平成25年司法試験論文労働法第2問答案練習

問題

〔第2問〕(配点:50)
次の事例を読んで,後記の設問に答えなさい。

 
【事 例】
 Y社は,従業員数約700名,客室数約500室,収容人員数約2000名のホテルを営んでおり,X1らはいずれもY社の従業員で,Y社の従業員の半数以上により組織されるX労働組合(以下「X組合」という。)の組合員である。また,Zは,Y社の従業員であり,当初X組合の組合員であったが,平成24年8月17日,X組合の最高決議機関である組合大会において,除名処分を受けた者である。
 Y社は,平成22年度の決算から営業損失を計上するなど経営が悪化していたため,経営を再建すべく経営コンサルタントであったAを採用した。Y社におけるX組合の活動は活発であり,Y社としては好ましくないと思いつつ勤務時間中の組合活動も黙認している状態が続いていたため,Aは,Y社の人事労務管理についても抜本的に見直すようY社に提案した。そこで,Y社は,平成24年3月14日,100名の人員削減を中心とする大幅な合理化案(経営改善計画)をX組合に提示した上,従来黙認していた勤務時間中の組合活動を行う者に対しては,今後賃金をカットするとともに懲戒処分を行い,職場規律の確立に努める旨をX組合に通知した。X組合は,外部からきたAがこれまでの労使慣行を無視していることに納得せず,勤務時間中の組合活動は既得権であると主張し,また,前記経営改善計画をめぐってY社との間で団体交渉を行ったが合意に達しなかった。Y社は,同年5月8日,これまでの労働協約を全て破棄する旨通知し,同年6月1日,X組合の組合員29名に対し,勤務時間中の組合活動を理由に3日間の出勤停止の懲戒処分を行った。
 X組合は,Y社の措置に強く反発し,これらの問題をめぐって同月5日に団体交渉を行ったが,AがY社側の代表となっていることにX組合が拒否反応を示し,実質的な交渉に至らなかった。その後も,X組合は,Aの団体交渉出席に強く反発し,同日以降,現在に至るまで正式な団体交渉は開催されていない。
 この状況を打破するために,X組合は,Y社に予告することなく,同年7月10日午後3時から全組合員によるストライキに突入した。Y社は,ストライキの解除を求めたが,X組合は,48時間ストライキを継続するとY社に伝えた。実際には,X組合は同日午後6時にストライキを解除したが,Y社としては,当日と翌日の宿泊客及び予約客をキャンセルせざるを得なかった。このことがあって,その後の宿泊客数は大きく減少することになった。
 Y社は,X組合とは何らの協議のないまま,同年8月1日,100名の希望退職者を募集したが,これに対し,X組合はますます反発を強めた。X組合は,Y社の行った前記懲戒処分と希望退職募集の撤回を求めて,同月10日午後3時から,予告なしに,調理部門の組合員のストライキを実施し,同ストライキは48時間継続した。調理部門の従業員の多くが,X組合の組合員であったため,Y社としては,夏休みシーズンの書き入れ時において通常どおりの営業を継続することが困難となったことから,予約客については予約の取消しを要請した上で他のホテルに振り分け,宿泊客についてはアルバイト従業員を利用するなどして何とか急場をしのいだ。
 調理部門の組合員であったZは,X組合の戦術は行き過ぎであり,自分としては納得できないとして,同月11日,X組合に対し,今後ストライキには参加しないと通告し,同日からY社に出勤した。X組合は,同月17日,組合大会において,Zのストライキ不参加を「組合の決定に違反して統制を乱したとき」という組合規約の制裁事由に該当するとして,Zを除名処分とした。なお,組合規約には,制裁の種類として,けん責,組合員資格の停止及び除名が規定されていた。また,この除名処分は,組合規約にのっとって行われたものであり,手続的には問題がなかった。
 その後,X組合は,同月20日午後3時から,予告なしに,調理部門の組合員による48時間のストライキを行った。
 このような状況の中で予約客数が著しく減少し,営業が不可能となったので,ついにY社は同月22日からホテル建物を閉鎖して営業を休止し,以降X1らの就労を拒否し,同日以降の賃金の支払いを拒んでいる。

 
〔設 問〕
1.X1らは,Y社に対し,平成24年8月22日以降の賃金を請求できるか。なお,Zについては論じなくてよい。
2.X組合によるZの除名処分は有効か。

 

練習答案

 1.X1らは、Y社に対し、平成24年8月22日以降の賃金を請求できるか
 ストライキ中の賃金はノーワーク・ノーペイの原則から請求できないとしても、ストライキ終了後の平成24年8月22日以降の賃金を請求できないかがここでの論点である。
 民法の基本原則からすると、労務を提供しなければ、その対価である賃金を請求することができない(ノーワーク・ノーペイの原則)。しかし民法では対等な当事者を想定しているところ、労働者と使用者とでは力関係が圧倒的に違うので、各種の労働法で一定の修正がなされている。労務と賃金については、労働基準法第26条で、「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない」と規定されている。
 労働者はもっぱら賃金によって生計を維持しているので、賃金は極めて重要である。他方で使用者は労働者を使用することで利益を上げており、多少休業したからといってすぐには倒産しないのが通常である。よって労働基準法第26条の「使用者の責に帰すべき事由」というのは天変地異などの不可抗力は除くとしても、通常の過失より広く解すべきである。別会社からの原材料がなくなったことを理由とする休業でも使用者の責に帰すべき事由だとされた判例もある。
 ストライキ中の休業は、労働者が自ら選んだことであり、ストライキで使用者が打撃を受けていることも勘案して、使用者の責に帰すべき事由とは解さないのが一般的である。しかしストライキ終了後の休業は、いくらストライキが理由の発端になっているとはいっても、使用者の責に帰すべき事由であると解すべきである。労働者が勤務を望んでいるにもかかわらず使用者が休業を決定しているからである。もし仮にこうした場合に使用者の責に帰すべき事由には当たらないとすると、使用者は労働者がストライキをしたらその終了後も休業することで労働者に大きな損害を与えられることになってしまい、日本国憲法第28条でストライキ権を保障した意義が損なわれてしまう。
 以上より、X1らは、Y社に対し、平均賃金の6割以上の休業手当を請求することができる。

 2.X組合によるZの除名処分は有効か
 XはZのストライキ不参加を「組合の決定に違反して統制を乱したとき」という組合規約の制裁事由に該当するとして、Zを除名処分した。
 労働組合のような団体には一定の自治権があるが、民法第90条の公序良俗に反するような場合は、労働組合のした処分が無効となることもある。以下では本件の処分が公序良俗に反するかどうかを検討する。
 ストライキは労働組合によって非常に重要であり、それへの不参加は制裁の理由として十分である。ストライキはそれに参加しないというスト破りがあると所定の効果があげられなくなる。他方でストライキが最善の戦略であるとは限らない。X組合の戦術が行き過ぎであるとのZの主張も理解できる。また、Zが受けた処分は除名という最も重い処分であり、これを受けると以後は自らの正しさをXに対して主張する場を失うことになる。労働組合に加入する権利が労働者にとって非常に重要であることは言うまでもない。Zは別の労働組合を結成したり、加入したりできるとはいえ、過半数組合であるXから除名された影響は大きい。
 XとZの利害を比較衡量すると、本件処分はZにとって著しく不利であり、Xは組合員資格の停止といったもっと穏当な処分もできたのであるから、無効とされるべきである。

以上

 

修正答案

 1.X1らは、Y社に対し、平成24年8月22日以降の賃金を請求できるか
 可能性としては、①一切請求できない、②平均賃金の6割以上の休業手当を請求できる、③全額請求できる、の3通りである。①の根拠は民法第536条第1項であり、当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者(X1ら)は反対給付を受ける権利を有しない。③の根拠は民法第536条第2項で、債権者(Y社)の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者(X1ら)は反対給付を受ける権利を失わない。②の根拠は労働基準法第26条で、使用者(Y社)の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者(X1ら)に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。労働基準法第26条の趣旨は、使用者と比べて劣位にあって賃金の支払いを受けなければ生計の維持に困難をきたす労働者を保護して使用者との力関係を対等に近づけることにあるので、そこで規定される「使用者の責に帰すべき事由」は民法第536条第2項の「債権者の責めに帰すべき事由」よりも広いと解されている。具体的には使用者の管理上の事由などもそこに含まれる。
 本件でX1らが労務の提供をできなくなったのは、X組合のストライキを原因としてY社の予約客数が著しく減少し、営業が不可能になったためにY社が営業を休止したからである。ストライキそのものはX1らが自らの意思決定により行ったものであり、YにX1らが労務を提供できなかったことに対する責任はないので、民法第536条第1項により、X1らはストライキ中の賃金の支払いを請求することはできない(ノーワーク・ノーペイの原則)。しかしながら、ストライキ終了後の8月22日以降は、X1らは労務を提供する意思を有しているのだから、事情は異なる。
 8月22日以降の休業が、Y社による正当なロックアウトであると評価できれば、Y社に責はないので、X1らは賃金を請求できないことになる。ロックアウトの正当性を判断するためには、使用者(Y社)と労働組合(X)との交渉の経過や様態、使用者(Y社)が被る損害などを総合的に考慮しなければならない。使用者がロックアウトのような争議行為を行う権利が日本国憲法で認められているわけではないので、労働組合の争議行為により逆に労働組合のほうが著しく優位な立場になった場合にのみ、公平の原則から例外的にロックアウトが正当化されるのである。本件ではXが予告なしにストライキを行いYは多くの予約客を失うという損害を受けているが、そもそもYが労働協約を一方的に破棄したことなどが争議の原因となっており、ストライキもせいぜい48時間のものが2回行われたくらいでYも急場をある程度はしのいでいるので、XのほうがYと比べて著しく優位な立場になっているとは言えない。よって本件休業がY社の正当なロックアウトであるとは評価できない。
 とは言うものの、本件休業はストライキによって予約客が著しく減少したことを受けてのことなので、Y社に民法第536条第2項の責めがあるとまでは言えない。それでもY社の管理上の事由とは言えるので、労働基準法第26条に基づく休業手当の請求は可能である。
 以上より、X1らは、Y社に対し、平成24年8月22日以降の賃金について、平均賃金の6割以上の休業手当を請求することができる。

 

 2.X組合によるZの除名処分は有効か
 労働組合に限らず団体一般には一定の自治権があるが、民法第90条の公序良俗に反するような場合は、その団体のした処分が無効となることもある。労働組合は日本国憲法でその存在が当然に予定されているものであり、労働者の団結権・団体交渉権・団体行動権(日本国憲法第28条)を実質的に保障するために、さらに特別の規制に服すると考えられている。具体的には労働組合法第1条第2項で刑事免責や第7条で団体交渉権が規定されている反面、第5条第2項の各号に列挙されているような民主的な組織であることが要請されている。労働組合は他の団体一般と同様にその構成員に対して統制権を有しているが、それはこうした特性に応じて修正されるのである。
 XはZのストライキ不参加を「組合の決定に違反して統制を乱したとき」という組合規約の制裁事由に該当するとして、Zを除名処分した。そもそもXの行ったストライキが違法であれば、それへの不参加を理由にして統制処分をすることはできない。本件ストライキはYの一方的な労働協約破棄などに対して、団体交渉を経て行われたものであり、予告がなかったことを差し引いても違法であるとは言えない。労働組合法第5条第2項第8号に規定されているいわゆるスト権の確立について問題文では触れられていないが、スト権の確立は定期大会で一括して行われることも珍しくないので、これも違法であると判断する材料にはならない。
 ストライキは労働組合によって非常に重要であり、違法ではないストライキへの不参加は制裁の理由として十分である。ストライキはそれに参加しないというスト破りがあると所定の効果があげられなくなる。他方でストライキが最善の戦略であるとは限らない。X組合の戦術が行き過ぎであるとのZの主張も理解できる。また、Zが受けた処分は除名という最も重い処分であり、これを受けると以後は自らの正しさをXに対して主張する場を失うことになる。労働組合に加入する権利が労働者にとって非常に重要であることは言うまでもない。Zは別の労働組合を結成したり、加入したりできるとはいえ、過半数組合であるXから除名された影響は大きい。この除名処分は手続的に問題がなかったとしても、数日で決定されているので、民主的に議論が重ねられたかも疑問である。Xは組合員資格の停止といったもっと穏当な処分もできたはずである。こうした事情から、X組合によるZの除名処分は、統制権の濫用として、無効とされるべきである。

以上

 

感想

全体的に勉強不足で偏った経験に依存しているのでよくないです。1つ目の設問はロックアウトという発想が出てきませんでした。労基法の休業補償と民法との関係も詰め切れていませんでした。2つ目の設問は統制権という語が出なかったのがよくなかったです。議論も雑だったと思います。

 




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