令和2(2020)年司法試験予備試験論文再現答案法律実務基礎科目(刑事)

以下、刑事訴訟法については、その条数のみを示す。

〔設問1〕
(1)
 Aが、令和2年2月1日の午後2時頃から午後9時45分頃までに、V方を訪問し、その1階居間中央にある応接テーブルに触れたことまでは十分に推認できる。しかし、本件は殺人被疑事件であるところ、Aが、Vを、殺意を持って殺害したということまでは、十分に推認できないから。
(2)
 証拠⑨及び⑩より、このナイフによってVが殺害されたことが、証拠④とも合わせて、認められる。そして、このナイフが問題文中にある竹やぶの中にあるということは、犯人しか知らないことである。証拠⑦によると、このナイフがその竹やぶにあることをAが知っていた。よって、Aの犯人性が十分に推認できる。下線部アもこれを支持する。

〔設問2〕
(1)
 Aの弁護人は、316条の15第1項3号に該当するとして、証拠開示の請求をすべきである(同条1項本文)。その際には、開示を求める証拠は、犯行が行われた時刻頃にV方からの物音を聞いたW2以外の者の供述録取書であること(同条3項1号イ)、Aの殺意を認定する一材料になる証拠⑦中のW2の供述の証明力の程度を判断するために必要であること(同号ロ)を、明らかにすべきである。
(2)
 同条1項本文に沿って考える。この証拠は、同条1項3号に該当し、重要であって被告人の防御のために必要であり、これを開示しても弊害が生じるおそれは少ないから、検察官は、証拠⑥をAの弁護人に開示した。

〔設問3〕
 Aの弁護人の申立ては、『むかついたので…見付かることはないよな。』(以下「本件発言」という。)というAの発言部分が、320条1項により証拠から排除されるという主張であると考えられる。320条1項は、人の供述は、知覚、記憶、保持、再生のプロセスを経て行われるものであり、その各段階で誤りが混入しやすいから、反対尋問でぎんみされない限りは証拠から排除するという趣旨である。この趣旨からすると、ある発言の内容が真実であることを証明しようとするときはこの伝聞法則により証拠から排除されるが、その発言があったこと自体を証明しようとするときは、上記趣旨は当てはまらず、伝聞法則により排除されないと解する。
 本件において、検察官がCの証言により立証しようとしている事実は、本件発言の内容の真実性ではなく、Aが本件発言をしたこと(Cが本件発言を聞いたこと)である。これは、伝聞法則により排除されず、Cの証人尋問だけで証拠とすることができる。
 以上より、裁判所は、Aの弁護人の申立てに基づき証拠排除決定をすべきではない。

〔設問4〕
第1 勾留の執行停止(95条)
 父の葬儀にだけは出席したいということは、適当と認められるため、裁判所は、決定で、勾留の執行を停止することができる。
第2 裁量保釈(90条)
 父の葬儀に出席できないということは、社会生活上大きな不利益であり、裁判所は、職権で保釈を許すことができる。
第3 権利保釈(89条)
 第1回公判期日までの段階では、同条1号及び4号に該当する事由があったとのことであるが、結審後、判決宣告期日までという現段階では、全ての証拠調べが終わっており、4号に該当することはなくなっている。しかし、1号には該当するので、保釈が義務的になることはない。

以上




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