浅野直樹の学習日記

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平成25年司法試験予備試験論文(法律実務基礎科目(民事))答案練習

問題

[民 事](〔設問1〕から〔設問5〕までの配点の割合は,12:5:8:17:8)

 
司法試験予備試験用法文及び本問末尾添付の資料を適宜参照して,以下の各設問に答えなさい。

 
〔設問1〕
 弁護士Pは,Xから次のような相談を受けた。

 
【Xの相談内容】
 「私は,平成17年12月1日から「マンション甲」の301号室(以下「本件建物」といいます。)を所有していたAから,平成24年9月3日,本件建物を代金500万円で買い受け(以下「本件売買契約」といいます。),同日,Aに代金500万円を支払い,本件建物の所有権移転登記を具備しました。
 本件建物には現在Yが居住していますが,Aの話によれば,Yが本件建物に居住するようになった経緯は次のとおりです。
 Aは,平成23年4月1日,Bに対し,本件建物を,賃貸期間を定めずに賃料1か月5万円とする賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」といいます。)を締結し,これに基づき,本件建物を引き渡しました。ところが,Bは,平成24年4月2日,Bの息子であるYに対し,Aの承諾を得ずに,本件建物を,賃貸期間を定めずに賃料1か月5万円とする賃貸借契約(以下「本件転貸借契約」といいます。)を締結し,これに基づき,本件建物を引き渡しました。こうして,Yが本件建物に居住するようになりました。
 そこで,Aは,同年7月16日,Bに対し,Aに無断で本件転貸借契約を締結したことを理由に,本件賃貸借契約を解除するとの意思表示をし,数日後,Yに対し,本件建物の明渡しを求めました。しかし,Yは,本件建物の明渡しを拒否し,本件建物に居住し続けています。
 このような次第ですので,私は,Yに対し,本件建物の明渡しを求めます。」

 
 弁護士Pは,【Xの相談内容】を前提に,Xの訴訟代理人として,Yに対し,所有権に基づく返還請求権としての建物明渡請求権を訴訟物として,本件建物の明渡しを求める訴えを提起した。そして,弁護士Pは,その訴状において,請求を理由づける事実(民事訴訟規則第53条第1項)として,次の各事実を主張した(なお,以下では,これらの事実が請求を理由づける事実となることを前提に考えてよい。)。
 ① Aは,平成23年4月1日当時,本件建物を所有していたところ,Xに対し,平成24年9月3日,本件建物を代金500万円で売ったとの事実
 ② Yは,本件建物を占有しているとの事実
 上記各事実が記載された訴状の副本を受け取ったYは,弁護士Qに相談をした。Yの相談内容は次のとおりである。

 
【Yの相談内容】
 「Aが平成23年4月1日当時本件建物を所有していたこと,AがXに対して平成24年9月3日に本件建物を代金500万円で売ったことは,Xの主張するとおりです。
 しかし,Aは,私の父であるBとの間で,平成23年4月1日,本件建物を,賃貸期間を定めずに賃料1か月5万円で賃貸し(本件賃貸借契約),同日,Bに対し,本件賃貸借契約に基づき,本件建物を引き渡しました。そして,本件賃貸借契約を締結する際,Aは,Bに対し,本件建物を転貸することを承諾すると約したところ(以下,この約定を「本件特約」といいます。),Bは,本件特約に基づき,私との間で,平成24年4月2日,本件建物を,賃貸期間を定めずに賃料1か月5万円で賃貸し(本件転貸借契約),同日,私に対し,本件転貸借契約に基づき,本件建物を引き渡しました。その後,私は,本件建物に居住しています。
 このような次第ですので,私にはXに本件建物を明け渡す義務はないと思います。」

 
 そこで,弁護士Qは,答弁書において,Xの主張する請求を理由づける事実を認めた上で,占有権原の抗弁の抗弁事実として次の各事実を主張した。
 ③ Aは,Bに対し,平成23年4月1日,本件建物を,期間の定めなく,賃料1か月5万円で賃貸したとの事実。
 ④ Aは,Bに対し,同日,③の賃貸借契約に基づき,本件建物を引き渡したとの事実。
 ⑤ Bは,Yに対し,平成24年4月2日,本件建物を,期間の定めなく,賃料1か月5万円で賃貸したとの事実。
 ⑥ Bは,Yに対し,同日,⑤の賃貸借契約に基づき,本件建物を引き渡したとの事実。

 
 以上を前提に,以下の各問いに答えなさい。
(1) 本件において上記④の事実が占有権原の抗弁の抗弁事実として必要になる理由を説明しなさい。
(2) 弁護士Qが主張する必要がある占有権原の抗弁の抗弁事実は,上記③から⑥までの各事実だけで足りるか。結論とその理由を説明しなさい。ただし,本設問においては,本件転貸借契約締結の背信性の有無に関する事実を検討する必要はない。

 
〔設問2〕
 平成24年11月1日の本件の第1回口頭弁論期日において,弁護士Qは,本件特約があった事実を立証するための証拠として,次のような賃貸借契約書(斜体部分は全て手書きである。以下「本件契約書」という。)を提出した。

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 本件契約書について,弁護士PがXに第1回口頭弁論期日の前に確認したところ,Xの言い分は次のとおりであった。

 
【Xの言い分】
 「Aに本件契約書を見せたところ,Aは次のとおり述べていました。
 『本件契約書末尾の私の署名押印は,私がしたものです。しかし,本件契約書に記載されている本件特約は,私が記載したものではありません。本件特約は,B又はYが,後で書き加えたものだと思います。』」

 
 そこで,弁護士Pは,第1回口頭弁論期日において,本件契約書の成立の真正を否認したが,それに加え,本件特約がなかった事実を立証するための証拠の申出をすることを考えている。次回期日までに,弁護士Pが申出を検討すべき証拠には,どのようなものが考えられるか。その内容を簡潔に説明しなさい。なお,本設問に解答するに当たっては,次の〔設問3〕の⑦の事実を前提にすること。

 
〔設問3〕
 本件の第1回口頭弁論期日の1週間後,弁護士Qは,Yから次の事実を聞かされた。
⑦ 本件の第1回口頭弁論期日の翌日にBが死亡し,Yの母も半年前に死亡しており,Bの相続人は息子のYだけであるとの事実
 これを前提に,次の各問いに答えなさい。
(1) 上記⑦の事実を踏まえると,弁護士Qが主張すべき占有権原の抗弁の内容はどのようなものになるか説明しなさい。なお,当該抗弁を構成する具体的事実を記載する必要はない。
(2) 弁護士Pは,(1)の占有権原の抗弁に対して,どのような再抗弁を主張することになるか。その再抗弁の内容を端的に記載しなさい。なお,当該再抗弁を構成する具体的事実を記載する必要はない。

 
〔設問4〕
 本件においては,〔設問3〕の(1)の占有権原の抗弁及び(2)の再抗弁がいずれも適切に主張されるとともに,〔設問1〕の①から⑥までの各事実及び〔設問3〕の⑦の事実は,全て当事者間に争いがなかった。そして,証拠調べの結果,裁判所は,次の事実があったとの心証を形成した。

 
【事実】
 本件建物は,乙市内に存在するマンションの一室で,間取りは1DKである。Aは,平成17年12月1日,本件建物を当時の所有者から賃貸目的で代金600万円で買い受け,その後,第三者に賃料1か月8万円で賃貸していたが,平成22年4月1日から本件建物は空き家になっていた。
 平成23年3月,Aは,長年の友人であるBから,転勤で乙市に単身赴任することになったとの連絡を受けた。AがBに転居先を確認したところ,まだ決まっていないとのことであったため,Aは,Bに本件建物を紹介し,本件賃貸借契約が締結された。なお,賃料は,友人としてのAの計らいで,相場より安い1か月5万円とされた。
 平成24年3月,Bの長男であるY(当時25歳)が乙市内の丙会社に就職し,乙市内に居住することになった。Yは,22歳で大学を卒業後,就職もせずに遊んでおり,平成24年3月当時,貸金業者から約150万円の借金をしていた。そこで,Bは,Yが借金を少しでも返済しやすくするため,Aから安い賃料で借りていた本件建物をYに転貸し,自分は乙市内の別のマンションを借りて引っ越すことにした。こうして,本件転貸借契約が締結された。
 本件転貸借契約後も,BはAに対し,約定どおり毎月の賃料を支払ってきたが,同年7月5日,本件転貸借契約の締結を知ったAは,同月16日,Bに対し,本件転貸借契約を締結したことについて異議を述べた。これに対し,Bは,転貸借契約を締結するのに賃貸人の承諾が必要であることは知らなかった,しかし,賃料は自分がAにきちんと支払っており,Aに迷惑はかけていないのだから,いいではないかと述べた。Aは,Bの開き直った態度に腹を立て,貸金業者から借金をしているYは信用できない,Yに本件建物を無断で転貸したことを理由に本件賃貸借契約を解除すると述べた。しかし,Bは,解除は納得できない,せっかくYが就職して真面目に生活するようになったのに,解除は不当であると述べた。
 その後,Bは,無断転貸ではなかったことにするため,本件契約書に本件特約を書き加えた。そして,Bは,Yに対し,本件転貸借契約の締結についてはAの承諾を得ていると嘘をつき,Yは,これを信じて本件建物に居住し続けた。

 
 この場合,裁判所は,平成24年7月16日にAがした本件賃貸借契約の解除の効力について,どのような判断をすることになると考えられるか。結論とその理由を説明しなさい。なお,上記事実は全て当事者が口頭弁論期日において主張しているものとする。

 
〔設問5〕
 弁護士Pは,平成15年頃から継続的にAの法律相談を受けてきた経緯があり,本件についても,Aが本件転貸借契約の締結を知った翌日の平成24年7月6日,Aから相談を受けていた。その際,弁護士Pは,Aに対し,本件建物を売却するのであれば,無断転貸を理由に本件賃貸借契約を解除してYから本件建物の明渡しを受けた後の方が本件建物を売却しやすいとアドバイスした。
 その後,Aは,無断転貸を理由に本件賃貸借契約を解除したが,Yから本件建物の明渡しを受ける前に本件建物をXに売却した。その際,Aは,Xから,本件建物の明渡しをYに求めようと思うので弁護士を紹介してほしいと頼まれ,本件の経緯を知っている弁護士PをXに紹介した。
 弁護士Pは,Aとの関係から,Xの依頼を受けざるを得ない立場にあるが,受任するとした場合,受任するに当たってXに何を説明すべきか(弁護士報酬及び費用は除く。)について述べなさい。

 

練習答案

[設問1]
 (1)
  Xは、Yに対し、所有権に基づく返還請求権としての建物明渡請求権を訴訟物として、本件建物の明渡しを求める訴えを提起した。Yは、賃貸借契約により占有権原を有しているという抗弁を提出しようとしているが、その抗弁のためには所有権者から適法に占有権原を取得したことを主張しなければならない。
  Xが、平成24年9月3日に、売買によりAから本件建物の所有権を取得したことに争いはない。そうなると、平成23年4月1日にはAが本件建物の所有権者であって、③及び④により、BがAから適法に占有権原を取得したと言える。そして⑤及び⑥によりそのBからYが適法に本件建物の占有権原を取得したと言える。仮に④の事実がなければ、BがAから適法に占有権原を取得したと言えず、Yも同様である。本件建物は不動産であるので、民法192条の即時取得の余地はない。
 (2)
  賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うことを約することによって、その効力を生ずる(民法601条)。そして、所有権者に対して賃貸借の主張をするためには、その賃貸借契約に基づく引渡しを主張する必要がある。
  以上より、Aから所有権を承継したXに対して、Bから本件建物の賃借権を承継したYが主張するためには、AからB、BからYへと賃借権が移動したことを主張するために③から⑥までの各事実を主張する必要があり、かつこれで足りる。
  なお、この転貸借につきAの承諾があったということは、無断転貸借を理由をした賃貸借契約の解除というXの再抗弁に対する再々抗弁となるので、ここで主張する必要はない。

 

[設問2]
 本件特約がなかった事実を立証するために、次回期日までに、弁護士Pが申出を検討すべき証拠には、Aという人証、Aが転貸借を知ってから異議を述べたことがわかる証拠、AがYではなくBから賃料を受け取っていたことがわかる証拠が考えられる。

 

[設問3]
 (1)
  弁護士Qが主張すべき占有権原の抗弁の内容は、BがAから賃貸借契約により占有権原を取得したこと及びYがそのBの一切の権利義務を相続により承継したこと(民法882条、896条)である。
 (2)
  弁護士Pは、無断転貸借を理由とした、AのBとの賃貸借契約の解除又はAを承継したXのBとの賃貸借契約の解除もしくはXのYとの賃貸借契約の解除を主張することになる。

 

[設問4]
 賃借人が賃貸人の承諾を得ずに第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは、賃貸人は、契約の解除をすることができる(民法612条2項)。これは債務不履行解除(民法541条)の一種であると考えられる。ところで、居住を目的とした建物の賃貸借では、契約を解除されて住居を失う賃借人の損害は甚大であるので、単に債務不履行があっただけでは解除できず、信頼関係を破壊するに足る特段の事情もあってはじめて解除できるとするのが判例である。
 本件では、原賃貸人Aの承諾のない転貸借が行われたので、AはBとの本件賃貸借契約を解除することができることに612条2項上はなる。YはBの長男で賃料はBがきちんと支払っているという事情もあり、これだけで信頼関係が破壊されたとは言えず、平成24年7月16日の時点ではAB間の賃貸借契約を解除できなかった。しかし、その後Aは本件契約書に本件特約を書き加えた。これは刑法犯ともなり得る行為であり、信頼関係を破壊するに十分である。Aは平成24年7月16日に解除の意思表示をしてから新たな意思表示をしていないが、解除を求めていたことには変わりがないと推測できるので、この信頼関係を破壊するに足る特段の事情が生じた時点で解除の効力を発生させるのが適当である。
 以上より、裁判所は、平成24年7月16日にAがした本件賃貸借契約の解除の効力について、Bが本件契約書に本件特約を書き加えた時点で解除の効力が発生したと判断することになる。

 

[設問5]
 弁護士は、同一の事件について複数の依頼者があってその相互間に利害の対立が生じるおそれがあるときは、事件を受任するに当たり、依頼者それぞれに対し、辞任の可能性その他の不利益を及ぼすおそれのあることを説明しなければならない(弁護士職務基本規程32条)。
 Yからの本件建物の明渡しが首尾よく進まなかった場合には、権利の一部が他人に属する場合における売主の担保責任(民法563条)をXがAに対して求める可能性があり、AとXという複数の依頼者の相互間に利害の対立が生じるおそれがある。よって弁護士Pは受任するに当たって、Xに辞任の可能性その他の不利益を及ぼすおそれのあることを説明しなければならない。

以上

 

修正答案

[設問1]
 (1)
  Xは、Yに対し、所有権に基づく返還請求権としての建物明渡請求権を訴訟物として、本件建物の明渡しを求める訴えを提起した。Yは、賃貸借契約により占有権原を有しているという抗弁を提出しようとしているが、その抗弁のためには所有権者から適法に占有権原を取得したことを主張しなければならない。
  Xが、平成24年9月3日に、売買によりAから本件建物の所有権を取得したことに争いはない。そうなると、平成23年4月1日にはAが本件建物の所有権者であって、③及び④により、BがAから適法に占有権原を取得したと言える。そして⑤及び⑥によりそのBからYが適法に本件建物の占有権原を取得したと言える。仮に④の事実がなければ、BがAから適法に占有権原を取得したと言えず、Yも同様である。また、XとYとは対抗関係に立つが、建物の賃貸借は、その登記がなくても、建物の引渡しがあったときは、その後その建物について物権を取得した者に対し、その効力を生ずる(借地借家法31条1項)ので、YがXに対抗するためにも④の事実の主張が必要である。
 (2)
  賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うことを約することによって、その効力を生ずる(民法601条)。しかし、賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない(民法612条1項)。この規定から、転貸借は原賃貸人の承諾がなければ効力を生じないと考えられるので、弁護士Qは本件特約の存在を主張しなければならない。この主張を③ないし⑥の主張に加えれば、AからB、BからYへと賃借権が移動したと主張できるので、占有権原の抗弁の抗弁事実は足りることになる。

 

[設問2]
 本件特約がなかった事実を立証するために、次回期日までに、弁護士Pが申出を検討すべき証拠には、Aという人証、手元に残っていれば本件契約書のA保管分という書証、Bの筆跡との対照の用に供すべき筆跡を備える文書(民事訴訟法229条2項)が考えられる。

 

[設問3]
 (1)
  弁護士Qが主張すべき占有権原の抗弁の内容は、BがAから賃貸借契約により占有権原を取得したこと及びYがそのBの一切の権利義務を相続により承継したこと(民法882条、896条)である。なお、転借権は混同(民法520条本文)により消滅するので主張すべきではない。
 (2)
  弁護士Pは、無断転貸借を理由とした、AのBとの賃貸借契約の解除又はAを承継したXのBとの賃貸借契約の解除もしくはXのYとの賃貸借契約の解除を主張することになる。

 

[設問4]
 賃借人が賃貸人の承諾を得ずに第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは、賃貸人は、契約の解除をすることができる(民法612条2項)。これは債務不履行解除(民法541条)の一種であると考えられる。ところで、居住を目的とした建物の賃貸借では、契約を解除されて住居を失う賃借人の損害は甚大であるので、単に債務不履行があっただけでは解除できず、信頼関係を破壊するに足る特段の事情もあってはじめて解除できるとするのが判例である。
 本件では、原賃貸人Aの承諾のない転貸借が行われた。しかし、YはBの長男であって転貸借も原貸借と同じ賃料で営利性はなく、また賃料はBがきちんと支払っているという事情もあり、Yに借金があったとしても問題とはなっておらず、これだけで信頼関係が破壊されたとは言えず、平成24年7月16日の時点ではAがAB間の賃貸借契約を解除することはできなかった。しかし、その後Aは本件契約書に本件特約を書き加えた。これは刑法犯ともなり得る行為であり、信頼関係を破壊するに十分である。Aは平成24年7月16日に解除の意思表示をしてから新たな意思表示をしていないが、解除を求めていたことには変わりがないと推測できるので、この信頼関係を破壊するに足る特段の事情が生じた時点で解除の効力を発生させるのが適当である。
 以上より、裁判所は、平成24年7月16日にAがした本件賃貸借契約の解除の効力について、Bが本件契約書に本件特約を書き加えた時点で解除の効力が発生したと判断することになる。

 

[設問5]
 弁護士は、事件を受任するに当たり、依頼者から得た情報に基づき、事件の見通し、処理の方法並びに弁護士報酬及び費用について、適切な説明をしなければならない(弁護士職務基本規程29条)。弁護士報酬及び費用は除くとすれば、事件の見通し、処理の方法について適切な説明をしなければならない。
 また、弁護士は、同一の事件について複数の依頼者があってその相互間に利害の対立が生じるおそれがあるときは、事件を受任するに当たり、依頼者それぞれに対し、辞任の可能性その他の不利益を及ぼすおそれのあることを説明しなければならない(弁護士職務基本規程32条)。
 Yからの本件建物の明渡しが首尾よく進まなかった場合には、権利の一部が他人に属する場合における売主の担保責任(民法563条)をXがAに対して求める可能性があり、AとXという複数の依頼者の相互間に利害の対立が生じるおそれがある。よって弁護士Pは受任するに当たって、Xに辞任の可能性その他の不利益を及ぼすおそれのあることを説明しなければならない。

以上

 

 

感想

[設問1]の要件事実には苦労しました。まだ理解が足りないようです。[設問5]は弁護士職務基本規程32条話だと思ったら出題趣旨によると29条を書けとのことだったのが意外でした。

 

 



平成25年司法試験予備試験論文(刑事訴訟法)答案練習

問題

 次の記述を読んで,後記〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
 甲は,傷害罪の共同正犯として,「被告人は,乙と共謀の上,平成25年3月14日午前1時頃,L市M町1丁目2番3号先路上において,Vに対し,頭部を拳で殴打して転倒させた上,コンクリート製縁石にその頭部を多数回打ち付ける暴行を加え,よって,同人に加療期間不明の頭部打撲及び脳挫傷の傷害を負わせたものである。」との公訴事実が記載された起訴状により,公訴を提起された。

 

〔設問1〕
 冒頭手続において,甲の弁護人から裁判長に対し,実行行為者が誰であるかを釈明するよう検察官に命じられたい旨の申出があった場合,裁判長はどうすべきか,論じなさい。

 

〔設問2〕
 冒頭手続において,検察官が,「実行行為者は乙のみである。」と釈明した場合,裁判所が,実行行為者を「甲又は乙あるいはその両名」と認定して有罪の判決をすることは許されるか。判決の内容及びそれに至る手続について,問題となり得る点を挙げて論じなさい。

 

練習答案

以下刑事訴訟法についてはその条数のみを示す。

 

[設問1]
 公訴の提起は起訴状を提出してこれをしなければならず(256条1項)、起訴状には公訴事実を記載しなければならない(256条2項2号)。そして公訴事実は訴因を明示してこれを記載しなければならず、訴因を明示するには、できる限り日時、場所及び方法を以て罪となるべき事実を特定してこれをしなければならない(256条3項)。このように規定されているのは、当事者主義が採用されている刑事訴訟で裁判所に対して審判範囲を明確にするとともに、被告人に対して防御対象をはっきりとさせ被告人が十分な防御活動をすることができるようにするためである。
 本件起訴状に記載された公訴事実では、被告人甲の防御対象がはっきりしておらず、訴因の明示が不十分である。甲が実行行為者でなければ甲は乙との共謀について防御活動を行うか、乙の実行行為について防御活動するかして、そのいずれかに成功すれば傷害罪に問われずにすむ。甲が実行行為者であれば、何よりもまずその実行行為について防御活動をしなければ有罪は避けられないだろう。乙の実行行為があろうがなかろうが甲の傷害罪の成立には影響しないし、甲の乙との共謀についての防御が成立しても、甲は傷害罪の単独正犯として罪に問われてしまう。
 以上のように、本件において、実行行為者が誰であるかが不明であると被告人甲の防御対象がはっきりせず、不意打ちのように罪の成立が認められてしまうおそれがあるので、裁判長は、検察官に対して、実行行為者が誰であるかを示して訴因を明示するように釈明を求めるべきである。

 

[設問2]
第1 判決の内容
 [設問1]で述べたように、256条で起訴状の提出、公訴事実の記載、訴因の明示が必要とされているのは、裁判所に対して審判範囲を明確にするためである。
 本件では、甲について、起訴状記載の時間(平成25年3月14日午前1時頃)、場所(L市M町1丁目2番3号先路上)、対象(V)、態様(頭部を拳で殴打して転倒させた上、コンクリート製縁石にその頭部を多数回打ち付ける暴行を加え、よって、同人に加療期間不明の頭部打撲及び脳挫傷の傷害を負わせた)の傷害罪という審判対象が明確に画定されている。裁判所が別の日時や対象を異にする別個の傷害罪を認定することはできないが、本件の実行行為者が甲であれ乙であれその両名であれ、同じ傷害罪の枠内なので、判決の内容に問題はない。
第2 判決の手続
 [設問1]で述べたように、本件で実行行為者が誰であるかは被告人甲の防御にとって大きな意義を有している。検察官が「実行行為者は乙のみである。」と釈明した場合、甲としてはそれに応じて乙との共謀や乙の実行行為に防御活動を集中させることになる。それにもかかわらず、裁判所が、実行行為者を「甲又は乙あるいはその両名」と認定して有罪の判決をすることは許されない。甲の防御権を侵害しているからである。甲としてはその判決が予想されるのなら自らの実行行為について防御活動をしたのにと不満に思うはずであり、公正な裁判とは言えなくなる。

以上

 

修正答案

以下刑事訴訟法についてはその条数のみを示す。

 

[設問1]
 公訴の提起は起訴状を提出してこれをしなければならず(256条1項)、起訴状には公訴事実を記載しなければならない(256条2項2号)。そして公訴事実は訴因を明示してこれを記載しなければならず、訴因を明示するには、できる限り日時、場所及び方法を以て罪となるべき事実を特定してこれをしなければならない(256条3項)。このように規定されているのは、当事者主義が採用されている刑事訴訟で裁判所に対して審判範囲を明確にするとともに、被告人に対して防御対象をはっきりとさせ被告人が十分な防御活動をすることができるようにするためである。
 審判範囲については、他の犯罪と識別できないほど訴因が不明確であれば、裁判長は求釈明をしなければならないと考えられる。本件起訴状に記載された公訴事実では、実行行為者が誰であるか記載されていなくても、審理の対象となる犯罪はVを被害者とする平成25年3月14日午前1時頃のL市M町1丁目2番3号先路上における傷害事件であると確定できて、他の犯罪から識別することはできるので、裁判長が求釈明をしなければならないということはない。
 被告人の防御対象については、被告人の防御権を実質的に保障するように、裁判長は求釈明をすべきである。本件起訴状に記載された公訴事実では、被告人甲の防御対象がはっきりしておらず、訴因の明示が不十分である。甲が実行行為者でなければ甲は乙との共謀について防御活動を行うか、乙の実行行為について防御活動するかして、そのいずれかに成功すれば傷害罪に問われずにすむ。甲が実行行為者であれば、何よりもまずその実行行為について防御活動をしなければ有罪は避けられないだろう。その場合、乙の実行行為があろうがなかろうが甲の傷害罪の成立には影響しないし、甲の乙との共謀についての防御が成立しても、甲は傷害罪の単独正犯として罪に問われてしまう。
 以上のように、本件において、実行行為者が誰であるかが不明であると、審判範囲の罪は特定されているものの、被告人甲の防御対象がはっきりせず、不意打ちのように罪の成立が認められてしまうおそれがあるので、裁判長は、検察官に対して、実行行為者が誰であるかを示して訴因を明示するように釈明を求めるべきである。

 

[設問2]
第1 判決の内容
 [設問1]で述べたように、256条で起訴状の提出、公訴事実の記載、訴因の明示が必要とされているのは、裁判所に対して審判範囲を明確にするためである。
 本件では、甲について、起訴状記載の時間(平成25年3月14日午前1時頃)、場所(L市M町1丁目2番3号先路上)、対象(V)、態様(頭部を拳で殴打して転倒させた上、コンクリート製縁石にその頭部を多数回打ち付ける暴行を加え、よって、同人に加療期間不明の頭部打撲及び脳挫傷の傷害を負わせた)の傷害罪という審判対象が明確に画定されている。裁判所が別の日時や対象を異にする別個の傷害罪を認定することはできないが、本件の実行行為者が甲であれ乙であれその両名であれ、同じ傷害罪の枠内なので、判決の内容に問題はない。このような択一的認定であっても、同一の犯罪の構成要件内でのことなので、判決の内容としては問題ない。
第2 判決の手続
 [設問1]で述べたように、本件で実行行為者が誰であるかは被告人甲の防御にとって大きな意義を有している。検察官が「実行行為者は乙のみである。」と釈明した場合、その内容が実質的に訴因を形成し、甲としてはそれに応じて乙との共謀や乙の実行行為に防御活動を集中させることになる。それにもかかわらず、裁判所が、実行行為者を「甲又は乙あるいはその両名」と認定して有罪の判決をすることは許されない。甲の防御権を侵害しているからである。甲としてはその判決が予想されるのなら自らの実行行為について防御活動をしたのにと不満に思うはずであり、公正な裁判とは言えなくなる。このような場合は、検察官が訴因の変更をして、実行行為者という争点について実質的な攻防をした後でなければ、「甲又は乙あるいはその両名」と認定して有罪の判決をすることは許されない。

以上

 

 

感想

裁判所に対する審判範囲の明確化と被告人に対する防御権の保障という2つの観点を出し、[設問2]では前者を判決の内容に、後者を判決の手続に割り振りましたが、その考え方でよいのかやや自信がありません。

 



平成25年司法試験予備試験論文(刑法)答案練習

問題

 以下の事例に基づき,Vに現金50万円を振り込ませた行為及びD銀行E支店ATMコーナーにおいて,現金自動預払機から現金50万円を引き出そうとした行為について,甲,乙及び丙の罪責を論じなさい(特別法違反の点を除く。)。
1 甲は,友人である乙に誘われ,以下のような犯行を繰り返していた。
 ①乙は,犯行を行うための部屋,携帯電話並びに他人名義の預金口座の預金通帳,キャッシュカード及びその暗証番号情報を準備する。②乙は,犯行当日,甲に,その日の犯行に用いる他人名義の預金口座の口座番号や名義人名を連絡し,乙が雇った預金引出し役に,同口座のキャッシュカードを交付して暗証番号を教える。③甲は,乙の準備した部屋から,乙の準備した携帯電話を用いて電話会社発行の電話帳から抽出した相手に電話をかけ,その息子を装い,交通事故を起こして示談金を要求されているなどと嘘を言い,これを信じた相手に,その日乙が指定した預金口座に現金を振り込ませた後,振り込ませた金額を乙に連絡する。④乙は,振り込ませた金額を預金引出し役に連絡し,預金引出し役は,上記キャッシュカードを使って上記預金口座に振り込まれた現金を引き出し,これを乙に手渡す。⑤引き出した現金の7割を乙が,3割を甲がそれぞれ取得し,預金引出し役は,1万円の日当を乙から受け取る。

2 甲は,分け前が少ないことに不満を抱き,乙に無断で,自分で準備した他人名義の預金口座に上記同様の手段で現金を振り込ませて,その全額を自分のものにしようと計画した。そこで,甲は,インターネットを通じて,他人であるAが既に開設していたA名義の預金口座の預金通帳,キャッシュカード及びその暗証番号情報を購入した。

3 某日,甲は,上記1の犯行を繰り返す合間に,上記2の計画に基づき,乙の準備した部屋から,乙の準備した携帯電話を用いて,上記電話帳から新たに抽出したV方に電話をかけ,Vに対し,その息子を装い,「母さん。俺だよ。どうしよう。俺,お酒を飲んで車を運転して,交通事故を起こしちゃった。相手のAが,『示談金50万円をすぐに払わなければ事故のことを警察に言う。』って言うんだよ。警察に言われたら逮捕されてしまう。示談金を払えば逮捕されずに済む。母さん,頼む,助けてほしい。」などと嘘を言った。Vは,電話の相手が息子であり,50万円をAに払わなければ,息子が逮捕されてしまうと信じ,50万円をすぐに準備する旨答えた。甲は,Vに対し,上記A名義の預金口座の口座番号を教え,50万円をすぐに振り込んで上記携帯電話に連絡するように言った。Vは,自宅近くのB銀行C支店において,自己の所有する現金50万円を上記A名義の預金口座に振り込み,上記携帯電話に電話をかけ,甲に振込みを済ませた旨連絡した。

4 上記振込みの1時間後,たまたまVに息子から電話があり,Vは,甲の言ったことが嘘であると気付き,警察に被害を申告した。警察の依頼により,上記振込みの3時間後,上記A名義の預金口座の取引の停止措置が講じられた。その時点で,Vが振り込んだ50万円は,同口座から引き出されていなかった。

5 甲は,上記振込みの2時間後,友人である丙に,上記2及び3の事情を明かした上,上記A名義の預金口座から現金50万円を引き出してくれれば報酬として5万円を払う旨持ちかけ,丙は,金欲しさからこれを引き受けた。甲は,丙に,上記A名義の預金口座のキャッシュカードを交付して暗証番号を教え,丙は,上記振込みの3時間10分後,現金50万円を引き出すため,D銀行E支店(支店長F)のATMコーナーにおいて,現金自動預払機に上記キャッシュカードを挿入して暗証番号を入力したが,既に同口座の取引の停止措置が講じられていたため,現金を引き出すことができなかった。なお,金融機関は,いずれも,預金取引に関する約款等において,預金口座の譲渡を禁止し,これを預金口座の取引停止事由としており,譲渡された預金口座を利用した取引に応じることはなく,甲,乙及び丙も,これを知っていた。

 

練習答案

以下刑法についてはその条数のみを示す。

 

第1 丙の罪責
 1.住居侵入罪(130条)
  正当な理由がないのに、人の看守する建造物に侵入することは住居侵入罪の構成要件である。
  D銀行E支店のATMコーナーは人の看守する建造物である。丙はそこに正当な理由がないのに侵入している。譲渡された預金口座を利用した取引をすることは正当な理由ではなく、その他の正当な理由も見当たらない。また、支店長Fはそのような丙がATMコーナーに立入ることを知ったらそれを拒絶していたことが容易に推測できるので、丙は管理者の意に反して侵入したと言える。
  以上より、丙には住居侵入罪が成立する。
 2.窃盗罪(235条)
  他人の財物を窃取することが窃盗罪の構成要件である。現代社会では所有と占有が分離することが多く、真の所有者であっても占有者から自力で取り戻すことは原則的に禁止されているので、「他人の財物」とは「他人の占有する財物」のことである。また、窃盗罪は財産に対する罪なので、不法領得の意思や財産的損害も書かれざる構成要件になる。
  丙が引き出そうとした現金50万円はD銀行が占有する他人の財物である。もしも丙がその50万円を引き出して自己の占有下に置けば窃取したと言えるが、実際には取引の停止措置が講じられていたので、丙は窃取に至らなかった。丙は現金自動預払機にキャッシュカードを挿入して暗証番号を入力した時点で実行に着手している。不法領得の意思や財産的損害に欠けるところはない。
  以上より、丙には窃盗罪の未遂(43条)が成立する。
 3.その他
  丙は人を欺いてはいないので詐欺罪(246条)は成立しない。また、Vに現金50万円を振り込ませた行為については甲から事後的に知らされただけで何らその実現に寄与していないので共犯となる余地はない。
 4.結論
  以上より、丙には、住居侵入罪と窃盗罪の未遂が成立し、これらはけん連犯となる。
第2 甲の罪責
 1.住居侵入罪(130条)、窃盗罪(235条)
  2人以上共同して犯罪を実行した者はすべて正犯とする(60条)。甲は、上で検討した丙の住居侵入罪及び窃盗未遂罪について、丙と共謀して共同して犯罪を実行したと言える。A名義の預金口座、キャッシュカード、暗証番号を用意して発案したのは甲であり、50万円のうち45万円を甲の取り分とすることになっていたので、正犯性に欠けるところはない。
  以上より、甲には、丙との共同正犯として、住居侵入罪と窃盗罪の未遂が成立する。
 2.詐欺罪(246条2項)
  人を欺いて、財産上不法の利益を得たことが詐欺罪の構成要件である。財産に対する罪なので不法領得の意思と財産的損害も書かれざる構成要件である。
  甲はVに対し電話で息子を装って、逮捕を避けるために飲酒運転の事故の示談金として50万円を支払う必要があると嘘を言ったので、Vという人を欺いている。Vはそのせいで錯誤に陥り、甲から指定されたA名義の預金口座に50万円を振り込んだ。この振り込みにより甲が財産上不法の利益を得たかどうかが問題となり得るが、その口座のキャッシュカードと暗証番号を管理している甲はこれにより50万円を自由に引き出したり送金したりできる地位を取得したので、財産上不法の利益を得たと言える。不法領得の意思や財産的損害に欠けるところもない。
  以上より、甲には、詐欺罪が成立する。
 3.結論
  以上より、甲には、住居侵入罪及び窃盗未遂罪(以上けん連犯)と詐欺罪が成立し、前二者と後者は併合罪(45条)となる。
第3 乙の罪責
 ここまでに検討してきた丙及び甲の罪責について、乙にはその故意が欠けていたので、共犯にならないのはもちろん、従犯にもならない。
 以上より、乙には、問題文で指定された行為につき何らの犯罪も成立しない。

以上

 

修正答案

以下刑法についてはその条数のみを示す。

第1 丙の罪責
 1.窃盗罪(235条)
  他人の財物を窃取することが窃盗罪の構成要件である。現代社会では所有と占有が分離することが多く、真の所有者であっても占有者から自力で取り戻すことは原則的に禁止されているので、「他人の財物」とは「他人の占有する財物」のことである。
  丙が引き出そうとした現金50万円はD銀行が占有する他人の財物である。銀行が預金口座の取引の停止措置を講じたということは、その口座に入っている金銭を占有しているということである。もしも丙がその50万円を引き出して自己の占有下に置けば窃取したと言えるが、停止措置が講じられていたので、丙は窃取に至らなかった。しかし、現金自動預払機にキャッシュカードを挿入して暗証番号を入力した時点で、50万円の金銭を引き出す現実的な危険が生じていたので、実行に着手していたと言える。わずか10分の差で引き出すことができなかっただけであり、また停止措置が講じられていることは丙も一般人も知らなかった事情である。不法領得の意思や財産的損害に欠けるところはない。
  以上より、丙には窃盗罪の未遂(43条、243条)が成立する。
 2.その他
  丙は人を欺いてはいないので詐欺罪(246条)は成立しない。また、Vに現金50万円を振り込ませた行為については、その振り込みの時点で既遂に達しており、その後に事情を知らされただけで何らその実現に寄与していないので、共犯となる余地はない。
 3.結論
  以上より、丙には、窃盗罪の未遂が成立する。
第2 甲の罪責
 1.窃盗罪(235条)
  2人以上共同して犯罪を実行した者はすべて正犯とする(60条)。甲は、上で検討した丙の窃盗罪について、丙と共謀して共同して犯罪を実行したと言える。A名義の預金口座、キャッシュカード、暗証番号を用意して発案したのは甲であり、50万円のうち45万円を甲の取り分(残りの5万円は丙の取り分)とすることになっていたので、正犯性に欠けるところはない。
  以上より、甲には、丙との共同正犯として、窃盗罪の未遂が成立する。
 2.詐欺罪(246条1項)
  人を欺いて財物を交付させたことが詐欺罪(246条1項)の構成要件である。
  甲はVに対し電話で息子を装って、逮捕を避けるために飲酒運転の事故の示談金として50万円を支払う必要があると嘘を言ったので、Vという人を欺いている。Vはそのせいで錯誤に陥り、甲から指定されたA名義の預金口座に50万円を振り込んだ。この振り込みが財物を交付させたことになるかどうかが問題となり得るが、その口座のキャッシュカードと暗証番号を管理している甲は、これにより50万円を自由に引き出したり送金したりできるようになったので、この時点で財物が交付されたと言ってよい。このような状況下では預金も現金と大差いので、振り込みがあった時点で詐欺罪は既遂に達する。実際にはその3時間後に銀行が預金口座の取引の停止措置を講じたために、甲が50万円を自由に処分することができなくなっていたが、それは一度手にした現金の占有を何らかの事情により第三者に奪取されたのと同じであり、詐欺罪の成否に消長をきたさない。不法領得の意思や財産的損害に欠けるところもない。
  以上より、甲には、詐欺罪が成立する。
 3.結論
  以上より、甲には、窃盗罪の未遂と詐欺罪が成立し、これらは併合罪(45条)となる。前者はD銀行の占有の侵害、後者はVの財産に対する侵害と保護法益が異なっているので、併合罪とすることに問題はない。
第3 乙の罪責
 ここまでに検討してきた丙及び甲の罪について、乙にはその故意が欠けていたので、共同正犯(60条)にならないのはもちろん、教唆(61条)や幇助(62条)にもならない。
 乙は問題文1に示されたような犯行を甲と共同して繰り返しており、ここまでに検討してきた丙及び甲の罪について錯誤はあっても故意は否定されないのではないかという疑問が生じるかもしれないが、後者は前者と異なり、乙に無断で、甲が自分で準備した他人名義の預金口座に上記同様の手段で現金を振り込ませて、その全額を自分のものにしようと計画したものであるので、乙の部屋や携帯電話こそ用いているものの、別個の犯罪である。
 以上より、乙には、問題文で指定された行為につき何らの犯罪も成立しない。

以上

 

 

感想

練習答案では記述が不正確だったり足りなかったりした部分があったので、修正答案ではそれらを補いました。出題趣旨で求められている論理的一貫性は保たれていると思います。

 



平成25年司法試験予備試験論文(行政法)答案練習

問題

 A市は,景観法(以下「法」という。)に基づく事務を処理する地方公共団体(景観行政団体)であり,市の全域について景観計画(以下「本件計画」という。)を定めている。本件計画には,A市の臨海部の建築物に係る形態意匠の制限として,「水域に面した外壁の幅は,原則として50メートル以内とし,外壁による圧迫感の軽減を図る。」と定められている。事業者Bは,A市の臨海部に,水域に面した外壁の幅が70メートルのマンション(以下「本件マンション」という。)を建築する計画を立て,2013年7月10日に,A市長に対し法第16条第1項による届出を行った。本件マンションの建築は,法第17条第1項にいう特定届出対象行為にも該当する。しかし,本件マンションの建築予定地の隣に建っているマンションに居住するCは,本件マンションの建築は本件計画に違反し良好な景観を破壊するものと考えた。Cは,本件マンションの建築を本件計画に適合させるためには,水域に面した外壁の幅が50メートル以内になるように本件マンションの設計を変更させることが不可欠であると考え,法及び行政事件訴訟法による法的手段を採ることができないか,弁護士Dに相談した。Cから同月14日の時点で相談を受けたDの立場に立って,以下の設問に解答しなさい。
 なお,法の抜粋を資料として掲げるので,適宜参照しなさい。

 

〔設問1〕
 Cが,本件計画に適合するように本件マンションの設計を変更させるという目的を実現するには,法及び行政事件訴訟法によりどのような法的手段を採ることが必要か。法的手段を具体的に示すとともに,当該法的手段を採ることが必要な理由を,これらの法律の定めを踏まえて説明しなさい。

 

〔設問2〕
 〔設問1〕の法的手段について,法及び行政事件訴訟法を適用する上で問題となる論点のうち,訴訟要件の論点に絞って検討しなさい。

 

【資料】景観法(平成16年法律第110号)(抜粋)
(目的)
第1条 この法律は,我が国の都市,農山漁村等における良好な景観の形成を促進するため,景観計画の策定その他の施策を総合的に講ずることにより,美しく風格のある国土の形成,潤いのある豊かな生活環境の創造及び個性的で活力ある地域社会の実現を図り,もって国民生活の向上並びに国民経済及び地域社会の健全な発展に寄与することを目的とする。
(基本理念)
第2条 良好な景観は,美しく風格のある国土の形成と潤いのある豊かな生活環境の創造に不可欠なものであることにかんがみ,国民共通の資産として,現在及び将来の国民がその恵沢を享受できるよう,その整備及び保全が図られなければならない。
2~5 (略)
(住民の責務)
第6条 住民は,基本理念にのっとり,良好な景観の形成に関する理解を深め,良好な景観の形成に積極的な役割を果たすよう努めるとともに,国又は地方公共団体が実施する良好な景観の形成に関する施策に協力しなければならない。
(景観計画)
第8条 景観行政団体は,都市,農山漁村その他市街地又は集落を形成している地域及びこれと一体となって景観を形成している地域における次の各号のいずれかに該当する土地(中略)の区域について,良好な景観の形成に関する計画(以下「景観計画」という。)を定めることができる。
一~五 (略)
2~11 (略)
(届出及び勧告等)
第16条 景観計画区域内において,次に掲げる行為をしようとする者は,あらかじめ,(中略)行為の種類,場所,設計又は施行方法,着手予定日その他国土交通省令で定める事項を景観行政団体の長に届け出なければならない。
一 建築物の新築(以下略)
二~四 (略)
2~7 (略)
(変更命令等)
第17条 景観行政団体の長は,良好な景観の形成のために必要があると認めるときは,特定届出対象行為(前条第1項第1号又は第2号の届出を要する行為のうち,当該景観行政団体の条例で定めるものをいう。(中略))について,景観計画に定められた建築物又は工作物の形態意匠の制限に適合しないものをしようとする者又はした者に対し,当該制限に適合させるため必要な限度において,当該行為に関し設計の変更その他の必要な措置をとることを命ずることができる。(以下略)
2 前項の処分は,前条第1項又は第2項の届出をした者に対しては,当該届出があった日から30日以内に限り,することができる。
3~9 (略)

 

練習答案

以下行政事件訴訟法についてはその条数のみを示す。

 

[設問1]
 Cが、本件計画に適合するように本件マンションの設計を変更させるという目的を実現するには、A市長に、景観法17条1項に基づいて、Bが行った本件特定届出対象行為に関し設計の変更その他の必要な措置をとることを命じてもらえばよい。Cが求めている変更は水域に面した外壁の幅が50メートル以内になるようにするというものであり、本件景観計画の制限に適合させるものであるので、景観法17条1項の要件を満たしている。
 そのために、Cは、A市長を被告として、上記景観法17条1項に基づく命令という処分(この命令はA市長が公権力の行使として私人Bに義務を負わせるものなので処分である)をすべき旨を命ずることを求める義務付けの訴え(3条6項1号)を提起することが必要となる。
 さらに、上記訴訟が確定する前にBが本件マンションを建築してしまうことを防ぐために、仮の義務付けの訴え(37条の5第1項)の活用も検討すべきである。

 

[設問2]
第1 原告適格
 3条6項1号の義務付けの訴えは、行政庁が一定の処分をすべき旨を命ずることを求めるにつき法律上の利益を有する者に限り、提起することができる(37条の2第3項)。そしてその法律上の利益の有無の判断については、9条2項の規定が準用される(37条の2第4項)。つまり、処分の相手方以外の者について法律上の利益の有無を判断するに当たっては、当該処分の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び性質を考慮するものとする(9条2項)。
 Cが求める処分は景観法17条1項に基づく命令なので、景観法について検討する。同法では地域の良好な景観や健全な発展がその目的とされている(景観法1条)が、それ以上に特定の者の個別的利益を保護するという趣旨は読み取れない。現に景観計画はA市全域に及んでいるほどである。
 以上より、本件マンションの建築予定地の隣に建っているマンションに居住するCは、[設問1]で述べた義務付けの訴えに関して、法律上の利益を有さず、原告適格が否定される。
第2 重大な損害と補充性
 3条6項1号の義務付けの訴えは、一定の処分がされないことにより重大な損害を生ずるおそれがあり、かつ、その損害を避けるため他に適当な方法がないときに限り、提起することができる(37条の2第1項)。裁判所がその重大な損害を生ずるか否かを判断するに当たっては、損害の回復の困難の程度を考慮するものとし、損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質をも勘案するものとする(37条の2第2項)。
 Cが求める景観法17条1項の処分がなされないと、景観を害するマンションが建築されてしまい、それを取り壊して景観を回復させるのは極めて困難である。景観を害される損害の程度をどう捉えるかには個人差があるだろうが、事後的に金銭賠償することになじまない性質のものである。処分の内容は損害を避けるために適切であり、計画段階で少しの修正を命じられてもBが受ける不利益は比較的小さい。他の方法としてBを被告とする民事訴訟も考えられなくはないが、義務付けの訴えのほうが景観法にぴったりとはまるので適当であり、他に適切な方法がないと言ってよい。
 以上より、重大な損害及び補充性の要件は満たされる。
第3 出訴期間
 3条6項1号の義務付けの訴えに出訴期間は定められていないので問題ない。処分の根拠となる景観法17条2項には、「前項の処分は、前条第1項又は第2項の届出をした者に対しては、当該届出があった日から30日以内に限り、することができる」とあるが、その届出があったのは2013年7月10日で、現在は同月14日と30日以内なので、その点も問題ない。

以上

 

修正答案

以下行政事件訴訟法についてはその条数のみを示す。

[設問1]
 Cが、本件計画に適合するように本件マンションの設計を変更させるという目的を実現するには、A市長に、景観法17条1項に基づいて、Bが行った本件特定届出対象行為に関し設計の変更その他の必要な措置をとることを命じてもらう必要がある。景観法では、景観法第16条第1項による届出は文字通り届出であって、届出により効力が発生するため、景観法17条1項の命令でその届出の不備を是正するという仕組みになっている。Cが求めている変更は水域に面した外壁の幅が50メートル以内になるようにするというものであり、本件景観計画の制限に適合させるものであるので、景観法17条1項の要件を満たしている。
 そのために、Cは、上記景観法17条1項に基づく命令という処分(この命令はA市長が公権力の行使として私人Bに義務を負わせるものなので処分である)をすべき旨を命ずることを求める義務付けの訴え(3条6項1号)を提起することが必要となる。具体的には、A市を被告として(38条1項、11条1項1号)、「被告の長は、Bに対し、『水域に面した外壁の幅が50メートル以内になるように本件マンションの設計を変更せよ』と命ぜよ」という請求の趣旨を立てることになる。
 景観法17条2項には、「前項の処分は、前条第1項又は第2項の届出をした者に対しては、当該届出があった日から30日以内に限り、することができる」とあるが、その届出があったのは2013年7月10日で、現在は同月14日と30日以内なので、観法17条1項に基づく命令を現時点ではすることができるが、30日が経過してそれができなくなることを防ぐために、仮の義務付けの訴え(37条の5第1項)もあわせて提起することが必要となる。

 

[設問2]
第1 重大な損害と補充性
 3条6項1号の義務付けの訴えは、一定の処分がされないことにより重大な損害を生ずるおそれがあり、かつ、その損害を避けるため他に適当な方法がないときに限り、提起することができる(37条の2第1項)。裁判所がその重大な損害を生ずるか否かを判断するに当たっては、損害の回復の困難の程度を考慮するものとし、損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質をも勘案するものとする(37条の2第2項)。
 Cが求める景観法17条1項の処分がなされないと、景観を害するマンションが建築されてしまい、それを取り壊して景観を回復させるのは極めて困難である。景観を害される損害の程度をどう捉えるかには個人差があるだろうが、事後的に金銭賠償することになじまない性質のものである。処分の内容は、水域に面した外壁の幅が70メートルから50メートル以内になるように本件マンションの設計を変更することを命じるというものであり、損害を避けるために適切であり、計画段階での修正であるのでBが受ける不利益は比較的小さい。他の方法としてBを被告とした本件マンション建設の差止めを求める民事訴訟も考えられなくはないが、景観法を適用できるのは義務付けの訴えのみであるため、これが適当であり、他に適切な方法がないと言ってよい。
 以上より、重大な損害及び補充性の要件は満たされる。
第2 原告適格
 3条6項1号の義務付けの訴えは、行政庁が一定の処分をすべき旨を命ずることを求めるにつき法律上の利益を有する者に限り、提起することができる(37条の2第3項)。そしてその法律上の利益の有無の判断については、9条2項の規定が準用される(37条の2第4項)。つまり、処分の相手方以外の者について法律上の利益の有無を判断するに当たっては、当該処分の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び性質を考慮するものとする(9条2項)。
 処分の相手方以外の者であるCが求める処分は景観法17条1項に基づく命令なので、景観法について検討する。同法では地域の良好な景観や健全な発展がその目的とされている(景観法1条)が、それ以上に特定の者の個別的利益を保護するという趣旨は読み取れない。現に景観計画はA市全域に及んでいるほどである。景観法は一般的公益を保護しているに過ぎないのである。
 以上より、本件マンションの建築予定地の隣に建っているマンションに居住するCは、[設問1]で述べた義務付けの訴えに関して、法律上の利益を有さず、原告適格が否定される。
第3 結論
 以上より、Cは、原告適格が否定されるので、[設問1]で述べた義務付けの訴えを提起することができない。

以上

 

 

感想

練習答案では、仮の義務付けと被告適格の部分をミスしました。あとはまずまずできたと思います。

 



平成25年司法試験予備試験論文(憲法)答案練習

問題

 202*年時点では,衆議院小選挙区選出議員における,いわゆる「世襲」議員の数が増加する傾向にある。「世襲」議員とは,例えば,国会議員が引退する際に,その子が親と同一の選挙区から立候補して当選した場合の当選議員をいう。「世襲」議員には,立候補時において,一般の新人候補者に比べて,後援会組織,選挙資金,知名度等のメリットがあると言われている。このような「世襲」議員については賛否両論があるが,政党A及び政党Bでは,世論の動向も踏まえて何らかの対応策を採ることとし,立候補が制限される世襲の範囲や対象となる選挙区の範囲等について検討が行われた。その結果,政党Aから甲案が,政党Bから乙案が,それぞれ法律案として国会に提出された。
 甲乙各法律案の内容は,以下のとおりである。
  (甲案)政党は,その政党に所属する衆議院議員の配偶者及び三親等内の親族が,次の衆議院議員選挙において,当該議員が選出されている小選挙区及びその小選挙区を含む都道府県内の他の小選挙区から立候補する場合は,その者を当該政党の公認候補とすることができない。
  (乙案)衆議院議員の配偶者及び三親等内の親族は,次の衆議院議員選挙において,当該議員が選出されている小選挙区及びその小選挙区を含む都道府県内の他の小選挙区から立候補することができない。

 政党Cに所属する衆議院議員Dは,次の衆議院議員選挙では自らは引退した上で,長男を政党Cの公認候補として出馬させようとして,その準備を着々と進めている。Dは,甲案及び乙案のいずれにも反対である。Dは,甲案にも乙案にも憲法上の問題があると考えている。

 

〔設 問〕
Dの立場からの憲法上の主張とこれに対して想定される反論との対立点を明確にしつつ,あなた自身の見解を述べなさい。

 

練習答案

以下日本国憲法についてはその条数のみを示す。

 

第1 Dの主張
 1 平等権
  すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない(14条1項)。
  衆議院議員の配偶者及び三親等内の親族というのは門地である。仮に門地でないとしても14条1項の保障する範囲内であることは明らかである。それにより衆議院議員選挙において一定の小選挙区から立候補できないということは大きな政治的差別であり、経済的又は社会的関係における差別である。衆議院議員は政治に携わるための最有力の道であり、職業として収入も得られ、社会的な影響力も大きいからである。
  以上より、甲案も乙案も平等権を侵害し違憲である。
 2 衆議院議員に立候補する権利
  衆議院議員に立候補する権利(以下「本件権利」とする)は明文で規定されていないものの、憲法で保障されている。まず、公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である(15条1項)。より具体的には、国会は、衆議院及び参議院の両議院でこれを構成し(42条)、両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織し(43条1項)、両議院の議員及びその選挙人の資格は、法律でこれを定める、但し、人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によって差別してはならない(44条)からである。
  このように本件権利は憲法上保障されているところ、甲案も乙案もそれを侵害しているので違憲である。
第2 想定される反論
 1 平等権
  平等権は機械的、画一的に保障されるものではなく、合理的な区別はむしろ実質的な平等に資するものとして許される。
  「世襲」議員が増加しているということは、後援会組織、選挙資金、知名度等で劣る「世襲」でない人が差別されている状態であり、それを是正して実質的な平等を志向する甲案、乙案とも合憲である。
 2 本件権利
  両議院の議員及びその選挙人の資格は、法律でこれを定める(44条)のであって、現に25歳以上でなければ衆議院議員の被選挙権がなく(公職選挙法10条1項1号)、一定の犯罪をした者もそうである(公職選挙法11条、11条の2)。
  このように、法律によって本件権利を制約することも可能である。
第3 私自身の見解
 1 平等権
  合理的な区別であれば許されるというのは想定される反論の通りなので、合理的な区別かどうかを検討する。ただし、Dが主張するように14条1項に列挙された項目によるものなので、合理性は厳格に判定されなければならない。
  想定される反論が主張するように、甲案、乙案ともにかなりの合理性を有している。加えて、衆議院議員になるための実質的な平等という目的のためには、他のより制限的でない方法は思い当たらない。そして両案とも世論を背景として国会に提出されたという手続的な正当性も有している。
  以上より、甲案、乙案とも違憲ではない。
 2 本件権利
  本件権利は民主主義の根幹をなす重大な権利である。よって法律でその権利を制約できるとしても、その制約は最小限でなければならない。
  想定される反論が挙げる年齢制限については被選挙権については求められる熟慮も大きくなるので選挙権よりも少しだけ厳しい制限を課すというのは最小限度であるし、一定の犯罪も選挙の公正を保つのに最小限度となるように慎重に規定されている。
  甲案、乙案とも立候補が禁止されるのは1回の選挙だけであり、しかも1つの都道府県の小選挙区に限定されている。さらに甲案では当該政党の公認候補とすることができないだけで、他の政党からや無所属でなら立候補できる。
  「世襲」議員は当選しやすいのである種の不正な選挙に近いと考えれば甲案は最小限度の制約として許容されるが、不正そのものではないので乙案の制約は広すぎる。
  以上より、甲案は合憲であるが、乙案は違憲であると私は考える。

以上

 

修正答案

以下日本国憲法についてはその条数のみを示す。

第1 Dの主張
 1 平等権
  すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない(14条1項)。
  衆議院議員の配偶者及び三親等内の親族というのは社会的身分又は門地である。それにより衆議院議員選挙において一定の小選挙区から立候補できないということは大きな政治的差別であり、経済的又は社会的関係における差別である。衆議院議員は政治に携わるための最有力の道であり、職業として収入も得られ、社会的な影響力も大きいからである。
  以上より、甲案も乙案も平等権を侵害し違憲である。
 2 衆議院議員に立候補する権利
  衆議院議員に立候補する権利(以下「本件権利」とする)は明文で規定されていないものの、憲法で保障されている。まず、公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である(15条1項)。より具体的には、国会は、衆議院及び参議院の両議院でこれを構成し(42条)、両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織し(43条1項)、両議院の議員及びその選挙人の資格は、法律でこれを定める、但し、人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によって差別してはならない(44条)からである。
  このように本件権利は憲法上保障されているところ、甲案も乙案もそれを侵害しているので違憲である。
第2 想定される反論
 1 平等権
  平等権は機械的、画一的に保障されるものではなく、合理的な区別はむしろ実質的な平等に資するものとして許される。
  「世襲」議員が増加しているということは、後援会組織、選挙資金、知名度等で劣る「世襲」でない人が差別されている状態であり、それを是正して実質的な平等を志向する甲案、乙案とも合憲である。
 2 本件権利
  両議院の議員及びその選挙人の資格は、法律でこれを定める(44条)のであって、現に25歳以上でなければ衆議院議員の被選挙権がなく(公職選挙法10条1項1号)、一定の犯罪をした者もそうである(公職選挙法11条、11条の2)。
  このように、法律によって本件権利を制約することも可能である。
第3 私自身の見解
 1 平等権
  合理的な区別であれば許されるというのは想定される反論の通りなので、合理的な区別かどうかを検討する。ただし、Dが主張するように14条1項に列挙された項目によるものなので、合理性は厳格に判定されなければならない。
  想定される反論が主張するように、甲案、乙案ともにかなりの合理性を有している。加えて、衆議院議員になるための実質的な平等という目的のためには、他のより制限的でない方法は思い当たらない。そして両案とも世論を背景として国会に提出されたという手続的な正当性も有している。
  以上より、甲案、乙案とも違憲ではない。
 2 本件権利
  本件権利は民主主義の根幹をなす重大な権利である。よって法律でその権利を制約できるとしても、その制約は最小限でなければならない。
  想定される反論が挙げる年齢制限については被選挙権については求められる熟慮も大きくなるので選挙権よりも少しだけ厳しい制限を課すというのは最小限度であるし、一定の犯罪も選挙の公正を保つのに最小限度となるように慎重に規定されている。
  甲案、乙案とも立候補が禁止されるのは1回の選挙だけであり、しかも1つの都道府県の小選挙区に限定されている。さらに甲案では当該政党の公認候補とすることができないだけで、他の政党からや無所属でなら立候補できる。
  「世襲」議員は当選しやすいのである種の不正な選挙に近いと考えれば甲案は最小限度の制約として許容される。しかし、「世襲」議員は不正そのものではなく、政党の公認候補になれないとするだけでも「世襲」議員に対する不公平感もかなりの程度払拭できるので、他の政党所属や無所属となっても立候補できないとする乙案の制約は広すぎる。
  甲案については、政党がその公認候補を自由に選定・決定するという政党の自律権を侵害するという反論もあり得るが、政党の自律権といえども選挙の公正を守るための法律の規制には服さなければならないので、甲案は合憲である。
  以上より、甲案は合憲であるが、乙案は違憲であると私は考える。

以上

 

 

感想

最後のほうは時間切れで無理矢理まとめましたが、時間を計って手書きで書いた練習答案もそれなりの評価になると信じたいです。というよりも、時間をかけてもそれ以上の記述があまり思いつきませんでした。自分の中で理解があまりすっきりしていません。

 




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