以下会社法についてはその条数のみを示す。
〔設問1〕
第1 Bの乙社に対する損害賠償責任
Bは乙社の取締役である。本件買取りは、名義も計算もBである。よって、356条1項2号に該当し、株主総会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない(同項本文)。乙社の取締役はBのみであり、365条の適用はない。乙社でその株主総会が開催された形跡はない。
本件ワインの市場価格は総額150万円であったところ、本件買取りは300万円で行われており、その差額の150万円分の損害が乙社に発生している。レストラン乙での提供価格は総額300万円程度となることが見込まれたとのことであるが、そうだとしても、得られたはずの利益が得られなくなっているので、やはり損害は発生している。よって、Bは、乙社に対し、150万円の損害賠償責任を負う(423条3項1号、1項)。
甲社は乙社の発行済株式の全てを保有しており、完全親会社(847条の3第2項1号)である。Cは、その甲社の株式の10分の3を有しており、総株主の議決権の100分の1以上の議決権を有する株主である。よって、Cは、乙社に対し、特定責任追及の訴えの提起を請求することができる(847条の3第1項)。乙社がその請求の日から60日以内に特定責任追及の訴えを提起しないときは、Cは、乙社のために、特定責任追及の訴えを提起することができる(同条7項)。
第2 Aの甲社に対する損害賠償責任
Aは甲社の取締役であり、忠実義務を負う(355条)。これは、民法644条の善管注意義務と同じであると解されている。よって、A社は、甲社の財産である、乙社の株式価値をき損しないようにする義務を負っている。Aは、本件買取りを漫然と承認することにより、第1で述べた損害が乙社に発生し、その分だけ乙社の株式価値が低下している。以上より、Aは、甲社に対し、150万円の損害賠償責任を負う(423条1項)。
Cは甲社の株主である。よって、Cは、甲社に対し、責任追及等の訴えの提起を請求することができる(847条1項本文)。甲社がその請求の日から60日以内に責任追及等の訴えを提起しないときは、Cは、甲社のために、責任追及等の訴えを提起することができる(同条3項)。
〔設問2〕
第1 甲社において必要となる手続
(1) 自己株式の取得(155条)
本件合意により、甲社は自己株式を取得する。よって、甲社は、株主総会の決議によって、156条1項各号の事項を定めなければならない(同条1項本文)。そして、Cという特定の株主からの取得であるため、160条の要件も満たさなければならない。
(2) 事業譲渡(467条1項2号の2)
丙社の株式の帳簿価額は3000万円であり、総資産額1億円の5分の1を超える(同号イ)。よって、その効力を生ずる日の前日までに、株主総会の決議によって、当該行為に係る契約の承認を受けなければならない(467条1項本文)。
第2 乙社において必要となる手続
467条1項4号。株主総会の決議による契約の承認。
以上
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