以下民法についてはその条数のみを示す。
〔設問1〕
第1 AがCに対して行った本件土地の贈与(以下「本件贈与」という。)について
本件贈与が有効であれば、平成20年4月1日の時点でCが本件土地の所有権を取得し、Bは無権利者となるので、そのBから競売を経て本件土地を取得したDも無権利者となり、Cとは対抗関係に立たないので、Dが登記を得ても、DのCに対する請求は認められないことになる。そこで本件贈与の有効性について検討する。
本件贈与が負担付贈与(553条)であれば、撤回はできないので、平成20年4月1日の時点で本件土地の所有権はAからCに移転する。しかし、本件では、単に家業の手伝いをしてもらったことに対する感謝としてとしか書かれておらず、対価性、けん連性に欠けるので、負担付贈与には当たらない。
本件贈与が書面でなされていれば撤回できない(550条本文)が、書面でなされたという事情は見当たらない。
本件贈与が書面でなされていなくても、履行の終わった部分については撤回できない(550条ただし書)。土地については引き渡し及び登記の移転が履行であり、本件では引き渡しはされているが登記の移転はされていないので、履行が終わったとは言えない。
以上より、本件贈与は撤回できる。そしてAを相続により包括的に承継したBが、あるいはそのBの権利を代位行使(423条)したDが、その撤回をしていると考えられるので、この点に関してCはDの請求を拒むことはできない。Bは無資力であり債権者代位の要件は満たしている。
第2 Cの本件建物を存続させるための法律上の占有権限について
Bが平成28年4月1日に本件土地について所有権移転登記をして、これが先述の本件贈与の撤回に当たるとしても、Cは本件建物を存続させるための法律上の占有権限として使用貸借(593条)を主張することが考えられる。Bはそれ以降もCに対して本件土地を明け渡すように請求することはなく、それどころかかえってBはDに対してCは本件土地を無償で借りていると説明しているのだから、黙示の使用貸借が成立していると解釈できる。
問題はこの使用貸借に借地借家法の規律が及ぶかである。というのも、同法では、「賃借権」とされているからである。もっとも、これは、建物所有を目的とする場合には、一般に使用貸借ではなく賃貸借が用いられることは反映しただけに過ぎず、ことさらに使用貸借を排除しようとする趣旨ではない。本件では、Cは贈与を受けたと思い込んでいたのであり、仮にその贈与が撤回されたことを知ってBから賃料を請求されたとしたらそれに応じていたであろう。よってこの使用貸借にも借地借家法の規律が及び、同法3条により借地権の存続期間が30年となり、CはDに対抗できる(借地借家法10条1項)。Cは本件土地の上に借地権者であるCが登記されている建物を所有している。
なお、このように解しても、対抗力のある借地権の負担があるものとして本件土地の担保価値を評価していたDは害されない。
〔設問2〕
CのDに対する請求の根拠は、短期の取得時効(162条2項)であると考えられる。そこでまずその短期の取得時効について検討する。
第1 Cによる本件土地の短期の取得時効
Cは、本件土地の占有を、Aから引き渡しを受けた平成20年4月1日に開始し、平成30年4月1日の時点で占有していた。よって、十年間占有していたことが推定される(186条2項)。所有の意思は外形的、客観的に判断するところ、Cは占有を開始した直後の平成20年8月21日までに本件土地上に本件建物を建築して居住を開始した。よって所有の意思があると言える。平穏かつ公然は186条1項で推定される。自己の物でも時効取得できるので「他人の物」ということは問題にならない。Cは、Aから贈与を受けたと思って本件土地の占有を開始したのであり、Aは真実本件土地の所有者であったので、善意かつ無過失である。186条1項及び2項の推定をくつがえすような事情も見当たらないので、Cによる本件土地の短期の取得時効の主張は認められる。
第2 Dについて
Dは、Cに対して、本件土地の抵当権の承認を迫るか、あるいは抵当権の確認訴訟を行うことができたのであるから、CのDに対する請求が認められると解してもDにとって酷ではない。
以上