令和5(2023)年司法試験論文再現答案民事訴訟法

再現答案

以下民事訴訟法については条数のみを示す。

〔設問1〕
第1 不当な方法で収集された証拠方法の証拠能力の有無を判断する基準
 不当な方法で収集された証拠方法の証拠能力が否定される法的根拠は、2条の信義則である。刑事訴訟法とは異なり、民事訴訟法には、それ以上の法的根拠がない。よって、著しく人権を侵害する方法で収集された証拠方法に限り、例外的に証拠能力が否定されると解する。
第2 本件文書の証拠能力
 本件文書は、Xがプライベートで利用しているアカウントのメールで配偶者Aに対して送った電子メールの内容をプリントアウトしたものである。一般に、このようなプライベートなメールの内容をのぞかれない権利は、日本国憲法13条で保障されるプライバシーの権利という人権に属する。
 もっとも、本件では、Xが自らYを自室に招き入れ、Yがそのメールを閲覧できる状況を作り出した。よって、この状況下でYが自分のUSBメモリに保存したという収集方法は、Xの人権を著しく侵害するということはない。Xは、Yに対し、かなりの程度プライバシーの権利という人権を放棄していたからである。
 以上より、本件文書の証拠能力は認められる。

〔設問2〕
第1 (ア)の場合
 (ア)甲債権は弁済により消滅したという判断に至った場合は、甲債権の支払を請求している本件訴訟におけるXの請求を棄却すべきにも思われる。しかし、304条の不利益変更禁止原則より(第一審判決の取消し及び変更は、不服申立ての限度においてのみ、これをすることができるということは、裏から言うと控訴人の不利益に変更することが禁止されるということである)、控訴したXにとって不利益となる請求棄却の判決をすることは許されない。
 以上より、控訴棄却の判決(302条1項)をすべきことになる。
第2 (イ)の場合
 (イ)甲債権と乙債権はいずれも弁済による消滅はしていないが、丙債権の存在は認められないという判断に至った場合は、乙債権を自働債権とする相殺が認められることを理由として、Xの請求を棄却すべきようにも思われる。しかし、第1と同様に、不利益変更禁止原則との兼ね合いが問題となる。今回は、乙債権の不成立の判断について既判力が生じるので(114条2項)、控訴したXにとって不利益がないとも考えられる。それでもやはり、請求認容と請求棄却を比べると後者のほうが不利益なので、不利益変更禁止原則に抵触する。
 以上より、控訴棄却の判決(302条1項)をすべきことになる。
第3 (ウ)の場合
 (ウ)甲債権は弁済による消滅はしていないが、乙債権は弁済により消滅したという判断に至った場合は、丙債権を自働債権とする相殺を理由としない請求認容判決をすべきであるように思われる。第一審の丙債権を自働債権とする相殺の再抗弁を認めたXの請求認容判決については、丙債権の不成立の判断について既判力が生じるので(114条2項)、同じ請求認容判決でも異なる。訴訟上で初めて相殺の主張をした場合も、訴訟外で意思表示をした相殺の主張を訴訟上でした場合も、114条2項により既判力が生じる。
 以上より、第一審(原審)判決を取消し、丙債権による相殺を理由としないXの請求認容判決をすべきである(305条、307条ただし書)。

〔設問3〕
第1 課題1
 甲債権の存在を認めた(Xの甲債権の支払請求権を認めた)前訴確定判決の既判力がZに及ばないかが問題となる。前訴に補助参加したZが115条1項1号の当事者に当たるかという問題である(同項2号ないし4号に該当することはない)。補助参加人は、45条2項より、被参加人と比べて、従属的な地位にある。現に前訴補助参加人Zも、同項により、免除の事実の主張やZの証人尋問の申出が、被参加人Yの訴訟行為と抵触して、することができなかった。よって、Zは、115条1項1号の当事者には当たらないと解すべきである。115条1項各号は、すべて何らかの形で手続保障がなされていたと評価できるから、既判力を及ぼすことが正当化される類型である。主たる立場の被参加人と比べて従たる立場の補助参加人は、手続保障が十分ではないので、既判力が及ぼされるべきではない。
 また、46条の参加的効力については、先に見たように同条2号に該当するので、補助参加人Zに及ばない。そもそも、46条は敗訴責任の分担という制度趣旨から参加的効力を認めたものであるから、前訴でYの側に補助参加してXの側に補助参加していない本件では、Xとの関係で参加的効力が生じることはない。
 以上より、XのZに対する訴えに係る訴訟手続において、甲債権の存在を認めた前訴確定判決に基づく何らかの拘束力が作用することはない。
第2 課題2
(1)補助参加人が被参加人に対して前訴確定判決を援用することが許されるか
 被参加人が補助参加人に対して前訴確定判決を援用することが一般的である。しかし、被参加人から訴訟告知(53条)を受けて補助参加人が補助参加することもあれば、本件のZのように訴訟告知を受けずに自らの意思で補助参加人が補助参加することもある。補助参加は、被参加人のための制度であるとともに、補助参加人のための制度でもある。また、46条の参加的効力の精度趣旨は、敗訴責任の分担である。そうすると、被参加人からの補助参加人に対する援用だけでなく、補助参加人から被参加人に対する援用も認められるべきである。本件のZのように、その実益もある。
 以上より、補助参加人が被参加人に対して前訴確定判決を援用することが許される。
(2)前訴確定判決の効力が作用するか否か
 本件では、第1で確認したように、45条2項の規定により、前訴補助参加人Zの訴訟行為が効力を有しなかった。よって、46条2号に該当し、参加的効力が生じないようにも思われる。しかし、これは、主たる立場の被参加人と比べて従たる立場の補助参加人を保護するための規定である。よって、補助参加人が被参加人に対して援用をする場合には適用されない。
 以上より、ZのYに対する訴えに係る訴訟手続において、前訴確定判決の効力(46条の参加的効力)が作用し、Yは甲債権の存在を否定することができなくなる。

以上

感想

 配点と内容から、〔設問1〕が令和4(2022)年の〔設問3〕に相当する実務よりの問題かなと思い、あまり時間をかけすぎないようにしました。〔設問2〕と〔設問3〕は自分なりに考えて書いたつもりですが、正解筋なのかどうかわかりません。このように多くの人が考えたことのないような試験問題をよく思いつくものだと感心します。



  • 設問1
    規範(法的根拠がない、よって著しく‥)の論理性がよくわかりません。当てはめとして、証拠の重要性に触れられていません。憲法論から言って、PCデータの盗み見が基本権の放棄に当たるのでしょうか。昭和女子大事件が基本権の放棄らしき判示ではありますが、建学の精神を認めて入学したこと(部屋に招き入れたこと)を引用することは難しい気がしています。

    設問2
    不利益変更禁止原則の効果が「請求棄却」でよろしいでしょうか。第一審判決の取消・変更の可否を論じるのではないでしょうか(それも結局、不可とするなら棄却ではありますが)。請求棄却と控訴棄却とで書き分けていらっしゃるようですが、表現として気になりました。
    (ア)どう不利益になるのかの記述がありません。
    (イ)Xには利益しかなさそうな気がしています。判決の結論からのみ利益か、不利益かを比較する論述になっていますが、下記(ウ)と論理矛盾があると捉えられてしまいそうです。
    ここは利益変更禁止原則の問題とすべきなのではないでしょうか。
    (ウ)不利益変更禁止原則が規範なのでしょうか。
    丙債権を自働債権とした訴訟外の相殺の再抗弁が予備的に主張されているので、乙債権の弁済の再抗弁が認められる場合には相殺の再抗弁は不判断なのかと。そうするとYの乙債権を自働債権とする相殺の抗弁は失当。甲債権は消滅していないものとするためX請求認容。
    これを前提として、多分、利益変更禁止原則の適用なのかな、と。

    設問3
    課題1→争点効と反射効に触れることはやはり、現場では難しいと私は思います。が、L2のなお書きから出題趣旨はそこにあると考えられます。
    課題2→参加的効力が敗訴者間の責任分担法理にあるから双方に効力が生じるとするのであれば、抵触行為があるための参加的効力の除外を一方のみに及ぼすのは不公平な気がします。

    と、私も自分なりに考えてみましたが、設問2が難しい。平成18年以来過去1番難しい気もしています。ノープレッシャーの状態で頭が混乱するので、現場だとより混乱したでしょうと思います。
    総じて設問2では差がつかず、設問1の出来と設問3の充実度で判定される予想です。

    • 設問1はそこまで深く考えず、信義則くらいしか証拠能力を否定する根拠がないので、よほどのことがない限り証拠能力は否定されないという感覚でした。

      設問2では、ご指摘いただきましたように、不利益変更禁止原則を論じているのですから、「請求棄却」ではなく「第一審判決の取消・変更(をした上での請求棄却)」の可否を論じるべきですね。
      設問2全体を通じて、Xが控訴して変更を求めている範囲をXの利益になる方向に超えるということはないので、利益変更禁止原則は問題にならないと考えました。
      (ウ)に関しては、「控訴の利益について検討する必要もありません」と問題文で指示されているので、判決の結論のみから判断すると同じ「請求認容」だから控訴棄却だとはできませんでした(判決の結論のみから判断すると同じ「請求認容」だから控訴棄却だとするのであれば、控訴の利益がないと論じるのが自然だと思いました)。
      (ウ)の結論を動かせないとすると、いかにその結論と矛盾しないように(イ)を論じるというのがこの設問の主眼だったのかもしれません。

      設問3の課題1で反射効は頭をよぎりましたが、債権者(X)が主債務者(Y)に敗訴した場合の債権者(X)と保証人(Z)との関係という典型的な場面ではなく(この場合にXがZに勝訴できるとしたら求償の問題が生じる)、債権者(X)が主債務者(Y)に勝訴した場合の債権者(X)と保証人(Z)との関係という場面だったので(この場合にXがZに敗訴したとしても求償の問題は生じない)、反射効は大きな問題にはならないと考えました。ここまで明確に考えたわけではありませんが、直感的に。
      L2のなお書きは、課題1では参加的効力だけでなく既判力を論じるようにというメッセージだと受け止めました。
      課題2では、そもそも被参加人の訴訟行為が補助参加人の訴訟行為と抵触して効力を有しないという事態はあり得ないので、抵触行為があるための参加的効力の除外を一方のみに及ぼしても不公平でないと思ったのですが、変でしょうかね。

      現場では、この年度の問題が難しいのか簡単なのかさえイメージできず、混乱しました。


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