平成29(2017)年司法試験予備試験論文(法律実務基礎科目(刑事))答案練習

問題

 次の【事例】を読んで,後記〔設問〕に答えなさい。

【事例】
1 A(26歳,男性)は,平成29年4月6日午前8時,「平成29年4月2日午前6時頃,H県I市J町2丁目3番Kビル前歩道上において,V(55歳,男性)に対し,その胸部を押して同人をその場に転倒させ,よって,同人に加療期間不明の急性硬膜下血腫等の傷害を負わせた。」旨の傷害事件で通常逮捕され,同月7日午前9時,検察官に送致された。送致記録に編綴された主な証拠は次のとおりであった(以下,特段の断りない限り,日付はいずれも平成29年である。)。
 ⑴ Vの受傷状況等に関する捜査報告書(証拠①)
   「近隣住民Wの119番通報により救急隊員が臨場した際,Vは,4月2日午前6時10分頃にH県I市J町2丁目3番Kビル前(甲通り沿い)歩道上に,意識不明の状態で仰向けに倒れていた。Vは,直ちにH県立病院に救急搬送され,同病院において緊急手術を受け,そのまま同病院集中治療室に入院した。同病院医師によれば,Vには硬い面に強打したことに起因する急性硬膜下血腫を伴う後頭部打撲が認められ,Vは,手術後,意識が回復したが,集中治療室での入院治療が必要であり,少なくとも1週間は取調べを受けることはできないとのことであった。」
   「Vは,同市J町4丁目2番の自宅で妻と二人で居住する会社員である。妻によれば,Vは毎朝甲通りをジョギングしており,持病はないとのことであった。」
 ⑵ Wの警察官面前の供述録取書(証拠②)
   「私は,4月2日午前6時頃,通勤のため自宅を出て甲通りをI駅に向かって歩いていると,約50メートル先のKビル前の歩道上に,男二人と女一人(B子)が立っていて,そのうち男一人(V)が歩道上に仰向けに倒れた様子が見えた。そして,約10メートルまで近づいたところ,もう一人の男(A)が仰向けに倒れたVの腹の上に馬乗りになったので,事件であると思って立ち止まった。このとき,Aは,Vの腹の上に馬乗りになった状態で,『この野郎。』と怒鳴りながら右腕を振り上げ,B子がそのAの右腕を両手でつかんだ。私は,自分の携帯電話機を使って,その様子を1枚写真撮影した。その直後,AはVの腹の上から退いたが,Vは全く動かなかった。私は,119番通報し,AとB子に『救急車を呼んだから,しばらく待ってください。』と声を掛けた。しかし,AとB子は,その場を立ち去り,甲通り沿いのLマンションの中に入っていった。私は,注視していなかったため,Vの転倒原因は分からない。私は,A,V及びB子とは面識がない。」
 ⑶ B子の警察官面前の供述録取書(証拠③)
   「私は,1年半前からAと交際し,半年前からLマンション202号室でAと二人で生活している。私とAは,4月1日夜から同月2日明け方までカラオケをし,Lマンションに帰るため,甲通りの歩道を並んで歩いていた。すると,前方からジョギング中の男(V)が走ってきて,擦れ違いざまに私にぶつかった。私は,立ち止まり,Vに『すみません。』と謝ったが,Vは,立ち止まり,『横に広がらずに歩けよ。』と怒ってきた。Aも立ち止まり,興奮した様子でVに言い返し,AとVが向かい合って口論となった。Aは,Vの面前に詰め寄り,両手でVの胸を1回突き飛ばすように押した。Vが少し後ずさりしたが,『何するんだ。』と言ってAに向き合うと,Aは両手でVの胸をもう1回突き飛ばすように押した。すると,Vは,後方に勢いよく転び,路上に仰向けに倒れ,後頭部を路面に打ち付けた。さらに,Aは,仰向けに寝た状態になったVの腹の上に馬乗りになり,『この野郎。』と怒鳴りながら,右腕を振り上げてVを殴ろうとした。私は,慌ててAの右腕を両手でつかんで止めた。すると,AはVの体から離れたが,Vは起き上がらなかった。Aは,『こちらが謝っているのに,文句を言ってきたのが悪いんだ。放っておけ。』と言った。私とAは,通り掛かりの男の人から,『救急車を呼んだから,待ってください。』と言われたが,VをそのままにしてLマンションに帰った。」
 ⑷ Aの警察官面前の供述録取書(証拠④)
   「私は,4月2日早朝,カラオケ店から,交際相手のB子と一緒に帰る途中,B子と二人で並んで歩道を歩いていたところ,ジョギング中の男(V)が擦れ違いざまにB子にぶつかってきた。Vは,B子が謝ったにもかかわらず,『横に並んで歩くな。』と怒鳴った。私は,VがわざとB子にぶつかってきたように感じていたので,『ここはジョギングコースじゃないんだぞ。』と言い返した。私とVは口論となり,そのうち,Vは,興奮した様子で,右手で私の胸ぐらをつかんで前後に激しく揺さぶってきたが,その手を自ら離してふらつくように後退し,後方にひっくり返って後頭部を歩道上に打ち付けた。この間,私は,Vの胸を押したことはなく,それ以外にもVの転倒原因になるような行為をしていない。Vが勝手に歩道上に倒れたので,それを放ったまま自宅に戻った。私は,半年前からLマンション202号室でB子と一緒に生活しており,現在,株式会社丙において会社員として働いている。」
 ⑸ Aの身上調査照会回答書(証拠⑤)
   H県I市J町2丁目5番Lマンション202号室が住居として登録されている。
2 Aは,4月7日午後1時,検察官による弁解録取手続において,証拠④と同旨の供述をした。検察官は,弁解録取書を作成した後,H地方裁判所裁判官に対し,Aの勾留を請求した。同裁判所裁判官は,同日,Aに対し,勾留質問を行い,ⓐ刑事訴訟法第207条第1項の準用する同法第60条第1項第2号に定める事由があると判断して勾留状を発付した。
3 Aは,勾留中,一貫して,Vの胸部を押してVを転倒させ,傷害を負わせた事実を否認した。検察官は,回復したVに対する取調べ等の所要の捜査を遂げ,4月26日,H地方裁判所にAを傷害罪で公判請求した。同公判請求に係る起訴状の公訴事実には,「被告人は,4月2日午前6時頃,H県I市J町2丁目3番Kビル前歩道上において,Vに対し,その胸部を両手で2回押す暴行を加え,同人をその場に転倒させてその後頭部を同歩道上に強打させ,よって,同人に全治3週間の急性硬膜下血腫を伴う後頭部打撲の傷害を負わせた。」旨記載されている。同裁判所は,同月28日,同公判請求に係る傷害被告事件を公判前整理手続に付する決定をした。
4 検察官は,5月10日,前記傷害被告事件について,証明予定事実記載書を裁判所に提出するとともに弁護人に送付し,併せて,証拠の取調べを裁判所に請求し,当該証拠を弁護人に開示した。
 検察官が取調べを請求した証拠の概要は,次のとおりである。
 ⑴ 甲1号証H県立病院医師作成の診断書
   「Vは,4月2日に急性硬膜下血腫を伴う後頭部打撲を負い,全治まで3週間を要した。」
 ⑵ 甲2号証H県I市J町2丁目3番Kビル前歩道上において,Vを立会人として,現場の状況を明らかにするために実施された実況見分の調書
 ⑶ 甲3号証Vの検察官面前の供述録取書
   「4月2日早朝,私が甲通りの歩道をI駅方面に向かってジョギング中,前方から,若い男(A)と女(B子)が歩道一杯に広がるように並んで歩いてきた。私は,ぶつからないように気を付けて走ったが,擦れ違う際に,B子がふらつくように私の方に寄ってきたために,B子にぶつかった。B子が私に謝ったが,私は,立ち止まり,『そんなに横に広がって歩くなよ。』と注意した。すると,Aは,『ここはジョギングコースじゃない。』と怒鳴り,興奮した様子で私に詰め寄ってきた。私がAとの距離を取るため,のけ反るように後ずさると,Aは,私の胸を両手で1回強く押してきた。私は,更に後ずさりしながら,『何するんだ。』と言ったが,その後のことは記憶になく,気が付いた時にはH県立病院の集中治療室にいた。」
 ⑷ 甲4号証写真撮影報告書
   I警察署において,Vが甲3号証と同旨のAのVに対する暴行状況を説明し,A役とV役の警察官2名が,Vの説明に基づき,AがVの胸を両手で1回強く押した際のAとVの相互の体勢及びその動作を再現し,同再現状況が撮影された写真が貼付されている。
 ⑸ 甲5号証W所有の携帯電話機に保存されていた画像データを印画した写真1枚
   4月2日午前6時に撮影されたものであり,男(A)が,Kビル前歩道上に仰向けに寝ている男(V)の腹部の上に馬乗りになった状態で,Aの右手掌部が右肩の位置よりも右上方の位置にあり,女(B子)が,Aの右後方から,そのAの右腕を両手でつかんでいる状況が写っている。
 ⑹ 甲6号証Wの検察官面前の供述録取書
   Wの警察官面前の供述録取書(証拠②)と同旨の供述に加え,甲5号証につき,「この写真は,私が4月2日午前6時,Kビル前歩道上において,自己の携帯電話機のカメラ機能でAらを撮影したものである。ⓑAは,Kビル前の歩道上に仰向けに寝ているVの腹の上に馬乗りになった状態で,『この野郎。』と怒鳴りながら右腕を振り上げた。すると,傍らにいたB子がAの右腕を両手でつかんで止めたが,この写真はその場面が撮影されている。」旨の供述が録取されている。
 ⑺ 甲7号証B子の検察官面前の供述録取書
   B子の警察官面前の供述録取書(証拠③)と同旨の供述。
 ⑻ 乙1号証Aの検察官面前の供述録取書
   Aの警察官面前の供述録取書(証拠④)と同旨の供述に加え,甲5号証につき,「この写真には,転倒したVを私が介抱しようとした状況が写っている。」旨の供述が録取されている。
 ⑼ 乙2号証Aの身上調査照会回答書(証拠⑤と同じ)
5 ⓒ弁護人は,検察官請求証拠を閲覧・謄写した後,検察官に対して類型証拠の開示の請求をし,類型証拠として開示された証拠も閲覧・謄写するなどした上,「Aが,Vに対し,公訴事実記載の暴行に及んだ事実はない。Vは,興奮した状態でAの胸ぐらをつかんで前後に激しく揺さぶってきたが,このときVの何らかの疾患が影響して,自らふらついて転倒して後頭部を強打し,公訴事実記載の傷害を負ったにすぎない。」旨の予定主張事実記載書を裁判所に提出するとともに検察官に送付し,併せて,検察官に対して主張関連証拠の開示の請求をした。
 5月24日から6月7日までの間,3回にわたり公判前整理手続が開かれ,ⓓ弁護人は,検察官請求証拠に対し,甲1号証,甲2号証及び乙2号証につき,いずれも「同意」,甲3号証,甲4号証(貼付された写真を含む。),甲6号証及び甲7号証につき,いずれも「不同意」,甲5号証につき,「異議あり」との意見を述べるとともに,乙1号証につき,「不同意」とした上,「被告人質問で明らかにするので,取調べの必要性はない。」との意見を述べた。検察官は,V,W及びB子の証人尋問を請求した。裁判所は,争点を整理した上,甲1号証,甲2号証及び乙2号証につき,証拠調べをする決定をし,甲3号証ないし甲7号証及び乙1号証の採否を留保して,V,W及びB子につき,証人として尋問をする決定をするなどし,公判前整理手続を終結した。
6 6月19日,第1回公判期日において,冒頭手続等に続き,順次,甲1号証,甲2号証及び乙2号証の取調べ,ⓔVの証人尋問が行われ,同尋問終了後に検察官が甲3号証及び甲4号証(貼付された写真を含む。)の証拠調べ請求を撤回した。同月20日,第2回公判期日において,Wの証人尋問が行われ,Wは甲6号証と同旨の証言をし,裁判所が同尋問後に甲5号証の証拠調べを決定してこれを取り調べ,検察官が甲6号証の証拠調べ請求を撤回した。続いて,ⓕB子の証人尋問が行われ,同尋問終了後,検察官は甲7号証につき刑事訴訟法第321条第1項第2号後段に該当する書面として取調べを請求した。同月21日,第3回公判期日において,甲7号証の採否決定,被告人質問,乙1号証の採否決定等が行われた上で結審した。

〔設問1〕
 下線部ⓐに関し,裁判官が刑事訴訟法第207条第1項の準用する同法第60条第1項第2号の「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」があると判断した思考過程を,その判断要素を踏まえ具体的事実を指摘しつつ答えなさい。

〔設問2〕
 下線部ⓑの供述に関し,検察官は,Aが公訴事実記載の暴行に及んだことを立証する上で直接証拠又は間接証拠のいずれと考えているか,具体的理由を付して答えなさい。

〔設問3〕
 下線部ⓒに関し,弁護人は,刑事訴訟法第316条の15第3項の「開示の請求に係る証拠を識別するに足りる事項」を「Vの供述録取書」とし,証拠の開示の請求をした。同請求に当たって,同項第1号イ及びロに定める事項(同号イの「開示の請求に係る証拠を識別するに足りる事項」は除く。)につき,具体的にどのようなことを明らかにすべきか,それぞれ答えなさい。

〔設問4〕
 下線部ⓓに関し,弁護人は,甲4号証(貼付された写真を含む。)につき「不同意」との意見を述べたのに対し,甲5号証につき「異議あり」との意見を述べているが,弁護人がこのように異なる意見を述べた理由を,それぞれの証拠能力に言及して答えなさい。

〔設問5〕
 下線部ⓔに関し,以下の各問いに答えなさい。
⑴ 検察官が尋問中,Vは,「私は,Kビル前歩道上でAに詰め寄られ,Aと距離を取るため,のけ反るように後ずさると,Aに両手で胸を1回強く押された。」旨証言した。検察官が同証言後に,Vに甲4号証貼付の写真を示そうと考え,裁判長に同写真を示す許可を求めたところ,裁判長はこれを許可した。その裁判長の思考過程を,条文上の根拠に言及して答えなさい。
⑵ 前記許可に引き続き,Vは,甲4号証貼付の写真を示されて,同写真を引用しながら証言し,同写真は証人尋問調書に添付された。裁判所は,同写真を事実認定の用に供することができるか。同写真とVの証言内容との関係に言及しつつ理由を付して答えなさい。

〔設問6〕
 下線部ⓕに関し,B子の証言の要旨は次のとおりであったとして,以下の各問いに答えなさい。
[証言の要旨]
・ AのVに対する暴行状況について,「AとVがもめている様子をそばでずっと見ていた。AがVの胸を押した事実はない。Vがふらついて転倒したので,AがVを介抱しようとした。AがVに馬乗りになって,『この野郎。』と言って殴り掛かろうとした事実はない。Vと関わりたくなかったので,Aの腕をつかんで,『こんな人は放っておこうよ。』と言った。すると,AはVを介抱するのを止めて,私と一緒にその場を立ち去った。」
・ 捜査段階での検察官に対する供述状況について,「何を話したのか覚えていないが,嘘を話した覚えはない。録取された内容を確認した上,署名・押印したものが,甲7号証の供述録取書である。」
・ 本件事件後のAとの関係について,「5月に入ってからAの子を妊娠していることが分かった。」
⑴ 検察官として,刑事訴訟法第321条第1項第2号後段の要件を踏まえて主張すべき事項を具体的に答えなさい。
⑵ 甲7号証の検察官の取調べ請求に対し,弁護人が「取調べの必要性がない。」旨の意見を述べたため,裁判長が検察官に必要性についての釈明を求めた。検察官は,必要性についてどのように釈明すべきか答えなさい。

 

再現答案

刑事訴訟法については条数のみを示す。

〔設問1〕
 本件の公訴事実は、AがVに対して胸を押して転倒させて傷害を負わせたことであり、AとVとの関わり(胸を押したかどうかなど)が争点となることが想定される。そうなると現場を近くで見ていたB子の証言が重要になる。AはB子と同居しており、Aの身柄を解放すると、口裏を合わせて、Aに有利なようにうその証言をしようとするかもしれない。これは罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由である。

〔設問2〕
 公訴事実を直接証明する証拠が直接証拠であり、公訴事実を推認を経て間接的に証明する証拠が間接証拠である。公訴事実記載の暴行とは、AがVの胸を押して転倒させたことである。ⓑの供述では、最初からVが寝ているので、Vを転倒させたことを直接証明することはできない。よって間接証拠である。ⓑの供述からAがVに攻撃の意図を持っていたことが示され、そこからその前にAがVを転倒させたことが推認されるのである。

〔設問3〕
 甲3号証で、検察官は、AがVの胸部を押して転倒させたことを証明しようとしている。そこで甲3号証以外のVの供述録取書(例えば甲3号証より前に警察官の面前で供述されたもの)を調べて、矛盾や供述の変遷がないかどうかを確認することにより、甲3号証の証明力を判断することができる。

〔設問4〕
 「不同意」とは、326条1項の同意をしないという意味である。この同意は伝聞証拠(320条1項)に証拠能力を与える行為である。甲4号証は写真であるが、要証事実はAがVの胸を押して転倒させたことであり、Vの供述と一体となってそのことを示そうとしている。写真という図像を用いた供述である。その真実性が問題となるので、伝聞証拠である。
 「異議あり」とは、309条1項の証拠調に関する異議である。これは伝聞証拠以外の理由で証拠能力が否定されると考えられるときに、その証拠の排除を裁判所に求めるものである。甲5号証は、本件公訴事実と関係がなく、自然的関連性が否定されるので、弁護人は「異議あり」と述べた。

〔設問5〕
 (1)
 訴訟関係人は、証人供述を明確にするため必要があるときは、裁判長許可を受けて、図面……を利用して尋問することができる(刑事訴訟規則(以下「規則」という。)199条の12第1項)。検察官は訴訟関係人である。証人Vの供述を明確にするために、甲4号証貼付の写真は必要である。VとAとの距離を示す際などに、言葉だけでは不明確で、写真を用いるとわかりやすくなるからである。よって同写真を示すことを裁判長は許可した。
 (2)
 甲4号証貼付の写真は、証拠調を経ていないので、原則として事実認定の用に供することはできない。事実の認定は、証拠による(317条)。しかしながら、同写真は、Vの証言と一体となっているので、例外的に証拠として認められる。というのも、Vが写真を見ながら「これくらいの距離で…」と供述していた場合に、写真なしではこの供述が無意味になってしまうからである。

〔設問6〕
 (1)
 B子は、証人尋問では、AがVの胸を押した事実も、AがVに馬乗りになって殴り掛かろうとした事実もないと供述しているが、甲7号証ではどちらの事実もあったと記載されている。これは、公判期日の供述と、その前の供述が相反していると言える。甲7号証に関して、B子は、嘘を話した覚えもないし録取された内容を確認した上で署名・押印したと言っている。公判期日での供述は、甲7号証の作成時には判明していなかったAの子の妊娠が発覚してからのことなので、Aをかばおうとする動機が高まっている。よって甲7号証の供述を信用すべき特別の情況があると言える。
 (2)
 本件では、AがVの胸を押したかどうかが最大の争点になっている。それを判断するためには、現場を至近距離で最初から見ていたB子の証言が欠かせない。Wは遠くから部分的に見ていたにすぎない。

以上

 

修正答案

刑事訴訟法については条数のみを示す。

〔設問1〕
 「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」があるか否かは、隠滅の対象、隠滅の態様、隠滅の客観的・主観的可能性を考慮して判断する。本件の公訴事実は、AがVに対して胸を押して転倒させて傷害を負わせたことであり、AとVとの関わり(胸を押したかどうかなど)が争点となることが想定される。そうなると現場を近くで見ていたB子の証言が重要になる。AはB子と同居しており、Aの身柄を解放すると、口裏を合わせて、Aに有利なようにうその証言をしようとする可能性が大いにある。これは罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由である。

〔設問2〕
 公訴事実を直接証明する証拠が直接証拠であり、公訴事実を推認を経て間接的に証明する証拠が間接証拠である。公訴事実記載の暴行とは、AがVの胸を押して転倒させたことである。ⓑの供述では、最初からVが寝ているので、Vを転倒させたことを直接証明することはできない。よって間接証拠である。ⓑの供述からAがVに攻撃の意図を持っていたことが示され、そこからその前にAがVを転倒させたことが推認されるのである。

〔設問3〕
 316条の15第3項1号イの「第一項各号に掲げる証拠の類型」は同条1項5号ロである。
 甲3号証で、検察官は、AがVの胸部を押して転倒させたことを証明しようとしている。そこで甲3号証以外のVの供述録取書(例えば甲3号証より前に警察官の面前で供述されたもの)を調べて、矛盾や供述の変遷がないかどうかを確認することにより、甲3号証の証明力を判断することができる。

〔設問4〕
 「不同意」とは、326条1項の同意をしないという意味である。この同意は伝聞証拠(320条1項)に証拠能力を与える行為である。甲4号証は写真であるが、要証事実はAがVの胸を押して転倒させたことであり、Vの供述と一体となってそのことを示そうとしている。写真という図像を用いた供述である。その真実性が問題となるので、伝聞証拠である。
 「異議あり」とは、309条1項の証拠調に関する異議である。これは伝聞証拠以外の理由で証拠能力が否定されると考えられるときに、その証拠の排除を裁判所に求めるものである。甲5号証は、本件公訴事実と関係がなく、自然的関連性が否定されるので、弁護人は「異議あり」と述べた。

〔設問5〕
 (1)
 訴訟関係人は、証人供述を明確にするため必要があるときは、裁判長許可を受けて、図面……を利用して尋問することができる(刑事訴訟規則(以下「規則」という。)199条の12第1項)。検察官は訴訟関係人である。証人Vの供述を明確にするために、甲4号証貼付の写真は必要である。VとAとの距離を示す際などに、言葉だけでは不明確で、写真を用いるとわかりやすくなるからである。よって同写真を示すことを裁判長は許可した。
 (2)
 甲4号証貼付の写真は、証拠調を経ていないので、原則として事実認定の用に供することはできない。事実の認定は、証拠による(317条)。しかしながら、同写真は、Vの証言と一体となっているので、例外的に証拠として認められる。というのも、Vが写真を見ながら「これくらいの距離で…」と供述していた場合に、写真なしではこの供述が無意味になってしまうからである。

〔設問6〕
 (1)
 B子は、証人尋問では、AがVの胸を押した事実も、AがVに馬乗りになって殴り掛かろうとした事実もないと供述しているが、甲7号証ではどちらの事実もあったと記載されている。これは、公判期日の供述と、その前の供述が相反していると言える。甲7号証に関して、B子は、嘘を話した覚えもないし録取された内容を確認した上で署名・押印したと言っている。公判期日での供述は、甲7号証の作成時には判明していなかったAの子の妊娠が発覚してからのことなので、Aをかばおうとする動機が高まっている。よって甲7号証の供述を信用すべき特別の情況があると言える。
 (2)
 本件では、AがVの胸を押したかどうかが最大の争点になっている。それを判断するためには、現場を至近距離で最初から見ていたB子の証言が欠かせない。Wは遠くから部分的に見ていたにすぎない。

以上

 




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