令和元(2019)年司法試験予備試験論文再現答案商法

以下会社法についてはその条数のみを示す。

 

〔設問1〕

第1 決議事項として予定されていなかった事項の決議

 Dとしては、本件取締役会で決議事項として予定されていなかった事項を決議したことが不当であると主張することが考えられる。しかしそのことを禁じる定めは会社法に存在しない。確かに、取締役会を招集する者は、取締役会の日の一週間前までに、各取締役に対してその通知を発しなければならない(368条1項)と定められている。しかし、取締役会では経営に関する事項を機動的に決議することが必要であり、決議事項として予定されていなかった事項の決議をすることも禁止されていない。よってDの主張は当たらない。

 

第2 Dが本件取締役会決議への参加が許されなかったこと

 Dは、自分が本件取締役会決議への参加が許されなかったことが違法であると主張することが考えられる。Cは決議について特別の利害関係を有するという理由でDを議決に参加させなかった。これは369条2項を根拠にしていると思われる。同項の趣旨は、取締役は忠実義務(355条)及び委任に基づく善管注意義務(民法644条)を負うところ(これら2つの義務は同じものであると解されている)、取締役の解任や利益相反取引(356条)など、類型的に取締役と会社の利害が反する場合には、先述の義務を果たすことが期待できないとして、議決から排除するということである。本件ではまさにそのような場合に当たるので、Dは特別利害関係人として本件取締役会決議に参加できず、このDの主張は当たらない。

 

第3 Dの取締役からの解任を目的とする臨時株主総会の招集手続

 Dは、この臨時株主総会は急な開催であって不当であると主張することが考えられる。確かに、株主総会を招集するには、取締役は、株主総会の日の二週間前までに、株主に対してその通知を発しなければならず(299条1項)、本件取締役会決議を行った令和元年5月9日から臨時株主総会が開催させる同月20日までには11日しかない。しかし、同項のかっこ内では、298条1項第3号または4号(書面による議決権行使または電磁的方法による議決権行使)に掲げる事項を定めたときを除き、公開会社でない株式会社にあっては、一週間前でよいとされているので、Dの主張は当たらない。甲社株式の全部につき譲渡制限があるので公開会社ではない(2条5号)。

 

〔設問2〕

第1 丙社が本件会社分割により取得した甲社株式40株について

 Dによるこの40株の議決権行使が認められれば、行使された議決権100個のうち40個の賛成となり、本件株主総会決議は成立しない(341条)。そこでこの株式について検討する。
 甲社株式は譲渡制限株式であり、譲渡について会社に対抗するためには、取締役会の承認の決議を得なければならない(139条1項)。本件では、この承認の決議が得られていないので、Dが議決権を行使することはできない。この株式譲渡は、会社分割によるものであり、吸収分割承継会社(丙社)が、吸収分割消滅会社(乙社)の権利を包括的に承継するのであるが、それにより譲渡制限を潜脱できるとなると不当なので、原則通り取締役会の承認の決議が必要である。

 

第2 Aが有していた甲社株式100株について

 Aが有していてB、C、D、Eが共同相続した甲社株式100株について、本件株主総会決議に反対の議決権が行使されたら、あるいは少なくとも議決権を行使することができる株主の議決権に含まれれば、議決権を行使することができる株主の議決権の数が160個または200個になり、いずれにしてもその過半数が出席するという要件を満たさない(341条)。先述した甲社株式40株について議決権を行使することができると考えれば200個であり、そうでなければ160個である。
 Aが有していてB、C、D、Eが共同相続した甲社株式100株については、株主名簿(121条)の名義書換や、共有株式についての権利を行使すべき者の指定(106条)がなされるのが理想的である。しかし、同族会社などで相続を機に争いが発生し、共同相続された株式についてこれらの手続ができなくなる可能性は十分に考えられる。そうした場合には、大きな割合の株式が相続されその株式の議決権が宙に浮くことになり、比較的小さな割合の議決権で、取締役の解任といった大きな事柄の議決をされてしまうおそれがある。本件がまさにそのような場合であり、こうしたことを防ぐために、民法の共有の規定に従うことも許されるべきである。株式の議決権の行使は、共有物の変更となるような会社の解散の議決(471条3号)をするときなどを除き、共有物の管理に当たるので、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する(民法252条)。よって、Aが有していた甲社株式100株も議決権を行使できることになる。よってDの主張は認められる。

 

第3 手続

 Dは、上記の主張を、株主総会の決議の取消しの訴え(831条1項1号)にて行うものと考えられる。

 

以上




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