平成25年司法試験論文民事系第3問答案練習

問題

〔第3問〕(配点:100〔〔設問1〕から〔設問4〕までの配点の割合は,2.5:2.5:2:3〕)
次の文章を読んで,後記の〔設問1〕から〔設問4〕までに答えなさい。

【事例1】
 Aは,甲1及び甲2の二筆の土地を所有していたところ,平成24年9月30日,土地甲1をBに遺贈する旨の遺言(遺言①)をし,同年10月31日,土地甲2をCに遺贈し,遺言執行者としてDを指定する旨の遺言(遺言②)をした。Aの夫は,既に亡くなっており,子EがいるもののAとは疎遠となっており,B及びCはいずれもAの友人である。Aは,同年12月1日,死亡した。
 遺言①の存在を知ったEは,平成25年1月10日,遺言①はAが意思能力を欠いた状態でされたものであり無効であると主張し,Bを被告として,遺言①が無効であることの確認を求める訴えを提起した(訴訟Ⅰ)。

 以下は,Bの訴訟代理人である弁護士L1と司法修習生P1との間でされた会話である。
 L1:遺言無効確認の訴えは,遺言という過去にされた法律行為の効力の確認を求める訴えですが,確認の利益は認められるでしょうか。判例はありますか。
 P1:はい。最高裁判所昭和47年2月15日第三小法廷判決(民集26巻1号30頁)は,三十筆余の土地及び数棟の建物を含む全財産を遺贈する内容の遺言の効力が争われた事案において,次のように判示しています。

 「本件記録によれば,Xら(原告・控訴人・上告人)は,訴外某が昭和35年9月30日自筆証書によつてなした遺言は無効であることを確認する旨の判決を求め,その請求原因として述べるところは,右某は昭和37年2月21日死亡し,Xら及びY1からY5まで(被告・被控訴人・被上告人)が同人を共同相続したものであるところ,右某は昭和35年9月30日第一審判決別紙のとおり遺言書を自筆により作成し,昭和37年4月2日大分家庭裁判所の検認をえたものであるが,右遺言は,右某がその全財産を共同相続人の一人にのみ与えようとするものであつて,家族制度,家督相続制を廃止した憲法24条に違背し,かつ,その一人が誰であるかは明らかでなく,権利関係が不明確であるから無効である,というものである。これに対し,Y1を除くその余の被上告人らは,本訴の確認の利益を争うとともに,本件遺言により右某の全財産の遺贈を受けた者はY2であることが明らかであるから,本件遺言は有効である旨抗争したものである。第一審は,遺言は過去の法律行為であるから,その有効無効の確認を求める訴は確認の利益を欠くとして,本訴を却下し,右第一審判決に対してXらより控訴したが,原審も,右第一審判決とほぼ同様の見解のもとに,本訴を不適法として却下すべき旨判断し,Xらの控訴を棄却したものである。
 よつて按ずるに,いわゆる遺言無効確認の訴は,遺言が無効であることを確認するとの請求の趣旨のもとに提起されるから,形式上過去の法律行為の確認を求めることとなるが,請求の趣旨がかかる形式をとつていても,遺言が有効であるとすれば,それから生ずべき現在の特定の法律関係が存在しないことの確認を求めるものと解される場合で,原告がかかる確認を求めるにつき法律上の利益を有するときは,適法として許容されうるものと解するのが相当である。けだし,右の如き場合には,請求の趣旨を,あえて遺言から生ずべき現在の個別的法律関係に還元して表現するまでもなく,いかなる権利関係につき審理判断するかについて明確さを欠くことはなく,また,判決において,端的に,当事者間の紛争の直接的な対象である基本的法律行為たる遺言の無効の当否を判示することによつて,確認訴訟のもつ紛争解決機能が果たされることが明らかだからである。
 以上説示したところによれば,前示のような事実関係のもとにおける本件訴訟は適法というべきである。それゆえ,これと異なる見解のもとに,本訴を不適法として却下した原審ならびに第一審の判断は,民訴法の解釈を誤るものであり,この点に関する論旨は理由がある。したがつて,原判決は破棄を免れず,第一審判決を取り消し,さらに本案について審理させるため,本件を第一審に差し戻すのが相当である。」

 L1:ありがとう。ただ,訴訟Ⅰの事案には昭和47年判決の事案とは異なるところがあるように思います。昭和47年判決を前提としながら,事案の違いを踏まえ,Eが提起した遺言①の無効確認を求める訴えが確認の利益を欠き不適法であると立論してみてください。

〔設問1〕
 あなたが司法修習生P1であるとして,弁護士L1から与えられた課題に答えなさい。

【事例1(続き)】
 Cは,平成25年3月1日,土地甲2につき,遺言執行者Dとともに遺贈を原因とする所有権移転登記手続の申請をし,同日,上記登記が経由された。
 Eは,同年5月1日,遺言②はAが意思能力を欠いた状態でされたものであり無効であると主張し,Dを被告として,上記所有権移転登記の抹消登記手続を求める訴えを提起した(訴訟Ⅱ)。

 以下は,Dの訴訟代理人である弁護士L2と司法修習生P2との間でされた会話である。
 L2:EがDを被告として本件訴えを提起したのはなぜだか分かりますか。
 P2:はい。遺言執行者は,遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有しており,遺言執行者がある場合に,相続人は相続財産についての処分権を失い,右処分権は遺言執行者に帰属します(民法第1012条,第1013条)。また,最高裁判所の判決にも,「相続人は遺言執行者を被告として,遺言の無効を主張し,相続財産について自己が持分権を有することの確認を求める訴を提起することができるのである。」と述べるものがあります(最高裁判所昭和51年7月19日第二小法廷判決・民集30巻7号706頁)。Eはその趣旨に従ったのだと思います。
 L2:なるほど。ただ,本件でもそのように言うことができるでしょうか。私としては,本案前の抗弁として,訴訟Ⅱの被告適格は受遺者Cにあり,遺言執行者Dには被告適格がないと主張し,訴えの却下の判決を求めようと考えています。このような立場から立論してみてください。
〔設問2〕
 あなたが司法修習生P2であるとして,弁護士L2から与えられた課題に答えなさい。

【事例2】
 材木商Fは,土地乙をその所有者Jから賃借し,材木置場として利用していたところ,平成15年4月1日,死亡した。Fの相続人は,その子であるG及びHの2名であり,Fの妻I(G及びHの母)はFより先に亡くなっている。
 Gは,Fの死亡後,家業を継ぎ,土地乙を引き続き材木置場として利用している。
 ところが,土地乙については,平成13年4月1日に同日付け売買を原因とするJからHへの所有権移転登記がされている。
 Gは,平成23年1月10日,Hを被告として,土地乙につきGが所有権を有することの確認及びGへの所有権移転登記手続を求める訴えを提起したところ,Hは,土地乙の明渡しを求める反訴を提起した。
 この訴訟(以下「前訴」という。)において,Gは,土地乙は,Gの父Fからその生前に贈与を受けた資金でGがJから買い受けたものであると主張し,Hは,Jから土地乙を買い受けたのはGではなく,Hの父Fであり,その後HがFから土地乙の贈与を受けたと主張した。
 前訴の裁判所は,審理の結果,土地乙をJから買い受けたのは,GではなくFであると認められるが,HがFから土地乙の贈与を受けた事実は認められないとの心証を得たものの,それ以上,何らの釈明を求めることなく,Gの本訴請求とHの反訴請求をいずれも棄却する判決を言い渡し,同判決は,そのまま確定した。
 ところが,その後もHが贈与により土地乙の単独所有権を取得したと主張したため,Gは,平成25年3月15日,Hに対し,土地乙がFの遺産であることを前提として,相続により取得した土地乙の共有持分権に基づく所有権一部移転登記手続を求める訴えを提起した。
 この訴訟(以下「後訴」という。)において,Hは,前訴の本訴請求についての判決により,土地乙はGの所有でないことが確定しており,この点について既判力が生じているから,Gは相続による共有持分の取得を主張することもできないと主張している。

 以下は,後訴におけるGの訴訟代理人である弁護士L3と司法修習生P3との間でされた会話である。
 P3:前訴判決の認定によれば,土地乙はFの遺産に属し,したがって,Gは法定相続分に応じた共有持分権を有していることになるので,前訴において,Gの請求はその限度で認容されるべきであったのではないでしょうか。
 L3:確かにそのような疑問は湧きますね。そもそも訴訟物のレベルにおいてGが単独所有権に基づく請求をしているのに,共有持分権の限度で請求を認容することが一部認容としてできるかについては議論がありますが,両者は実体的に包含関係にあり,一個の訴訟物の一部として共有持分権の限度で請求を認容することは可能であるという前提で考えてください。
 P3:分かりました。
 L3:それから,今の点とは別に,Gが相続によって不動産を取得したことを主張する場合の請求原因が何であるか確認する必要がありますね。その上で,主張のレベルにおいて,裁判所は,請求原因の一部であってGが主張していない事実を判決の基礎とすることができるかということが問題になりそうです。検討してみてください。

〔設問3〕
 (1)相続による特定財産の取得を主張する者が主張すべき請求原因は何か。本件の事実関係に即して説明しなさい(共有持分の割合に関する部分は捨象すること。)。
 (2)前訴における当事者の主張を前提とすると,裁判所は,適切に釈明権を行使したならば,上記請求原因を判決の基礎とすることができるかどうか,検討しなさい。

【事例2(続き)】
 以下は,数日後に弁護士L3と司法修習生P3との間でされた会話である。
 L3:さて,我々としては,前に検討してもらった諸点を踏まえて,Hの上記主張に対し,Gの法律上の反論を考えることになりますが,見通しはどうですか。
 P3:法律論としてまとめきれていないのですが,前訴ではHの反訴請求も棄却されているにもかかわらず,後訴で前訴判決の既判力を持ち出してGの共有持分権を否定するというHの態度には問題があるような気がします。既判力によっては妨げられない訴えを信義則に基づいて却下した判例(最高裁判所昭和51年9月30日第一小法廷判決・民集30巻8号799頁,最高裁判所平成10年6月12日第二小法廷判決・民集52巻4号1147頁)と関連付けて法律論を組み立てられないかと考えています。
 例えば,平成10年判決は,次のように述べています。いわゆる明示の一部請求の訴訟物は,その債権全体のうちの一部請求部分に限られるという考え方を前提とする判旨です。

 「一個の金銭債権の数量的一部請求は,当該債権が存在しその額は一定額を下回らないことを主張して右額の限度でこれを請求するものであり,債権の特定の一部を請求するものではないから,このような請求の当否を判断するためには,おのずから債権の全部について審理判断することが必要になる。すなわち,裁判所は,当該債権の全部について当事者の主張する発生,消滅の原因事実の存否を判断し,債権の一部の消滅が認められるときは債権の総額からこれを控除して口頭弁論終結時における債権の現存額を確定し(最高裁平成2年(オ)第1146号同6年11月22日第三小法廷判決・民集48巻7号1355頁参照),現存額が一部請求の額以上であるときは右請求を認容し,現存額が請求額に満たないときは現存額の限度でこれを認容し,債権が全く現存しないときは右請求を棄却するのであって,当事者双方の主張立証の範囲,程度も,通常は債権の全部が請求されている場合と変わるところはない。数量的一部請求を全部又は一部棄却する旨の判決は,このように債権の全部について行われた審理の結果に基づいて,当該債権が全く現存しないか又は一部として請求された額に満たない額しか現存しないとの判断を示すものであって,言い換えれば,後に残部として請求し得る部分が存在しないとの判断を示すものにほかならない。したがって,右判決が確定した後に原告が残部請求の訴えを提起することは,実質的には前訴で認められなかった請求及び主張を蒸し返すものであり,前訴の確定判決によって当該債権の全部について紛争が解決されたとの被告の合理的期待に反し,被告に二重の応訴の負担を強いるものというべきである。以上の点に照らすと,金銭債権の数量的一部請求訴訟で敗訴した原告が残部請求の訴えを提起することは,特段の事情がない限り,信義則に反して許されないと解するのが相当である。」

 L3:そうですね。既判力は前訴の訴訟物の範囲について生じ,その範囲で後訴において作用するのが原則ですが,あなたが指摘してくれた昭和51年判決や平成10年判決のように,判例は,訴訟物の範囲を超えて後訴における蒸し返しを封じる場合を認めています。訴訟物の範囲を超える部分では信義則が働くという論法です。
 このように信義則を理由として訴訟物の範囲よりも広く蒸し返しを禁じること(遮断効の拡張)が認められるのであれば,信義則を理由として既判力の作用を訴訟物よりも狭い範囲に止めること(遮断効の縮小)も認められるかもしれません。遮断効の縮小に関しては,色々な考え方があり得ますが,本件では,平成10年判決を参考にして立論することにしましょう。言うまでもなく,信義則は一般条項ですから,これを持ち出す場合には,どのような事情がいかなる理由により信義則の適用を基礎付けるのか,十分検討する必要があります。困難な課題ではありますが,Hの上記主張に対し,Gの立場から考えられる法律上の主張を立論してみてください。
〔設問4〕
 あなたが司法修習生P3であるとして,弁護士L3から与えられた課題に答えなさい。

 

練習答案

以下民事訴訟法についてはその条数のみを示す。

 

[設問1]
 遺言①の無効確認を求める訴えは、表面上は過去にされた法律行為の効力の確認を求める訴えであり、例外的な事情がない限り確認の利益を欠き不適法である。
 その例外的な事情とは、昭和47年判決の言葉を借りると、「あえて遺言から生ずべき現在の個別的法律関係に還元して表現するまでもなく、いかなる権利関係につき審理判断するかについて明確さを欠くことはな」い場合である。この事案では、遺言の無効確認という体裁を取っていても、相続財産を共同相続人が共有していることの確認を求めているのだと明確にわかるということである。
 本件ではそのように現在の法律関係の確認へと明確に引き直すことができない。Bが甲1を所有していないことの確認であれば、遺言①以外の事情も含めて審判しなければならない。Eが甲1を所有していることの確認だとしても同様である。いずれにしても、遺言①の無効確認ではなく、現在の所有権などの法律関係の確認を求めるべきである。

 

[設問2]
 本件では原告であるEが、土地甲2について、遺贈を原因とするCへの所有権移転登記の抹消登記手続を求める訴えを提起している。この手続をすることができるのは所有権移転登記がなされたCであり、遺言執行者のDではない。つまり、仮にEがDを被告として勝訴したとしても、DはEの求める手続ができないのであるから、無意味である。Dに被告適格はなく、Cにあるのである。
 確かに本文中で私(P2)が述べたように、相続財産の処分権は遺言執行人に帰属し、遺言執行者を被告として、遺言の無効確認を主張し、相続財産について自己が持分権を有することの確認を求める訴を提起することができるとする最高裁判例もある。しかしそれは遺言執行者が相続財産を処分するまで妥当するにすぎず、現に処分してしまってからは妥当しない。特に現金である相続財産を処分してその人の一般財産と混ざってしまった場合などを想起するとその理は自明である。

 

[設問3]
 (1)相続による特定財産の取得を主張する者が主張すべき請求原因は、①被相続人が死亡した事実、②自分が相続人であること、③その特定財産が相続財産に含まれることの3つである。本件の事実関係に即して説明すると、①Fは平成15年4月1日に死亡した、②GはFの子であり、Fの妻IはFより先に亡くなっている、③平成15年4月1日時点でFが土地乙を所有していた、の3つである。
 (2)前訴における当事者の主張を前提とすると、裁判所は、適切に釈明権を行使したならば、上記請求原因を判決の基礎とすることができる。そして問題分にあるように共有持分権の限度で請求を認容することが一部認容としてできるという前提で考えるなら、Gが共有持分権の限度で所有権を有することを確認し、その限度で所有権移転登記手続をせよという判決を下すことになる。
 (1)①のF死亡の事実は、Gが「生前に贈与を受けた資金」と主張していることから、Gの主張に含まれている。②については、裁判所がGに対して相続による取得について釈明権を行使して、GがFの子でありFの妻IはFより先に亡くなっているという事実が現れればよい。③は土地乙をJから買い受けたのはFであると裁判所が認めている。

 

[設問4]
 信義則を理由として既判力の作用を訴訟物よりも狭い範囲に止めること(遮断効の縮小)を主張する。本件に即して言うなら、後訴で働く前訴の既判力を、通常考えられる「土地乙はGの所有でないこと」から「土地乙はGがJから買い受けたことを理由としてGの所有になることはない」へと縮小するという主張である。判断の理由までを既判力に取り込み遮断効を縮小するということである。もしこれが認められれば、Gが相続という別の理由で土地乙の所有を主張することが許される。
 このような、信義則を理由とした遮断効の縮小が基礎づけられる事情を以下で検討する。まず、前訴で訴訟物について判断をするための主張にもれがあったという事情が必要である。仮に本件の前訴で相続の主張をGがしていた、あるいはするように釈明を求められたのにしなかったとしたら、遮断効を縮小してはいけない。
 また、別様の遮断効の縮小も考えることができる。それは本件に即して言うと、「土地乙はGの単独所有ではない」へと縮小するという主張である。既判力の作用を量的に縮減するということである。こちらの路線でも前訴の既判力が後訴の妨げになることがなくなる。
 こちらの遮断効の縮小が基礎づけられる事情を以下で検討する。それは前訴で、共有持分権の限度で請求を認容することが一部認容としてもできないと考えられた場合である。この場合は裁判所が、原告が共有持分権を有するという心証を抱いたとしても、請求を棄却せざるを得ない。しかしそれにより原告が後訴で共有持分権に基づく主張をすることができなくなるのは不合理である。
 以上より、Gの立場から、信義則(第2条)を理由として、上記2通りの遮断効の縮小を主張することができる。

以上

 

修正答案

以下民事訴訟法についてはその条数のみを示す。

 

[設問1]
 遺言①の無効確認を求める訴えは、表面上は過去にされた法律行為の効力の確認を求める訴えであり、例外的な事情がない限り確認の利益を欠き不適法である。というのも、過去にされた法律行為の効力の確認をしても、その後の事情が考慮されず、現在の紛争の解決に役立つとは限らないからである。直接現在の法律関係の確認を求めるのが基本原則である。
 過去にされた法律行為の効力の確認を許す例外的な事情とは、昭和47年判決の言葉を借りると、「あえて遺言から生ずべき現在の個別的法律関係に還元して表現するまでもなく、いかなる権利関係につき審理判断するかについて明確さを欠くことはな」い場合である。この事案では、遺言の無効確認という体裁を取っていても、相続財産を共同相続人が共有していることの確認を求めているのだと明確にわかるということである。
 本件ではそのように現在の法律関係の確認へと明確に引き直すことができない。Bが土地甲1を所有していないことの確認であれば、遺言①以外の事情も含めて審判しなければならない。Eが甲1を所有していることの確認だとしても同様である。いずれにしても、遺言①の無効確認ではなく、現在の所有権などの法律関係の確認を求めるべきである。
 確かに昭和47年判決の事案でも、個々の財産について共有持分権を確認することを求めることが理論的には可能であったが、そうすると相続財産全てを網羅的に挙げる必要があり、漏れがあったとしたらそれについては判断が下されない。この事案ではそれよりも遺言の無効を確認したほうがより簡単に、そして直接的に現在の紛争を解決することにつながったのである。

 

[設問2]
 本件では原告であるEが、土地甲2について、遺贈を原因とするCへの所有権移転登記の抹消登記手続を求める訴えを提起している。この手続をすることができるのは所有権移転登記がなされたCであり、遺言執行者のDではない。つまり、仮にEがDを被告として勝訴したとしても、DはEの求める手続ができないのであるから、無意味である。Dに被告適格はなく、Cにあるのである。
 確かに本文中で私(P2)が述べたように、相続財産の処分権は遺言執行者に帰属し、遺言執行者を被告として、遺言の無効確認を主張し、相続財産について自己が持分権を有することの確認を求める訴を提起することができるとする最高裁判例もある。遺言執行者は民法第1012条を根拠にして法定訴訟担当である解釈できるのである。しかしそれは遺言執行者が相続財産を処分するまで妥当するにすぎず、現に処分してしまってからは妥当しない。本件では遺言執行者であるDは土地甲2の登記をCに移転したことでその任務を終了している。よって土地甲2の処分権はCが有することになる。もしも遺言執行者がその任務を終えてからも相続財産であった財産の訴訟を担当しなければならないとなると、遺言執行者の負担が過大になってしまう。

 

[設問3]
 (1)相続による特定財産の取得を主張する者が主張すべき請求原因は、①被相続人が死亡した事実、②自分が相続人であること、③その特定財産が相続財産に含まれることの3つである。本件の事実関係に即して説明すると、①Fは平成15年4月1日に死亡した、②GはFの子である、③平成15年4月1日時点でFが土地乙を所有していた、の3つである。
 (2)前訴における当事者の主張を前提とすると、裁判所は、適切に釈明権を行使したならば、上記請求原因を判決の基礎とすることができる。そして問題分にあるように共有持分権の限度で請求を認容することが一部認容としてできるという前提で考えるなら、Gが共有持分権の限度で所有権を有することを確認し、その限度で所有権移転登記手続をせよという判決を下すことになる。
 民事訴訟法の基本理念である弁論主義の観点から、裁判所は当事者が主張しないことを判決の基礎としてはならない。そこで(1)の各事実を当事者であるG又はHが主張しているかどうかを検討する。自由心証主義(第247条)の帰結として、その主張はG又はHのいずれかが主張していればそれで足りる(証拠共通の原則)。
 ①のF死亡の事実は、Gが「生前に贈与を受けた資金」と主張していることから、Gの主張に含まれている。②については、GがFの子であることは「Gの父F」という表現から読み取れる。③は土地乙をJから買い受けたのはFであるとHが主張し、それを裁判所が認めている。以上より、①から③の事実はG又はHが主張していたと言える。
 しかし、①と②の事実が主要な争点となっていなかったと思われるところ、これらを判決の基礎とすると当事者にとって不意打ちになる恐れがある。また、Gが相続を理由とした共有持分権による請求の一部認容を求めるかどうかも確認したほうがよい。裁判所がこれらの点について適切に釈明権を行使したならば、上記請求原因を判決の基礎とすることができる。

 

[設問4]
 信義則を理由として既判力の作用を訴訟物よりも狭い範囲に止めること(遮断効の縮小)を主張する。本件に即して言うなら、後訴で働く前訴の既判力を、通常考えられる「土地乙はGの所有でないこと」から「土地乙はGがJから買い受けたことを理由としてGの所有になることはない」へと縮小するという主張である。判断の理由までを既判力に取り込み遮断効を縮小するということである。もしこれが認められれば、Gが相続という別の理由で土地乙の所有を主張することが許される。
 このような、信義則を理由とした遮断効の縮小が基礎づけられるためには、前訴で訴訟物について判断をするための主張にもれがあったという事情が必要である。仮に本件の前訴で相続の主張をGがしていた、あるいはするように釈明を求められたのにしなかったとしたら、遮断効を縮小してはいけない。
 また、別様の遮断効の縮小も考えることができる。それは本件に即して言うと、「土地乙はGの単独所有ではない」へと縮小するという主張である。既判力の作用を量的に縮減するということである。こちらの路線でも前訴の既判力が後訴の妨げになることがなくなる。
 こちらの遮断効の縮小が基礎づけられる事情を以下で検討する。それは前訴で、共有持分権の限度で請求を認容することが一部認容としてもできないと考えられた場合である。この場合は、原告が共有持分権を有するという心証を裁判所が抱いたとしても、請求を棄却せざるを得ない。しかしそれにより原告が後訴で共有持分権に基づく主張をすることができなくなるのは不合理である。
 そもそも既判力が認められるのは、一度決着した訴訟を蒸し返して当事者の期待と訴訟経済を害することを防ぐためである。本件の前訴の決着は、土地乙が売買を理由としてGが単独所有するのでもなければ贈与を理由としてHが単独所有するものでもないというものであった。Gはその決着に沿った請求を後訴でしているのであって、前訴を蒸し返しているのはむしろHのほうである。よってGの立場から、Hの主張は信義則(第2条)に反しているとして、上記2通りの遮断効の縮小を主張することができる。

以上

 

感想

細かいミスはたくさんしていたものの、全体としておよそ理解できていたかなと思います。しかし基本原則の説明を抜かしていた部分があったので、それを反省しなければなりません。

 




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