浅野直樹の学習日記

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平成23年司法試験論文公法系第2問答案練習

問題

〔第2問〕(配点:100〔〔設問1〕,〔設問2〕(1),〔設問2〕(2),〔設問3〕の配点の割合は,3.5:1.5:3.5:1.5〕)

 社団法人Aは,モーターボート競走の勝舟投票券の場外発売場(以下「本件施設」という。)をP市Q地に設置する計画を立て,平成22年に,モーターボート競走法(以下「法」という。)第5条第1項により国土交通大臣の許可(以下「本件許可」という。)を受けた。Aは,本件許可の申請書を国土交通大臣に提出する際に,国土交通省の関係部局が発出した通達(「場外発売場の設置等の運用について」及び「場外発売場の設置等の許可の取扱いについて」)に従い,Q地の所在する地区の自治会Rの同意書(以下「本件同意書」という。)を添付していた。本件許可がなされた直後に,Q地の近隣に法科大学院Sを設置している学校法人X1,及び自治会Rの構成員でありQ地の近隣に居住しているX2は,国に対し本件許可の取消しを求める訴え(以下「本件訴訟」という。)を提起した。本件訴訟が提起されたため,Aは,本件施設の工事にいまだ着手していない。
 Aの計画によれば,本件施設は,敷地面積約3万平方メートル,建物の延べ床面積約1万平方メートルで,舟券投票所,映像設備,観覧スペース,食堂,売店等から構成され,700台を収容する駐車場が設置される。本件施設が場外発売場として営業を行うのは,1年間に350日であり,そのうち300日はナイターが開催される。本件施設の開場は午前10時であり,ナイターが開催されない場合は午後4時頃,開催される場合は午後9時頃に,退場者が集中することになる。
 また,本件施設の設置を計画されているQ地,X2の住居,法科大学院S,及びこれらに共通の最寄り駅であるP駅の間の位置関係は,次のとおりである。Q地,X2の住居,法科大学院Sは,いずれも,P駅からまっすぐに南下する県道(以下「県道」という。)に面している。P駅の周辺には商店や飲食店が立ち並び,住民,通勤者,通学者などが利用している。P駅から県道を通って南下した場合,P駅から近い順に,法科大学院S,X2の住居,Q地が所在し,P駅からの距離は,法科大学院Sまでは約400メートル,X2の住居までは約600メートル,Q地までは約800メートルである。逆にQ地からの距離は,X2の住居までは約200メートル,法科大学院Sまでは約400メートルとなる。
 平成23年になって,本件訴訟の過程で,本件同意書について次のような疑いが生じた。自治会Rでは,X2も含めて,本件施設の設置に反対する住民が相当な数に上る。それにもかかわらず,Aによる本件施設の設置に同意することを決議した自治会Rの総会において,同意に賛成する者が123名であったのに対し,反対する者は,10名しかいなかった。これは,自治会Rの役員が,本件施設の設置に反対する住民に総会の開催日時を通知しなかったために,大部分の反対派の住民が総会に出席できなかったためではないか,という疑いである。
 国土交通大臣は,この疑いが事実であると判明した場合,次の措置を執ることを検討している。まず,Aに対し,自治会Rの構成員の意思を真に反映した再度の決議に基づく自治会Rの同意を改めて取得し,国土交通大臣に自治会Rの同意書を改めて提出するように求める(以下「要求措置」という。)。そして,Aが自治会Rの同意及び同意書を改めて取得することができない場合には,本件許可を取り消す(以下「取消措置」という。)。
 以上の事案について,P市に隣接するT市の職員は,将来T市でも同様の事態が生じる可能性があることから,弁護士に調査検討を依頼することにした。【資料1 会議録】を読んだ上で,T市の職員から依頼を受けた弁護士の立場に立って,以下の設問に答えなさい。
 なお,法及びモーターボート競走法施行規則(以下「施行規則」という。)の抜粋を【資料2 関係法令】に,関係する通達の抜粋を【資料3 関係通達】に,それぞれ掲げるので,適宜参照しなさい。

 

〔設問1〕
 本件訴訟は適法か。X1及びX2それぞれの原告適格の有無に絞って論じなさい。

 

〔設問2〕
 国土交通大臣が検討している要求措置及び取消措置について,以下の小問に答えなさい。
(1) Aが国土交通大臣に対し,要求措置に従う意思がないことを表明しているにもかかわらず,国土交通大臣がAに対し,取消措置を執る可能性を示しながら要求措置を執り続けた場合,Aは,取消措置を受けるおそれを除去するには,どのような訴えを提起するべきか。最も適法とされる見込みが高く,かつ,実効的な訴えを,具体的に二つ候補を挙げて比較検討した上で答えなさい。仮の救済は,考慮しなくてよい。
(2) Aが国土交通大臣に対し,要求措置に従う意思がないことを表明したため,国土交通大臣がAに対し取消措置を執った場合,当該取消措置は適法か。解答に当たっては,関係する法令の定め,自治会の同意を要求する通達,及び国土交通大臣がAに対し執り得る措置の範囲ないし限界を丁寧に検討しなさい。

 

〔設問3〕
 T市は,新たに条例を定めて,次のような規定を置くことを検討している。①T市の区域に勝舟投票券の場外発売場を設置しようとする事業者は,T市長に申請してT市長の許可を受けなければならない。②T市長は,場外発売場の施設が周辺環境と調和する場合に限り,その設置を許可する。
 このような条例による許可の制度が,事業者に対して実効性を持ち,また,住民及び事業者の利害を適切に調整できるようにするためには,上記①②の規定以外に,どのような規定を条例に置くことが考えられるか。また,このような条例を制定する場合に,条例の適法性に関してどのような点が問題になるか。考えられる規定の骨子及び条例の問題点を,簡潔に示しなさい。

 

【資料1 会議録】
職 員:P市は,場外舟券売場の件で大騒ぎになっていますが,我がT市にとっても他人事ではありません。公営ギャンブルの場外券売場の設置が計画される可能性は,T市にもあります。そこで,P市の事案を様々な角度から先生に検討していただいて,T市としても課題を見付け出し,将来のための備えをしたいと考えています。そのような趣旨ですから,P市の事案のいずれかの当事者や利害関係者の立場に立たずに,第三者の視点から御検討をお願いいたします。

弁護士:公営ギャンブルの場外券売場の設置許可は,刑法第187条の富くじに当たるものの発売等を適法にする法制度である点が,通常の事業の許認可とは違うところですね。私もこれまで余り調査したことがない分野ですが,検討した上で文書を作成してみましょう。

職 員:早速,まず本件訴訟についてですが,これは,適法な訴えなのでしょうか。法,施行規則,それから関係する通達を読みますと,それぞれに関係しそうな規定があるのですが,これらの規定のそれぞれが,本件訴訟の適法性を判断する上でどのような意味を持つのか,どうもうまく整理できないのです。

弁護士:問題になるのは,原告適格ですね。私の方で,法,施行規則,それから通達の関係する規定と,それらの規定が原告適格を判断する上で持つ意味を明らかにしながら,X1とX2それぞれの原告適格の有無を考えてみましょう。

職 員:お願いします。仮に本件訴訟が適法とされた場合に,本件許可が適法と判決されそうかどうかも問題ですが,今年になって,状況が大きく変わりましたので,差し当たりその問題までは検討していただかなくて結構です。

弁護士:状況が変わったとは,どういうことですか。

職 員:地元の同意書の作成プロセスについて重大な疑惑が持ち上がり,今度は,紛争が国土交通大臣とAとの間で生じる可能性が出てきたのです。Aは,裁判になって対立が激化してからもう一度地元の同意書を取ることなど無理だというので,同意を取り直すつもりがないようですが,国土交通大臣の方も,地元を軽んじる姿勢は取れないので,Aに同意書を取り直すように求め続けることが予想されます。この場合,今度は,Aが何らかの訴えを起こすことはできるのでしょうか。

弁護士:最も可能性のある訴えを検討して,具体的に挙げてみましょう。

職 員:それから,やや極端なケースを想定するのですが,地元の同意のプロセスに重大な瑕疵があった場合,国土交通大臣は,本件許可を取り消すことができるのでしょうか。この問題については,どうも私の頭が混乱しているので,いろいろ質問させてください。まず,施行規則第12条は,許可の基準として地元の同意とは規定していないのですが,そもそも,この条文に定められた基準以外の理由で,許可を拒否できるのですか。

弁護士:関係法令をよく検討して,お答えすることにします。

職 員:よろしくお願いします。付け加えますと,地元の同意と定めているのは,国土交通省の通達の方であり,これもそもそもの話になるのですが,このような通達に定められたことを理由にして,許可を拒否してよいのですか。この点も教えていただければと思います。

弁護士:問題となっている通達の法的な性格をはっきりと説明するように,文書にまとめてみます。

職 員:通達の中身について言いますと,地元の同意を重視している点は,自治体の職員としてはとてもよく理解できます。ただ,許可の取消しという措置まで執ることができるのかと問われると,自信を持って答えられないのです。

弁護士:法律家から見ますと,地元の同意を重視する行政手法には,問題点もありますね。国土交通大臣が本件許可の申請に際して地元自治会の同意を得ておくように求める行政手法の意義と問題点を,まとめておきましょう。その上で,疑惑が事実であると仮定して,国土交通大臣は,Aに対してどこまでの指導,処分といった措置を執ることができるのか,執り得る措置の範囲ないし限界についても綿密に検討しておきます。

職 員:今言われた「処分」について詳しく伺いたいのですが,仮に,地元自治会の同意がない場合に,国土交通大臣が申請に対して不許可処分をする余地が多かれ少なかれあるという考え方を採ると,一度許可をした後で許可を取り消す処分もできることになるのでしょうか。

弁護士:そこまで考えて,ようやく答えが出ますね。全体を順序立てて文書にまとめてみます。

職 員:助かります。それでやっと,我がT市の話になるのですが,T市の区域で場外舟券売場を設置しようとする事業者が現れた場合,国が定めた法令や通達の基準だけで設置を認めるのでは,不十分であると考えています。T市としては,調和のとれた街づくりをするために,場外舟券売場が周辺環境と調和するかをしっかりと審査して,市長が調和しないと判断した場合には,設置をやめていただく制度を作りたいと考えています。このような制度を条例で定める場合に,配慮すべき点を教えていただければ幸いです。

弁護士:解釈論だけでなく,立法論も大事ですからね。簡潔にまとめておきましょう。

 

【資料2 関係法令】
○ モーターボート競走法(昭和26年6月18日法律第242号)(抜粋)
(趣旨)
第1条 この法律は,モーターボートその他の船舶,船舶用機関及び船舶用品の改良及び輸出の振興並びにこれらの製造に関する事業及び海難防止に関する事業その他の海事に関する事業の振興に寄与することにより海に囲まれた我が国の発展に資し,あわせて観光に関する事業及び体育事業その他の公益の増進を目的とする事業の振興に資するとともに,地方財政の改善を図るために行うモーターボート競走に関し規定するものとする。
(競走の施行)
第2条 都道府県及び人口,財政等を考慮して総務大臣が指定する市町村(以下「施行者」という。)は,その議会の議決を経て,この法律の規定により,モーターボート競走(以下「競走」という。)を行うことができる。
2~4 (略)
5 施行者以外の者は,勝舟投票券(以下「舟券」という。)その他これに類似するものを発売して,競走を行つてはならない。
(競走場の設置)
第4条 競走の用に供するモーターボート競走場を設置し又は移転しようとする者は,国土交通省令で定めるところにより,国土交通大臣の許可を受けなければならない。
2~4 (略)
5 国土交通大臣は,必要があると認めるときは,第1項の許可に期限又は条件を附することができる。
6 国土交通大臣は,第1項の許可を受けた者(以下「競走場設置者」という。)が1年以上引き続き同項の許可を受けて設置され若しくは移転されたモーターボート競走場(以下「競走場」という。)を競走の用に供しなかつたとき,又は競走場の位置,構造及び設備がその許可の基準に適合しなくなつたと認めるときは,同項の許可を取り消すことができる。
7,8 (略)
(場外発売場の設置)
第5条 舟券の発売等の用に供する施設を競走場外に設置しようとする者は,国土交通省令で定めるところにより,国土交通大臣の許可を受けなければならない。当該許可を受けて設置された施設を移転しようとするときも,同様とする。
2 国土交通大臣は,前項の許可の申請があつたときは,申請に係る施設の位置,構造及び設備が国土交通省令で定める基準に適合する場合に限り,その許可をすることができる。
3 競走場外における舟券の発売等は,第1項の許可を受けて設置され又は移転された施設(以下「場外発売場」という。)でしなければならない。
4 前条第5項及び第6項の規定は第1項の許可について,同条第7項及び第8項の規定は場外発売場及び場外発売場設置者(第1項の許可を受けた者をいう。以下同じ。)について,それぞれ準用する。
(競走場内等の取締り)
第22条 施行者は,競走場内の秩序(場外発売場において舟券の発売等が行われる場合にあつては,当該場外発売場内の秩序を含む。)を維持し,かつ,競走の公正及び安全を確保するため,入場者の整理,選手の出場に関する適正な条件の確保,競走に関する犯罪及び不正の防止並びに競走場内における品位及び衛生の保持について必要な措置を講じなければならない。
(競走場及び場外発売場の維持)
第24条 (略)
2 場外発売場設置者は,その場外発売場の位置,構造及び設備を第5条第2項の国土交通省令で定める基準に適合するように維持しなければならない。
(秩序維持等に関する命令)
第57条 国土交通大臣は,競走場内又は場外発売場内の秩序を維持し,競走の公正又は安全を確保し,その他この法律の施行を確保するため必要があると認めるときは,施行者,競走場設置者又は場外発売場設置者に対し,選手の出場又は競走場若しくは場外発売場の貸借に関する条件を適正にすべき旨の命令,競走場若しくは場外発売場を修理し,改造し,又は移転すべき旨の命令その他必要な命令をすることができる。
(競走の開催の停止等)
第58条 (略)
2 国土交通大臣は,競走場設置者若しくは場外発売場設置者又はその役員が,この法律若しくはこの法律に基づく命令若しくはこれらに基づく処分に違反し,又はその関係する競走につき公益に反し,若しくは公益に反するおそれのある行為をしたときは,当該競走場設置者又は当該場外発売場設置者に対し,その業務を停止し,若しくは制限し,又は当該役員を解任すべき旨を命ずることができる。
3 (略)
(競走場等の設置等の許可の取消し)
第59条 国土交通大臣は,競走場設置者又は場外発売場設置者が前条第2項の規定による命令に違反したときは,当該競走場又は当該場外発売場の設置又は移転の許可を取り消すことができる。

 

○ モーターボート競走法施行規則(昭和26年7月9日運輸省令第59号)(抜粋)
(場外発売場の設置等の許可の申請)
第11条 法第5条第1項の規定により場外発売場の設置又は移転の許可を受けようとする者は,次に掲げる事項を記載した申請書を国土交通大臣に提出しなければならない。
一 申請者の氏名又は名称及び住所並びに法人にあつては代表者の氏名
二 場外発売場の設置又は移転を必要とする事由
三 場外発売場の所在地
四 場外発売場の構造及び設備の概要
五 場外発売場を中心とする交通機関の状況
六 場外発売場の建設費の見積額及びその調達方法
七 場外発売場の建設工事の開始及び完了の予定年月日
八 その他必要な事項
2 前項の申請書には,次に掲げる書類を添付しなければならない。
一 場外発売場付近の見取図(場外発売場の周辺から1000メートルの区域内にある文教施設及び医療施設については,その位置及び名称を明記すること。)
二 場外発売場の設備の構造図及び配置図(1000分の1以上の縮尺による。)
三 申請者が当該施設を使用する権原を有するか,又はこれを確実に取得することができることを証明する書類
四 場外発売場の経営に関する収支見積書
五 施行者の委託を受けて舟券の発売等を行う予定であることを証明する書類
(場外発売場の設置等の許可の基準)
第12条 法第5条第2項の国土交通省令で定める基準(払戻金又は返還金の交付のみの用に供する施設及び設備の基準を除く。)は,次のとおりとする。
一 位置は,文教上又は衛生上著しい支障をきたすおそれのない場所であること。
二 構造及び設備が入場者を整理するため適当なものであること。
三 競走の公正かつ円滑な運営に必要な次に掲げる施設及び設備を有していること。
イ 舟券の発売等の用に供する施設及び設備
ロ 入場者の用に供する施設及び設備
ハ その他管理運営に必要な施設及び設備
四 (略)
2 (略)

 

【資料3 関係通達】
○ 場外発売場の設置等の運用について(平成20年2月15日付け国海総第136号海事局長から各地方運輸局長,神戸運輸監理部長あて通達)(抜粋)
7 場外発売場設置予定者は,設置許可申請書に省令第2条の7(注1)第2項に定める書類のほか,地元との調整がとれていることを証明する書類及び管轄警察の指導の内容が反映されていることを証明する書類並びに建築確認申請書の写しを添付すること。
(注1)【資料2 関係法令】に掲げる現行のモーターボート競走法施行規則第11条を指す。以下「省令」とは現行のモーターボート競走法施行規則を指す。

 

○ 場外発売場の位置,構造及び設備の基準の運用について(平成20年2月15日付け国海総第139号海事局長から各地方運輸局長,神戸運輸監理部長あて通達)(抜粋)
1 場外発売場の基準
場外発売場の基準の運用については,次のとおりとする。
⑴ 位置(省令第12条第1項第1号)
① 「文教上著しい支障をきたすおそれがあるか否か」の判断は,文教施設から適当な距離を有している,当該設置場所が主たる通学路(学校長が児童又は生徒の登下校の交通安全の確保のために指定した小学校又は中学校の通学路をいう。)に面していないなど総合的に判断して行う。
② 「衛生上著しい支障をきたすおそれがあるか否か」の判断は,医療施設から適当な距離を有している,救急病院又は救急診療所(都道府県知事が救急隊により搬送する医療機関として認定したものをいう。)への救急車の主たる経路に面していないなど総合的に判断して行う。
③ 文教施設とは,学問又は教育を行う施設であり,学校教育法第1条の学校(小学校,中学校,高等学校,中等教育学校,大学,高等専門学校,盲学校,聾学校,養護学校及び幼稚園)及び同法第82条の2の専修学校をいう。
④ 医療施設とは,医療法第1条の5第1項の病院及び同条第2項の診療所(入院施設を有するものに限る。)をいう。
⑤ 「適当な距離」とは,著しい影響を及ぼさない距離をいい,場外発売場の規模,位置,道路状況,周囲の地理的要因等により大きく異なる。
⑵~⑸ (略)

 

○ 場外発売場の設置等の許可の取扱いについて(平成20年3月28日付け国海総第513号海事局総務課長から各地方運輸局海事振興部長,北陸信越運輸局海事部長,神戸運輸監理部海事振興部長あて通達)(抜粋)
7 局長通達(注2)7の「地元との調整がとれていること」とは,当該場外発売場の所在する自治会等の同意,市町村の長の同意及び市町村の議会が反対を議決していないことをいう。
(注2)前記の平成20年2月15日付け国海総第136号「場外発売場の設置等の運用について」を指す

 

練習答案

[設問1]
 X1には原告適格が認められ、X2には認められないので、本件訴訟はX1に限って適法である。
 本件訴訟で取消しを求められている本件許可は国がAを名宛人として行ったものであり、X1もX2も本件許可という処分の相手方以外の者である。そのような者の原告適格は、当該処分の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮するものとされる(行政事件訴訟法9条2項)。
 本件許可処分の根拠となる法令はモーターボート競走法(以下「法」とする)であり、その趣旨は、海に囲まれた我が国の発展、観光、体育、その他公益の増進を目的とする事業の振興、地方財政の改善である(法1条)。しかし、当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌するものとされているので(行政事件訴訟法9条2項)、法と目的を共通にする関係法令であるモーターボート競争法施行規則(以下「規則」とする)を参酌すると、文教上又は衛生上著しい支障をきたさないこともその趣旨に含まれる(規則12条1項1号)。衛生上の支障とは医療施設に関するもので本件では関係ないが、文教上の支障とは大学など文教施設から適当な距離を有しているかなどから判断される(平成20年2月15日付け国海総第139号通達)。もしこのまま本件施設が設置されたら、本件施設と最寄りのP駅からちょうど400mずつ離れている法科大学院Sでは静穏な環境で学習や教育ができなくなる恐れがある。本件施設は面積や駐車場の収容台数から数千人から数万人を収容することが想定され、ほぼ1年中営業されるので、静穏な環境が害される程度も大きいと見込まれる。
 以上より、そのような法科大学院Sを設置しているX1には原告適格が認められる。Q地の近隣に居住しているX2には原告適格が認められない。

 

[設問2]
 (1)
 本件要求措置は名宛人であるAの権利義務に直接関係しないので処分ではなく行政指導(行政手続法2条6号)であり、これそのものの取消しを求めることはできない。よってその後に予想される取消措置(これはAの権利義務に直接関係するので処分である)の差止めの訴え(行政事件訴訟法3条7項)か、Aが本件施設を設置することができる地位にあることを確認する当事者訴訟(行政事件訴訟法4条)の2つの候補が考えられる。
 訴訟要件はどちらの場合も満たしている。前者では、一定の処分(取消措置)がされることにより重大な損害を生ずるおそれがある場合に限られているが(行政事件訴訟法第37条の4第1項)、本件では工事こそ未着工なものの各種の申請やA内部や関係機関との調整は既になされているだろうから、重大な損害を生ずるおそれがある。一度許可したものを取消すという事情も考慮されるべきである。後者では行政事件訴訟法に要件の定めがないので、民事訴訟の例による(行政事件訴訟法7条)。確認訴訟では紛争の成熟性と対象選択の適切性が求められるが、本件ではどちらも条件を満たす。両者とも補充性の要件があるが、どちらかが認められれば他方は認められないというものであり、ここでは決め手にならない。
 実効性の観点からは前者が優れている。というのも、争う範囲が取消措置という処分に絞られているからである。後者であればあらゆる事情を考慮して判断されなければならない。
 以上より、Aは、取消措置という処分の差止めの訴えを提起すべきである。
 (2)
 国土交通大臣がAに対して執った取消措置は、法59条に基づいており、さらに遡ると法58条2項の、この法律若しくはこの法律に基づく命令若しくはこれらに基づく処分に違反したというものである。具体的に言うと、場外発売場の設置許可に係る法5条1項及び規則11条である。
 そのどちらにも自治会の同意を要求する文言はないのでAはどちらにも違反しておらず、本件取消措置は違法であるという反論があるかもしれない。しかしそもそも場外発売場の設置許可は「国土交通大臣は、(中略)許可をすることができる」(法5条2項)のであり、そこには一定の裁量が認められる。自治会の同意を要求する通達はこの裁量の範囲内である。よって最初から自治会の同意がなかったとしたら、国土交通大臣は不許可処分をする余地があったわけである。
 そうだとしても一度許可したものを取消すのは話が別だというAからの反論があり得る。しかしAは欺くような手法で自治会の同意があるように見せかけたのだから、そのようにして得られた許可を特別に保護する理由はない。もしこれを認めてしまうと、どのような手段を使ってでも最初の申請をクリアすればよいという考えを助長してしまう。
 以上より本件取消措置は適法である。

 

[設問3]
 設問にあるような条例による許可の制度が、事業者に対して実効性を持ち、また、住民及び事業所の利害を適切に調整できるようにするためには、①②の規定以外に、設置場所に関する規定を条例に置くことが考えられる。具体的には、一定の住宅地には設置してはいけないといった規定である。
 このような条例を制定する場合に、法律に抵触しないかが問題になる。地方公共団体は、法律の範囲内で条例を制定することができる(日本国憲法94条)と定められているからである。本件条例は法に上乗せするような規定を設けているので、そのような条例が法律の範囲内と言えるかが問題点になる。

以上

 

修正答案

[設問1]
 X1には原告適格が認められ、X2には認められないので、本件訴訟はX1に限って適法である。
 本件訴訟で取消しを求められている本件許可は国土交通大臣がAを名宛人として行ったものであり、X1もX2も本件許可という処分の相手方以外の者である。そのような者の原告適格を判断する際には、当該処分の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮するものとされる(行政事件訴訟法9条2項)。そこで一般的公益に解消されない個々人の個別的利益が保護されていれば、その者は当該処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有すると言えるのである。
 本件許可処分の根拠となる法令はモーターボート競走法(以下「法」とする)であり、その趣旨は、海に囲まれた我が国の発展、観光、体育、その他公益の増進を目的とする事業の振興、地方財政の改善である(法1条)。しかし、当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌するものとされているので(行政事件訴訟法9条2項)、法と目的を共通にする関係法令であるモーターボート競争法施行規則(以下「規則」とする)を参酌すると、文教上又は衛生上著しい支障をきたさないこともその趣旨に含まれる(規則12条1項1号)。衛生上の支障とは医療施設に関するもので本件では関係ないが、文教上の支障とは大学など文教施設から適当な距離を有しているかなどから判断される(平成20年2月15日付け国海総第139号通達)。通達は関係法令には含まれないが、関係法令を解釈するための材料として用いることが禁止されているわけではない。そして文教施設からの適当な距離の一つの目安は1000メートルである(規則11条2項1号)。もしこのまま本件施設が設置されたら、本件施設と最寄りのP駅からちょうど400mずつ離れている法科大学院Sでは静穏な環境で学習や教育、つまりX1による想定された業務ができなくなる恐れがある。本件施設は面積や駐車場の収容台数から数千人から数万人を収容することが想定され、ほぼ1年中営業されるので、静穏な環境が害される程度も大きいと見込まれる。
 本件施設は近隣住民に騒音等をもたらすおそれがあるが、当該法令や関係法令にそうした近隣住民を個別的に保護する規定は見当たらず、X2のような近隣住民が当該処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有するとは言えない。X2はQ地の所在する地区の自治会Rの構成員でもあるが、自治会やその構成員の利益を個別的に保護する規定も関係法令にはないので(前述のように通達そのものは関係法令ではない)、その線からもX2の原告適格は認められない。
 以上より冒頭の結論となる。

 

[設問2]
 (1)
 本件要求措置は名宛人であるAの権利義務に直接関係しないので処分ではなく行政指導(行政手続法2条6号)であり、これそのものの取消しを求めることはできない。よってその後に予想される取消措置(これはAの権利義務に直接関係するので処分である)の差止めの訴え(行政事件訴訟法3条7項)か、Aが本件要求措置に従う義務のないことを確認する当事者訴訟(行政事件訴訟法4条)の2つの候補が考えられる。
 訴訟要件はどちらの場合も満たしていると考えられる。前者では、一定の処分(取消措置)がされることにより重大な損害を生ずるおそれがある場合に限られているが(行政事件訴訟法第37条の4第1項)、本件では工事こそ未着工なものの各種の申請やA内部や関係機関との調整は既になされているだろうから、重大な損害を生ずるおそれがある。一度許可したものを取消すという事情も考慮されるべきである。後者では行政事件訴訟法に要件の定めがないので、民事訴訟の例による(行政事件訴訟法7条)。確認訴訟では紛争の成熟性と対象選択の適切性が求められるが、本件ではどちらも条件を満たす。両者とも補充性の要件があるが、どちらかが認められれば他方は認められないというものであり、ここでは決め手にならない。
 実効性の観点からは前者が優れている。というのも、前者で勝訴すれば取消措置という処分そのものが禁止されるのでAとしては安心できるのに対し、後者で勝訴したとしても本件要求措置に従う義務のないことが確認されるだけで、その他の理由で取消措置を受ける可能性が残るからである。
 以上より、Aは、取消措置という処分の差止めの訴えを提起すべきである。
 (2)
 国土交通大臣がAに対して執った取消措置は、瑕疵ある行政処分の職権取消である。適法な行政処分を事後的に撤回する場合とは異なり、職権取消では本来なされるべきではなかった処分がなされた後にそれを取消して本来あるべき姿に戻すのであるから、法律の定めがなくてもこれを行うことができる。
 そこで始めに、地元の同意がないことを理由として本件施設の設置許可申請を拒否するべきであったかを検討する。場外発売場の設置許可は「国土交通大臣は、(中略)許可をすることができる」(法5条2項)のであり、そこには一定の裁量が認められる。公営ギャンブルの場外券売場の設置許可は、刑法第187条の富くじに当たるものの発売等を適法にする法制度である点(もともと禁止されていることを特別に許可するのであって申請をすれば当然に許可されるべき性質のものではないという点)からもこの裁量は裏付けられる。裁量権を濫用してはならないが、地方自治体が行う事業に関して、地元の同意がないことを、許可を拒否するための一つの考慮要素とすることは不適当ではない。
 しかし、だからといって、自治会の同意書を提出しなければ即拒否されるというわけではない。自治会の同意を要求しているのは通達であり、通達は直接外部に対し拘束力を持つものではないからである。地元と誠実に協議したが自治会の同意書を提出することができなかったような場合に、許可をする余地がないわけではない。本件ではそうした事情はなく、むしろ疑惑が事実であるならばAの地元との協議姿勢は不誠実である。よって本件施設の設置許可申請があった時点で、Aが地元と誠実に協議してないことを国土交通大臣が知っていたら、裁量の範囲内で拒否されるべきであった。
 このような理由で職権取消ができたとしても、瑕疵を治癒すべくその前に行政指導を行うことがあり得る。本件の要求措置がそれである。この場合は行政指導に従わなかったことを理由とした不利益取扱いではないので、行政手続法32条2項に抵触しない。
 始めの設置許可を拒否すべきであったとしても、一度許可したものを取消すのは話が別であり、無制限にこれが許されるわけではないというAからの反論があり得る。処分の名宛人の期待や法的安定性を犠牲にしてまで職権取消をすべきではないという反論である。しかし疑惑が事実であるならAは欺くような手法で自治会の同意があるように見せかけたのだから、そのようにして得られた許可を特別に保護する理由はない。もしこれを認めてしまうと、どのような手段を使ってでも最初の申請をクリアすればよいという考えを助長してしまう。
 以上より本件取消措置は適法である。

 

[設問3]
 設問にあるような条例による許可の制度が、事業者に対して実効性を持ち、また、住民及び事業者の利害を適切に調整できるようにするためには、①②の規定以外に、条例に違反した場合に事業者に課す罰則規定や、許可申請に先立って住民その他利害関係者や専門家が参加する協議会の開催を事業者に義務づける規定を置くことが考えられる。
 このような条例を制定する場合に、法律に抵触しないかが問題になる。地方公共団体は、法律の範囲内で条例を制定することができる(日本国憲法94条)と定められているからである。法律に抵触しないかを判断する際には、法律と条例の趣旨・目的を考えることになる。また、条例で罰則を設けることに関しては、2年以下の懲役若しくは禁錮、100万円以下の罰金、拘留、科料若しくは没収の刑又は5万円以下の過料を科する旨の規定であれば可能である(地方自治法14条3項)。

以上

 

 

感想

[設問1]では通達が関係法令に含まれるかを明記せずにごまかすなど雑な記述でした。[設問2]の(1)は処分の差止め訴訟と当事者訴訟の確認訴訟という2つを思いつくことができたのはよかったですが、重大な損害を生ずるおそれを肯定してもよいものか迷います。(2)は職権取消という発想がなかったのでひどい答案を書いてしまいました。[設問3]も設問の指示に従った案を出せなかったのが悔やまれます。

 

 



平成23年司法試験論文公法系第1問答案練習

問題

〔第1問〕(配点:100)
 インターネット上で地図を提供している複数の会社は,公道から当該地域の風景を撮影した画像をインターネットで見ることができる機能に基づくサービスを提供している。ユーザーが地図上の任意の地点を選びクリックすると,路上風景のパノラマ画像(以下「Z機能画像」という。)に切り替わる。
 Z機能画像は,どの会社の場合もほぼ共通した方法で撮影されている。公道を走る自動車の屋根に高さ2メートル80センチ前後(地上約4メートル)の位置にカメラを取付け,3次元方向のほぼ全周(水平方向360度,上下方向290度)を撮影している。そのために,Z機能画像では,路上にいる人の顔,通行している車のナンバーや家の表札も映し出される。さらに,各家の塀を越えた高さから撮影するので,庭にいる人や庭にある物ばかりでなく,家の中の様子までもが映し出される場合がある。また,上下方向290度を撮影していることから,マンションの上の方の階のベランダにいる人やそこに置いてある物も映し出される場合がある。これにより個人が特定され得るばかりでなく,庭,ベランダ,室内等に置いてある物から,そこに住む人の家族構成や生活ぶりが推測され得る。さらに,このような情報は,犯罪を企む者に悪用されるおそれもあり得る。しかしながら,会社側は,事前にZ機能画像の撮影日時や場所を住民に周知する措置を採っていなかった。
 インターネット上で提供されるZ機能画像が惹起するプライバシーの問題に関して,会社側は,基本的には,公道から見えているものを映しているだけであり,言わば誰もが見ることのできるものなので,プライバシー侵害とはいえない,と主張している。特にX社は,以下のように,より積極的にZ機能画像が提供する情報の価値を主張している。まず,その情報は,ユーザー自身がそこを実際に歩いている感覚で画像を見ることができるので,ユーザーの利便性の向上に役立つ。また,それは,不動産広告が誇大広告であるか否かを画像を見て確かめることによって詐欺被害を未然に防止できるなど,社会的意義を有する。
 ところで,Z機能画像をめぐっては,個人を特定されないことや生活ぶりをのぞかれないことをめぐる問題ばかりでなく,次のような問題も生じている。Z機能画像には,公道上であっても,その場所にいることやそこでの行動を知られたくない人にとっては,公開されたくない画像が大量に含まれている。また,ドメスティック・バイオレンスからの保護施設など,公開されては困る施設も映されている。加えて,路上や公園で遊ぶ子供が映されていることで,誘拐等の誘因になるのではないかと案ずる親もいる。さらに,インターネット上に公開されたZ機能画像の第三者による二次的利用が,頻繁に見られるようになっている。
 こういう中,Z機能画像をインターネット上に提供することの中止を求める声が高まってきた。
 20**年に,国会は,「特定地図検索システムによる情報の提供に伴う国民の被害の防止及び回復に関する法律」(以下「法」という。)を制定した【参考資料】。法は,システム提供者に対し,Z機能画像をインターネット上に掲載する前に,A大臣に届け出ることを求めている(法第6条参照)。また,法は,システム提供者が遵守すべき事項を規定している(法第7条参照)。A大臣は,Z機能画像の提供によって被害を受けた者からの申立てがあったときは,法に定める手続に従って被害の回復のための措置を講じることとされている(法第8条参照)。
 法が制定されてから,多くの会社は,法の定める遵守事項を守り,また個別の苦情に応じて必要な修正を施している。X社も,人の顔や表札など特定個人を識別することのできる情報と車のナンバープレートについてはマスキングを施し,車載カメラの高さも法が定める高さに改めた。しかし,X社は,家の中の様子など生活ぶりがうかがえるような画像については,法で具体的に明記されていないとして,修正しなかった。数件の申立てに応じて,X社に対して,そのような画像に必要な修正をすることを求める改善勧告がなされた。しかし,X社は,それらの修正を行わなかった。その結果,X社は,A大臣から,行政手続法の定める手続に従って,特定地図検索システムの提供の中止命令を受けた。

 

〔設問1〕
 あなたがX社から依頼を受けた弁護士である場合,どのような訴訟を提起するか。そして,その訴訟において,どのような憲法上の主張を行うか。憲法上の問題ごとに,その主張内容を書きなさい。

 

〔設問2〕
 設問1における憲法上の主張に関するあなた自身の見解を,被告側の反論を想定しつつ,述べなさい。

 

【参考資料】特定地図検索システムによる情報の提供に伴う国民の被害の防止及び回復に関する法律
第1章 総則
(目的)
第1条 この法律は,特定地図検索システムによる情報の提供が,インターネットの普及その他社会経済情勢の変化に伴うコンテンツに対する需要の高度化及び多様化に対応した利用者の利便の増進に寄与するものであることに留意しつつ,当該情報の提供に伴い個人に関する情報が公にされることによる被害から適確に国民を保護することの緊要性に鑑み,当該被害の防止及び回復に関し,基本理念を定め,国及びシステム提供者の責務を明らかにするとともに,システム提供者の遵守事項,被害回復のための措置,被害回復委員会の設置その他必要な事項を定めることにより,国民生活の安全と平穏の確保に資することを目的とする。
(定義)
第2条 この法律において,次の各号に掲げる用語の意義は,当該各号に定めるところによる。
一 特定地図検索システム インターネットを通じて不特定又は多数の者に提供される地図に関する情報の検索システムであって,文字,記号その他の符号又は航空写真を用いて表現される情報提供の機能を補完するための機能として,画像の情報を提供するZ機能を有するものをいう。
二 Z機能 地図に対応する道路,建築物,工作物等及びその周辺の状況を路上等を移動する車両に設置した水平方向に360度回転するカメラにより撮影した画像の情報を,電磁的方式(電子的方式,磁気的方式その他の人の知覚によっては認識することができない方式をいう。)によりインターネットを通じて不特定又は多数の者に提供するための機能をいう。
三 システム提供者 インターネットを通じて特定地図検索システムを提供する事業を営む者をいう。
四 個人識別情報 個人に関する情報であって,特定の個人を識別することができるもの(他の情報と容易に照合することができ,それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)をいう。
五 個人自動車登録番号等 個人の所有する自動車に係る道路運送車両法(昭和26年法律第185号)の規定による自動車登録番号又は車両番号をいう。
六 個人権利利益侵害情報 個人識別情報及び個人自動車登録番号等以外の個人に関する情報であって,公にすることにより,個人の権利利益を害するおそれのあるものをいう。
(基本理念)
第3条 特定地図検索システムによる情報の提供に伴う国民の被害の防止及び回復のために講ずべき措置は,Z機能の特性に鑑み,当該情報の提供が国民の生活の安全と平穏に重大な被害を及ぼすおそれがあり,かつ,国民自らその被害を回復することが著しく困難であることを踏まえ,国の関与により,その被害を適確に防止するとともに,現に発生している被害を迅速に回復することが極めて重要であるという基本的認識の下に,行われなければならない。
(国の責務)
第4条 国は,前条に定める基本理念にのっとり,特定地図検索システムによる情報の提供に伴う国民の被害の防止及び回復に関する施策を総合的に策定し,及び実施する責務を有する。
(システム提供者の責務)
第5条 システム提供者は,特定地図検索システムによる情報の提供に伴う国民の被害の防止及び回復について第一義的責任を有していることを認識し,その提供すべき画像の撮影及び編集,インターネットによる当該情報の公開及び管理その他の各段階において,自らその被害の防止及び回復のために必要な措置を講じる責務を有する。
第2章 被害の防止及び回復に関する措置
(提供開始の届出)
第6条 システム提供者は,インターネットにより特定地図検索システムを提供しようとするときは,あらかじめ,その旨及びその内容をA大臣に届け出なければならない。その内容を変更しようとするときも,同様とする。
(遵守すべき事項)
第7条 システム提供者は,特定地図検索システムによる情報の提供に伴う国民の被害の防止及び回復のために必要な次に掲げる事項を遵守しなければならない。
一 提供すべき画像の撮影に当たっては,これに用いるカメラを地上から1メートル60センチメートルの高さを超える位置に設置してはならないこと。
二 提供すべき画像に個人識別情報若しくは個人自動車登録番号等又は個人権利利益侵害情報が含まれている場合には,特定の個人若しくは個人自動車登録番号等を識別することができないよう,又は個人の権利利益を害するおそれをなくすよう,画像の修正その他の改善のために必要な措置をとらなければならないこと。
三 インターネットにより提供した画像に個人識別情報若しくは個人自動車登録番号等又は個人権利利益侵害情報が含まれていたことが判明した場合には,特定の個人若しくは個人自動車登録番号等を識別することができないよう,又は個人の権利利益を害するおそれをなくすよう,画像の修正その他の改善のために必要な措置をとらなければならないこと。この場合において,改善のために必要な措置をとることができないときは,インターネットによる特定地図検索システムの提供を中止しなければならないこと。
四 提供すべき画像の撮影又はインターネットにより画像を提供するに当たっては,適時かつ適切な方法で,対象となる地域の住民に対する周知の措置を講じるよう努めること。
五 特定地図検索システムによる情報の提供に伴う被害に関し,苦情等の申出があった場合には,当該申出に対し適切な措置を講じるよう努めること。
六 前各号に掲げるもののほか,特定地図検索システムによる情報の提供に伴う国民の被害の防止及び回復のために必要な事項として政令で定めるもの
(被害回復措置)
第8条 A大臣は,特定地図検索システムによる情報の提供により被害を受けた者から申立てがあったときは,措置を講じる必要が明らかにないと認める場合を除き,当該申立てに係る被害及びこれと同種の被害を回復するために必要な措置について,被害回復委員会に諮問しなければならない。
2 A大臣は,前項の規定による諮問に対する答申があった場合において,同項の申立てに係る被害及びこれと同種の被害を回復するため必要があると認めるときは,システム提供者に対し,画像の修正その他の提供に係る情報の改善のために必要な措置をとるべき旨を勧告することができる。
3 A大臣は,前項の規定による勧告を受けた者が,正当な理由がなくてその勧告に係る措置をとらなかった場合において,第1項の申立てに係る被害及びこれと同種の被害を回復するため特に必要があると認めるときは,その者に対し,その勧告に係る措置の実施又はインターネットによる特定地図検索システムの提供の中止を命ずることができる。
4 A大臣は,前項の規定による命令をしたときは,その旨を公表しなければならない。
第3章 被害回復委員会
(委員会の設置)
第9条 A省に,被害回復委員会(以下「委員会」という。)を置く。
(所掌事務)
第10条 委員会は,次に掲げる事務をつかさどる。
一 第8条第1項の規定による諮問に応じて,調査審議し,A大臣に対し,必要な答申をすること。
二 特定地図検索システムによる情報の提供に伴う国民の被害の防止及び回復のために国が講ずべき施策について,A大臣に意見を述べること。
2 委員会は,その所掌事務を遂行するため必要があると認めるときは,A大臣に対し,資料の提出,説明その他必要な協力を求めることができる。
3 A大臣は,第1項第一号の答申に基づき講じた措置について,委員会に報告しなければならない。
(組織等)
第11条 委員会は,委員10人をもって組織する。
2 委員は,優れた識見を有する者のうちから,A大臣が任命する。
3 委員の任期は,3年とする。
4 その他委員会の組織及び運営に関し必要な事項は,政令で定める。

 

練習答案

以下日本国憲法についてはその条数のみを示す。

 

[設問1]
 私がX社から依頼を受けた弁護士である場合、X社がA大臣から受けた、特定地図検索システムの提供の中止命令という処分の取消しの訴え(行政事件訴訟法3条2項)を提起する。あわせて執行停止(行政事件訴訟法25条)も申立てる。そして以下のような憲法上の主張を行う。
 1.営業の自由(22条1項)
 何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する(22条1項)。職業選択の自由を有するということは、その職業に必然的に付随する営業の自由も有するということである。また、現代においては営業活動が法人を通じて行われることも多いが、日本国憲法の人権規定は性質上可能な限り法人にも適用されるべきであり、法人も営業の自由を有する。X社はおそらく法人であろうが、営業の自由を有するのである。X社がA大臣から受けた、特定地図検索システムの提供の中止命令は、そのX社の営業の自由を侵害するものであり、違憲である。
 2.表現の自由(21条1項)
 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する(21条1項)と定められている。この表現の自由も法人にも保障されるべきものである。X社による特定地図検索システムの提供は、「集会、結社及び言論、出版」には含まれないかもしれないが、少なくとも「その他一切の表現」には含まれる。ある表現をそもそも表現に当たらないとして規制するようなことがあってはいけないので、「その他一切の表現」には文字通りおよそ全ての表現を含めるべきである。現にX社の特定地図検索システムは、各ユーザーが任意の場所から見える風景を見て詐欺被害を未然に防止できたほうがよいという思想の表れだとも解釈できる。本件中止命令は、こうしたX社の表現の自由を規制するものであり、違憲である。

 

[設問2]
 1.被告側の反論
 A大臣によるX社への、特定地図検索システムの提供中止命令は、公共の福祉という観点からなされたものであり、違憲ではない。
 営業の自由(職業選択の自由)に関しては「公共の福祉に反しない限り」という留保が付されている。表現の自由にはそのような留保が付されていないが、「国民はこれ(この憲法が国民に保障する自由及び権利)を濫用してはならない」(12条)と定められており、また権利同士の衝突という論理的必然性から、公共の福祉による一定の制約を免れ得ない。
 本件における公共の福祉はプライバシーの権利である。すべて国民は、個人として尊重され、生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については最大の尊重を必要とする(13条)ということから、本人の意に反してみだりに私生活を公開されない権利、つまりプライバシーの権利を有していると言える。家の中の様子など生活ぶりがうかがえるような画像は私生活である。
 このような権利と権利の衝突は、国会が国権の最高機関であること(41条)からして立法により解決されるべきであり、現に特定地図検索システムによる情報の提供に伴う国民の被害の防止及び回復に関する法律(以下「法」という。)が制定されている。本件命令はこの法に則ってなされており、その点においても正当性がある。
 2.私自身の見解
 私自身は、A大臣によるX社への特定地図検索システムの提供の中止命令は違憲であり、取消されるべきだと考える。
 確かに被告側が反論するように、X社の営業の自由や表現の自由は、プライバシーの権利をもとにした公共の福祉と調整されなければならない。ましてやその調整のための法まで制定されているのだから、それには従わなければならない。
 本件中止命令の根拠は法8条3項である。そこから同2項、同1項と逆算すると、特定地図検索システムによる情報の提供により被害を受けた者からの申立てがあったはずである。その被害は、法7条2号及び3号を参考にすると、個人権利利益侵害情報(法2条6号)であると考えられる。そうなると、個人権利利益侵害情報とはあいまいで不明確ではないかという問題が生じる。31条に代表される罪刑法定主義の原則から、自由が奪われるためにはそれが明定されていなければならないからである。
 とはいえ、概括的な規定も一定必要であり、一般人が合理的に解釈できる程度は許容される。法2条6号の「個人識別情報及び個人自動車登録番号等以外の個人に関する情報であって、公にすることにより、個人の権利利益を害するおそれのあるもの」もその基準から許容される。しかし、法制定の経緯からしても、家の中の様子など生活ぶりがうかがえるような画像はそこに含まれない。法制定以前よりそのような画像があることが認識されていたにもかかわらず、個人識別情報(法2条4号)や個人自動車登録番号等(法2条5号)のように明定されなかったからである。それよりもむしろ画像撮影の高さ制限(法7条1号)によってこれに対処しようとしている。この制限を遵守していたX社にとって本件中止命令は不合理な不意打ちになる。法2条6号は家の中の様子など生活ぶりがうかがえるような画像を除外して合憲となる。
 以上より、本件中止命令は、法2条6号の適用を誤ったものであり、違憲である。

以上

 

修正答案

以下日本国憲法についてはその条数のみを示す。

 

[設問1]
 私がX社から依頼を受けた弁護士である場合、X社がA大臣から受けた、特定地図検索システムの提供の中止命令という処分の取消しの訴え(行政事件訴訟法3条2項)を提起する。あわせて執行停止(行政事件訴訟法25条)も申立てる。損害が生じれば国会賠償請求訴訟(国家賠償法1条1項)も提起する。そして以下のような憲法上の主張を行う。
 1.営業の自由(22条1項)
 何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する(22条1項)。職業選択の自由を有するということは、その職業に必然的に付随する営業の自由も有するということである。また、現代においては営業活動が法人を通じて行われることも多いが、日本国憲法の人権規定は性質上可能な限り法人にも適用されるべきであり、法人も営業の自由を有する。X社はおそらく法人であろうが、営業の自由を有するのである。X社がA大臣から受けた、特定地図検索システムの提供の中止命令は、そのX社の営業の自由を侵害するものであり、違憲である。
 2.表現の自由(21条1項)
 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する(21条1項)と定められている。この表現の自由も法人にも保障されるべきものである。X社による特定地図検索システムの提供は、「集会、結社及び言論、出版」には含まれないかもしれないが、少なくとも「その他一切の表現」には含まれる。ある表現をそもそも表現に当たらないとして規制するようなことがあってはいけないので、「その他一切の表現」には文字通りおよそ全ての表現を含めるべきである。
 まず、X社の特定地図検索システムは、各ユーザーが任意の場所から見える風景を見て詐欺被害を未然に防止できたほうがよいといった思想の表れだとも解釈できる。インターネット等を活用して情報の透明性を高めて各個人が主体的に判断を下すのが望ましいという思想である。仮に特定地図検索システムそのものが思想の表れでないとしても、思想を形成するための材料ということで、表現の自由の保障の範囲内にある。事実の報道の自由が表現の自由に含まれることは言うまでもないとした判例も存在している。
 本件中止命令は、こうしたX社の表現の自由を規制するものであり、違憲である。

 

[設問2]
 1.被告側の反論
 A大臣によるX社への、特定地図検索システムの提供中止命令は、公共の福祉という観点からなされたものであり、違憲ではない。
 営業の自由(職業選択の自由)に関しては「公共の福祉に反しない限り」という留保が付されている。表現の自由にはそのような留保が付されていないが、「国民はこれ(この憲法が国民に保障する自由及び権利)を濫用してはならない」(12条)と定められており、また権利同士の衝突という論理的必然性から、公共の福祉による一定の制約を免れ得ない。
 本件における公共の福祉はプライバシーの権利である。すべて国民は、個人として尊重され、生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については最大の尊重を必要とする(13条)ということから、本人の意に反してみだりに私生活を公開されない権利、つまりプライバシーの権利を有していると言える。家の中の様子など生活ぶりがうかがえるような画像は私生活である。
 このような権利と権利の衝突は、国会が国権の最高機関であること(41条)からして立法により解決されるべきであり、現に特定地図検索システムによる情報の提供に伴う国民の被害の防止及び回復に関する法律(以下「法」という。)が制定されている。本件命令はこの法に則ってなされており、その点においても正当性がある。
 2.私自身の見解
 私自身は、A大臣によるX社への特定地図検索システムの提供の中止命令は違憲であり、取消されるべきだと考える。
 確かに被告側が反論するように、X社の営業の自由や表現の自由は、プライバシーの権利をもとにした公共の福祉と調整されなければならない。ましてやその調整のための法まで制定されているのだから、原則としてそれには従わなければならない。ただしその法自体が違憲(法令違憲)であったり、法の適用が違憲(適用違憲)であったりすれば、その限りではない。
 本件中止命令の根拠は法8条3項である。そこから同2項、同1項と逆算すると、特定地図検索システムによる情報の提供により被害を受けた者からの申立てがあったはずである。その被害は、法7条2号及び3号を参考にすると、個人権利利益侵害情報(法2条6号)であると考えられる。
 そうなると、個人権利利益侵害情報とはあいまいで不明確ではないかという問題が生じる。31条に代表される罪刑法定主義の原則から、自由が奪われるためにはそれが明定されていなければならないからである。とはいえ、概括的な規定も一定必要であり、一般人が合理的に解釈できる程度は許容される。法2条6号の「個人識別情報及び個人自動車登録番号等以外の個人に関する情報であって、公にすることにより、個人の権利利益を害するおそれのあるもの」も、個人識別情報(法2条4号)や個人自動車登録番号等(法2条5号)に準じるものだと読み取れるので、その基準から許容される。
 このように個人権利利益侵害情報の内容が十分に明確だとしても、法制定の経緯からして、家の中の様子など生活ぶりがうかがえるような画像はそこに含まれない。法制定以前よりそのような画像があることが認識されていたにもかかわらず、個人識別情報(法2条4号)や個人自動車登録番号等(法2条5号)のように明定されなかったからである。それよりもむしろ法は画像撮影の高さ制限(法7条1号)によってこれに対処しようとしている。その高さ制限は1メートル60センチという平均的な身長と同程度であり、その制限下で撮影された画像は公道上を歩く人が目にする風景と大差ない。そのような画像であってもインターネット上で公開されると悪用される危険性があるという反論もあろうが、本気で悪用しようとすればインターネット上に公開されていなくても自らあるいは誰かに頼んで公道から撮影してそうした画像を手に入れることもできるので、その点を過大に評価すべきではない。この高さ制限を遵守していたX社にとって本件中止命令は不合理な不意打ちになる。法2条6号は家の中の様子など生活ぶりがうかがえるような画像を除外して合憲となる。
 以上より、家の中の様子など生活ぶりがうかがえるような画像(法7条1号の高さ制限を遵守して撮影されたもの)が公開されることを被害だと判断してなされた本件中止命令は、法の適用を誤ったものであり、違憲である。

以上

 

 

感想

Googleのストリートビューが題材にされているとすぐにわかったのでイメージはしやすかったです。練習答案でもそれなりに書けたような気はします。というよりむしろ修正答案でどう修正すべきかよくわからなかったと言ったほうが正確かもしれません。採点実感の辛口具合には驚きました。

 



中級者が英文を楽に読めるようになるための参考書紹介

ここで中級者というのは、一通りの文法を学習し、単語もある程度は知っているが、新聞・雑誌・本などを読むには苦労する人をここでは指します。英検なら2級か準1級、TOEICなら700〜800点台、センター試験なら8〜9割といったところでしょうか。そこから上級者(新聞・雑誌・本などまとまった英文を楽に読める)になるためにはどのような学習をすればよいのかを、具体的な参考書を交えて紹介します。

 

1.語彙

(1)単語集

英文を楽に読むためには一定の語彙が必要です。一つの文にわからない語が複数あるようだと苦しいです。そこまでひどい状況ではなくても、語彙は多ければ多いほどよいです。英文を楽に読むというここでの目的からして、やはりZ会の『速読英単語』シリーズをおすすめします。

背景が白い受験用とそうでない大人用の2系統あります。主に受験用は入試問題(論文)から、大人用は新聞やインターネットなどから題材が採られているという違いがあります。少なくとも、受験用の必修編と大人用のCoreはやることをおすすめします。


速読英単語


作 者: 

出版社: Z会

発売日: 2015年06月08日


速読速聴・英単語


作 者: 

出版社: Z会

発売日: 2012年06月06日

あとは興味や使ってみた感触から、受験用なら上級編、速読英熟語、多読英語長文、リンガメタリカ、大人用ならDaily, Opinion, Business, Advancedへと好きなものを読みまくるのがよいです。

 

(2)語源

上記の単語集などでいくら語彙を増やしたところで実際の英文には未知の単語が登場します。未知の単語に対処するためにも、また知っている単語を楽に把握するためにも、語源の知識は欠かせません。河合塾の『つむぐ英単語』など、語源をまとめた本があるので気に入ったものを通して読むとよいです。


つむぐ英単語 : 部品で覚える入試重要2300語


作 者: 

出版社: 河合出版

発売日: 2016年08月24日

辞書によっては語源の説明がされているものもありますし、Online Etymology Dictionaryという便利な検索サイトもあります。

 

2.構文

もう一つの柱が構文です。数行程度の英文の精読です。どこがどこにかかっているかなどの練習です。

Z会の『120構文で攻略する 英文和訳のトレーニング』と桐原書店の『基礎英文解釈の技術100』をおすすめします。





作 者: 

出版社: 

発売日: 1970年01月01日





作 者: 

出版社: 

発売日: 1970年01月01日

これらの同種の構文本として、西きょうじ先生(代ゼミ)が好きなら『ポレポレ英文読解プロセス50』、伊藤和夫先生(駿台)が好きなら『ビジュアル英文解釈』や『英文解釈教室』もあります。もしもここまでに紹介したものが難しく感じられたら美誠社の『英語の構文150』ですね。

 

3.最後に

ここまで参考書を紹介してきましたが、究極的には自分の読みたい英文をひたすら読むことです。 興味に従って読み進めれば必ず得るものがあります。

最後に英文を読む際の注意点をお伝えすると、基本的には前から英語のままで理解することです。これができるようになると楽に読めます。いわゆるスラッシュリーディングです。切るべきところで切りながら音読するのもそのための練習として役立つでしょう。意味を英語のまま把握するのと精読して日本語訳を作るのとは別の作業です。

英文を楽に読めるようになると楽しい世界が広がりますので、みなさまがそこまでたどり着けることを願っております。

 



平成23年司法試験論文刑事系第2問答案練習

問題

〔第2問〕(配点:100)
次の【事例】を読んで,後記〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。

 

【事 例】

1 平成22年5月1日,A女は,H県警察本部刑事部捜査第一課を訪れ,同課所属の司法警察員Pに,「2か月前のことですが,午後8時ころ,結婚を前提に交際していたBと電話で話していると,Bから『甲が来たから,また,後で連絡する。』と言われて電話を切られたことがありました。甲は,Bの友人です。その3時間後,Bが私の携帯電話にメールを送信してきました。そのメールには,Bが甲及び乙と一緒に,甲の奥さんであるV女の死体を,『一本杉』のすぐ横に埋めたという内容が書かれていました。ちなみに,『一本杉』は,H県I市内にあるJ山の頂上付近にそびえ立っている有名な杉です。また,乙も,Bの友人です。私は,このメールを見て,怖くなったので,思わず,メールを消去しました。その後,私は,このことを警察に伝えるべきかどうか迷いましたが,Bとは結婚するつもりでしたので,結局,警察に伝えることができませんでした。しかし,昨日,Bとも完全に別れましたので,警察に伝えることに踏ん切りがつきました。Bが私にうそをつく理由は全くありません。ですから,Bが私にメールで伝えてきたことは間違いないはずです。よく調べてみてください。」などと言った。その後,司法警察員Pらは,直ちに,前記「一本杉」付近に赴き,その周辺の土を掘り返して死体の有無を確認したところ,女性の死体を発見した。そして,女性の死体と共に埋められていたバッグにV女の運転免許証が在中していたことなどから,女性の死体がV女の死体であることが判明した。
 そこで,同月3日,司法警察員Pらは,Bから事情を聞くため,Bが独り暮らしをしているKマンション403号室に赴き,BにH県警察本部への任意同行を求めたところ,Bは,突然,司法警察員Pらを振り切ってKマンションの屋上に駆け上がり逃走を試みたが,同所から転落して死亡した。

2 同日,司法警察員Pは,死体遺棄の被疑事実で捜索差押許可状の発付を受け,部下と共に,前記Kマンション403号室を捜索し,Bのパソコンを差し押さえた。
 そして,同日,司法警察員Pは,H県警察本部において,差し押さえたBのパソコンに保存されていたメールの内容を確認したところ,A女とBとの間におけるメールの交信記録しか残っていなかったが,Bが甲及び乙からV女を殺害したことを聞いた状況や甲及び乙と一緒にV女の死体を遺棄した状況等を記載したA女宛てのメールが残っていた。そこで,司法警察員Pは,このメール[メール①]を印刷し,これを添付した捜査報告書【資料1】を作成した。また,司法警察員Pは,直ちに,[メール①]をA女に示したところ,A女は,「[メール①]には見覚えがあります。[メール①]は,Bが作成して私に送信したものに間違いありません。Bのパソコンは,B以外に使用することはありません。私がパソコンに触れようとしただけで,『触るな。』と激しく怒ったことがありますので,Bのパソコンを他人が使用することは,絶対にないと断言できます。」などと供述した。

3 V女に対する殺人,死体遺棄の犯人として甲及び乙が浮上したことから,司法警察員Pらは,直ちに,甲及び乙の前歴及び前科を照会したところ,甲には,前歴及び前科がなかったものの,乙には,平成21年6月,窃盗(万引き)により,起訴猶予となった前歴1件があることが判明した。
 また,司法警察員Pは,差し押さえたBのパソコンにつき,Bと甲との間におけるメールの交信記録,Bと乙との間におけるメールの交信記録が消去されているのではないかと考え,直ちに科学捜査研究所に,消去されたメールの復元・分析を嘱託した。
 さらに,司法警察員Pらは,前記メールの復元・分析を進めている間に,甲及び乙が所在不明となることを避けるため,甲及び乙に対する尾行や張り込みを開始した。

4 その一方,司法警察員Pは,V女に対する殺人,死体遺棄事件を解明するため,甲及び乙を逮捕したいと考えたものの,まだ,[メール①]だけでは,証拠が不十分であると判断し,V女に対する殺人,死体遺棄事件以外の犯罪事実により甲及び乙を逮捕するため,部下に対し,甲及び乙がV女に対する殺人,死体遺棄事件以外に犯罪を犯していないかを調べさせた。その結果,乙については,V女に対する殺人,死体遺棄事件以外の犯罪の嫌疑が見当たらなかったが,甲については,平成22年1月10日にI市内で発生したコンビニエンスストアLにおける強盗事件の2人組の犯人のうちの1名に酷似していることが判明した。そこで,同年5月10日,司法警察員Pは,コンビニエンスストアLに赴き,被害者である店員Wに対し,甲の写真を含む複数の写真を示して犯人が写った写真の有無を確認したところ,Wが甲の写真を選択して犯人の1人に間違いない旨を供述したことから,その旨の供述録取書を作成した。
 その後,司法警察員Pは,この供述録取書等を疎明資料として,前記強盗の被疑事実で甲に係る逮捕状の発付を受け,同月11日,同逮捕状に基づき,甲を通常逮捕した【逮捕①】。そして,その際,司法警察員Pは,逮捕に伴う捜索を実施し,甲の携帯電話を発見したところ,前記強盗事件の共犯者を解明するには,甲の交遊関係を把握する必要があると考え,この携帯電話を差し押さえた。なお,この際,甲は,「差し押さえられた携帯電話については,私のものであり,私以外の他人が使用したことは一切ない。」などと供述した。
 司法警察員Pは,直ちに,この携帯電話に保存されたメールの内容を確認したところ,Bと甲との間におけるメールの交信記録が残っており,その中には,BがV女の死体を遺棄したことに対する報酬に関するものがあった。そこで,司法警察員Pは,同月12日,殺人,死体遺棄の被疑事実で捜索差押許可状の発付を受け,この携帯電話を差し押さえた。引き続き,司法警察員Pは,パソコンを利用して前記Bと甲との間におけるメール[メール②-1]及び[メール②-2]を印刷し,これらを添付した捜査報告書【資料2】を作成した。
 甲は,同日,H地方検察庁検察官に送致された上,同日中に前記強盗の被疑事実で勾留された。なお,甲は,前記強盗については,全く身に覚えがないなどと供述し,自己が犯人であることを否認した。

5 同月13日,司法警察員Pの指示を受けた部下である司法警察員Qが,乙を尾行してその行動を確認していたところ,乙がH県I市内のスーパーMにおいて,500円相当の刺身パック1個を万引きしたのを現認し,乙が同店を出たところで,乙を呼び止めた。すると,乙が突然逃げ出したので,司法警察員Pは,直ちに,乙を追い掛けて現行犯逮捕した【逮捕②】。その後,乙は,司法警察員Qの取調べに対し,犯罪事実について黙秘した。そこで,司法警察員Pは,乙の万引きに関する動機や背景事情を解明するには,乙の家計簿やパソコンなど乙の生活状況が判明する証拠を収集するよりほかないと考え,同日,窃盗の被疑事実で捜索差押許可状の発付を受け,部下と共に,乙が単身で居住する自宅を捜索し,乙のパソコン等を差し押さえた。
 その後,司法警察員Pは,同日中に,H県警察本部内において,差し押さえた乙のパソコンに保存されたデータの内容を確認したところ,Bと乙との間におけるメールの交信記録が残っているのを発見した。そして,その中には,[メール②-1]及び[メール②-2]と同様のBがV女の死体を遺棄したことに対する報酬に関するメールの交信記録が存在した。
 乙は,同月14日,H地方検察庁検察官に送致された上,同日中に前記窃盗の被疑事実で勾留された。

6 甲に対する取調べは,司法警察員Pが担当し,乙に対する取調べは,司法警察員Qが担当していたところ,司法警察員P及びQは,いずれも,同月15日,甲及び乙に対し,「他に何かやっていないか。」などと余罪の有無について確認した。
 すると,甲は,同日,「V女の死体を『一本杉』付近に埋めた」旨を供述したため,司法警察員Pは,同日及び翌16日の2日間,V女が死亡した経緯やV女の死体を遺棄した経緯等を聴取した。これに対し,甲は,[メール①]の内容に沿う供述をしたものの,上申書及び供述録取書の作成を拒否した。そのため,司法警察員Pは,同月17日から,連日,前記強盗事件に関連する事項を中心に聴取しながら,1日約30分間ずつ,V女に対する殺人,死体遺棄事件に関する上申書及び供述録取書の作成に応じるように説得を続けた。しかし,結局,甲は,この説得に応じなかった。なお,司法警察員Pは,甲の前記供述を内容とする捜査報告書を作成しなかった。
 一方,乙は,同月15日に余罪がない旨を供述したので,司法警察員Qは,以後,V女に対する殺人,死体遺棄事件に関連する事項を一切聴取することがなかった。

7 甲は,司法警察員Pによる取調べにおいて,前記強盗の犯人であることを一貫して否認した。同月21日,検察官は,甲を前記強盗の事実により公判請求するには証拠が足りないと判断し,甲を釈放した。
 乙は,同月18日,司法警察員Qによる取調べにおいて,前記万引きの事実を認めた上,同月20日,弁護人を通じて被害を弁償した。そのため,同日,スーパーMの店長は,乙の処罰を望まない旨の上申書を検察官に提出した。そこで,検察官は,乙を勾留されている窃盗の事実により公判請求する必要はないと判断し,同月21日,乙を釈放した。
 その一方で,同日中に,甲及び乙は,V女に対する殺人,死体遺棄の被疑事実で通常逮捕された【甲につき,逮捕③。乙につき,逮捕④。】。甲及び乙は,同月23日,H地方検察庁検察官に送致された上,同日中に前記殺人,死体遺棄の被疑事実で勾留された。なお,甲及び乙は,殺人,死体遺棄の被疑事実による逮捕後,一切の質問に対して黙秘した。また,司法警察員Pは,殺人,死体遺棄の被疑事実で捜索差押許可状の発付を受け,部下と共に,甲及び乙の自宅を捜索したものの,殺人,死体遺棄事件に関連する差し押さえるべき物を発見できなかった。その後,検察官は,Bのパソコンにおけるメールの復元・分析の結果,Bのパソコンにも,甲の携帯電話及び乙のパソコンに残っていた前記各メールと同じメールが保存されていたことが判明したことなどを踏まえ,勾留延長後の同年6月11日,甲及び乙を,殺人,死体遺棄の事実により,H地方裁判所に公判請求した。
 検察官は,公判前整理手続において,捜査報告書【資料1】につき,「殺人及び死体遺棄に関する犯罪事実の存在」,捜査報告書【資料2】につき,「死体遺棄の報酬に関するメールの交信記録の存在と内容」を立証趣旨として,各捜査報告書を証拠調べ請求したところ,被告人甲及び被告人乙の弁護人は,いずれも,不同意の意見を述べた。

 

〔設問1〕 【逮捕①】ないし【逮捕④】及びこれらの各逮捕に引き続く身体拘束の適法性について,具体的事実を摘示しつつ論じなさい。

 

〔設問2〕 捜査報告書(【資料1】及び【資料2】)の証拠能力について,具体的事実を摘示しつつ論じなさい。

 

【資料1】
捜査報告書
平成22年5月3日
H県警察本部刑事部長
司法警察員 警視正 S 殿
H県警察本部刑事部捜査第一課
司法警察員 警部 P 印
死体遺棄 被疑者 B
(本籍,住居,職業,生年月日省略)
被疑者Bに対する頭書被疑事件につき,平成22年5月3日,被疑者Bの自宅において
差し押さえたパソコンに保存されたデータを精査したところ,A女あてのメールを発見し
たので,同メールを印刷した用紙1枚を添付して報告する。

 

[メール①]
送信者: B
宛先: A女
送信日時: 2010年3月1日 23:03
件名: さっきはゴメン
さっきは,電話を途中で切ってゴメンな。今日の午後8時に甲が家に来たやろ。ここから,すごいことが起こったんや。いずれ結婚するお前やから,打ち明けるが,甲は,俺の家で,いきなり,「30分前に,俺の家で,乙と一緒にV女の首を絞めて殺した。俺がV女の体を押さえて,乙が両手でV女の首を絞めて殺した。V女を運んだり,V女を埋める道具を積み込むには,俺や乙の車では小さい。お前の大きい車を貸してほしい。V女の死体を捨てるのを手伝ってくれ。お礼として,100万円をお前にやるから。」と言ってきたんや。甲とV女のことは知っているやろ。甲は俺の友人で,V女は甲の奥さんや。乙のことは知らんやろうけど,俺の友人に乙というのがいるんや。その乙と甲がV女を殺したんや。俺も金がないし,お前にも指輪の一つくらい買ってやろうと思い,引き受けた。人殺しならともかく,死体を捨てるだけだから,大したことないと思うたんや。その後,すぐに,甲の家に行くと,V女の死体があったわ。また,そこには,乙もいて,「俺と甲の2人で殺した。甲がV女の体を押さえて,俺が両手でV女の首を絞めて殺したんや。死体を捨てるのを手伝ってくれ。」と言ってきた。その後,俺は,甲と乙と一緒に,V女の死体を俺の車で一本杉まで運び,そのすぐ横の土を3人で掘ってV女の死体をバッグと一緒に投げ入れ,土を上からかぶせて完全に埋めたんや。V女の死体を埋めるのに,午後9時から1時間くらいかかったわ。疲れた。分かっていると思うが,このことは誰にも言うなよ。これがばれたら,俺も捕まることになるから。そうなったら,結婚もできんわ。100万円もらったら,何でも好きなもの買ってやるから,言ってな。

 

【資料2】
捜査報告書
平成22年5月12日
H県警察本部刑事部長
司法警察員 警視正 S 殿
H県警察本部刑事部捜査第一課
司法警察員 警部 P 印
殺人,死体遺棄 被疑者 甲
被疑者 乙
(いずれも,本籍,住居,職業,生年月日省略)
被疑者甲及び同乙に対する頭書被疑事件につき,平成22年5月12日,H県警察本部
において差し押さえた甲の携帯電話に保存されていた甲とBとの間におけるメールの交信
記録を用紙1枚に印刷したので,これを添付して報告する。

 

[メール②-1]
送信者: B
宛先: 甲
受信日時: 2010年4月28日 22:00
件名: 早うせえ
V女の死体を埋めたお礼の100万円払え,早うせえや。
お前らがやったことをばらすぞ。
[メール②-2]
送信者: 甲
宛先: B
送信日時: 2010年4月28日 22:30
件名: Re:早うせえ
もう少し待ってくれ。
必ず,お礼の100万円を払うから。

 

練習答案

以下刑事訴訟法についてはその条数のみを示す。

 

[設問1]
 1.逮捕①の適法性
 司法警察職員は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときは、裁判官のあらかじめ発する逮捕状により、これを逮捕することができる(199条1項)。本件強盗事件の2人組の犯人のうちの1名に酷似しており、被害者である店員Wが複数の写真の中から甲の写真を選択して犯人の1人に間違いないと供述しているので、罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある。そして司法警察職員であるPが、裁判官のあらかじめ発する逮捕状により甲を逮捕しているので、この逮捕①は適法である。強盗罪は30万円以下の罰金、拘留又は科料に当たる罪ではないので、199条1項ただし書には該当しない。
 2.逮捕②の適法性
 まず尾行や張り込みは強制捜査ではないので、法律に特別の定のある場合でなくても行うことができる。
 現に罪を行い、又は現に罪を行い終った者を現行犯人とし(212条1項)、現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる(213条)。Qは乙が窃盗(万引き)という罪を現に行うのを認めてこれを逮捕している。よってこの逮捕②は適法である。
 3.逮捕③の適法性
 罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるかどうかがここでの争点になる(その他の手続はきちんとなされていると推測できる)。
 甲は、逮捕①に伴う取り調べ時にではあるが、司法警察員Pに対して、「V女の死体を『一本杉』付近に埋めた」旨を任意に自白している。Pは「他に何かやっていないか。」などと余罪の有無について確認しただけであり、自白を強要したわけではないので、この自白の採取に関して違法性はない。そしてこの自白と資料1, 2の捜査報告書をあわせると罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があると言える。よって逮捕③は適法である。
 4.逮捕④の適法性
 逮捕③と同じ枠組で検討する。
 乙自身は自白をしていないが、甲がメール①の内容に沿う供述、つまり甲、乙、Bの3人がV女の死体を埋めたという供述をしている。また、報酬に関するB乙間のメールの交信記録が存在したとのことである。しかしこれらは捜査報告書にされておらず、罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるかどうかを判断する際の資料とすることができない。このような責任の所在があいまいな資料を許してしまうと、捜査機関は何とでも言えてしまう。これらの資料を考慮に入れず資料1の捜査報告書だけでは罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由はない。よって逮捕④は違法である。
 5.逮捕に引き続く身体拘束の適法性
 逮捕に引き続く身体拘束で問題になり得るのは、いわゆる別件取調べである。逮捕した罪とは別件の取調べがもっぱら行われるようであればその身体拘束は違法のそしりを免れないが、別件に話題が及んだとしたら直ちに違法になるというわけではない。逮捕①に引き続く甲の身体拘束に関して、1日約30分ずつ別件であるV女に対する殺人、死体遺棄事件に関する説得が続けられたが、この程度であれば、もっぱら別件を取り調べているとは言えず、適法である。

 

[設問2]
 1.伝聞証拠
 321条ないし328条に規定する場合を除いては、公判期日における供述に代えて書面を証拠とすることはできない(320条1項)。人の供述は公判期日において反対尋問にさらしてその真実性を吟味するのが相当だからである。資料1及び資料2は、この点から、公判期日において供述すべきものであり、320条1項の伝聞証拠に当たる。
 しかしながら伝聞証拠に当たると絶対に証拠とすることができないのでは事実認定に支障をきたすので、321条ないし328条で一定の例外が認められている。資料1に関わるのは321条1項3号である。321条1項の各号に共通して、被告人以外の者が作成した供述書又はその者の供述を録取した書面で供述者の署名若しくは押印のあるもの、という条件が課されている。これは供述者の供述が録取者によりねじ曲げられずに真正なものであることを保証する趣旨である。資料1には供述者であるBの署名も押印もないが、メールは機械的に正確に記録するので録取者によってねじ曲げられることがないので、署名も押印もなくてもこの条件は満たしていると考えてよい。資料1は裁判官の面前や検察官の面前で録取された書面ではないので3号の書面である。そうすると供述不能+特信状況という2つの要件を満たさなければ伝聞例外にはならない。Bは死亡しており公判準備又は公判期日において供述することができない。V女の死体を発見するきっかけとなる情報をもたらしたA女がこのメールはBが送信したものに間違いないと請け合っており、特に信用すべき情況の下になされたと言える。よってこの2つの要件を満たし伝聞例外に該当するので資料1の証拠能力は肯定される。資料2のメール②ー1もほぼ同様ではあるが特信情況がないので伝聞例外にはならず証拠能力が認められない。
 2.違法収集証拠
 違法に収集された証拠はその証拠能力が否定されることがある。資料2の証拠はいわゆる別件差押えとして違法とされる余地がある。というのも、強盗の被疑事実である逮捕①に伴う捜索で差し押さえられた携帯電話から採取されたものだからである。しかし殊更に別件差し押さえをしたわけではなく、強盗の被疑事実に関連して共犯者を解明するために甲の交友関係を把握する必要があると考えて差し押さえられたものである。よってこの差し押さえは違法ではないので、その点で資料2の証拠能力が否定されることはない。
 3.結論
 資料1の証拠能力は320条1項3号の伝聞例外により肯定される。資料2の証拠能力は違法収集証拠であるとして否定されることはないが、伝聞証拠として否定される。

以上

 

修正答案

以下刑事訴訟法についてはその条数のみを示す。

[設問1]
 1.別件逮捕について
 個別具体的な逮捕や身体拘束の適法性を考える前に、一般論として別件逮捕についての考え方を示しておく。別件逮捕とは捜査機関が本当に逮捕したいと考えている罪(本件)での逮捕をすることが困難なので、別の逮捕しやすい罪(別件)で逮捕して、その別件の逮捕についての捜索や取り調べ等から本件の逮捕をするための材料を集める行為を言う。刑事訴訟法では一罪一逮捕一勾留の原則から、逮捕や勾留について被疑者・被告人の権利を守るために手続きや時間制限などが定められており、これを潜脱するような別件逮捕は違法となる。しかし別件とはいえ逮捕の必要があり要件を満たしているのに捜査機関の主観を考慮してこれを違法とするのは困難が強いられることになる。そこで別件逮捕の適法性は別件を基準にして考え、あとは取り調べや本件の逮捕が違法になるかどうかを考えるのがよい。ここではその線に沿って検討する。
 2.逮捕①の適法性
 司法警察職員は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときは、裁判官のあらかじめ発する逮捕状により、これを逮捕することができる(199条1項)。本件強盗事件の2人組の犯人のうちの1名に酷似しており、被害者である店員Wが複数の写真の中から甲の写真を選択して犯人の1人に間違いないと供述しているので、罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある。そして司法警察職員であるPが、裁判官のあらかじめ発する逮捕状により甲を逮捕しているので、この逮捕①は適法である。強盗罪は30万円以下の罰金、拘留又は科料に当たる罪ではないので、199条1項ただし書には該当しない。
 3.逮捕②の適法性
 まず尾行や張り込みは強制捜査ではないので、法律に特別の定のある場合でなくても行うことができる。
 現に罪を行い、又は現に罪を行い終った者を現行犯人とし(212条1項)、現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる(213条)。Qは乙が窃盗(万引き)という罪を現に行うのを認めてPがこれを逮捕している。よってこの逮捕②は適法である。PとQとは同じ捜査機関の司法警察員であり、相互に緊密に連絡を取り合っていたと考えられるので、一体のものとして捉えてもよい。被害額が500円と少額であるが、同種の前歴があることと突然逃げ出したことを考慮すると、逮捕が行き過ぎであるとも言えない。
 4.逮捕③の適法性
 別件逮捕という観点も考慮しつつ、罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるかどうかがここでの争点になる(その他の手続はきちんとなされていると推測できる)。
 資料1,2の捜査報告書(メール①とメール②ー1、②ー2)から罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があると言える。当然の理として、公判で有罪とするに足りる証拠と、逮捕を行うに足りる証拠とを比べると、後者のほうが弱くてもよい。言い換えると、罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由とは比較的緩やかに解してもよく、本件のように複数の客観的な資料から罪を犯したことが疑われる場合は、相当な理由があるとしてよい。
 資料2の捜査報告書にある証拠は、違法な別件差押えに由来するものであると考える余地もある。しかし殊更に別件差し押さえをしたわけではなく、強盗の被疑事実に関連して共犯者を解明するために甲の交友関係を把握する必要があると考えて差し押さえられたものである。強盗は重大犯罪であり、共犯者が未だ見つかっていない状態では、共犯者を解明する必要性は高く、すでに逮捕されている者の携帯電話を差し押さえるというのがそのために相当な手段である。よってこの差し押さえは違法ではない。
 甲は、逮捕①に伴う取り調べ時に、司法警察員Pに対して、「V女の死体を『一本杉』付近に埋めた」旨を任意に自白している。Pは「他に何かやっていないか。」などと余罪の有無について確認しただけであり、自白を強要したわけではないので、この自白の採取に関して違法性はない。ただし甲は上申書及び供述録取書の作成を拒否したので、これを逮捕の必要性を疎明するための証拠として用いることは困難である。それでも前述したように、資料1,2から逮捕③は適法である。
 5.逮捕④の適法性
 逮捕③と同じ枠組で検討する。
 乙のパソコンの中には,[メール②-1]及び[メール②-2]と同様のBがV女の死体を遺棄したことに対する報酬に関するメールの交信記録が存在したとのことである。しかしこれは違法な別件差押えに由来するものであり、逮捕の必要性を疎明するために用いることはできない。おそらくそのためにこの証拠資料については捜査報告書が作成されなかったのであろう。司法警察員Pは,乙の万引きに関する動機や背景事情を解明するには,乙の家計簿やパソコンなど乙の生活状況が判明する証拠を収集するよりほかないと考えて乙のパソコンを差押えたのであるが、500円相当の刺身パック1個を万引きしたという事実からはその必要性が導けない。違法な別件差押えであると判断せざるを得ない。
 先にも述べたように、甲の自白を逮捕の必要性を疎明するための証拠として用いることは困難であり、資料1の捜査報告書だけでは捜査機関自身がそう考えているように、罪を犯したことを疑うに足りる理由がない。よって逮捕④は違法である。
 6.逮捕に引き続く身体拘束の適法性
 まず、逮捕・勾留の制限時間はクリアしている。すべての逮捕について、逮捕、検察官送致、勾留請求が同日中になされているので203条1項・205条1項・同条2項に適合しており、逮捕①と②の後の勾留は10日以内で、逮捕③と④の後の勾留は20日以内であるので、208条1項・同条2項に適合している。また、勾留の必要性について207条1項により準用される60条1項の要件を満たす(少なくとも同項3号の逃亡のおそれはある)。そして起訴前の勾留は起訴をするかどうかを決めるために行われるのだから、起訴されなかったからと言ってその前の勾留が違法になるというわけでもない。
 逮捕に引き続く身体拘束で問題になり得るのは、いわゆる別件取調べである。逮捕した罪とは別件の取調べがもっぱら行われるようであればその身体拘束は違法のそしりを免れないが、別件に話題が及んだとしたら直ちに違法になるというわけではない。逮捕①に引き続く甲の身体拘束に関して、1日約30分ずつ別件であるV女に対する殺人、死体遺棄事件に関する説得が連日続けられたが、あくまでも逮捕①のもととなった強盗事件に関連する事項を中心に聴取されたのであり、この程度であれば、もっぱら別件を取り調べているとは言えず、適法である。平成22年5月15日、16日の2日間はV女に対する殺人,死体遺棄事件に関連する経緯等が聴取されたが、これは甲が任意に話し続けたのであって、これをもって違法な別件取調べであったとも言えない。逮捕②に引き続く乙の身体拘束については、乙が余罪がない旨を供述して以後は、V女に対する殺人、死体遺棄事件に関連する事項を一切聴取することがなかったので、適法であったことは言うまでもない。

[設問2]
 原則として、公判期日における供述に代えて書面を証拠とすることはできない(320条1項)。人の供述は公判期日において反対尋問にさらしてその真実性を吟味するのが相当だからである。資料1及び資料2は、この点から、公判期日において供述すべきものであり、320条1項の伝聞証拠に当たり得る。伝聞証拠に該当するかどうかは要証事実との関わりで判断されるので、以下では資料1,2について要証事実との関係から検討する。伝聞証拠当たるとしても、それでは絶対に証拠とすることができないのでは事実認定に支障をきたすので、321条ないし328条で一定の例外が認められている。
 1.資料1の要証事実「死体遺棄に関する犯罪事実の存在」との関係
 要証事実「死体遺棄に関する犯罪事実の存在」は、資料1のBの「俺は,甲と乙と一緒に,V女の死体を俺の車で一本杉まで運び,そのすぐ横の土を3人で掘ってV女の死体をバッグと一緒に投げ入れ,土を上からかぶせて完全に埋めたんや」といった言述の真実性に依拠しているので、これは伝聞証拠に該当する。これは司法警察職員の検証の結果を記載した書面(司法警察職員であるPが五感の働きを通じて感知した内容を記載した書面)であると言えるので、321条3項の書面であり、Pが公判期日において証人として尋問を受け、その真正に作成されたものであることを供述したときは、伝聞例外が認められることがある。裁判官の面前や検察官の面前で録取された書面ではないので321条1項3号の書面である。そうすると伝聞例外が認められるためには、供述不能+必要不可欠性+特信情況という3つの要件を満たさなければならない。
 Bは死亡しており公判準備又は公判期日において供述することができない(供述不能)。甲・乙が死体遺棄の罪を犯したとする他に有力な証拠がないので、犯罪事実の存否の証明に欠くことができない(必要不可欠性)。V女の死体を発見するきっかけとなる情報をもたらしたA女への私信であり、特に信用すべき情況の下になされている(特信情況)。以上よりこの3つの要件を満たし伝聞例外に該当するので資料1のBの言述部分の証拠能力は肯定される。
 2.資料1の要証事実「殺人に関する犯罪事実の存在」との関係
 要証事実「殺人に関する犯罪事実の存在」は、資料1の「30分前に,俺の家で,乙と一緒にV女の首を絞めて殺した。俺がV女の体を押さえて,乙が両手でV女の首を絞めて殺した」という甲の発言及び「俺と甲の2人で殺した。甲がV女の体を押さえて,俺が両手でV女の首を絞めて殺したんや。」という乙の発言をBが引用した部分の真実性に依拠しているので、これは再伝聞証拠に該当する。そこでこれが伝聞例外に当たらないかを検討する。
 先に述べたように、資料1のBの言述部分は伝聞例外に該当して証拠能力が肯定される。つまりBが公判で供述したのと同視されるわけであり、そこで被告人又は被告人以外の者の供述をその内容としているので、324条1項及び2項の問題となる。そしてそれぞれ322条及び321条1項3号が準用される。前者については不利益な事実の承認又は特信情況という条件をクリアすれば伝聞例外に該当し、後者については先ほどと同様に供述不能+必要不可欠性+特信情況という3つの要件をクリアすれば伝聞例外に該当する。前者については自らが殺人の罪を犯したという不利益な事実の承認にあたり伝聞例外になる。後者については必要不可欠性と特信情況は満たすとして、供述不能は公判で黙秘しない限り満たさない。いずれの場合でも、伝聞例外に該当すれば証拠能力が肯定される。
 3,資料2の要証事実「死体遺棄の報酬に関するメールの交信記録の存在と内容」との関係
 要証事実「死体遺棄の報酬に関するメールの交信記録の存在と内容」は資料2のメールの交信記録が存在することが重要なのであり、内容の真実性に依拠しているわけではない。よって伝聞証拠には当たらないので、証拠能力は肯定される。

以上

 

感想

伝聞証拠が理解できていなかったことを思い知らされました。要証事実を意識するという最初の一歩から踏み外していました。逮捕後の身体拘束についての条文も引用できていませんでした。修正答案を書くことでそれらを理解できたように思います。

 

 

 



平成23年司法試験論文刑事系第1問答案練習

問題

〔第1問〕(配点:100)
 以下の事例に基づき,甲,乙及び丙の罪責について,具体的な事実を摘示しつつ論じなさい(特別法違反の点を除く。)。

1 甲(35歳,男)は,ある夏の日の夜,A県B市内の繁華街の飲食店にいる友人を迎えに行くため,同繁華街周辺まで車を運転し,車道の左側端に同車を駐車した後,友人との待ち合わせ場所に向かって歩道を歩いていた。
 その頃,乙(23歳,男)と丙(22歳,男)は,二人で酒を飲むため,同繁華街で適当な居酒屋を探しながら歩いていた。乙と丙は,かつて同じ暴走族に所属しており,丙は,暴走族をやめた後,会社員として働いていたが,乙は,少年時代から凶暴な性格で知られ,何度か傷害事件を起こして少年院への入退院を繰り返しており,この当時は,地元の暴力団の事務所に出入りしていた。丙は,乙の先を歩きながら居酒屋を探しており,乙は,少し遅れて丙の後方を歩いていた。
 その日は週末であったため,繁華街に出ている人も多く,歩道上を多くの人が行き交っていたところ,甲は,歩道を対向して歩いてきた乙と肩が接触した。しかし,乙は,謝りもせず,振り返ることもなく歩いていった。甲は,一旦はやり過ごしたものの,乙の態度に腹が立ったので,一言謝らせようと思い,4,5メートル先まで進んでいた乙を追い掛けた上,後ろから乙の肩に手を掛け,「おい。人にぶつかっておいて何も言わないのか。謝れ。」と強い口調で言った。乙は,振り向いて甲の顔をにらみつけながら,「お前,俺を誰だと思ってんだ。」などと言ってすごんだ。甲は,もともと短気な性格であった上,普段から体を鍛えていて腕力に自信もあり,乙の態度にひるむこともなかったので,甲と乙はにらみ合いになった。
 甲と乙は,歩道上に向かい合って立ちながら,「謝れ。」,「そっちこそ謝れ。」などと言い合いをしていたが,そのうち,甲は,興奮のあまり,乙の腹部を右手の拳で1回殴打し,さらに,腹部の痛みでしゃがみ込んだ乙の髪の毛をつかんだ上,その顔面を右膝で3回,立て続けに蹴った。これにより,乙は,前歯を2本折るとともに口の中から出血し,加療約1か月間を要する上顎左側中切歯・側切歯歯牙破折及び顔面打撲等の怪我をした。
 丙は,乙がついてこないので引き返し,通行人が集まっている場所まで戻って来たところ,複数の通行人に囲まれた中で,ちょうど,乙が甲に殴られた上で膝で蹴られる場面を見た。丙は,乙が一方的にやられており,更に乙への攻撃が続けられる様子だったので,乙を助けてやろうと思い,「何やってんだ。やめろ。」と怒鳴りながら,甲に駆け寄り,両手で甲の胸付近を強く押した。
 甲は,一旦後ずさりしたものの,すぐに「何だお前は。仲間か。」などと言いながら丙に近づき,丙の腹部や大腿部を右足で2回蹴った。さらに,体格で勝る甲は,ひるんだ丙に対し,丙が着ていたシャツの胸倉を両手でつかんで引き寄せた上,丙の頭部を右脇に抱え込み,「おら,おら,どうした。」などと言いながら,両手を組んで丙の頭部を締め上げた。
 丙は,たまらず,近くの歩道上にしゃがみ込んでいた乙に対し,「助けてくれ。」と言った。
 乙は,丙が助けを求めるのを聞いて立ち上がり,丙を助けるとともに甲にやられた仕返しをしてやろうと思い,丙の頭部を締め上げていた甲に背後から近寄り,甲の後ろからその腰背部付近を右足で2回蹴った。
 甲は,それでもひるまず,丙の頭部を締め上げ続けたので,乙は,さらに,甲の腰背部付近を数回右足で強く蹴った。
 そのため,甲は,丙の頭部を締め上げていた手をようやく離した。
 丙は,甲の手が離れるや,乙に向かっていこうとした甲の背後からその頭部を右手の拳で2回殴打した。
 甲は,乙及び丙による上記一連の暴行により,加療約2週間を要する頭部打撲及び腰背部打撲等の怪我をした。また,丙は,甲による上記一連の暴行により,加療約1週間を要する腹部打撲等の怪我をした。

2 甲は,二人組の相手に前後から挟まれ,形勢が不利になった上,周囲に多数の通行人が集まり,騒ぎが大きくなってきたので,この場から逃れようと思い,全速力で走って逃げ出した。
 乙は,「待て。逃げんのか。」などと怒鳴りながら,甲の5,6メートル後ろを走って追い掛けた。
 丙は,乙が興奮すると何をするか分からないと知っていたので,逃げ出した甲を乙が追い掛けていくのを見て心配になり,少し遅れて二人を追い掛けた。
 乙は,多数の通行人が見ている場所で甲からやられたことで面子を潰されたと思って逆上しており,甲を痛めつけてやらなければ気持ちがおさまらないと思い,走りながらズボンの後ろポケットに入れていた折り畳み式ナイフ(刃体の長さ約10センチメートル)を取り出し,ナイフの刃を立てて右手に持った。
 乙の後方を走っていた丙は,乙がナイフを右手に持っているのを見て,乙が甲に対して大怪我をさせるのではないかなどと不安になり,走りながら,「やめとけ。ナイフなんかしまえ。」と何度か叫んだ。
 甲は,約300メートル離れた車道上に止めてあった自分の車の近くまで駆け寄り,車の鍵を取り出し,左手に持った鍵を運転席側ドアの鍵穴に差し込んだ。
 乙は,甲に追い付き,その左手付近を目掛けてナイフで切りかかった。甲は左前腕部を切り付けられて左前腕部に加療約3週間を要する切創を負った。
 その頃,甲と乙を追い掛けてきた丙は,乙が甲に切りかかったのを見て,乙を制止するため,乙の後ろから両肩をつかんで強く後方に引っ張り,乙を甲から引き離した。

3 甲は,その隙に車の運転席に乗り込み,運転席ドアの鍵を掛け,エンジンをかけて車を発進させた。
 甲が車を発進させた場所は,片側3車線のアスファルト舗装された道路であり,甲の車の前方には信号機があり,その手前には赤信号のため車が数台止まっていた。
 甲は,前方に車が止まっていたので,低速で車を走行させたところ,乙は,丙を振り払い,走って同車を追い掛け,運転席側ドアの少し開けられていた窓ガラスの上端部分を左手でつかみ,窓ガラスの開いていた部分から右手に持ったナイフを車内に突っ込み,運転席に座っていた甲の頭部や顔面に向けて何度か突き出しながら,「てめえ,やくざ者なめんな。逃げられると思ってんのか。降りてこい。」などと言って甲に車から降りてこさせようとした。
 甲は,信号が変わり前方の車が無くなったことから,しつこく車についてくる乙を何とかして振り切ろうと思い,アクセルを踏んで車の速度を上げた。乙は,車の速度が上がるにつれて全速力で走り出したが,次第に走っても車に追い付かないようになったため,運転席側ドアの窓ガラスの上端部分と同ドアのドアミラーの部分を両手でつかみ,運転席側ドアの下にあるステップに両足を乗せて車に飛び乗った。その際,乙は,右手で持っていたナイフを車内の運転席シートとドアの間に落としてしまった。なお,甲の車は,四輪駆動の車高が高いタイプのものであった。
 甲は,乙がそのような状態にあり,ナイフを車内に落としたことに気付いたものの,乙から逃れるため,「乙が路面に頭などを強く打ち付けられてしまうだろうが,乙を振り落としてしまおう。」と思い,アクセルを更に踏み込んで加速するとともに,ハンドルを左右に急激に切って車を左右に蛇行させ始めた。
 乙は,それでも,開いていた運転席側ドア窓ガラスの上端部分を左手でつかみ,右手の拳で窓ガラスをたたきながら,「てめえ,降りてこい。車を止めろ。」などと言っていた。しかし,甲が最初に車を発進させた場所から約250メートル車が進行した地点(甲が車を加速させるとともに蛇行運転を開始した地点から約200メートル進行した地点)で,甲が何回目かにハンドルを急激に左に切って左方向に車を進行させた際,乙は,手で自分の体を支えることができなくなり,車から落下して路上に転倒し,頭部を路面に強打した。その際の車の速度は,時速約50キロメートルに達していた。甲は,乙を車から振り落とした後,そのまま逃走した。
 乙は,頭部を路面に強打した結果,頭蓋骨骨折及び脳挫傷等の大怪我を負い,目撃者の通報で臨場した救急車によって病院に搬送され,救命処置を受けて一命を取り留めたものの,意識は回復せず,将来意識を回復する見込みも低いと診断された。

 

練習答案

以下刑法についてはその条数のみを示す。

 

[甲の罪責]
 1.第一暴行
 本文1にあるように、甲は乙と歩道上に向かい合って立ちながら言い合いをしているうちに、乙の腹部を右手の拳で1回殴打し、乙の髪の毛をつかみながらその顔面を右膝で3回立て続けに蹴った(これを本答案では第一暴行と呼ぶ)。これにより乙は加療約1か月を要する怪我をした。このように甲は乙の身体を傷害したので傷害罪(204条)が成立する。
 2.第二暴行
 その後甲は丙の腹部や大腿部を右足で2回蹴り、さらに丙の頭部を締め上げた(これを本答案では第二暴行と呼ぶ)。これにより丙は加療約1週間を要する怪我をした。先ほどと同様に甲には傷害罪が成立する。
 この第二暴行は、丙が両手で甲の胸付近を強く押した後で発生しているので、正当防衛や緊急避難が成立しないかが問題となり得る。しかし甲は自ら丙に近づいて第二暴行に及んでおり、自己又は他人の権利を防衛するためやむを得ずにした行為でも、自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるためにやむを得ずにした行為でもない。よって正当防衛(36条)も緊急避難(37条)も成立しない。
 3.乙を車から振り落とした行為
 本文3にあるように、甲は乙が外側から飛び乗った自車を蛇行運転させ、そのことにより乙を車から振り落とした。その結果乙は頭部を路面に強打し、救命処置を受けて一命を取り留めたものの、意識は回復せず将来意識を回復する見込みも低いと診断されるほどの大怪我を負った。
 甲が乙を車から振り落とした際の車の速度は時速約50キロメートルに達しており、そのような状況で車から人を振り落とすと一般にその人が死亡する危険性が高い。それにもかかわらず、甲は「乙が路面に頭などを強く打ち付けられてしまうだろうが、乙を振り落としてしまおう。」と思って、車を加速して蛇行させた。つまり甲は乙を殺すという故意でそのための行為をした。乙は死亡していないので甲には殺人未遂罪(203条)が成立する。
 ここでも正当防衛(36条)や緊急避難(37条)について検討しなければならない。乙が甲を攻撃しようと甲の車を追いかけていたからである。乙は最初ナイフを持って追いかけてきたが、甲の車に飛び乗る際にナイフを落としてとても拾えないような状態になり、甲もそのことを認識していた。つまり甲は乙が素手で甲の身体や車を傷つけられるという危険を感じていた。これは急迫不正の侵害であり、自己の身体、財産に対する現在の危難である。そして乙を車から振り落とそうとした行為はやむを得ずにした行為である。乙を車に乗せたままだと車の窓ガラスを割って攻撃される等の危険があり、そうした危険から逃れるには乙を振り落とす以外に考えづらいからである。しかし生じた害(乙の生命の危険)が避けようとした害(甲の身体や財産の危険)の程度を超えているし、防衛の程度も超えている。よって過剰防衛(36条2項)や過剰避難(37条1項ただし書)が成立し、甲の殺人未遂罪は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。
 4.結論
 以上より、甲には2つの傷害罪と1つの殺人未遂罪が成立し、殺人未遂罪には過剰防衛と過剰避難が成立する。これら3つは併合罪(45条)の関係に立つ。

 

[乙及び丙の罪責]
 1.甲への素手での暴行
 本文1にあるように、乙は甲の後ろから、計5回程度その腰背部付近を右足で蹴った。丙はその直後に甲の背後からその頭部を右手の拳で2回殴打した。甲は、乙及び丙による上記一連の暴行により、加療約2週間を要する怪我をした。その際に乙と丙との間に意思の連絡があったかどうかはわからないが、なかったとしても同時傷害の特例(207条)で乙と丙は共犯の例により、傷害罪(204条)が成立する。
 しかし、乙及び丙には正当防衛(36条1項)が成立するので、この傷害罪は不可罰である。甲が丙の頭部を締め上げたり、乙に向かって攻撃しようとしていたりしたことは、丙及び乙の身体への急迫不正の侵害である。そして先の傷害罪の構成要件に該当する乙及び丙の行為は、そのそれぞれ他人の権利を防衛するためにやむを得ずにした行為なので、正当防衛が成立する。
 2.乙が甲にナイフで切りかかった行為
 本文2にあるように、乙は車に乗って逃げようとしていた甲の左手付近を目掛けてナイフで切りかかり、それによって甲は加療約3週間を要する切創を負った。よって乙には傷害罪が成立する。丙は乙がナイフで甲に切りかかることを全力で阻止しようとしており、仮に先の甲への素手での暴行の際に乙と丙が共犯関係になっていたとしても、その共犯関係から離脱しているので、丙に傷害罪は成立しない。
 乙には正当防衛も緊急避難も成立しない。進んで逃げようとしている甲に対してわざわざ追いかけて攻撃するに及んでいるからである。
 3.乙が甲に車から降りてこさせようとした行為
 本文3にあるように、乙は窓ガラスからナイフを車内に突っ込み、甲の頭部や顔面に向けて何度か突き出しながら、「てめえ、やくざ者なめんな。逃げられると思ってんのか。降りてこい。」などと言って甲に車から降りてこさせようとした。甲が車に乗って移動するのは自由であり、車から降りる義務はない。よって乙は暴行を用いて甲に義務のないことを行わせようとしている。実際に甲は車から降りなかったので強要未遂(223条3項)が乙には成立する。
 4.結論
 丙は素手で甲を暴行した行為につき傷害罪が成立するが正当防衛により罰せられない。乙は丙と同様に素手で甲を暴行した行為については傷害罪が成立するが正当防衛により罰せられないものの、ナイフで甲に切りかかった行為については傷害罪が成立し、甲に車から降りてこさせようとした行為については強要未遂罪が成立する。この両者は併合罪の関係に立つ。

以上

 

修正答案

以下刑法についてはその条数のみを示す。

 

[甲の罪責]
 1.第一暴行
 本文1にあるように、甲は乙と歩道上に向かい合って立ちながら言い合いをしているうちに、乙の腹部を右手の拳で1回殴打し、乙の髪の毛をつかみながらその顔面を右膝で3回立て続けに蹴った(これを本答案では第一暴行と呼ぶ)。これにより乙は加療約1か月を要する怪我をした。甲に乙の身体を傷害しようという故意まで存在したかどうかはわからないが、少なくとも乙を暴行しようという故意はあり、そして甲は乙の身体を傷害した。よって傷害罪(204条)が成立する。208条の暴行罪の「暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったとき」という規定から、「暴行を加えた者が人を傷害するに至ったとき」は暴行罪ではなく傷害罪に該当する。
 2.第二暴行
 その後甲は丙の腹部や大腿部を右足で2回蹴り、さらに丙の頭部を締め上げた(これを本答案では第二暴行と呼ぶ)。これにより丙は加療約1週間を要する怪我をした。先ほどと同様に甲には傷害罪が成立する。
 3.乙を車から振り落とした行為
 本文3にあるように、甲は乙が外側から飛び乗った自車を蛇行運転させ、そのことにより乙を車から振り落とした。その結果乙は頭部を路面に強打し、救命処置を受けて一命を取り留めたものの、意識は回復せず将来意識を回復する見込みも低いと診断されるほどの大怪我を負った。
 甲が乙を車から振り落とした際の車の速度は時速約50キロメートルに達しており、そのような状況で甲が乗っていたような車高の高い車から人を振り落とすと一般にその人が死亡する危険性が高い。それにもかかわらず、甲は「乙が路面に頭などを強く打ち付けられてしまうだろうが、乙を振り落としてしまおう。」と思って、車を加速して蛇行させた。つまり甲は乙を殺すという故意でそのための行為をした。乙は死亡していないので甲の行為は殺人未遂罪(203条)の構成要件を満たす。
 ここで正当防衛(36条)について検討しなければならない。乙が甲を攻撃しようと甲の車を追いかけていたからである。乙は最初ナイフを持って追いかけてきたが、甲の車に飛び乗る際にナイフを落としてとても拾えないような状態になり、甲もそのことを認識していた。つまり甲は乙が素手で甲の身体や車を傷つけられるという危険を感じていた。これは急迫不正の侵害である。そして乙を車から振り落とそうとした行為は、自己の身体及び財産を防衛するためにやむを得ずにした行為である。乙を車に乗せたままだと車の窓ガラスを割って攻撃される等の危険があり、そうした危険から逃れるには乙を振り落とす以外に考えづらいからである。時速50キロメートルに達するまで加速したという点が相当かどうがという点については、例えば時速30キロメートルで乙を振り落とすことが可能だったとしても、自らの身体及び財産に対する急迫不正の侵害に直面しているときにそこまでの調整を甲に求めるのは酷であり、相当性の範囲内であると言える。また、乙が甲を攻撃しようとしたのは先に甲が乙を攻撃したからであり、自ら招いた侵害については正当防衛が成立しない場合もあるが、ちょっとした口論から甲が乙に暴行して傷害を負わせたことに対し、乙が甲をナイフまで持って追い回して車に乗ってもまだ追跡をやめないというのはもはや甲が自ら招いた侵害とは言えず、正当防衛が成立する。よって36条1項により、この行為は不可罰である。
 4.結論
 以上より、甲には2つの傷害罪が成立し、これらは併合罪(45条)の関係に立つ。殺人未遂については正当防衛により不可罰となる。

 

[乙及び丙の罪責]
 1.甲への素手での暴行
 本文1にあるように、乙は甲の後ろから、計5回程度その腰背部付近を右足で蹴った。丙はその直後に甲の背後からその頭部を右手の拳で2回殴打した。甲は、乙及び丙による上記一連の暴行により、加療約2週間を要する怪我をした。これらの行為は傷害罪(204条)の構成要件を満たす。
 乙は丙の「助けてくれ。」という言葉に応じて甲を暴行したのであり、丙はそうして乙に助けてもらって甲が乙を攻撃しようとしているところを暴行した。さらに、もともと乙と丙は旧知の仲でこの日も共に行動しており、どちらも甲から暴行を受けたというこの行為以前の事情もある。よってこれら乙及び丙による甲への素手での暴行は現場で共謀して共同で行われたものであると評価でき、乙と丙は共犯になる。
 しかし、乙及び丙には正当防衛(36条1項)が成立するので、この傷害罪は不可罰である。甲が丙の頭部を締め上げたり、乙に向かって攻撃しようとしていたりしたことは、丙及び乙の身体への急迫不正の侵害である。そして先の傷害罪の構成要件に該当する乙及び丙の行為は、そのそれぞれ丙及び乙の身体という他人の権利を防衛するためにやむを得ずにした行為である。乙も丙もすでに甲から傷害を負わされており説得などができるような状況ではとてもなかったし、警察などに助けを呼ぶ時間的余裕もなかった。乙及び丙の甲への暴行は素手で行われており、丙及び乙への侵害をやめさせるのに相当な程度であった。以上より正当防衛により、この傷害罪については乙も丙も不可罰である。
 2.乙が甲にナイフで切りかかった行為
 本文2にあるように、乙は車に乗って逃げようとしていた甲の左手付近を目掛けてナイフで切りかかり、それによって甲は加療約3週間を要する切創を負った。よって乙には傷害罪が成立する。進んで逃げようとしている甲に対してわざわざ追いかけてナイフで攻撃するに及んでいるのだから、正当防衛は成立しない(先の素手での暴行の応酬とは別個の行為である)。
 このように乙が甲にナイフで切りかかった行為は、先の甲・乙・丙間での暴行の応酬とは別個の行為であり、乙と丙の現場共謀による共犯の射程外である。そして新たに共謀がなされたわけでもない。丙は乙がナイフで甲に切りかかることを全力で阻止しようとしていることからもそのことがわかる。よって丙に傷害罪は成立しない。
 3.結論
 丙は素手で甲を暴行した行為につき傷害罪の構成要件を満たすが正当防衛により罰せられない。乙は丙と同様に素手で甲を暴行した行為については同様に正当防衛により罰せられないものの、ナイフで甲に切りかかった行為については傷害罪が成立する。

以上

 

 

感想

少しずつ練習でもましな答案が作れるようになってきているように感じます。しかし正当防衛と緊急避難をごっちゃにしていたのはいただけません。また、共犯の成立を並列的に記述するのではなく、きちんと結論を出すべきでした。

 

 




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