浅野直樹の学習日記

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2015 / 6月

平成25年司法試験予備試験論文(刑法)答案練習

問題

 以下の事例に基づき,Vに現金50万円を振り込ませた行為及びD銀行E支店ATMコーナーにおいて,現金自動預払機から現金50万円を引き出そうとした行為について,甲,乙及び丙の罪責を論じなさい(特別法違反の点を除く。)。
1 甲は,友人である乙に誘われ,以下のような犯行を繰り返していた。
 ①乙は,犯行を行うための部屋,携帯電話並びに他人名義の預金口座の預金通帳,キャッシュカード及びその暗証番号情報を準備する。②乙は,犯行当日,甲に,その日の犯行に用いる他人名義の預金口座の口座番号や名義人名を連絡し,乙が雇った預金引出し役に,同口座のキャッシュカードを交付して暗証番号を教える。③甲は,乙の準備した部屋から,乙の準備した携帯電話を用いて電話会社発行の電話帳から抽出した相手に電話をかけ,その息子を装い,交通事故を起こして示談金を要求されているなどと嘘を言い,これを信じた相手に,その日乙が指定した預金口座に現金を振り込ませた後,振り込ませた金額を乙に連絡する。④乙は,振り込ませた金額を預金引出し役に連絡し,預金引出し役は,上記キャッシュカードを使って上記預金口座に振り込まれた現金を引き出し,これを乙に手渡す。⑤引き出した現金の7割を乙が,3割を甲がそれぞれ取得し,預金引出し役は,1万円の日当を乙から受け取る。

2 甲は,分け前が少ないことに不満を抱き,乙に無断で,自分で準備した他人名義の預金口座に上記同様の手段で現金を振り込ませて,その全額を自分のものにしようと計画した。そこで,甲は,インターネットを通じて,他人であるAが既に開設していたA名義の預金口座の預金通帳,キャッシュカード及びその暗証番号情報を購入した。

3 某日,甲は,上記1の犯行を繰り返す合間に,上記2の計画に基づき,乙の準備した部屋から,乙の準備した携帯電話を用いて,上記電話帳から新たに抽出したV方に電話をかけ,Vに対し,その息子を装い,「母さん。俺だよ。どうしよう。俺,お酒を飲んで車を運転して,交通事故を起こしちゃった。相手のAが,『示談金50万円をすぐに払わなければ事故のことを警察に言う。』って言うんだよ。警察に言われたら逮捕されてしまう。示談金を払えば逮捕されずに済む。母さん,頼む,助けてほしい。」などと嘘を言った。Vは,電話の相手が息子であり,50万円をAに払わなければ,息子が逮捕されてしまうと信じ,50万円をすぐに準備する旨答えた。甲は,Vに対し,上記A名義の預金口座の口座番号を教え,50万円をすぐに振り込んで上記携帯電話に連絡するように言った。Vは,自宅近くのB銀行C支店において,自己の所有する現金50万円を上記A名義の預金口座に振り込み,上記携帯電話に電話をかけ,甲に振込みを済ませた旨連絡した。

4 上記振込みの1時間後,たまたまVに息子から電話があり,Vは,甲の言ったことが嘘であると気付き,警察に被害を申告した。警察の依頼により,上記振込みの3時間後,上記A名義の預金口座の取引の停止措置が講じられた。その時点で,Vが振り込んだ50万円は,同口座から引き出されていなかった。

5 甲は,上記振込みの2時間後,友人である丙に,上記2及び3の事情を明かした上,上記A名義の預金口座から現金50万円を引き出してくれれば報酬として5万円を払う旨持ちかけ,丙は,金欲しさからこれを引き受けた。甲は,丙に,上記A名義の預金口座のキャッシュカードを交付して暗証番号を教え,丙は,上記振込みの3時間10分後,現金50万円を引き出すため,D銀行E支店(支店長F)のATMコーナーにおいて,現金自動預払機に上記キャッシュカードを挿入して暗証番号を入力したが,既に同口座の取引の停止措置が講じられていたため,現金を引き出すことができなかった。なお,金融機関は,いずれも,預金取引に関する約款等において,預金口座の譲渡を禁止し,これを預金口座の取引停止事由としており,譲渡された預金口座を利用した取引に応じることはなく,甲,乙及び丙も,これを知っていた。

 

練習答案

以下刑法についてはその条数のみを示す。

 

第1 丙の罪責
 1.住居侵入罪(130条)
  正当な理由がないのに、人の看守する建造物に侵入することは住居侵入罪の構成要件である。
  D銀行E支店のATMコーナーは人の看守する建造物である。丙はそこに正当な理由がないのに侵入している。譲渡された預金口座を利用した取引をすることは正当な理由ではなく、その他の正当な理由も見当たらない。また、支店長Fはそのような丙がATMコーナーに立入ることを知ったらそれを拒絶していたことが容易に推測できるので、丙は管理者の意に反して侵入したと言える。
  以上より、丙には住居侵入罪が成立する。
 2.窃盗罪(235条)
  他人の財物を窃取することが窃盗罪の構成要件である。現代社会では所有と占有が分離することが多く、真の所有者であっても占有者から自力で取り戻すことは原則的に禁止されているので、「他人の財物」とは「他人の占有する財物」のことである。また、窃盗罪は財産に対する罪なので、不法領得の意思や財産的損害も書かれざる構成要件になる。
  丙が引き出そうとした現金50万円はD銀行が占有する他人の財物である。もしも丙がその50万円を引き出して自己の占有下に置けば窃取したと言えるが、実際には取引の停止措置が講じられていたので、丙は窃取に至らなかった。丙は現金自動預払機にキャッシュカードを挿入して暗証番号を入力した時点で実行に着手している。不法領得の意思や財産的損害に欠けるところはない。
  以上より、丙には窃盗罪の未遂(43条)が成立する。
 3.その他
  丙は人を欺いてはいないので詐欺罪(246条)は成立しない。また、Vに現金50万円を振り込ませた行為については甲から事後的に知らされただけで何らその実現に寄与していないので共犯となる余地はない。
 4.結論
  以上より、丙には、住居侵入罪と窃盗罪の未遂が成立し、これらはけん連犯となる。
第2 甲の罪責
 1.住居侵入罪(130条)、窃盗罪(235条)
  2人以上共同して犯罪を実行した者はすべて正犯とする(60条)。甲は、上で検討した丙の住居侵入罪及び窃盗未遂罪について、丙と共謀して共同して犯罪を実行したと言える。A名義の預金口座、キャッシュカード、暗証番号を用意して発案したのは甲であり、50万円のうち45万円を甲の取り分とすることになっていたので、正犯性に欠けるところはない。
  以上より、甲には、丙との共同正犯として、住居侵入罪と窃盗罪の未遂が成立する。
 2.詐欺罪(246条2項)
  人を欺いて、財産上不法の利益を得たことが詐欺罪の構成要件である。財産に対する罪なので不法領得の意思と財産的損害も書かれざる構成要件である。
  甲はVに対し電話で息子を装って、逮捕を避けるために飲酒運転の事故の示談金として50万円を支払う必要があると嘘を言ったので、Vという人を欺いている。Vはそのせいで錯誤に陥り、甲から指定されたA名義の預金口座に50万円を振り込んだ。この振り込みにより甲が財産上不法の利益を得たかどうかが問題となり得るが、その口座のキャッシュカードと暗証番号を管理している甲はこれにより50万円を自由に引き出したり送金したりできる地位を取得したので、財産上不法の利益を得たと言える。不法領得の意思や財産的損害に欠けるところもない。
  以上より、甲には、詐欺罪が成立する。
 3.結論
  以上より、甲には、住居侵入罪及び窃盗未遂罪(以上けん連犯)と詐欺罪が成立し、前二者と後者は併合罪(45条)となる。
第3 乙の罪責
 ここまでに検討してきた丙及び甲の罪責について、乙にはその故意が欠けていたので、共犯にならないのはもちろん、従犯にもならない。
 以上より、乙には、問題文で指定された行為につき何らの犯罪も成立しない。

以上

 

修正答案

以下刑法についてはその条数のみを示す。

第1 丙の罪責
 1.窃盗罪(235条)
  他人の財物を窃取することが窃盗罪の構成要件である。現代社会では所有と占有が分離することが多く、真の所有者であっても占有者から自力で取り戻すことは原則的に禁止されているので、「他人の財物」とは「他人の占有する財物」のことである。
  丙が引き出そうとした現金50万円はD銀行が占有する他人の財物である。銀行が預金口座の取引の停止措置を講じたということは、その口座に入っている金銭を占有しているということである。もしも丙がその50万円を引き出して自己の占有下に置けば窃取したと言えるが、停止措置が講じられていたので、丙は窃取に至らなかった。しかし、現金自動預払機にキャッシュカードを挿入して暗証番号を入力した時点で、50万円の金銭を引き出す現実的な危険が生じていたので、実行に着手していたと言える。わずか10分の差で引き出すことができなかっただけであり、また停止措置が講じられていることは丙も一般人も知らなかった事情である。不法領得の意思や財産的損害に欠けるところはない。
  以上より、丙には窃盗罪の未遂(43条、243条)が成立する。
 2.その他
  丙は人を欺いてはいないので詐欺罪(246条)は成立しない。また、Vに現金50万円を振り込ませた行為については、その振り込みの時点で既遂に達しており、その後に事情を知らされただけで何らその実現に寄与していないので、共犯となる余地はない。
 3.結論
  以上より、丙には、窃盗罪の未遂が成立する。
第2 甲の罪責
 1.窃盗罪(235条)
  2人以上共同して犯罪を実行した者はすべて正犯とする(60条)。甲は、上で検討した丙の窃盗罪について、丙と共謀して共同して犯罪を実行したと言える。A名義の預金口座、キャッシュカード、暗証番号を用意して発案したのは甲であり、50万円のうち45万円を甲の取り分(残りの5万円は丙の取り分)とすることになっていたので、正犯性に欠けるところはない。
  以上より、甲には、丙との共同正犯として、窃盗罪の未遂が成立する。
 2.詐欺罪(246条1項)
  人を欺いて財物を交付させたことが詐欺罪(246条1項)の構成要件である。
  甲はVに対し電話で息子を装って、逮捕を避けるために飲酒運転の事故の示談金として50万円を支払う必要があると嘘を言ったので、Vという人を欺いている。Vはそのせいで錯誤に陥り、甲から指定されたA名義の預金口座に50万円を振り込んだ。この振り込みが財物を交付させたことになるかどうかが問題となり得るが、その口座のキャッシュカードと暗証番号を管理している甲は、これにより50万円を自由に引き出したり送金したりできるようになったので、この時点で財物が交付されたと言ってよい。このような状況下では預金も現金と大差いので、振り込みがあった時点で詐欺罪は既遂に達する。実際にはその3時間後に銀行が預金口座の取引の停止措置を講じたために、甲が50万円を自由に処分することができなくなっていたが、それは一度手にした現金の占有を何らかの事情により第三者に奪取されたのと同じであり、詐欺罪の成否に消長をきたさない。不法領得の意思や財産的損害に欠けるところもない。
  以上より、甲には、詐欺罪が成立する。
 3.結論
  以上より、甲には、窃盗罪の未遂と詐欺罪が成立し、これらは併合罪(45条)となる。前者はD銀行の占有の侵害、後者はVの財産に対する侵害と保護法益が異なっているので、併合罪とすることに問題はない。
第3 乙の罪責
 ここまでに検討してきた丙及び甲の罪について、乙にはその故意が欠けていたので、共同正犯(60条)にならないのはもちろん、教唆(61条)や幇助(62条)にもならない。
 乙は問題文1に示されたような犯行を甲と共同して繰り返しており、ここまでに検討してきた丙及び甲の罪について錯誤はあっても故意は否定されないのではないかという疑問が生じるかもしれないが、後者は前者と異なり、乙に無断で、甲が自分で準備した他人名義の預金口座に上記同様の手段で現金を振り込ませて、その全額を自分のものにしようと計画したものであるので、乙の部屋や携帯電話こそ用いているものの、別個の犯罪である。
 以上より、乙には、問題文で指定された行為につき何らの犯罪も成立しない。

以上

 

 

感想

練習答案では記述が不正確だったり足りなかったりした部分があったので、修正答案ではそれらを補いました。出題趣旨で求められている論理的一貫性は保たれていると思います。

 



平成25年司法試験予備試験論文(行政法)答案練習

問題

 A市は,景観法(以下「法」という。)に基づく事務を処理する地方公共団体(景観行政団体)であり,市の全域について景観計画(以下「本件計画」という。)を定めている。本件計画には,A市の臨海部の建築物に係る形態意匠の制限として,「水域に面した外壁の幅は,原則として50メートル以内とし,外壁による圧迫感の軽減を図る。」と定められている。事業者Bは,A市の臨海部に,水域に面した外壁の幅が70メートルのマンション(以下「本件マンション」という。)を建築する計画を立て,2013年7月10日に,A市長に対し法第16条第1項による届出を行った。本件マンションの建築は,法第17条第1項にいう特定届出対象行為にも該当する。しかし,本件マンションの建築予定地の隣に建っているマンションに居住するCは,本件マンションの建築は本件計画に違反し良好な景観を破壊するものと考えた。Cは,本件マンションの建築を本件計画に適合させるためには,水域に面した外壁の幅が50メートル以内になるように本件マンションの設計を変更させることが不可欠であると考え,法及び行政事件訴訟法による法的手段を採ることができないか,弁護士Dに相談した。Cから同月14日の時点で相談を受けたDの立場に立って,以下の設問に解答しなさい。
 なお,法の抜粋を資料として掲げるので,適宜参照しなさい。

 

〔設問1〕
 Cが,本件計画に適合するように本件マンションの設計を変更させるという目的を実現するには,法及び行政事件訴訟法によりどのような法的手段を採ることが必要か。法的手段を具体的に示すとともに,当該法的手段を採ることが必要な理由を,これらの法律の定めを踏まえて説明しなさい。

 

〔設問2〕
 〔設問1〕の法的手段について,法及び行政事件訴訟法を適用する上で問題となる論点のうち,訴訟要件の論点に絞って検討しなさい。

 

【資料】景観法(平成16年法律第110号)(抜粋)
(目的)
第1条 この法律は,我が国の都市,農山漁村等における良好な景観の形成を促進するため,景観計画の策定その他の施策を総合的に講ずることにより,美しく風格のある国土の形成,潤いのある豊かな生活環境の創造及び個性的で活力ある地域社会の実現を図り,もって国民生活の向上並びに国民経済及び地域社会の健全な発展に寄与することを目的とする。
(基本理念)
第2条 良好な景観は,美しく風格のある国土の形成と潤いのある豊かな生活環境の創造に不可欠なものであることにかんがみ,国民共通の資産として,現在及び将来の国民がその恵沢を享受できるよう,その整備及び保全が図られなければならない。
2~5 (略)
(住民の責務)
第6条 住民は,基本理念にのっとり,良好な景観の形成に関する理解を深め,良好な景観の形成に積極的な役割を果たすよう努めるとともに,国又は地方公共団体が実施する良好な景観の形成に関する施策に協力しなければならない。
(景観計画)
第8条 景観行政団体は,都市,農山漁村その他市街地又は集落を形成している地域及びこれと一体となって景観を形成している地域における次の各号のいずれかに該当する土地(中略)の区域について,良好な景観の形成に関する計画(以下「景観計画」という。)を定めることができる。
一~五 (略)
2~11 (略)
(届出及び勧告等)
第16条 景観計画区域内において,次に掲げる行為をしようとする者は,あらかじめ,(中略)行為の種類,場所,設計又は施行方法,着手予定日その他国土交通省令で定める事項を景観行政団体の長に届け出なければならない。
一 建築物の新築(以下略)
二~四 (略)
2~7 (略)
(変更命令等)
第17条 景観行政団体の長は,良好な景観の形成のために必要があると認めるときは,特定届出対象行為(前条第1項第1号又は第2号の届出を要する行為のうち,当該景観行政団体の条例で定めるものをいう。(中略))について,景観計画に定められた建築物又は工作物の形態意匠の制限に適合しないものをしようとする者又はした者に対し,当該制限に適合させるため必要な限度において,当該行為に関し設計の変更その他の必要な措置をとることを命ずることができる。(以下略)
2 前項の処分は,前条第1項又は第2項の届出をした者に対しては,当該届出があった日から30日以内に限り,することができる。
3~9 (略)

 

練習答案

以下行政事件訴訟法についてはその条数のみを示す。

 

[設問1]
 Cが、本件計画に適合するように本件マンションの設計を変更させるという目的を実現するには、A市長に、景観法17条1項に基づいて、Bが行った本件特定届出対象行為に関し設計の変更その他の必要な措置をとることを命じてもらえばよい。Cが求めている変更は水域に面した外壁の幅が50メートル以内になるようにするというものであり、本件景観計画の制限に適合させるものであるので、景観法17条1項の要件を満たしている。
 そのために、Cは、A市長を被告として、上記景観法17条1項に基づく命令という処分(この命令はA市長が公権力の行使として私人Bに義務を負わせるものなので処分である)をすべき旨を命ずることを求める義務付けの訴え(3条6項1号)を提起することが必要となる。
 さらに、上記訴訟が確定する前にBが本件マンションを建築してしまうことを防ぐために、仮の義務付けの訴え(37条の5第1項)の活用も検討すべきである。

 

[設問2]
第1 原告適格
 3条6項1号の義務付けの訴えは、行政庁が一定の処分をすべき旨を命ずることを求めるにつき法律上の利益を有する者に限り、提起することができる(37条の2第3項)。そしてその法律上の利益の有無の判断については、9条2項の規定が準用される(37条の2第4項)。つまり、処分の相手方以外の者について法律上の利益の有無を判断するに当たっては、当該処分の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び性質を考慮するものとする(9条2項)。
 Cが求める処分は景観法17条1項に基づく命令なので、景観法について検討する。同法では地域の良好な景観や健全な発展がその目的とされている(景観法1条)が、それ以上に特定の者の個別的利益を保護するという趣旨は読み取れない。現に景観計画はA市全域に及んでいるほどである。
 以上より、本件マンションの建築予定地の隣に建っているマンションに居住するCは、[設問1]で述べた義務付けの訴えに関して、法律上の利益を有さず、原告適格が否定される。
第2 重大な損害と補充性
 3条6項1号の義務付けの訴えは、一定の処分がされないことにより重大な損害を生ずるおそれがあり、かつ、その損害を避けるため他に適当な方法がないときに限り、提起することができる(37条の2第1項)。裁判所がその重大な損害を生ずるか否かを判断するに当たっては、損害の回復の困難の程度を考慮するものとし、損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質をも勘案するものとする(37条の2第2項)。
 Cが求める景観法17条1項の処分がなされないと、景観を害するマンションが建築されてしまい、それを取り壊して景観を回復させるのは極めて困難である。景観を害される損害の程度をどう捉えるかには個人差があるだろうが、事後的に金銭賠償することになじまない性質のものである。処分の内容は損害を避けるために適切であり、計画段階で少しの修正を命じられてもBが受ける不利益は比較的小さい。他の方法としてBを被告とする民事訴訟も考えられなくはないが、義務付けの訴えのほうが景観法にぴったりとはまるので適当であり、他に適切な方法がないと言ってよい。
 以上より、重大な損害及び補充性の要件は満たされる。
第3 出訴期間
 3条6項1号の義務付けの訴えに出訴期間は定められていないので問題ない。処分の根拠となる景観法17条2項には、「前項の処分は、前条第1項又は第2項の届出をした者に対しては、当該届出があった日から30日以内に限り、することができる」とあるが、その届出があったのは2013年7月10日で、現在は同月14日と30日以内なので、その点も問題ない。

以上

 

修正答案

以下行政事件訴訟法についてはその条数のみを示す。

[設問1]
 Cが、本件計画に適合するように本件マンションの設計を変更させるという目的を実現するには、A市長に、景観法17条1項に基づいて、Bが行った本件特定届出対象行為に関し設計の変更その他の必要な措置をとることを命じてもらう必要がある。景観法では、景観法第16条第1項による届出は文字通り届出であって、届出により効力が発生するため、景観法17条1項の命令でその届出の不備を是正するという仕組みになっている。Cが求めている変更は水域に面した外壁の幅が50メートル以内になるようにするというものであり、本件景観計画の制限に適合させるものであるので、景観法17条1項の要件を満たしている。
 そのために、Cは、上記景観法17条1項に基づく命令という処分(この命令はA市長が公権力の行使として私人Bに義務を負わせるものなので処分である)をすべき旨を命ずることを求める義務付けの訴え(3条6項1号)を提起することが必要となる。具体的には、A市を被告として(38条1項、11条1項1号)、「被告の長は、Bに対し、『水域に面した外壁の幅が50メートル以内になるように本件マンションの設計を変更せよ』と命ぜよ」という請求の趣旨を立てることになる。
 景観法17条2項には、「前項の処分は、前条第1項又は第2項の届出をした者に対しては、当該届出があった日から30日以内に限り、することができる」とあるが、その届出があったのは2013年7月10日で、現在は同月14日と30日以内なので、観法17条1項に基づく命令を現時点ではすることができるが、30日が経過してそれができなくなることを防ぐために、仮の義務付けの訴え(37条の5第1項)もあわせて提起することが必要となる。

 

[設問2]
第1 重大な損害と補充性
 3条6項1号の義務付けの訴えは、一定の処分がされないことにより重大な損害を生ずるおそれがあり、かつ、その損害を避けるため他に適当な方法がないときに限り、提起することができる(37条の2第1項)。裁判所がその重大な損害を生ずるか否かを判断するに当たっては、損害の回復の困難の程度を考慮するものとし、損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質をも勘案するものとする(37条の2第2項)。
 Cが求める景観法17条1項の処分がなされないと、景観を害するマンションが建築されてしまい、それを取り壊して景観を回復させるのは極めて困難である。景観を害される損害の程度をどう捉えるかには個人差があるだろうが、事後的に金銭賠償することになじまない性質のものである。処分の内容は、水域に面した外壁の幅が70メートルから50メートル以内になるように本件マンションの設計を変更することを命じるというものであり、損害を避けるために適切であり、計画段階での修正であるのでBが受ける不利益は比較的小さい。他の方法としてBを被告とした本件マンション建設の差止めを求める民事訴訟も考えられなくはないが、景観法を適用できるのは義務付けの訴えのみであるため、これが適当であり、他に適切な方法がないと言ってよい。
 以上より、重大な損害及び補充性の要件は満たされる。
第2 原告適格
 3条6項1号の義務付けの訴えは、行政庁が一定の処分をすべき旨を命ずることを求めるにつき法律上の利益を有する者に限り、提起することができる(37条の2第3項)。そしてその法律上の利益の有無の判断については、9条2項の規定が準用される(37条の2第4項)。つまり、処分の相手方以外の者について法律上の利益の有無を判断するに当たっては、当該処分の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び性質を考慮するものとする(9条2項)。
 処分の相手方以外の者であるCが求める処分は景観法17条1項に基づく命令なので、景観法について検討する。同法では地域の良好な景観や健全な発展がその目的とされている(景観法1条)が、それ以上に特定の者の個別的利益を保護するという趣旨は読み取れない。現に景観計画はA市全域に及んでいるほどである。景観法は一般的公益を保護しているに過ぎないのである。
 以上より、本件マンションの建築予定地の隣に建っているマンションに居住するCは、[設問1]で述べた義務付けの訴えに関して、法律上の利益を有さず、原告適格が否定される。
第3 結論
 以上より、Cは、原告適格が否定されるので、[設問1]で述べた義務付けの訴えを提起することができない。

以上

 

 

感想

練習答案では、仮の義務付けと被告適格の部分をミスしました。あとはまずまずできたと思います。

 



平成25年司法試験予備試験論文(憲法)答案練習

問題

 202*年時点では,衆議院小選挙区選出議員における,いわゆる「世襲」議員の数が増加する傾向にある。「世襲」議員とは,例えば,国会議員が引退する際に,その子が親と同一の選挙区から立候補して当選した場合の当選議員をいう。「世襲」議員には,立候補時において,一般の新人候補者に比べて,後援会組織,選挙資金,知名度等のメリットがあると言われている。このような「世襲」議員については賛否両論があるが,政党A及び政党Bでは,世論の動向も踏まえて何らかの対応策を採ることとし,立候補が制限される世襲の範囲や対象となる選挙区の範囲等について検討が行われた。その結果,政党Aから甲案が,政党Bから乙案が,それぞれ法律案として国会に提出された。
 甲乙各法律案の内容は,以下のとおりである。
  (甲案)政党は,その政党に所属する衆議院議員の配偶者及び三親等内の親族が,次の衆議院議員選挙において,当該議員が選出されている小選挙区及びその小選挙区を含む都道府県内の他の小選挙区から立候補する場合は,その者を当該政党の公認候補とすることができない。
  (乙案)衆議院議員の配偶者及び三親等内の親族は,次の衆議院議員選挙において,当該議員が選出されている小選挙区及びその小選挙区を含む都道府県内の他の小選挙区から立候補することができない。

 政党Cに所属する衆議院議員Dは,次の衆議院議員選挙では自らは引退した上で,長男を政党Cの公認候補として出馬させようとして,その準備を着々と進めている。Dは,甲案及び乙案のいずれにも反対である。Dは,甲案にも乙案にも憲法上の問題があると考えている。

 

〔設 問〕
Dの立場からの憲法上の主張とこれに対して想定される反論との対立点を明確にしつつ,あなた自身の見解を述べなさい。

 

練習答案

以下日本国憲法についてはその条数のみを示す。

 

第1 Dの主張
 1 平等権
  すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない(14条1項)。
  衆議院議員の配偶者及び三親等内の親族というのは門地である。仮に門地でないとしても14条1項の保障する範囲内であることは明らかである。それにより衆議院議員選挙において一定の小選挙区から立候補できないということは大きな政治的差別であり、経済的又は社会的関係における差別である。衆議院議員は政治に携わるための最有力の道であり、職業として収入も得られ、社会的な影響力も大きいからである。
  以上より、甲案も乙案も平等権を侵害し違憲である。
 2 衆議院議員に立候補する権利
  衆議院議員に立候補する権利(以下「本件権利」とする)は明文で規定されていないものの、憲法で保障されている。まず、公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である(15条1項)。より具体的には、国会は、衆議院及び参議院の両議院でこれを構成し(42条)、両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織し(43条1項)、両議院の議員及びその選挙人の資格は、法律でこれを定める、但し、人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によって差別してはならない(44条)からである。
  このように本件権利は憲法上保障されているところ、甲案も乙案もそれを侵害しているので違憲である。
第2 想定される反論
 1 平等権
  平等権は機械的、画一的に保障されるものではなく、合理的な区別はむしろ実質的な平等に資するものとして許される。
  「世襲」議員が増加しているということは、後援会組織、選挙資金、知名度等で劣る「世襲」でない人が差別されている状態であり、それを是正して実質的な平等を志向する甲案、乙案とも合憲である。
 2 本件権利
  両議院の議員及びその選挙人の資格は、法律でこれを定める(44条)のであって、現に25歳以上でなければ衆議院議員の被選挙権がなく(公職選挙法10条1項1号)、一定の犯罪をした者もそうである(公職選挙法11条、11条の2)。
  このように、法律によって本件権利を制約することも可能である。
第3 私自身の見解
 1 平等権
  合理的な区別であれば許されるというのは想定される反論の通りなので、合理的な区別かどうかを検討する。ただし、Dが主張するように14条1項に列挙された項目によるものなので、合理性は厳格に判定されなければならない。
  想定される反論が主張するように、甲案、乙案ともにかなりの合理性を有している。加えて、衆議院議員になるための実質的な平等という目的のためには、他のより制限的でない方法は思い当たらない。そして両案とも世論を背景として国会に提出されたという手続的な正当性も有している。
  以上より、甲案、乙案とも違憲ではない。
 2 本件権利
  本件権利は民主主義の根幹をなす重大な権利である。よって法律でその権利を制約できるとしても、その制約は最小限でなければならない。
  想定される反論が挙げる年齢制限については被選挙権については求められる熟慮も大きくなるので選挙権よりも少しだけ厳しい制限を課すというのは最小限度であるし、一定の犯罪も選挙の公正を保つのに最小限度となるように慎重に規定されている。
  甲案、乙案とも立候補が禁止されるのは1回の選挙だけであり、しかも1つの都道府県の小選挙区に限定されている。さらに甲案では当該政党の公認候補とすることができないだけで、他の政党からや無所属でなら立候補できる。
  「世襲」議員は当選しやすいのである種の不正な選挙に近いと考えれば甲案は最小限度の制約として許容されるが、不正そのものではないので乙案の制約は広すぎる。
  以上より、甲案は合憲であるが、乙案は違憲であると私は考える。

以上

 

修正答案

以下日本国憲法についてはその条数のみを示す。

第1 Dの主張
 1 平等権
  すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない(14条1項)。
  衆議院議員の配偶者及び三親等内の親族というのは社会的身分又は門地である。それにより衆議院議員選挙において一定の小選挙区から立候補できないということは大きな政治的差別であり、経済的又は社会的関係における差別である。衆議院議員は政治に携わるための最有力の道であり、職業として収入も得られ、社会的な影響力も大きいからである。
  以上より、甲案も乙案も平等権を侵害し違憲である。
 2 衆議院議員に立候補する権利
  衆議院議員に立候補する権利(以下「本件権利」とする)は明文で規定されていないものの、憲法で保障されている。まず、公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である(15条1項)。より具体的には、国会は、衆議院及び参議院の両議院でこれを構成し(42条)、両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織し(43条1項)、両議院の議員及びその選挙人の資格は、法律でこれを定める、但し、人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によって差別してはならない(44条)からである。
  このように本件権利は憲法上保障されているところ、甲案も乙案もそれを侵害しているので違憲である。
第2 想定される反論
 1 平等権
  平等権は機械的、画一的に保障されるものではなく、合理的な区別はむしろ実質的な平等に資するものとして許される。
  「世襲」議員が増加しているということは、後援会組織、選挙資金、知名度等で劣る「世襲」でない人が差別されている状態であり、それを是正して実質的な平等を志向する甲案、乙案とも合憲である。
 2 本件権利
  両議院の議員及びその選挙人の資格は、法律でこれを定める(44条)のであって、現に25歳以上でなければ衆議院議員の被選挙権がなく(公職選挙法10条1項1号)、一定の犯罪をした者もそうである(公職選挙法11条、11条の2)。
  このように、法律によって本件権利を制約することも可能である。
第3 私自身の見解
 1 平等権
  合理的な区別であれば許されるというのは想定される反論の通りなので、合理的な区別かどうかを検討する。ただし、Dが主張するように14条1項に列挙された項目によるものなので、合理性は厳格に判定されなければならない。
  想定される反論が主張するように、甲案、乙案ともにかなりの合理性を有している。加えて、衆議院議員になるための実質的な平等という目的のためには、他のより制限的でない方法は思い当たらない。そして両案とも世論を背景として国会に提出されたという手続的な正当性も有している。
  以上より、甲案、乙案とも違憲ではない。
 2 本件権利
  本件権利は民主主義の根幹をなす重大な権利である。よって法律でその権利を制約できるとしても、その制約は最小限でなければならない。
  想定される反論が挙げる年齢制限については被選挙権については求められる熟慮も大きくなるので選挙権よりも少しだけ厳しい制限を課すというのは最小限度であるし、一定の犯罪も選挙の公正を保つのに最小限度となるように慎重に規定されている。
  甲案、乙案とも立候補が禁止されるのは1回の選挙だけであり、しかも1つの都道府県の小選挙区に限定されている。さらに甲案では当該政党の公認候補とすることができないだけで、他の政党からや無所属でなら立候補できる。
  「世襲」議員は当選しやすいのである種の不正な選挙に近いと考えれば甲案は最小限度の制約として許容される。しかし、「世襲」議員は不正そのものではなく、政党の公認候補になれないとするだけでも「世襲」議員に対する不公平感もかなりの程度払拭できるので、他の政党所属や無所属となっても立候補できないとする乙案の制約は広すぎる。
  甲案については、政党がその公認候補を自由に選定・決定するという政党の自律権を侵害するという反論もあり得るが、政党の自律権といえども選挙の公正を守るための法律の規制には服さなければならないので、甲案は合憲である。
  以上より、甲案は合憲であるが、乙案は違憲であると私は考える。

以上

 

 

感想

最後のほうは時間切れで無理矢理まとめましたが、時間を計って手書きで書いた練習答案もそれなりの評価になると信じたいです。というよりも、時間をかけてもそれ以上の記述があまり思いつきませんでした。自分の中で理解があまりすっきりしていません。

 



平成26年司法試験予備試験論文(民事訴訟法)答案練習

問題

〔設問1〕と〔設問2〕の配点の割合は,2:3)

次の【事例】について,後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。

【事例】
 Xは,Aとの間で,Aの所有する甲土地についての売買契約(以下「本件売買契約」という。)を締結し,売買を原因とする所有権移転登記を経由している。ところが,本件売買契約が締結された後,Xは,Yが甲土地上に自己所有の乙建物を建築し,乙建物の所有権保存登記を経由していることを知った。Xは,Yに甲土地の明渡しを求めたが,Yは,AX間で本件売買契約が締結される前に,Aとの間で土地上に自己所有の建物を建築する目的で,甲土地を賃借する旨の契約を締結しており,甲土地の正当な占有権原がある旨を主張して,これに応じなかった。
 そこで,Xは,平成26年4月15日,甲土地の所在地を管轄する地方裁判所に,Yを被告として,甲土地の所有権に基づき,乙建物を収去して甲土地を明け渡すことを求める訴訟(以下「本件訴訟」という。)を提起し,その訴状は,同月21日,Yに対して送達された。
平成26年7月13日の時点では,乙建物は,これをYから賃借したWが占有している。

〔設問1〕
 上記の【事例】において,YがWに乙建物を賃貸したのは平成26年2月10日であり,Xは,Wに乙建物が賃貸されたことに気付かないまま,Yのみを相手に建物収去土地明渡しを求める本件訴訟を提起し,その後,乙建物をWが占有していることに気付いた。Xは,Wに対する建物退去土地明渡請求についても,本件訴訟の手続で併せて審理してもらいたいと考えているが,そのために民事訴訟法上どのような方法を採り得るか説明しなさい。

〔設問2〕(〔設問1〕の問題文中に記載した事実は考慮しない。)
 上記の【事例】において,YがWに乙建物を賃貸したのは平成26年5月10日であり,そして,Wは,本件訴訟で,AX間で本件売買契約が締結された事実はないとして,Xが甲土地の所有権を有することを争いたいと考えている。
ところが,Yは,本件訴訟の口頭弁論期日において,AX間で本件売買契約が締結されたことを認める旨の陳述をした。
 ① Yがこの陳述をした口頭弁論期日の後に,Wが本件訴訟に当事者として参加した場合
 ② Wが本件訴訟に当事者として参加した後の口頭弁論期日において,Yがこの陳述をした場合
 ③ Xの申立てにより裁判所がWに訴訟を引き受けさせる旨の決定をした後の口頭弁論期日において,Yがこの陳述をした場合
のそれぞれについて,Wとの関係で,このYの陳述が有する民事訴訟法上の意義を説明しなさい。

 

 

練習答案(実際の試験での再現答案)

(E評価)

 以下民事訴訟法についてはその条数のみを示す。

[設問1]
 Wが自ら独立当事者参加(第47条)や義務承継人の訴訟引受け(第50条)を行えばXの目的が達成されるが、それではW次第ということになってしまうので、ここではXが主導的に行える方法を検討する。
1.義務承継人の訴訟引受け(第50条)
 本件訴訟の目的物は、乙建物を収去して甲土地を明け渡すことである。それをWがYから承継したので、当事者であるXの申立てにより、裁判所は、決定で、Wに訴訟を引き受けさせることができる(第50条第1項)。YがWに乙建物を賃貸したのは平成26年2月10日であり、本件訴訟継続以前であるが、Xはそのことを知らなかったのであって、当事者であるYやWの同意があれば訴訟引受けを認めても問題ないだろう。
2.訴えの変更(第143条)
 原告は、請求の基礎に変更がない限り、口頭弁論の集結に至るまで、請求を変更することができる(第143条第1項)。本件では当事者がYからWに変更されるものの、Xの所有権に基づき、乙建物を収去して甲土地を明け渡すことを求めるという点で請求の基礎に変更がないと言えるので、請求を変更することができると考えられる。訴訟が始まったばかりなので、これにより著しく訴訟手続を遅滞させることもない。この場合、請求の変更は書面でしなければならず(第143条第2項)、相手方に送達しなければならない(第143条第3項)。
3.別訴の提起+弁論の併合(第152条)
 訴えの変更に係る請求の基礎の変更を厳格に解してこれを認めないとするなら、Wを被告として別訴を提起して、それをYを被告とする訴訟に弁論の併合をすることもできる。こうすることでも、Wに対する建物退去土地明渡請求について、本件訴訟の手続で併せて審理してもらいたいというXの願望は満たされる。

[設問2]
① このYの陳述はWに影響しない
 Wは本件訴訟に独立当事者参加(第47条)したと考えられる。Yがこの陳述をしたのがWの参加前なら、Wは当事者ではなく、どうすることもできなかったので、このYの陳述がWに影響することはない。
② このYの陳述はWに影響しない
 ①と同様に、Wは独立当事者参加をしたと考えられる。Wが本件訴訟に当事者として参加した後にYがこの陳述をしたという点で①と異なる。この場合、第47条第4項を経由して第40条第1項から第3項までの規定が準用される。そうすると、その一人の訴訟行為は、全員の利益においてのみその効力を生ずる(第40条第1項)。このYの陳述はXの所有権を認めることにつながるので、Wにとって利益にはならない。よってこのYの陳述はWに影響しない。
③ このYの陳述はWに影響する
 これは義務承継人の訴訟引受け(第50条)であると考えられる。その場合は、第41条第1項及び第3項が準用される(第50条第3項)。そうすると、共同被告の一方に対する訴訟の目的である権利と共同被告の他方に対する訴訟の目的である権利とが法律上併存し得ない関係にある場合において、弁論及び裁判は、分離しないでしなければならない(第41条第1項)ので、必然的にYの陳述がWに影響することになる。

以上

 

 

修正答案

以下民事訴訟法についてはその条数のみを示す。

 

[設問1]
第1 義務承継人の訴訟引受け
 訴訟の係属中第三者がその訴訟の目的である義務の全部又は一部を承継したときは、裁判所は、当事者の申立てにより、決定で、その第三者に訴訟を引き受けさせることができるが(50条1項)、本問でWがYから建物退去土地明渡という訴訟の目的である義務を承継したのは、訴訟の係属前の平成26年2月10日であるので、この義務承継人の訴訟引受けはなし得ない。
第2 別訴の提起+弁論の併合
 まず、Xは、Wを被告として、甲土地の所有権に基づき、乙建物を退去して甲土地を明け渡すことを求める別訴を提起することができる。
 そして、裁判所は口頭弁論の併合を命じることができるので(152条1項)、Xとしてはその別訴とYを被告とした本訴の口頭弁論の併合を求めることになる。もっとも、弁論の併合には裁判所の裁量が認められるので、Xの望むように併合されるとは限らない。
第3 訴えの主観的追加的併合
 原告は、請求の基礎に変更がない限り、口頭弁論の終結に至るまで、請求又は請求の原因を変更することができる(143条本文)。この条文からは、請求の変更として、新たに被告を追加することができるかどうかは定かではない。よって他の方法とも比較しながら、原告にとっての必要性、被告として追加される者の不利益、訴訟経済などを総合的に考慮して、これが認められるかどうかを検討する。
 先にも述べたように、義務承継が訴訟継続中であれば、訴訟引受けが可能である。また、Xが、訴訟継続前に、Wに乙建物が賃貸されたことに気づいていれば、YとWを共同訴訟人として訴えることができた(38条1項)。乙建物を退去(収去)して甲土地を明け渡すという義務が共通しているからである。本問のような場合だけが制度の隙間になっている。
 手続を一元化できることに加えて貼用印紙額の観点からも、原告Xにとっての必要性は高い。これが認められたとしても共同訴訟人独立の原則がはたらくので(39条)、被告に追加されるWにとって大きな不利益はない。そして本問では追加を認めても、YW間の乙建物の賃貸借について審判する必要が生じるくらいで、訴訟がそれほど複雑になることもない。Xは自らの目的を達するためにはいずれにしてもWを訴えることになるので、濫訴とも言えない。
 以上より、Xは、本件訴訟において、訴えの主観的追加的併合により、Wへの請求もすることができる。

 

[設問2]
第1 前提(Yの陳述の意義)
 相手方の主張する、自己に不利益な事実の承認は自白と呼ばれる。自白が成立するとその事実を証明することを要しなくなる(179条)。そして原則的に自白を撤回することはできない。
 AX間で本件売買契約が締結されたことを認める旨のYの陳述は、相手方に証明義務のある事実の承認なので、不利益な事実の承認であり、自白である。よってYは原則的にこの自白を撤回することはできない。
第2 各場合の検討
 
  Wは、訴訟の目的である、乙建物を退去して甲土地を明け渡すという義務を承継したと主張して第三者であるYの訴訟に参加している(51条)。これは訴訟上の地位も含めて承継する意思の表れであると解釈できるので、WはYと同様、原則的にこの自白を撤回することができない。つまり、AX間で本件売買契約が締結された事実はないとして、Xが甲土地の所有権を有することを争うことはできない。
 
  Wは、訴訟の目的である、乙建物を退去して甲土地を明け渡すという義務を承継したと主張して第三者であるYの訴訟に参加しているので、47条から49条の規定(独立当事者参加に関する規定)が準用される(51条)。その結果、40条1項から3項までの規定(必要的共同訴訟に関する規定)が準用され(47条4項)、その一人の訴訟行為は、全員の利益においてのみその効力を生ずる(40条1項)。
  Yのこの陳述は、Wが請求を受けている相手方Xに証明義務のある事実の承認であり、Wの利益にはならないので、その効力は生じない。つまり、AX間で本件売買契約が締結された事実はないとして、Xが甲土地の所有権を有することを争うことができる。
 
  Xの申立てにより裁判所がWに訴訟を引き受けさせる旨の決定をしたので、これは義務承継人の訴訟引受けである(50条1項)。よって、41条1項及び3項の規定(同時審判の申出がある共同訴訟に関する規定)が準用される(50条3項)。②とは異なり40条1項が準用されていないので、共同訴訟人独立の原則(39条)が妥当する。
  以上より、Yのこの陳述は、共同訴訟人であるWに影響しないので、AX間で本件売買契約が締結された事実はないとして、Xが甲土地の所有権を有することを争うことができる。

以上

 

感想

[設問2]がややこしいです。問題にはありませんが、Yの陳述後に義務承継人の訴訟引受け(50条1項)があったらどうなるのだろうという疑問も残ります。やはり自らの意思で参加したのではない以上、AX間で本件売買契約が締結された事実はないとして、Xが甲土地の所有権を有することを争うことができることになり、同時審判の範囲内でYの自白の効果が失われるのでしょうか。

 

 



平成26年司法試験予備試験論文(商法)答案練習

問題

次の文章を読んで,後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。

1.X株式会社(以下「X社」という。)は,携帯電話機の製造及び販売を行う取締役会設置会社であり,普通株式のみを発行している。X社の発行可能株式総数は100万株であり,発行済株式の総数は30万株である。また,X社は,会社法上の公開会社であるが,金融商品取引所にその発行する株式を上場していない。X社の取締役は,A,B,Cほか2名の計5名であり,その代表取締役は,Aのみである。
2.Y株式会社(以下「Y社」という。)は,携帯電話機用のバッテリーの製造及び販売を行う取締役会設置会社であり,その製造するバッテリーをX社に納入している。Y社は,古くからX社と取引関係があり,また,X社株式5万1千株(発行済株式の総数の17%)を有している。Bは,Y社の創業者で,その発行済株式の総数の90%を有しているが,平成20年以降,代表権のない取締役となっている。また,Bは,X社株式5万1千株(発行済株式の総数の17%)を有している。
3.Z株式会社(以下「Z社」という。)は,携帯電話機用のバッテリーの製造及び販売を行う取締役会設置会社であり,Cがその代表取締役である。Z社は,Y社と同様に,その製造するバッテリーをX社に納入しているが,Y社と比較するとX社と取引を始めた時期は遅く,最近になってその取引量を伸ばしてきている。なお,Z社は,X社株式を有していない。
4.X社は,平成25年末頃から,経営状態が悪化し,急きょ10億円の資金が必要となった。そこで,Aは,その資金を調達する方法についてBに相談した。Bは,市場実勢よりもやや高い金利によることとなるが,5億円であればY社がX社に貸し付けることができると述べた。
5.そこで,平成26年1月下旬,X社の取締役会が開催され,取締役5名が出席した。Y社からの借入れの決定については,X社とY社との関係が強化されることを警戒して,Cのみが反対したが,他の4名の取締役の賛成により決議が成立した。この取締役会の決定に基づき,X社は,Y社から5億円を借り入れた。
6.Y社のX社に対する貸付金の原資は,Bが自己の資産を担保に金融機関から借り入れた5億円であり,Bは,この5億円をそのままY社に貸し付けていた。Y社がX社に貸し付ける際の金利は,Bが金融機関から借り入れた際の金利に若干の上乗せがされたものであった。なお,Bは,これらの事情をAに伝えたことはなく,X社の取締役会においても説明していなかった。
7.他方,Cは,Aに対し,X社の募集株式を引き受ける方法であれば,不足する5億円の資金をZ社が提供することができると述べた。
8.そこで,同年2月上旬,X社の取締役会が開催され,1株当たりの払込金額を5000円として,10万株の新株を発行し,その全株式をZ社に割り当てることを決定した。この決定については,Bのみが反対したが,他の4名の取締役の賛成により決議が成立した。X社は,この募集株式の発行に当たり,株主総会の決議は経なかったが,募集事項の決定時及び新株発行時のX社の1株当たりの価値は,1万円を下ることはなかった。また,X社はこの募集株式の発行について,適法に公告を行っている。
9.Cは,同月下旬,上記6の事情を知るに至った。

〔設問1〕
Cは,平成26年3月に開催されたX社の取締役会において,X社のY社からの借入れが無効であると主張している。この主張の当否について論じなさい。

〔設問2〕
Bは,X社のZ社に対する募集株式の発行の効力が生じた後,訴えを提起してその発行が無効であると主張している。この主張の当否について論じなさい。

 

 

練習答案(実際の試験での再現答案)

(E評価)

以下会社法についてはその条数のみを示す。

[設問1]
 この主張は当たっていると私は考える。以下でその理由を述べる。
1.利益相反取引(第356条第1項第2号)
 BはX社の取締役である。X社はY社から借入れをしているが、第356条第1項第2号の「自己又は第三者のために」という規定を「自己又は第三者の計算で」だと解釈すれば、本件借入れはBによる自己のための株式会社との取引であると言える。BはY社の創業者で、その発行済株式の総数の90%を有しているのでY社の利益は実質的にBの利益であることに加え、貸し付けの原資の5億円もBが自己の資産を担保に個人的に借り入れたものである。そして本件借入れは、市場実勢よりもあや高い金利であり、Bが金融機関から実際に借り入れた金利よりも若干上乗せされたものであったのだから、Y社と同視される Bに利益がある。Y社は古くからX社と取引関係にあるので、この貸し付けを回収できないという危険は少ない。Bは当該取引につき承認を受けていないどころか、重要な事実を開示していない。
 以上のように本件借り入れの違法は重大であり、無効とすべきである。借り入れを無効にしても第三者を害するという事情もない。
2.取締役会への特別利害関係人の参加(第369条第2項)
 上で述べたようにBは本件借り入れに関して特別の利害関係を有する取締役であるが、取締役会でのその決議に加わっている。確かにこれは違法であるが、仮にBが決議に加わらなかったとしても、その他の取締役3名の賛成で決議が有効に成立したのだから、X社のY社からの借り入れを無効とするほどのことではない。

[設問2]
 この主張は当たっていないと私は考える。
 本件で提起される訴えは、株式会社の成立後における株式の発行の無効を求める訴え(第828条第1項第2号)である。無効だと主張する理由は、払込金額が募集株式を引き受ける者に特に有利な金額であるということである。募集事項の決定時及び新株発行時のX社の1株当たりの価値は1万円を下ることはなかったので、5000円という価格は、確実に資金を集めなければならないという事情を考慮しても、特に有利な金額である。そうすると株主総会でこのことを説明しなければならない(第199条第3項)。それにもかかわらず、本件ではそもそも株主総会が開かれていない。
 これは重大な違法であるが、本件募集株式の発行が無効とされるべきではない。というのも、募集株式の発行が無効とされると、取引の安全性が害されるからである。X社は公開会社なので、本件株式がすでに第三者の手に渡っている可能性も十分にある。
 本件募集株式の発行を無効としなくても、取締役の責任を追及することはできる。Cは本件募集株式の発行を提案したので、取締役の任務を怠りX社に損害を与えたと言える。決議に賛成したB以外の取締役も、任務を怠ったことが推定される。これらの取締役は、株式会社に対し、生じた損害を賠償する責任を負う(第423条第1項)。本件では、適正な価格との差額である、(10000−5000)×100000=5億円の賠償責任を負う。

以上

 

 

修正答案

以下会社法についてはその条数のみを示す。

 

[設問1]
第1 利益相反取引
 取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引をしようとするときは、株主総会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない(356条2項)。取締役会設置会社においては、356条2項中「株主総会」とあるのは、「取締役会」とする(365条1項)。
 X社は取締役会設置会社である。BはX社の取締役である。本件貸付は形式上Y社に対して行われているが、BはY社の発行済株式の総数の90%を有しており、Y社の利益はほぼそのままBの利益となる。本件貸付金の原資は、Bが自己の資産を担保に金融機関から借り入れた5億円であり、Y社がX社に貸し付ける際の金利は、Bが金融機関から借り入れた際の金利に若干の上乗せがされたものであった。つまり本件貸付はBの計算で行われたものであって、Bが自己のためにX社と取引をすることになる。にもかかわらず、取締役会でその取引について重要な事実を開示していないし、承認も受けていない。
第2 特別利害関係人
 取締役会の決議について特別の利害関係を有する取締役は、議決に加わることができない(369条2項)。これは決議について特別の利害関係を有する取締役は、その個人的な利害のせいで、忠実に職務を行う義務(355条)を果たせなくなる恐れがあるからである。
 Bは本件貸付により金利差の利益を得ることができ、その個人的な利害がX社に対する忠実義務を果たせなくさせるおそれがあるので、特別の利害関係を有する取締役に該当し、本件貸付の決議の議決に加わることができない。
 Bが本件貸付の決議に加わらなかったとしても、数字だけを見ると3対1で決議が成立していたように見える。しかし賛成した3人はBの説得により賛成したのかもしれないし、Bの面前では反対しづらかったので賛成しただけかもしれない。このようにBが決議に参加することで他の取締役にも影響を与えた可能性があるので、特別利害関係人として参加すべきではなかったBが参加した本件決議は無効となる。
第3 有効な取締役会決議を欠く取引の効力
 これまで述べてきたように、利益相反の面からも、特別利害関係人の面からも、本件貸付は有効な取締役会決議を欠いている。そのような取引は無効となるのが原則であるが、取引の相手方の保護をも考慮しなければならない。有効な取締役会決議を欠く取引は、代理権を制限された代表取締役により行われた取引と類似しているので、それと同様に考えるのがよい。つまり、代表取締役の権限に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができないので(349条5項)、善意の第三者に対抗することができないと考えるのである。
 本件貸付の相手方はY社である。Bは形式的にはY社の代表ではないが、その発行済株式の総数の90%を有しており、事実上Y社の代表である。本件貸付のY社側の担当者もBであると推測できる。そうすると有効な取締役会決議が存在しないことをBは当然知っていたのであるから、Y社も知っていたと言える。よってX社は本件貸付の無効をY社に対抗できる。
第4 結論
 以上より、X社のY社からの借入れが無効であるとのCの主張は、正当である。

 

[設問2]
第1 提起される訴え
 本件で提起される訴えは、株式会社の成立後における株式の発行の無効を求める訴え(第828条第1項第2号)である。
第2 有利発行
 募集株式の払込金額が募集株式を引き受ける者に特に有利な金額である場合には、取締役は、その募集株式について199条1項各号の事項の決定を行う株主総会において、当該払込金額でその者の募集をすることを必要とする理由を説明しなければならない(199条3項)。この場合は、その募集株式について199条1項各号の事項の決定を、公開会社であっても、取締役会ではなく株主総会で行わなければならない(201条1項)。
 募集事項の決定時及び新株発行時のX社の1株当たりの価値は、1万円を下ることはなかったのに、本件募集株式の1株当たりの払込金額は5000円とされた。資金調達を確実に行うために10%程度の割引は一般に許容されているが、本件では50%もの割引がされており、募集株式を引き受ける者に特に有利な金額であることは明白である。よってこの募集をすることを必要とする理由を説明しなければならず、株主総会で199条1項各号の事項の決定をしなければならない。そしてそこで必要とされる決議は特別決議である(309条2項5号)。本件ではB及びBが事実上支配するY社が合わせてX社の株式の34%を有しており、本件募集株式発行に必要とされる特別決議が成立しなかったであろう。
第3 有効な株主総会決議を欠く募集株式発行の効力
 このように有効な株主総会決議を欠く募集株式発行の効力は否定されて無効とされるのが筋ではあるが、取引の安全性も考慮しなければならない。さらに、募集株式の発行は通常の取引とは違って会社の組織に関する行為なので、画一的に処理する必要性が高くなる。
 取引の安全性を考慮するとなると、代理権を制限された代表取締役により行われた取引と同様に、善意の第三者に対抗できない(悪意の第三者には無効を対抗できる)という方法も一案であるが、それだと株式の取得者ごとに善意・悪意を判断しなければならず、画一的な処理になじまない。そこで、いやしくも株式が発行されたのであるから、有効な株主総会決議を欠いていても、無効とはしないという扱いが妥当である。非公開会社であれば別様に考えるということもあるかもしれないが、X社は公開会社であるので、このように画一的に取引の安全性を守る必要性が高い。
 また、本件のような有利発行であれば、株式を無効とせずに金銭賠償で損害を償うこともできるので、なおさら無効とする必要性が低くなる。
第4 結論
 以上より、X社のZ社に対する募集株式の発行の効力が生じた後、訴えを提起してその発行が無効であるとのBの主張は、否定される。

 

感想

実際の試験の答案でもそれなりにできたつもりでいましたが、修正答案を書くために判例百選などを読み込むと、理解が深まり、いかに自分がわかっていなかったかを思い知らされました。

 




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