浅野直樹の学習日記

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2020 / 10月

令和2(2020)年司法試験予備試験論文振り返り

仕事が休みなのをいいことに、今日一日をかけて、昨日、一昨日に受けてきた司法試験予備試験論文の再現答案をアップしました。ついでに感想も書いておきます。

 

全体

毎年のことではありますが、自分の中で過去最高の状態で、全力を出し切ったという感触があります。

今年の5月に司法試験予備試験答案の書き方2をまとめました。そこで書いたことを実践したつもりです。

ここ数か月は、諸事情により、仕事が比較的手薄で、例年になく勉強時間を確保できました。旧司法試験の平成以降の問題を全部解きました。手書きではなくパソコン上でのタイピングですし、一行問題や法改正により今では変わっている問題を飛ばしたりはしましたけれども。答え合わせとして、LECの「論文の森」シリーズやWセミナーの「新論文過去問集」などを参考にしました。

 

憲法・行政法

行政法から手を付けました。処分性については、行政手続法と行政事件訴訟法で同じでよかったっけとか不安になりつつも、大きく外してはいないと信じたいです。〔設問1〕と〔設問2〕で矛盾していないかもやや不安です。法律と条例の関係を書くよりも、侵害留保を書くべきだったのかもしれません。

令和2(2020)年司法試験予備試験論文再現答案行政法

憲法では、博多駅テレビフィルム提出命令事件の枠組みで、公正な裁判の実現の代わりに私生活の平穏を据えればよいのかなと考えました。問題文を読んだ最初の感想は、このような不明確な規定で処罰されるのはダメだろうというものでした。31条の明確性の理論です。漠然不明確と過度の広汎性ってどう違うんだったっけなどと迷いつつも、不明確で押し切りました。全体として、論理のつながりが微妙なようにも感じます。

令和2(2020)年司法試験予備試験論文再現答案憲法

 

刑法・刑事訴訟法

刑法は時代によってあまり変わらないので、旧司法試験の過去問を大量に解いた効果が発揮されたと思います。特に誤想防衛は平成の初期の旧司法試験で何度か出題されており、正解筋に乗れたのではないかと考えております。詐欺罪についても問題文中の事情を拾うことはできたと感じています。私文書偽造罪の成否については大いに悩みました。交通事故の原票の話と同じように考えればよいのではないかと思いつき、そちらに寄せるような解釈を示しました。

令和2(2020)年司法試験予備試験論文再現答案刑法

刑事訴訟法のほうは、そのものずばりという旧司法試験の過去問を解いた記憶がなかったため、条文をさかのぼりながら考えました。このテーマそのものはどこかで読んだことがあったため、ひどく外しているということはないと信じています。

令和2(2020)年司法試験予備試験論文再現答案刑事訴訟法

 

一般教養科目

大学では精神分析を先行していましたから、アンティゴネの話は読む前から知っていました。〔設問2〕では、自然法と実定法の対立軸を出せばよいのだと考えています。一通り書いても指定の行数に少し足りなかったため、最後に私見を入れました。

令和2(2020)年司法試験予備試験論文再現答案一般教養科目

 

法律実務基礎科目

民事のほうはざっと読んで分量に圧倒され、刑事から先に書くことに決めました。

〔設問1〕の犯人性はこれでよかったのだと思います。〔設問2〕は条文を間違えていないことを祈るのみです。〔設問3〕の伝聞もこれでよいはずです。〔設問4〕は列挙しただけで、比較まではできませんでした。全体的にあっさりとした記述になっています。

令和2(2020)年司法試験予備試験論文再現答案法律実務基礎科目(刑事)

民事は〔設問1〕で民事執行法のことを聞かれて面食らいました。余った時間で見直しているときに意思表示の擬制の民事執行法177条を発見し、慌てて追記しました。全体的に、頑張りを見せることはできていると思いますが、勘違いをしているところもあるかもしれません。

令和2(2020)年司法試験予備試験論文再現答案法律実務基礎科目(民事)

 

民法・商法・民事訴訟法

最初に問題冊子をぱらっと見た感触では、民事訴訟法が書きやすそうでした。直前に第4回 将来の損害額の算定基準の変動と損害賠償請求訴訟 – TIPPP’s blogを読んでいたから書きやすく感じたのです。〔設問1〕では、債務不存在確認訴訟の性質、一部請求の可否などが組み合わさっており、書きながら考えました。

令和2(2020)年司法試験予備試験論文再現答案民事訴訟法

次に民法に取り組みました。〔設問1〕では表見代理について検討するのは明らかでしたが、それを否定して終わりというだけではないはずなのに、他の構成がしばらく思いつきませんでした。事務管理だと後見人という事情が活かされないしなどと考えて、信義則による追認の路線かなとひらめきました。もっとも、簡単にこれを認めてよいのかどうかわかりません。事案としては、請求できるという結論にしたかったです。〔設問2〕は民法改正ともからむ債権者代位権と詐害行為取消権という方向性でよいかと思います。このような記述でよいのかどうか不安です。

令和2(2020)年司法試験予備試験論文再現答案民法

商法では残り時間が足りませんでした。細かい条文はかなり落としていると思います。大筋さえ外していなければ上出来といったところです。

令和2(2020)年司法試験予備試験論文再現答案商法

 



令和2(2020)年司法試験予備試験論文再現答案民事訴訟法

以下、民事訴訟法については、その条数のみを示す。

〔設問1〕
第1 受訴裁判所が本訴について下すべき判決
 まず、本訴が適法かどうか、適法だとしてその訴訟物は何かを検討する。
 法律関係の確認を求める訴えを提起することができる(134条)。法律関係の確認を求める訴えは、無限定に広がりやすく、被告の労と訴訟資源の観点から、紛争の成熟性(即時確定の利益)、対象選択の適切さ、方法の適切さ(補充性)が満たされた場合にのみ許されると解する。本件では、本件事故によるYの人的損害の発生については、XY間の主張が食い違い、交渉が平行線となったとのことであるので、紛争の成熟性は満たしており、対象選択の適切さも、方法の適切さも満たしている。よって、本訴は適法である。
 損害賠償債務の不存在の確認を求める訴えの訴訟物は、物損も人的損害も全部含めて、本件事故に起因するYのXに対する損害賠償請求権全体である。訴訟物は、実体法を基礎として、原告が裁判所に審判を求める範囲であるところ、民法709条では物損と人的損害が区別されていないことに加え、原告の通常の意思からしても、上記のように考えるべきであるからである。
 債務不存在確認訴訟が先行している場合に、給付の訴えの反訴が提起された場合には、先行している債務不存在確認訴訟の訴えの利益は失われるとするのが、判例の立場である。そして、処分権主義及び訴訟費用の節約などの必要性から、数量的に可分な権利の一部請求も可能であるとするのが判例の立場である。一部請求であることが明示されている場合は、訴訟物はその一部に限定される。
 以上より、本件では、500万円の支払いを求めるYの提起した反訴により、本訴の訴えの利益はその分だけ失われる。
 以上より、受訴裁判所は、本訴について、500万円を超えてはXのYに対する本件事故による損害賠償債務は存在しないとの判決を下すべきである。
第2 本訴についての判決の既判力
 本訴についての判決の既判力(114条1項)は、500万円を超えてはXのYに対する本件事故による損害賠償債務は存在しないという判断について生じる。

〔設問2〕
 前訴判決により、本訴について〔設問1〕で述べた既判力が、反訴について500万円の不存在の判断について既判力が発生する。その結果、本件事故に起因するXのYに対する損害賠償債務は一切存在しないことについて既判力が生じる。よって、既判力の作用により、後訴においてYの残部請求が認められないのが原則である。不当な蒸し返しを防ぎ、紛争を終局的に解決する機能を既判力は果たしている。しかし、本件のように、前訴判決後に損害が表面化したような場合は、不当な蒸し返しではなく、その者にとって酷である。
 判例の立場では、前訴はその時点までに表面化している損害に限定した一部請求であると解し、残部には前訴の既判力が及ばないとする。これを根拠として、後訴においてYの残部請求が認められる。判例の立場とは異なるが、既判力の基準時は口頭弁論終結時であるところ(115条1項3号)、新たに表面化した損害はその基準時以後の事情として時的な意味で前訴の範囲外とする立場や、117条1項の定期金による賠償を命じた確定判決の変更を求める訴えの規定を類推適用する立場もあり、これらも後訴におけるYの残部請求が認められるための根拠となり得る。

以上



令和2(2020)年司法試験予備試験論文再現答案商法

以下会社法についてはその条数のみを示す。

〔設問1〕
第1 Bの乙社に対する損害賠償責任
 Bは乙社の取締役である。本件買取りは、名義も計算もBである。よって、356条1項2号に該当し、株主総会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない(同項本文)。乙社の取締役はBのみであり、365条の適用はない。乙社でその株主総会が開催された形跡はない。
 本件ワインの市場価格は総額150万円であったところ、本件買取りは300万円で行われており、その差額の150万円分の損害が乙社に発生している。レストラン乙での提供価格は総額300万円程度となることが見込まれたとのことであるが、そうだとしても、得られたはずの利益が得られなくなっているので、やはり損害は発生している。よって、Bは、乙社に対し、150万円の損害賠償責任を負う(423条3項1号、1項)。
 甲社は乙社の発行済株式の全てを保有しており、完全親会社(847条の3第2項1号)である。Cは、その甲社の株式の10分の3を有しており、総株主の議決権の100分の1以上の議決権を有する株主である。よって、Cは、乙社に対し、特定責任追及の訴えの提起を請求することができる(847条の3第1項)。乙社がその請求の日から60日以内に特定責任追及の訴えを提起しないときは、Cは、乙社のために、特定責任追及の訴えを提起することができる(同条7項)。

第2 Aの甲社に対する損害賠償責任
 Aは甲社の取締役であり、忠実義務を負う(355条)。これは、民法644条の善管注意義務と同じであると解されている。よって、A社は、甲社の財産である、乙社の株式価値をき損しないようにする義務を負っている。Aは、本件買取りを漫然と承認することにより、第1で述べた損害が乙社に発生し、その分だけ乙社の株式価値が低下している。以上より、Aは、甲社に対し、150万円の損害賠償責任を負う(423条1項)。
 Cは甲社の株主である。よって、Cは、甲社に対し、責任追及等の訴えの提起を請求することができる(847条1項本文)。甲社がその請求の日から60日以内に責任追及等の訴えを提起しないときは、Cは、甲社のために、責任追及等の訴えを提起することができる(同条3項)。

〔設問2〕
第1 甲社において必要となる手続
(1) 自己株式の取得(155条)
 本件合意により、甲社は自己株式を取得する。よって、甲社は、株主総会の決議によって、156条1項各号の事項を定めなければならない(同条1項本文)。そして、Cという特定の株主からの取得であるため、160条の要件も満たさなければならない。
(2) 事業譲渡(467条1項2号の2)
 丙社の株式の帳簿価額は3000万円であり、総資産額1億円の5分の1を超える(同号イ)。よって、その効力を生ずる日の前日までに、株主総会の決議によって、当該行為に係る契約の承認を受けなければならない(467条1項本文)。
第2 乙社において必要となる手続
 467条1項4号。株主総会の決議による契約の承認。

以上



令和2(2020)年司法試験予備試験論文再現答案民法

以下民法についてはその条数のみを示す。

〔設問1〕
第1 表見代理(109条1項)
 Cは、表見代理を根拠として、本件消費貸借契約に基づき、Aに対して、貸金の返還を請求することが考えられる。
 Aは、第三者であるCに対して、他人であるBに代理権を与えた旨を表示した者である。Bは、Cとの間で、その代理権の範囲である本件消費貸借契約を締結した。よって、Aは、その責任を負うようにも思われる。ただし、Cは、Bが代理権を与えられていないことを過失により知らなかった。本件消費貸借契約はAの入院費用のためであるところ、Aが入院した令和2年4月10日から、本件消費貸借契約が締結された同年4月20まで、Aはずっと意識不明であったことをCは知っており、AがBに代理権を与えなかったことを知ることができたからである。
 以上より、表見代理は成立しない。
第2 信義則(1条2項)による追認
 この無権代理による本件消費貸借契約を、本人であるAが追認すれば、Aに効力を生じる(113条1項)。そして、Cは、その追認をするかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる(114条)。
 この追認をするかどうかということは、財産に関する法律行為であるため、後見人であるBが、被後見人であるAを代表する(859条1項)。無権代理行為をした者が、本人の後見人になった場合は、信義則上、追認を拒絶できないと解する。本件では、無権代理行為をしたBが、本人であるAの後見人になっている。よって、Bは、信義則上、追認を拒絶できない。
 以上より、Cは、本件賃貸借契約に基づき、Aに対して、貸金の返還を請求することができる。

〔設問2〕
第1 債権者代位権(423条1項)
 Dは、Aに対して500万円の債権を有する債権者である。Aは、本件不動産以外にめぼしい財産がなく、その不動産にはEの所有権が登記されているため、自己の債権を保全するため必要がある。債務者であるAに属する権利は、本件売買契約を詐欺を理由として取り消す権利である(96条1項)。その債権の期限は令和5年4月末日に到来しており、同条2項の要件を満たし、金銭債権であって強制執行により実現することのできないものでもないから同条3項の要件も満たす。
 債権者代位権は、いわば他人間の法律関係に横から口出しするのであるから、必要最小限度にとどめるべきである。同条1項ただし書の債務者の一身に専属する権利とは、権利を行使するかどうかを債務者の意思に委ねるべきものであると解する。本件売買契約を詐欺を理由として取り消す権利は、その権利を有するAの意思に、それを行使するかどうかを委ねるべきものである。よって債務者の一身に専属する権利に該当する。
 以上より、Dは、債権者代位権を行使することはできない。
第2 詐害行為取消権(424条1項)
 DはAに対する債権者である。同項の行為には不作為も含まれる。債権者の保護という観点からは、不作為を除外する理由はないからである。Aが、本件売買契約を詐欺を理由として取り消す権利を行使しないという不作為は、債務者が債権者を害することを知ってした行為に当たる。不作為という行為を取り消すということは、作為をするということである。よって、Dは、裁判所に、Aが、本件売買契約を詐欺を理由として取り消す権利を行使することを請求することができる。受益者であるEは、実際には本件不動産が3000万円相当の価値を有していることを知っており、同項ただし書には該当しない。第1で述べたことより、同条2項ないし4項の要件も満たす。
 また、相当の対価を取得しているときではないため、424条の2の適用場面ではない。そして、この取り消す権利は可分ではないため、424条の8第1項も適用されない。
 以上より、Dは、Eに対し、本件登記の抹消登記手続を請求することができる。

以上

 



令和2(2020)年司法試験予備試験論文再現答案法律実務基礎科目(刑事)

以下、刑事訴訟法については、その条数のみを示す。

〔設問1〕
(1)
 Aが、令和2年2月1日の午後2時頃から午後9時45分頃までに、V方を訪問し、その1階居間中央にある応接テーブルに触れたことまでは十分に推認できる。しかし、本件は殺人被疑事件であるところ、Aが、Vを、殺意を持って殺害したということまでは、十分に推認できないから。
(2)
 証拠⑨及び⑩より、このナイフによってVが殺害されたことが、証拠④とも合わせて、認められる。そして、このナイフが問題文中にある竹やぶの中にあるということは、犯人しか知らないことである。証拠⑦によると、このナイフがその竹やぶにあることをAが知っていた。よって、Aの犯人性が十分に推認できる。下線部アもこれを支持する。

〔設問2〕
(1)
 Aの弁護人は、316条の15第1項3号に該当するとして、証拠開示の請求をすべきである(同条1項本文)。その際には、開示を求める証拠は、犯行が行われた時刻頃にV方からの物音を聞いたW2以外の者の供述録取書であること(同条3項1号イ)、Aの殺意を認定する一材料になる証拠⑦中のW2の供述の証明力の程度を判断するために必要であること(同号ロ)を、明らかにすべきである。
(2)
 同条1項本文に沿って考える。この証拠は、同条1項3号に該当し、重要であって被告人の防御のために必要であり、これを開示しても弊害が生じるおそれは少ないから、検察官は、証拠⑥をAの弁護人に開示した。

〔設問3〕
 Aの弁護人の申立ては、『むかついたので…見付かることはないよな。』(以下「本件発言」という。)というAの発言部分が、320条1項により証拠から排除されるという主張であると考えられる。320条1項は、人の供述は、知覚、記憶、保持、再生のプロセスを経て行われるものであり、その各段階で誤りが混入しやすいから、反対尋問でぎんみされない限りは証拠から排除するという趣旨である。この趣旨からすると、ある発言の内容が真実であることを証明しようとするときはこの伝聞法則により証拠から排除されるが、その発言があったこと自体を証明しようとするときは、上記趣旨は当てはまらず、伝聞法則により排除されないと解する。
 本件において、検察官がCの証言により立証しようとしている事実は、本件発言の内容の真実性ではなく、Aが本件発言をしたこと(Cが本件発言を聞いたこと)である。これは、伝聞法則により排除されず、Cの証人尋問だけで証拠とすることができる。
 以上より、裁判所は、Aの弁護人の申立てに基づき証拠排除決定をすべきではない。

〔設問4〕
第1 勾留の執行停止(95条)
 父の葬儀にだけは出席したいということは、適当と認められるため、裁判所は、決定で、勾留の執行を停止することができる。
第2 裁量保釈(90条)
 父の葬儀に出席できないということは、社会生活上大きな不利益であり、裁判所は、職権で保釈を許すことができる。
第3 権利保釈(89条)
 第1回公判期日までの段階では、同条1号及び4号に該当する事由があったとのことであるが、結審後、判決宣告期日までという現段階では、全ての証拠調べが終わっており、4号に該当することはなくなっている。しかし、1号には該当するので、保釈が義務的になることはない。

以上




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