以下、民法については、その条数のみを示す。
〔設問1〕
(1)
所有権に基づく妨害排除請求権としての抵当権設定登記抹消登記手続請求権1個。
(2)
Yは、本件抵当権設定登記の抹消登記手続をせよ。
(3)
必要性に乏しいことを前提として、費用の予納(民事執行法14条)や担保の提供(民事執行法15条)といった負担を避けるため。*
(4)
① 令和2年5月1日、Xに対し、代金500万円で、甲土地を売り渡した
② 本件抵当権設定登記が存在している
〔設問2〕
(1)
① 抗弁として主張すべきでない。
② 抗弁とは、請求を理由づける事実と両立し、その法律効果を消滅させたり障害したりするものであるところ、(a)の言い分は、請求を理由づける事実(い)の甲土地の売買と両立せず、抗弁ではなく否認であるから。
(2)
(i)
① 甲土地にBの所有権が登記されていた
② 甲土地をBが所有していないことを知らなかった
(ii)
Qは、本件抵当権設定登記は、本件抵当権設定契約に基づくことを主張しており、この主張は必要である。抵当権は、債務を担保するものであり(369条)、その債務の発生原因事実として、上記(ア)の主張をしなければならないから。
〔設問3〕
(1)
Bは、令和4年12月1日に100万円を弁済し、債務の承認をしているため、時効は更新されている(152条1項)。
(2)
Qが再々抗弁として主張自体失当であると考えた主張は、Bは、令和7年12月25日に200万円を弁済し、時効完成後に債務を承認しているから、信義則(1条2項)上、消滅時効の援用(145条)をすることができないという主張である。166条1項1号の、債権者が権利を行使することができることを知った時というのは、本件において、返済期限である令和2年12月1日であり、時効完成後の債務の承認であることは間違いない。しかし、信義則上消滅時効の援用ができないのは、債務を承認したBのみであって、抵当権を負担しているXは援用できるのだから、Qは主張自体失当だと考えた。
〔設問4〕
第1 XがAに送金した500万円の性質
本件預金通帳及びX、Bの供述より、令和2年5月20日にXの銀行預金口座からAの銀行預金口座に送金するという形で、XがAに500万円を送金した事実が認められる。
Bは、この500万円は、BがAから甲土地を購入して本来はBが支払うべき甲土地の代金を、Xが立て替えたものであると主張している。しかし、いくら兄弟間といっても、500万円もの金額を、何の書面もなく立て替えるというのは不自然である。この500万円は、XがAから甲土地を購入してXが支払った甲土地の代金である。
第2 固定資産税
本件領収書の提出経緯から、この領収書を、Xが所持していたことが認められる。領収書は、金銭の支払いをした証拠であり、一般に、実際に金銭の支払いをした者が所持している。よって、甲土地の固定資産税を、Xが支払ったことが推認される。固定資産税はそれなりにまとまった金額であり、何の理由もなくその領収書を他人に渡すことは考えづらい。Bは、「甲土地の固定資産税は、私が支払っていると思いますが、税金関係は妻に任せており、詳しくは分かりません」と述べるだけで、Bが支払ったとしてXが領収書を所持している説得的な理由を主張していない。Xが供述するように、甲土地の固定資産税は、Xが支払っていたと認められる。そして、ある不動産の固定資産税を支払うのは、その不動産を無償又は低額で利用しているといった特段の事情のない限り、その不動産の所有者であると推測できる。本件では、そのような特段の事情はなく、Xが、甲土地の所有者であると言える。
第3 XA間の代金交渉
依頼人であるXに確認して、XA間で甲土地の売買代金額の交渉が、令和2年の正月よりも後になされていたとしたら、そのことから、Bの供述の信用性が低下すると主張する。
*に以下を挿入
必要性に乏しいというのは、民事執行法177条1項により、判決や和解等の債務名義があれば、意思表示が擬制されるということである。具体的には、登記は共同申請が原則であるところ、債務名義があれば、単独で登記手続をすることができるからである。
以上