このブログへのご意見として「答案がわかりにくい」とか「三段論法が意識できていない」といった内容を頂戴したことが何度かありました。そして実際に予備試験を受けた感触と返却された評価とが一致しないことで悩んでいました。
そこで、平成29年司法試験予備試験論文再現答案リンク集 – 浅野直樹の学習日記でまとめた他の人の答案と自分の答案を見比べ、何年も前に新司法試験に合格した知人の助言も仰いで、司法試験予備試験の答案の書き方がわかってきたような気がしました。それを忘れないうちにまとめておきます。
要は三段論法や規範の提示とあてはめなどと言われているものなのですが、以下のように考えると私はすっきりしました。
条文からスタートして、主に判例を通じて業界内で暗黙の前提とされている程度まで基準を具体化して示し、その基準に沿って設問を処理する
「主に判例を通じて業界内で暗黙の前提とされている程度まで基準を具体化して示し」という部分がポイントです。場合によっては四段論法や五段論法になることもあるので三段論法には限られませんし、抽象的な規範や制度趣旨とも少し違うのではないかと感じたのです。
それでは早速平成29年の予備試験から具体例を見てみましょう。
刑事訴訟法〔設問1〕
現に罪を行い、又は現に罪を行い終つた者が現行犯人だとされ(212条1項)、212条2項各号の一にあたる者が、罪を行い終つてから間がないと明らかに認められるときは、これを現行犯人とみなす(準現行犯)とされる(212条2項)。このように(準)現行犯逮捕が令状によらずとも例外的に認められている(日本国憲法33条)のは、明白で事実誤認のおそれがなく、またその場で逮捕する必要性があるからである。そこで、(準)現行犯逮捕の適法性は、明白性と必要性の観点から判断する。
「現に罪を行い、又は現に罪を行い終つた者」というのは、時間的・場所的に犯行が明白であるということである。①の逮捕は犯行から約30分後、犯行現場から約2キロメートル離れた場所で行われたので、時間的・場所的に犯行が明白であるとは言えず、「現に罪を行い終つた者」とは認められないため、現行犯逮捕とは言えない。そこで212条2項の準現行犯逮捕の要件を満たすかどうかを検討する。
準現行犯逮捕のためには、時間的・場所的に近接していることに加えて212条2項各号の要件により犯行が明白であると言えることが要請される。同項1号の「犯人として追呼されている」というのは、犯行から途切れずに追呼されていて事実誤認のおそれがなく明白であるものに限られる。Wは犯人を追跡したが、甲が発見されたのはWが犯人を見失ってから約30分後のことであり、犯人として追呼されているとき(212条2項1号)には当たらない。甲は兇器を所持していなかったので、同項2号にも当たらない。同項3号の「身体又は被服に犯罪の顕著な証跡」というのは、明白で事実誤認のおそれがないような客観的なものに限られる。甲は犯行を認めているものの、そのような供述は客観的な証跡ではないので、同項3号には当たらない。誰何されて逃走しようともしていないので、同項4号にも当たらない。以上より、①の現行犯逮捕は違法である。甲は職務質問に対して犯行を認めているのだから、そのまま聴取を続けて、逮捕状により逮捕する(199条1項)か、緊急逮捕(210条1項)すべきであった。
太字の部分が上記の観点から修正したところです。自分が最初実際に書いた答案では条文→結論と直接つながっていたのを、条文→基準→結論となるように間に基準を入れました。ここでの基準とは「明白性と必要性(本設問ではもっぱら明白性)」です。
刑事訴訟法〔設問2〕
公訴事実は、訴因を明示してこれを記載しなければならず、訴因を明示するには、できる限り日時、場所及び方法を以て罪となるべき事実を特定してこれをしなければならない(256条3項)。これは裁判所に対して審判範囲を画定することと、被告人に対して防御のポイントを示すことが目的である。前者が第一義的な目的である。審判範囲が画定されているというのは、他罪との識別ができるという意味である。
②の公訴事実は、甲の実行行為については十分に事実が特定されていると言えるが、乙にとっては「甲と共謀の上」としか記載されていないのでこれで訴因が明示されているかが問題となり得る。本件では、②の日時・場所・方法でのV死亡という事実により、Vに関する殺人罪ということで他罪とは識別できるので、訴因の記載として罪となるべき事実を特定したものといえる。被告人の防御に関しては、裁判が進むにつれてポイントが絞られてくるはずなので、そのときに被告人の防御権を尊重すればよい。
太字の部分が上記の観点から修正したところです。自分が最初実際に書いた答案では基準を出そうとしつつも具体性が足りず、しかもその基準に沿った記述ができていなかったので、悪い評価だったのだと思います。
憲法
第3 私自身の見解
(1)本件条例の合憲性
第2で述べた公共の福祉による制約とは、財産権は、それ自体に内在する制約のほか、立法機関が多種多様な利害調整のために定める規制に服するということである。よって、財産権を制約する条例の合憲性は、そうした多種多様な利害を総合考慮して判断すべきであり、立法機関の判断を尊重すべきである。そこで、その目的が正当でない場合か、目的が正当であってもそのための手段が合理的でない場合にのみ違憲になると考える。
本件条例の目的は、A県産のXのブランド価値を維持し、もってXの生産者を保護することである。これは積極目的であり、議会の広範な裁量が認められる。地域の特産物の生産者を保護するということはこの裁量の範囲内であり、この目的が正当でないとは言えない。
そのための手段として①から②が定められている。①から②のようにすればXの流通量が調整され、それによりA県産のXのブランド価値が維持できるということである。需要に比して供給が多すぎると値崩れして生産者が損害を被るということは十分に考えられ、②のようにXの廃棄を代執行しなければ闇市場が発生して実質的な値崩れを防げないと想定されるので、この手段はXの生産者を保護するという目的に対して合理的である。以上より、本件条例は合憲である。
(2)A県知事の甲に対する処置の合憲性
甲は、高品質のXを生産していて独自の販路も持っているのでXを廃棄しないでいたところ、A県知事によって自分が生産したXの3分の1が廃棄されたという処置が違憲であると主張している。高品質であるとはいえXはXであり、一律に対処しなければ意味がないので、A県知事の処置は合理的であり、合憲である。
(3)損失補償
本件条例には損失補償に関する規定がないのだけれども、甲が主張するように、29条3項を根拠にして直接損失補償を請求することができるとするのが判例の立場である。しかし、先に述べた財産権の性質からして、損失補償を要するのは、公共の福祉のためにする一般的な制限ではなく、特定人に特別の犠牲を強いる場合に限られる。
本件においては、Xの生産者は、最大許容生産量を超えるときに超過分の割合と同じ割合でXの廃棄を命じられる。これはXの生産者に一律に課される制約であり、特定人に課せられたものではない。さらに、本件で問題となっているのはXの全量の廃棄ではなく、むしろ利益の総計が増えるような分量の廃棄であり、特別の犠牲とは言えない。以上より、損失補償がないことも違憲とはならない。
太字の部分を加筆すればもっとましな評価になっていたのではないかと思います。ただ、これだとあまりにもA県よりでXに冷たいので、Xの特殊事情をできるだけ汲み取るべきでしょう。