令和元(2019)年司法試験予備試験論文再現答案刑事訴訟法

以下刑事訴訟法についてはその条数のみを示す。

 

第1 逮捕から勾留までの手続

 司法警察員は、逮捕状により逮捕をしたときは、203条に沿って、検察官に送致する手続をしなければならない。検察官は、逮捕状により逮捕された被疑者を受け取ったときは、204条に沿って、裁判官に被疑者の勾留を請求しなければならない。203条の規定により被疑者を受け取った場合は、205条に沿って、裁判官に被疑者の勾留を請求しなければならない。その請求を受けた裁判官は、60条1項に沿って判断する(207条)。
 逮捕されてから勾留請求されるまでの身柄拘束は、最大で72時間と比較的短いので、逮捕については準抗告ができない(430条1項)。よって、勾留の適法性を判断する際には、逮捕の違法性も含まれる。

 

第2 勾留請求までの手続の適法性

 令和元年6月6日午前9時10分に甲が通常逮捕されたことを前提に考える。
 それに先立つH警察署の取調室における取調べは、本来は甲は何時でも退去することができた(198条1項)。ただ、Pらが甲の退去を阻止したといった事情はなく、甲が勝手に退出できないものと諦めていただけなので、この取調べに違法はない。
 問題は、それに先立つ、同日午前3時頃からのPらの行為である。特に、Qが、先にパトカーの後部座席に乗り込み、甲の片腕を車内から引っ張り、Pが、甲の背中を押し、後部座席中央に甲を座らせ、その両側にPとQが甲を挟むようにして座った上、パトカーを出発させた行為が問題となる。逮捕とは人の身体や移動の自由を侵害するものであり、個人の意思を制圧して重要な権利を制約する強制捜査であり、刑事訴訟法で手続や要件が定められている。上記の行為は、甲の身体や移動の自由を侵害し、実質的な逮捕を行っているので、原則として違法となる。もっとも、手続を多少前後しただけなどであれば例外的に適法となる余地もあるが、本件ではこの時点では「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」(199条1項)が備わっておらず、5時間以上もして甲の供述をもとにして逮捕状による通常逮捕がされたのであるから、原則通り違法である。この時点では、甲の供述が得られなかったかもしれない。
 なお、仮に令和元年6月6日午前3時頃に実質的に逮捕されたと考えても、203ないし205条の時間制限は満たしている。
 また、仮に甲が任意で取調べに応じていたとしたら、任意捜査といっても無制限に許容されるわけではなく一定の制約はあるが、夜中とはいえ5時間程度の取調べであるので、適法である。

 

第3 罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由

 60条1項の「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」は、199条1項の逮捕の際の「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」より高度のがい然性が必要とされるが、有罪判決となる理由よりもがい然性が低くてもよい。本件では、甲が犯行時間から約12時間後に、犯行場所から約8キロメートル離れた場所で、被害物であるV名義のクレジットカードを自分のポケットの中にもっていて、犯行を目撃した被害者Vが犯人に間違いないと言っているので、「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」はあると言える。

 

以上

 

 




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