問題
次の文章を読んで,後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
【事実】
1.Aは,自宅近くにあるB所有の建物(以下「B邸」という。)の外壁(れんが風タイル張り仕上げ)がとても気に入り,自己が所有する別荘(以下「A邸」という。)を改修する際は,B邸のような外壁にしたいと思っていた。
2.Aは,A邸の外壁が傷んできたのを機に,外壁の改修をすることとし,工務店を営むCにその工事を依頼することにした。Aは,発注前にCと打合せをした際に,CにB邸を実際に見せて,A邸の外壁をB邸と同じ仕様にしてほしい旨を伝えた。
3.Cは,B邸を建築した業者であるD社から,B邸の外壁に用いられているタイルがE社製造の商品名「シャトー」であることを聞いた。CはE社に問い合わせ,「シャトー」が出荷可能であることを確認した。
4.Cは,Aに対し,Aの希望に沿った改修工事が可能である旨を伝えた。そこで,AとCは,工事完成を1か月後とするA邸の改修工事の請負契約を締結した。Aは,契約締結当日,Cに対し,請負代金の全額を支払った。
5.工事の開始時に現場に立ち会ったAは,A邸の敷地内に積み上げられたE社製のタイル「シャトー」の色がB邸のものとは若干違うと思った。しかし,Aは,Cから,光の具合で色も違って見えるし,長年の使用により多少変色するとの説明を受け,また,E社に問い合わせて確認したから間違いないと言われたので,Aはそれ以上何も言わなかった。
6.Cは,【事実】5に記したA邸の敷地内に積み上げられたE社製のタイル「シャトー」を使用して,A邸の外壁の改修を終えた。ところが,Aは,出来上がった外壁がB邸のものと異なる感じを拭えなかったので,直接E社に問い合わせた。そして,E社からAに対し,タイル「シャトー」の原料の一部につき従前使用していたものが入手しにくくなり,最近になって他の原料に変えた結果,表面の手触りや光沢が若干異なるようになり,そのため色も少し違って見えるが,耐火性,防水性等の性能は同一であるとの説明があった。また,Aは,B邸で使用したタイルと完全に同じものは,特注品として注文を受けてから2週間あれば製作することができる旨をE社から伝えられた。
7.そこで,Aは,Cに対し,E社から特注品であるタイルの納入を受けた上でA邸の改修工事をやり直すよう求めることにし,特注品であるタイルの製作及び改修工事のために必要な期間を考慮して,3か月以内にその工事を完成させるよう請求した。
〔設問1〕
【事実】7に記したAの請求について,予想されるCからの反論を踏まえつつ検討しなさい。
【事実(続き)】
8.【事実】7に記したAの請求があった後3か月が経過したが,Cは工事に全く着手しなかった。そこで,嫌気がさしたAは,A邸を2500万円でFに売却し,引き渡すとともに,その代金の全額を受領した。
9.なお,A邸の外壁に現在張られているタイルは,性能上は問題がなく,B邸に使用されているものと同じものが用いられていないからといって,A邸の売却価格には全く影響していない。
〔設問2〕
Aは,A邸をFに売却した後,Cに対し,外壁の改修工事の不備を理由とする損害の賠償を求めている。この請求が認められるかを,反対の考え方にも留意しながら論じなさい。なお,〔設問1〕に関して,AのCに対する請求が認められることを前提とする。
練習答案(実際の試験での再現答案)
(A評価)
以下民法についてはその条数のみを示す。
[設問1]
私はこのAの請求が認められるべきだと考える。
本件のA邸の改修工事は請負契約であり、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる(第632条)。ここでの「仕事」は「A邸の外壁をB邸と同じ仕様にすること」である。Cは「シャトーを用いてA邸の外壁を改修すること」がここでの仕事だと反論するかもしれないが、AはCにB邸を実際に見せてこれと同じ仕様にしてほしい旨を伝えているのであって、シャトーを用いるというのはCの判断である。
そうであるなら、シャトーを用いていても、B邸の外壁とは異なる状態では、仕事の目的物に瑕疵があると言える。耐火性等の性能が同一だったとしても、Aは色などに着目して仕事を依頼しているのであるから、瑕疵だと言える。そのとき、注文者は、請負人に対し、相当の期間を定めて、その瑕疵の修補を請求することができる(第634条第1項)。AはCに対し、特注品であるタイルの政策及び改修工事のために必要な期間を考慮して、3か月以内にその工事を完成させるよう請求したので、相当の期間を定めていると言える。Cは、その修補に過分の費用を要する(第634条第1項ただし書き)と主張するかもしれないが、Aが求めているタイルは注文を受けてから2週間あれば製作できることからしても、過分の費用を要することはないと考えられる。
Cは、仕事の目的物の瑕疵が注文者の与えた指図によって生じた(第636条)と反論するかもしれないが、前述のように、AはB邸を実際に見せてこれと同じ仕様にしてほしい旨を伝えたのであるから、注文者であるAの指図によって生じたとは言えない。また、AはA邸の外壁の改修が終わってからすぐに本件請求をしていると読み取れるので、瑕疵の修補は仕事の目的物を引き渡した時から1年以内にしなければならない(第637条第1項)という期間も満たしていると思われる。
以上より、本件請負契約の仕事はA邸の外壁をB邸と同じ仕様にすることなので、その仕事がまだ完成していないと考えるにせよ、仕事の目的物に瑕疵があると考えるにせよ、AはCに対し、本件請求をすることができる。
[設問2]
この請求が認められると私は考える。
[設問1]で述べたように、本件請負契約の仕事の目的物に瑕疵があるなら、注文者は、瑕疵の修補に代えて、又はその修補とともに、損害賠償の請求をすることができる(第634条第2項)ので、注文者であるAは、請負人であるCに対し、外壁の改修工事の不備を理由とする損害の賠償を請求することができる。仮に仕事の目的物に瑕疵がなかったとしても、[設問1]のAのCに対する請求が認められるのであれば、Cは改修工事をやり直す債務を負っているので、債務不履行による損害賠償を請求することができる(第415条)。
AはA邸を2500万円で売却し、引き渡すとともに、その代金の全額を受領していて、現在張られているタイルでもB邸と同じタイルでも売却価格には全く影響していないのだから、損害が発生していないとの反対の考え方があるかもしれない。しかしこの反論は本末転倒である。AはA邸の外壁を自分が望むようなB邸と同じ仕様にできなかったために仕方なくA邸を売却したのである。よってそのために損害の賠償が認められないということはない。
以上
修正答案
以下民法についてはその条数のみを示す。
[設問1]
第1 Aの請求
本件のA邸の改修工事は請負契約であり、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる(632条)。ここでの「仕事」は「A邸の外壁をB邸と同じ仕様にすること」である。「仕事の目的物に瑕疵があるときは、注文者は、請負人に対し、相当の期間を定めて、その瑕疵の修補を請求することができる」(634条1項)ので、注文者Aは、請負人Cに対し、【事実】7の請求をしていると考えられる。
第2 瑕疵
Cは「シャトーを用いてA邸の外壁を改修すること」がここでの仕事であり、その仕事を瑕疵なく完成させたと反論するかもしれない。しかし、AはCにB邸を実際に見せてこれと同じ仕様にしてほしい旨を伝えているのであるから、その仕様とは主として外観を意味するのであって、シャトーを用いるというのはCの判断に過ぎない。そうであるなら、シャトーを用いていても、B邸の外壁とは異なる状態では、仕事の目的物に瑕疵があると言える。耐火性等の性能が同一だったとしても、Aは色などに着目して仕事を依頼しているのであるから、瑕疵だと言えるのである。そしてこの瑕疵は本件請負契約の主目的に関わっているので、重要でない瑕疵ではない。
第3 相当の期間
Cは相当の期間が定められていないと反論するかもしれない。しかし、Aが求めている特注品のタイルはて注文を受けてから2週間あれば製作することができるのだから、Aが定めた3か月以内というのは相当な期間である。もともとの工事が1か月で完成させるという契約になっていたことからしても、3か月という期間は相当であることがわかる。
第4 過分の費用
Cは、その修補に過分の費用を要する(第634条第1項ただし書き)と主張するかもしれないが、Aが求めているタイルは注文を受けてから2週間あれば製作できることからしても、過分の費用を要することはないと考えられる。仮に過分の費用を要するものであったとしても、先に検討したように重要でない瑕疵ではないので、同項ただし書きが適用されることはない。
第5 注文者の指図
Cは、仕事の目的物の瑕疵が注文者の与えた指図によって生じた(第636条)と反論するかもしれないが、前述のように、AはB邸を実際に見せてこれと同じ仕様にしてほしい旨を伝えたのであるから、注文者であるAの指図によって生じたとは言えない。
第6 結論
以上より、Aは、【事実】7に記した請求をすることができる。
[設問2]
第1 Aの請求
「注文者は、瑕疵の修補に代えて、又はその修補とともに、損害賠償の請求をすることができる」(634条2項)。Aの請求はこの損害賠償の請求である。
第2 請求時
Aが本問の請求をしたのは、[設問1]の請求をしてから3か月が経過し、FにA邸を売却した後のことである。そこで請求時にもはや瑕疵修補の対象物を保持していない場合にも、634条2項の損害賠償請求が認められるか否かが問題となり得る。確かにこの損害賠償請求権は瑕疵修補を基礎とはしているが、瑕疵修補に代えて請求することができることからもわかるように、瑕疵修補請求権とは別個の権利である。物権的な権利であるというわけでもない。よって、本件のように、請求時に瑕疵修補の対象物を保持していなくても、損害賠償を請求することができる。このように解釈しないと、本件のように瑕疵修補がなされない場合にも対象物を保持し続けることが求められ、不合理である。
第3 損害の性質
AはA邸をFに売却したのであるが、その際に本件瑕疵が売却価格に全く影響していない。つまりAには財産的損害は発生しておらず精神的損害しか発生していない。そのような精神的損害は「通常生ずべき損害」(416条1項)には含まれず、また予見のできた特別損害(416条2項)でもなかったという反論が想定される。634条2項の損害賠償も、415条の債務不履行による損害賠償の特則なので、416条は適用される。
確かに本件請負契約締結時には、このような特別損害を予見できなかったかもしれないが、瑕疵修補を請求されたときには十分に予見できた。634条2項の損害賠償は瑕疵修補を基礎とした損害賠償なので、予見可能性を判断する基準時は、瑕疵修補請求時だと考えるのが合理的である。そのように解釈しないと、本件のように財産的損害が発生せず契約時には予見できない精神的損害のみが発生する場合には、瑕疵修補は認められても損害賠償は認められないという結果になり、634条の趣旨に適合しなくなる。
第4 結論
以上より、本問のAの請求は認められる。
以上
感想
実際の試験で書いた答案がAではあったのですが、さらによくしようと大きく修正してみました。