問題
〔第2問〕(配点:100〔〔設問1〕,〔設問2〕(1),〔設問2〕(2),〔設問3〕の配点の割合は,3.5:1.5:3.5:1.5〕)
社団法人Aは,モーターボート競走の勝舟投票券の場外発売場(以下「本件施設」という。)をP市Q地に設置する計画を立て,平成22年に,モーターボート競走法(以下「法」という。)第5条第1項により国土交通大臣の許可(以下「本件許可」という。)を受けた。Aは,本件許可の申請書を国土交通大臣に提出する際に,国土交通省の関係部局が発出した通達(「場外発売場の設置等の運用について」及び「場外発売場の設置等の許可の取扱いについて」)に従い,Q地の所在する地区の自治会Rの同意書(以下「本件同意書」という。)を添付していた。本件許可がなされた直後に,Q地の近隣に法科大学院Sを設置している学校法人X1,及び自治会Rの構成員でありQ地の近隣に居住しているX2は,国に対し本件許可の取消しを求める訴え(以下「本件訴訟」という。)を提起した。本件訴訟が提起されたため,Aは,本件施設の工事にいまだ着手していない。
Aの計画によれば,本件施設は,敷地面積約3万平方メートル,建物の延べ床面積約1万平方メートルで,舟券投票所,映像設備,観覧スペース,食堂,売店等から構成され,700台を収容する駐車場が設置される。本件施設が場外発売場として営業を行うのは,1年間に350日であり,そのうち300日はナイターが開催される。本件施設の開場は午前10時であり,ナイターが開催されない場合は午後4時頃,開催される場合は午後9時頃に,退場者が集中することになる。
また,本件施設の設置を計画されているQ地,X2の住居,法科大学院S,及びこれらに共通の最寄り駅であるP駅の間の位置関係は,次のとおりである。Q地,X2の住居,法科大学院Sは,いずれも,P駅からまっすぐに南下する県道(以下「県道」という。)に面している。P駅の周辺には商店や飲食店が立ち並び,住民,通勤者,通学者などが利用している。P駅から県道を通って南下した場合,P駅から近い順に,法科大学院S,X2の住居,Q地が所在し,P駅からの距離は,法科大学院Sまでは約400メートル,X2の住居までは約600メートル,Q地までは約800メートルである。逆にQ地からの距離は,X2の住居までは約200メートル,法科大学院Sまでは約400メートルとなる。
平成23年になって,本件訴訟の過程で,本件同意書について次のような疑いが生じた。自治会Rでは,X2も含めて,本件施設の設置に反対する住民が相当な数に上る。それにもかかわらず,Aによる本件施設の設置に同意することを決議した自治会Rの総会において,同意に賛成する者が123名であったのに対し,反対する者は,10名しかいなかった。これは,自治会Rの役員が,本件施設の設置に反対する住民に総会の開催日時を通知しなかったために,大部分の反対派の住民が総会に出席できなかったためではないか,という疑いである。
国土交通大臣は,この疑いが事実であると判明した場合,次の措置を執ることを検討している。まず,Aに対し,自治会Rの構成員の意思を真に反映した再度の決議に基づく自治会Rの同意を改めて取得し,国土交通大臣に自治会Rの同意書を改めて提出するように求める(以下「要求措置」という。)。そして,Aが自治会Rの同意及び同意書を改めて取得することができない場合には,本件許可を取り消す(以下「取消措置」という。)。
以上の事案について,P市に隣接するT市の職員は,将来T市でも同様の事態が生じる可能性があることから,弁護士に調査検討を依頼することにした。【資料1 会議録】を読んだ上で,T市の職員から依頼を受けた弁護士の立場に立って,以下の設問に答えなさい。
なお,法及びモーターボート競走法施行規則(以下「施行規則」という。)の抜粋を【資料2 関係法令】に,関係する通達の抜粋を【資料3 関係通達】に,それぞれ掲げるので,適宜参照しなさい。
〔設問1〕
本件訴訟は適法か。X1及びX2それぞれの原告適格の有無に絞って論じなさい。
〔設問2〕
国土交通大臣が検討している要求措置及び取消措置について,以下の小問に答えなさい。
(1) Aが国土交通大臣に対し,要求措置に従う意思がないことを表明しているにもかかわらず,国土交通大臣がAに対し,取消措置を執る可能性を示しながら要求措置を執り続けた場合,Aは,取消措置を受けるおそれを除去するには,どのような訴えを提起するべきか。最も適法とされる見込みが高く,かつ,実効的な訴えを,具体的に二つ候補を挙げて比較検討した上で答えなさい。仮の救済は,考慮しなくてよい。
(2) Aが国土交通大臣に対し,要求措置に従う意思がないことを表明したため,国土交通大臣がAに対し取消措置を執った場合,当該取消措置は適法か。解答に当たっては,関係する法令の定め,自治会の同意を要求する通達,及び国土交通大臣がAに対し執り得る措置の範囲ないし限界を丁寧に検討しなさい。
〔設問3〕
T市は,新たに条例を定めて,次のような規定を置くことを検討している。①T市の区域に勝舟投票券の場外発売場を設置しようとする事業者は,T市長に申請してT市長の許可を受けなければならない。②T市長は,場外発売場の施設が周辺環境と調和する場合に限り,その設置を許可する。
このような条例による許可の制度が,事業者に対して実効性を持ち,また,住民及び事業者の利害を適切に調整できるようにするためには,上記①②の規定以外に,どのような規定を条例に置くことが考えられるか。また,このような条例を制定する場合に,条例の適法性に関してどのような点が問題になるか。考えられる規定の骨子及び条例の問題点を,簡潔に示しなさい。
【資料1 会議録】
職 員:P市は,場外舟券売場の件で大騒ぎになっていますが,我がT市にとっても他人事ではありません。公営ギャンブルの場外券売場の設置が計画される可能性は,T市にもあります。そこで,P市の事案を様々な角度から先生に検討していただいて,T市としても課題を見付け出し,将来のための備えをしたいと考えています。そのような趣旨ですから,P市の事案のいずれかの当事者や利害関係者の立場に立たずに,第三者の視点から御検討をお願いいたします。
弁護士:公営ギャンブルの場外券売場の設置許可は,刑法第187条の富くじに当たるものの発売等を適法にする法制度である点が,通常の事業の許認可とは違うところですね。私もこれまで余り調査したことがない分野ですが,検討した上で文書を作成してみましょう。
職 員:早速,まず本件訴訟についてですが,これは,適法な訴えなのでしょうか。法,施行規則,それから関係する通達を読みますと,それぞれに関係しそうな規定があるのですが,これらの規定のそれぞれが,本件訴訟の適法性を判断する上でどのような意味を持つのか,どうもうまく整理できないのです。
弁護士:問題になるのは,原告適格ですね。私の方で,法,施行規則,それから通達の関係する規定と,それらの規定が原告適格を判断する上で持つ意味を明らかにしながら,X1とX2それぞれの原告適格の有無を考えてみましょう。
職 員:お願いします。仮に本件訴訟が適法とされた場合に,本件許可が適法と判決されそうかどうかも問題ですが,今年になって,状況が大きく変わりましたので,差し当たりその問題までは検討していただかなくて結構です。
弁護士:状況が変わったとは,どういうことですか。
職 員:地元の同意書の作成プロセスについて重大な疑惑が持ち上がり,今度は,紛争が国土交通大臣とAとの間で生じる可能性が出てきたのです。Aは,裁判になって対立が激化してからもう一度地元の同意書を取ることなど無理だというので,同意を取り直すつもりがないようですが,国土交通大臣の方も,地元を軽んじる姿勢は取れないので,Aに同意書を取り直すように求め続けることが予想されます。この場合,今度は,Aが何らかの訴えを起こすことはできるのでしょうか。
弁護士:最も可能性のある訴えを検討して,具体的に挙げてみましょう。
職 員:それから,やや極端なケースを想定するのですが,地元の同意のプロセスに重大な瑕疵があった場合,国土交通大臣は,本件許可を取り消すことができるのでしょうか。この問題については,どうも私の頭が混乱しているので,いろいろ質問させてください。まず,施行規則第12条は,許可の基準として地元の同意とは規定していないのですが,そもそも,この条文に定められた基準以外の理由で,許可を拒否できるのですか。
弁護士:関係法令をよく検討して,お答えすることにします。
職 員:よろしくお願いします。付け加えますと,地元の同意と定めているのは,国土交通省の通達の方であり,これもそもそもの話になるのですが,このような通達に定められたことを理由にして,許可を拒否してよいのですか。この点も教えていただければと思います。
弁護士:問題となっている通達の法的な性格をはっきりと説明するように,文書にまとめてみます。
職 員:通達の中身について言いますと,地元の同意を重視している点は,自治体の職員としてはとてもよく理解できます。ただ,許可の取消しという措置まで執ることができるのかと問われると,自信を持って答えられないのです。
弁護士:法律家から見ますと,地元の同意を重視する行政手法には,問題点もありますね。国土交通大臣が本件許可の申請に際して地元自治会の同意を得ておくように求める行政手法の意義と問題点を,まとめておきましょう。その上で,疑惑が事実であると仮定して,国土交通大臣は,Aに対してどこまでの指導,処分といった措置を執ることができるのか,執り得る措置の範囲ないし限界についても綿密に検討しておきます。
職 員:今言われた「処分」について詳しく伺いたいのですが,仮に,地元自治会の同意がない場合に,国土交通大臣が申請に対して不許可処分をする余地が多かれ少なかれあるという考え方を採ると,一度許可をした後で許可を取り消す処分もできることになるのでしょうか。
弁護士:そこまで考えて,ようやく答えが出ますね。全体を順序立てて文書にまとめてみます。
職 員:助かります。それでやっと,我がT市の話になるのですが,T市の区域で場外舟券売場を設置しようとする事業者が現れた場合,国が定めた法令や通達の基準だけで設置を認めるのでは,不十分であると考えています。T市としては,調和のとれた街づくりをするために,場外舟券売場が周辺環境と調和するかをしっかりと審査して,市長が調和しないと判断した場合には,設置をやめていただく制度を作りたいと考えています。このような制度を条例で定める場合に,配慮すべき点を教えていただければ幸いです。
弁護士:解釈論だけでなく,立法論も大事ですからね。簡潔にまとめておきましょう。
【資料2 関係法令】
○ モーターボート競走法(昭和26年6月18日法律第242号)(抜粋)
(趣旨)
第1条 この法律は,モーターボートその他の船舶,船舶用機関及び船舶用品の改良及び輸出の振興並びにこれらの製造に関する事業及び海難防止に関する事業その他の海事に関する事業の振興に寄与することにより海に囲まれた我が国の発展に資し,あわせて観光に関する事業及び体育事業その他の公益の増進を目的とする事業の振興に資するとともに,地方財政の改善を図るために行うモーターボート競走に関し規定するものとする。
(競走の施行)
第2条 都道府県及び人口,財政等を考慮して総務大臣が指定する市町村(以下「施行者」という。)は,その議会の議決を経て,この法律の規定により,モーターボート競走(以下「競走」という。)を行うことができる。
2~4 (略)
5 施行者以外の者は,勝舟投票券(以下「舟券」という。)その他これに類似するものを発売して,競走を行つてはならない。
(競走場の設置)
第4条 競走の用に供するモーターボート競走場を設置し又は移転しようとする者は,国土交通省令で定めるところにより,国土交通大臣の許可を受けなければならない。
2~4 (略)
5 国土交通大臣は,必要があると認めるときは,第1項の許可に期限又は条件を附することができる。
6 国土交通大臣は,第1項の許可を受けた者(以下「競走場設置者」という。)が1年以上引き続き同項の許可を受けて設置され若しくは移転されたモーターボート競走場(以下「競走場」という。)を競走の用に供しなかつたとき,又は競走場の位置,構造及び設備がその許可の基準に適合しなくなつたと認めるときは,同項の許可を取り消すことができる。
7,8 (略)
(場外発売場の設置)
第5条 舟券の発売等の用に供する施設を競走場外に設置しようとする者は,国土交通省令で定めるところにより,国土交通大臣の許可を受けなければならない。当該許可を受けて設置された施設を移転しようとするときも,同様とする。
2 国土交通大臣は,前項の許可の申請があつたときは,申請に係る施設の位置,構造及び設備が国土交通省令で定める基準に適合する場合に限り,その許可をすることができる。
3 競走場外における舟券の発売等は,第1項の許可を受けて設置され又は移転された施設(以下「場外発売場」という。)でしなければならない。
4 前条第5項及び第6項の規定は第1項の許可について,同条第7項及び第8項の規定は場外発売場及び場外発売場設置者(第1項の許可を受けた者をいう。以下同じ。)について,それぞれ準用する。
(競走場内等の取締り)
第22条 施行者は,競走場内の秩序(場外発売場において舟券の発売等が行われる場合にあつては,当該場外発売場内の秩序を含む。)を維持し,かつ,競走の公正及び安全を確保するため,入場者の整理,選手の出場に関する適正な条件の確保,競走に関する犯罪及び不正の防止並びに競走場内における品位及び衛生の保持について必要な措置を講じなければならない。
(競走場及び場外発売場の維持)
第24条 (略)
2 場外発売場設置者は,その場外発売場の位置,構造及び設備を第5条第2項の国土交通省令で定める基準に適合するように維持しなければならない。
(秩序維持等に関する命令)
第57条 国土交通大臣は,競走場内又は場外発売場内の秩序を維持し,競走の公正又は安全を確保し,その他この法律の施行を確保するため必要があると認めるときは,施行者,競走場設置者又は場外発売場設置者に対し,選手の出場又は競走場若しくは場外発売場の貸借に関する条件を適正にすべき旨の命令,競走場若しくは場外発売場を修理し,改造し,又は移転すべき旨の命令その他必要な命令をすることができる。
(競走の開催の停止等)
第58条 (略)
2 国土交通大臣は,競走場設置者若しくは場外発売場設置者又はその役員が,この法律若しくはこの法律に基づく命令若しくはこれらに基づく処分に違反し,又はその関係する競走につき公益に反し,若しくは公益に反するおそれのある行為をしたときは,当該競走場設置者又は当該場外発売場設置者に対し,その業務を停止し,若しくは制限し,又は当該役員を解任すべき旨を命ずることができる。
3 (略)
(競走場等の設置等の許可の取消し)
第59条 国土交通大臣は,競走場設置者又は場外発売場設置者が前条第2項の規定による命令に違反したときは,当該競走場又は当該場外発売場の設置又は移転の許可を取り消すことができる。
○ モーターボート競走法施行規則(昭和26年7月9日運輸省令第59号)(抜粋)
(場外発売場の設置等の許可の申請)
第11条 法第5条第1項の規定により場外発売場の設置又は移転の許可を受けようとする者は,次に掲げる事項を記載した申請書を国土交通大臣に提出しなければならない。
一 申請者の氏名又は名称及び住所並びに法人にあつては代表者の氏名
二 場外発売場の設置又は移転を必要とする事由
三 場外発売場の所在地
四 場外発売場の構造及び設備の概要
五 場外発売場を中心とする交通機関の状況
六 場外発売場の建設費の見積額及びその調達方法
七 場外発売場の建設工事の開始及び完了の予定年月日
八 その他必要な事項
2 前項の申請書には,次に掲げる書類を添付しなければならない。
一 場外発売場付近の見取図(場外発売場の周辺から1000メートルの区域内にある文教施設及び医療施設については,その位置及び名称を明記すること。)
二 場外発売場の設備の構造図及び配置図(1000分の1以上の縮尺による。)
三 申請者が当該施設を使用する権原を有するか,又はこれを確実に取得することができることを証明する書類
四 場外発売場の経営に関する収支見積書
五 施行者の委託を受けて舟券の発売等を行う予定であることを証明する書類
(場外発売場の設置等の許可の基準)
第12条 法第5条第2項の国土交通省令で定める基準(払戻金又は返還金の交付のみの用に供する施設及び設備の基準を除く。)は,次のとおりとする。
一 位置は,文教上又は衛生上著しい支障をきたすおそれのない場所であること。
二 構造及び設備が入場者を整理するため適当なものであること。
三 競走の公正かつ円滑な運営に必要な次に掲げる施設及び設備を有していること。
イ 舟券の発売等の用に供する施設及び設備
ロ 入場者の用に供する施設及び設備
ハ その他管理運営に必要な施設及び設備
四 (略)
2 (略)
【資料3 関係通達】
○ 場外発売場の設置等の運用について(平成20年2月15日付け国海総第136号海事局長から各地方運輸局長,神戸運輸監理部長あて通達)(抜粋)
7 場外発売場設置予定者は,設置許可申請書に省令第2条の7(注1)第2項に定める書類のほか,地元との調整がとれていることを証明する書類及び管轄警察の指導の内容が反映されていることを証明する書類並びに建築確認申請書の写しを添付すること。
(注1)【資料2 関係法令】に掲げる現行のモーターボート競走法施行規則第11条を指す。以下「省令」とは現行のモーターボート競走法施行規則を指す。
○ 場外発売場の位置,構造及び設備の基準の運用について(平成20年2月15日付け国海総第139号海事局長から各地方運輸局長,神戸運輸監理部長あて通達)(抜粋)
1 場外発売場の基準
場外発売場の基準の運用については,次のとおりとする。
⑴ 位置(省令第12条第1項第1号)
① 「文教上著しい支障をきたすおそれがあるか否か」の判断は,文教施設から適当な距離を有している,当該設置場所が主たる通学路(学校長が児童又は生徒の登下校の交通安全の確保のために指定した小学校又は中学校の通学路をいう。)に面していないなど総合的に判断して行う。
② 「衛生上著しい支障をきたすおそれがあるか否か」の判断は,医療施設から適当な距離を有している,救急病院又は救急診療所(都道府県知事が救急隊により搬送する医療機関として認定したものをいう。)への救急車の主たる経路に面していないなど総合的に判断して行う。
③ 文教施設とは,学問又は教育を行う施設であり,学校教育法第1条の学校(小学校,中学校,高等学校,中等教育学校,大学,高等専門学校,盲学校,聾学校,養護学校及び幼稚園)及び同法第82条の2の専修学校をいう。
④ 医療施設とは,医療法第1条の5第1項の病院及び同条第2項の診療所(入院施設を有するものに限る。)をいう。
⑤ 「適当な距離」とは,著しい影響を及ぼさない距離をいい,場外発売場の規模,位置,道路状況,周囲の地理的要因等により大きく異なる。
⑵~⑸ (略)
○ 場外発売場の設置等の許可の取扱いについて(平成20年3月28日付け国海総第513号海事局総務課長から各地方運輸局海事振興部長,北陸信越運輸局海事部長,神戸運輸監理部海事振興部長あて通達)(抜粋)
7 局長通達(注2)7の「地元との調整がとれていること」とは,当該場外発売場の所在する自治会等の同意,市町村の長の同意及び市町村の議会が反対を議決していないことをいう。
(注2)前記の平成20年2月15日付け国海総第136号「場外発売場の設置等の運用について」を指す
練習答案
[設問1]
X1には原告適格が認められ、X2には認められないので、本件訴訟はX1に限って適法である。
本件訴訟で取消しを求められている本件許可は国がAを名宛人として行ったものであり、X1もX2も本件許可という処分の相手方以外の者である。そのような者の原告適格は、当該処分の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮するものとされる(行政事件訴訟法9条2項)。
本件許可処分の根拠となる法令はモーターボート競走法(以下「法」とする)であり、その趣旨は、海に囲まれた我が国の発展、観光、体育、その他公益の増進を目的とする事業の振興、地方財政の改善である(法1条)。しかし、当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌するものとされているので(行政事件訴訟法9条2項)、法と目的を共通にする関係法令であるモーターボート競争法施行規則(以下「規則」とする)を参酌すると、文教上又は衛生上著しい支障をきたさないこともその趣旨に含まれる(規則12条1項1号)。衛生上の支障とは医療施設に関するもので本件では関係ないが、文教上の支障とは大学など文教施設から適当な距離を有しているかなどから判断される(平成20年2月15日付け国海総第139号通達)。もしこのまま本件施設が設置されたら、本件施設と最寄りのP駅からちょうど400mずつ離れている法科大学院Sでは静穏な環境で学習や教育ができなくなる恐れがある。本件施設は面積や駐車場の収容台数から数千人から数万人を収容することが想定され、ほぼ1年中営業されるので、静穏な環境が害される程度も大きいと見込まれる。
以上より、そのような法科大学院Sを設置しているX1には原告適格が認められる。Q地の近隣に居住しているX2には原告適格が認められない。
[設問2]
(1)
本件要求措置は名宛人であるAの権利義務に直接関係しないので処分ではなく行政指導(行政手続法2条6号)であり、これそのものの取消しを求めることはできない。よってその後に予想される取消措置(これはAの権利義務に直接関係するので処分である)の差止めの訴え(行政事件訴訟法3条7項)か、Aが本件施設を設置することができる地位にあることを確認する当事者訴訟(行政事件訴訟法4条)の2つの候補が考えられる。
訴訟要件はどちらの場合も満たしている。前者では、一定の処分(取消措置)がされることにより重大な損害を生ずるおそれがある場合に限られているが(行政事件訴訟法第37条の4第1項)、本件では工事こそ未着工なものの各種の申請やA内部や関係機関との調整は既になされているだろうから、重大な損害を生ずるおそれがある。一度許可したものを取消すという事情も考慮されるべきである。後者では行政事件訴訟法に要件の定めがないので、民事訴訟の例による(行政事件訴訟法7条)。確認訴訟では紛争の成熟性と対象選択の適切性が求められるが、本件ではどちらも条件を満たす。両者とも補充性の要件があるが、どちらかが認められれば他方は認められないというものであり、ここでは決め手にならない。
実効性の観点からは前者が優れている。というのも、争う範囲が取消措置という処分に絞られているからである。後者であればあらゆる事情を考慮して判断されなければならない。
以上より、Aは、取消措置という処分の差止めの訴えを提起すべきである。
(2)
国土交通大臣がAに対して執った取消措置は、法59条に基づいており、さらに遡ると法58条2項の、この法律若しくはこの法律に基づく命令若しくはこれらに基づく処分に違反したというものである。具体的に言うと、場外発売場の設置許可に係る法5条1項及び規則11条である。
そのどちらにも自治会の同意を要求する文言はないのでAはどちらにも違反しておらず、本件取消措置は違法であるという反論があるかもしれない。しかしそもそも場外発売場の設置許可は「国土交通大臣は、(中略)許可をすることができる」(法5条2項)のであり、そこには一定の裁量が認められる。自治会の同意を要求する通達はこの裁量の範囲内である。よって最初から自治会の同意がなかったとしたら、国土交通大臣は不許可処分をする余地があったわけである。
そうだとしても一度許可したものを取消すのは話が別だというAからの反論があり得る。しかしAは欺くような手法で自治会の同意があるように見せかけたのだから、そのようにして得られた許可を特別に保護する理由はない。もしこれを認めてしまうと、どのような手段を使ってでも最初の申請をクリアすればよいという考えを助長してしまう。
以上より本件取消措置は適法である。
[設問3]
設問にあるような条例による許可の制度が、事業者に対して実効性を持ち、また、住民及び事業所の利害を適切に調整できるようにするためには、①②の規定以外に、設置場所に関する規定を条例に置くことが考えられる。具体的には、一定の住宅地には設置してはいけないといった規定である。
このような条例を制定する場合に、法律に抵触しないかが問題になる。地方公共団体は、法律の範囲内で条例を制定することができる(日本国憲法94条)と定められているからである。本件条例は法に上乗せするような規定を設けているので、そのような条例が法律の範囲内と言えるかが問題点になる。
以上
修正答案
[設問1]
X1には原告適格が認められ、X2には認められないので、本件訴訟はX1に限って適法である。
本件訴訟で取消しを求められている本件許可は国土交通大臣がAを名宛人として行ったものであり、X1もX2も本件許可という処分の相手方以外の者である。そのような者の原告適格を判断する際には、当該処分の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮するものとされる(行政事件訴訟法9条2項)。そこで一般的公益に解消されない個々人の個別的利益が保護されていれば、その者は当該処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有すると言えるのである。
本件許可処分の根拠となる法令はモーターボート競走法(以下「法」とする)であり、その趣旨は、海に囲まれた我が国の発展、観光、体育、その他公益の増進を目的とする事業の振興、地方財政の改善である(法1条)。しかし、当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌するものとされているので(行政事件訴訟法9条2項)、法と目的を共通にする関係法令であるモーターボート競争法施行規則(以下「規則」とする)を参酌すると、文教上又は衛生上著しい支障をきたさないこともその趣旨に含まれる(規則12条1項1号)。衛生上の支障とは医療施設に関するもので本件では関係ないが、文教上の支障とは大学など文教施設から適当な距離を有しているかなどから判断される(平成20年2月15日付け国海総第139号通達)。通達は関係法令には含まれないが、関係法令を解釈するための材料として用いることが禁止されているわけではない。そして文教施設からの適当な距離の一つの目安は1000メートルである(規則11条2項1号)。もしこのまま本件施設が設置されたら、本件施設と最寄りのP駅からちょうど400mずつ離れている法科大学院Sでは静穏な環境で学習や教育、つまりX1による想定された業務ができなくなる恐れがある。本件施設は面積や駐車場の収容台数から数千人から数万人を収容することが想定され、ほぼ1年中営業されるので、静穏な環境が害される程度も大きいと見込まれる。
本件施設は近隣住民に騒音等をもたらすおそれがあるが、当該法令や関係法令にそうした近隣住民を個別的に保護する規定は見当たらず、X2のような近隣住民が当該処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有するとは言えない。X2はQ地の所在する地区の自治会Rの構成員でもあるが、自治会やその構成員の利益を個別的に保護する規定も関係法令にはないので(前述のように通達そのものは関係法令ではない)、その線からもX2の原告適格は認められない。
以上より冒頭の結論となる。
[設問2]
(1)
本件要求措置は名宛人であるAの権利義務に直接関係しないので処分ではなく行政指導(行政手続法2条6号)であり、これそのものの取消しを求めることはできない。よってその後に予想される取消措置(これはAの権利義務に直接関係するので処分である)の差止めの訴え(行政事件訴訟法3条7項)か、Aが本件要求措置に従う義務のないことを確認する当事者訴訟(行政事件訴訟法4条)の2つの候補が考えられる。
訴訟要件はどちらの場合も満たしていると考えられる。前者では、一定の処分(取消措置)がされることにより重大な損害を生ずるおそれがある場合に限られているが(行政事件訴訟法第37条の4第1項)、本件では工事こそ未着工なものの各種の申請やA内部や関係機関との調整は既になされているだろうから、重大な損害を生ずるおそれがある。一度許可したものを取消すという事情も考慮されるべきである。後者では行政事件訴訟法に要件の定めがないので、民事訴訟の例による(行政事件訴訟法7条)。確認訴訟では紛争の成熟性と対象選択の適切性が求められるが、本件ではどちらも条件を満たす。両者とも補充性の要件があるが、どちらかが認められれば他方は認められないというものであり、ここでは決め手にならない。
実効性の観点からは前者が優れている。というのも、前者で勝訴すれば取消措置という処分そのものが禁止されるのでAとしては安心できるのに対し、後者で勝訴したとしても本件要求措置に従う義務のないことが確認されるだけで、その他の理由で取消措置を受ける可能性が残るからである。
以上より、Aは、取消措置という処分の差止めの訴えを提起すべきである。
(2)
国土交通大臣がAに対して執った取消措置は、瑕疵ある行政処分の職権取消である。適法な行政処分を事後的に撤回する場合とは異なり、職権取消では本来なされるべきではなかった処分がなされた後にそれを取消して本来あるべき姿に戻すのであるから、法律の定めがなくてもこれを行うことができる。
そこで始めに、地元の同意がないことを理由として本件施設の設置許可申請を拒否するべきであったかを検討する。場外発売場の設置許可は「国土交通大臣は、(中略)許可をすることができる」(法5条2項)のであり、そこには一定の裁量が認められる。公営ギャンブルの場外券売場の設置許可は、刑法第187条の富くじに当たるものの発売等を適法にする法制度である点(もともと禁止されていることを特別に許可するのであって申請をすれば当然に許可されるべき性質のものではないという点)からもこの裁量は裏付けられる。裁量権を濫用してはならないが、地方自治体が行う事業に関して、地元の同意がないことを、許可を拒否するための一つの考慮要素とすることは不適当ではない。
しかし、だからといって、自治会の同意書を提出しなければ即拒否されるというわけではない。自治会の同意を要求しているのは通達であり、通達は直接外部に対し拘束力を持つものではないからである。地元と誠実に協議したが自治会の同意書を提出することができなかったような場合に、許可をする余地がないわけではない。本件ではそうした事情はなく、むしろ疑惑が事実であるならばAの地元との協議姿勢は不誠実である。よって本件施設の設置許可申請があった時点で、Aが地元と誠実に協議してないことを国土交通大臣が知っていたら、裁量の範囲内で拒否されるべきであった。
このような理由で職権取消ができたとしても、瑕疵を治癒すべくその前に行政指導を行うことがあり得る。本件の要求措置がそれである。この場合は行政指導に従わなかったことを理由とした不利益取扱いではないので、行政手続法32条2項に抵触しない。
始めの設置許可を拒否すべきであったとしても、一度許可したものを取消すのは話が別であり、無制限にこれが許されるわけではないというAからの反論があり得る。処分の名宛人の期待や法的安定性を犠牲にしてまで職権取消をすべきではないという反論である。しかし疑惑が事実であるならAは欺くような手法で自治会の同意があるように見せかけたのだから、そのようにして得られた許可を特別に保護する理由はない。もしこれを認めてしまうと、どのような手段を使ってでも最初の申請をクリアすればよいという考えを助長してしまう。
以上より本件取消措置は適法である。
[設問3]
設問にあるような条例による許可の制度が、事業者に対して実効性を持ち、また、住民及び事業者の利害を適切に調整できるようにするためには、①②の規定以外に、条例に違反した場合に事業者に課す罰則規定や、許可申請に先立って住民その他利害関係者や専門家が参加する協議会の開催を事業者に義務づける規定を置くことが考えられる。
このような条例を制定する場合に、法律に抵触しないかが問題になる。地方公共団体は、法律の範囲内で条例を制定することができる(日本国憲法94条)と定められているからである。法律に抵触しないかを判断する際には、法律と条例の趣旨・目的を考えることになる。また、条例で罰則を設けることに関しては、2年以下の懲役若しくは禁錮、100万円以下の罰金、拘留、科料若しくは没収の刑又は5万円以下の過料を科する旨の規定であれば可能である(地方自治法14条3項)。
以上
感想
[設問1]では通達が関係法令に含まれるかを明記せずにごまかすなど雑な記述でした。[設問2]の(1)は処分の差止め訴訟と当事者訴訟の確認訴訟という2つを思いつくことができたのはよかったですが、重大な損害を生ずるおそれを肯定してもよいものか迷います。(2)は職権取消という発想がなかったのでひどい答案を書いてしまいました。[設問3]も設問の指示に従った案を出せなかったのが悔やまれます。