再現答案
第1問
〔設問〕1
第1 考えられる法律上の論点
Y社は、就業規則に基づき、Xは自然退職したものとしている。この自然退職が有効でなければ、Xの労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求める請求が認められる。そこで、この就業規則がXとY社との間の労働契約の内容となっているか、内容となっているとして自然退職が有効であるかが問題となる。
第2 私の見解
使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、その内容が労働契約の内容となる(労働契約法(以下「労契法」という。)7条)。Xは、自主的にY社の就業規則に定められた私傷病休職の制度を利用したので、使用者であるY社が就業規則を労働者に周知させていたことがうかがわれる。休職制度自体については、労働基準法その他で使用者に設けることが法的に義務づけられているわけではないが、いきなり労働契約を終了させるよりも休職制度を設けることが望ましい。就業規則33条各号の6か月から1年6か月という休職期間は、合理的であると考えられる(一般に、私傷病は、それくらいの期間あれば、回復するか症状が固定するかする)。就業規則34条は、医師の診断書と服飾判定委員会の判定に基づき、客観的な判断をしようとしているものだと読めるので、合理的である。よって、合理的な労働条件が定められている就業規則だと評価できるので、 労契法7条より、これがXとY社との間の労働契約の内容となる。同条ただし書にあたる事情は見受けられない。
就業規則35条の自然退職は、労働者の意思に反して労働契約を終了させるという点で解雇と共通するので、 労契法16条の趣旨が妥当する。よって、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効となる。
本件では、Xが主治医Aによる診断書及び復職申出書を提出した時点までに、不合理な点は見られない。それを受けた復職判定委員会は、それらに加え、産業医Bの意見やXの面談の際の発言などを考慮し、Xを本社システム開発課の課長補佐として復職させ、プロジェクトマネージャーとして就労させることは難しいと考えた。Xはその原職への復帰を希望したが、Y社は復職命令を出さず、Xは自然退職したものとした。このY社の判断も理解できないわけではないが、主治医Aによる診断書は現職への復帰が不可能であると一義的に読むことはできず(プロジェクトマネージャーの業務が複雑な業務であるかどうかは明らかではない)、産業医Bの意見も裏返せば適切な配慮があればプロジェクトマネージャーとしての就労ができるというように解釈でき、Xは、不調を訴えつつも、原職への復帰に意欲を示していた。にもかかわらず復職を試すことなくいきなり自然退職としたことは、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合に当たるので、その権利を濫用したものとして、無効となる。
以上より、Xの請求は妥当である。
〔設問〕2
第1 労働契約上の権利を有する地位にあることの確認
〔設問〕1で述べたのと同じ枠組みで検討する。
Y社就業規則はXとY社との間の労働契約の内容となっており、労契法16条に照らして自然退職が無効とならないかが問題となる。
本件では、Xの意向も踏まえて、休職期間を延長し、負担の少ない業務での復職をさせてから、Xは2週間程度で体調不良となり、欠勤を重ねるに至った。そして、復職判定委員会は、Xにつき復職可能とは認められないと判定し、Y社はXは自然退職したものとした。Y社としてはできる限りのことをしており、労契法16条に照らして自然退職が無効となることはない。
よって、この確認について、Xの主張は当たらない。
第2 就労した期間に係る未払賃金の支払
休職期間については、就業規則32条に「賃金は支給されないものとする」とあり、これに基づき賃金を支払わないことが許容されるかが問題となる。
就労の対価である賃金については、労働基準法24条1項で全額払いが義務づけられており、これは強行規定(労働基準法13条)である。よって、「賃金は支給されないものとする」という就業規則にかかわらず、Xは、就労した部分に係る賃金の支払を請求することができる。
以上より、この未払賃金の支払については、Xの主張は当たっている。
なお、XとY社との間では賃金(基本給)月額50万円という契約内容となっており、別段の定めはないので、これを基準として実際に就労した時間数分の金額となる。
第2問
〔設問〕1
第1 検討すべき法律上の論点(A社の使用者性)
C組合は、令和3年10月31日に、同月1日に申し入れた団体交渉のA社による拒否が、労働組合法(以下「労組法」という。)7条2号所定の不当労働行為に該当するとして、救済申立てをしている。A社は、B社に雇用されている添乗員で組織する労働組合であるC組合との団体交渉に応じる立場にはないとしてこの申入れを拒否している。そこで、A社が、同号の「使用者」に当たるかが問題となる。
第2 私の意見
労組法には直接的な「使用者」の定義規定がない。労組法の目的は、労働者が使用者との交渉において対等の立場に立つことを促進することにより労働者の地位を向上させること、使用者と労働者との関係を規制する労働協約を締結するための団体交渉をすること及びその手続を助成することである(労組法1条1項)。よって、労働者の労働条件等を決定し、労働者の地位に影響を与えることのできる者が、使用者であると解すべきである。形式的に雇用契約を締結していなくても、実質的に労働者の労働条件等を決定する者は、使用者である。労働組合から申し入れられた労働条件等の交渉事項について、実質的に決定することのできる者が、労組法7条2号の「使用者」に当たると解する。
本件では、A社が、B社から派遣された添乗員について、添乗員勤務計画書に基づいて添乗業務に従事させつつ、必要に応じて携帯電話等で添乗員に連絡・指示をすること等により、時間外労働も含めた添乗員が添乗業務に従事する時間の管理を行っていた。C組合は、令和3年10月1日、A社に対して、C組合の組合員である添乗員の労働時間管理の改善に向けた事項(具体的には、勤務実態についての資料の提示、長時間労働等を解消するための方策の策定等)を議題(交渉事項)として、団体交渉を申し入れた。この交渉事項について、実質的に決定しているのは、A社である(勤務実態についての資料を提示したり、長時間労働等を解消するための方策を策定したりできるのは、A社である)。よって、A社は、労組法7条2号の使用者である。
以上より、C組合は、令和3年10月31日に行った申立てについて、労働委員会において救済を受けることができる。労組法7条2号の「正当な理由」は見当たらない。なお、B社が同号の使用者に当たるとしても、使用者が一人でなければならないという理由はないので、A社が使用者であることに変わりはない。
〔設問〕2
第1 検討すべき法律上の論点
令和3年協約及び令和5年協約が、DとB社との間の労働契約の内容となっているかどうかが問題となる。内容となっていれば、Dが訴訟を提起した、支払猶予分の賃金及びその遅延損害金の支払請求は、認められない。
第2 私の意見
令和3年協約も令和5年協約も、労働協約である。労働協約には、労組法16条により、いわゆる規範的効力が認められている。労働者にとって不利益な内容についても規範的効力が及ぶかが問題となるが、労働組合と使用者とは微妙な交渉を積み重ね、その交渉の産物である労働協約の一部を取り出して利益・不利益を論じるのは不適当であるから、原則として労働協約全体について、規範的効力が及ぶ。同条が、「基準に達しない」ではなく「基準に違反する」という文言になっていることも、この解釈を補強する。ただし、労働組合が、労働者の地位の向上という労組法の目的(労組法1条1項)を逸脱してもっぱら労働者の地位を低下させる労働協約を締結したような場合には、例外的に規範的効力が及ばないと解する。
令和3年協約は、添乗員の時間外労働に係る未払の割増賃金は令和3年12月末に一括して支払う一方で、同月分以降12か月間の基本給の1割について支払の猶予を認めるものであった。確かに、自身について未払となっている時間外労働に係る割増賃金はそれほど多額でなく、むしろ向こう1年間の基本給の1割の支が猶予されることによる生活への影響を懸念していたDにとっては、この内容が不利益であるようにも思われる。しかし、この労働協約には利益な部分もあれば不利益な部分もあり、規範的効力が及ぶ。つまり、DとB社との労働契約の内容となる。
令和5年協約は、未払となっている支払猶予分の賃金債権の放棄をするだけのものであり、労働者の地位の向上という労組法の目的に逸脱してもっぱら労働者の地位を低下させる労働協約であると言える。B社の経営状況の悪化を背景として、同社が組合員の解雇に踏み切ったり、将来にわたり賃金を減額する措置に出たりする事態を回避しようとしていたということであるが、それは動機に過ぎず、労働契約の内容にはなっていなかった。よって、この労働協約には規範的効力が及ばない。つまり、DとB社との労働契約の内容とはならない。
以上より、支払猶予分の賃金及びその令和5年1月1日から支払済みまでの遅延損害金の支払請求は、認められる。
以上
感想
過去問と似ている典型的な問題だと感じました。第2問のほうが論じるべき事柄が明確であるように思えたので、そちらのほうから書き始めました。第2問の〔設問1〕は、よく似た判例があったということには思い至ったのですが、その詳細や結論を記憶しておらず、労働組合法の原則論から使用者性一本で押し切りました。第1問は、〔設問1〕と〔設問2〕をうまく対比させるべきなのかなと考えました。
司法試験の過去問の労働法の論文の解答書はどれが良いですか
売ってないみたいです
公式筋から公開されている出題の趣旨と採点実感を読み込むのはもちろんとして、司法試験の過去問の労働法の論文の解答書的なものとしては、川口美貴『労働法演習 第6版 2022―司法試験問題と解説』(信山社、2022)が挙げられます。
規範ハンドブック以外でありますか
川崎という人のは役に立たないです
それ以外ということでしたら、私にはわかりません。
仕事しながら勉強してるのですか
両立できますか
仕事しながら勉強しています。
両立できるかどうかは、仕事の内容や生活状況、どこまで求めるかによると思います。
個人の塾経営は問題無いのですか
教えることも趣味の範囲ですか
営業せずに経営持続できますか