浅野直樹の学習日記

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平成30(2018)年司法試験予備試験論文再現答案刑法

第1 甲の罪責
 1.横領の罪
 甲がVから預かった500万円を横領したと言えるかどうかについて検討する。
  ①業務性
   業務上横領罪(253条)の業務とは、人が社会生活上繰り返して行うことのことである。投資会社の事業資金として甲がVから500万円を受け取ったのは一回限りのことなので、業務ではない。
  ②自己の占有する他人の物
   現金が「自己の占有する他人の物」に該当するかどうかは問題となり得る。現金には個性がなく、量的な価値を表したものだからである。とはいえ、使途が指定され、自己の有する現金と交じらないようにしていれば、自己の占有する他人の物に当たる。本件では、投資会社の事業資金というように使途が定められ、専用口座に保管されていたので、自己の占有する他人の物に当たる。現代においては、預金も現金と同視してよい。
  ③横領した
   横領したというためには、所有者でなければできないような処分をして不法領得の意思を発現させなければならない。自己の借入金の返済として乙に現金500万円を手渡すことは、所有者でなければできないような処分なので、XはVから預かった500万円を横領したと言える。
  ④結論
   以上より、甲は、Vから預かった500万円につき、横領罪(252条1項)が成立する。
 2.詐欺の罪
 甲がA銀行B支店にて500万円を引き出したことにつき、詐欺罪の成否を検討する。
 詐欺罪(246条1項)の成立には、欺罔→錯誤→それに基づく交付→財産的損害という一連の流れが必要である。甲は「証書を紛失してしまった」と欺罔している。そしてCが錯誤に陥り、現金500万円を甲に渡しているので、一見詐欺罪が成立するかのようにも思える。しかしCがおちいった錯誤は「証書を紛失してしまった」ことと「証書を別の人の預けた」こととの錯誤であって、その錯誤がなかったとしても、所定の手続きに従って甲に500万円を交付していたと思われる。よって詐欺罪は成立しない。
 3.強盗の罪
 V方を訪れたことに関して、強盗の罪の成否を検討する。
  ①暴行又は脅迫を用いて
   強盗罪の暴行又は脅迫を用いてとは、一般人の反抗を抑圧するに足りる暴行又は脅迫のことである。本件において甲はサバイバルナイフを手に持ってVの目の前に示しながら500万円を放棄する念書を書けと迫っている。これは一般人の反抗を抑圧するに足りる脅迫である。
  ②財産上不法の利益を得
   甲はVに対して500万円を返済するという債務を負っており、それを消滅させることは、財産上不法の利益を得たと言える。
  ③他人の財物を強取(共犯からの離脱)
   後述するように、上記の2項強盗は甲と乙との共犯であり、Vの10万円に関して乙には1項強盗罪が成立する。そもそも共犯が処罰されるのは、犯罪を共同することにより犯罪の実現が物理的・心理的に容易になるからである。そこで、共犯からの離脱は、そうした容易さが消滅しているかどうかで判断する。本件において、甲は乙の手を引いてV方から外へ連れ出し、サバイバルナイフを取り上げて立ち去った。また、某年9月1日の謀議でもVから10万円を奪うという話は出ておらず、同月5日にV方を訪問した際にも乙が一方的に10万円払えと言っているだけで、甲はそれに同意もしていない。こうした事情から、乙がVから10万円を強取ことに関して、甲による物理的・心理的な容易さは消滅しているので、甲は共犯から離脱しており、1項強盗罪は成立しない。Vが恐怖のあまり身動きできないでいたのは結果的にそうなっていただけである。
 4.結論
  以上より、甲には横領罪(252条1項)と強盗罪(236条2項)が成立し、これらは併合罪(45条)となる。これらはVの500万円という同一の法益の侵害であるが、1か月以上の間があり、また犯罪の態様も異なるので、併合罪である。

第2 乙の罪責
 1.2項強盗罪
  二人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯とする(60条)。共同して犯罪を実行したと言えるためには、共同で犯罪を実行することの意思連絡が必要である。甲と乙は某年9月1日に、V方に押し掛けて脅して500万円の債権を放棄させるという謀議をなした。そして実際に同年9月5日に共同して犯罪を実行している。2項強盗罪が成立することについては、「他人にこれを得させた」という点が異なるほかは、先ほど甲について述べたとの同様である。
 2.1項強盗罪
  暴行又は脅迫を用いての意味は先述の通りである。自分がすでに一般人の反抗を抑圧するに足りる暴行・脅迫をした後では、その状態を利用するだけで、暴行又は脅迫を用いたことになると考える。本件では、乙が甲とともにそうした脅迫をした後で、その状態を利用して乙がV所有の財布から10万円を抜き取って立ち去った。以上より、乙には1項強盗罪も成立する。
 3.結論
  以上より、乙には、236条1項の強盗罪と2項の強盗罪が成立し、これらは併合罪となる。自然的社会的に観察して1個の行為とは言えないので、これでよい。

以上



平成30(2018)年司法試験予備試験論文再現答案行政法

[設問1]
第一 処分性
 抗告訴訟の対象となる「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」(行政事件訴訟法3条2項)とは、公権力を行使する主体たる国又は地方公共団体の行為であって、その行為により直接国民の権利義務を形成し、又はその範囲を確定させるもののことをいう。

第二 本件勧告
 地方公共団体であるY県の知事が本件勧告を行った。Xは株式会社であるが、日本国憲法22条1項の職業選択の自由などの権利はその性質上可能な限り法人(株式会社は法人である)にも及ぼすべきなので、Xも国民に含まれる。そして本件勧告により、Xに浄水器の販売に際し、条例25条4号の定める不適正な取引行為をしてはいけないという義務が形成されたので、本件勧告は「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」である。
 そのような義務は道義上の義務であって、法的義務ではないというY県の反論が想定される。しかしこの義務に違反すると本件公表を受けるという地位に立たされるという効果があるので、法的義務であると言える。
 また、処分性を判断するためには、どの段階で抗告訴訟により争わせるべきかという観点も重要となる。本件においては、一度公表されてしまうと取り返しがつかないので、その観点からしても、本件勧告に処分性が認められる。

第三 本件公表
 地方公共団体であるY県の知事が本件公表を行った。Xが国民に含まれることは先述した通りである。本件公表により、Xは金融機関Aからの融資が停止されるというように、権利を奪われている。よって本件公表は「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」である。
 それは本件公表の直接的な効果ではなく、間接的な効果に過ぎないというY県の反論が想定される。しかしながら、インターネットなどの情報技術が発達し、消費者意識や企業のコンプライアンス意識が高まっている今日において、公表により何らの効果も直接的に発生しないとするのは非現実的である。現にAはXへの融資を停止することは容易に想定され、そうなるとXの経営に深刻な影響が及ぶ。以上より、本件公表に処分性が認められる。

[設問2]
第一 本件勧告の性質
 「勧告することができる」という条例48号の文言からしても、勧告の性質からしても、勧告をするかどうかにY県知事の裁量が認められる。よって、Xとしては、そのXの裁量権に逸脱・濫用があったことを主張することになる。

第二 処分基準及び理由提示の不備
 本件勧告は不利益処分である。不利益処分に関しては、処分基準を定め、かつ、これを公にしておくよう努めなければならない(行政手続法12条1項)。確かに処分基準を定めて公表する義務は努力義務であるが、本件においてはその障害となる事情が存在しないので、処分基準を定めて公表しなかったことが違法となる。
 また、一般に行政手続で理由提示が求められるのは、行政行為の慎重と公正を期し、処分の名あて人などの不服申立てに便宜を図るためである。本件においては、適用条項が示されただけであり、理由提示に不備がある。よって違法である。不利益処分をする場合には、その名あて人に対し、同時に、当該不利益処分の理由を示さなければならないと行政手続法14条1項に定められている。
 なお、こうした手続き違反は、勧告をするかどうかに関する裁量とは別次元の話である。

第三 裁量権の逸脱・濫用
 本件勧告に先立ってXに意見陳述の機会が付与されている。これは条例49条に定めれた義務である。Xはそこで①〜③の主張を行った。しかしY県知事は、それらの主張を考慮することなく、本件勧告を行った。いくら勧告をするかどうかに裁量権が認められるとしても、条例で義務付けられている意見陳述を全く無視することは裁量権の逸脱・濫用である。よって本件勧告は違法である。

以上



平成30(2018)年司法試験予備試験論文再現答案憲法

以下日本国憲法についてはその条数のみを示す。

 

第一 法律上の争訟性
 76条1項及びそれを受けた裁判所法3条1項の「法律上の争訟」とは、権利義務又は法律関係の紛争で、法令の適用により終局的に解決できるもののことである。地方議会のような団体には私的自治が認められるべきであるが、32条の裁判を受ける権利からしても、市民社会上の権利義務に関わることについては法律上の争訟に当たる。本件において、Xは処分2により除名されており、市民社会上の権利が奪われているので、法律上の争訟になる。

 

第二 21条で保障されるべき議員としての活動の自由
 1.Xの憲法上の主張
  21条で表現の自由が保障されているのは、前文及び1条の国民主権を担保することをその大きな目的としている。市議会議員として活動することはまさにそれである。よって、そのような表現の自由を制約するためには、やむにやまれぬ事由がなければならない。本件ではそうした事由がないのにXの議員としての活動の自由が処分2により制約されているので、違憲である。
 2.想定される反論
  表現の自由といえども、他の権利との調整といった内在的な制約に服する。特に内容中立的な規制が求められる場面は多々ある。本件においても、Dやその他の議員が安心して発言できるように、処分2が必要だった。
 3.私自身の見解
  上記のどちらの議論ももっともである。しかし表現(言論)には表現(言論)で対抗するのが基本である。本件においてXは除名処分を受けて言論の場そのものを奪われている。そのような制約をするにはやむにやまれぬ事由がなければならない。仮に処分1が正当だとしても、地方自治法135条3号の出席停止などの処分をすることもできた。出席停止処分をしても侮辱発言を繰り返すようなら除名もやむを得ないかもしれないが、そうではない本件において除名をする処分2は違憲である。

 

第三 19条で保障されるべき思想・良心の自由
 1.Xの憲法上の主張
  特定の内容の陳謝文を公開の議場において朗読されられることは、19条で保障されるべき思想・良心の自由を侵害して違憲である。
 2.想定される反論
  思想・良心の自由は、個人の内面にとどまる限り、絶対的に保障されるが、外的行為に関してはそうではない。国会の制定した立法や裁判所の判決に従って一定の外的行為が求められる場合もある。
 3.私自身の見解
  裁判の判決で謝罪広告を命じることは、その内容が一般的な謝罪の文言にとどまる限り、思想・良心の自由を侵害して違憲とならないという判例がある。本件の謝罪文の文言も、一般的な謝罪の文言である。よって処分1が思想・良心の自由を侵害して違憲となることはない。もっとも、自分の肉声で朗読することは、活字で掲載することよりも、思想・良心の自由を侵害する度合いが大きいと考えられる。しかし、国会で制定された地方自治法がそうした陳謝を想定しているのであって、やはり処分1が違憲となることはない。

以上



Lubuntu18.04インストールでつまったところのメモ

私はWindowsXPのサポートが終了する少し前からLubuntuを使っていて、もうすっかりそちらのほうに慣れてしまいました。そして時々空き容量を増やして気分を一新するためにクリーンインストールをしています。気軽にクリーンインストールできるのもLubuntuの魅力ですね。Windowsはほとんど使わないのですが、消すのはもったいないので、デュアルブートにしています。

 

Lubuntu18.04のisoイメージをダウンロードして、それをUNetbootinを使って、FAT32にフォーマットした2GB以上のUSBメモリに書き込んでlive USB(起動USB)を作り、再起動後BIOSでUSB起動を優先させて、そのlive USBのTry Lubuntu without installingを選ぶというところまではスムーズでした。Gpartedでパーティションを操作するのも前にやったことがあるため迷いませんでした。

 

1.Lubuntu18.04のインストール時の問題

Gpartedでは慎重にパーティションを操作してWindowsをきちんと残したにもかかわらず、Lubuntu18.04をインストールしようとしたときにWindowsのOSを認識してくれませんでした。仕方がないので「それ以外」を選んで自分でパーティションの作成をしました。

 

そのパーティション作成画面が大きすぎて、私のノートパソコンに収まりきらなかったのが最初のつまづきでした。これはAltキーを押しながらドラッグしてウィンドウを動かすことで解決できました。

 

空き領域の後ろのほうに4GBのスワップ領域を作り、残りはすべてext4で「/」にしました。

 

これでインストールできるかと思ったら、最後のほうでgrubのインストールに失敗したというメッセージが表示されました。UEFI環境でChaletOSをインストールする際の「GRUB installation failed」エラーの対処法、「Boot-Repair」の使い方 | シンスプリンター – うつ病、シンスプリントと闘う私の日常Ubuntu Boot Repair その19 – ライブメディアから起動したUbuntuにBoot Repairをインストールして起動する – kledgebを参考にしてどうにか電源を入れたときにgrubが呼び出されるようになりました。Boot Repairはすごいです。おすすめの修復の指示に従うだけで復旧できました。

 

2.grubからのWindowsの起動

grubからLubuntu18.04が起動できるようになったのはよかったものの、残しておいたはずのWindowsがgrubに表示されません。Ubuntu日本語フォーラム / windowsがgrubから消えたの通りにすれば表示されるようになりました。ただ、後述するようにgeditには問題があったので、「sudo gedit /etc/grub.d/40_custom」ではなく「sudo leafpad /etc/grub.d/40_custom」で対応しました。

 

3.管理者(root)権限でのアプリ起動の不具合

必要なアプリケーションをインストールするためにSynapticパッケージマネージャを起動すると画面の右下のほうが透過していて変でした。アプリケーションをインストールしようとすると本来説明が表示されるところの文字が重複するように表示されて見えなくなります。どうやらこれはバグのようですので、あきらめて説明は読まずに必要なアプリケーションをインストールしました。

 

同様に、管理者(root)権限でgeditを立ち上げても背景が透過して文字が読めませんでした。どうやら管理者(root)権限で立ち上げると挙動がおかしくなるアプリがいくつかあるようです。

 

4.Dropboxのアイコンがおかしくなる問題

Dropboxをインストールして起動すると画面右下のアイコンがおかしくなります。これは16.04のときからそうでしたし、Xubuntuでも発生している問題のようです。[SOLVED] Dropbox Icon problem (Lubuntu 17.04)を参考にして解決しました。「sudo leafpad /usr/share/applications/dropbox.desktop」で開いたファイルの「Exec=dropbox stari -i」を「Exec=dbus-launch dropbox start」と書きかえます。

 

これでおおよその環境を整えることができました。ApacheとTexの設定は少し憂鬱ですが、必要とする人も限られるでしょうから、ここの記事には書かず一人で頑張ります。

 

 

 



平成26年司法試験論文刑事系第1問答案練習

問題

〔第1問〕(配点:100)
 以下の事例に基づき,甲,乙及び丙の罪責について,具体的な事実を摘示しつつ論じなさい(特別法違反の点を除く。)。

1 甲(23歳,女性)は,乙(24歳,男性)と婚姻し,某年3月1日(以下「某年」は省略する。),乙との間に長男Aを出産し,乙名義で借りたアパートの一室に暮らしていたが,Aを出産してから乙と不仲となった。乙は,甲と離婚しないまま別居することとなり,5月1日,同アパートから出て行った。乙は,その際,甲から,「二度とアパートには来ないで。アパートの鍵は置いていって。」と言われ,同アパートの玄関の鍵を甲に渡したものの,以前に作った合鍵1個を甲に内緒で引き続き所持していた。甲は,乙が出て行った後も名義を変えずに同アパート(以下「甲方」という。)にAと住み続け,自分でその家賃を支払うようになった。甲は,5月中旬頃,丙(30歳,男性)と知り合い,6月1日頃から,甲方において,丙と同棲するようになった。
2 丙は,甲と同棲を開始した後,家賃を除く甲やAとの生活に必要な費用を負担するとともに,育児に協力してAのおむつを交換したり,Aを入浴させるなどしていた。しかし,丙は,Aの連日の夜泣きにより寝不足となったことから,6月20日頃には,Aのことを疎ましく思うようになり,その頃からおむつ交換や入浴などの世話を一切しなくなった。
3 甲は,その後,丙がAのことを疎ましく思っていることに気付き,「このままAがいれば,丙との関係が保てなくなるのではないか。」と不安になり,思い悩んだ末,6月末頃,丙に気付かれないようにAを殺害することを決意した。Aは,容易に入手できる安価な市販の乳児用ミルクに対してはアレルギーがあり,母乳しか飲むことができなかったところ,甲は,「Aに授乳しなければ,数日で死亡するだろう。」と考え,7月1日朝の授乳を最後に,Aに授乳や水分補給(以下「授乳等」という。)を一切しなくなった。
 このときまで,甲は,2時間ないし3時間おきにAに授乳し,Aは,順調に成育し,体重や栄養状態は標準的であり,特段の疾患や障害もなかった。通常,Aのような生後4か月の健康な乳児に授乳等を一切しなくなった場合,その時点から,①約24時間を超えると,脱水症状や体力消耗による生命の危険が生じ,②約48時間後までは,授乳等を再開すれば快復するものの,授乳等を再開しなければ生命の危険が次第に高まり,③約48時間を超えると,病院で適切な治療を受けさせない限り救命することが不可能となり,④約72時間を超えると,病院で適切な治療を受けさせても救命することが不可能となるとされている。
 なお,甲は,Aを殺害しようとの意図を丙に察知されないように,Aに授乳等を一切しないほかは,Aのおむつ交換,着替え,入浴などは通常どおりに行った。
 7月2日昼前には,Aに脱水症状や体力消耗による生命の危険が生じた。丙は,その頃,Aが頻繁に泣きながら手足をばたつかせるなどしているのに,甲が全くAに授乳等をしないことに気付き,甲の意図を察知した。しかし,丙は,「Aが死んでしまえば,夜泣きに悩まされずに済む。Aは自分の子でもないし,普通のミルクにはアレルギーがあるから,俺がミルクを与えるわけにもいかない。Aに授乳しないのは甲の責任だから,このままにしておこう。」と考え,このままではAが確実に死亡することになると思いながら,甲に対し,Aに授乳等をするように言うなどの措置は何ら講じず,見て見ぬふりをした。
 甲は,丙が何も言わないことから,「丙は,私の意図に気付いていないに違いない。Aが死んでも,何らかの病気で死んだと思うだろう。丙が気付いて何か言ってきたら,Aを殺すことは諦めるしかないが,丙が何か言ってくるまではこのままにしていよう。」と考え,引き続き,Aに授乳等をしなかった。
5 7月3日昼には,Aの脱水症状や体力消耗は深刻なものとなり,病院で適切な治療を受けさせない限り救命することが不可能な状態となった。同日昼過ぎ,丙は,甲が買物に出掛けている間に,Aを溺愛している甲の母親から電話を受け,同日夕方にAの顔を見たいので甲方を訪問したいと言われた。Aは,同日夕方に病院に連れて行って適切な治療を受けさせれば,いまだ救命可能な状態にあったが,丙は,「甲の母親は,Aの衰弱した姿を見れば,必ず病院に連れて行く。そうなれば,Aが助かってしまう。」と考え,甲の母親に対し,甲らと出掛ける予定がないのに,「あいにく,今日は,これからみんなで出掛け,帰りも遅くなるので,またの機会にしてください。」などと嘘をつき,甲の母親は,やむなく,その日の甲方訪問を断念した。
6 7月3日夕方,甲は,目に見えて衰弱してきたAを見てかわいそうになり,Aを殺害するのをやめようと考え,Aへの授乳を再開し,以後,その翌日の昼前までの間,2時間ないし3時間おきにAに授乳した。しかし,Aは,いずれの授乳においても,衰弱のため,僅かしか母乳を飲まなかった。甲は,Aが早く快復するためには病院に連れて行くことが必要であると考えたが,病院から警察に通報されることを恐れ,「授乳を続ければ,少しずつ元気になるだろう。」と考えてAを病院に連れて行かなかった。
7 他方,乙は,知人から,甲が丙と同棲するようになったと聞き,「俺にも親権があるのだから,Aを自分の手で育てたい。」との思いを募らせていた。乙は,7月4日昼,歩いて甲方アパートの近くまで行き,甲方の様子をうかがっていたところ,甲と丙が外出して近所の食堂に入ったのを見た。乙は,甲らが外出している隙に,甲に無断でAを連れ去ろうと考え,持っていた合鍵を使い,玄関のドアを開けて甲方に立ち入り,Aを抱きかかえて甲方から連れ去った。
8 乙は,甲方から約300メートル離れた地点で,タクシーを拾おうと道路端の歩道上に立ち止まり,そこでAの顔を見たところ,Aがひどく衰弱していることに気付いた。乙は,「あいつら何をやっていたんだ。Aを連れ出して良かった。一刻も早くAを病院に連れて行こう。」と考え,走行してきたタクシーに向かって歩道上から手を挙げたところ,同タクシーの運転手が脇見をして乙に気付くのが遅れ,直前で無理に停車しようとしてハンドル及びブレーキ操作を誤った。そのため,同タクシーは,歩道に乗り上げ,Aを抱いていた乙に衝突して乙とAを路上に転倒させた。
9 乙とAは直ちに救急車で病院に搬送され,乙は治療を受けて一命をとりとめたものの,Aは病院到着時には既に死亡していた。司法解剖の結果,Aの死因は,タクシーに衝突されたことで生じた脳挫傷であるが,他方で,Aの衰弱は深刻なものであり,仮に乙が事故に遭うことなくタクシーでAを病院に連れて行き,Aに適切な治療を受けさせたとしても,Aが助かる可能性はなく,1日ないし2日後には,衰弱により確実に死亡していたであろうことが判明した。

 

練習答案

 以下刑法についてはその条数のみを示す。

第1 乙の罪責
(1) 住居侵入罪
 「正当な理由がないのに、人の住居…に侵入し…た者は、三年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する」(130条)。乙は結果的に衰弱したAを助け出そうとしたが、7月4日の昼に持っていた合鍵を使い、玄関のドアを開けて甲方に立ち入った際には「Aを自分の手で育てたい」というだけで甲に無断でAを連れ去ろうとしており、正当な理由がないと評価できる。甲方は、甲、丙、Aが生活する人の住居である。住居侵入罪の保護法益は、人の住居は一般にプライバシーの度合いが高く、そこに住む人はその住居に入れる人を選ぶことができるべきであるので、そこに住む人の管理権であると考える。甲は、乙に対し、「二度とアパートには来ないで。アパートの鍵は置いていって」と言っており、その管理権として乙を入れたくないという強い意思を有していた。この保護法益からすると、甲方の名義が乙のままであったことは罪の成立に消長をきたさない。以上より、乙は甲方に侵入したと言える。よって乙には甲方への住居侵入罪が成立する。

(2)未成年者略取罪
 「未成年者を略取し…た者は、三月以上七年以下の懲役に処する」(224条)。Aは未成年者である。未成年者略取罪の保護法益は、未成年者の生命や身体などの権利であるが、その権利は一般に保護者を通じて守られるものである。親権者は、未成年者の子どもと別居していても保護者である。乙はAの親権者である。よって乙はAを略取したとは言えない。以上より乙に未成年者略取罪は成立しない。

(3)結論
 乙には住居侵入罪のみが成立する。

第2 甲の罪責
(1)殺人罪
 「人を殺した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する」(199条)。甲は、Aに授乳しないことにより、Aという人を殺したと言える。殺人罪は典型的には作為による殺人を想定しているが、不作為による殺人を排除するものではない。このような不真性不作為犯が成立するためには、一定の作為義務が存在し、その義務に違反したことが必要だと考える。そうしないと処罰範囲が広くなりすぎてしまう。甲はAの母親であり、Aの養育を自宅で引き受けていた。母親には子どもを扶養する義務があり、このような事情の下では、甲に、Aを授乳するなどして適切に養育する義務がある。そして甲はその義務に違反している。また、甲のAに授乳しないという不作為とA死亡との間に因果関係があるかも問題となり得る。Aの直接の死因は、タクシーに衝突されたことで生じた脳挫傷だったからである。因果関係は、条件関係を前提として、社会的に相当な因果関係があるかどうかで判断する。甲の不作為がなければ(適切に授乳していれば)乙がAを病院に連れて行こうとすることもなく、タクシーに衝突されることもなかった。よって条件関係はある。Aの死因は脳挫傷だが、事故に遭うことなくタクシーでAを病院に連れて行き、Aに適切な治療を受けさせたとしても、Aが助かる可能性はなく、1日ないし2日後には、衰弱により確実に死亡していたであろうことが判明しているので、タクシーの衝突はAの死期を若干早めただけであり、甲の不作為とA死亡との間には、社会的に相当な因果関係がある。タクシーで病院に連れて行こうとすることと甲の不作為とが密接につながっているという事情もある。
 甲はAを殺害することを決意して授乳を止めたので、故意に欠けるところもない。殺人の故意があるので、保護責任者遺棄致死罪(219条)ではない。違法性を阻却する事情もない。
 以上より、甲には殺人罪が成立する。
 *1

(2)結論
 甲にはその他の罪責は見当たらないので、殺人罪が成立する。

第3 丙の罪責
(1)殺人罪の幇助
 Aを殺害することに関して、甲と丙との間に意思連絡はなかった。明示的な意思連絡がなくても、特殊な関係下で黙示的な意思連絡があると認められる場合もあるが、本件ではお互いの意思をあやふやなまま推測しているにとどまり、黙示の意思連絡があったとも言えない。共同正犯(60条)には意思連絡が必要なので、本件では共同正犯は成立しない。
 他方、「正犯を幇助した者は、従犯とする」(62条)の幇助には、意思連絡のない片面的幇助も含まれるというのが判例の立場である。そこで以下では幇助を検討する。
 幇助と言うためには、正犯の罪の成立を、心理的物理的に助けたことが必要である。片面的幇助では心理的な助力は考えられないので、物理的な助力がなければならない。
 丙は、甲が外出していた7月3日の昼過ぎに、甲の母親から電話を受け、このまま甲の母親が甲方に来ると衰弱したAを見て病院に連れていくだろうと考えて、これから外出するとうそをついて甲の母親の訪問を妨げた。これは甲によるA殺害を助けたと言える。よって丙には殺人罪の幇助が成立する。
 先に述べたように、甲には保護責任者遺棄致死罪ではなく殺人罪が成立するのであり、丙にその幇助が成立するのだから、別途丙に保護責任者遺棄致死罪が成立することはない。また、不作為の幇助を認めない理由もない。

(2)結論
 以上より、丙には殺人罪の幇助が成立する。

*1
 甲に中止犯が成立するかどうかを検討する。「自己の意思により犯罪を中止したときは、その刑を減軽し、又は免除する」(43条但書)。自己の意思によるとは、障害がないのに自分の任意で犯罪を中止することである。7月3日夕方、甲は衰弱したAを見てかわいそうになり、Aを殺害するのをやめようとして、Aへの授乳を再開した。授乳を再開せざるを得ないような外的な障害がなかったにもかかわらずそうしているので、自己の意思によると言える。犯罪を中止するというのは、犯罪の結果が発生する危険が生じる前であれば単に犯罪行為を中止するだけでよいが、その危険が生じた後は結果発生を防ぐべく手を尽くさなければならない。7月3日夕方時点では、Aに死の危険が生じている。よって単なる犯罪行為の中止(授乳の再開)だけでは足りず、結果発生を防ぐべく手を尽くす(救急車を呼ぶ等)ことが必要である。よって甲は犯罪を中止したとは言えないので、中止犯は成立しない。

以上

 

修正答案

 以下刑法についてはその条数のみを示す。

第1 乙の罪責
(1) 住居侵入罪
 「正当な理由がないのに、人の住居…に侵入し…た者は、三年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する」(130条)。乙は結果的に衰弱したAを助け出そうとしたが、7月4日の昼に持っていた合鍵を使い、玄関のドアを開けて甲方に立ち入った際には「Aを自分の手で育てたい」というだけで甲に無断でAを連れ去ろうとしており、正当な理由がないと評価できる。甲方は、甲、丙、Aが生活する人の住居である。住居侵入罪の保護法益は、人の住居は一般にプライバシーの度合いが高く、そこに住む人はその住居に入れる人を選ぶことができるべきであるので、そこに住む人の管理権であると考える。甲は、乙に対し、「二度とアパートには来ないで。アパートの鍵は置いていって」と言っており、その管理権として乙を入れたくないという強い意思を有していた。この保護法益からすると、甲方の名義が乙のままであったことは罪の成立に消長をきたさない。以上より、乙は甲方に侵入したと言える。よって乙には甲方への住居侵入罪が成立する。

(2)未成年者略取罪
 「未成年者を略取し…た者は、三月以上七年以下の懲役に処する」(224条)。Aは未成年者である。略取とは暴力や脅迫により被略取者を生活環境から引き離し、自己の支配下に置くことである。乙は合鍵を用いて甲方に侵入し、Aを抱きかかえて連れ去り、自己の手元に留めたので、略取したと言える。もっとも、乙はAの親権者であり、社会的に相当な行為として例外的に違法性が阻却されないかが問題となり得る。未成年者略取罪の保護法益は、未成年者の生命や身体などの権利である。結果的には衰弱したAを乙が病院へ連れて行こうとしたが、Aを連れ去った実行の着手の時点では、Aのために特段の必要性がないのに粗暴なやり方で判断能力のないAを連れ去っているので、社会的に相当だとして違法性が阻却されることはない。以上より乙に未成年者略取罪が成立する。

(3)結論
 乙には住居侵入罪と未成年者略取罪が成立し、これらは牽連犯になる。

第2 甲の罪責
(1)殺人罪
 「人を殺した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する」(199条)。甲は、Aに授乳しないことにより、Aという人を殺したと言えるかどうかを検討する。
(A)不真性不作為犯
 殺人罪は典型的には作為による殺人を想定しているが、不作為による殺人を排除するものではない。このような不真性不作為犯が成立するためには、法律や先行行為などにより一定の作為義務が存在し、その作為が可能であるにもかかわらずその義務に違反したことが必要だと考える。そうしないと処罰範囲が広くなりすぎてしまう。甲はAの母親であり、Aの養育を自宅で引き受けていた。母親には法律上子どもを扶養する義務があり、このような事情の下では、甲に、Aを授乳するなどして適切に養育する義務がある。そして甲は授乳をすることができたのにその義務に違反している。7月2日昼前にはAに生命の危険が生じているので、この時点で甲には不作為によりAを殺すという実行の着手があったと言える。
(B)因果関係
 また、甲のAに授乳しないという不作為とA死亡との間に因果関係があるかも問題となり得る。因果関係は、条件関係を前提として、社会経験上相当な因果関係があるかどうかで判断する。甲の不作為がなければ(適切に授乳していれば)乙が急いでAを病院に連れて行こうとすることもなく、タクシーに衝突されることもなかった。よって条件関係はある。しかし、授乳をしないことで衰弱させて乳児(A)を殺そうとした際に、何者か(乙)が合鍵を使って自宅に侵入してその乳児を連れ出し病院に向かう途中でタクシーに衝突されて脳挫傷で乳児が死亡するということは、一般人も甲も予見できず、社会経験上相当な因果関係はない。よって、既遂とはならず未遂である。
(C)中止犯
 甲に中止犯が成立するかどうかを検討する。「自己の意思により犯罪を中止したときは、その刑を減軽し、又は免除する」(43条但書)。自己の意思によるとは、障害がないのに自分の任意で犯罪を中止することである。7月3日夕方、甲は衰弱したAを見てかわいそうになり、Aを殺害するのをやめようとして、Aへの授乳を再開した。授乳を再開せざるを得ないような外的な障害がなかったにもかかわらずそうしているので、自己の意思によると言える。犯罪を中止するというのは、犯罪の結果が発生する危険が生じる前であれば単に犯罪行為を中止するだけでよいが、その危険が生じた後は結果発生を防ぐべく手を尽くさなければならない。7月3日夕方時点では、Aに死の危険が生じている。よって単なる犯罪行為の中止(授乳の再開)だけでは足りず、結果発生を防ぐべく手を尽くす(救急車を呼ぶ等)ことが必要である。よって甲は犯罪を中止したとは言えないので、中止犯は成立しない。
(D)殺人罪の成否の結論
 甲はAを殺害することを決意して授乳を止めたので、故意に欠けるところもない。殺人の故意があるので、保護責任者遺棄致死罪(219条)ではない。違法性を阻却する事情もない。
 以上より、甲には殺人罪の未遂(203条)が成立する。

(2)結論
 甲にはその他の罪責は見当たらないので、殺人罪が成立する。

第3 丙の罪責
(1)殺人罪
(A)単独正犯
 甲と同様に、不作為による殺人罪の成否を検討する。丙はAの父親ではなく、A及び甲と同居してAのおむつ交換や入浴などの世話をしていたが、それはわずか20日ほどのことであり、Aの世話は甲が主として行っていたので、法律や先行行為などの事情から丙にAを養育するといった義務は生じていなかったと考えられる。よって丙に殺人罪の単独正犯が成立することはない。
(B)共同正犯
 「二人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯とする」(60条)。「共同して」というからには意思連絡が必要である。Aを殺害することに関して、甲と丙との間に意思連絡はなかった。明示的な意思連絡がなくても、特殊な関係下で黙示的な意思連絡があると認められる場合もあるが、本件ではお互いの意思をあやふやなまま推測しているにとどまり、黙示の意思連絡があったとも言えない。以上より、丙に殺人罪の共同正犯が成立することもない。
(C)幇助
 「正犯を幇助した者は、従犯とする」(62条)の幇助には、意思連絡のない片面的幇助も含まれるというのが判例の立場である。そこで以下では幇助を検討する。
 幇助と言うためには、正犯の罪の成立を容易にする行為を、それと認識,認容しつつ行い、実際に正犯行為が行われることによって成立する。片面的幇助では心理的な助力は考えられないので、物理的な助力がなければならない。
 丙は、7月2日昼前に、甲が全くAに授乳等をしないことに気付き、このままではAが確実に死亡することになると思いながら、甲に対し、Aに授乳等をするように言うなどの措置は何ら講じなかった。同居する乳児の生命に危機が発生していることに気づいたら、他の人に助けを求めるなどしてその乳児の生命を救おうとする義務があると言える。丙はAやその他の人に助けを求めるなどすることができたのにそうせず前述の義務に違反し、それにより甲によるA殺害を容易にして、そのことを認識していたので、不作為により甲のA殺人を幇助したと言える。また、丙は、甲が外出していた7月3日の昼過ぎに、甲の母親から電話を受け、このまま甲の母親が甲方に来ると衰弱したAを見て病院に連れていくだろうと考えて、これから外出するとうそをついて甲の母親の訪問を妨げた。これは甲によるA殺害を容易にしたと言え、丙にはその認識もあった。よって丙には殺人罪の幇助が成立する。

(2)結論
 以上より、丙には殺人罪の幇助が成立する。

以上

 

 




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