平成25年司法試験予備試験論文(法律実務基礎科目(刑事))答案練習

問題

 次の【事例】を読んで,後記〔設問〕に答えなさい。

 

【事 例】
1 V(男性,27歳)は,平成25年2月12日,カメラ量販店で,大手メーカーであるC社製のデジタルカメラ(商品名「X」)を30万円で購入した。同デジタルカメラは,ヒット商品で飛ぶように売れていたため,販売店では在庫が不足気味であり,なかなか手に入りにくいものであった。

2 Vは,同月26日午後10時頃から,S県T市内のQマンション405号室のV方居室で,テーブルを囲んで友人のA(男性,25歳)とその友人の甲(男性,26歳)と共に酒を飲んだが,その際,上記「X」を同人らに見せた。Vは,その後同デジタルカメラを箱に戻して同室の机の引き出しにしまい,引き続きAや甲と酒を飲んだが,Vは途中で眠ってしまい,翌27日午前7時頃,Vが同所で目を覚ますと,既に甲もAも帰っていた。Vは,その後外出することなく同室内でテレビを見るなどしていたが,同日午後1時頃,机の引き出しにしまっていた同デジタルカメラを取り出そうとしたところ,これが収納していた箱ごと無くなっていることに気付いた。Vは,前夜V方で一緒に飲んだAや甲が何か知っているかもしれないと考え,Aに電話をして同デジタルカメラのことを聞いたが,Aは,「知らない。」と答えた。また,Vは,Aの友人である甲については連絡先を知らなかったため,Aに聞いたところ,Aは,「自分の方から甲に聞いておく。」と答えた。
 VがV方の窓や玄関ドアを確認したところ,窓は施錠されていたが,玄関ドアは閉まっていたものの施錠はされていなかった。Vは,同デジタルカメラは何者かに盗まれたと判断し,同日午後3時頃,警察に盗難被害に遭った旨届け出た。

3 同日午後3時40分頃,通報を受けたL警察署の司法警察員Kら司法警察職員3名がV方に臨場し,Vは上記2の被害状況を司法警察員Kらに説明した。なお,司法警察員KがVに被害に遭ったデジタルカメラの製造番号を確認したところ,Vは,「製造番号は保証書に書いてあったが,それを入れた箱ごと被害に遭ったため分からない。」と答えた。
 司法警察員Kらは,引き続き同室の実況見分を行った。V方居室はQマンションの4階にあり,間取りは広さ約6畳のワンルームであり,テーブル,机及びベッドは全て一室に置かれていた。同室の窓はベランダに面した掃き出し窓一つのみであり,同窓にはこじ開けられたような形跡はなく,Vに確認したところ,Vは,「窓はふだんから施錠しており,昨日の夜も施錠していた。」と申し立てた。また,鑑識活動の結果,盗難に遭ったデジタルカメラをしまっていた机やその近くのテーブルから対照可能な指紋3個を採取した。
 さらに,司法警察員KらがVと共にQマンションに設置されている防犯ビデオの画像を確認したところ,同月26日午後9時55分にV,甲及びAの3人が連れ立って同マンション内に入ってきた様子,同日午後11時50分にAが一人で同マンションから出て行く様子,その後約5分遅れて甲が一人で同マンションから出て行く様子がそれぞれ撮影されていた。Aや甲が同マンションから出て行った際の所持品の有無については,画像が不鮮明なため判然としなかった。なお,甲が一人で同マンションを出て行って以降,同月27日午前7時20分まで,同マンションに人が出入りする状況は撮影されていなかった。また,同マンションの出入口は防犯ビデオが設置されているエントランス1か所のみであり,それ以外の場所からは出入りできない構造になっていた。
 司法警察員Kは,同日,盗難に遭ったデジタルカメラの商品名を基に,L警察署管内の質屋やリサイクルショップ等に取扱いの有無を照会した。また,司法警察員Kは,A及び甲の前歴を確認したところ,Aには前歴はなかったが,甲には窃盗の前科前歴があることが判明した。

4 同年3月1日,L警察署に対し,T市内のリサイクルショップRから,「甲という男からC社の『X』1台の買取りを行った。」旨の回答があった。そこで,司法警察員KがリサイクルショップRに赴き,同店店員Wから事情を聴取したところ,店員Wは,「一昨日の2月27日午前10時頃,甲が来店したので応対に当たった。甲の身元は自動車運転免許証で確認した。甲から『X』1台を箱付きで27万円で買い取った。甲には現金27万円と買取票の写しを渡した。」旨供述した。そのときの買取票を店員Wが呈示したため,司法警察員Kがこれを確認したところ,2月27日の日付,甲の氏名,製造番号SV10008643番の「X」1台を買い取った旨の記載があった。司法警察員Kは甲の写真を含む男性20名の写真を貼付した写真台帳を店員Wに示したところ,店員Wは甲の写真を選んで「その『X』を持ち込んできたのはこの男に間違いない。」と申し立てた。
 司法警察員Kは,同店店長から,甲から買い取った「X」1台の任意提出を受け,L警察署に持ち帰って調べたところ,内蔵時計は正確な時刻を示していたが,撮影した画像のデータを保存するためのメモリーカードが同デジタルカメラには入っておらず,抜かれたままになっていた。司法警察員Kは,同デジタルカメラを鑑識係員に渡して,指紋の採取を依頼し,同デジタルカメラの裏面から指紋1個を採取した。この指紋及び同年2月27日にV方から採取した指紋をV及び甲の指紋と照合したところ,同デジタルカメラから採取された指紋及びV方のテーブルから採取された指紋1個が甲の指紋と合致し,V方の机から採取された指紋1個がVの指紋と合致し,それ以外の指紋は甲,Vいずれの指紋とも合致しなかった。

5 司法警察員Kは,甲を尾行するなどしてその行動を確認したところ,甲が消費者金融会社Oに出入りしている様子を目撃したことから,甲の借金の有無をO社に照会したところ,限度額一杯の30万円を借り,その返済が滞っていたこと,同月27日に27万円が返済されていることが判明した。
 さらに,司法警察員Kは,同年3月4日,AをL警察署に呼び出して事情を聞いたところ,Aは以下のとおり供述した。
(1) Vは前にアルバイト先で知り合った友人で,月に1,2回は一緒に飲んだり遊んだりしている。甲は高校時代の同級生であり,2か月くらい前に偶然再会し,それ以降,毎週のように一緒に遊んでいる。甲とVは直接の面識はなかったが,先月の初め頃,自分が紹介して3人で一緒に飲んだことがあった。
(2) 今年の2月26日は,Vに誘われて甲と共にV方に行って3人で酒を飲んだ。その際,Vからデジタルカメラを見せられた記憶がある。しかし,Vが先に眠ってしまい,自分も終電があるので甲を誘って午後11時50分頃V方を出て帰った。その後,Vから「カメラが無くなった。」と聞かされたが,自分は知らない。甲にも聞いてみたが,甲も知らないと言っていた。ただ,思い出してみると,あの日帰るとき,甲が「たばこを一本吸ってから帰る。」と言うので,Vの部屋の前で甲と別れて一人で帰った。その後甲がいつ帰ったかは知らない。

6 司法警察員Kは,裁判官から甲を被疑者とする後記【被疑事実】での逮捕状の発付を得て,同年3月5日午前8時頃,甲方に赴いた。すると,甲が自宅前で普通乗用自動車(白色ワゴン車,登録番号「T550よ6789」)に乗り込み発進しようとするところであったことから,司法警察員Kは甲を呼び止めて降車を促し,その場で甲を通常逮捕するとともに同車内の捜索を行った。その際,司法警察員Kは同車内のダッシュボードからちり紙にくるまれたメモリーカード1枚を発見したので,これを押収した。なお,同車は甲が勤務するZ社所有の物であった。

7 その後,同日午前9時からL警察署内で行われた弁解録取手続及びその後の取調べにおいて,甲は以下のとおり供述した。
(1) 結婚歴はなく,T市内のアパートに一人で住んでいる。兄弟はおらず,隣のU市に今年65歳になる母が一人で住んでいる。高校卒業後,しばらくアルバイトで生活していたが,平成23年8月からZ社で正社員として働くようになり,今に至っている。仕事の内容は営業回りである。収入は手取りで月17万円くらいだが,借金が120万円ほどあり,月々3万円を返済に回しているので生活は苦しい。警察に捕まったことがこれまで2回あり,最初は平成19年5月,友人方で友人の財布を盗み,そのことがばれて捕まったが,弁償し謝罪して被害届を取り下げてもらったので,処分は受けなかった。2回目は,平成22年10月に換金目的でゲーム機やDVDを万引き窃取して捕まり,同事件で同年12月に懲役1年,3年間執行猶予の有罪判決を受け,今も執行猶予期間中である。
(2) 今年の2月26日夜,AとV方に行った時にVからカメラを見せられた。そのカメラを盗んだと疑われているらしいが,私はそんなことはしていない。私はその日はAと一緒に帰ったから,Aに聞いてもらえれば自分が盗みをしていないことが分かるはずだ。

8 司法警察員Kは,甲が乗っていた自動車内から押収したメモリーカードを精査したところ,同カードはデジタルカメラで広く使われている規格のもので「X」にも適合するものであった。そこで,その内容を解析したところ,写真画像6枚のデータが記録されており,撮影時期はいずれも同年2月12日から同月25日の間,撮影したデジタルカメラの機種はいずれも「X」であることが明らかとなった。司法警察員Kは,同年3月5日午後6時頃,VをL警察署に呼んで上記データの画像をVに示したところ,Vは,「写っている写真は全て自分が新しく買った『X』で撮影したものに間違いないので,そのメモリーカードは『X』と一緒に盗まれたものに間違いない。」旨供述した。さらに,Vがその写真の一部は自分がインターネット上で公開していると申し立てたので,司法警察員Kがインターネットで調べたところ,メモリーカード内の画像のうち3枚が,実際にVによって公開された画像と同一であることが判明した。
 また,司法警察員Kは,同月6日午前9時頃,甲の勤務するZ社に電話をして,代表者から同社が所有する車両の管理状況について聴取したところ,同人は,「会社所有の車は4台あり,うち1台は私が常時使っている。残りの3台は3人の営業員に使わせているが,誰がどの車両を使っているかは車の鍵の管理簿を付けているのでそれを見れば分かる。登録番号『T550よ6789』のワゴン車については,今年の2月24日から甲が使っている。」旨供述した。

9 司法警察員Kは,同年3月6日午前9時30分頃から再度甲の取調べを行ったところ,甲は以下のとおり供述した。
(1) Vのデジタルカメラは盗んでいない。
(2) 自分が今年の2月27日にリサイクルショップにデジタルカメラを持ち込んだことはあるが,それは名前を言えない知り合いからもらった物だ。
(3) 車の中にあったメモリーカードのことは知らない。
(4) 自分が疑われて不愉快だからこれ以上話したくない。

10 司法警察員Kは,同年3月6日午前11時頃,後記【被疑事実】で甲をS地方検察庁検察官に送致した。甲は,同日午後1時頃,検察官Pによる弁解録取手続において,「事件のことについては何も話すつもりはない。」と供述した。

11 検察官Pは,同日午後2時30分頃,S地方裁判所裁判官に対して,甲につき後記【被疑事実】で勾留請求した。S地方裁判所裁判官Jは,同日午後4時頃,甲に対する勾留質問を行ったところ,甲は被疑事実について「検察官に対して話したとおり,事件のことについて話すつもりはない。」と供述した。

 

【被疑事実】
被疑者は,平成25年2月26日午後11時55分頃,S県T市内所在のQマンション405号室V方において,同人が所有するデジタルカメラ1台(時価30万円相当)を窃取したものである。

 

〔設 問〕
 上記【事例】の事実を前提として,本件勾留請求を受けた裁判官Jは,甲を勾留すべきか。関連条文を挙げながら,上記事例に即して具体的に論じなさい。ただし,勾留請求に係る時間的制限,逮捕前置の遵守及び先行する逮捕の適法性については論じる必要はない。
 なお,甲が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由について論じるに当たっては,具体的な事実を摘示するのみならず,上記理由の有無の判断に際してそれらの事実がどのような意味を持つかについても説明しなさい。

 

練習答案

以下、刑事訴訟法についてはその条数のみを示す。

 

第1 勾留の根拠
 204条から206条の規定による勾留の請求を受けた裁判官は、その処分に関し裁判所又は裁判長と同一の権限を有する(207条1項)ので、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合で、60条1項各号の一にあたるときは、これを勾留することができる(60条1項柱書)。
 裁判官丁は、甲につき、205条の規定による請求を受けた。
第2 罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由
 1 Xの所持
  甲が平成25年2月27日にリサイクルショップに商品名Xのデジタルカメラを持ち込んだことに争いはない。この甲の持ち込んだXがVから窃取されたXと同一の物であるという確証はないが、別の物であるという確証もなく、窃取の翌日に持ち込まれていることからしても、同一の物であるという疑いがある。
 2 メモリーカードの所持
  司法警察員Kは、甲が平成25年2月24日から同年3月6日にかけて使用していた「T550よ6789」車のダッシュボードからちり紙にくるまれたメモリーカード1枚を発見した。甲はこのメモリーカードのことは知らないと述べているが、本件窃取の前後を通じて同車を管理していたので、甲の同意なしにメモリーカードをダッシュボードに置くことは考えづらい。そしてそのメモリーカードは写真の内容から窃取されたXに入っていたものとみて間違いなく、それを所持しているのは犯人である可能性が高い。
 3 他の可能性
  V方の窓の状況及びQマンションに設置されている防犯ビデオの画像から、甲、A以外に犯行時刻にV方へ侵入した人が存在した可能性はほぼない。また、Aが甲の知らないあいだにXを窃取できた可能性も認められない。甲は平成25年2月26日の午後11時50分頃に5分ほど一人になっていた時間があり、Xを窃取することが可能であった。
 4 結論
  以上より、甲がVの所有するXを窃取するという罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある。
第3 逃亡すると疑うに足りる相当な理由
 1 生活状況
  甲は結婚歴がなくアパートに一人で住んでいるので、逃亡が比較的容易だと言える。乙社での勤務もまだ3年に満たず、その点からも逃亡の可能性は比較的高いと言える。
 2 動機
  甲は今も執行猶予期間中であり、今度有罪判決を受けるとまず執行猶予は取り消されるので、逃亡をする動機が強いと言える。
 3 様子
  甲は一貫して犯行を否認しており、「事件のことについて話すつもりはない」と繰り返し述べている。捜査への任意の協力はとても期待できそうにない。この様子も逃亡のおそれを感じさせる。
 4 結論
  以上より、甲には逃亡すると疑うに足りる相当な理由があり、60条1項3号にあたる。
第4 結論
 以上より、本件勾留請求を受けた裁判官丁は、甲を勾留すべきである。

以上

 

修正答案

以下、刑事訴訟法についてはその条数のみを示す。

第1 勾留の根拠
 204条から206条の規定による勾留の請求を受けた裁判官は、その処分に関し裁判所又は裁判長と同一の権限を有する(207条1項)ので、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合で、60条1項各号の一にあたるときは、これを勾留することができる(60条1項柱書)。
 裁判官丁は、甲につき、205条の規定による請求を受けた。
第2 罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由
 1 Xの所持
  甲が平成25年2月27日にリサイクルショップに商品名Xのデジタルカメラを持ち込んだことに争いはない。この甲の持ち込んだXからはVの指紋が検出されておらず、これがVから窃取されたXと同一の物であるという確証はない。他方で、甲も持ち込んだXの入手経路について合理的な説明ができておらず、窃取された物とは別の物であるという確証もない。窃取の翌日に持ち込まれていることからしても、同一の物であるという疑いがある。
 2 メモリーカードの所持
  司法警察員Kは、甲が平成25年2月24日から同年3月6日にかけて使用していた「T550よ6789」車のダッシュボードからちり紙にくるまれたメモリーカード1枚を発見した。甲はこのメモリーカードのことは知らないと述べているが、本件窃取の前後を通じて甲が同車を管理していたので(そのことはZ社の管理簿からわかるので間違いないと見てよい)、甲の同意なしに他の者がメモリーカードをダッシュボードに置くことは考えづらい。そしてそのメモリーカードは写真の内容から窃取されたXに入っていたものとみて間違いなく、それを所持しているのは犯人である可能性が極めて高い。
 3 他の可能性
  V方の窓の状況及びQマンションに設置されている防犯ビデオの画像から、甲、A以外にQマンションの外部から犯行時刻前後にV方へ侵入した人が存在した可能性はまずない。また、Aが甲の知らないあいだにXを窃取できた可能性も認められない。甲は平成25年2月26日の午後11時50分頃に5分ほど一人になっていた時間があり、Xを窃取することが可能であった。
 4 結論
  以上より、甲がVの所有するXを窃取するという罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある。
第3 逃亡すると疑うに足りる相当な理由
 1 生活状況
  甲は結婚歴がなくアパートに一人で住んでいるので、逃亡が比較的容易だと言える。乙社での勤務もまだ2年に満たず、その点からも逃亡の可能性は比較的高いと言える。
 2 動機
  甲は今も執行猶予期間中であり、今度有罪判決を受けるとまず執行猶予は取り消されるので、逃亡をする動機が強いと言える。
 3 様子
  甲は一貫して犯行を否認しており、「事件のことについて話すつもりはない」と繰り返し述べている。捜査への任意の協力はとても期待できそうにない。この様子も逃亡のおそれを感じさせる。
 4 結論
  以上より、甲には逃亡すると疑うに足りる相当な理由があり、60条1項3号にあたる。
第4 結論
 以上より、本件勾留請求を受けた裁判官丁は、甲を勾留すべきである。

以上

 

 

感想

それなりにできたという感触があります。修正答案では問題文で示された事実への言及を増やしました。

 




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