浅野直樹の学習日記

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平成29(2017)年司法試験予備試験論文再現答案法律実務科目(民事)

再現答案

以下民事訴訟法については条数のみを示す。

〔設問1〕
 (1)
 占有移転禁止の仮処分(民事保全法23条1項)である。このような手段を講じなかった場合には、本件壺がY以外の者に引き渡されたときに、本件訴訟で勝訴したとしても執行できなくなってしまう。
 (2)
 本件壺の所有権に基づく返還請求権。
 (3)
 ① Aは、平成27年3月5日、本件壺を所有していた。
 ② Bは、平成28年5月1日、Xに対し、本件壺を代金150万円で売った。
 ③ Yは、本件壺を占有している。
 (4)
 弁護士Pが検討したと考えられる主張の内容は、即時取得(民法192条)である。これを主張するためには、(ア)Bが本件壺を占有していた、(イ)Xが(ア)に基づき本件壺の占有を始めたことを主張することになる。(ア)は取引行為によることを示すために必要である。民法186条1項により、平穏かつ公然が推定される。(イ)により取引行為に基づき占有を始めたことが示される。民法186条1項により善意が推定され、民法188条よりBの占有が適法だと推定される結果Xの無過失が基礎づけられる。以上より即時取得を主張できそうに見えるが、占有の開始は占有改定(民法183条)では足りないとするのが判例の立場である。即時取得は取引の安全のための規定であり、外側から外形的に占有の移転がわからない占有改定は保護に値しないというのがその理由である。(イ)は占有改定であるので、弁護士Pはこの主張を断念した。

〔設問2〕
 (1) 一つは本件壺についてBY間の売買とそれに基づく引き渡しを受けたという抗弁であり、もう一つはB代理人Aとの売買とそれに基づく引き渡しを受けたという抗弁である。
 (2) 弁護士Qが主張しないこととした抗弁は後者である。後者の主張は民法109条の表見代理であると考えられるが、ABは一緒にいたのだから、YはAが代理権を与えられていないことを容易に知ることができたとの再抗弁が想定されるからである。

〔設問3〕
 (1)
 私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する(228条4項)。本件領収書は私文書である。ここでいう署名とは本人の自著による署名のことであり、パソコンとプリンターを使って打ち出された記名は署名に該当しない。押印については、印の種類は問われないが、本人による押印が要求される。本人が所有する印章による押印であれば本人が押印したと推定されるが、本件では押印がBの印章によるものではないと主張されている。よって本人が押印したと推定することはできない。三文判なのでAが買って押すこともできたという事情もある。以上より、本件領収書の形式的証拠力は否定される。文書は、その成立が真正であることを証明しなければならず(228条1項)、そうしなければ形式的証拠力が否定される。
 (2)
 平成28年5月1日と同年6月1日に、XがB宅を訪問したことが、両者の供述から認定できる。一度目の訪問で本件壺を売ってもらうのを断られたのに1か月後にもう一度訪問するというのは不自然である。一度目の訪問では壺を見るだけで、二度目の訪問で壺を売ってもらいたいと言ったというのも不自然である。本件壺を見て欲しくなったとすればすぐにその場で言うだろうし、すぐに言わなかったとしても直後にメールや電話で連絡を取るだろう。Xの主張が自然である。X宅とB宅は電車で行くほどの距離だということを考慮するとやはりそうである。
 平成28年5月1日にXが自分の銀行口座から150万円を引き出したこと及び同年5月2日にBがAに200万円を返済したということは、提出された書証や両者の供述から認定できる。Xがこの150万円を他に使ったということは認められないし、本件壺の代金150万円を現金で支払うことがそれほど不自然というわけではない。成立の真正はともかく領収書が存在するという事情もある。また、Bは自分の父親からお金を借りて返済したと主張するが、これは不自然である。書面が作成されていないし、父親が自宅に200万円も現金を保管していることのほうが不自然だからである。日時の近接性からしても、5月1日にXが銀行口座から引き出した150万円をBが受け取り、それを原資としてAへの借金を返済したと考えるのが自然である。

以上

 

 

感想

〔設問2〕がどうしても思いつかず、時間に負われて無理矢理記述しました。その他の部分はできたつもりです。

 



平成29(2017)年司法試験予備試験論文再現答案一般教養科目

再現答案

〔設問1〕
 本文中において、アリストテレスは、弁証術は論理が厳密だけれども一般的な聴衆に感覚的に訴えかける力が比較的小さいものであり、弁論術は論理が厳密でなくても説得力が感じられるものであると区別している。どちらも結論を導くための議論であるという点では共通している。
 弁証術においては、普遍的な真であることから、論理の飛躍をせずに厳密に推論を重ねるので議論が長くなりがちであり、教養豊かな人には適していても、一般の人たちにとっては退屈に感じられることだろう。弁論術においては、経験的に身近なところからスタートしてもよく、特定の聴き手の見解に沿った結論を導く説得推論で議論が進められる。

〔設問2〕
 弁論術は、未成熟な人を相手にして使用する場合には功が罪を上回るが、成熟した人を相手にして使用する場合には大きな罪となることがある。
 液体が気体になること(気化)を小学生に説明することを例に取って考える。その際には、やかんに水を入れて火にかけると湯気が出てくると説明するのが通例である。この説明には不正確な点も多々あるが、これ以上長くなると子どもたちは退屈して説明を聞かなくなってしまうだろう。他方で化学を専攻する大学院生に同じ説明をするのは有害である。ドライアイス(二酸化炭素)は室温で個体から気体になるし(昇華)、水でも周囲の気圧が低ければ室温で沸とうして気体になる。こうしたことを厳密に考えることで科学が発展してきたのであり、そのおかげで私たちの生活は豊かになった。弁論術に甘んじていては科学は発展しないだろう。
 医療についても同じことが言える。医師が子どもに薬を飲ませるために、ゼリーに薬を混ぜ込んで、「ゼリーを食べればおいしいから元気になるよ」と言うのは方便として許されるだろう。しかし、同じことを大人に対して行うと、医療行為に伴う説明義務を果たしていないということで、非難されてもおかしくない。薬の成分や起こり得る副作用などをきちんと説明すべきである。

以上

 

感想

例年より難しく感じました。〔設問2〕ではパターナリズムとインフォームドコンセントというよくある議論に持ち込みました。

 



平成29(2017)年司法試験予備試験論文再現答案刑事訴訟法

再現答案

以下刑事訴訟法については条数のみを示す。

〔設問1〕
 現に罪を行い、又は現に罪を行い終つた者が現行犯人だとされ(212条1項)、212条2項各号の一にあたる者が、罪を行い終つてから間がないと明らかに認められるときは、これを現行犯人とみなす(準現行犯)とされる(212条2項)。①の逮捕は犯行から約30分後、犯行現場から約2キロメートル離れた場所で行われたので、現行犯逮捕とは言えない。そこで212条2項の準現行犯逮捕の要件を満たすかどうかを検討する。
 Wは犯人を追跡したが、甲が発見されたのはWが犯人を見失ってから約30分後のことであり、犯人として追呼されているとき(212条2項1号)には当たらない。甲はWから聴取していた犯人の特徴と合致するとしてもやはり当たらない。罪を行い終つてから間がないと明らかには認められないからである。甲は兇器を所持していなかったので、同項2号にも当たらない。身体又は被服に犯罪の顕著な証跡もなかったので、同項3号にも当たらない。誰何されて逃走しようともしていないので、同項4号にも当たらない。以上より、①の現行犯逮捕は違法である。甲は職務質問に対して犯行を認めているのだから、そのまま聴取を続けて、逮捕状により逮捕すべきであった。

〔設問2〕
 
 公訴事実は、訴因を明示してこれを記載しなければならず、訴因を明示するには、できる限り日時、場所及び方法を以て罪となるべき事実を特定してこれをしなければならない(256条3項)。これは裁判所に対して審判範囲を画定することと、被告人に対して防御のポイントを示すことが目的である。前者が第一義的な目的である。
 ②の公訴事実は、甲の実行行為については十分に事実が特定されていると言えるが、乙にとっては「甲と共謀の上」としか記載されていないのでこれで訴因が明示されているかが問題となる。しかしながら、検察官は共謀の詳細を把握していないかもしれず、これでできる限り事実を特定していると言えるので、訴因の記載として罪となるべき事実を特定したものといえる。裁判所にとっては審判範囲が明確だからである。被告人の防御に関しては、裁判が進むにつれてポイントが絞られてくるはずなので、そのときに被告人の防御権を尊重すればよい。
 
 1で述べたように、②の公訴事実は訴因の記載として罪となるべき事実を特定したものといえる。よって、③の検察官の釈明した事項が訴因の内容とはならないと考えられる。このように釈明したとしても、裁判所の審判範囲は変わらないからである。そのような細かいことで訴因の変更を要するとすれば手続きがあまりにも繁雑になる。
 
 2で述べたように、③の検察官の釈明した事項が訴因の内容とならないとしても、それとは別に被告人の防御権を尊重する必要がある。乙としては、平成29年5月18日のアリバイを証明したのに、同年5月11日の共謀を認定されると、不意打ちだと感じるだろう。乙としては同年5月11日のアリバイも主張できたかもしれない。例えば乙が甲方に平成29年5月17日から18日まで泊まっていたとして、その際に5月18日ではなく17日の共謀を認定することは許されるとしても、5月18日と5月11日とでは7日も違うので、別の機会である。以上より、「乙は、甲との間で、平成29年5月11日、甲方において、Vを殺害する旨の謀議を遂げた。」と認定して有罪の判決をすることは許されない。

以上

感想

論点は見えていたかなと思います。国語的に慎重に問いに答えることを意識して、緊急逮捕の適否や上訴については触れませんでした。

 



平成29(2017)年司法試験予備試験論文再現答案刑法

再現答案

以下刑法については条数のみを示す。

第1 甲の罪責
 (1) 劇薬Xを混入したワインを送付した行為
 殺人罪(199条)について検討する。甲は劇薬Xを8ミリリットル混入したワインを自宅近くのコンビニエンスストアからV宅宛てに宅配便で送った。これをVが数時間で全部飲み、Vが死亡したとすれば、殺人罪が成立する。故意に欠ける部分もないし、違法性を阻却する事由もない。
 実際にはVはこのワインを飲まず死亡しなかった。そこで殺人未遂罪(203条)の成否を検討する。未遂とは、犯罪の実行に着手したがその犯罪を遂げなかった場合のことである。実行の着手は、犯罪の結果の危険性が生じたときにあったと判断する。本件において、劇薬Xを混入したワインを送付した行為は、実行に着手したと言える。というのも、宅配便で送れば業者がまず間違いなく宛先に届けるし、甲からワインが届けばVは数時間でワイン1本を一人で飲み切り、そうすればV死亡の危険があったと認められるからである。こうした事情は客観的事実であり、甲が認識していた事実でもある。よって甲には殺人未遂罪が成立する。なお、殺人未遂罪が成立する前のどこかの時点で殺人予備罪(201条)が成立するが、これは殺人未遂罪に吸収されるので、そのことを論じる実益はない。
 (2) 乙をして劇薬YをVに注射させた行為
 (1)と同様に殺人罪を検討する。劇薬Yが6ミリリットル入った注射をすることによりVが死亡している。しかしこの注射を直接したのは乙であり、甲の罪責となるかが問題となる。人を道具として用いた場合には間接正犯として犯罪が成立する。人ではない道具を用いた場合と区別する必要がないからである。甲は、乙は自分に恩義を感じていて自分の指示に忠実に従うと思って注射を指示しているので、乙を道具として用いている。乙は容器に薬剤名の記載がないことに気づいたにもかかわらず、その中身を確認しないままVに劇薬Yを注射した点において過失があったとのことであるが、それでも道具性は失われていない。というのも、乙の過失は確認をしないという不作為であり、自分の意思で積極的な行動をしたわけではないからである。よって甲には間接正犯として殺人罪が成立する。
 (3)結論
 以上より、甲には、殺人未遂罪と殺人罪が成立し、これらは併合罪(47条)となる。これらはどちらもVの生命を保護法益にしているが、別個の機会の別個の行為なので、併合罪となる。

第2 乙の罪責
 (1) 劇薬YをVに注射した行為
 業務上過失致死罪(211条)を検討する。「業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた」ことがその構成要件である。ここでいう「業務」とは「社会生活上反復・継続して行う行為で、人の生命に危険をもたらすおそれのあるもの」である。
 乙は医師であり、Vに注射をした行為は、上記の業務上だと言える。Vの死の結果について刑事上の過失があったとのことなので、乙には業務上過失致死罪が成立する。
 (2) 虚偽の死因を死亡診断書に記載してC市役所に提出した行為
 虚偽診断書等作成罪(160条)及び同行使罪(161条1項)を検討する。構成要件はそれぞれ「医師が公務所に提出すべき診断書、検案書又は死亡証書に虚偽の記載をした」ことと、「前二条の文書……を行使した」ことである。
 乙は医師である。死亡診断書は公務所に提出すべき死亡証書である。乙はそこに虚偽の死因を記載している。よって乙には虚偽診断書等作成罪が成立する。そしてこれをC市役所に提出しているので、同行使罪も成立する。乙はこれを専ら甲のためにしたとのことであるが、そのために乙に犯罪が成立しないということはないし、犯罪に何ら関わっていない甲が罪に問われるということもない。
 (3)結論
 以上より、乙には、業務上過失致死罪、虚偽診断書等作成罪、同行使罪が成立し、後二者と前者とは併合罪(47条)となる。後二者はけん連犯である。

第3 共犯関係
 甲と乙との間には、犯罪について意思連絡がなかったので、共犯は成立しない。

以上

 

感想

死亡診断書をC市役所に提出したのはDだという事情に触れるのを飛ばしていました。その他の事情は拾ったつもりですが、これまでの受験では刑法に関して手応えと結果があまり一致しなかったので、記述が下手なのではないかとおそれています。

 

 



平成29(2017)年司法試験予備試験論文再現答案行政法

再現答案

以下行政事件訴訟法についてはその条数のみを記す。

〔設問1〕
 本件申請の根拠となっている廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「法」という。)15条の2の文言は、「許可の申請が次の各号のいずれにも適合していると認めるときでなければ、同項の許可をしてはならない」となっていて、「許可の申請が次の各号のいずれにも適合している認めるときは、同項の許可をしなければならない」ではないので、甲県知事Bには許可に関して裁量がある。
 その許可申請があれば、申請年月日や縦覧場所などを告示し、当該告示の日から1月間公衆の縦覧に供しなければならない(法15条4項)。そしてその縦覧期間終了の日の翌日から起算して2週間を経過する日までに、意見書を提出することができる(法15条6項)。本件においては、その意見書が提出されている。このように法に定められているのだから、この時点で許可の留保が違法となることはない。
 意見書の提出が予定されているということは、意見書の提出後に調整を行うことも当然に予定されている。その調整は、行政指導(行政手続法(以下「行手法」という。)第4章)で行うのが適切であり、本件でもそうされている。Aはしばらくの間その行政指導に任意で従っていて、その間は許可の留保が違法とはならない。
 しかし、Aは、行政指導にはこれ以上応じられないので直ちに本件申請に対して許可をするように求める旨の内容証明郵便を送付した。申請の取下げ又は内容の変更を求める行政指導にあっては、行政指導に携わる者は、申請者が当該行政指導に従う意思がない旨を表明したにもかかわらず当該行政指導を継続すること等により当該申請者の権利の行使を妨げるようなことをしてはならない(行手法33条)。本件の行政指導は、申請の内容の変更を求める行政指導である。甲県知事Bは行政指導に携わる者である。上記のようにAは当該行政指導に従う意思がない旨を表明した。よって、当該行政指導を継続すること等により当該申請者の権利の行使を妨げるようなことをしてはならなくなるので、この時点から許可の留保は違法となる。
 甲県としては、許可に関して裁量があるのだから、違法にはならないと反論するだろう。しかし行政指導に従わないことを考慮することは、行手法33条の規定を無に帰すこととなるので、他事考慮であり違法である。また、Aは内容証明郵便送付後も任意で行政指導に従っているではないかとの反論も考えられるが、内容証明郵便を送付するということは通常真しな意思の表示であるので、やはりこの時点から違法になる。

〔設問2〕
 C1及びC2は処分の直接の名あて人ではないので、9条2項に従って原告適格が判断される。これは、当該法令及び関係法令を参酌して、個別的な法律上の利益が保護されているのか、それとも一般公益に含まれるに過ぎないのかを判断するという趣旨である。
 当該法令である法の目的は、生活環境の保全及び公衆衛生の向上である(法1条)。これだけでは漠然としていてはっきりとしないので、廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行規則(以下「規則」という。)を参酌する。これは法の細部を規定するものであり、関係法令である。法15条3項の書類には、地下水について記載しなければならない(規則11条の2第1号)。C2の居住地は法15条3項の調査の対象内であり、その調査書類には地下水のことが書かれているはずである。そして仮に地下水に有害物質が混入すれば、地下水を飲用しているC2は生命や身体に危険が生じる。よってC2の利益は保護されるべき法律上の利益であると言えるので、原告適格が認められる。他方でC1の居住地はこの調査の対象外であり、C2は地下水を飲用しておらずぶどう栽培に使用しているだけなので、有害物質が混入したとしてもせいぜいが財産的な被害である。よってC1に原告適格は認められない。以上は地下水について述べたが、大気質でも同様である。よって①及び②の事実を前提としても結論は変わらない。つまり、法15条3項の調査の対象内であるかどうかと、危険にさられるのが生命・身体なのか財産なのかということが判断の分かれ目となる。

以上

 

感想

〔設問1〕はまずまずできたのではないかと思っています。〔設問2〕では問題文中の①と②を誤解していたために地下水で記述していたのですが、最後のほうで誤解に気づいたので無理矢理記述を追加してまとめました。

 




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