浅野直樹の学習日記

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平成26(2014)年司法試験予備試験論文再現答案法律実務基礎科目(刑事)

問題

次の【事例】を読んで,後記〔設問〕に答えなさい。

【事 例】
1 A(男性,22歳)は,平成26年2月1日,V(男性,40歳)を被害者とする強盗致傷罪の被疑事実で逮捕され,翌2日から勾留された後,同月21日,「被告人は,Bと共謀の上,通行人から金品を強取しようと企て,平成26年1月15日午前零時頃,H県I市J町1丁目2番3号先路上において,同所を通行中のV(当時40歳)に対し,Bにおいて,Vの後頭部をバットで1回殴り,同人が右手に所持していたかばんを強く引いて同人を転倒させる暴行を加え,その反抗を抑圧した上,同人所有の現金10万円が入った財布等2点在中の前記かばん1個(時価合計約1万円相当)を強取し,その際,同人に加療約1週間を要する頭部挫創の傷害を負わせた。」との公訴事実が記載された起訴状により,I地方裁判所に公訴を提起された。なお,B(男性,22歳)は,Aが公訴を提起される前の同年2月6日に同裁判所に同罪で公訴を提起されていた。
2 Aの弁護人は,Aが勾留された後,数回にわたりAと接見した。Aは,逮捕・勾留に係る被疑事実につき,同弁護人に対し,「私は,平成26年1月14日午後11時頃,友人Bの家に居た際,Bから『ひったくりをするから,一緒に来てくれ。車を運転してほしい。ひったくりをする相手が見付かったら,俺だけ車から降りてひったくりをするから,俺が戻るまで車で待っていてほしい。俺が車に戻ったらすぐに車を発進させて逃げてくれ。』と頼まれた。Bからひったくりの手伝いを頼まれたのは,この時が初めてである。私は,Bが通行人の隙を狙ってかばんなどを奪って逃げてくるのだと思った。私は金に困っておらず,ひったくりが成功した際に分け前をもらえるかどうかについては何も聞かなかったが,私自身がひったくりをするわけでもないので自動車を運転するくらいなら構わないと思い,Bの頼みを引き受けた。その後,私は,先にBの家を出て,その家に来る際に乗ってきていた私の自動車の運転席に乗った。しばらくしてから,Bが私の自動車の助手席に乗り込んだ。Bが私の自動車に乗り込んだ際,私は,Bがバットを持っていることに気付かなかった。そして,私が自動車を運転して,I市内の繁華街に向かった。車内では,どうやってかばんなどをひったくるのかについて何も話をしなかった。私は,しばらく繁華街周辺の人気のない道路を走り,翌15日午前零時前頃,かばんを持って一人で歩いている男性を見付けた。その男性がVである。Bも,Vがかばんを持って歩いていることに気付き,私に『あの男のかばんをひったくるから,車を止めてくれ。』と言ってきた。私が自動車を止めると,Bは一人で助手席から降り,Vの後を付けて行った。この時,周囲が暗く,私は,Bがバットを持っていることには気付かなかったし,BがVに暴力を振るうとは思っていなかった。その後,私からは,VとBの姿が見えなくなった。私は,自動車の運転席で待機していた。しばらくすると,Bが私の自動車の方に走ってきたが,VもBの後を追い掛けて走ってきた。私は,Bが自動車の助手席に乗り込むや,すぐに自動車を発進させてその場から逃げた。Bがかばんを持っていたので,私は,ひったくりが成功したのだと思ったが,BがVに暴力を振るったとは思っていなかった。私とBは,Bの家に戻ってから,一緒にかばんの中身を確認した。かばんには財布と携帯電話機1台が入っており,財布の中には現金10万円が入っていた。Bが,私に2万円を渡してきたので,私は,自動車を運転した謝礼としてこれを受け取った。残りの8万円はBが自分のものにした。財布や携帯電話機,かばんについては,Bが自分のものにしたか,あるいは捨てたのだと思う。私は,Bからもらった2万円を自分の飲食費などに使った。」旨説明した。Aは,前記1のとおり公訴を提起された後も,同弁護人に前記説明と同じ内容の説明をした。
3 受訴裁判所は,同年2月24日,Aに対する強盗致傷被告事件を公判前整理手続に付する決定をした。検察官は,同年3月3日,【別紙1】の証明予定事実記載書を同裁判所及びAの弁護人に提出・送付するとともに,同裁判所に【別紙2】の証拠の取調べを請求し,Aの弁護人に当該証拠を開示した。Aの弁護人が当該証拠を閲覧・謄写したところ,その概要は次のとおりであった。
(1) 甲第1号証の診断書には,Vの受傷について,同年1月15日から加療約1週間を要する頭部挫創の傷害と診断する旨が記載されていた。
(2) 甲第2号証の実況見分調書には,司法警察員が,Vを立会人として,同日午前2時から同日午前3時までの間,Vがかばんを奪われるなどの被害に遭った事件現場としてH県I市J町1丁目2番3号先路上の状況を見分した結果が記載されており,同所付近には街灯が少なく,夜間は非常に暗いこと,同路上の通行量はほとんどなく,実況見分中の1時間のうちに通行人2名が通過しただけであったことなども記載されていた。
(3) 甲第3号証のバット1本は,木製で,長さ約90センチメートル,重さ約1キログラムのものであった。
(4) 甲第4号証のVの検察官調書には,「私は,平成26年1月15日午前零時頃,勤務先から帰宅するためI市内の繁華街に近い道路を一人で歩いていたところ,いきなり何者かに後頭部を固い物で殴られ,右手に持っていたかばんを強く引っ張られて仰向けに転倒した。私は,仰向けに転倒した拍子にかばんから手を離した。すると,この時,私のすぐそばに男が立っており,その男が左手にバットを持ち,右手に私のかばんを持っているのが見えた。そこで,私は,その男にバットで後頭部を殴られたのだと分かった。男は,私のかばんを持って逃げたが,その際,バットを地面に落としていった。かばんには,財布と携帯電話機1台を入れており,財布の中には,現金10万円を入れていた。男にかばんを奪われた後,私は,すぐに男を追い掛けたが,男が自動車に乗って逃げたため,捕まえることはできなかった。」旨記載されていた。
(5) 甲第5号証のBの検察官調書には,「私は,サラ金に約50万円の借金を抱え,平成26年1月15日に事件を起こす1週間くらい前から,遊ぶ金欲しさに,通行人からかばんなどをひったくることを考えていた。通行人からかばんなどをひったくる際には抵抗されることも予想し,そのときは相手を殴ってでもかばんなどを奪おうと考えていた。私は,同月14日午後11時頃,私の自宅に来ていた友人Aに『ひったくりをするから,一緒に来てくれないか。車を運転してほしい。ひったくりをする相手が見付かったら,俺が一人で車から降りてひったくりをするから,その間,車で待っていてくれ。俺が車に戻ったら,すぐに車を走らせて逃げてほしい。』と頼んだ。Aは,快く引き受けてくれて,Aの自動車でI市内の繁華街に行くことを話し合った。私は,かばんなどを奪う相手に抵抗されたりした場合にはその相手をバットで殴ったり脅したりしようと考え,自分の部屋からバット1本を持ち出し,そのバットを持ってAの自動車の助手席に乗った。そして,Aが自動車を運転して繁華街に向かい,その周辺の道路を走行しながら,ひったくりの相手を探した。車内では,どうやってかばんなどを奪うのかについて話はしなかった。私は,かばんを持って一人で歩いている男性Vを見付けたので,Aに停車してもらってから,私一人でバットを持って降車し,Vの後を付けて行った。私がバットを持って自動車に乗ったことや,バットを持って自動車から降りたことは,Aも自動車の運転席に居たのだから,当然気付いていたと思う。私は,降車してしばらくVを追跡してから,同月15日午前零時頃,背後からVに近付き,いきなりVが右手に持っていたかばんをつかんで後ろに引っ張った。この時,Vが後方に転倒して頭部を地面に打ち付け,かばんから手を離したので,私は,すぐにかばんを取ることができた。私は,Vを転倒させようと思ってかばんを引っ張ったわけではなく,バットで殴りもしなかった。かばんを奪った直後,私は,手を滑らせてバットをその場に落としてしまったが,Vがすぐに立ち上がって私を捕まえようとしたので,バットをその場に残したままAの自動車まで走って逃げた。私は,Vに追い掛けられたが,私がAの自動車の助手席に乗り込むとAがすぐに自動車を発進させてくれたので,逃げ切ることができた。その後,私とAは,私の自宅に戻り,Vのかばんの中身を確認した。かばんには,財布と携帯電話機1台が入っており,財布には現金10万円が入っていた。そこで,私は,Aに,自動車を運転してくれた謝礼として現金2万円を渡し,残り8万円を自分の遊興費に使った。財布や携帯電話機,かばんは,私がいずれもゴミとして捨てた。」旨記載されていた。
(6) 乙第1号証のAの警察官調書には,Aの生い立ちなどが記載されており,乙第2号証のAの検察官調書には,前記2のとおりAが自己の弁護人に説明した内容と同じ内容が記載されていた。乙第3号証の身上調査照会回答書には,Aの戸籍の内容が記載されていた。
4 Aの弁護人は,【別紙1】の証明予定事実記載書及び【別紙2】の検察官請求証拠を検討した後,①同証明予定事実記載書の内容につき,受訴裁判所裁判長に対して求釈明を求める方針を定め,また,②検察官に対し,【別紙2】の検察官請求証拠の証明力を判断するため,類型証拠の開示を請求した。そこで,検察官は,当該開示請求に係る証拠をAの弁護人に開示した
 その後,同年3月14日,Aに対する強盗致傷被告事件につき,第1回公判前整理手続期日が開かれた。裁判長は,Aの弁護人からの前記求釈明の要求に応じて,検察官に釈明を求めた。そこで,検察官は,今後,証明予定事実記載書を追加して提出することにより釈明する旨述べた。
 第1回公判前整理手続期日が終了した後,検察官は,追加の証明予定事実記載書を受訴裁判所及びAの弁護人に提出・送付した。Aの弁護人は,BがVの後頭部をバットで殴打したか否かなどの実行行為の態様については,甲第4号証のVの検察官調書が信用性に乏しく,甲第5号証のBの検察官調書が信用できると考えた。その上で,③Aの弁護人は,前記2のAの説明内容に基づいて予定主張記載書面を作成し,これを受訴裁判所及び検察官に提出・送付した。同月28日,第2回公判前整理手続期日が開かれ,受訴裁判所は,争点及び証拠を整理し,V及びBの証人尋問が実施されることとなった。そして,同裁判所は,争点及び証拠の整理結果を確認して審理計画を策定し,公判前整理手続を終結した。公判期日は,同年5月19日から同月21日までの連日と定められた。
5 その後,Bに対する強盗致傷被告事件の公判が,同年4月21日から同月23日まで行われた。Bは,同公判の被告人質問において,「実は,起訴されるまでの取調べにおいては嘘の話をしていた。本当は,平成26年1月14日午後11時頃,自宅において,Aに対し本件犯行への協力を求めた際,Aから『バットを持って行けばよい。』と勧められた。また,Vを襲った時,バットでVの後頭部を殴ってから,Vのかばんを引っ張った。」旨新たに供述した。そこで,Aの公判を担当する検察官が,同年4月24日にBを取り調べたところ,Bは自己の公判で供述した内容と同旨の供述をしたが,その一方で「Aの前では,Aに責任が及ぶことについて話しづらいので,Aの公判では,できることなら話したくない。今日話したことについては,供述調書の作成にも応じたくない。」旨供述した。④同検察官は,取調べの結果,Bが自己の公判で新たにした供述の内容が信用できると判断した

【浅野注:別紙は省略しています】

〔設問1〕
下線部①につき,Aの弁護人が求釈明を求める条文上の根拠を指摘するとともに,同弁護人が求釈明を求める事項として考えられる内容を挙げ,当該求釈明の要求を必要と考える理由を具体的に説明しなさい。

〔設問2〕
下線部②につき,Aの弁護人が甲第4号証のVの検察官調書の証明力を判断するために開示を請求する類型証拠として考えられるものを3つ挙げ,同弁護人が当該各証拠の開示を請求するに当たり明らかにしなければならない事項について,条文上の根拠を指摘しつつ具体的に説明しなさい。ただし,当該各証拠は,異なる類型に該当するものを3つ挙げることとする。

〔設問3〕
下線部③につき,Aの弁護人は,Aの罪責についていかなる主張をすべきか,その結論を示すとともに理由を具体的に論じなさい。

〔設問4〕
下線部④につき,検察官は,Bが自己の公判で新たにした供述の内容をAの公訴事実の立証に用いるためにどのような訴訟活動をすべきか,予想されるAの弁護人の対応を踏まえつつ具体的に論じなさい。

再現答案

 以下刑事訴訟法についてはその条数のみを示す。

[設問1]
 Aの弁護人が求釈明を求める条文上の根拠は第316条の16である。そして乙第1号証に関し、その必要性について求釈明を求めると考えられる。これは裁判官に予断を抱かせる危険があるからである。

 

[設問2]
 第316条の15に基づいて以下の証拠の開示を請求する。
(1) 被告人の供述録取書(第316条の15第1項第7号)
甲第4号証との食い違いを確かめるため。
(2) 第321条第2項に規定する裁判所又は裁判官の検証の結果を記載した書面(第316条の15第1項第2号)
甲第4号証との食い違いを確かめるため。
(3) 第321条第3項に規定する書面又はこれに準ずる書面(第316条の15第1項第3号)
甲第4号証との食い違いを確かめるため。

 

[設問3]
 BはVから、すぐにかばんを取ることができ、Vを転倒させようと思ってかばんを引っ張ったわけではなく、バットで殴りもしなかった。そこでは反抗を抑圧するほどの暴行がなされていないので、強盗致傷は成立しない。実行行為者であるBについて強盗致傷が成立しない以上、その共犯であるAに強盗致傷は成立しない。

 

[設問4]
 Bの供述内容をAの公訴事実の立証に用いるためには、BをAの公判で証人尋問するのが筋である。BはAの前では話しづらいと言っているので、不安や緊張を覚えるおそれがあり、付き添い人をつけることができる(第157条の2第1項)。Aの弁護人は、付き添い人が供述の内容に不当な影響を与える(第157条の2第2項)と反論するかもしれないが、そのようなことはないと主張すればよい。遮へい措置(第157条の3)やビデオリンク方式(第157条の4)で行うこともできる。Aの弁護人はそれでは被告人が証人の様子を観察できないと主張するかもしれないが、少なくとも弁護人は観察できるのだから大丈夫だと主張できる。
 また、Bが自己の公判でした供述を書面で提出することもできる。Aの弁護人は伝聞証拠だとしてその証拠能力を否定するだろうが、公判期日において供述することができないとき(第321条第1項第1号)として証拠とすることを求めることができる。

以上

 

感想

 ざっと読んだ瞬間終わったと思いました。何が問われているのかさえわからなかったのです。白紙で提出することも頭をよぎりましたが、それでは本当に終わってしまうと思い直して、分量は少なくてもいいからすべての問いに答えようと努力しました。ひどい出来だと思います。

 

 

 



平成26(2014)年司法試験予備試験論文再現答案法律実務基礎科目(民事)

問題

(〔設問1〕から〔設問5〕までの配点の割合は,8:16:4:14:8)

司法試験予備試験用法文を適宜参照して,以下の各設問に答えなさい。

〔設問1〕
 弁護士Pは,Xから次のような相談を受けた。

【Xの相談内容】
 「私の父Yは,その妻である私の母が平成14年に亡くなって以来,Yが所有していた甲土地上の古い建物(以下「旧建物」といいます。)に1人で居住していました。平成15年初め頃,Yが,生活に不自由を来しているので同居してほしいと頼んできたため,私と私の妻子は,甲土地に引っ越してYと同居することにしました。Yは,これを喜び,旧建物を取り壊した上で,甲土地を私に無償で譲ってくれました。そこで,私は,甲土地上に新たに建物(以下「新建物」といいます。)を建築し,Yと同居を始めました。ちなみにYから甲土地の贈与を受けたのは,私が新建物の建築工事を始めた平成15年12月1日のことで,その日,私はYから甲土地の引渡しも受けました。
 ところが,新建物の完成後に同居してみると,Yは私や妻に対しささいなことで怒ることが多く,とりわけ,私が退職した平成25年春には,Yがひどい暴言を吐くようになり,ついには遠方にいる弟Aの所に勝手に出て行ってしまいました。
 平成25年10月頃,Aから電話があり,甲土地はAに相続させるとYが言っているとの話を聞かされました。さすがにびっくりするとともに,とても腹が立ちました。親子なので書類は作っていませんが,Yは,甲土地が既に私のものであることをよく分かっているはずです。平成16年から現在まで甲土地の固定資産税等の税金を支払っているのも私です。もちろん母がいるときのようには生活できなかったかもしれませんが,私も妻もYを十分に支えてきました。
 甲土地は,Yの名義のままになっていますので,この機会に,私は,Yに対し,所有権の移転登記を求めたいと考えています。」

 弁護士Pは,【Xの相談内容】を受けて甲土地の登記事項証明書を取り寄せたところ,昭和58年12月1日付け売買を原因とするY名義の所有権移転登記(詳細省略)があることが明らかとなった。弁護士Pは,【Xの相談内容】を前提に,Xの訴訟代理人として,Yに対し,贈与契約に基づく所有権移転登記請求権を訴訟物として,所有権移転登記を求める訴えを提起することにした。

 以上を前提に,以下の各問いに答えなさい。
(1) 弁護士Pが作成する訴状における請求の趣旨(民事訴訟法第133条第2項)を記載しなさい。
(2) 弁護士Pは,その訴状において,「Yは,Xに対し,平成15年12月1日,甲土地を贈与した。」との事実を主張したが,請求を理由づける事実(民事訴訟規則第53条第1項)は,この事実のみで足りるか。結論とその理由を述べなさい。

〔設問2〕
 上記訴状の副本を受け取ったYは,弁護士Qに相談した。贈与の事実はないとの事情をYから聴取した弁護士Qは,Yの訴訟代理人として,Xの請求を棄却する,贈与の事実は否認する旨記載した答弁書を提出した。
 平成26年2月28日の本件の第1回口頭弁論期日において,弁護士Pは訴状を陳述し,弁護士Qは答弁書を陳述した。また,同期日において,弁護士Pは,次回期日までに,時効取得に基づいて所有権移転登記を求めるという内容の訴えの追加的変更を申し立てる予定であると述べた。
 弁護士Pは,第1回口頭弁論期日後にXから更に事実関係を確認し,訴えの追加的変更につきXの了解を得て,訴えの変更申立書を作成し,請求原因として次の各事実を記載した。
 ① Xは,平成15年12月1日,甲土地を占有していた。
 ②〔ア〕
 ③ 無過失の評価根拠事実平成15年11月1日,Yは,Xに対し,旧建物において,「明日からこの建物を取り壊す。取り壊したら,甲土地はお前にただでやる。いい建物を頼むぞ。」と述べ,甲土地の登記済証(権利証)を交付した。〔以下省略〕
 ④ Xは,Yに対し,本申立書をもって,甲土地の時効取得を援用する。
 ⑤〔イ〕
 ⑥ よって,Xは,Yに対し,所有権に基づき,甲土地について,上記時効取得を原因とする所有権移転登記手続をすることを求める。

 以上を前提に,以下の各問いに答えなさい。
(1) 上記〔ア〕及び〔イ〕に入る具体的事実を,それぞれ答えなさい。
(2) 上記①から⑤までの各事実について,請求原因事実としてそれらの事実を主張する必要があり,かつ,これで足りると考えられる理由を,実体法の定める要件や当該要件についての主張・立証責任の所在に留意しつつ説明しなさい。
(3) 上記③無過失の評価根拠事実(甲土地が自己の所有に属すると信じるにつき過失はなかったとの評価を根拠付ける事実)に該当するとして,「Xは平成16年から現在まで甲土地の固定資産税等の税金を支払っている。」を主張することは適切か。結論とその理由を述べなさい。

〔設問3〕
 上記訴えの変更申立書の副本を受け取った弁護士Qは,Yに事実関係の確認をした。Yの相談内容は次のとおりである。

【Yの相談内容】
 「私は,長男Xと次男Aの独立後しばらくたった昭和58年12月1日,甲土地及び旧建物を前所有者であるBから代金3000万円で購入して所有権移転登記を取得し,妻と生活していました。
 その後,妻が亡くなってしまい,私も生活に不自由を来すようになりましたので,Xに同居してくれるよう頼みました。Xは,甲土地であれば通勤等が便利だと言って喜んで賛成してくれました。私とXは,旧建物は私の方で取り壊すこと,甲土地をXに無償で貸すこと,Xの方で二世帯が住める住宅を建てることを決めました。
 しかし,いざ新建物で同居してみると,だんだんと一緒に生活することが辛くなり,平成25年春,Aに頼んでAの所で生活をさせてもらうことにしました。
 このような次第ですので,私が甲土地上の旧建物を取り壊して甲土地をXに引き渡したこと,Xに甲土地を引き渡したのが新建物の建築工事が始まった平成15年12月1日であり,それ以来Xが甲土地を占有していること,Xが新建物を所有していることは事実ですが,私はXに対し甲土地を無償で貸したのであって,贈与したのではありません。平成15年12月1日に私とXが会って新築工事の話をしましたが,その際に甲土地を贈与するという話は一切出ていませんし,書類も作っていません。私には所有権の移転登記をすべき義務はないと思います。」

 弁護士Qは,【Yの相談内容】を踏まえて,どのような抗弁を主張することになると考えられるか。いずれの請求原因に関するものかを明らかにした上で,当該抗弁の内容を端的に記載しなさい(なお,無過失の評価障害事実については記載する必要はない。)。

〔設問4〕
 第1回弁論準備手続期日において,弁護士Pは訴えの変更申立書を陳述し,弁護士Qは前記抗弁等を記載した準備書面を陳述した。その後,弁論準備手続が終結し,第2回口頭弁論期日において,弁論準備手続の結果の陳述を経て,XとYの本人尋問が行われた。本人尋問におけるXとYの供述内容の概略は,以下のとおりであった。

【Xの供述内容】
 「私は,平成15年11月1日,旧建物に行き,Yと今後の相談をしました。その際,Yは,私に対し,『明日からこの建物を取り壊す。取り壊したら,甲土地はお前にただでやる。いい建物を頼むぞ。』と述べ,甲土地の登記済証(権利証)を交付してくれました。私は,Yと相談して,Yの要望に沿った二世帯住宅を建築することにし,Yが住みやすいような間取りにしました。新建物は,仮にYが亡くなった後も,私や私の妻子が末永く住めるよう私が依頼して鉄筋コンクリート造の建物としました。
 平成15年12月1日,更地になった甲土地で新建物の建築工事が始まることになり,Yと甲土地で会いました。Yは,『今日からこの土地はお前の土地だ。ただでやる。同居が楽しみだな。』と言ってくれ,私も『ありがとう。』と答えました。
 私はその日に土地の引渡しを受け,工事を開始し,新建物を建築しました。その後,私は,甲土地の登記済証(権利証)を保管し,平成16年以降,甲土地の固定資産税等の税金を支払い,Yが勝手に出て行った平成25年春までは,その生活の面倒も見てきました。
 新建物の建築費用は3000万円で,私の預貯金から出しました。移転登記については,いずれすればよいと思ってそのままにし,贈与税の申告もしていませんでした。なお,親子のことですから,贈与の書面は作っていませんが,Yが事実と異なることを言っているのは,Aと同居を始めたからに違いありません。」

【Yの供述内容】
 「私は,平成15年11月1日,旧建物で,Xと今後の相談をしましたが,その際,私は,Xに対し,『明日からこの建物を取り壊す。取り壊したら,甲土地はお前に無償で貸す。いい建物を頼むぞ。』と言ったのであって,『譲渡する』とは言っていません。Xには,生活の面倒を見てもらい,甲土地の固定資産税等の支払いをしてもらい,正直,私が死んだら,甲土地はXに相続させようと考えていたのは事実ですが,生前に贈与するつもりはありませんでしたし,贈与の書類も作っていません。なお,甲土地の登記済証(権利証)を交付しましたが,これは旧建物を取り壊す際に,Xに保管を依頼したものです。
 平成15年12月1日,更地になった甲土地で新建物の建築工事が始まることになり,Xと甲土地で会いましたが,私が言ったのは,『今日からこの土地はお前に貸してやる。お金はいらない。』ということです。その日からXが新建物の工事を始め,私の意向を踏まえた二世帯住宅が建ち,私たちは同居を始めました。
 しかし,いざ新建物で同居してみると,Xらは私を老人扱いしてささいなことも制約しようとしましたので,だんだんと一緒に生活することが辛くなり,平成25年春,別居せざるを得なくなったのです。Xには,誰のおかげでここまで来れたのか,もう一度よく考えてほしいと思います。」

 本人尋問終了後に,弁護士Qは,次回の第3回口頭弁論期日までに,当事者双方の尋問結果に基づいて準備書面を提出する予定であると陳述した。弁護士Qは,「Yは,Xに対し,平成15年12月1日,甲土地を贈与した。」とのXの主張に関し,法廷におけるXとYの供述内容を踏まえて,Xに有利な事実への反論をし,Yに有利な事実を力説して,Yの主張の正当性を明らかにしたいと考えている。
 この点について,弁護士Qが作成すべき準備書面の概略を答案用紙1頁程度の分量で記載しなさい。

〔設問5〕
 弁護士Qは,Yから本件事件を受任するに当たり,Yに対し,事件の見通し,処理方法,弁護士報酬及び費用について一通り説明した上で,委任契約を交わした。その際,Yから「私も高齢で,難しい法律の話はよく分からない。息子のAに全て任せているから,今後の細かい打合せ等については,Aとやってくれ。」と言われ,弁護士Qは,日頃Aと懇意にしていたこともあったため,その後の訴訟の打合せ等のやりとりはAとの間で行っていた。
 第3回口頭弁論期日において裁判所から和解勧告があり,XY間において,YがXに対し甲土地の所有権移転登記手続を行うのと引換えにXがYに対し1500万円を支払うとの内容の和解が成立したが,弁護士Qは,その際の意思確認もAに行った。また,弁護士Qは,和解成立後の登記手続等についても,Aから所有権移転登記手続書類を預かり,その交付と引換えにXから1500万円の支払を受けた。さらに,弁護士Qは,受領した1500万円から本件事件の成功報酬を差し引いて,残額については,Aの指示により,A名義の銀行口座に送金して返金した。
 弁護士Qの行為は弁護士倫理上どのような問題があるか,司法試験予備試験用法文中の弁護士職務基本規程を適宜参照して答えなさい。

再現答案

 以下民法についてはその条数のみを示す。

 

[設問1]
(1) 被告は、原告に対し、甲土地について、所有権移転登記をせよ。訴訟費用は被告の負担とする。
(2) 結論として、この事実のみでは足りない。贈与により所有権を移転するためには、贈与者が所有権を有していなければならない。よってYが平成15年12月1日に甲土地の所有権を有していたとの事実を主張しなければならない。しかし、ある時点で所有権を有していることを立証するのは極めて困難である。そこで、それより前の時点の所有を示せば、それ以降所有が継続していることが推定される。以上より、本件では昭和58年12月1日付けでYが甲土地を所有していたとの事実を主張すればよい。

 

[設問2]
(1) [ア]Xは、平成25年12月1日、甲土地を占有していた。
  [イ]登記上、Yが甲土地の所有権者になっている。
(2) 十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する(第162条第2項)のであり、所有の意思、平穏、公然は推定されるので、十年間の占有を示せばよい。十年間ずっと占有していたことを示すのは極めて困難なので、最初の時点と最後の時点で占有していたことを示せば、その間の占有は推定される。よって①と②の事実を主張する必要がある。これは、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったとき(第162条第2項)のことなので、③で無過失の評価根拠事実を示している。そして、時効は、当事者が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない(第145条)ので、④で時効取得を援用している。所有権移転登記手続を求めるのであれば、被告に所有権がなければならないので、⑤の主張をしている。以上より、①から⑤までの各事実について、請求原因事実としてそれらの事実を主張する必要があり、かつ、これで足りる。
(3) 適切である。固定資産税等の税金を支払っていることから、Xが甲土地が自己の所有に属すると信じていたことが推測できるからである。

 

[設問3]
 弁護士Qは、XとYとの間で、甲土地の使用貸借契約が成立していたとの抗弁を主張することになると考えられる。というのも、[設問2]の①と②から自己所有の意思が推定されるが、使用貸借契約が成立しているとその推定が覆されるからである。

 

[設問4]
 Xは贈与契約に基づいて甲土地の所有権移転登記を求めているが、これは認められない。YはXに対し、「甲土地はお前に無償で貸す」と言ったのであるから、贈与ではなく使用貸借契約が成立している。贈与の書面が作られていないのであるし、移転登記もそのままにされていたのである。しかもXは贈与税の申告もしていなかった。納税は国民の義務であり、税金を納めないでいると後で余計に払わされることもあるので、通常人は税金が発生しているのに払わないということをしない。
 また、仮に使用貸借契約ではなく贈与契約が成立していたとしても、それは負担付贈与である。XがYの生活の面倒を見るということで、甲土地が贈与されたのである。そうなると双務契約に関する規定が準用され(第553条)、Yの生活の面倒を見るという債務をXが適切に履行しなかったので、Yは本件負担付贈与契約を解除したのである(第541条)。本件ではもちろん、相当の期間を定めてその履行の催告をしていたと考えられる。
 Xが甲土地の固定資産税等を支払っていたことは、使用貸借契約であれば借用物の通常の必要費なので借主であるXが負担する(第595条第1項)のであるし、負担付贈与であればその負担の内容の一部である。

 

[設問5]
以下では弁護士職務基本規定についてその条数のみを示す。
1.報酬分配の制限(第12条)
 弁護士QがAに返金した後で、Aが自らの報酬を差し引いてYに返金するなら、報酬分配の制限(第12条)違反になる。
2.依頼者の意思の尊重(第22条)
 本件ではYの意思に基づいてQはAとやり取りしていたのであるが、少なくとも和解の内容という重要なことに関してはYの意思を確認すべきであった。依頼者が高齢のためにその意思を十分に表明できないときであっても、適切な方法を講じて依頼者の意思の確認に努める(第22条第2項)とされている。
3.処理結果の説明(第44条)・預り金等の返還(第45条)
 Qは、委任の終了に当たり、依頼者であるYに対し、事件処理の状況又はその結果に関し、必要に応じ法的助言を付して説明をしていないし、預り金の返還もしていない。これは処理結果の説明(第44条)・預り金等の返還(第45条)に違反する。

以上

 

感想

 初っ端から請求の趣旨を書けということで、慣れていないために面食らいました。ややこしかったですが、その場で考えてどうにか形にしました。

 



平成26(2014)年司法試験予備試験論文再現答案一般教養科目

問題

 エリート (選良) という言葉は,今日,両義的な意味合いで用いられる。例えば,「トップエリートの養成」というと,肯定的な含意がある。これに対して,「エリート意識が高い」というと,否定的な含意がある。エリートをどう捉えるかは,社会をどう捉えるかと同等の,極めて根源的な問題の一つである。

 「エリートとは何か」をめぐる,以下の二つの文章を読んで,後記の各設問に答えなさい。

[A] 「エリートとは何か」は,それぞれの社会の持つ歴史的・地理的な制約によって,その様相が異なる問題である。
 これに関連して, イタリアの経済学者・社会学者V.F.D.パレートは,「エリートの周流」(circulation of elites) という理論を提示している。この理論は,エリートが周期的に交替する(旧エリートが衰退し,新エリートが興隆する)ことを,一つの社会法則として提示しようとしたものである。
 パレートはこう説く。エリートは,本来,少数者(特定の階級)の利益を代表している。新エリートは,当初,(旧エリートの階級性を批判しつつ)多数者の利益を代表して登場する。しかし,旧エリートと交替すると,今度は少数者の利益を代表するようになる,と(「社会学理論のひとりの応用」1900 年による。)。

[設問1]
 [A]の文章中のパレートの理論を参照しつつ,近代社会において「学歴主義」(学歴を人の能力の評価尺度とすること)が果たしてきた役割について,15行程度で論じなさい。

[B] 現代社会(ここでは,「現代社会」という言葉を,古典的な近代社会に対して近代的な近代社会という意味内容で用いている。)が,いかなる様相を持つ社会であるかは,当該社会に生きる私たちにとって現実的な問題である。
 例えば,アメリカの経営学者P.F.ドラッカーは,「ポスト資本主義社会」という概念を提示している。
 ドラッカーはこう説く。従来の資本主義社会では,土地・労働・資本の三つが,生産の資源であった。しかし,今日のポスト資本主義社会では,知識が生産の資源になる。資本主義社会では,資本家と労働者が,中心的な階級区分であった。しかし,ポスト資本主義社会では,知識労働者とサービス労働者が中心的な階級区分になる,と(『ポスト資本主義社会』1993年による。)。
 このドラッカーの主張は,エリートとは何かを論じる目的でされたものではないが,現代社会において「エリートとは何か」を考える上で,一つの素材となり得るものである。

[設問2]
 [B]の文章中のドラッカーの主張を素材として,現代日本社会におけるエリートとは何かについて,10行程度で論じなさい。

再現答案

[設問1]
 少数者よりも多数者の利益を代表することがよいとするならば、パレートの言うところの新エリートには肯定的な含意が、旧エリートには否定的な含意があることになる。
 近代社会の初期において、学歴主義によって選ばれたエリートは、新エリートとして肯定的な役割を果たしてきたと考えられる。というのも、近代以前では身分によって人が評価されていたことに対して、その人の努力や能力を評価尺度にするという多数者の利益を代表していたからである。しかし、時を経るにつれ、学歴主義によって選ばれたエリートが、自分の子息にだけよい教育を施して階級を再生産したりその他自分たちにのみ有利な政策を実現したりすることによって、少数者の利益を代表する旧エリートになり、否定的な役割になってきている。つまり、近代社会の初期には学歴主義が肯定的な役割を果たしていたのが、時代の流れとともに、否定的な意味合いを帯びるようになってきたのである。

 

[設問2]
 現代日本社会におけるエリートとは知を有する者であり、それは肯定的にも否定的にもなり得ると私は考える。
 ドラッカーの主張を素直に読むなら、現代日本社会はポスト資本主義社会なので、知識が生産の資源になる。そこでのエリートは知を有する者である。「知識」というとお金(資本)で買えるように聞こえるので、ここでは「知」と呼ぶことにする。そしてそのエリートが肯定的な役割を果たすこともあれば、否定的な役割を果たすこともある。例えば、原子力についての知を有する者が、原子力発電所事故の際に、肯定的に、その知に基づいて人々を助けることがあるかもしれない。他方で同じような知を有する者が、自分だけ逃げることを考えたり、知を持たない人をバカにしたりするだけだったら、それは否定的である。

以上

 

感想

 一般教養科目には自信があります。時間も余りましたし、どのレベルで論じようかと考える余裕もありました。行数が指定されていることもあったので、余計なことは論じず、素直に記述することを心がけました。設問2はどうしようか一瞬迷いましたが、問題文の最初の4行(エリート(選良)という言葉は…極めて根源的な問題の一つである)が設問2にもかかっていることに気づいてからはすぐに書けました。

 



平成26(2014)年司法試験予備試験論文再現答案刑事訴訟法

問題

次の【事例】を読んで,後記〔設問〕に答えなさい。

【事 例】
 司法警察員Kらは,A建設株式会社(以下「A社」という。)代表取締役社長である甲が,L県発注の公共工事をA社において落札するため,L県知事乙を接待しているとの情報を得て,甲及び乙に対する内偵捜査を進めるうち,平成25年12月24日,A社名義の預金口座から800万円が引き出されたものの,A社においてそれを取引に用いた形跡がない上,同月25日,乙が,新車を購入し,その代金約800万円をその日のうちに現金で支払ったことが判明した。
 Kらは,甲が乙に対し,800万円の現金を賄賂として供与したとの疑いを持ち,甲を警察署まで任意同行し,Kは,取調室において,甲に対し,供述拒否権を告知した上で,A社名義の預金口座から引き出された800万円の使途につき質問したところ,甲は「何も言いたくない。」と答えた。
 そこで,Kは,甲に対し,「本当のことを話してほしい。この部屋には君と私しかいない。ここで君が話した内容は,供述調書にはしないし,他の警察官や検察官には教えない。ここだけの話として私の胸にしまっておく。」と申し向けたところ,甲はしばらく黙っていたものの,やがて「分かりました。それなら本当のことを話します。あの800万円は乙知事に差し上げました。」と話し始めた。Kが,甲に気付かれないように,所持していたICレコーダーを用いて録音を開始し,そのまま取調べを継続すると,甲は,「乙知事は,以前から,高級車を欲しがっており,その価格が約800万円だと言っていた。そこで,私は,平成25年12月24日にA社の預金口座から800万円を引き出し,その日,乙知事に対し,車両購入代としてその800万円を差し上げ,その際,乙知事に,『来月入札のあるL県庁庁舎の耐震工事をA社が落札できるよう便宜を図っていただきたい。この800万円はそのお礼です。』とお願いした。乙知事は『私に任せておきなさい。』と言ってくれた。」と供述した。Kは,甲に対し,前記供述を録音したことを告げずに取調べを終えた。
 その後,甲は贈賄罪,乙は収賄罪の各被疑事実によりそれぞれ逮捕,勾留され,各罪によりそれぞれ起訴された。第1回公判期日の冒頭手続において,甲は「何も言いたくない。」と陳述し,乙は「甲から800万円を受け取ったことに間違いないが,それは私が甲から借りたものである。」と陳述し,以後,両被告事件の弁論は分離された。

〔設 問〕
 甲の公判において,「甲が乙に対し賄賂として現金800万円を供与したこと」を立証趣旨として,前記ICレコーダーを証拠とすることができるか。その証拠能力につき,問題となり得る点を挙げつつ論じなさい。

再現答案

以下刑事訴訟法についてはその条数のみを示す。

 

1.違法収集証拠(自白の任意性)
 任意になされたものでない疑いのある自白は証拠とすることができない(第319条1項)。本件ICレコーダーには、司法警察員Kが、甲に対し、「ここだけの話として私の胸にしまっておく。」と虚偽を申し向けて、その結果甲が話し始めたことが録音されている。これは違法に集められた証拠であるので、証拠とすることはできない。
 一概に違法に集められた証拠と言っても、そのことだけで証拠能力が否定されるわけではない。しかし本件の違法は重大であり、将来的に同じような違法を繰り返さないためにも、この証拠は排斥されるべきである。

 

2.秘密録音
 本件ICレコーダーはKが甲に無断で録音したものである。しかしそれは司法警察員による取調べという公の場でのことである。仮に本件ICレコーダーの証拠能力が認められなかったとしても、Kが証人になったり、供述調書を提出することもできる。よってこれだけで本件ICレコーダーの証拠能力が排斥されるということはない。

 

3.取調べの任意性
 本件では甲が任意に同行して取調べに応じているし、供述拒否権も告知されている。よってこの取調べは原則的に適法であるが、朝から深夜まで取調べを続け、トイレに行くのにも司法警察員が同行しているような態様であったならば、事実上「何時でも退去することができる」(第198条)に反しているので、違法になり得る。その場合は1と同じ基準で違法に集められた証拠が排斥されるかどうかが判断される。

 

4.伝聞証拠(第320条1項)
 本件ICレコーダーは、「甲が乙に対し賄賂として現金800万円を供与したこと」が立証趣旨とされているので、公判期日における供述に代わる証拠(第320条第1項)に当たるので、伝聞証拠である。そうなると原則として証拠とすることができない。しかしICレコーダーは機械的な正確性でもって音声を記録するものである。記憶したり想起したりする際に内容がわい曲されることがない。よってこれを証拠とすることができる。
 ただしそれが当てはまるのは甲発言の部分のみである。乙知事の発言部分に関しては、ICレコーダーがいくら機械的に正確に録音しようとも、それが正しいとは限らない。この部分は伝聞証拠として証拠能力が排斥される。

 

 以上より、本件ICレコーダーは違法に集められたという点で、証拠能力が認められない。なお、自白の任意性は日本国憲法第38条で保障されている重要な権利であり、黙秘権や供述拒否権として刑事訴訟法の各所にも規定されているということを付け加えておく。

以上

 

感想

 設問が1つしかないのに、最初は違法収集証拠が思いついただけで、後は何を論じればよいかわかりませんでした。書いているうちに秘密録音と伝聞証拠が思いつき、どうにか盛り込みました。自白の任意性の重要さを強調するのが足りていないと感じたので最後に付け足しました。全体として自信はありません。

 

 

 



平成26(2014)年司法試験予備試験論文再現答案刑法

問題

以下の事例に基づき,甲及び乙の罪責について論じなさい(特別法違反の点を除く。)。

1 甲(28歳,男性,身長178センチメートル,体重82キログラム)は,V(68歳,男性,身長160センチメートル,体重53キログラム)が密輸入された仏像を密かに所有していることを知り,Vから,売買を装いつつ,代金を支払わずにこれを入手しようと考えた。具体的には,甲は,代金を支払う前に鑑定が必要であると言ってVから仏像の引渡しを受け,これを別の者に託して持ち去らせ,その後,自身は隙を見て逃走して代金の支払を免れようと計画した。
 甲は,偽名を使って自分の身元が明らかにならないようにして,Vとの間で代金や仏像の受渡しの日時・場所を決めるための交渉をし,その結果,仏像の代金は2000万円と決まり,某日,ホテルの一室で受渡しを行うこととなった。甲は,仏像の持ち去り役として後輩の乙を誘ったが,乙には,「ホテルで人から仏像を預かることになっているが,自分にはほかに用事があるから,仏像をホテルから持ち帰ってしばらく自宅に保管しておいてくれ。」とのみ伝えて上記計画は伝えず,乙も,上記計画を知らないまま,甲の依頼に応じることとした。
2 受渡し当日,Vは,一人で受渡し場所であるホテルの一室に行き,一方,甲も,乙を連れて同ホテルに向かい,乙を室外に待たせ,甲一人でVの待つ室内に入った。甲は,Vに対し,「金は持ってきたが,近くの喫茶店で鑑定人が待っているので,まず仏像を鑑定させてくれ。本物と確認できたら鑑定人から連絡が入るので,ここにある金を渡す。」と言い,2000万円が入っているように見せ掛けたアタッシュケースを示して仏像の引渡しを求めた。Vは,代金が準備されているのであれば,先に仏像を引き渡しても代金を受け取り損ねることはないだろうと考え,仏像を甲に引き渡した。甲は,待機していた乙を室内に招き入れ,「これを頼む。」と言って,仏像を手渡したところ,乙は,準備していた風呂敷で仏像を包み,甲からの指示どおり,これを持ってそのままホテルを出て,タクシーに乗って自宅に帰った。乙がタクシーで立ち去った後,甲は,代金を支払わないまま同室から逃走しようとしたが,Vは,その意図を見破り,同室出入口ドア前に立ちはだかって,甲の逃走を阻んだ。
3 Vは,甲が逃げないように,護身用に持ち歩いていたナイフ(刃体の長さ約15センチメートル)の刃先を甲の首元に突き付け,さらに,甲に命じてアタッシュケースを開けさせたが,中に現金はほとんど入っていなかった。Vは,甲から仏像を取り返し,又は代金を支払わせようとして,その首元にナイフを突き付けたまま,「仏像を返すか,すぐに金を準備して払え。言うことを聞かないと痛い目に合うぞ。」と言った。また,Vは,甲の身元を確認しようと考え,「お前の免許証か何かを見せろ。」と言った。
4 甲は,このままではナイフで刺される危険があり,また,Vに自動車運転免許証を見られると,身元が知られて仏像の返還や代金の支払を免れることができなくなると考えた。そこで,甲は,Vからナイフを奪い取ってVを殺害して,自分の身を守るとともに,仏像の返還や代金の支払を免れることを意図し,隙を狙ってVからナイフを奪い取り,ナイフを取り返そうとして甲につかみ掛かってきたVの腹部を,殺意をもって,ナイフで1回突き刺し,Vに重傷を負わせた。甲は,すぐに逃走したが,部屋から逃げていく甲の姿を見て不審に思ったホテルの従業員が,Vが血を流して倒れているのに気付いて119番通報をした。Vは,直ちに病院に搬送され,一命を取り留めた。
5 甲は,身を隠すため,その日のうちに国外に逃亡した。乙は,持ち帰った仏像を自宅に保管したまま,甲からの指示を待った。その後,乙は,甲から電話で,上記一連の事情を全て打ち明けられ,引き続き仏像の保管を依頼された。乙は,先輩である甲からの依頼であるのでやむを得ないと思い,そのまま仏像の保管を続けた。しかし,乙は,その電話から2週間後,金に困っていたことから,甲に無断で仏像を500万円で第三者に売却し,その代金を自己の用途に費消した。

再現答案

以下刑法についてはその条数のみを示す。

[甲の罪責]

1.詐欺罪(第246条第1項)
 甲は2000万円が入っているように見せ掛けたアタッシュケースを示しつつ仏像の鑑定をすると言ってVを欺き、その結果Vは錯誤に陥って本件仏像を甲に交付したので、詐欺罪(第246条第1項)の構成要件を満たす。Vは本件仏像の所有権を甲に移すまでの意思はなかったが、その占有を移す意思はあったので、交付したと言える。違法性阻却事由や責任能力に欠けるという事情はない。

2.強盗罪(第236条第2項)及び強盗致死傷罪(第240条)
 甲は仏像の返還や代金の支払を免れることを意図して、Vからナイフを奪い取り、それでVの腹部を突き刺して重傷を負わせた。これは反抗を抑圧するのに十分な暴行である。それにより仏像の返還又は代金の支払を免れるという財産上不法の利益を甲は得たので、強盗罪(第236条第2項)の構成要件を満たす。同時にVを負傷させているので、強盗致傷罪(第240条)の構成要件も満たす。
 しかしながら、甲に正当防衛(第36条第1項)が成立する余地がある。甲はVからナイフを首元に突き付けられたために、自分を守ろうとしてVからナイフを奪い取り、Vの腹部を突き刺した。Vは仏像の返還又は2000万円の支払を求めてナイフを甲に突き付けたのであるが、財産のために身体・生命を危険にさらしているので、不正の侵害である。甲はこのような事態を予測していなかったので急迫でもある。そして甲は自らの身体・生命という権利を防衛するためにやむを得ずナイフで刺した。周囲に人がいなかったので助けを求めることは困難であった。強盗の意図が併存していても正当防衛の成立を妨げない。ただし、これは防衛の程度を超えた行為である(第36条第2項)。例えばVの足を刺して動けなくするということでも防衛することはできた。よって過剰防衛なので、情状により、その刑を減刑し、又は免除することができる。責任能力の疑問を抱かせる事情はない。

 以上より、甲には詐欺罪と強盗罪・強盗致傷罪が成立する。しかしここで詐欺罪が保護しようとしている法益と強盗罪が保護しようとしている法益は、仏像又は2000万円の支払という同一のものであるので、詐欺罪は強盗罪に吸収される。同様に強盗罪は強盗致傷罪に吸収される。そしてそれが過剰防衛により任意的に刑の減免を受ける。

[乙の罪責]

1.盗品等保管罪(第256条第2項)
 乙は甲の財産に対する罪に当たる行為によって領得された仏像を受け取って運搬している。しかしこの時点で乙は本件仏像が財産に対する罪に当たる行為によって領得されたもの(以下盗品等とする)に当たるとは認識しておらず、故意がなかった。その後も甲から電話で一連の事情を全て打ち明けられるまでは本件仏像が盗品等であることを知らなかった。ただ、それからは盗品等であることを知りつつ仏像を保管している。これだけでも十分に財産に対する罪を助長しているので、盗品等保管罪の構成要件を満たす。先輩だからという理由だけは違法性が阻却されない。責任能力にも問題ない。

2.横領罪(第252条第1項)
 乙は、甲に無断で、仏像を500万円で第三者に売却し、その代金を自己の用途に費消した。自己の占有する他人の物を横領したことになるので単純横領罪(第252条第1項)の構成要件を満たす。本件仏像は甲が財産に対する罪に当たる行為によってVから得たものであるが、それでも一応は甲が占有していた物なので、横領になる。1と同様、違法性阻却事由や責任能力は問題とならない。

3.証拠隠滅罪(第104条)
 本件仏像は、甲という他人の刑事事件に関する証拠であり、乙はそれを第三者に売却することで隠滅しているので、証拠隠滅罪(第104条)の構成要件を満たす。

 以上より、乙には盗品等保管罪、横領罪、証拠隠滅罪が成立し、それらは併合罪になる。甲との共犯は問題にならない。

以上

 

感想

 かなり時間を使いながらもまずまず書けたとは思います。甲と乙の共犯についてはほとんど論じられなかったのが悔やまれます。甲の殺人罪の検討もできていないですね。

 




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