問題
次の文章を読んで,後記の〔設問1〕 〔設問2〕 及び に答えなさい。
【事実】
1.Aは,太陽光発電パネル(以下「パネル」という。)の部品を製造し販売することを事業とする株式会社である。工場設備の刷新のための資金を必要としていたAは,平成25年1月11日,Bから,利息年5%,毎月末日に元金100万円及び利息を支払うとの条件で,1200万円の融資を受けると共に,その担保として,パネルの部品の製造及び販売に係る代金債権であって,現在有しているもの及び今後1年の間に有することとなるもの一切を,Bに譲渡した。A及びBは,融資金の返済が滞るまでは上記代金債権をAのみが取り立てることができることのほか,Aが融資金の返済を一度でも怠れば,BがAに対して通知をすることによりAの上記代金債権に係る取立権限を喪失させることができることも,併せて合意した。
2.Aは,平成25年3月1日,Cとの間で,パネルの部品を100万円で製造して納品する旨の契約を締結した。代金は同年5月14日払いとした。Aは,上記部品を製造し,同年3月12日,Cに納品した(以下,この契約に基づくAのCに対する代金債権を「甲債権」という。)。Aは,同月25日,Dとの間で,甲債権に係る債務をDが引き受け,これによりCを当該債務から免責させる旨の合意をした。
3.Aは,平成25年3月5日,Eとの間で,パネルの部品を150万円で製造して納品する旨の契約を締結した。代金は同年5月14日払いとした。Aは,上記部品を製造し,同年3月26日,Eに納品した(以下,この契約に基づくAのEに対する代金債権を「乙債権」という。)。乙債権については,Eからの要請を受けて,上記契約を締結した同月5日,AE間で譲渡禁止の特約がされた。Aは,Bに対してこの旨を同月5日到達の内容証明郵便で通知した。
4.その直後,Aは,大口取引先の倒産のあおりを受けて資金繰りに窮するようになり,平成25年4月末日に予定されていたBへの返済が滞った。
5.Aの債権者であるFは,平成25年5月1日,Aを債務者,Cを第三債務者として甲債権の差押命令を申し立て,同日,差押命令を得た。そして,その差押命令は同月2日にCに送達された。
6.Bは,平成25年5月7日,Aに対し,同年1月11日の合意に基づき取立権限を喪失させる旨を同年5月7日到達の内容証明郵便で通知した。Aは,同年5月7日,D及びEに対し,甲債権及び乙債権をBに譲渡したので,これらの債権についてはBに対して弁済されたい旨を,同月7日到達の内容証明郵便で通知した。
〔設問1〕
(1) 【事実】1の下線を付した契約は有効であるか否か,有効であるとしたならば,Bは甲債権をいつの時点で取得するかを検討しなさい。
(2) Cは,平成25年5月14日,Fから甲債権の支払を求められた。この場合において,Cの立場に立ち,その支払を拒絶する論拠を示しなさい。
〔設問2〕
Eは,平成25年5月14日,Bから乙債権の支払を求められた。この請求に対し,Eは,【事実】3の譲渡禁止特約をもって対抗することができるか。譲渡禁止特約の意義を踏まえ,かつ,Bが乙債権を取得した時期に留意しつつ,理由を付して論じなさい。
練習答案
以下民法についてはその条数のみを示す。
[設問1]
(1)
①原則
債権は、譲り渡すことができる(466条1項本文)。ただし、その性質がこれを許さないときは、この限りでない(466条1項但書)。
②特定性
債権譲渡ができるのが原則だとしても、譲渡するには債権が特定されていなければならない。
「パネルの部品の製造及び販売に係る代金債権であって、(Aが)現在有しているもの及び今後1年間の間[平成25年1月12日から平成26年1月11日]に有することとなるもの一切」で債権を特定することができるので、この点は問題ない。
③将来債権
将来に発生する債権は、その発生が不確実でありこれを譲渡すると法的関係が不安定にあるので、性質上譲渡が許されないという考え方がある。しかしAはパネルの部品を製造し販売することを事業とする株式会社で本件債権が発生することはほぼ確実であり、かつ資金繰りからその必要性も高いので、譲渡できると考えるべきである。
④債権譲渡の時期
贈与や売買は契約によりその効力が生ずる(549条、555条)ので、本件契約時に債権譲渡の効力が発生するのが原則であるが、まだ発生していない債権を譲渡することは理論上不可能なので、将来債権についてはその発生時に譲渡の効力が生ずる。よってBは甲債権を平成25年3月1日に取得する。
(2)
①免責的債務引受
Aは、平成25年3月25日、Dとの間で、甲債権に係る債務をDが引き受け、これによりCを当該債務から免責させる旨の合意をした。これにCが関知していないことは考えづらく、この意思表示はCに対してもされていたと考えられる。するとこれはCとの関係では免除になり、その債権(Cにとっての債務である甲債権)は消滅する(519条)。Fが平成25年5月1日に差押命令を得た甲債権は、それ以前にCについては消滅しているので、Cはその支払を拒絶できる。
②Bによる甲債権の取得
(1)で検討したようにBが甲債権を平成25年3月1日に取得すると、Fが平成25年5月1日にAを債務者として甲債権の差押命令を得たとしてもそれは無効であるので、Cはその支払を拒絶できる。
[設問2]
第1 譲渡禁止特約の意義
[設問1]でも確認したように、466条1項から、債権譲渡ができるのが原則である。しかし、前項(466条1項)の規定は、当事者が反対の意思を表示した場合には適用しない(466条2項前段)とされているので、譲渡禁止特約を付すことも可能である。ただし、その意思表示は、善意の第三者に対抗することができない(466条2項後段)とあることからも、取引安全の見地からも、債権譲渡ができることが原則なのである。債権譲渡は債権者の権利であり、第三者を害さない限りはその権利を放棄することはできるということである。
第2 Bが乙債権を取得した時期
[設問1]と同様に考えて、Bは、乙債権を、平成25年3月5日に取得する。
第3 結論
このように、Bは、平成25年3月5日に、乙債権が発生すると同時にこれを取得する。乙債権のもととなる契約をEと結ぶのはAであるが、乙債権については発生時からBが債権者となる。するとAの一存でBの利益を放棄して譲渡禁止特約を付すことはできない。よってその特約は無効であり、Eはこれをもって対抗することはできない。
この結論はEにとって酷なように見えるかもしれないが、Bの要保護性のほうが大きいので(仮に譲渡禁止特約が有効だとするとBが下線部のような契約を結んだ意味がなくなる)、この結論が妥当である。
以上
修正答案
以下民法についてはその条数のみを示す。
[設問1]
(1)
①原則
債権は、譲り渡すことができる(466条1項本文)。ただし、その性質がこれを許さないときは、この限りでない(466条1項但書)。
②特定性
債権譲渡ができるのが原則だとしても、譲渡するには債権が特定されていなければならない。
「パネルの部品の製造及び販売に係る代金債権であって、(Aが)現在有しているもの及び今後1年間の間[平成25年1月12日から平成26年1月11日]に有することとなるもの一切」で債権を特定することができるので、この点は問題ない。
③将来債権
将来に発生する債権は、その発生が不確実でありこれを譲渡すると法的関係が不安定にあるので、性質上譲渡が許されないという考え方がある。しかしAはパネルの部品を製造し販売することを事業とする株式会社で本件債権が発生することはほぼ確実であり、かつ資金繰りからその必要性も高いので、譲渡できると考えるべきである。譲渡人(A)や他の債権者を不当に害するという公序良俗(90条)に反する特段の事情もない。
④債権譲渡の時期
贈与や売買は契約によりその効力が生ずる(549条、555条)ので、本件契約時に債権譲渡の効力が発生するのが原則であるが、まだ発生していない債権を譲渡することは理論上不可能なので、将来債権についてはその発生時に譲渡の効力が生ずる。よってBは甲債権を平成25年3月1日に取得する。
(2)
①Bによる甲債権の取得
(1)で検討したようにBが甲債権を平成25年3月1日に取得すると、Fが平成25年5月1日にAを債務者として甲債権の差押命令を得たとしてもそれは無効であるので、Cはその支払を拒絶できるように見える。しかし、CないしDが、甲債権がAからBへと譲渡されたことを通知されたのは平成25年5月7日であり、他方でFによる差押命令がCに到達したのは同年5月2日であるので、Fの差押が優先する(467条1項、2項)。よってBによる甲債権の取得を理由としてCはFへの甲債権の支払を拒絶できない。
②免責的債務引受
Aは、平成25年3月25日、Dとの間で、甲債権に係る債務をDが引き受け、これによりCを当該債務から免責させる旨の合意をした。これにCが関知していないことは考えづらく、この意思表示はCに対してもされていたと考えられる。するとこれはCとの関係では免除になり、その債権(Cにとっての債務である甲債権)は消滅する(519条)。Fが平成25年5月1日に差押命令を得た甲債権は、それ以前にCについては消滅しているので、Cはその支払を拒絶できる。
[設問2]
第1 譲渡禁止特約の意義
[設問1]でも確認したように、466条1項から、債権譲渡ができるのが原則である。しかし、前項(466条1項)の規定は、当事者が反対の意思を表示した場合には適用しない(466条2項前段)とされているので、譲渡禁止特約を付すことも可能である。ただし、その意思表示は、善意の第三者に対抗することができない(466条2項後段)とあることからも、取引安全の見地からも、債権譲渡ができることが原則なのである。債権譲渡は債権者の権利であり、第三者を害さない限りはその権利を放棄することはできるということである。
第2 Bが乙債権を取得した時期
[設問1]と同様に考えて、Bは、乙債権を、平成25年3月5日に取得する。
第3 結論
このように、Bは、平成25年3月5日に、乙債権が発生すると同時にこれを取得する。乙債権のもととなる契約をEと結ぶのはAであるが、乙債権については発生時からBが債権者となる。するとAの一存でBの利益を放棄して譲渡禁止特約を付すことはできないことになる。Bは、平成25年3月5日到着の内容証明郵便で本件譲渡禁止特約が付されたことを知ったが、理論的には同じ3月5日でもその内容証明郵便が到達する前の本件契約成立時にBはこれを取得すると考えられるので、その瞬間にBは善意であったため、466条2項後段により、EはこれをもってBに対抗することはできない。
この結論はEにとって酷なように見えるかもしれないが、Bの要保護性のほうが大きいので(債権譲渡は原則的に自由である反面、仮に譲渡禁止特約が有効だとするとBが下線部のような契約を結んだ意味がなくなる)、この結論が妥当である。
以上
感想
ややこしい問題です。[設問1]の(2)は債務者との対抗関係と第三者との対抗関係を間違えてしまっていました。[設問2]は自分なりに頑張って書きましたが、これが通用するかどうかは不明です。