浅野直樹の学習日記

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2014 / 8月

平成25年司法試験論文刑事系第1問答案練習

問題

〔第1問〕(配点:100)
以下の事例に基づき,甲及び乙の罪責について,具体的な事実を摘示しつつ論じなさい(特別法違反の点を除く。)。

1 暴力団組長である甲(35歳)は,同組幹部のA(30歳)が対立する暴力団に情報提供していることを知り,Aの殺害を決意した。
 甲は,Aに睡眠薬を混入させた飲料を飲ませて眠らせた上,Aを車のトランク内に閉じ込め,ひとけのない山中の採石場で車ごと燃やしてAを殺害することとした。甲は,Aを殺害する時間帯の自己のアリバイを作っておくため,Aに睡眠薬を飲ませて車のトランク内に閉じ込めるところまでは甲自身が行うものの,採石場に車を運んでこれを燃やすことは,末端組員である乙(20歳)に指示して実行させようと計画した。ただし,甲は,乙が実行をちゅうちょしないよう,乙にはトランク内にAを閉じ込めていることは伝えないこととした。

2 甲は,上記計画を実行する当日夜,乙に電話をかけ,「後でお前の家に行くから待ってろ。」と指示した上,Aに電話をかけ,「ちょっと話があるから付き合え。」などと言ってAを呼び出した。甲は,古い自己所有の普通乗用自動車(以下「B車」という。)を運転してAとの待ち合わせ場所に向かったが,その少し手前のコンビニエンスストアに立ち寄り,カップ入りのホットコーヒー2杯を購入し,そのうちの1杯に,あらかじめ用意しておいた睡眠薬5錠分の粉末を混入させた。甲は,程なく待ち合わせ場所に到着し,そこで待っていたAに対し,「乗れ。」と言い,AをB車助手席に乗せた。甲は,B車を運転して出発し,走行中の車内で,上記睡眠薬入りコーヒーをAに差し出した。Aは,甲の意図に気付くことなくこれを飲み干し,その約30分後,昏睡状態に陥った。甲は,Aが昏睡したことを確認し,ひとけのない場所にB車を止め,車内でAの手足をロープで縛り,Aが自由に動けないようにした上,昏睡したままのAを助手席から引きずり出して抱え上げ,B車のトランク内に入れて閉じ込めた。なお,上記睡眠薬の1回分の通常使用量は1錠であり,5錠を一度に服用した場合,昏睡状態には陥るものの死亡する可能性はなく,甲も,上記睡眠薬入りコーヒーを飲んだだけでAが死亡することはないと思っていた。

3 その後,甲は,給油所でガソリン10リットルを購入し,B車の後部座席にそのガソリンを入れた容器を置いた上,B車を運転して乙宅に行った。甲は,乙に対し,「この車を廃車にしようと思うが,手続が面倒だから,お前と何度か行ったことがある採石場の駐車場に持って行ってガソリンをまいて燃やしてくれ。ガソリンはもう後部座席に積んである。」などと言い,トランク内にAを閉じ込めた状態であることを秘したまま,B車を燃やすよう指示した。乙は,組長である甲の指示であることから,これを引き受けた。甲が以前に乙と行ったことがある採石場(以下「本件採石場」という。)は,人里離れた山中にあり,夜間はひとけがなく,周囲に建物等もない場所であり,甲は,本件採石場の駐車場(以下「本件駐車場」という。)でB車を燃やしても,建物その他の物や人に火勢が及ぶおそれは全くないと認識していた。

4 甲が乙宅から帰宅した後,乙は,一人でB車を運転し,甲に指示された本件採石場に向かった。乙の運転開始から約1時間後,Aは,B車のトランク内で意識を取り戻し,「助けてくれ。出してくれ。」などと叫び出した。乙は,トランク内から人の声が聞こえたことから,道端にB車を止めてトランクを開けてみた。トランク内には,Aが手足をロープで縛られて横たわっており,「助けてくれ。出してくれ。」と言って乙に助けを求めてきた。乙は,この時点で,甲が自分に事情を告げずにB車を燃やすように仕向けてAを焼き殺すつもりだったのだと気付いた。乙は,Aを殺害することにちゅうちょしたが,組長である甲の指示であることや,乙自身,日頃,Aからいじめを受けてAに恨みを抱いていたことから,Aをトランク内に閉じ込めたままB車を燃やし,Aを焼き殺すことを決意した。乙は,Aが声を出さないようにAの口を車内にあったガムテープで塞いだ上,トランクを閉じ,再びB車を運転して本件採石場に向かった。乙は,Aの口をガムテープで塞いだものの,鼻を塞いだわけではないので,それによってAが死亡するとは思っていなかった。

5 乙は,その後,山中の悪路を約1時間走行し,トランク内のAに気付いた地点から距離にして約20キロメートル離れた本件駐車場に到着した。Aは,その間に,睡眠薬の影響ではなく上記走行による車酔いによりおう吐し,ガムテープで口を塞がれていたため,その吐しゃ物が気管を塞ぎ,本件駐車場に到着する前に窒息死した。

6 本件駐車場は,南北に走る道路の西側に面する南北約20メートル,東西約10メートルの長方形状の砂利の敷地であり,その周囲には岩ばかりの採石現場が広がっていた。本件採石場に建物はなく,当時夜間であったので,人もいなかった。乙は,上記南北に走る道路から本件駐車場に入ると,B車を本件駐車場の南西角にB車前方を西に向けて駐車した。本件駐車場には,以前甲と乙が数回訪れたときには駐車車両はなかったが,この日は,乙が駐車したB車の右側,すなわち北側約5メートルの地点に,荷台にベニヤ板が3枚積まれている無人の普通貨物自動車1台(C所有)がB車と並列に駐車されていた。また,その更に北側にも,順に約1メートルずつの間隔で,無人の普通乗用自動車1台(D所有)及び荷物が積まれていない無人の普通貨物自動車1台(E所有)がいずれも並列に駐車されていた。しかし,本件駐車場内にはその他の車両はなく,人もいなかった。当時の天候は,晴れで,北西に向かって毎秒約2メートルの風が吹いていた。また,B車の車内のシートは布製であり,後部座席には雑誌数冊と新聞紙が置いてあった。乙は,それら本件駐車場内外の状況,天候や車内の状況等を認識した上,「ここなら,誰にも気付かれずにB車を燃やすことができる。他の車に火が燃え移ることもないだろう。」と考え,その場でB車を燃やすこととした。乙は,トランク内のAがまだ生存していると思っており,トランクを開けて確認することなく,B車を燃やしてAを殺害することとした。乙は,B車後部座席に容器に入れて置いてあったガソリン10リットルをB車の車内及び外側のボディーに満遍なくまき,B車の東方約5メートルの地点まで離れた上,丸めた新聞紙にライターで火をつけてこれをB車の方に投げ付けた。すると,その火は,乙がまいたガソリンに引火し,B車全体が炎に包まれてAの死体もろとも炎上した。その炎は,地上から約5メートルの高さに達し,時折,隣のC所有の普通貨物自動車の左側面にも届いたが,間もなく風向きが変わり,南東に向かって風が吹くようになったため,C所有の普通貨物自動車は,左側面が一部すすけたものの,燃え上がるには至らず,その他の2台の駐車車両は何らの被害も受けなかった。

 

練習答案

以下刑法については条数のみを示す。

 

[甲の罪責]
 1.暴行罪(第208条)
 甲はAに睡眠薬を飲ませて昏睡状態に陥らせた。このまま時間が経過してAが意識を回復したら身体に傷害を受けることはなかったであろうし、昏睡状態でも傷害を受けてはいない。これは「暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったとき」に該当するので、甲には暴行罪が成立する。
 2.監禁罪(第220条)
 甲はB車内でAの手足をロープで縛り、Aが自由に動けないようにした上、B車のトランク内に入れて閉じ込めた。よって甲には監禁罪が成立する。
 3.殺人罪(第199条)
 甲はAをB車のトランク内に閉じ込めて、この車を燃やすためのガソリンも用意した上で、乙にこの車を燃やすように指示した。乙はB車にAが閉じ込められていることを知らなかったので、このままB車を燃やしてAが死亡していたら、甲は殺人罪の間接正犯になっていたはずである。
 しかし現実には乙が途中でB車のトランク内にAがいることに気づいた。そして乙自身のAに対する恨みからAの殺害を決意しているので、甲に殺人罪が成立するかどうかが問題となる。乙は自らの恨みという動機も持っていたが、組長である甲の指示であることも動機になっていた。また、当初から甲が考え準備してきた方法のままAを殺害しようとしている。乙が甲の影響を排して独自にAを殺害したとは言えないので、間接正犯ではなく共同正犯になるとしても、甲には殺人罪が成立する。
 Aは実際には乙からガムテープで口を塞がれたことに起因する窒息で死亡している。これは甲が想定していた焼死とは異なる。しかし甲が計画した一連の行為の中での死亡であり、時間的場所的に想定と接着している(時間にして1時間程度、距離にして20キロメートル程度である)。乙がB車トランク内のAの口をガムテープで塞ぐということは、甲の計画からして、特に異常な行為ではない。よってこの事情が甲の殺人罪の成立を妨げることはない。
 4.その他
 建造物等以外放火罪(第110条第2項)は公共の危険を生じさせていないので成立しない。
 5.結論
 以上より、甲には、暴行罪、監禁罪、殺人罪が成立する。暴行罪は監禁罪及び殺人罪に吸収される。監禁罪と殺人罪は併合罪の関係に立つ。

 

[乙の罪責]
 1.殺人罪(第199条)
 [甲の罪責]3で検討したように、乙は甲と共同してAを殺害したので殺人罪が成立する。甲とは共同正犯になる。乙はA殺害の実行行為をしたので十分に正犯性がある。
 乙は暴力団組長である甲に命令されて自己の現在の危難を避けるためにやむを得ずAを殺したのだと緊急避難(第37条第1項)を主張するかもしれない。しかし乙が自己の現在の危難に直面していたことはうかがい知れない。本件では生じた害が死亡であるので、避けようとした害も乙の生命でなければならず、なおさらそのような事情は考えづらい。よって乙の殺人罪の成立は妨げられない。
 2.建造物等以外放火罪(第110条)
 乙はB車に放火してこれを焼損している。これによって公共の危険を生じさせたら建造物等以外放火罪の構成要件に該当する。
 本件では建物はなく人もいない採石場の駐車場で放火がなされている。仮にB車の近くにあった車に火が燃え移ったとしても、それ以上に燃え広がることは考えられないので公共の危険は生じない。
 以上より乙に建造物等以外放火罪は成立しない。
 3.器物損壊罪(第261条)
 ①B車
 乙はB車を燃やして損壊している。B車は甲という他人の物であり、表面的には器物損壊罪の構成要件を満たす。しかしこれはB車の所有者である甲の指示を受けて行われたものであり、何らの法益も侵害していない。よって不可罰である。
 ②C所有の普通貨物自動車(以下C車とする)
 乙はB車を燃やすことにより近くにあったC車の左側面の一部をすすけさせてしまった。車は外観が重要であり、すすけた部分を元に戻すには相応の修理代も必要になるだろう。これは他人の物の傷害に当たるので、乙には器物損壊罪が成立する。
 4.まとめ
 乙には殺人罪と器物損壊罪が成立する。殺人罪はAが窒息により死亡した時点で既遂に達しており、B車を燃やすことでは生じていないので、この両罪は観念的競合ではなく併合罪の関係に立つ。

以上

 

修正答案

以下刑法については条数のみを示す。

 

[乙の罪責]
 1.殺人罪(第199条)
 乙はAを殺すことを決意し、実際に殺したので、殺人罪が成立する。
 乙はAがB車のトランク内にいることに気づき、ちゅうちょしたものの、Aを焼き殺すことを決意した。そしてそのためにAをB車のトランク内に閉じ込めたままにして、Aの口をガムテープで塞いだ。その結果、Aは車酔いにより吐出された吐しゃ物を詰まらせて窒息死した。乙はガムテープでAの口を塞ぐという行為によってAが死ぬとは思っていなかったが、この行為はAを焼き殺すための準備行為であり、時間的場所的にも焼き殺すはずであったところと接着しており(時間にして1時間程度、距離にして20キロメートル程度である)、Aを焼き殺すのに障害となる事情もなかった。よって乙がAの口をガムテープで塞ぐ行為の時点で実行行為に着手したと言ってもよいので、乙には殺人罪が成立する。乙は故意にAの口をガムテープで塞いだのであるし、この行為とAの死亡との間には因果関係があった。
 2.監禁罪(220条)
 乙はB車を運転し始めてから約1時間後にAがトランク内にいることに気づいた。にもかかわらずAをトランク内から救出するどころかかえってAの口をガムテープで塞いでトランク内に閉じ込めたままにした。この時点で乙はAを監禁したと言えるので、監禁罪が成立する。
 さらに、1で検討したようにAは死亡している。「前条[第220条]の罪を犯し、よって人を死傷させた」という要件に該当して監禁致死罪(第221条)が成立するかのように見えるが、乙はAを監禁とは別途殺害したのであり、そのことは殺人罪で評価され尽くしている。このため、監禁致死罪までは成立しない。
 3.建造物等以外放火罪(第110条)
 乙はB車に放火してこれを焼損している。これによって公共の危険を生じさせたら建造物等以外放火罪の構成要件に該当する。
 本件では建物はなく人もいない採石場の駐車場で放火がなされている。仮にB車の近くにあった車に火が燃え移ったとしても、それ以上に燃え広がることは考えられないので公共の危険は生じない。本罪の「公共の危険」という言葉で保護しようとしている法益は不特定多数の人の生命・身体・財産であるのだから、本件はその射程外である。乙には建造物等以外放火罪は成立しない。
 4.結論
 乙には殺人罪と監禁罪が成立し、これらは併合罪の関係に立つ。

 

[甲の罪責]
 1.殺人罪(第199条)
 甲はAをB車のトランク内に閉じ込めて、この車を燃やすためのガソリンも用意した上で、乙にこの車を燃やすように指示した。乙はB車にAが閉じ込められていることを知らなかったので、このままB車を燃やしてAが死亡していたら、甲は殺人罪の間接正犯になっていたはずである。
 しかし現実には乙が途中でB車のトランク内にAがいることに気づいた。そのことに気づいた以上、そのまま甲の計画通りにAを殺したとしても、乙は甲に利用されただけであるとは言えない。この時点で乙の道具性は失われる。間接正犯の実行着手は被利用者を基準にして考えて、甲にはこの時点で殺人予備(第201条)が成立するとするのが妥当である。利用者を基準にして考えて殺人未遂(第203条)が成立するとすると、現実的な死亡の危険が生じていない場合にまで対象が広がってしまい不当である。
 その後、乙はAを殺害している。甲がその共犯にならないかどうかを検討する。まず、甲と乙との間でA殺害について何らの共謀もなされていないような片面的共同正犯は否定されるべきである。共同正犯で責任の個人主義を超えて処罰される根拠は、それぞれの行為が一体となって結果の発生に寄与しているという点に求められるのだから、共謀もなく因果的に寄与していない甲が共同正犯になるべきではない。甲は乙にAを殺すことを指示したとは言えるので、殺人罪の教唆犯になる。元来は乙を道具的に利用するつもりではあったが、ひとたび乙がAの存在に気づいたら、甲が乙にAの殺害を指示したと解釈するのが自然である。
 教唆犯には正犯の刑が科される(第61条第1項)ので、殺人予備は殺人教唆に吸収される。
 2.監禁罪(第220条)
 甲はB車内でAの手足をロープで縛り、Aが自由に動けないようにした上、B車のトランク内に入れて閉じ込めた。よってこの時点で甲には監禁罪が成立する。この時点でAは甲に飲まされた睡眠薬の影響で昏睡状態であったが、それでも潜在的な移動の自由が侵害されているので、監禁罪は成立する。B車のトランク内に閉じ込めることに主眼が置かれているので略取誘拐とまでは言えない。[乙の罪責]の2で述べた乙による監禁罪が成立するまでは、甲による監禁罪が継続して成立していると考えられる。
 3.建造物等以外放火罪(第110条2項)
 建造物等以外放火罪は先に[乙の罪責]の3で検討したように、公共の危険を生じさせていないので成立しない。
 4.結論
 以上より、甲には、殺人罪の幇助及び監禁罪が成立する。これらは併合罪の関係に立つ。

以上

 

感想

練習答案はひどい出来です。そもそも乙の罪責から書き出すべきでした。共犯の扱いも雑すぎでした。出題の趣旨からすると、暴行罪(傷害罪)、器物損壊罪、死体損壊罪を扱うよりも、主要な3つの罪についてしっかりと論じるべきのようです。

 



平成25年司法試験論文民事系第3問答案練習

問題

〔第3問〕(配点:100〔〔設問1〕から〔設問4〕までの配点の割合は,2.5:2.5:2:3〕)
次の文章を読んで,後記の〔設問1〕から〔設問4〕までに答えなさい。

【事例1】
 Aは,甲1及び甲2の二筆の土地を所有していたところ,平成24年9月30日,土地甲1をBに遺贈する旨の遺言(遺言①)をし,同年10月31日,土地甲2をCに遺贈し,遺言執行者としてDを指定する旨の遺言(遺言②)をした。Aの夫は,既に亡くなっており,子EがいるもののAとは疎遠となっており,B及びCはいずれもAの友人である。Aは,同年12月1日,死亡した。
 遺言①の存在を知ったEは,平成25年1月10日,遺言①はAが意思能力を欠いた状態でされたものであり無効であると主張し,Bを被告として,遺言①が無効であることの確認を求める訴えを提起した(訴訟Ⅰ)。

 以下は,Bの訴訟代理人である弁護士L1と司法修習生P1との間でされた会話である。
 L1:遺言無効確認の訴えは,遺言という過去にされた法律行為の効力の確認を求める訴えですが,確認の利益は認められるでしょうか。判例はありますか。
 P1:はい。最高裁判所昭和47年2月15日第三小法廷判決(民集26巻1号30頁)は,三十筆余の土地及び数棟の建物を含む全財産を遺贈する内容の遺言の効力が争われた事案において,次のように判示しています。

 「本件記録によれば,Xら(原告・控訴人・上告人)は,訴外某が昭和35年9月30日自筆証書によつてなした遺言は無効であることを確認する旨の判決を求め,その請求原因として述べるところは,右某は昭和37年2月21日死亡し,Xら及びY1からY5まで(被告・被控訴人・被上告人)が同人を共同相続したものであるところ,右某は昭和35年9月30日第一審判決別紙のとおり遺言書を自筆により作成し,昭和37年4月2日大分家庭裁判所の検認をえたものであるが,右遺言は,右某がその全財産を共同相続人の一人にのみ与えようとするものであつて,家族制度,家督相続制を廃止した憲法24条に違背し,かつ,その一人が誰であるかは明らかでなく,権利関係が不明確であるから無効である,というものである。これに対し,Y1を除くその余の被上告人らは,本訴の確認の利益を争うとともに,本件遺言により右某の全財産の遺贈を受けた者はY2であることが明らかであるから,本件遺言は有効である旨抗争したものである。第一審は,遺言は過去の法律行為であるから,その有効無効の確認を求める訴は確認の利益を欠くとして,本訴を却下し,右第一審判決に対してXらより控訴したが,原審も,右第一審判決とほぼ同様の見解のもとに,本訴を不適法として却下すべき旨判断し,Xらの控訴を棄却したものである。
 よつて按ずるに,いわゆる遺言無効確認の訴は,遺言が無効であることを確認するとの請求の趣旨のもとに提起されるから,形式上過去の法律行為の確認を求めることとなるが,請求の趣旨がかかる形式をとつていても,遺言が有効であるとすれば,それから生ずべき現在の特定の法律関係が存在しないことの確認を求めるものと解される場合で,原告がかかる確認を求めるにつき法律上の利益を有するときは,適法として許容されうるものと解するのが相当である。けだし,右の如き場合には,請求の趣旨を,あえて遺言から生ずべき現在の個別的法律関係に還元して表現するまでもなく,いかなる権利関係につき審理判断するかについて明確さを欠くことはなく,また,判決において,端的に,当事者間の紛争の直接的な対象である基本的法律行為たる遺言の無効の当否を判示することによつて,確認訴訟のもつ紛争解決機能が果たされることが明らかだからである。
 以上説示したところによれば,前示のような事実関係のもとにおける本件訴訟は適法というべきである。それゆえ,これと異なる見解のもとに,本訴を不適法として却下した原審ならびに第一審の判断は,民訴法の解釈を誤るものであり,この点に関する論旨は理由がある。したがつて,原判決は破棄を免れず,第一審判決を取り消し,さらに本案について審理させるため,本件を第一審に差し戻すのが相当である。」

 L1:ありがとう。ただ,訴訟Ⅰの事案には昭和47年判決の事案とは異なるところがあるように思います。昭和47年判決を前提としながら,事案の違いを踏まえ,Eが提起した遺言①の無効確認を求める訴えが確認の利益を欠き不適法であると立論してみてください。

〔設問1〕
 あなたが司法修習生P1であるとして,弁護士L1から与えられた課題に答えなさい。

【事例1(続き)】
 Cは,平成25年3月1日,土地甲2につき,遺言執行者Dとともに遺贈を原因とする所有権移転登記手続の申請をし,同日,上記登記が経由された。
 Eは,同年5月1日,遺言②はAが意思能力を欠いた状態でされたものであり無効であると主張し,Dを被告として,上記所有権移転登記の抹消登記手続を求める訴えを提起した(訴訟Ⅱ)。

 以下は,Dの訴訟代理人である弁護士L2と司法修習生P2との間でされた会話である。
 L2:EがDを被告として本件訴えを提起したのはなぜだか分かりますか。
 P2:はい。遺言執行者は,遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有しており,遺言執行者がある場合に,相続人は相続財産についての処分権を失い,右処分権は遺言執行者に帰属します(民法第1012条,第1013条)。また,最高裁判所の判決にも,「相続人は遺言執行者を被告として,遺言の無効を主張し,相続財産について自己が持分権を有することの確認を求める訴を提起することができるのである。」と述べるものがあります(最高裁判所昭和51年7月19日第二小法廷判決・民集30巻7号706頁)。Eはその趣旨に従ったのだと思います。
 L2:なるほど。ただ,本件でもそのように言うことができるでしょうか。私としては,本案前の抗弁として,訴訟Ⅱの被告適格は受遺者Cにあり,遺言執行者Dには被告適格がないと主張し,訴えの却下の判決を求めようと考えています。このような立場から立論してみてください。
〔設問2〕
 あなたが司法修習生P2であるとして,弁護士L2から与えられた課題に答えなさい。

【事例2】
 材木商Fは,土地乙をその所有者Jから賃借し,材木置場として利用していたところ,平成15年4月1日,死亡した。Fの相続人は,その子であるG及びHの2名であり,Fの妻I(G及びHの母)はFより先に亡くなっている。
 Gは,Fの死亡後,家業を継ぎ,土地乙を引き続き材木置場として利用している。
 ところが,土地乙については,平成13年4月1日に同日付け売買を原因とするJからHへの所有権移転登記がされている。
 Gは,平成23年1月10日,Hを被告として,土地乙につきGが所有権を有することの確認及びGへの所有権移転登記手続を求める訴えを提起したところ,Hは,土地乙の明渡しを求める反訴を提起した。
 この訴訟(以下「前訴」という。)において,Gは,土地乙は,Gの父Fからその生前に贈与を受けた資金でGがJから買い受けたものであると主張し,Hは,Jから土地乙を買い受けたのはGではなく,Hの父Fであり,その後HがFから土地乙の贈与を受けたと主張した。
 前訴の裁判所は,審理の結果,土地乙をJから買い受けたのは,GではなくFであると認められるが,HがFから土地乙の贈与を受けた事実は認められないとの心証を得たものの,それ以上,何らの釈明を求めることなく,Gの本訴請求とHの反訴請求をいずれも棄却する判決を言い渡し,同判決は,そのまま確定した。
 ところが,その後もHが贈与により土地乙の単独所有権を取得したと主張したため,Gは,平成25年3月15日,Hに対し,土地乙がFの遺産であることを前提として,相続により取得した土地乙の共有持分権に基づく所有権一部移転登記手続を求める訴えを提起した。
 この訴訟(以下「後訴」という。)において,Hは,前訴の本訴請求についての判決により,土地乙はGの所有でないことが確定しており,この点について既判力が生じているから,Gは相続による共有持分の取得を主張することもできないと主張している。

 以下は,後訴におけるGの訴訟代理人である弁護士L3と司法修習生P3との間でされた会話である。
 P3:前訴判決の認定によれば,土地乙はFの遺産に属し,したがって,Gは法定相続分に応じた共有持分権を有していることになるので,前訴において,Gの請求はその限度で認容されるべきであったのではないでしょうか。
 L3:確かにそのような疑問は湧きますね。そもそも訴訟物のレベルにおいてGが単独所有権に基づく請求をしているのに,共有持分権の限度で請求を認容することが一部認容としてできるかについては議論がありますが,両者は実体的に包含関係にあり,一個の訴訟物の一部として共有持分権の限度で請求を認容することは可能であるという前提で考えてください。
 P3:分かりました。
 L3:それから,今の点とは別に,Gが相続によって不動産を取得したことを主張する場合の請求原因が何であるか確認する必要がありますね。その上で,主張のレベルにおいて,裁判所は,請求原因の一部であってGが主張していない事実を判決の基礎とすることができるかということが問題になりそうです。検討してみてください。

〔設問3〕
 (1)相続による特定財産の取得を主張する者が主張すべき請求原因は何か。本件の事実関係に即して説明しなさい(共有持分の割合に関する部分は捨象すること。)。
 (2)前訴における当事者の主張を前提とすると,裁判所は,適切に釈明権を行使したならば,上記請求原因を判決の基礎とすることができるかどうか,検討しなさい。

【事例2(続き)】
 以下は,数日後に弁護士L3と司法修習生P3との間でされた会話である。
 L3:さて,我々としては,前に検討してもらった諸点を踏まえて,Hの上記主張に対し,Gの法律上の反論を考えることになりますが,見通しはどうですか。
 P3:法律論としてまとめきれていないのですが,前訴ではHの反訴請求も棄却されているにもかかわらず,後訴で前訴判決の既判力を持ち出してGの共有持分権を否定するというHの態度には問題があるような気がします。既判力によっては妨げられない訴えを信義則に基づいて却下した判例(最高裁判所昭和51年9月30日第一小法廷判決・民集30巻8号799頁,最高裁判所平成10年6月12日第二小法廷判決・民集52巻4号1147頁)と関連付けて法律論を組み立てられないかと考えています。
 例えば,平成10年判決は,次のように述べています。いわゆる明示の一部請求の訴訟物は,その債権全体のうちの一部請求部分に限られるという考え方を前提とする判旨です。

 「一個の金銭債権の数量的一部請求は,当該債権が存在しその額は一定額を下回らないことを主張して右額の限度でこれを請求するものであり,債権の特定の一部を請求するものではないから,このような請求の当否を判断するためには,おのずから債権の全部について審理判断することが必要になる。すなわち,裁判所は,当該債権の全部について当事者の主張する発生,消滅の原因事実の存否を判断し,債権の一部の消滅が認められるときは債権の総額からこれを控除して口頭弁論終結時における債権の現存額を確定し(最高裁平成2年(オ)第1146号同6年11月22日第三小法廷判決・民集48巻7号1355頁参照),現存額が一部請求の額以上であるときは右請求を認容し,現存額が請求額に満たないときは現存額の限度でこれを認容し,債権が全く現存しないときは右請求を棄却するのであって,当事者双方の主張立証の範囲,程度も,通常は債権の全部が請求されている場合と変わるところはない。数量的一部請求を全部又は一部棄却する旨の判決は,このように債権の全部について行われた審理の結果に基づいて,当該債権が全く現存しないか又は一部として請求された額に満たない額しか現存しないとの判断を示すものであって,言い換えれば,後に残部として請求し得る部分が存在しないとの判断を示すものにほかならない。したがって,右判決が確定した後に原告が残部請求の訴えを提起することは,実質的には前訴で認められなかった請求及び主張を蒸し返すものであり,前訴の確定判決によって当該債権の全部について紛争が解決されたとの被告の合理的期待に反し,被告に二重の応訴の負担を強いるものというべきである。以上の点に照らすと,金銭債権の数量的一部請求訴訟で敗訴した原告が残部請求の訴えを提起することは,特段の事情がない限り,信義則に反して許されないと解するのが相当である。」

 L3:そうですね。既判力は前訴の訴訟物の範囲について生じ,その範囲で後訴において作用するのが原則ですが,あなたが指摘してくれた昭和51年判決や平成10年判決のように,判例は,訴訟物の範囲を超えて後訴における蒸し返しを封じる場合を認めています。訴訟物の範囲を超える部分では信義則が働くという論法です。
 このように信義則を理由として訴訟物の範囲よりも広く蒸し返しを禁じること(遮断効の拡張)が認められるのであれば,信義則を理由として既判力の作用を訴訟物よりも狭い範囲に止めること(遮断効の縮小)も認められるかもしれません。遮断効の縮小に関しては,色々な考え方があり得ますが,本件では,平成10年判決を参考にして立論することにしましょう。言うまでもなく,信義則は一般条項ですから,これを持ち出す場合には,どのような事情がいかなる理由により信義則の適用を基礎付けるのか,十分検討する必要があります。困難な課題ではありますが,Hの上記主張に対し,Gの立場から考えられる法律上の主張を立論してみてください。
〔設問4〕
 あなたが司法修習生P3であるとして,弁護士L3から与えられた課題に答えなさい。

 

練習答案

以下民事訴訟法についてはその条数のみを示す。

 

[設問1]
 遺言①の無効確認を求める訴えは、表面上は過去にされた法律行為の効力の確認を求める訴えであり、例外的な事情がない限り確認の利益を欠き不適法である。
 その例外的な事情とは、昭和47年判決の言葉を借りると、「あえて遺言から生ずべき現在の個別的法律関係に還元して表現するまでもなく、いかなる権利関係につき審理判断するかについて明確さを欠くことはな」い場合である。この事案では、遺言の無効確認という体裁を取っていても、相続財産を共同相続人が共有していることの確認を求めているのだと明確にわかるということである。
 本件ではそのように現在の法律関係の確認へと明確に引き直すことができない。Bが甲1を所有していないことの確認であれば、遺言①以外の事情も含めて審判しなければならない。Eが甲1を所有していることの確認だとしても同様である。いずれにしても、遺言①の無効確認ではなく、現在の所有権などの法律関係の確認を求めるべきである。

 

[設問2]
 本件では原告であるEが、土地甲2について、遺贈を原因とするCへの所有権移転登記の抹消登記手続を求める訴えを提起している。この手続をすることができるのは所有権移転登記がなされたCであり、遺言執行者のDではない。つまり、仮にEがDを被告として勝訴したとしても、DはEの求める手続ができないのであるから、無意味である。Dに被告適格はなく、Cにあるのである。
 確かに本文中で私(P2)が述べたように、相続財産の処分権は遺言執行人に帰属し、遺言執行者を被告として、遺言の無効確認を主張し、相続財産について自己が持分権を有することの確認を求める訴を提起することができるとする最高裁判例もある。しかしそれは遺言執行者が相続財産を処分するまで妥当するにすぎず、現に処分してしまってからは妥当しない。特に現金である相続財産を処分してその人の一般財産と混ざってしまった場合などを想起するとその理は自明である。

 

[設問3]
 (1)相続による特定財産の取得を主張する者が主張すべき請求原因は、①被相続人が死亡した事実、②自分が相続人であること、③その特定財産が相続財産に含まれることの3つである。本件の事実関係に即して説明すると、①Fは平成15年4月1日に死亡した、②GはFの子であり、Fの妻IはFより先に亡くなっている、③平成15年4月1日時点でFが土地乙を所有していた、の3つである。
 (2)前訴における当事者の主張を前提とすると、裁判所は、適切に釈明権を行使したならば、上記請求原因を判決の基礎とすることができる。そして問題分にあるように共有持分権の限度で請求を認容することが一部認容としてできるという前提で考えるなら、Gが共有持分権の限度で所有権を有することを確認し、その限度で所有権移転登記手続をせよという判決を下すことになる。
 (1)①のF死亡の事実は、Gが「生前に贈与を受けた資金」と主張していることから、Gの主張に含まれている。②については、裁判所がGに対して相続による取得について釈明権を行使して、GがFの子でありFの妻IはFより先に亡くなっているという事実が現れればよい。③は土地乙をJから買い受けたのはFであると裁判所が認めている。

 

[設問4]
 信義則を理由として既判力の作用を訴訟物よりも狭い範囲に止めること(遮断効の縮小)を主張する。本件に即して言うなら、後訴で働く前訴の既判力を、通常考えられる「土地乙はGの所有でないこと」から「土地乙はGがJから買い受けたことを理由としてGの所有になることはない」へと縮小するという主張である。判断の理由までを既判力に取り込み遮断効を縮小するということである。もしこれが認められれば、Gが相続という別の理由で土地乙の所有を主張することが許される。
 このような、信義則を理由とした遮断効の縮小が基礎づけられる事情を以下で検討する。まず、前訴で訴訟物について判断をするための主張にもれがあったという事情が必要である。仮に本件の前訴で相続の主張をGがしていた、あるいはするように釈明を求められたのにしなかったとしたら、遮断効を縮小してはいけない。
 また、別様の遮断効の縮小も考えることができる。それは本件に即して言うと、「土地乙はGの単独所有ではない」へと縮小するという主張である。既判力の作用を量的に縮減するということである。こちらの路線でも前訴の既判力が後訴の妨げになることがなくなる。
 こちらの遮断効の縮小が基礎づけられる事情を以下で検討する。それは前訴で、共有持分権の限度で請求を認容することが一部認容としてもできないと考えられた場合である。この場合は裁判所が、原告が共有持分権を有するという心証を抱いたとしても、請求を棄却せざるを得ない。しかしそれにより原告が後訴で共有持分権に基づく主張をすることができなくなるのは不合理である。
 以上より、Gの立場から、信義則(第2条)を理由として、上記2通りの遮断効の縮小を主張することができる。

以上

 

修正答案

以下民事訴訟法についてはその条数のみを示す。

 

[設問1]
 遺言①の無効確認を求める訴えは、表面上は過去にされた法律行為の効力の確認を求める訴えであり、例外的な事情がない限り確認の利益を欠き不適法である。というのも、過去にされた法律行為の効力の確認をしても、その後の事情が考慮されず、現在の紛争の解決に役立つとは限らないからである。直接現在の法律関係の確認を求めるのが基本原則である。
 過去にされた法律行為の効力の確認を許す例外的な事情とは、昭和47年判決の言葉を借りると、「あえて遺言から生ずべき現在の個別的法律関係に還元して表現するまでもなく、いかなる権利関係につき審理判断するかについて明確さを欠くことはな」い場合である。この事案では、遺言の無効確認という体裁を取っていても、相続財産を共同相続人が共有していることの確認を求めているのだと明確にわかるということである。
 本件ではそのように現在の法律関係の確認へと明確に引き直すことができない。Bが土地甲1を所有していないことの確認であれば、遺言①以外の事情も含めて審判しなければならない。Eが甲1を所有していることの確認だとしても同様である。いずれにしても、遺言①の無効確認ではなく、現在の所有権などの法律関係の確認を求めるべきである。
 確かに昭和47年判決の事案でも、個々の財産について共有持分権を確認することを求めることが理論的には可能であったが、そうすると相続財産全てを網羅的に挙げる必要があり、漏れがあったとしたらそれについては判断が下されない。この事案ではそれよりも遺言の無効を確認したほうがより簡単に、そして直接的に現在の紛争を解決することにつながったのである。

 

[設問2]
 本件では原告であるEが、土地甲2について、遺贈を原因とするCへの所有権移転登記の抹消登記手続を求める訴えを提起している。この手続をすることができるのは所有権移転登記がなされたCであり、遺言執行者のDではない。つまり、仮にEがDを被告として勝訴したとしても、DはEの求める手続ができないのであるから、無意味である。Dに被告適格はなく、Cにあるのである。
 確かに本文中で私(P2)が述べたように、相続財産の処分権は遺言執行者に帰属し、遺言執行者を被告として、遺言の無効確認を主張し、相続財産について自己が持分権を有することの確認を求める訴を提起することができるとする最高裁判例もある。遺言執行者は民法第1012条を根拠にして法定訴訟担当である解釈できるのである。しかしそれは遺言執行者が相続財産を処分するまで妥当するにすぎず、現に処分してしまってからは妥当しない。本件では遺言執行者であるDは土地甲2の登記をCに移転したことでその任務を終了している。よって土地甲2の処分権はCが有することになる。もしも遺言執行者がその任務を終えてからも相続財産であった財産の訴訟を担当しなければならないとなると、遺言執行者の負担が過大になってしまう。

 

[設問3]
 (1)相続による特定財産の取得を主張する者が主張すべき請求原因は、①被相続人が死亡した事実、②自分が相続人であること、③その特定財産が相続財産に含まれることの3つである。本件の事実関係に即して説明すると、①Fは平成15年4月1日に死亡した、②GはFの子である、③平成15年4月1日時点でFが土地乙を所有していた、の3つである。
 (2)前訴における当事者の主張を前提とすると、裁判所は、適切に釈明権を行使したならば、上記請求原因を判決の基礎とすることができる。そして問題分にあるように共有持分権の限度で請求を認容することが一部認容としてできるという前提で考えるなら、Gが共有持分権の限度で所有権を有することを確認し、その限度で所有権移転登記手続をせよという判決を下すことになる。
 民事訴訟法の基本理念である弁論主義の観点から、裁判所は当事者が主張しないことを判決の基礎としてはならない。そこで(1)の各事実を当事者であるG又はHが主張しているかどうかを検討する。自由心証主義(第247条)の帰結として、その主張はG又はHのいずれかが主張していればそれで足りる(証拠共通の原則)。
 ①のF死亡の事実は、Gが「生前に贈与を受けた資金」と主張していることから、Gの主張に含まれている。②については、GがFの子であることは「Gの父F」という表現から読み取れる。③は土地乙をJから買い受けたのはFであるとHが主張し、それを裁判所が認めている。以上より、①から③の事実はG又はHが主張していたと言える。
 しかし、①と②の事実が主要な争点となっていなかったと思われるところ、これらを判決の基礎とすると当事者にとって不意打ちになる恐れがある。また、Gが相続を理由とした共有持分権による請求の一部認容を求めるかどうかも確認したほうがよい。裁判所がこれらの点について適切に釈明権を行使したならば、上記請求原因を判決の基礎とすることができる。

 

[設問4]
 信義則を理由として既判力の作用を訴訟物よりも狭い範囲に止めること(遮断効の縮小)を主張する。本件に即して言うなら、後訴で働く前訴の既判力を、通常考えられる「土地乙はGの所有でないこと」から「土地乙はGがJから買い受けたことを理由としてGの所有になることはない」へと縮小するという主張である。判断の理由までを既判力に取り込み遮断効を縮小するということである。もしこれが認められれば、Gが相続という別の理由で土地乙の所有を主張することが許される。
 このような、信義則を理由とした遮断効の縮小が基礎づけられるためには、前訴で訴訟物について判断をするための主張にもれがあったという事情が必要である。仮に本件の前訴で相続の主張をGがしていた、あるいはするように釈明を求められたのにしなかったとしたら、遮断効を縮小してはいけない。
 また、別様の遮断効の縮小も考えることができる。それは本件に即して言うと、「土地乙はGの単独所有ではない」へと縮小するという主張である。既判力の作用を量的に縮減するということである。こちらの路線でも前訴の既判力が後訴の妨げになることがなくなる。
 こちらの遮断効の縮小が基礎づけられる事情を以下で検討する。それは前訴で、共有持分権の限度で請求を認容することが一部認容としてもできないと考えられた場合である。この場合は、原告が共有持分権を有するという心証を裁判所が抱いたとしても、請求を棄却せざるを得ない。しかしそれにより原告が後訴で共有持分権に基づく主張をすることができなくなるのは不合理である。
 そもそも既判力が認められるのは、一度決着した訴訟を蒸し返して当事者の期待と訴訟経済を害することを防ぐためである。本件の前訴の決着は、土地乙が売買を理由としてGが単独所有するのでもなければ贈与を理由としてHが単独所有するものでもないというものであった。Gはその決着に沿った請求を後訴でしているのであって、前訴を蒸し返しているのはむしろHのほうである。よってGの立場から、Hの主張は信義則(第2条)に反しているとして、上記2通りの遮断効の縮小を主張することができる。

以上

 

感想

細かいミスはたくさんしていたものの、全体としておよそ理解できていたかなと思います。しかし基本原則の説明を抜かしていた部分があったので、それを反省しなければなりません。