平成30(2018)年司法試験予備試験論文再現答案商法(会社法)

以下会社法についてはその条数のみを示す。

[設問1]
 株主Dからの問題文4の請求の根拠は、303条1項の株主提案権である。そこでDがその要件を満たすかどうかを検討する。
 甲社は取締役会設置会社である。よって、株主提案権は、総株主の議決権の100分の1以上の議決権又は300個以上の議決権を6か月前から引き続き有する株主に限られる。甲社は100株で1単元なので、300個だと30000株になるので、Dはその要件は満たさない。「個」と「単元」は同じ意味である。Dは平成24年から甲社株式を有していたので、期間要件は満たしている。
 総株主の議決権の数を計算するためには、平成29年6月1日に発行され、丙社が有している20万株がそこに含まれるかを考えなければならない。結論から言うと、甲社の基準日は毎年3月31日と定められているので、本件株主総会に関しては、丙社が有している20万株は含まれない。基準日が定められるのは、画一的に取り扱って、議決権について明確で一律に決めることができるようにするためである。しかも、本件のように平成29年4月10日の時点ではDの上記4の請求が株主提案権の要件を満たしていたのに、同年6月1日に株式が発行されると満たさなくなるというのでは、不安定になってしまう。
 改めてDの持株要件を検討すると、総株主の議決権は1万個(100万株)なので、その100分の1は100個(10000株)になる。Dが有している議決権は100個(10000株)なので、持株要件を満たす。
 以上より、Dは、本件株主総会に上記4の議題を提案することができる。「議題」とは「一定の事項」のことであり、「議案」とは、「株主総会の目的である事項につき議案」のことである。
 Dは、上記4の請求を平成29年4月10日に行っており、本件株主総会は同年6月29日開催なので、8週間前に請求をするという要件も満たしている。
 そして、以上と同じ要件を満たせば、議案の要領を株主に通知すること(株主総会招集通知に記載すること)を請求することができる(305条1項)。
 以上より、株主Dから上記4の請求を受けた甲社が本件株主総会の招集通知に上記4の議題及び議案の要領を記載しなかったことは、不当である。

[設問2]
第1 Bの甲社に対する会社法上の損害賠償責任の有無
 本件賃貸借契約が利益相反取引(356条1項2号)に該当するかどうかを検討する。
 「のために」というのは「の名義で」と解せないわけではないが、利益相反取引の実質を考慮して、「の計算で」と解すべきである。丁社はBが全部の持分を有しているので、その利益はBに帰属する。よって、甲社の取締役Bは、自己のために、株式会社甲と取引をしているので、利益相反取引に該当する。
 そして、その取引により、甲社には相場と実際の価格の差である150万円×12か月=1800万円の損害が発生している。用地を確保する必要があり、適当な土地を見付けることができない状況にあったとしても、相場を基準として考えるべきである。以上より、Bは、1800万円の損害賠償責任を負う(423条3項1号、423条1項)。この責任は、任務を怠ったことが当該取締役又は執行役の責めに帰することができない事由によるものであることをもって免れることができない(428条1項)。

第2 Bが負う損害賠償の責任額
 Bは甲社と責任限定契約を締結しているので、その責任額が1200万円に限られるようにも思われる(425条1項1号ハ、426条1項、427条1項)。Bは甲社の社外取締役だからである。しかし、425条から427条は、本件の責任には適用されないので(428条2項)、Bは1800万円全額の責任を負う。

以上




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