浅野直樹の学習日記

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2020 / 10月

令和2(2020)年司法試験予備試験論文再現答案法律実務基礎科目(民事)

以下、民法については、その条数のみを示す。

〔設問1〕
(1)
 所有権に基づく妨害排除請求権としての抵当権設定登記抹消登記手続請求権1個。
(2)
 Yは、本件抵当権設定登記の抹消登記手続をせよ。
(3)
 必要性に乏しいことを前提として、費用の予納(民事執行法14条)や担保の提供(民事執行法15条)といった負担を避けるため。*
(4)
 ① 令和2年5月1日、Xに対し、代金500万円で、甲土地を売り渡した
 ② 本件抵当権設定登記が存在している

〔設問2〕
(1)
 ① 抗弁として主張すべきでない。
 ② 抗弁とは、請求を理由づける事実と両立し、その法律効果を消滅させたり障害したりするものであるところ、(a)の言い分は、請求を理由づける事実(い)の甲土地の売買と両立せず、抗弁ではなく否認であるから。
(2)
(i)
 ① 甲土地にBの所有権が登記されていた
 ② 甲土地をBが所有していないことを知らなかった
(ii)
 Qは、本件抵当権設定登記は、本件抵当権設定契約に基づくことを主張しており、この主張は必要である。抵当権は、債務を担保するものであり(369条)、その債務の発生原因事実として、上記(ア)の主張をしなければならないから。

〔設問3〕
(1)
 Bは、令和4年12月1日に100万円を弁済し、債務の承認をしているため、時効は更新されている(152条1項)。
(2)
 Qが再々抗弁として主張自体失当であると考えた主張は、Bは、令和7年12月25日に200万円を弁済し、時効完成後に債務を承認しているから、信義則(1条2項)上、消滅時効の援用(145条)をすることができないという主張である。166条1項1号の、債権者が権利を行使することができることを知った時というのは、本件において、返済期限である令和2年12月1日であり、時効完成後の債務の承認であることは間違いない。しかし、信義則上消滅時効の援用ができないのは、債務を承認したBのみであって、抵当権を負担しているXは援用できるのだから、Qは主張自体失当だと考えた。

〔設問4〕
第1 XがAに送金した500万円の性質
 本件預金通帳及びX、Bの供述より、令和2年5月20日にXの銀行預金口座からAの銀行預金口座に送金するという形で、XがAに500万円を送金した事実が認められる。
 Bは、この500万円は、BがAから甲土地を購入して本来はBが支払うべき甲土地の代金を、Xが立て替えたものであると主張している。しかし、いくら兄弟間といっても、500万円もの金額を、何の書面もなく立て替えるというのは不自然である。この500万円は、XがAから甲土地を購入してXが支払った甲土地の代金である。
第2 固定資産税
 本件領収書の提出経緯から、この領収書を、Xが所持していたことが認められる。領収書は、金銭の支払いをした証拠であり、一般に、実際に金銭の支払いをした者が所持している。よって、甲土地の固定資産税を、Xが支払ったことが推認される。固定資産税はそれなりにまとまった金額であり、何の理由もなくその領収書を他人に渡すことは考えづらい。Bは、「甲土地の固定資産税は、私が支払っていると思いますが、税金関係は妻に任せており、詳しくは分かりません」と述べるだけで、Bが支払ったとしてXが領収書を所持している説得的な理由を主張していない。Xが供述するように、甲土地の固定資産税は、Xが支払っていたと認められる。そして、ある不動産の固定資産税を支払うのは、その不動産を無償又は低額で利用しているといった特段の事情のない限り、その不動産の所有者であると推測できる。本件では、そのような特段の事情はなく、Xが、甲土地の所有者であると言える。
第3 XA間の代金交渉
 依頼人であるXに確認して、XA間で甲土地の売買代金額の交渉が、令和2年の正月よりも後になされていたとしたら、そのことから、Bの供述の信用性が低下すると主張する。

*に以下を挿入
必要性に乏しいというのは、民事執行法177条1項により、判決や和解等の債務名義があれば、意思表示が擬制されるということである。具体的には、登記は共同申請が原則であるところ、債務名義があれば、単独で登記手続をすることができるからである。

以上



令和2(2020)年司法試験予備試験論文再現答案一般教養科目

〔設問1〕
 クレオンの主張は、その内容の当否はさておき、ポリュネイケスの埋葬をするという行為は、国の公の布告により禁止されているのだから、その行為をしたアンティゴネは非難されるべきというものである。
 これに対し、アンティゴネは、その布告は人間が作った掟に過ぎないため、神々の不滅の掟には劣後すると主張する。同じ母を持った兄が死んだら、その亡骸を野晒しのまま放っておくよりも、それを埋葬するほうが、神々の意思にかなうということである。
 クレオンは、掟(布告)に反する行為そのものよりも、掟を破ろうとする傲慢な態度のほうが、問題であると主張する。アンティゴネだけがそのような傲慢な態度を示しており、他の人々はそのような態度を示していないとのことである。
 これに対し、アンティゴネは、他の人々は王であるクレオンを恐れているだけであって、本心では、ポリュネイケスを埋葬した自分の行為に賛同していると反論している。

 

〔設問2〕
 この論争における対立軸の一つとして、人間が作った実定法と、神々が作ったとでも言うべき自然法との対立を取り上げる。その上で、今日における社会事象の中で同様の対立軸を持つ事象として、貧しくて飢えているために食べ物を盗むという犯罪を挙げる。
 この犯罪を取り締まる国家の側からすると、そのような理由があったとしても、犯罪は犯罪であり、公平や平等の見地から、許容することはできないと主張することが考えられる。さらに、少しでも例外を認めてしまえば、刑罰体系全体が崩壊すると主張するとも考えられる。
 これに対し、そのような行為を弁護する側は、食べ物が豊富に存在し、その近くに飢えた人がいるなら、その人がお金を持っていようがいまいが、その食べ物を食べる自然の権利があると主張する。刑罰というのは、生命や身体などを保護するために設けられたものなのだから、それにより生命や身体が危険にさらされるのは不自然であるという主張もあり得る。
 法秩序の維持という観点から、このような行為を完全に許容することはできないが、起訴をしない、緊急避難の適用を検討する、情状を考慮するなどして、処罰は極小にすべきだと、私は考える。

以上



令和2(2020)年司法試験予備試験論文再現答案刑事訴訟法

以下、刑事訴訟法については、その条数のみを示す。

第1 設問前段について
 弁護人の主張は、確定判決を経たのであるから、判決で免訴の言渡をしなければならない(337条1項)というものであると考えられる。確定判決が何であるかは、有罪判決の場合、335条1項より、罪となるべき事実及び適用法令を基準とする。罪となるべき事実及び適用法令は、起訴状に記載された、検察官が裁判所に対して訴追を求める範囲である訴因を明示した公訴事実及び罪名をもととして(256条2項2号、3号、3項、4項)、312条1項または2項の要件を満たせば訴因又は罰条を追加又は変更し、最終的には裁判所が判断するものである。
 そして、248条の起訴便宜主義より、検察官は、同条に列挙されている事柄や、さらには捜査の進み具合などを考慮して、起訴するかしないかを決めることができる。常習として一罪となる罪の一部を除外して残りの部分だけで常習ではない罪として起訴することも、被告人の罪が重くなりすぎるなど特段の事情がない限り、許容されると解する。
 本件では、①の起訴は、常習傷害罪ではなく、令和元年6月1日の乙に対する傷害の傷害罪での起訴であり、これにより被告人の罪が重くなりすぎるなど特段の事情もないため、このような起訴も許容される。そして、裁判所が判決した有罪の確定判決もそれと同じであるから、②の起訴の事件が確定判決を経たとは言えない。
 以上より、裁判所は、免訴の判決をすべきではなく、公訴の手続きを進めるべきである。

第2 設問後段について
 仮に、②の起訴が、常習傷害罪の公訴事実によりなされていたとしたら、第1と同じように考えると、確定判決を経たとして、判決で免訴の言渡をしなければならない。
 しかし、実際には、②の起訴は、傷害罪の公訴事実によりなされている。そこで、このような起訴が許されるかどうかを、第1で述べた基準に照らして検討する。
 同一の犯罪について重ねて刑事上の責任を問われないことは、日本国憲法39条で保障されている。重ねて刑事上の責任を問われると、その分だけ罪が重くなり、身柄拘束が長くなる可能性がある。他方で、現実には犯罪に相当する事実があったにもかかわらず、これを処罰できないとなると、公益に反する。要するに、1条の、公共の福祉の維持と個人の基本的人権の保障とのバランスという問題である。
 そこで、検察官がことさらに被告人の罪を重くしたり身柄拘束を長くしたりする目的で常習として一罪となる罪の一部を常習ではない罪として起訴することは許されないが、十分な捜査をしたにもかかわらず、判決が確定してから新たな事実が判明した場合には許されると解する。ただし、被告人の罪が重くなりすぎないように、前訴で常習として一罪となる罪の有罪判決が確定していることを、情状として考慮すべきである。
 本件では、①の判決が確定した後に、②の事件が判明しているため、②の事実を傷害罪として起訴することも許される。そうすると、適用法令が異なり、確定判決を経たとは言えない。
 以上より、裁判所は、免訴の判決をすべきではなく、公訴の手続きを進めるべきである。そして、①の判決が確定していることを、情状として考慮すべきである。

以上



令和2(2020)年司法試験予備試験論文再現答案刑法

以下刑法についてはその条数のみを示す。

第1 私文書偽造罪(159条1項)、同行使罪(161条1項)
 甲が、本件居室の賃貸借契約書の賃借人欄に現住所及び変更前の氏名を記入した上、その認印を押し、同契約書をBに渡した行為につき検討する。以下、同契約書を「本件契約書」という。
 甲は、本件契約書をBに渡しているため、行使の目的があり、実際に行使もしている。本件契約書は、権利義務に関する文書である。
 他人の印章若しくは署名を使用して文書を偽造するとは、その文書の名義人と作成者の人格の同一性を偽ることである。名義人とは、その文書の性質からその文書の作成者だと想定される者のことをいい、作成者とは実際に作成した者のことである。一般に、賃貸借契約は、相互の信頼が重要であり、居室で事件等が発生すれば、役所や警察などに入居者の本名を知らせることが予定されている。
 本件では、名義人は変更前の氏名が本名である者であり、実際に作成したのは変更後の氏名が本名である甲である。よって、名義人と作成者の人格の同一性を偽ったと言え、文書を偽造したことになる。印章と署名の両方がある。
 以上より、甲には、私文書偽造罪及び同行使罪が成立する。

第2 詐欺罪(246条2項)
 甲が、Bに対し、変更前の氏名を使用して、預金通帳及び運転免許証を示し、本件契約書を渡すことにより本件居室に入居した行為につき検討する。
 詐欺罪の成立には、欺く行為、その欺く行為による錯誤、その錯誤に基づく財産上の利益の移転、そのことによる財産上の損害が必要である。
 甲は、上記の変更前の氏名を使用した一連の行為により、Bという人を欺いている。Bは、その欺く行為により、甲が暴力団員やその関係者ではないという錯誤に陥っている。そして、Bは、暴力団員やその関係者とは本件居室の賃貸借契約を締結する意思はなかったのだから、その錯誤に基づいて本件賃貸借契約を締結し、本件居室に入居っせるという財産上の利益を移転している。甲には家賃等必要な費用を支払う意思も資力もあったのだから財産上の損害がないようにも思われるが、暴力団員又はその関係者が不動産を賃借して居住することによりその資産価値が低下するため、財産上の損害も認められる。
 以上より、甲には詐欺罪が成立する。

第3 傷害致死罪(205条)、傷害罪(204条)、過失致死罪(210条)
1.拳で丙の顔面を殴った行為
 この行為は、傷害罪の構成要件を満たし、丙は、それにより生じた急性硬膜下血腫により死亡しているため、傷害致死罪の構成要件を満たす。因果関係は、実行行為のもつ危険が現実化したかどうかで判断し、介在事情がある場合は、実行行為の危険性の大小、介在事情の異常性の大小、介在事情の結果への寄与度の大小から判断するところ、本件では、この行為の危険性は大きく、足蹴り行為という介在事情の異常性は小さくないが、それが結果へは全く寄与していないので、因果関係があると言える。
 正当防衛(36条1項)が問題となり得る。丙が甲の前に立ち塞がり、スタンガンを取り出すことは、甲の身体という権利への、急迫不正の侵害に当たる。甲は、自己の身体を守るために、やむを得ずこの行為をしている。よって正当防衛が成立するように思われる。しかし、実際には、丙が取り出したのはスマートフォンであり、甲はそれをスタンガンだと誤想している。つまり、客観的には正当防衛の状況ではなかった。このような場合は、この行為に及ばないという反対動機を形成するのが困難であるため、責任故意(38条1項)が阻却されると考える。そして、丙が取り出したものがスマートフォンであり、丙が直ちに自己に暴行を加える意思がないことを容易に認識することができたのであるから、その誤想に過失がある。
 以上より、甲には、過失致死罪が成立する。
2.足蹴り行為
 足蹴り行為は、傷害罪の構成要件を満たし、正当防衛は成立しない。よって、甲には傷害罪が成立する。

第4 結論
 以上より、甲には、①私文書偽造罪、②同行使罪、③詐欺罪、④過失致死罪、⑤傷害罪が成立し、①ないし③はけん連犯(54条1項後段)、これと④、⑤は併合罪(45条)となる。

以上

 



令和2(2020)年司法試験予備試験論文再現答案行政法

〔設問1〕
第1 本件条項の性質
 本件条項の性質は、行政手続法(以下「行手法」という。)2条6項の行政指導である。
 A市は行政機関である。本件条項は、その任務又は所掌事務の範囲内において一定の行政目的を実現するため特定の者に一定の作為又は不作為を求める指導、勧告、助言その他の行為である。行手法2条2項の処分とは、公権力の主体である国又は地方公共団体の行為のうち、その行為により、直接国民の権利義務を形成し、又はその範囲を画定することが法律上認められているものであるところ、後述する理由で処分には該当しないからである。

第2 法の定める開発許可制度との関係
 地方公共団体は、法律の範囲内で条例を制定することができる(日本国憲法94条)。普通地方公共団体は、法令に違反しない限りにおいて、条例を制定することができる(地方自治法14条1項)。法律の範囲内であるかどうか、法令に違反しないかどうかは、法律と条例の文言のみによることなく、その目的、趣旨、効果などを総合的に考慮して判断する。
 都市計画法33条では、開発行為が基準に適合している場合には開発許可をしなければならないとされており、他の理由で開発許可をしないことを許さない趣旨である。だからこそ、A市開発事業の手続及び基準に関する条例(以下「条例」という。)には、開発許可をしないことを許す他の理由は規定されていないのである。
 そして、普通地方公共団体は、義務を課し、又は権利を制限するには、法令に特別の定めがある場合を除くほか、条例によらなければならない(地方自治法14条2項)。本件条項は、条例に基づくものではないため、これにより直接国民の権利義務を形成し、又はその範囲を画定することが法律上認められているものではない。

第3 結論
 以上より、本件条項に法的拘束力は認められない。

 

〔設問2〕
 取消訴訟の対象となる処分(行政事件訴訟法3条2項)とは、公権力の主体である国又は地方公共団体の行為のうち、その行為により、直接国民の権利義務を形成し、又はその範囲を画定することが法律上認められているものをいう。
 本件通知は、公権力の主体である地方公共団体のA市の行為である。その行為により、直接国民の権利義務を形成し、又はその範囲を画定することが法律上認められているものであるかどうかが問題となる。
 A市は、本件通知は観念の通知という事実行為に過ぎず、直接国民の権利義務を形成し、又はその範囲を画定することが法律上認められているものではないと反論することが想定される。
 確かに、これは観念の通知という事実行為であるようにも思われる。しかしながら、都市計画法33条に基づく、開発許可の申請に対する許可又は不許可の応答は処分であるところ、条例4条により事前協議を経なければ開発許可の申請ができないと解される。よって、本件通知は、国民であるBの、許可又は不許可の応答を求めるために開発許可の申請をすることができる地位を否定するものであり、直接国民の権利義務を形成し、又はその範囲を画定することが法律上認められているものであると言える。仮に、本件通知が処分ではないとすると、Bは取消訴訟を提起することができなくなり、不当である。
 以上より、本件通知は、取消訴訟の対象となる処分に当たる。

以上




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