浅野直樹の学習日記

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令和3(2021)年司法試験予備試験論文再現答案法律実務基礎科目(刑事)

再現答案

 以下刑事訴訟法についてはその条数のみを示す。

〔設問1〕

1 この準抗告は429条1項2号に基づく勾留に関する裁判に対する不服申立である。その勾留の裁判の根拠は60条1項2号及び3号である。

 (1) 疎明資料aについて

  疎明資料aは、Aの両親が彼らの自宅で生活させて監督し、Aに事件関係者と一切接触させないことにより、Aが罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるときには当たらないと主張するものである。本件では、物証は既に収集が終えられており、人証の隠滅を防げばそれで足りるからである。60条1項2号に該当しないということである。

 (2) 疎明資料bについて

  疎明資料bは、Aが勤務先で重要な役割を果たしており、Aがフルタイムで働いているという客観的な事情とあわせて、Aが逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるときには当たらないと主張するものである。60条1項3号に該当しないということである。

2 (1) 疎明資料aについて

  Aの両親が彼らの自宅で生活させるといっても仕事には行かせるのであろうし、仕事に行って営業に出れば自由に行動できるのだから、人証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があると言える。

  (2) 疎明資料bについて

  Aが勤務先で重要な役割を果たしてフルタイムで働いているといっても、現在の勤務先に勤め始めてからまだ1か月ほどであり、本件は重罪で重い刑が課される可能性もあるところ、それだけで逃亡を思いとどまらせるとは限らず、Aが逃亡すると疑うに足りる相当な理由があると言える。

 

〔設問2〕

第1 Wが物理的に犯行現場を目撃できたこと

 ⑤、⑮、K駐車場の照明も含めた形状により、Wが、別紙見取図のWの記号の場所に限らずK駐車場内の広い範囲で物理的に犯行現場を目撃することができたと認められる。

第2 面割り

 短めの黒髪で眼鏡を掛けていない30歳代の男性20名の顔写真のうちにAの写真があり、「この中に見覚えがある人がいるかもしれないし、いないかもしれない」という厳しい条件で面割りが行われたことに対し、Wが面識のないAを自信を持って選んだということは信用できる。

第3 防犯カメラとの符合

 服装、持ち物、移動方向とその時間が、Wの供述と客観的な防犯カメラの映像とで符合しており、Wの供述には信用性が認められる。

 

〔設問3〕

第1 ビデオリンク方式について

 本件において、ビデオリンク方式が認められる根拠となり得るのは、157条の6第2項1号である。Wは本件犯罪の被害者ではなく、27歳と成人しており、「人前で話すのも余り得意ではない」というのは多くの人にあることであるため、証人Wが被告人Aと同一構内に出頭するときは精神の平穏を著しく害されるおそれがあるとは認められない。

 157条の6第1項3号も根拠になり得るが、上記と同様に考えて、裁判官及び訴訟関係人が証人を尋問するために在席する場所において供述するときは圧迫を受け精神の平穏を著しく害されるおそれがあるとは認められない。

第2 遮へい措置について

1 被告人Aとの間の遮へい

 本件において、この根拠となり得るのは、157条の5第1項である。Wは本件犯罪の被害者ではないが、重大犯罪であり、Wの目撃証言が決定的な証拠となるので、Aから恨まれるということが想定され、証人Wが被告人Aの面前において供述するときは圧迫を受け精神の平穏を著しく害されるおそれがあると認められる。*Aには弁護人がついており、同項ただし書の要件は満たせるものと思われる。

2 傍聴人との間の遮へい

 本件において、この根拠となり得るのは、157条の5第2項である。これまで述べてきた条件に加えて、本件では特に名誉に対する影響は考えられないので、傍聴人との間の遮へい措置を採ることが相当だとは認められない。

 

〔設問4〕

 証人尋問は、証人の証言と態度から判断するという趣旨であり、証人を記憶とは異なる真実に反する方向に誘導することを避けるため、書面を示すことは原則としてできない。もっとも、例外的に、証人の供述を明確にするため必要があるときは、図面を利用して尋問することができる(刑事訴訟規則199条の12第1項)。本件では、別紙の見取図を示すことが、証人Wの供述を明確にするため必要なので、本件見取図を示すことができる(K駐車場のどこどこから何メートルの地点と供述するよりも、見取図のこのあたりと供述するほうが、明確である)。しかし、X及びWの記号は、証人Wを記憶とは異なる真実に反する方向に誘導するおそれはあるのに対し、これによって供述が明確になることはないので、原則に立ち返ってこれを示すことが禁止される(見取図のWの地点と供述しても、見取図のこのあたりと供述することと明確度は変わらない)。

 

*に以下の『』内を挿入

 『実際にWは「復しゅうが怖い。Aに見られていたら証言できない」と述べている。』

以上

 

感想

 見たことのない問題が多くて戸惑い、現場で必死に条文を探しました。食らいつけたかなという手応えはあります。

 



令和3(2021)年司法試験予備試験論文再現答案法律実務基礎科目(民事)

再現答案

 以下民法についてはその条数のみを示す。

〔設問1〕

(1) 賃貸借契約に基づく賃料支払請求権。

(2) 被告は、原告に対し、55万円を支払え。

(3) ① 令和2年6月15日、Xは、Yとの間で、賃料を月額10万円として甲建物を賃貸することを約した。

  ② 同年7月1日、Xは、Yに対し、①に基づき甲建物を引き渡した。

  ③ 同年12月31日が到来した。

(4) (ⅰ) 裁判所は、上記事実の主張をもって、本件訴訟における抗弁として扱うべきではない。(3)により60万円の賃料債権の発生が基礎付けられるところ、Xはそのうちの55万円を本件訴訟で請求しており、その外側の5万円は訴訟物とならないため。

 (ⅱ) (ⅰ)のほかに、上記主張は、他の主張と合わせて抗弁となり得るという意味を有する。

〔設問2〕

 後者の方法は、423条1項の債権者代位権に基づくものである。債権者Xが被代位権利を行使した場合であっても、債務者Yは、被代位権利について、自ら取立てその他の処分をすることを妨げられず、相手方Aも、被代位権利について、債務者に対して履行をすることを妨げられない(423条の5)からである。そして、債権者Xは、被代位権利の行使に係る訴えを提起したときは、遅滞なく、債務者Yに対し、訴訟告知をしなければならず(423条の6)、Yに自ら回収する機会が与えられる。

〔設問3〕

(1) (ⅰ) 令和3年1月5日、Xは、Bに対し、Yに対する令和2年7月分から同年12月分までの合計60万円の賃料債権を譲り渡した。

 (ⅱ) 債務者への通知は、債権譲渡の効力発生要件ではなく、対抗要件だから(467条1項)。466条1項により、債権譲渡は、譲渡人と譲受人との間だけで成立する。

(2) 462条の2第2項により、賃借人であるYは、賃貸人であるXに対し、敷金をその債務の弁済に充てることを請求することができないからである。より正確に言うと、462条の2第2項後段である。

〔設問4〕

第1 本件契約書のY作成部分の成立の真正について

1.印影について

 本件契約書のY名下の印影がYの印章によることは認めているため、Yが押印したことが推定され、民事訴訟法228条4項より文書が真正に成立したことが推定される。しかし、本件では、Xは週に2日は孫に会いにYの自宅に来ていてその印章の在りかを知っていたはずであり、令和2年12月中旬にYとその妻が外出している間に本件契約書に押印することができたのだから、Yが押印したという推定が覆ると主張する。これが覆ると、文書が真正に成立したという推定も覆る。

2.署名について

 本件契約書の署名がYがしたものであれば、民事訴訟法228条4項より文書が真正に成立したことが推定される。しかし、この署名はYがしたものではなく、Xの筆跡であり、民事訴訟法229条1項の筆跡の対照を求める。

第2 敷金の交付について

 Xは、令和2年6月15日、Yから現金で敷金30万円の交付を受けたと主張している。しかし、現代において、まとまった金額になる敷金は振込で支払うのが通常であり、仮に現金で支払ったとしても領収証が存在しないのは不自然であり、敷金が交付されたとは認められない。そして、敷金は賃貸借契約と密接に結びついているので、敷金の交付がなければ賃貸借契約もなかったと考えるのが自然である。

第3 その他の事情について

 仮に、Xが主張するように賃貸借契約が成立していて賃料債権が発生していたとしたら、それを5か月以上請求しないのは不自然である。

 また、令和2年7月30日にYがXに対し5万円を支払ったのは、財布を忘れた際に借りた5万円を返済したと考えて不合理ではない。

 背景事情として、Yの骨董品店の経営が苦しいということはない。

第4 結論

 以上より、XとYが本件賃貸借契約を締結した事実は認められない。

以上

 

感想

 淡々と記載しました。〔設問4〕では長年空き家であったといった事情にも触れたかったのですが、これだけでも答案用紙1頁を少し超えており、時間のこともあって、やめました。

 



令和3(2021)年司法試験予備試験論文再現答案一般教養科目

再現答案

〔設問1〕

 本文における筆者の主張は、文学に関して存在する、文学とは誰もが読むべきものだという前提と、文学とは誰にでも読めるものだという前提を、ともに否定するというものである。

 文学とは面白いから読むものである。その文学を享受することは、歴史的に、少数者の特権であったのであるが、民主主義の時代になってから、ふつうの人たちも文学を享受しようとしたのである。

 文学を読むということは、字面を追ったりあらすじを把握したりすることではなく、文学を面白く読むということである。文学を面白く読めるということは幸福を知ることと同義である。文学を実際に読んでいる人の中で、幸福を知り文学を面白く読んでいる人は少数であり、多くの人は幸福を知らずその外観にしがみついて文学を読む人もいる。だからこそ、幸福を知り文学を面白く読めることは貴重なのである。

 

〔設問2〕

 私は、本文における筆者の主張に対して反対し、文学とは誰もが読むべきものであり、誰にでも読めるものだと主張する。

 後者から先に述べる。ここで文学を読めるということは、筆者が主張しているのと同じように、文学を面白く読め、幸福を知ることである。ただし、文学とは、出版社から正式に出版された紙の本に限らず、インターネット上の文字も含む。文学にとって、文字が紙媒体に載せられるということが本質的であるはずはない。現代において、事実上誰もが、SNS等のインターネット上の文字を面白く読んでいる。インターネット上には多種多様な書き手が存在し、自分の幸福に合ったものが存在するのである。

 誰にでも文学を読めるのだとすると、誰もが文学を読むべきであり、強制されなくても読むはずである。確かに伝統的には少数者しか文学を享受できなかったのであるが、現代では、生産力の増大とともに、余暇時間も増えており、原理的にはすべての人に文学を読む時間を確保することもできる。労働に追われるなどしてどう工夫しても文学を読む時間を作れないのだとしたら、それは不幸なことである。

 以上より、私は、文学とは誰もが読むべきものであり、誰にでも読めるものだと主張する。

 

感想

 今年は初めて読むような内容でした。著者の皮肉的な部分は敢えて削ぎ落として平板に記述しましたが、どう評価されるかは不明です。



令和3(2021)年司法試験予備試験論文再現答案刑事訴訟法

再現答案

 以下刑事訴訟法についてはその条数のみを示す。

〔設問1〕

 日本国憲法33条で現行犯として逮捕される場合が除かれているのは、その人が犯罪を行ったということが明白であり、誤認逮捕のおそれがないからである。212条2項も、各号の一にあたることを前提として、その人が犯罪を行ったということが明白であり、誤認逮捕のおそれがない場合に許されるという趣旨である。この観点から、以下では212条2項に沿って検討する。

 「贓物」とは盗品等のことである。本件バッグはそれに当たり、甲はそのバッグを所持していたので、同項2号に該当する。甲は、本件バッグを投棄したが、Pが甲に声をかけた時点では所持していたので、この結論でよい。

 「誰何されて」とは、文字通りに「誰であるか」と問われることだけでなく、その前段階の「話を聞いてもいいですか」といった問いかけも含まれる。本件では、Pは、甲に対し、「話を聞きたいので、ちょっといいですか」と声をかけたら甲はいきなり逃げ出したので、同項4号にも該当する。

 本件では、P自身が犯行現場を現認していないが、犯行から約20分後の記憶が新しいうちに被害者であるVから犯人らの特徴と奪われたバッグの特徴を聞き出し、その特徴を防犯カメラでも確認し、犯行現場から5キロメートル離れた場所で犯行から2時間後に、前記特徴と一致する甲らを発見している。よって、甲が本件住居侵入、強盗傷人の犯罪を行ったことが明白であり、誤認逮捕のおそれはないため、①の逮捕は適法である。仮に甲が本件バックを別の真犯人から譲り受けて所持していた理由を合理的に説明していたとしたら話は別であるが、本件ではそうしたことはなかった。

 

〔設問2〕

 被告人の弁護人依頼権は、日本国憲法37条3項で保障されている重要な権利である。被告人の弁護人依頼権を保障するためには、被疑者の段階から弁護人と接見することが重要であり、39条1項で接見交通権が規定されている。

 もっとも、被疑者の身柄は一つしかないため、捜査機関が捜査をする必要とも調整をしなければならない。その調整の規定が同条3項であり、「捜査のため必要があるとき」とは、現に捜査をしているとか、捜査が間近に迫っているとかして、被疑者の身柄が一つしかないために捜査に支障が生じる場合のことである。

 そして、初回の接見は、弁護人依頼権のために特に重要であるため、捜査をずらす、短時間であっても接見させるなど、可能な限り希望に近い形での接見を認めなければ違法になると解する。

 本件において、甲は、身柄の拘束を受けている被疑者である。甲の父親は、被疑者甲の直系の親族であり、独立して弁護人を選任することができる。よって、S弁護士は、弁護人又は弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者である。以上より、39条1項より、甲はSと接見できるのが原則である。

 Rは司法警察員であり、39条3項に規定される主体である。Rは、S弁護士から接見を求める電話を受けた午後5時頃の時点で、甲にナイフの投棄場所を案内させて、ナイフの発見、押収及び甲を立会人としたその場所の実況見分を実施するために出発しようとしていたので、捜査が間近に迫っており、被疑者甲の身柄が一つしかないために捜査に支障が生じる場合に当たる。

 本件では、甲にとって初回接見であり、39条3項ただし書も踏まえて捜査をずらす、短時間であっても接見させるなど、可能な限り希望に近い形での接見を認めなければならない。この時期のこの時間には辺りが暗くなるのは仕方のないことであり、捜査を翌日にずらすと甲の記憶が薄れたり共犯者に先にナイフを回収されてしまう可能性があり、午後5時頃から短時間ならともかく午後5時30分からの接見を認めると辺りが暗くなって捜査ができなくなってしまい、S弁護士の予定に照らし合わせて最も早い翌日の午前9時以降にしてほしい旨を伝えているので、、可能な限り希望に近い形での接見を認めている。

 以上より、②の措置は適法である。

以上

 

感想

 〔設問1〕の準現行犯逮捕は数年前に出題されたときよりはよく書けたと思います。〔設問2〕も、記述の上手下手はともかく、題意に沿っているはずです。



令和3(2021)年司法試験予備試験論文再現答案刑法

再現答案

以下刑法についてはその条数のみを示す。

第1 乙の罪責

 乙は、某月30日、殺意をもって、両手でXの首を強く締め付け続けた。その結果、Xは窒息死した。乙は、Xが本心では死を望んでいないことを認識しており、この行為の直前にも「あれはうそだ。やめてくれ」と言われている。よって、同意殺人罪(202条)ではなく殺人罪(199条)が成立する。

 

第2 甲の罪責

1.本件ダンボール箱をY宅から持ち出した行為

 この行為につき、窃盗罪(235条)の成否を検討する。

 「他人の財物」とは、「他人が占有する財物」のことである。一応平穏に占有しているという事実的な状態を保護すべきだからである。本件ダンボール箱は、甲が所有する物であるが、Yが占有していた物であり、「他人の財物」に当たる。

 「窃取」とは、強制的に占有を自己に移転させることである。本件では、本件ダンボール箱をY宅から持ち出した時点で、甲は占有を確保して自己に移転させたと言え、窃取したと言える。

 窃盗罪が成立するためには、器物損壊罪(261条)との区別から、その物の経済的用法に従って利用処分するという不法領得の意思が必要であるところ、本件では得意先との取引に本件ダンボール箱の中に入っている本件帳簿が必要だったとのことであるため、不法領得の意思が認められる。

 以上より、窃盗罪の構成要件を満たす。

 次に、正当防衛(36条)が成立するかどうかを検討する。

 「急迫不正の侵害」とは、法益の侵害が現に存在するか間近に迫っていることである。本件でYが「返してほしければ100万円を持ってこい」と言うことは、恐喝罪(249条1項)に該当する行為であり、法益の侵害が現に存在しているため、急迫不正の侵害があると言える。

 甲は、自己の権利を防衛するためにこの行為に及んでいる。

 「やむを得ずにした行為」とは、その行為が相当であることである。本件において、この行為には、相当性が全くない。

 以上より、2項の過剰防衛も含めて、甲には36条の正当防衛は成立しない。

 よって、甲には窃盗罪が成立する。

2.本件帳簿にライターで火をつけてドラム缶の中に投入した行為

 この行為につき、建造物等以外放火罪(110条2項)の成否を検討する。

 本件帳簿にライターで火をつけて炎が発生しているので、放火して焼損したと言える。

 110条1項の「公共の危険」とは、108条及び109条に規定される物に延焼させることに限られず、周囲の物に燃え移るなどして不特定又は多数者の生命等に危険を生じさせることも含まれる。本件では、漁網が燃え上がり、5名の釣り人が発生した煙に包まれているので、公共の危険が発生したと言える。

 この公共の危険が発生することについての認識・認容までは必要ないが、周囲の物に燃え移る可能性についての認識・認容は必要である。甲は、漁網、原動機付自転車、釣り人5名の存在をいずれも認識していなかったので、故意(38条1項)が阻却される。

 以上より、甲には、建造物等以外放火罪は成立しない。

3.乙を制止せずにその場から立ち去ったこと

 まず何罪が成立し得るか考える。甲は、Xが本心から死を望んでいると思っていたので、殺人罪は成立せず、同意殺人罪が成立し得るにとどまる。また、甲はXが死亡することについての認識・認容があったので、遺棄等致死罪(219条)は成立しない。

 同意殺人罪は作為の形式で定められており、このような場合に不作為により罪が成立するためには、法律などにより作為義務が存在し、その作為が容易であって、作為に及んでいたら高い可能性で結果を防止できたという、作為と同視できる条件が必要である。本件では、甲はXの子であり、民法上扶養義務が認められ、Xが死なないようにする義務があった。そして、甲にとって容易に採り得る措置を講じた場合には、乙の犯行を直ちに止めることができた可能性が高く、直ちに乙の犯行を止めてXの救命治療を要請していれば、Xを救命できたことは確実であった。乙を制止せずにその場から立ち去ったことは、それ自体は積極的な行動であり作為であるが、同意殺人罪にとっては意味をなさず不作為である。よって、甲には同意殺人罪が成立する。*

 なお、共同正犯(60条)が成立するためには意思連絡が相互に必要であり、乙は甲が帰宅したことに気付いていなかったので、共同正犯とはならない。

 また、甲は正犯となるので、従犯(62条1項)にはならない。

4.罪数関係

 以上より、甲には窃盗罪と同意殺人罪が成立し、これらは併合罪(45条)となる。

 

*に以下を挿入

 甲は、客観的には殺人罪を実行し、主観的には同意殺人罪の故意であったが、そのような錯誤は構成要件が重なり合う範囲では阻却されない。

以上

 

感想

 乙の罪責の記述があまりにも短くて不安になりました。本件帳簿にライターで火をつけてドラム缶の中に投入した行為については、他にも検討すべき罪があるような気がしましたが、時間の関係であれだけの記述にしました。




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