令和5(2023)年司法試験論文再現答案行政法

再現答案

〔設問1〕(1)
第1 処分性一般
 取消訴訟(行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)3条2項)の対象となる処分とは、公権力の主体たる国または公共団体の行為のうち、その行為により直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているもののことをいう。処分性を認めるかどうかの判断には、どの段階で訴訟において争うのが適当かという観点も採り入れる。
第2 本件解職勧告の処分性
 本件解職勧告が取消訴訟の対象となる処分に該当するか否か(処分性が認めれるかどうか)を検討する。
 本件解職勧告は、B県知事が、社会福祉法(以下「社福法」という。)56条7項に基づきAに対して一方的に行ったものであるから、公権力の主体たる公共団体の行為である。
 これは「勧告」であってCの解職を勧めるということであるから、AにCを解職するように義務づけるものではないと解釈することができる。AがCを解職しなかったとしても、社福法上罰則などが予定されているわけではない。よって、本件解職勧告に処分性は認められないように思われる。
 同じ「勧告」であっても、医療法上の病院開設中止の勧告について処分性を認めた最高裁判決が存在する。これは、その勧告に従わずに病院を開設した場合に、相当程度の確実さをもって保険診療ができないことが見込まれるため、例外的に処分性を認めたと考えられる。病院の開設にはかなりの資本投下が必要であり、保険診療をしない病院というのは現実的ではないから、その前に訴訟において争うのが適当だという判断がされたと考えられる。
 本件では、その後に多大な資本投下が予定されているわけではなく、必要になったときにAがCを解職する義務のないことの確認を求める当事者訴訟(行訴法4条)などで争うのが適当であり、勧告の段階で処分性を認める必要はない。
 行政手続法13条1項1号ハで聴聞が定められているのは、役員の解任は、名あて人である法人とは別に役員個人にも大きく関わることだから、慎重な手続を求める趣旨であると解釈することができる。社福法56条9項で弁明の機会が設けられているのも、同じ趣旨であると考えられる。よって、この点も本件解職勧告に処分性を認める根拠とはならない。
 以上より、本件解職勧告は、取消訴訟の対象となる処分に該当しない(処分性が認められない)。

〔設問1〕(2)
第1 原告適格一般
 取消訴訟の原告適格は、当該処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者に認められている(行訴法9条1項)。「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により、自己の権利もしくは法律上保護された利益が、侵害され、または必然的に侵害されるおそれのある者のことをいう。そして、当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益をもっぱら一般的公益に解消するにとどめず、これが帰属する個々人の具体的利益として保障する趣旨であると解されるときには、このような利益も法律上保護された利益に当たる。
第2 Dの原告適格
 Dは、Aの業務の執行について、役員報酬等の対価を得ていたと想定される。本件解散命令によりAが解散すると、そのような対価を得られなくなる。しかし、社福法には、役員報酬等の対価を保障する趣旨であると解される条項はない。よって、Dに原告適格が認められないように思われる。
 形式的には処分の相手方以外の第三者に当たるけれども、処分の相手方(名あて人)に準ずる者として不服申立適格または原告適格を認めた複数の最高裁判決がある。しかし、それはいずれも、処分の相手方(名あて人)と同質の利害を有する者である。本件の処分の相手方(名あて人)は、社会福祉法人であるAであり、DはそのAの理事長以外の理事である。確かにDは社会福祉法人の業務を執行する理事ではあるが、法人全体の業務執行と、一理事としての業務執行とでは、質的に異なる。よって、処分の相手方(名あて人)に準ずる者としてDに原告適格が認められることもない。
 以上より、Dに当該取消訴訟の原告適格は認められない。

〔設問2〕(1)
第1 「重大な損害」一般
 行訴法25条2項の「重大な損害」とは、事後的な金銭賠償になじまないまたは不適当な損害のことをいう。そのような損害については、行政庁の処分による公定力を排し、執行停止を認めるという趣旨である。
第2 Aの主張
 Aは、本件解散命令により、経営している複数の社会福祉事業を継続できなくなって信頼が失われ、またAの福祉サービス利用者もAが経営する事業所に通い続けられなくなるという不利益が生じ、これは事後的な金銭賠償になじまないと主張すべきである。
 これに対し、B県は、すでに本件改善勧告に関するAの不遵守が公表されているからこれ以上信頼が失われることもなく、現状を放置してAの福祉サービスの利用者の待遇が悪化したり突然Aが経営する事業所に通えなくなるほうが不利益だと反論することが想定される。しかし、すでに本件改善勧告に関するAの不遵守が公表されているとしても解散命令に伴い信頼はさらに低下すると考えられ、通い慣れた事業所に通えなくなることが利用者の不利益であることに変わりはないのであるから、やはり事後的な金銭賠償になじまず、「重大な損害」に当たると再反論すべきである。
 弁護士に対する業務停止3か月の懲戒処分について執行停止を認めた最高裁決定とは、損害の性質や程度等は異なるかもしれないが、一度失った信頼を取り戻すのは困難であるということや、非代替的なサービスが停止されるという点は共通しており、この決定を参考にしても「重大な損害」に当たると、Aは主張すべきである。

〔設問2〕(2)
 Aは、本件解散処分については社福法56条各項の「できる」という文言や地域的な専門性などからB県知事に一定の裁量が認められるとしても、社福法27条に該当する理事であるDではなく、改善に向けて努力しているCを解職するようにという勧告を出し、それに従わないことを主な理由とする本件解散処分は、裁量権の逸脱・濫用であって(行訴法30条)、取り消されるべきであると主張すべきである。
 これに対し、B県は、Cは理事長であって、Dを監督する立場にあるから、それができていないCの解職勧告も適切であって、裁量権の逸脱・濫用はないと反論する。Aは、CがまさにDから事事実経緯の一部を聴取して監督して改善しようとしているところでCの解職を勧告することは、裁量権の逸脱・濫用であると再反論すべきである。
 また、B県が公表している類似事案に照らしても、本件解散処分は重すぎて平等原則に違反するとも、Aは主張すべきである。これに対しては、金額よりも改善の見込みが重要なのであって、類似事案に照らして平等原則違反はないとB県は反論する。Aは、改善の見込みがないわけではなく、改善に協力する姿勢であったと再反論すべきである。

以上

感想

 処分性と原告適格という行政法の二大論点が問われながらも、ひとひねりされているように感じました。誘導に乗り切れず、書いていてもこれでよいのかという疑問がつきまといました。解答用紙の5ページ目に突入はしたので、分量的に少なすぎるということはないかなと思っています。




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