[設問1]
第一 処分性
抗告訴訟の対象となる「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」(行政事件訴訟法3条2項)とは、公権力を行使する主体たる国又は地方公共団体の行為であって、その行為により直接国民の権利義務を形成し、又はその範囲を確定させるもののことをいう。
第二 本件勧告
地方公共団体であるY県の知事が本件勧告を行った。Xは株式会社であるが、日本国憲法22条1項の職業選択の自由などの権利はその性質上可能な限り法人(株式会社は法人である)にも及ぼすべきなので、Xも国民に含まれる。そして本件勧告により、Xに浄水器の販売に際し、条例25条4号の定める不適正な取引行為をしてはいけないという義務が形成されたので、本件勧告は「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」である。
そのような義務は道義上の義務であって、法的義務ではないというY県の反論が想定される。しかしこの義務に違反すると本件公表を受けるという地位に立たされるという効果があるので、法的義務であると言える。
また、処分性を判断するためには、どの段階で抗告訴訟により争わせるべきかという観点も重要となる。本件においては、一度公表されてしまうと取り返しがつかないので、その観点からしても、本件勧告に処分性が認められる。
第三 本件公表
地方公共団体であるY県の知事が本件公表を行った。Xが国民に含まれることは先述した通りである。本件公表により、Xは金融機関Aからの融資が停止されるというように、権利を奪われている。よって本件公表は「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」である。
それは本件公表の直接的な効果ではなく、間接的な効果に過ぎないというY県の反論が想定される。しかしながら、インターネットなどの情報技術が発達し、消費者意識や企業のコンプライアンス意識が高まっている今日において、公表により何らの効果も直接的に発生しないとするのは非現実的である。現にAはXへの融資を停止することは容易に想定され、そうなるとXの経営に深刻な影響が及ぶ。以上より、本件公表に処分性が認められる。
[設問2]
第一 本件勧告の性質
「勧告することができる」という条例48号の文言からしても、勧告の性質からしても、勧告をするかどうかにY県知事の裁量が認められる。よって、Xとしては、そのXの裁量権に逸脱・濫用があったことを主張することになる。
第二 処分基準及び理由提示の不備
本件勧告は不利益処分である。不利益処分に関しては、処分基準を定め、かつ、これを公にしておくよう努めなければならない(行政手続法12条1項)。確かに処分基準を定めて公表する義務は努力義務であるが、本件においてはその障害となる事情が存在しないので、処分基準を定めて公表しなかったことが違法となる。
また、一般に行政手続で理由提示が求められるのは、行政行為の慎重と公正を期し、処分の名あて人などの不服申立てに便宜を図るためである。本件においては、適用条項が示されただけであり、理由提示に不備がある。よって違法である。不利益処分をする場合には、その名あて人に対し、同時に、当該不利益処分の理由を示さなければならないと行政手続法14条1項に定められている。
なお、こうした手続き違反は、勧告をするかどうかに関する裁量とは別次元の話である。
第三 裁量権の逸脱・濫用
本件勧告に先立ってXに意見陳述の機会が付与されている。これは条例49条に定めれた義務である。Xはそこで①〜③の主張を行った。しかしY県知事は、それらの主張を考慮することなく、本件勧告を行った。いくら勧告をするかどうかに裁量権が認められるとしても、条例で義務付けられている意見陳述を全く無視することは裁量権の逸脱・濫用である。よって本件勧告は違法である。
以上