今、日商簿記検定の勉強をしているところです。日商簿記検定3級・2級の受験記録 – 浅野直樹の学習日記にも書きましたように、差異分析のシュラッター図は、視覚的な印象に反することと呪文のように暗記しろと言われることに抵抗があるので、好きではありません。そこでシュラッター図を使わずに意味を考えて差異分析をする方法を編み出しました。
差異分析の目的は、これだけかかると予定していた費用(標準原価)と実際にかかった費用(実際原価)との差を分析することです。標準原価を考える際には便宜的に1時間あたり変動費が○○円で固定費が□□円かかるといったように決めます。そこで標準原価よりも実際原価のほうが大きかった場合に、製品を作るのに予定よりも時間がかかりすぎたこと(能率差異)、電気代の高騰などにより時間あたりの変動費が予定よりも高くなったこと(予算差異)、機械の稼働時間が短かったことなどにより時間あたりの固定費が予定よりも高くなったこと(操業度差異)に分解します。ここではわかりやすさのためにすべて不利(借方)差異であるかのように記述していますが、有利(貸方)差異なら逆に考えればよいだけです。
それでは実際の問題で考えてみましょう。
1.問題と解答
工業簿記 第120回 第5問 配点20点
製品Aを量産するX社は、パーシャル・プランの標準原価計算を採用している。次の資料にもとづき、製造間接費の差異分析を行いなさい。なお、差異分析では変動予算を用いて、予算差異、能率差異、操業度差異を計算すること。このとき、能率差異は変動費と固定費からなるものとして計算しなさい。
解答は、借方差異ならば(借)、貸方差異ならば(貸)と記入すること。
(資料)
1.当月実際製造間接費 1,588,000円(内訳:変動費 628,000円、固定費 960,000円)
2.当月の実際直接作業時間は7,800時間であった。
3.当月生産データ
月初仕掛品 200個(進捗度50%)
当月完成品 2,400個
月末仕掛品 400個(進捗度50%)
4.製品Aの1個当たりの標準直接作業時間は3時間である。
5.年間製造間接費予算 19,200,000円(内訳:変動費 7,680,000円、固定費 11,520,000円)
6.年間の正常直接作業時間は96,000時間である。
(注)製造間接費は直接作業時間を基準として製品に標準配賦されている。
<解答>
製造間接費総差異 88,000円(借)
予算差異 4,000円(借)
能率差異 60,000円(借)
操業度差異 24,000円(借)
(みんな大好きシュラッター図の覚え方 | パブロフ簿記のブログより)
2.解き方
(1)標準原価を計算するために1時間あたりの製造間接費(内訳:変動費 固定費)を求める
表題の通りです。標準原価、つまり予定のほうです。問題文から「年間製造間接費予算 19,200,000円(内訳:変動費 7,680,000円、固定費 11,520,000円)」と「年間の正常直接作業時間は96,000時間である」を読み取って、1時間あたりにするために年間予算を年間予定作業時間である96,000時間で割って、1時間あたりの製造間接費は@200円(内訳:変動費@80円 固定費@120円)であることがわかります。
(2)ボックス図をかく
ボックス図を書くところまではシュラッター図を用いた解き方と同じです。製造間接費は直接作業時間を基準として製品に標準配賦されているとあるので加工費換算のボックス図です。
100個 | 2,400個 |
2,500個 | |
200個 |
これで当月投入量は製品2,500個分だとわかりました。
(3)能率差異を求める
問題文より「製品Aの1個当たりの標準直接作業時間は3時間である」とのことなので、製品2,500個分の作業時間は3×2,500=7,500時間になるはずです。しかし「当月の実際直接作業時間は7,800時間であった」と書いてあります。つまり、7,800−7,500=300時間分だけ予定よりも時間がかかりすぎたということです。(1)より1時間あたりの製造間接費は@200円と求めたので、300時間だと200×300=60,000円分の能率の悪さによる不利差異があったと言えます。この問題では必要ありませんが、変動費能率差異は80×300=24,000円、固定費能率差異は120×300=36,000円のそれぞれ不利差異です。
(4)実際にかかった変動費と固定費を求める
ここで実際にかかった変動費と固定費を求めておくと後が楽です。この問題では「当月実際製造間接費 1,588,000円(内訳:変動費 628,000円、固定費 960,000円)」と書いてくれているので計算して求める必要がありません。そのまま使うことができます。
このような情報が問題文に書いていない場合は自分で計算して求めます。固定費はその名の通り固定されている費用なので求めやすく、こちらから考えます。年間の固定費の予算が11,520,000円なので、11,520,000÷12=960,000円と1月あたりの固定費が求まります。変動費は実際にかかった製造間接費の総額である1,588,000円から先ほど求めた固定費の960,000円を引いて628,000円と計算できます。
(5)予算差異を求める
予算差異という言葉がわかりにくいですが、実際にかかった時間で予定される変動費と実際にかかった変動費との差だと理解するとよいです。(3)の能率差異を計算することによりかかった時間の差は分析済みなので、安心して実際にかかった時間を用いてください。
1時間あたりの変動費は@80円で実際にかかった時間は7,800時間なので、80×7,800=624,000円が予定される変動費の額です。(4)より実際にかかった変動費の額は628,000円だったので、予定よりも4,000円多くかかりすぎた、つまり4,000円の不利差異が発生していると言えます。
(6)操業度差異を求める
操業度差異という言葉もわかりにくいですが、実際にかかった時間で予定される固定費と実際にかかった固定費との差だと理解するとよいです。(3)の能率差異を計算することによりかかった時間の差は分析済みなので、安心して実際にかかった時間を用いてください。
1時間あたりの固定費は@120円で実際にかかった時間は7,800時間なので、120×7,800=936,000円が予定される固定費の額です。(4)より実際にかかった固定費の額は960,000円だったので、予定よりも24,000円多くかかりすぎた、つまり24,000円の不利差異が発生していると言えます。
3.まとめ
この手順で意味を考えながら計算するとシュラッター図をかかなくても差異分析をすることができます。最初に製品の個数から予定される時間と実際にかかった時間の差である能率差異を計算します。それからは実際にかかった時間を基礎として、予定される変動費と実際にかかった変動費の差である予算差異を求め、予定される固定費と実際にかかった固定費の差である操業度差異を求めるのです。
個人的にはこれでようやくすっきりしました。