞれ「X発火装置」,「Y発火装置」という。)を完成させた上,甲宅と乙宅に放火する日を,Aが旅行に出掛けて乙宅を留守にしている同月8日の夜に決めた。

3 Aは,同日昼,旅行に出掛けて乙宅を留守にした。

4 甲と乙は,同日午後7時,二人で,甲宅内にX発火装置を運び込んで甲宅の1階の居間の木製の床板上に置き,同日午後9時に発火するように設定した。その時,甲宅の2階の部屋には,甲宅内に勝手に入り込んで寝ていた甲の知人Bがいたが,甲と乙は,Bが甲宅にいることには気付かなかった。
 その後,甲と乙は,同日午後7時30分,二人で,乙宅の敷地内にあって普段から物置として使用している乙所有の木造の小屋(以下「乙物置」という。)内にY発火装置を運び込んで,乙物置内の床に置かれていた,洋服が入った段ボール箱(いずれも乙所有)上に置き,同日午後9時30分に発火するように設定した。なお,乙物置は,乙宅とは屋根付きの長さ約3メートルの木造の渡り廊下でつながっており,甲と乙は,そのような構造で乙宅と乙物置がつながっていることや,乙物置及び渡り廊下がいずれも木造であることを承知していた。
 その後,甲と乙は,乙宅の敷地内から出て別れた。

5 甲宅の2階の部屋で寝ていたBは,同日午後8時50分に目を覚まし,甲宅の1階の居間に行ってテレビを見ていた。すると,X発火装置が,同日午後9時,設定したとおりに作動して発火した。Bは,その様子を見て驚き,すぐに甲宅から逃げ出した。その後,X発火装置から出た火は,同装置そばの木製の床板に燃え移り,同床板が燃え始めたものの,その燃え移った火は,同床板の表面の約10センチメートル四方まで燃え広がったところで自然に消えた。なお,甲と乙は,終始,Bが甲宅にいたことに気付かなかった。

6 Y発火装置は,同日午後9時30分,設定したとおりに作動して発火した。乙は,その時,乙宅の付近でうろついて様子をうかがっていたが,Y発火装置の発火時間となって,「このままだと自分の家が燃えてしまうが,やはりAには迷惑を掛けたくない。それに,その火が隣の家に燃え移ったら危ないし,近所にも迷惑を掛けたくない。こんなことはやめよう。」と考え,火を消すために乙物置内に入った。すると,Y発火装置から出た火が同装置が置いてある前記段ボール箱に燃え移っていたので,乙は,乙物置内にある消火器を使って消火活動をし,同日午後9時35分,その火を消し止めた。乙物置内で燃えたものは,Y発火装置のほか,同段ボール箱の一部と同箱内の洋服の一部のみで,乙物置には,床,壁,天井等を含め火は燃え移らず,焦げた箇所もなかった。また,前記渡り廊下及び乙宅にも,火は燃え移らず,焦げた箇所もなかった。

7 その後,甲と乙は,甲宅と乙宅にそれぞれ掛けてある火災保険の保険金を手に入れることを諦め,保険会社に対する保険金の支払の請求をしなかった。

 

 

練習答案

以下刑法については条数のみを示す。

第1 共犯(共同正犯、60条)
 二人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯とする(60条)。このように犯罪の一部実行であっても正犯として責任を問うのは、共同することにより犯罪の実行が容易になるからである。共同して犯罪を実行したと言うためには犯罪行為についての意思連絡が必要である。本件では放火の罪と詐欺罪の成否が問題となり得るところ、その双方の犯罪行為について甲と乙は意思の連絡をしている。そして発火装置の製作及び設置を共同して行っている。よって上記の犯罪が成立するとすれば、甲と乙は共同正犯(60条)となる。

第2 詐欺罪(246条)
 人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する(246条1項)。甲も乙も保険会社に対する保険金の支払いの請求をしなかったので欺もう行為に着手していない。よって詐欺罪の実行行為に着手していないため、本罪は不成立である。

第3 放火の罪
 放火して、現に人が住居に使用し又は現に人がいる建造物(中略)を焼損した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する(108条)。放火して、現に人が住居に使用せず、かつ、現に人がいない建造物(中略)を焼損した者は、二年以上の有期懲役に処する(109条1項)。
 (1)現住性
 108条の「現に人が住居に使用し」というのは人がそこで食事をとったり寝たりすることを指している。旅行などで一時的にたまたまそこにいなかったとしてもこの現住性は否定されない。よって乙宅に関してはAが現住していると言えるので、108条の客体となる。他方で108条の「人」とは放火犯人以外の人だと解釈するのが適当である。犯人自身は保護法益に含まれないと考えるのが自然だからである。すると甲宅に関しては108条ではなく109条の客体となる。先に述べたように甲及び乙は共同正犯なので、一体として考える(乙にとっても109条の客体である)。甲宅は甲所有であるが火災保険が掛けられてあるので「自己の所有に係る」(109条2項)とは言えないので、109条1項の客体となる。
 (2)建造物
 甲宅の居間は当然に建造物である。乙物置については、長さ約3メートルの木造の渡り廊下で乙宅とつながっているので、構造上一体となって建造物となる。
 (3)放火
 某年8月5日に発火装置2台を完成させた時点で、108条及び109条1項の予備罪(113条)が成立する。
 その後、同月8日のそれぞれ午後7時、7時30分に甲宅の1階の居間の木製の床板上及び乙物置内に発火装置を置いた時点で、放火するという実行行為に着手している。発火装置が作動して発火するのがその数時間後だとしても、発火装置を置くだけで焼損の危険は大きいので、その時点で実行の着手だと判断すべきである。
 (4)焼損
 108条及び109条の焼損とは、損壊せずに建造物から取り外せない物が独立して燃焼することであると判例では解されている。甲宅1階の居間の木製の床板が燃え始めて表面の約10センチメートル四方まで燃え広がっているので、上記の基準から焼損したと言える。乙物置内で燃えたものは、Y発火装置のほか、段ボール箱の一部と同箱内の洋服の一部のみであり、これらは損壊せずとも建造物から取り外せるものなので、焼損したとは言えない。
 (5)故意
 甲宅には客観的にはBという人がいたが、甲乙ともにそのことを認識していなかったので、108条ではなく109条1項を適用する。
 (6)中止犯
 自己の意思により犯罪を中止したときは、その刑を減軽し、又は免除する(43条後段)。乙はAや近所に迷惑を掛けたくないという自己の意思により、消火活動をして乙物置の火を消し止めた。中止したと言えるためには実行の着手後は発生した危険を除去しなければならないが、乙はそうしたと言える。
 中止犯は責任に関する規定なので、共同正犯であっても個別に作用する。

第4 結論
 甲及び乙には、甲宅の放火につき109条1項の非現住建造物等放火罪の既遂が、乙宅の放火につき、108条の現住建造物放火罪の未遂が成立し、これらは併合罪となる。甲宅と乙宅は約2キロメートル離れていることからしても別の罪である。そして乙には中止犯による減軽又は免除がある。

以上

 

 

 

修正答案

以下刑法については条数のみを示す。

第1 共犯(共同正犯、60条)
 二人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯とする(60条)。このように犯罪の一部実行であっても正犯として責任を問うのは、共同することにより犯罪の実行が容易になるからである。共同して犯罪を実行したと言うためには犯罪行為についての意思連絡が必要である。本件では放火の罪と詐欺罪の成否が問題となり得るところ、その双方の犯罪行為について甲と乙は意思の連絡をしている。そして発火装置の製作及び設置を共同して行っている。よって上記の犯罪が成立するとすれば、甲と乙は共同正犯(60条)となる。

第2 詐欺罪(246条)
 人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する(246条1項)。甲も乙も保険会社に対する保険金の支払いの請求をしなかったので欺罔行為に着手していない。よって詐欺罪の実行行為に着手していないため、本罪は不成立である。

第3 放火の罪
 放火して、現に人が住居に使用し又は現に人がいる建造物(中略)を焼損した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する(108条)。放火して、現に人が住居に使用せず、かつ、現に人がいない建造物(中略)を焼損した者は、二年以上の有期懲役に処する(109条1項)。
 (1)現住性
 108条の「現に人が住居に使用し」というのは人がそこで起臥寝食の場所として日常使用していることを指している。旅行などで一時的にたまたまそこにいなかったとしてもこの現住性は否定されない。よって乙宅に関してはAが現住していると言えるので、108条の客体となる。他方で108条の「人」とは放火犯人以外の人だと解釈するのが適当である。犯人自身は保護法益に含まれないと考えるのが自然だからである。すると甲宅に関しては108条ではなく109条の客体となる(客観的にはBという人が甲宅にはいたわけであるが、そのことについては故意という項目で述べる)。先に述べたように甲及び乙は共同正犯なので、一体として考える(乙にとっても109条の客体である)。甲宅は甲所有であるが火災保険が掛けられてあるので「自己の所有に係る」(109条2項)とは言えないので、109条1項の客体となる。
 (2)建造物
 甲宅の居間は当然に建造物である。乙物置については、長さ約3メートルの木造の渡り廊下で乙宅とつながっているので、構造上一体となって建造物となる。
 (3)放火
 某年8月5日に発火装置2台を完成させた時点で、108条及び109条1項の予備罪(113条)が成立する。
 その後、同月8日のそれぞれ午後7時、7時30分に甲宅の1階の居間の木製の床板上及び乙物置内に発火装置を置いた時点で、放火するという実行行為に着手している。発火装置が作動して発火するのがその数時間後だとしても、発火装置を置くだけでその後に障害となるような事情も見当たらず焼損の危険は大きいので、その時点で実行の着手だと判断すべきである。
 (4)焼損
 108条及び109条の焼損とは、損壊せずに建造物から取り外せない物が独立して燃焼することであると判例では解されている。甲宅1階の居間の木製の床板が燃え始めて表面の約10センチメートル四方まで燃え広がっているので、上記の基準から焼損したと言える。乙物置内で燃えたものは、Y発火装置のほか、段ボール箱の一部と同箱内の洋服の一部のみであり、これらは損壊せずとも建造物から取り外せるものなので、焼損したとは言えない。
 (5)故意
 甲宅には客観的にはBという人がいたが、甲乙ともにそのことを認識していなかったので、108条ではなく109条1項を適用する。このような抽象的事実の錯誤に関しては、構成要件が重なりあう部分で軽いほうの罪についての故意を認めるのが判例の立場である。108条と109条1項とでは構成要件が重なっており、109条1項のほうの罪が軽い。
 (6)中止犯
 自己の意思により犯罪を中止したときは、その刑を減軽し、又は免除する(43条後段)。乙はAや近所に迷惑を掛けたくないという自己の意思により、消火活動をして乙物置の火を消し止めた。中止したと言えるためには実行の着手後は結果の発生を防止するための積極的行為をしなければならないが、乙はそうしたと言える。
 中止犯は責任に関する規定なので、共同正犯であっても個別に作用する。

第4 結論
 甲及び乙には、甲宅の放火につき109条1項の非現住建造物等放火罪の既遂が、乙宅の放火につき、108条の現住建造物放火罪の未遂が成立し、これらは併合罪となる。甲宅と乙宅は約2キロメートル離れていることからしても別の罪である。そして乙には中止犯による減軽又は免除がある。

以上

 

感想

まずまず論点を拾えたかなという感触がありました。

 




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