問題
次の【事例】を読んで,後記〔設問1〕 〔設問2〕 及び に答えなさい。
【事 例】
甲は,平成27年2月1日,L県M市内の路上において,肩が触れて口論となったVに対し,携帯していたサバイバルナイフで左腕を切り付け,1か月間の加療を要する傷害を負わせた。司法警察員Pらは,前記事実で逮捕状及び捜索差押許可状(捜索すべき場所及び差し押さえるべき物の記載内容は,後記のとおり)の発付を受けた上,同月2日,甲を立ち回り先で逮捕した。また,Pらは,同日,甲と同居する乙を立会人として,甲方の捜索を行った。
甲方の捜索に際し,Pは,玄関内において,乙に捜索差押許可状を呈示するとともに,部下の司法警察員Qに指示して,呈示された同許可状を乙が見ている状況を写真撮影した(①)。続いて,Pは,玄関脇の寝室に立ち入ったが,同寝室内には,机とベッドが置かれていた。Pは,Qに指示して,同寝室内全体の写真を撮影した上,前記机の上段の引出しを開けたが,その際,引出し内の手前側中央付近に,血の付いたサバイバルナイフを発見し,その左横に,甲名義の運転免許証及び健康保険証を認めた。Pは,その状況を写真撮影することとし,Qに指示して,前記サバイバルナイフ及び運転免許証等を1枚の写真に収まる形で近接撮影した(② )。Pは,引き続き,前記机の下段の引出しを開けたところ,覚せい剤の使用をうかがわせる注射器5本及び空のビニール小袋1枚を認めた。そこで,Pは,Qに指示して,前記注射器及びビニール小袋を1枚の写真に収まる形で近接撮影した(③ )。その後,Pは,前記サバイバルナイフを押収し,捜索を終了した。
前記サバイバルナイフに付いた血がVのものと判明したことなどから 検察官Rは 同月20日 ,,,L地方裁判所に甲を傷害罪で公判請求した。甲は 「身に覚えがない。サバイバルナイフは乙の物 ,だ 」旨供述して犯行を否認している。 。
(捜索すべき場所及び差し押さえるべき物の記載内容)
捜索すべき場所 L県M市N町○○番地甲方
差し押さえるべき物 サバイバルナイフ
〔設問1〕
【事例】中の①から③に記載された各写真撮影の適法性について論じなさい。
〔設問2〕
Pは,捜索終了後 「甲方の寝室内には,机及びベッドが置かれていた。机には,上下2段の ,引出しがあり,このうち,上段の引出しを開けたところ,手前側中央付近に,サバイバルナイフ1本が置かれており,その刃の部分には血液が付着していた。そして,同サバイバルナイフの左横に,甲名義の運転免許証及び健康保険証があった。」旨の説明文を記した上 【事例】中の②の写真を添付した書面を作成した。Rは,同書面によって前記サバイバルナイフと甲との結び付きを立証したいと考えた。同書面の証拠能力について論じなさい(②に記載された写真撮影の適否が与える影響については,論じなくてよい。)。
再現答案
以下刑事訴訟法についてはその条数のみを示す。
[設問1]
司法警察職員は、犯罪があると思料するときは、犯人及び証拠を捜査するものとされる(189条2項)、捜査については、その目的を達するため必要な取調をすることができる(197条1項前段)が、強制の処分は、この法律に特別の定のある場合でなければ、これをすることができない(197条1項後段)。強制の処分とは、有形力の行使のみならず、プライバシーの侵害など重大な権利を侵害するような行為も含む。司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、裁判官の発する令状により、差押え、捜索をすることができる(218条1項前段)。これが197条1項前段の特別の定である。事前に裁判官の審査に服させるということである。司法警察員Pらは、本件で捜索差押許可状(以下「本件令状」とする)の発布を受け、それを捜索場所である甲方の管理権者である乙に呈示している。
①の写真撮影は、乙が写っており、乙のプライバシーを侵害している。容ぼうをみだりに撮影されないことは判例でも認められた重大なプライバシーの権利である。本件令状は、甲がVに傷害を負わせたことについてのものであり、それが裁判官に審査されている。乙については審査の範囲外である。以上より、①の写真撮影は違法である。
②の写真撮影は、甲の運転免許証等が撮影されている。運転免許等はプライバシーに関わることが記載されており、それを撮影することはプライバシーを侵害する。しかし、本件令状により甲方の捜索が許可されているので、そこにある物が捜索者の目に触れることは当然に予定されている。確かに運転免許証等を写真撮影してそこに記載された文字等を取得することは見ることとは異なるが、②の写真撮影は差し押さえるべき物であるサバイバルナイフの発見状況を記録するために必要であり、そのナイフ及び運転免許証等が1枚の写真に収まるような相当なやり方で撮影されているので、適法である。
③の写真撮影は、注射器及びビニール小袋が撮影されている。これは差し押さえるべき物であるサバイバルナイフとは何の関係もない。確かにそれらも捜索者の目に触れることは予定されているが、写真撮影することまで許可されているわけではない。仮にこのような写真撮影を許容すると、別件捜索を助長してしまう。よって③の写真撮影は違法である。
以上より、①、③の写真撮影は違法であり、②の写真撮影は適法である。
[設問2]
検察官、被告人又は弁護人は、証拠調を請求することができる(298条1項)が、その証拠が要証事実と自然的連関性を有していないと、証拠能力が否定される。本件写真は、本件サバイバルナイフが甲の運転免許証等と同じ引き出しに保管されていたことを示すものである。一般に運転免許証のような大事なものを保管している場所にあるものは同じ人の所有物であると考えられるので、本件サバイバルナイフと甲との結びつきという要証事実との自然的連関性を有しており、証拠能力が肯定される。
公判期日における供述に代えた書面は、伝聞法則により、証拠とすることができない(320条1項)。よって本件書面についても、証拠とせずに、Pを公判期日に尋問するのが筋である。しかし、これには一定の例外(伝聞例外)が認められている。本件書面は、司法警察職員Pが、自ら五感を通じて知覚したことを記載した書面なので、検証の結果を記載した書面だと考えて、321条3項により、Pが公判期日において証人として尋問を受け、その真正に作成されたものであることを供述したときは、これを証拠とすることができる。
以上より、本件書面の証拠能力は肯定される。
以上
感想
捜索時の写真撮影の適法性については、(新)司法試験の過去問で検討したことがあったので、しめたと思いました。[設問2]は改めて再現してみると記述が少ないので、何か論じ損ねているのかもしれません。