平成23年司法試験論文刑事系第2問答案練習

問題

〔第2問〕(配点:100)
次の【事例】を読んで,後記〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。

 

【事 例】

1 平成22年5月1日,A女は,H県警察本部刑事部捜査第一課を訪れ,同課所属の司法警察員Pに,「2か月前のことですが,午後8時ころ,結婚を前提に交際していたBと電話で話していると,Bから『甲が来たから,また,後で連絡する。』と言われて電話を切られたことがありました。甲は,Bの友人です。その3時間後,Bが私の携帯電話にメールを送信してきました。そのメールには,Bが甲及び乙と一緒に,甲の奥さんであるV女の死体を,『一本杉』のすぐ横に埋めたという内容が書かれていました。ちなみに,『一本杉』は,H県I市内にあるJ山の頂上付近にそびえ立っている有名な杉です。また,乙も,Bの友人です。私は,このメールを見て,怖くなったので,思わず,メールを消去しました。その後,私は,このことを警察に伝えるべきかどうか迷いましたが,Bとは結婚するつもりでしたので,結局,警察に伝えることができませんでした。しかし,昨日,Bとも完全に別れましたので,警察に伝えることに踏ん切りがつきました。Bが私にうそをつく理由は全くありません。ですから,Bが私にメールで伝えてきたことは間違いないはずです。よく調べてみてください。」などと言った。その後,司法警察員Pらは,直ちに,前記「一本杉」付近に赴き,その周辺の土を掘り返して死体の有無を確認したところ,女性の死体を発見した。そして,女性の死体と共に埋められていたバッグにV女の運転免許証が在中していたことなどから,女性の死体がV女の死体であることが判明した。
 そこで,同月3日,司法警察員Pらは,Bから事情を聞くため,Bが独り暮らしをしているKマンション403号室に赴き,BにH県警察本部への任意同行を求めたところ,Bは,突然,司法警察員Pらを振り切ってKマンションの屋上に駆け上がり逃走を試みたが,同所から転落して死亡した。

2 同日,司法警察員Pは,死体遺棄の被疑事実で捜索差押許可状の発付を受け,部下と共に,前記Kマンション403号室を捜索し,Bのパソコンを差し押さえた。
 そして,同日,司法警察員Pは,H県警察本部において,差し押さえたBのパソコンに保存されていたメールの内容を確認したところ,A女とBとの間におけるメールの交信記録しか残っていなかったが,Bが甲及び乙からV女を殺害したことを聞いた状況や甲及び乙と一緒にV女の死体を遺棄した状況等を記載したA女宛てのメールが残っていた。そこで,司法警察員Pは,このメール[メール①]を印刷し,これを添付した捜査報告書【資料1】を作成した。また,司法警察員Pは,直ちに,[メール①]をA女に示したところ,A女は,「[メール①]には見覚えがあります。[メール①]は,Bが作成して私に送信したものに間違いありません。Bのパソコンは,B以外に使用することはありません。私がパソコンに触れようとしただけで,『触るな。』と激しく怒ったことがありますので,Bのパソコンを他人が使用することは,絶対にないと断言できます。」などと供述した。

3 V女に対する殺人,死体遺棄の犯人として甲及び乙が浮上したことから,司法警察員Pらは,直ちに,甲及び乙の前歴及び前科を照会したところ,甲には,前歴及び前科がなかったものの,乙には,平成21年6月,窃盗(万引き)により,起訴猶予となった前歴1件があることが判明した。
 また,司法警察員Pは,差し押さえたBのパソコンにつき,Bと甲との間におけるメールの交信記録,Bと乙との間におけるメールの交信記録が消去されているのではないかと考え,直ちに科学捜査研究所に,消去されたメールの復元・分析を嘱託した。
 さらに,司法警察員Pらは,前記メールの復元・分析を進めている間に,甲及び乙が所在不明となることを避けるため,甲及び乙に対する尾行や張り込みを開始した。

4 その一方,司法警察員Pは,V女に対する殺人,死体遺棄事件を解明するため,甲及び乙を逮捕したいと考えたものの,まだ,[メール①]だけでは,証拠が不十分であると判断し,V女に対する殺人,死体遺棄事件以外の犯罪事実により甲及び乙を逮捕するため,部下に対し,甲及び乙がV女に対する殺人,死体遺棄事件以外に犯罪を犯していないかを調べさせた。その結果,乙については,V女に対する殺人,死体遺棄事件以外の犯罪の嫌疑が見当たらなかったが,甲については,平成22年1月10日にI市内で発生したコンビニエンスストアLにおける強盗事件の2人組の犯人のうちの1名に酷似していることが判明した。そこで,同年5月10日,司法警察員Pは,コンビニエンスストアLに赴き,被害者である店員Wに対し,甲の写真を含む複数の写真を示して犯人が写った写真の有無を確認したところ,Wが甲の写真を選択して犯人の1人に間違いない旨を供述したことから,その旨の供述録取書を作成した。
 その後,司法警察員Pは,この供述録取書等を疎明資料として,前記強盗の被疑事実で甲に係る逮捕状の発付を受け,同月11日,同逮捕状に基づき,甲を通常逮捕した【逮捕①】。そして,その際,司法警察員Pは,逮捕に伴う捜索を実施し,甲の携帯電話を発見したところ,前記強盗事件の共犯者を解明するには,甲の交遊関係を把握する必要があると考え,この携帯電話を差し押さえた。なお,この際,甲は,「差し押さえられた携帯電話については,私のものであり,私以外の他人が使用したことは一切ない。」などと供述した。
 司法警察員Pは,直ちに,この携帯電話に保存されたメールの内容を確認したところ,Bと甲との間におけるメールの交信記録が残っており,その中には,BがV女の死体を遺棄したことに対する報酬に関するものがあった。そこで,司法警察員Pは,同月12日,殺人,死体遺棄の被疑事実で捜索差押許可状の発付を受け,この携帯電話を差し押さえた。引き続き,司法警察員Pは,パソコンを利用して前記Bと甲との間におけるメール[メール②-1]及び[メール②-2]を印刷し,これらを添付した捜査報告書【資料2】を作成した。
 甲は,同日,H地方検察庁検察官に送致された上,同日中に前記強盗の被疑事実で勾留された。なお,甲は,前記強盗については,全く身に覚えがないなどと供述し,自己が犯人であることを否認した。

5 同月13日,司法警察員Pの指示を受けた部下である司法警察員Qが,乙を尾行してその行動を確認していたところ,乙がH県I市内のスーパーMにおいて,500円相当の刺身パック1個を万引きしたのを現認し,乙が同店を出たところで,乙を呼び止めた。すると,乙が突然逃げ出したので,司法警察員Pは,直ちに,乙を追い掛けて現行犯逮捕した【逮捕②】。その後,乙は,司法警察員Qの取調べに対し,犯罪事実について黙秘した。そこで,司法警察員Pは,乙の万引きに関する動機や背景事情を解明するには,乙の家計簿やパソコンなど乙の生活状況が判明する証拠を収集するよりほかないと考え,同日,窃盗の被疑事実で捜索差押許可状の発付を受け,部下と共に,乙が単身で居住する自宅を捜索し,乙のパソコン等を差し押さえた。
 その後,司法警察員Pは,同日中に,H県警察本部内において,差し押さえた乙のパソコンに保存されたデータの内容を確認したところ,Bと乙との間におけるメールの交信記録が残っているのを発見した。そして,その中には,[メール②-1]及び[メール②-2]と同様のBがV女の死体を遺棄したことに対する報酬に関するメールの交信記録が存在した。
 乙は,同月14日,H地方検察庁検察官に送致された上,同日中に前記窃盗の被疑事実で勾留された。

6 甲に対する取調べは,司法警察員Pが担当し,乙に対する取調べは,司法警察員Qが担当していたところ,司法警察員P及びQは,いずれも,同月15日,甲及び乙に対し,「他に何かやっていないか。」などと余罪の有無について確認した。
 すると,甲は,同日,「V女の死体を『一本杉』付近に埋めた」旨を供述したため,司法警察員Pは,同日及び翌16日の2日間,V女が死亡した経緯やV女の死体を遺棄した経緯等を聴取した。これに対し,甲は,[メール①]の内容に沿う供述をしたものの,上申書及び供述録取書の作成を拒否した。そのため,司法警察員Pは,同月17日から,連日,前記強盗事件に関連する事項を中心に聴取しながら,1日約30分間ずつ,V女に対する殺人,死体遺棄事件に関する上申書及び供述録取書の作成に応じるように説得を続けた。しかし,結局,甲は,この説得に応じなかった。なお,司法警察員Pは,甲の前記供述を内容とする捜査報告書を作成しなかった。
 一方,乙は,同月15日に余罪がない旨を供述したので,司法警察員Qは,以後,V女に対する殺人,死体遺棄事件に関連する事項を一切聴取することがなかった。

7 甲は,司法警察員Pによる取調べにおいて,前記強盗の犯人であることを一貫して否認した。同月21日,検察官は,甲を前記強盗の事実により公判請求するには証拠が足りないと判断し,甲を釈放した。
 乙は,同月18日,司法警察員Qによる取調べにおいて,前記万引きの事実を認めた上,同月20日,弁護人を通じて被害を弁償した。そのため,同日,スーパーMの店長は,乙の処罰を望まない旨の上申書を検察官に提出した。そこで,検察官は,乙を勾留されている窃盗の事実により公判請求する必要はないと判断し,同月21日,乙を釈放した。
 その一方で,同日中に,甲及び乙は,V女に対する殺人,死体遺棄の被疑事実で通常逮捕された【甲につき,逮捕③。乙につき,逮捕④。】。甲及び乙は,同月23日,H地方検察庁検察官に送致された上,同日中に前記殺人,死体遺棄の被疑事実で勾留された。なお,甲及び乙は,殺人,死体遺棄の被疑事実による逮捕後,一切の質問に対して黙秘した。また,司法警察員Pは,殺人,死体遺棄の被疑事実で捜索差押許可状の発付を受け,部下と共に,甲及び乙の自宅を捜索したものの,殺人,死体遺棄事件に関連する差し押さえるべき物を発見できなかった。その後,検察官は,Bのパソコンにおけるメールの復元・分析の結果,Bのパソコンにも,甲の携帯電話及び乙のパソコンに残っていた前記各メールと同じメールが保存されていたことが判明したことなどを踏まえ,勾留延長後の同年6月11日,甲及び乙を,殺人,死体遺棄の事実により,H地方裁判所に公判請求した。
 検察官は,公判前整理手続において,捜査報告書【資料1】につき,「殺人及び死体遺棄に関する犯罪事実の存在」,捜査報告書【資料2】につき,「死体遺棄の報酬に関するメールの交信記録の存在と内容」を立証趣旨として,各捜査報告書を証拠調べ請求したところ,被告人甲及び被告人乙の弁護人は,いずれも,不同意の意見を述べた。

 

〔設問1〕 【逮捕①】ないし【逮捕④】及びこれらの各逮捕に引き続く身体拘束の適法性について,具体的事実を摘示しつつ論じなさい。

 

〔設問2〕 捜査報告書(【資料1】及び【資料2】)の証拠能力について,具体的事実を摘示しつつ論じなさい。

 

【資料1】
捜査報告書
平成22年5月3日
H県警察本部刑事部長
司法警察員 警視正 S 殿
H県警察本部刑事部捜査第一課
司法警察員 警部 P 印
死体遺棄 被疑者 B
(本籍,住居,職業,生年月日省略)
被疑者Bに対する頭書被疑事件につき,平成22年5月3日,被疑者Bの自宅において
差し押さえたパソコンに保存されたデータを精査したところ,A女あてのメールを発見し
たので,同メールを印刷した用紙1枚を添付して報告する。

 

[メール①]
送信者: B
宛先: A女
送信日時: 2010年3月1日 23:03
件名: さっきはゴメン
さっきは,電話を途中で切ってゴメンな。今日の午後8時に甲が家に来たやろ。ここから,すごいことが起こったんや。いずれ結婚するお前やから,打ち明けるが,甲は,俺の家で,いきなり,「30分前に,俺の家で,乙と一緒にV女の首を絞めて殺した。俺がV女の体を押さえて,乙が両手でV女の首を絞めて殺した。V女を運んだり,V女を埋める道具を積み込むには,俺や乙の車では小さい。お前の大きい車を貸してほしい。V女の死体を捨てるのを手伝ってくれ。お礼として,100万円をお前にやるから。」と言ってきたんや。甲とV女のことは知っているやろ。甲は俺の友人で,V女は甲の奥さんや。乙のことは知らんやろうけど,俺の友人に乙というのがいるんや。その乙と甲がV女を殺したんや。俺も金がないし,お前にも指輪の一つくらい買ってやろうと思い,引き受けた。人殺しならともかく,死体を捨てるだけだから,大したことないと思うたんや。その後,すぐに,甲の家に行くと,V女の死体があったわ。また,そこには,乙もいて,「俺と甲の2人で殺した。甲がV女の体を押さえて,俺が両手でV女の首を絞めて殺したんや。死体を捨てるのを手伝ってくれ。」と言ってきた。その後,俺は,甲と乙と一緒に,V女の死体を俺の車で一本杉まで運び,そのすぐ横の土を3人で掘ってV女の死体をバッグと一緒に投げ入れ,土を上からかぶせて完全に埋めたんや。V女の死体を埋めるのに,午後9時から1時間くらいかかったわ。疲れた。分かっていると思うが,このことは誰にも言うなよ。これがばれたら,俺も捕まることになるから。そうなったら,結婚もできんわ。100万円もらったら,何でも好きなもの買ってやるから,言ってな。

 

【資料2】
捜査報告書
平成22年5月12日
H県警察本部刑事部長
司法警察員 警視正 S 殿
H県警察本部刑事部捜査第一課
司法警察員 警部 P 印
殺人,死体遺棄 被疑者 甲
被疑者 乙
(いずれも,本籍,住居,職業,生年月日省略)
被疑者甲及び同乙に対する頭書被疑事件につき,平成22年5月12日,H県警察本部
において差し押さえた甲の携帯電話に保存されていた甲とBとの間におけるメールの交信
記録を用紙1枚に印刷したので,これを添付して報告する。

 

[メール②-1]
送信者: B
宛先: 甲
受信日時: 2010年4月28日 22:00
件名: 早うせえ
V女の死体を埋めたお礼の100万円払え,早うせえや。
お前らがやったことをばらすぞ。
[メール②-2]
送信者: 甲
宛先: B
送信日時: 2010年4月28日 22:30
件名: Re:早うせえ
もう少し待ってくれ。
必ず,お礼の100万円を払うから。

 

練習答案

以下刑事訴訟法についてはその条数のみを示す。

 

[設問1]
 1.逮捕①の適法性
 司法警察職員は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときは、裁判官のあらかじめ発する逮捕状により、これを逮捕することができる(199条1項)。本件強盗事件の2人組の犯人のうちの1名に酷似しており、被害者である店員Wが複数の写真の中から甲の写真を選択して犯人の1人に間違いないと供述しているので、罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある。そして司法警察職員であるPが、裁判官のあらかじめ発する逮捕状により甲を逮捕しているので、この逮捕①は適法である。強盗罪は30万円以下の罰金、拘留又は科料に当たる罪ではないので、199条1項ただし書には該当しない。
 2.逮捕②の適法性
 まず尾行や張り込みは強制捜査ではないので、法律に特別の定のある場合でなくても行うことができる。
 現に罪を行い、又は現に罪を行い終った者を現行犯人とし(212条1項)、現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる(213条)。Qは乙が窃盗(万引き)という罪を現に行うのを認めてこれを逮捕している。よってこの逮捕②は適法である。
 3.逮捕③の適法性
 罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるかどうかがここでの争点になる(その他の手続はきちんとなされていると推測できる)。
 甲は、逮捕①に伴う取り調べ時にではあるが、司法警察員Pに対して、「V女の死体を『一本杉』付近に埋めた」旨を任意に自白している。Pは「他に何かやっていないか。」などと余罪の有無について確認しただけであり、自白を強要したわけではないので、この自白の採取に関して違法性はない。そしてこの自白と資料1, 2の捜査報告書をあわせると罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があると言える。よって逮捕③は適法である。
 4.逮捕④の適法性
 逮捕③と同じ枠組で検討する。
 乙自身は自白をしていないが、甲がメール①の内容に沿う供述、つまり甲、乙、Bの3人がV女の死体を埋めたという供述をしている。また、報酬に関するB乙間のメールの交信記録が存在したとのことである。しかしこれらは捜査報告書にされておらず、罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるかどうかを判断する際の資料とすることができない。このような責任の所在があいまいな資料を許してしまうと、捜査機関は何とでも言えてしまう。これらの資料を考慮に入れず資料1の捜査報告書だけでは罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由はない。よって逮捕④は違法である。
 5.逮捕に引き続く身体拘束の適法性
 逮捕に引き続く身体拘束で問題になり得るのは、いわゆる別件取調べである。逮捕した罪とは別件の取調べがもっぱら行われるようであればその身体拘束は違法のそしりを免れないが、別件に話題が及んだとしたら直ちに違法になるというわけではない。逮捕①に引き続く甲の身体拘束に関して、1日約30分ずつ別件であるV女に対する殺人、死体遺棄事件に関する説得が続けられたが、この程度であれば、もっぱら別件を取り調べているとは言えず、適法である。

 

[設問2]
 1.伝聞証拠
 321条ないし328条に規定する場合を除いては、公判期日における供述に代えて書面を証拠とすることはできない(320条1項)。人の供述は公判期日において反対尋問にさらしてその真実性を吟味するのが相当だからである。資料1及び資料2は、この点から、公判期日において供述すべきものであり、320条1項の伝聞証拠に当たる。
 しかしながら伝聞証拠に当たると絶対に証拠とすることができないのでは事実認定に支障をきたすので、321条ないし328条で一定の例外が認められている。資料1に関わるのは321条1項3号である。321条1項の各号に共通して、被告人以外の者が作成した供述書又はその者の供述を録取した書面で供述者の署名若しくは押印のあるもの、という条件が課されている。これは供述者の供述が録取者によりねじ曲げられずに真正なものであることを保証する趣旨である。資料1には供述者であるBの署名も押印もないが、メールは機械的に正確に記録するので録取者によってねじ曲げられることがないので、署名も押印もなくてもこの条件は満たしていると考えてよい。資料1は裁判官の面前や検察官の面前で録取された書面ではないので3号の書面である。そうすると供述不能+特信状況という2つの要件を満たさなければ伝聞例外にはならない。Bは死亡しており公判準備又は公判期日において供述することができない。V女の死体を発見するきっかけとなる情報をもたらしたA女がこのメールはBが送信したものに間違いないと請け合っており、特に信用すべき情況の下になされたと言える。よってこの2つの要件を満たし伝聞例外に該当するので資料1の証拠能力は肯定される。資料2のメール②ー1もほぼ同様ではあるが特信情況がないので伝聞例外にはならず証拠能力が認められない。
 2.違法収集証拠
 違法に収集された証拠はその証拠能力が否定されることがある。資料2の証拠はいわゆる別件差押えとして違法とされる余地がある。というのも、強盗の被疑事実である逮捕①に伴う捜索で差し押さえられた携帯電話から採取されたものだからである。しかし殊更に別件差し押さえをしたわけではなく、強盗の被疑事実に関連して共犯者を解明するために甲の交友関係を把握する必要があると考えて差し押さえられたものである。よってこの差し押さえは違法ではないので、その点で資料2の証拠能力が否定されることはない。
 3.結論
 資料1の証拠能力は320条1項3号の伝聞例外により肯定される。資料2の証拠能力は違法収集証拠であるとして否定されることはないが、伝聞証拠として否定される。

以上

 

修正答案

以下刑事訴訟法についてはその条数のみを示す。

[設問1]
 1.別件逮捕について
 個別具体的な逮捕や身体拘束の適法性を考える前に、一般論として別件逮捕についての考え方を示しておく。別件逮捕とは捜査機関が本当に逮捕したいと考えている罪(本件)での逮捕をすることが困難なので、別の逮捕しやすい罪(別件)で逮捕して、その別件の逮捕についての捜索や取り調べ等から本件の逮捕をするための材料を集める行為を言う。刑事訴訟法では一罪一逮捕一勾留の原則から、逮捕や勾留について被疑者・被告人の権利を守るために手続きや時間制限などが定められており、これを潜脱するような別件逮捕は違法となる。しかし別件とはいえ逮捕の必要があり要件を満たしているのに捜査機関の主観を考慮してこれを違法とするのは困難が強いられることになる。そこで別件逮捕の適法性は別件を基準にして考え、あとは取り調べや本件の逮捕が違法になるかどうかを考えるのがよい。ここではその線に沿って検討する。
 2.逮捕①の適法性
 司法警察職員は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときは、裁判官のあらかじめ発する逮捕状により、これを逮捕することができる(199条1項)。本件強盗事件の2人組の犯人のうちの1名に酷似しており、被害者である店員Wが複数の写真の中から甲の写真を選択して犯人の1人に間違いないと供述しているので、罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある。そして司法警察職員であるPが、裁判官のあらかじめ発する逮捕状により甲を逮捕しているので、この逮捕①は適法である。強盗罪は30万円以下の罰金、拘留又は科料に当たる罪ではないので、199条1項ただし書には該当しない。
 3.逮捕②の適法性
 まず尾行や張り込みは強制捜査ではないので、法律に特別の定のある場合でなくても行うことができる。
 現に罪を行い、又は現に罪を行い終った者を現行犯人とし(212条1項)、現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる(213条)。Qは乙が窃盗(万引き)という罪を現に行うのを認めてPがこれを逮捕している。よってこの逮捕②は適法である。PとQとは同じ捜査機関の司法警察員であり、相互に緊密に連絡を取り合っていたと考えられるので、一体のものとして捉えてもよい。被害額が500円と少額であるが、同種の前歴があることと突然逃げ出したことを考慮すると、逮捕が行き過ぎであるとも言えない。
 4.逮捕③の適法性
 別件逮捕という観点も考慮しつつ、罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるかどうかがここでの争点になる(その他の手続はきちんとなされていると推測できる)。
 資料1,2の捜査報告書(メール①とメール②ー1、②ー2)から罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があると言える。当然の理として、公判で有罪とするに足りる証拠と、逮捕を行うに足りる証拠とを比べると、後者のほうが弱くてもよい。言い換えると、罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由とは比較的緩やかに解してもよく、本件のように複数の客観的な資料から罪を犯したことが疑われる場合は、相当な理由があるとしてよい。
 資料2の捜査報告書にある証拠は、違法な別件差押えに由来するものであると考える余地もある。しかし殊更に別件差し押さえをしたわけではなく、強盗の被疑事実に関連して共犯者を解明するために甲の交友関係を把握する必要があると考えて差し押さえられたものである。強盗は重大犯罪であり、共犯者が未だ見つかっていない状態では、共犯者を解明する必要性は高く、すでに逮捕されている者の携帯電話を差し押さえるというのがそのために相当な手段である。よってこの差し押さえは違法ではない。
 甲は、逮捕①に伴う取り調べ時に、司法警察員Pに対して、「V女の死体を『一本杉』付近に埋めた」旨を任意に自白している。Pは「他に何かやっていないか。」などと余罪の有無について確認しただけであり、自白を強要したわけではないので、この自白の採取に関して違法性はない。ただし甲は上申書及び供述録取書の作成を拒否したので、これを逮捕の必要性を疎明するための証拠として用いることは困難である。それでも前述したように、資料1,2から逮捕③は適法である。
 5.逮捕④の適法性
 逮捕③と同じ枠組で検討する。
 乙のパソコンの中には,[メール②-1]及び[メール②-2]と同様のBがV女の死体を遺棄したことに対する報酬に関するメールの交信記録が存在したとのことである。しかしこれは違法な別件差押えに由来するものであり、逮捕の必要性を疎明するために用いることはできない。おそらくそのためにこの証拠資料については捜査報告書が作成されなかったのであろう。司法警察員Pは,乙の万引きに関する動機や背景事情を解明するには,乙の家計簿やパソコンなど乙の生活状況が判明する証拠を収集するよりほかないと考えて乙のパソコンを差押えたのであるが、500円相当の刺身パック1個を万引きしたという事実からはその必要性が導けない。違法な別件差押えであると判断せざるを得ない。
 先にも述べたように、甲の自白を逮捕の必要性を疎明するための証拠として用いることは困難であり、資料1の捜査報告書だけでは捜査機関自身がそう考えているように、罪を犯したことを疑うに足りる理由がない。よって逮捕④は違法である。
 6.逮捕に引き続く身体拘束の適法性
 まず、逮捕・勾留の制限時間はクリアしている。すべての逮捕について、逮捕、検察官送致、勾留請求が同日中になされているので203条1項・205条1項・同条2項に適合しており、逮捕①と②の後の勾留は10日以内で、逮捕③と④の後の勾留は20日以内であるので、208条1項・同条2項に適合している。また、勾留の必要性について207条1項により準用される60条1項の要件を満たす(少なくとも同項3号の逃亡のおそれはある)。そして起訴前の勾留は起訴をするかどうかを決めるために行われるのだから、起訴されなかったからと言ってその前の勾留が違法になるというわけでもない。
 逮捕に引き続く身体拘束で問題になり得るのは、いわゆる別件取調べである。逮捕した罪とは別件の取調べがもっぱら行われるようであればその身体拘束は違法のそしりを免れないが、別件に話題が及んだとしたら直ちに違法になるというわけではない。逮捕①に引き続く甲の身体拘束に関して、1日約30分ずつ別件であるV女に対する殺人、死体遺棄事件に関する説得が連日続けられたが、あくまでも逮捕①のもととなった強盗事件に関連する事項を中心に聴取されたのであり、この程度であれば、もっぱら別件を取り調べているとは言えず、適法である。平成22年5月15日、16日の2日間はV女に対する殺人,死体遺棄事件に関連する経緯等が聴取されたが、これは甲が任意に話し続けたのであって、これをもって違法な別件取調べであったとも言えない。逮捕②に引き続く乙の身体拘束については、乙が余罪がない旨を供述して以後は、V女に対する殺人、死体遺棄事件に関連する事項を一切聴取することがなかったので、適法であったことは言うまでもない。

[設問2]
 原則として、公判期日における供述に代えて書面を証拠とすることはできない(320条1項)。人の供述は公判期日において反対尋問にさらしてその真実性を吟味するのが相当だからである。資料1及び資料2は、この点から、公判期日において供述すべきものであり、320条1項の伝聞証拠に当たり得る。伝聞証拠に該当するかどうかは要証事実との関わりで判断されるので、以下では資料1,2について要証事実との関係から検討する。伝聞証拠当たるとしても、それでは絶対に証拠とすることができないのでは事実認定に支障をきたすので、321条ないし328条で一定の例外が認められている。
 1.資料1の要証事実「死体遺棄に関する犯罪事実の存在」との関係
 要証事実「死体遺棄に関する犯罪事実の存在」は、資料1のBの「俺は,甲と乙と一緒に,V女の死体を俺の車で一本杉まで運び,そのすぐ横の土を3人で掘ってV女の死体をバッグと一緒に投げ入れ,土を上からかぶせて完全に埋めたんや」といった言述の真実性に依拠しているので、これは伝聞証拠に該当する。これは司法警察職員の検証の結果を記載した書面(司法警察職員であるPが五感の働きを通じて感知した内容を記載した書面)であると言えるので、321条3項の書面であり、Pが公判期日において証人として尋問を受け、その真正に作成されたものであることを供述したときは、伝聞例外が認められることがある。裁判官の面前や検察官の面前で録取された書面ではないので321条1項3号の書面である。そうすると伝聞例外が認められるためには、供述不能+必要不可欠性+特信情況という3つの要件を満たさなければならない。
 Bは死亡しており公判準備又は公判期日において供述することができない(供述不能)。甲・乙が死体遺棄の罪を犯したとする他に有力な証拠がないので、犯罪事実の存否の証明に欠くことができない(必要不可欠性)。V女の死体を発見するきっかけとなる情報をもたらしたA女への私信であり、特に信用すべき情況の下になされている(特信情況)。以上よりこの3つの要件を満たし伝聞例外に該当するので資料1のBの言述部分の証拠能力は肯定される。
 2.資料1の要証事実「殺人に関する犯罪事実の存在」との関係
 要証事実「殺人に関する犯罪事実の存在」は、資料1の「30分前に,俺の家で,乙と一緒にV女の首を絞めて殺した。俺がV女の体を押さえて,乙が両手でV女の首を絞めて殺した」という甲の発言及び「俺と甲の2人で殺した。甲がV女の体を押さえて,俺が両手でV女の首を絞めて殺したんや。」という乙の発言をBが引用した部分の真実性に依拠しているので、これは再伝聞証拠に該当する。そこでこれが伝聞例外に当たらないかを検討する。
 先に述べたように、資料1のBの言述部分は伝聞例外に該当して証拠能力が肯定される。つまりBが公判で供述したのと同視されるわけであり、そこで被告人又は被告人以外の者の供述をその内容としているので、324条1項及び2項の問題となる。そしてそれぞれ322条及び321条1項3号が準用される。前者については不利益な事実の承認又は特信情況という条件をクリアすれば伝聞例外に該当し、後者については先ほどと同様に供述不能+必要不可欠性+特信情況という3つの要件をクリアすれば伝聞例外に該当する。前者については自らが殺人の罪を犯したという不利益な事実の承認にあたり伝聞例外になる。後者については必要不可欠性と特信情況は満たすとして、供述不能は公判で黙秘しない限り満たさない。いずれの場合でも、伝聞例外に該当すれば証拠能力が肯定される。
 3,資料2の要証事実「死体遺棄の報酬に関するメールの交信記録の存在と内容」との関係
 要証事実「死体遺棄の報酬に関するメールの交信記録の存在と内容」は資料2のメールの交信記録が存在することが重要なのであり、内容の真実性に依拠しているわけではない。よって伝聞証拠には当たらないので、証拠能力は肯定される。

以上

 

感想

伝聞証拠が理解できていなかったことを思い知らされました。要証事実を意識するという最初の一歩から踏み外していました。逮捕後の身体拘束についての条文も引用できていませんでした。修正答案を書くことでそれらを理解できたように思います。

 

 

 




コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。