問題
〔第1問〕(配点:100)
Aは,B県が設置・運営するB県立大学法学部の学生で,C教授が担当する憲法ゼミナール(以下「Cゼミ」という。)を履修している。Cゼミの202*年度のテーマは,「人間の尊厳と格差問題」である。Cゼミ生は,C教授の承諾も得て,ゼミの研究活動の一環として貧富の格差の拡大に関して多くの県民と議論することを目的としたシンポジウム「格差問題を考える」を県民会館で開催した。そのシンポジウムでの活発な意見交換を経て,「格差の是正」を訴える一連のデモ行進を行うことになった。そのデモ行進については,Cゼミ生を中心として実行委員会が組織され,Aがその委員長に選ばれた。実行委員会は,第1回目のデモ行進を202*年8月25日(日)に行うこととして,ツイッター等を通じて参加を呼び掛けたところ,参加希望者は約1000人となった。そこで,Aは,主催者として,B県集団運動に関する条例第2条(【参考資料1】参照)の定めにより,B県の県庁所在地であるB市の金融街から市役所,県庁に至る片道約2キロメートルの幹線道路を約1000人の参加者が往復するデモ行進許可申請書を提出した。デモ行進が行われる幹線道路沿いには多くの飲食店があり,市の中心部にある県庁や市役所の周りは県内最大の商業ゾーンでもある。B県公安委員会は,デモ行進は片側2車線の車道の歩道寄りの1車線内のみを使うことという条件付きで許可した。
第1回目のデモ行進の当日,Aら実行委員会は,デモ参加者に対し,デモ行進中は拡声器等を使用しないこと,また,ビラの類は配らず,ゴミを捨てないようにすることを徹底させた。第1回目のデモ行進は,若干の飲食店から売上げが減少したとの県への苦情があったが,その他は特に問題を起こすことなく終えた。そこで,Aら実行委員会は,第2回目のデモ行進を同年9月21日(土)に,第1回目と同じ計画で行うこととし,同月5日(木)にデモ行進の許可申請を行った。これに対し,B県公安委員会は,第1回目と同様の条件を付けて許可した。
B県では,次年度以降の財政の在り方をめぐり,社会福祉関係費の削減を中心として,知事と県議会が激しく対立していた。知事は,同月13日(金)に,B県住民投票に関する条例(【参考資料2】参照)第4条第3項に基づき,「社会福祉関係費の削減の是非」を付議事項として住民投票を発議し,翌10月13日(日)に住民投票を実施することとした。
第2回目のデモ行進も,拡声器等を使用せず,ビラの類も配らずに無事終了した。ただし,住民投票実施ということもあって参加者は2000人近くに達し,「県の社会福祉関係費の削減に反対」という横断幕やプラカードを掲げる参加者もいたし,「社会福祉関係費の削減に反対票を投じよう」というシュプレヒコールもあった。また,デモ行進が行われた道路で交通渋滞が発生したために,幹線道路に近接した閑静な住宅街の道路を迂回路として使う車が増えた。第2回目のデモ行進終了後,市民や町内会からは,住宅街で交通事故が起きることへの不安や騒音被害を訴える苦情が県に寄せられた。また,第1回目よりも更に多くの飲食店から,デモ行進の影響で飲食店の売上げが減少したという苦情が県に寄せられた。
Aら実行委員会は,第3回目のデモ行進を同年9月29日(日)に行うことにして,参加予定人員を2000人とし,その他は第1回目・第2回目と同様の計画で許可申請を行った。しかし,B県公安委員会は,住民投票日が近づいてきて一層住民の関心が高まっており,第3回目のデモ行進は,市民の平穏な生活環境を害したり,商業活動に支障を来したりするなど,住民投票運動に伴う弊害を生ずる蓋然性が高いと判断し,当該デモ行進の実施がB県集団運動に関する条例第3条第1項第4号に該当するとして,当該申請を不許可とした。
この不許可処分に抗議するために,Aら実行委員ばかりでなく,デモ行進に参加していた人たち約200人が,B県庁前に集まった。そこに地元のテレビ局が取材に来ていて,Aがレポーターの質問に答えて,「第1回のデモ行進と第2回のデモ行進が許可されたのに,第3回のデモ行進が不許可とされたのは納得がいかない。平和的なデモ行進であるのにもかかわらず,デモ行進を不許可としたことは,県の重要な政策問題に関する意見の表明を封じ込めようとするものであり,憲法上問題がある」と発言する映像が,ニュースの中で放映された。そのニュースを,B県立大学学長や副学長も観ていた。
AたちCゼミ生は,当初から,学外での活動の締めくくりとして,学内で「格差問題と憲法」をテーマにした講演会の開催を計画していた。デモ行進が不許可になったので学内講演会の計画を具体化することとなったが,知事の施策方針に賛成する県議会議員と反対する県議会議員を講演者として招き,さらに,今回のデモ行進の不許可処分に関するC教授による講演を加えて,開催することにした。C教授の了承も得て,Aたちは,Cゼミとして教室使用願を大学に提出した。同じ頃,Cゼミ主催の講演会とは開催日が異なるが,経済学部のゼミからも,2名の評論家を招いて行う「グローバリゼーションと格差問題:経済学の観点から」をテーマとした講演会のための教室使用願が提出されていた。
B県立大学教室使用規則では,「政治的目的での使用は認めず,教育・研究目的での使用に限り,これを許可する」と定められている。この規則の下で,同大学は,ゼミ活動目的での申請であり,かつ,当該ゼミの担当教授が承認していれば教室の使用を許可する,という運用を行っている。同大学は,経済学部のゼミからの申請は許可したが,Cゼミからの申請は許可しなかった。大学側は,Aらが中心となって行ったデモ行進が県条例に違反すること,ニュースで流されたAの発言は県政批判に当たるものであること,また講演者が政治家であることから,Cゼミ主催の講演会は政治的色彩が強いと判断した。
Aは,B県を相手取ってこの2つの不許可処分が憲法違反であるとして,国家賠償訴訟を提起することにした。
〔設問1〕
あなたがAの訴訟代理人となった場合,2つの不許可処分に関してどのような憲法上の主張を行うか。
なお,道路交通法に関する問題並びにB県各条例における条文の漠然性及び過度の広汎性の問題は論じなくてよい。
〔設問2〕
B県側の反論についてポイントのみを簡潔に述べた上で,あなた自身の見解を述べなさい。
【参考資料1】B県集団運動に関する条例(抜粋)
第1条 道路,公園,広場その他屋外の公共の場所において集団による行進若しくは示威運動又は集会(以下「集団運動」という。)を行おうとするときは,その主催者は予めB県公安委員会の許可を受けなければならない。
第2条 前条の規定による許可の申請は,主催者である個人又は団体の代表者(以下「主催者」という。)から,集団運動を行う日時の72時間前までに次の事項を記載した許可申請書三通を開催地を管轄する警察署を経由して提出しなければならない。
一 主催者の住所,氏名
二 集団運動の日時
三 集団運動の進路,場所及びその略図
四 参加予定団体名及びその代表者の住所,氏名
五 参加予定人員
六 集団運動の目的及び名称
第3条 B県公安委員会は,前条の規定による申請があつたときは,当該申請に係る集団運動が次の各号のいずれかに該当する場合のほかは,これを許可しなければならない。
一~三 (略)
四 B県住民投票に関する条例第14条第1項第2号及び第3号に掲げる行為がなされることとなることが明らかであるとき。
2 B県公安委員会は,次の各号に関し必要な条件を付けることができる。
一,二 (略)
三 交通秩序維持に関する事項
四 集団運動の秩序保持に関する事項
五 夜間の静ひつ保持に関する事項
六 公共の秩序又は公衆の衛生を保持するためやむを得ない場合の進路,場所又は日時の変更に関する事項
【参考資料2】B県住民投票に関する条例(抜粋)
第1条 この条例は,県政に係る重要事項について,住民に直接意思を確認するための住民投票に係る基本的事項を定めることにより,住民の県政への参加を推進し,もって県民自治の確立に資することを目的とする。
第2条 住民投票に付することができる県政に係る重要事項(以下「重要事項」という。)は,現在又は将来の住民の福祉に重大な影響を与え,又は与える可能性のある事項であって,住民の間又は住民,議会若しくは知事の間に重大な意見の相違が認められる状況その他の事情に照らし,住民に直接その賛成又は反対を確認する必要があるものとする。
第4条 (略)
2 (略)
3 知事は,自ら住民投票を発議し,これを実施することができる。
4 住民投票の期日は,知事が定める。
第14条 何人も,住民投票の付議事項に対し賛成又は反対の投票をし,又はしないよう勧誘する行為(以下「住民投票運動」という。)をするに当たっては,次に掲げる行為をしてはならない。
一 買収,脅迫その他不正の手段により住民の自由な意思を拘束し又は干渉する行為
二 平穏な生活環境を害する行為
三 商業活動に支障を来す行為
2 (略)
練習答案
以下日本国憲法についてはその条数のみを示す。
[設問1]
1.デモ行進不許可処分について
デモ行進は、動く集会だと捉えるにせよ、言論活動だと捉えるにせよ、第21条第1項で保障される表現の自由に含まれる。しかしそれが無条件で絶対的に保障されるわけではなく他の権利との調整が必要となる。他の権利とは例えば生命・身体の自由(第13条)や営業の自由(第22条第1項)である。これらの権利に関する状況は地域ごとに異なっているので、条例でその調整を行ってもよい。こうした調整を目的とするB県集団運動に関する条例(以下条例①とする)の存在そのものは合憲である。
しかしその適用が違憲になることがある。それは理論的には表現の自由と他の権利との調整が不適当になる場合であるが、事例ごとに検討して判断するしかないので、以下では本件の具体的事情に即して考える。
本件デモ行進不許可処分の根拠は条例①第3条第1項第4号であり、そこではB県住民投票に関する条例(以下条例②とする)第14条第1項第2号及び第3号に掲げる行為がなされることとなることが明らかであるときという理由が書かれている。そうであっても表現の自由を制限するのは他の権利でなければならず、住民投票の円滑な実施や、ましてや住民投票での特定の結果のために表現の自由を制限してはならない。住民投票という事情は、平穏な生活環境(生命・身体の自由及び幸福追求権)を害する行為や商業活動(営業の自由)に支障を来す行為を評価するためだけに考慮されなければならない。
本件第1回目・第2回目のデモでは、平穏な生活環境や商業活動に多少の影響を与えたが、デモ行進を不許可とすべきほどではなかった。第3回目はその影響が増大することが予想されるが、Aもそれを見越して参加予定人員を2000人として許可申請を行っていた。これらの事情を総合的に考えると、デモ行進の場所・時間・様態に何らかの条件を付すことはあっても、デモ行進そのものを不許可とすることは権利調整といえども不適当であり、条例①及び条例②の適用違憲である。
2.教室使用不許可処分
大学で講演会を開催することは先に述べた表現の自由に加えて学問の自由(第23条)にも関係する。教室使用不許可処分には学問の自由をも制約するに足る理由が必要となる。
そもそも本件教室使用不許可処分について国家賠償訴訟を提起する相手方としてB県が適当であるのかという疑念が生じるかもしれないが、その点に問題はない。大学には一定の自治権があるが、それは無制限に認められるものではなく、憲法に違反して構成員に損害を与えた場合などには被告として適格である。本件で登場する大学はB県立大学なので、B県が被告になる。
本件教室使用不許可処分の理由は、Cゼミ主催の講演会は政治的色彩が強いというものである。経済学部のゼミからの申請は許可されていることからしても、他の理由はないようである。
戦前に特定の思想的傾向を有する研究をしている教授を大学から追放したことなどの反省から日本国憲法では学問の自由がはっきりと保障された。その趣旨は学問を政治から独立させることだと言えるが、学問を政治と関わらせないということではない。むしろどのような政治的傾向を有している学問も保障するということである。
この観点からB県立大学教室使用規則の文言を検討すると、「政治的目的での使用は認めず」とあるのは「もっぱら政治的目的での使用は認めず」という意味であり、教育・研究目的(学問目的)と政治性が併存していたとしても教育【原文ママ】使用は可能であると解釈しなければならない。
そうすると本件教室使用不許可処分はB県立大学教室使用規則を誤って解釈した結果Aらの学問の自由を侵害したことになるので憲法違反である。
[設問2]
1.B県側の反論
(1)デモ行進不許可処分について
本件デモ行進不許可処分は、条例①及び条例②に基づくものであって違憲ではない。既に交通事故への不安や飲食店の売上げ減少の苦情が寄せられていたところ、第3回目の本件デモを許可すると、平穏な生活環境が害され商業活動に支障を来すことは明らかだからである。
(2)教室使用不許可処分について
本件教室使用不許可処分は大学の自治権の範囲内でB県立大学教室使用規則に従って行ったものであり違憲ではない。大学は教育・研究機関であり、政治活動の場ではない。
2.私自身の見解
(1)デモ行進不許可処分について
本件デモ行進不許可処分は違憲であると考える。Aらの表現の自由と周辺住民の生命・身体の自由、幸福追求権、営業の自由との調整がここでの論点であるが、不許可にするのではなく適当な条件を付すという他のより制限的でない手段が存在するので、本件処分は違憲である。表現の自由は一度失われてしまうと取り戻せない(同じ状況で同じ表現はもうできない)ので、それを制限するときは厳密に考えなければならない。
(2)教室使用不許可処分について
本件教室使用不許可処分は違憲であると考える。確かに大学には一定の自治権があり、教室使用にも一定の裁量が認められる。教室の数は有限なのだから、地域住民の利用よりも構成員の利用を優先するといった運営は許される。しかしその内容に立ち入って許可・不許可を決めることは学問の自由を脅かす。ましてや政治性を基準にすれば何とでも言えてしまい、運営者の意に沿わない学問が排除されてしまいかねない。各自が個別に学問を追究することは制限されていないといっても、講演会のような場で意見を交流するのは学問の中でも重要な位置を占める営みである。よって不当にこれを制限する本件教室使用不許可処分は違憲である。
以上
修正答案
以下日本国憲法についてはその条数のみを示す。
[設問1]
1.デモ行進不許可処分について
デモ行進は動く集会であり、デモ行進をする自由は第21条第1項で保障される表現の自由に含まれる。自らの思想を表現することとその反作用として他者の表現に触れることは、個人の思想形成の上でも民主主義の上でも重要であり、デモ行進はその目的に大いに資するので、表現の自由として保障されるべきである。このように表現の自由として保障されるデモ行進を、法律の授権もなく公安委員会が不許可とすることのできることを定めたB県集団運動に関する条例(以下条例①とする)は、条例そのものが違憲である。デモ行進を不許可とすることは表現の事前抑制であり、表現の自由を大きく制約するものとなる。表現には表現で対抗するのが民主主義社会の原則であり、表現を事前に抑制することは、第21条第2項で検閲が禁止されていることからしても、よほどのことがない限り許されてはならない。
また、仮に条例そのものが違憲ではないとしても、その適用が違憲になることがある。本件デモ行進不許可処分の根拠は条例①第3条第1項第4号であり、そこではB県住民投票に関する条例(以下条例②とする)第14条第1項第2号及び第3号に掲げる行為がなされることとなることが明らかであるときという理由が書かれている。そうであっても表現の自由を制限するのは、生命・身体の自由(第13条)や営業の自由(第22条第1項)などの他の権利でなければならず、住民投票の円滑な実施や、ましてや住民投票での特定の結果のために表現の自由を制限してはならない。住民投票という事情は、平穏な生活環境(生命・身体の自由及び幸福追求権)を害する行為や商業活動(営業の自由)に支障を来す行為を評価するためだけに考慮されなければならない。
本件第1回目・第2回目のデモでは、平穏な生活環境や商業活動に多少の影響を与えたが、デモ行進を不許可とすべきほどではなかった。第3回目はその影響が増大することが予想されるが、Aもそれを見越して参加予定人員を2000人として許可申請を行っていた。住民投票が近づいていたのでデモ参加人数が2000人を超えることも想定されるが、平穏な生活環境を害する行為や商業活動に支障を来す行為が明らかに発生するとまでは言えない。交通事故は警察の誘導などで防ぐことができるし、商業活動に支障を来すといっても数時間のことであるから継続的な道路工事などよりもましであり、受忍限度内である。デモ行進の場所・時間・様態に何らかの条件を付すことを選択肢に入れるとなおさらである。道路がデモ行進に適した場所であることは言うまでもない。よってデモ行進そのものを不許可とすることは権利調整といえども不適当であり、条例①及び条例②の適用を誤ったものとして違憲になる。
2.教室使用不許可処分
大学で講演会を開催することは先に述べた表現の自由に加えて学問の自由(第23条)にも関係する。「格差問題と憲法」をテーマにした講演会は学問的活動の一環であり、その教室使用を不許可とする処分には学問の自由をも制約するに足る理由が必要となる。
本件教室使用不許可処分の理由は、Cゼミ主催の講演会は政治的色彩が強いというものである。これと類似した経済学部のゼミからの申請は許可されていることからしても、他の理由はないようである。
学問の自由の沿革を見ると、戦前に特定の思想的傾向を有する研究をしている教授を大学から追放したことなどの反省から、日本国憲法ではこれがはっきりと保障されることとなった。その趣旨は学問を政治から独立させることだと言えるが、学問を政治と関わらせないということではない。むしろどのような政治的傾向を有している学問も保障するということである。
この観点からB県立大学教室使用規則の文言を検討すると、「政治的目的での使用は認めず」とあるのは「もっぱら政治的目的での使用は認めず」という意味であり、教育・研究目的(学問目的)と政治性が併存していたとしても教室使用は可能であると解釈しなければならない。類似したテーマの経済学部のゼミからの申請は許可されているのだから、Aの申請が差別的に取り扱われているとも考えられる。
そうすると本件教室使用不許可処分はB県立大学教室使用規則を誤って解釈した結果Aらの学問の自由を侵害したことになり、平等原則(第14条第1項)にも違反しているので憲法違反である。
[設問2]
1.B県側の反論
(1)デモ行進不許可処分について
道路は公の施設である。地方自治法第244条第2項の反対解釈により、地方自治体は正当な理由があれば住民が公の施設を利用することを拒むことができる。平穏な生活環境を害する行為や商業活動に支障を来す行為を防ぐためというのは正当な理由であるから、それに基づいてデモ行進を不許可とすることのできる条例は地方自治法の授権の範囲内である。表現の自由との関連で言っても、デモでの主張内容とは関わらない付随的な規制であるので憲法に反していない。
本件デモ行進不許可処分は、上記の正当な理由に基づくものであって違憲ではない。既に交通事故への不安や飲食店の売上げ減少の苦情が多数寄せられていたところ、第3回目の本件デモを許可すると、平穏な生活環境が害され商業活動に支障を来すことは明らかだからである。B県の警察だけでは対応し切れない。
(2)教室使用不許可処分について
本件教室使用不許可処分は大学の自治権の範囲内である。学生にすぎないAに教育・研究の自由は保障されていない。本件処分はB県立大学教室使用規則に従って行ったものであり違憲ではない。大学は教育・研究機関であり、政治活動の場ではない。Aからの申請を特に差別的に取り扱ってはいない。
2.私自身の見解
(1)デモ行進不許可処分について
条例①そのものが違憲とはいえないまでも、本件デモ行進不許可処分は条例①の適用を誤ったもので違憲であると考える。
表現の自由といえども無条件で絶対的に保障されるわけではなく他の権利との調整が必要となる。その調整を行うことを目的とする条例①そのものは合憲である。「許可」という文言が使われていても、条例①の第3条の各号のいずれかに該当する場合のほかは許可しなければならないと規定されているので、実質的には届出制である。
本件での条例①及び条例②の適用については、Aらの表現の自由と周辺住民の生命・身体の自由、幸福追求権、営業の自由との調整が適当に行われているかが論点になる。表現の自由は一度失われてしまうと取り戻せない(同じ状況で同じ表現はもうできない)ので、それを制限するときは厳密に考えなければならない。そう考えると、デモ行進を不許可にするのではなく適当な条件を付すという他のより制限的でない手段が存在するので、本件処分は違憲である。仮にB県の警察だけでは対応し切れないとしても、事前に日時がわかっているのだから、近隣から応援を頼むこともできたはずである。
(2)教室使用不許可処分について
本件教室使用不許可処分は違憲であると考える。
そもそも本件教室使用不許可処分について国家賠償訴訟を提起する相手方としてB県が適当であるのかという疑念が生じるかもしれないが、その点に問題はない。大学には一定の自治権があるが、それは無制限に認められるものではなく、憲法に違反して構成員に損害を与えた場合などには適法な訴えとなる。本件で登場する大学はB県立大学なので、B県が被告になる。
Aは学生であり教育・研究の自由は保障されていないという見解があるが、学生にも可能な限り教育・研究の自由が保障されるべきだと私は考える。大学では教員だけが教育・研究活動を行っているわけではなく、院生や学生も行っている。とりわけゼミではそうである。ゼミでの学生の発表に着想を得て教員が研究を進めることも珍しくない。教員と学生の申請がかち合ったときに教員の申請を優先するということはあっても、本件のように学生が教員の意思を体現している場合はその学生にも教育・研究の自由が認められるべきである。
確かに大学には一定の自治権があり、教室使用の許可・不許可にも一定の裁量が認められる。教室の数は有限なのだから、地域住民の利用よりも構成員の利用を優先するといった運営は許される。しかしその内容に立ち入って許可・不許可を決めることは学問の自由を脅かす。ましてや政治性を基準にすれば何とでも言えてしまい、運営者の意に沿わない学問が排除されてしまいかねない。各自が個別に学問を追究することは制限されていないといっても、講演会のような場で意見を交流するのは学問の中でも重要な位置を占める営みである。よって不当にこれを制限する本件教室使用不許可処分は違憲である。これと類似した経済学部のゼミからの申請は許可されていることに着目すると、平等原則違反でもある。
以上
感想
練習では[設問1]と[設問2]の振り分けに失敗しました。[設問1]で自分の考えを書いてしまったのです。[設問1]では法令違憲と適用違憲の両方を主張するのが実際的かなと思いました。修正答案では出題趣旨で触れられていることをなかば無理矢理盛り込みました。