浅野直樹の学習日記

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2015 / 5月

平成26年司法試験予備試験論文(憲法)答案練習

問題

 A市内の全ての商店街には,当該商店街に店舗を営む個人又は法人を会員とする商店会が組織されている。会員は,店舗の大きさや売上高の多寡にかかわらず定額の会費を毎月納入し,その会費で,防犯灯の役目を果たしている街路灯や商店街のネオンサイン等の設置・管理費用,商店街のイベント費用,清掃美化活動費用などを賄っていた。しかし,A市内に古くからある商店街の多くが,いわゆるシャッター通りと化してしまい,商店街の活動が不活発となっているだけでなく,商店街の街路灯等の管理にも支障が生じており,防犯面でも問題が起きている。
 A市内には,大型店やチェーン店もある。それらの多くは,商店街を通り抜けた道路沿いにある。それらの大型店やチェーン店は,商店街の街路灯やネオンサイン等によって立地上の恩恵を受けているにもかかわらず,それらの設置や管理等に掛かる費用を負担していない。また,大型店やチェーン店は,商店街のイベントに参加しないものの,同時期にセールを行うことで集客増を図るなどしている。大型店やチェーン店は,営業成績が悪化しているわけでもないし,商店会に加入しなくても営業に支障がない。それゆえ,多くの大型店やチェーン店は,商店街の活性化活動に非協力的である。このような大型店やチェーン店に対して,全ての商店会から,商店街がもたらす利便に「タダ乗り」しているとする批判が寄せられている。A市にとって,市内全体での商業活動を活性化するためにも,古くからある商店街の活性化が喫緊の課題となっている。
 このような状況に鑑みて,A市は,大型店やチェーン店を含む全てのA市内の店舗に対し,最寄りの商店会への加入を義務付ける「A市商店街活性化条例」(以下「本条例」という。)を制定した。本条例の目的は大きく分けて二つある。第一の目的は,共同でイベントを開催するなど大型店やチェーン店を含む全ての店舗が協力することによって集客力を向上させ,商店街及び市内全体での商業活動を活性化することである。第二の目的は,大型店やチェーン店をも含めた商店会を,地域における防犯体制等の担い手として位置付けることである。
 本条例は,商店会に納入すべき毎月の会費を,売場面積と売上高に一定の率を乗じて算出される金額と定めている。そして,本条例によれば,A市長は,加入義務に違反する者が営む店舗に対して,最長で7日間の営業停止を命ずることができる。
 A市内で最も広い売場面積を有し,最も売上高が大きい大型店Bの場合,加入するものとされている商店会に毎月納入しなければならない会費の額が,その商店会の会員が納入する平均的な金額の約50倍となる。そこで,大型店Bを営むC社としては,このような加入義務は憲法に違反していると考え,当該商店会に加入しなかったために,A市長から,7日間の営業停止処分を受けた。その結果,大型店Bの収益は大幅に減少した。
 C社は,A市を被告として,本条例が違憲であると主張して,国家賠償請求訴訟を提起した。

〔設問1〕
 あなたがC社の訴訟代理人であるとしたら,どのような憲法上の主張を行うか。
 なお,本条例による会費の算出方法の当否及び営業停止処分の日数の相当性については,論じなくてよい。

〔設問2〕
 想定される被告側の反論を簡潔に述べた上で,あなた自身の見解を述べなさい。

 

練習答案(実際の試験での再現答案)

(F評価)

以下日本国憲法についてはその条数のみを示す。

[設問1]

1.国家賠償請求(第17条)
 C社は、以下に述べる理由で憲法違反である条例によって、7日間の営業停止処分を受け、自らの経営する大型店Bの収益が大幅に減少した。これは公務員の不法行為により、損害を受けたことになるので、地方公共団体であるA市に国家賠償を請求することができる。

2.財産権の侵害(第27条第1項)
 C社は、本条例により、商店会への加入が義務付けられ、その結果会費の納入義務を負わされている。これはC社の財産権を実質的に侵害するものである。

3.職業選択の自由(第22条第1項)
 C社は大型店Bの営業を続けるためには商店会に加入し、会費を納入しなければならない。そして会費を納入しなければ営業停止処分を受ける。これは職業の自由、その中でも営業の自由の侵害である。

4.法人の人権享有主体性
 日本国憲法で保障される人権は可能な限り法人にも保障されるべきである。上で述べた財産権や職業選択の自由は法人にも問題なく認められるべき性質のものである。

[設問2]

1.想定される被告側の反論
 財産権の内容は、公共の福祉に適合するように定められる(第29条第2項)のであり、職業選択の自由も公共の福祉に反しない限りで尊重される(第13条)。本条例の目的は地域の商業活動の活性化と防犯体制の強化という公共の福祉にかなうものなので、本条例は合憲である。
 また、仮に本条例が違法ではないまでも不当であったとしても、国家賠償を請求することはできない。

2.私自身の見解
 私は本条例が違憲であり、C社のA市に対する国家賠償請求が認容されると考える。
 本件の最大のポイントは財産権・職業選択の自由と公共の福祉との間のバランス調整である。C社が営む大型店Bが納入義務を負う会費の額は、その商店会の会員が納入する平均的な金額の約50倍にもなる。これを納入しなければならないとなると、C社は大型店Bの営業を続けられなくなるかもしれない。しかも、C社は必要な設備投資などを行って大型店Bを営業しているという事情もある。それに対し、被告側の主張する公共の福祉の内実は怪しい。地域の商業活動の活性化という目的の経済政策には一定の幅が認められるものの、イベントの共催などで本当にその目的が達成されるかは疑わしい。防犯体制の強化という警察的な目的は、それこそ警察などの行政によって担われるべきものであるので、その目的を達成できるかどうかが不明であることはもちろん、そもそもこれを目的とすることが適切でないと考えられる。
 他方でC社が納入義務を負わされる会費の額は相当なものであり、C社にとっては租税のように感じられるであろう。租税を課すには法律によることが必要である(第84条)からしても、法律ではなく条例であるという形式面でも本条例は違憲であると言える。
 このように本条例が違憲であるなら、それは不当にとどまらず違法であり、C社はA市に対して国家賠償請求をすることができる。

以上

 

 

修正答案

以下日本国憲法についてはその条数のみを示す。

 

[設問1]
第1 概要
 私がC社の訴訟代理人であるとしたら、本条例及びそれに基づく7日間の営業停止処分が、C社の営業の自由を侵害し消極的結社の自由も侵害しているために違憲であるので、A市はC社が被った損害を賠償するために所定の金銭を支払わなければならないという主張をする。
第2 営業の自由の侵害(22条1項)
 何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する(22条1項)。職業選択の自由の保障を実効的なものにするためには、実際に営業を行う自由も保障されなければならない。C社は法人であって自然人ではないが、営業のかなりの部分が法人によって担われることは日本国憲法で当然に想定されているので、営業の自由は法人にも保障される。
 本条例は、直接的にC社の営業を禁止しているわけではないけれども、会費として多大な金銭納付義務をC社に負わすことでその営業を制約し、さらには営業停止処分も規定され、実際にC社に適用された。C社の営業の自由が侵害されたことは疑い得ない。
 もっとも、営業の自由は「公共の福祉に反しない限り」という留保が付されていることからも窺えるように、絶対無制約に保障されるものではなく、他の人権との調整など合理的な理由によって制約され得る。しかしながら、本条例及びそれに基づく7日間の営業停止処分にはそうした合理性が見られないので、違憲である。
第3 消極的結社の自由の侵害(21条1項)
 「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する」(21条1項)と規定されている。これは結社に入る自由を保障していると同時に結社に入らない自由をも保障していると解される。結社の自由は言論の自由など表現の自由とともに挙げられているところ、自らの望まない言論を強制されない自由は当然に保障されるのであるから、同様に自らの望まない結社への加入を強制されない自由も保障されるのである。
 それにもかかわらず、本条例によってC社は最寄りの商店会に加入することを義務付けられ、それが営業低処分という罰則で担保されている。これは結社に入らない自由という消極的結社の自由を侵害するものであり、違憲である。

 

[設問2]
第1 営業の自由について
 C社に営業の自由が認められ、それが合理的な制約に服するのは[設問1]に記載の通りである。そこで本条例は合理的な制約の範囲内であるという被告側の反論が想定される。
 本条例の目的は、商店街及び市内全体での商業活動を活性化することと、大型店やチェーン店をも含めた商店会を地域における防犯体制等の担い手として位置付けることの二つである。地域振興や地域防犯については、地方自治体が条例の制定も含めて大きな裁量を有している。よってA市という地方自治体がこのような目的で本条例を制定し、それを運用するのは合理的な範囲内であって、違憲ではないと被告側は反論することができる。
 被告側の主張するように本条例の目的が合理的であっても、そのための手段が合理的でなければ、違憲となる。規制目的を積極的な目的と消極的な目的とに分けて前者では緩やかな違憲審査がなされるという立場を取ろうとも、目的と手段とに合理的連関性がなければ違憲とされるし、そのように目的を二分しないという立場も有力である。
 本件では上記2つの目的のために、本条例はC社に最寄りの商店会に加入させて売場面積と売上高に比例した会費の納入義務を負わせている。まず、これによって商店街及び市内全体での商業活動が活性化するかどうかは大いに疑問である。自主的な創意工夫によって商業活動は活性化するのであって、上から押さえつけるような形で商業活動が活性化するとは考えづらい。次に地域防犯についてであるが、そもそも商店会は防犯を担当する組織ではないので、そこに防犯を期待するのが筋違いである。本条例で規定されている手段は上記2つの目的と合理的な連関性を有していない。
 以上より、私は本条例及びそれに基づく7日間の営業停止処分は、C社の営業の自由を侵害し違憲であると考える。
第2 消極的結社の自由について
 消極的結社の自由が認められるのは[設問1]記載の通りであるが、ある職業を営むために所定の団体に加入しなければならないということが必ずしも違憲となるわけではない。例えば弁護士業を営むためには弁護士会に加入しなければならないが、弁護士会に加入したからといって特定の思想を表明させられるわけではなく、また弁護士の信頼性を保つことなどのため弁護士会が機能しているので、違憲であるとはされていない。
 本件においても、商店会に加入させられたからといって特定の思想を表明させられたりすることはなく、またその地域で商売をするための自主ルールを作るといった働きが商店会にはあるので、商店会への強制加入が違憲となることはないという被告側の主張が想定される。特定の地域での商売にはある種の専門性が求められるという事情もあり、商店会への強制加入そのものは合憲であると私は考える。

以上

 

感想

改めて見返すと試験で書いた答案はひどいですね。F評価も当然です。修正答案ならそれなりの評価になるのではないでしょうか。しかし結社の自由という発想は思いつきづらいです。

 




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