平成26年司法試験論文公法系第2問答案練習

問題

〔第2問〕(配点:100〔〔設問1〕,〔設問2〕,〔設問3〕の配点割合は,5:2.5:2.5〕)
 株式会社Aは,B県知事により採石法所定の登録を受けている採石業者である。Aは,B県の区域にある岩石採取場(以下「本件採取場」という。)で岩石を採取する計画を定め,採石法に基づき,B県知事に対し,採取計画の認可の申請(以下「本件申請」という。)をした。Aの採取計画には,跡地防災措置(岩石採取の跡地で岩石採取に起因する災害が発生することを防止するために必要な措置をいう。以下同じ。)として,掘削面の緑化等の措置を行うことが定められていた。
 B県知事は,B県採石法事務取扱要綱(以下「本件要綱」という。)において,跡地防災措置が確実に行われるように,跡地防災措置に係る保証(以下「跡地防災保証」という。)について定めている。本件要綱によれば,採石法による採取計画の認可(以下「採石認可」という。)を申請する者は,跡地防災措置を,申請者自身が行わない場合に,C組合が行う旨の保証書を,認可申請書に添付しなければならないものとされる。C組合は,B県で営業している大部分の採石業者を組合員とする,法人格を有する事業協同組合であり,AもC組合の組合員である。Aは,本件要綱に従って,C組合との間で保証契約(以下「本件保証契約」という。)を締結し,その旨を記載した保証書を添付して,本件申請をしていた。B県知事は,本件申請に対し,岩石採取の期間を5年として採石認可(以下「本件認可」という。)をした。Aは,本件認可を受け,直ちに本件採取場での岩石採取を開始した。
 しかし,Aは,小規模な事業者の多いB県下の採石業者の中では突出して資本金の額や事業規模が大きく,経営状況の良好な会社であり,採取計画に定められた跡地防災措置を実現できるように資金を確保しているので,保証を受ける必要はないのではないか,また,保証を受けるとしても,他の採石業者から保証を受ければ十分であり,保証料が割高なC組合に保証料を支払い続ける必要はないのではないか,との疑問をもっていた。加えて,Aは,C組合の運営に関してC組合の役員と事あるたびに対立していた。こうしたことから,Aは,本件認可を受けるために仕方なく本件保証契約を締結したものの,当初から契約を継続する意思はなく,本件認可を受けた1か月後には,本件保証契約を解除した。
 これに対し,B県の担当職員は,Aは採石業者の中では大規模な事業者の部類に入るとはいえ,大企業とまではいえないから,地元の事業者団体であるC組合の保証を受けることが必要であるとして,Aに対し,C組合による保証を受けるよう指導した。しかし,Aは,そもそもC組合による保証をAに対する採石認可の要件とすることは違法であり,Aは本件申請の際にC組合による保証を受ける必要はなかったと主張している。
 他方,本件採取場から下方に約10メートル離れた土地に,居住はしていないが森林を所有し,林業を営んでいるDは,Aによる跡地防災措置が確実に行われないおそれがあり,もし跡地防災措置が行われなければ,Dの所有する森林が土砂災害により被害を受けるおそれがあると考えた。そして,Dは,B県知事がAに対し岩石の採取をやめさせる処分を行うようにさせる何らかの行政訴訟を提起することを検討していると,B県の担当職員に伝えた。
 B県の担当職員Eは,AがC組合から跡地防災保証を受けるように,引き続き指導していく方針であり,現時点で直ちにAに対して岩石の採取をやめさせるために何らかの処分を行う必要はないと考えている。しかし,Dが行政訴訟を提起する構えを見せていることから,B県知事はDが求めるようにAに対して処分を行うことができるのか,Dは行政訴訟を適法に提起できるのか,また,Aが主張するように,そもそもC組合による保証をAに対する採石認可の要件とすることは違法なのか,検討しておく必要があると考えて,弁護士Fに助言を求めた。
 以下に示された【資料1会議録】を読んだ上で,職員Eから依頼を受けた弁護士Fの立場に立って,次の設問に答えなさい。
 なお,採石法及び採石法施行規則の抜粋を【資料2関係法令】に,本件要綱の抜粋を【資料3B県採石法事務取扱要綱(抜粋)】に,それぞれ掲げてあるので,適宜参照しなさい。

〔設問1〕
 Aは,採石認可申請の際にC組合による保証を受ける必要はなかったと主張している。仮にAが採石認可申請の際にC組合から保証を受けていなかった場合,B県知事がAに対し採石認可拒否処分をすることは適法か。採石法及び採石法施行規則の関係する規定の趣旨及び内容を検討し,本件要綱の関係する規定が法的にどのような性質及び効果をもつかを明らかにしながら答えなさい。

〔設問2〕
 B県知事は,Aに対し,岩石の採取をやめさせるために何らかの処分を行うことができるか。候補となる処分を複数挙げ,採石法の関係する規定を検討しながら答えなさい。解答に当たっては,〔設問1〕におけるB県知事の採石認可拒否処分は適法であるという考え方を前提にしなさい。

〔設問3〕
 Dが〔設問2〕で挙げられた処分をさせることを求める行政訴訟を提起した場合,当該訴えは適法か。行政事件訴訟法第3条第2項以下に列挙されている抗告訴訟として考えられる訴えの例を具体的に一つ挙げ,その訴えが訴訟要件を満たすか否かについて検討しなさい。なお,仮の救済は解答の対象から除く。

【資料1会議録】
職員E:Aは,C組合による保証をAに対する採石認可の要件とすることは違法であると主張しています。これまでは,採石認可申請が保証書の添付なしに行われた場合も,指導すれば,採石業者はすぐにC組合から保証書をとってきましたので,Aの言うような問題は詰めて考えたことがないのです。しかし,これからAに指導を行う上では,Aの主張に対して答える必要が出てきそうですので,検討していただけないでしょうか。
弁護士F:Aの主張については,Dによる行政訴訟に関して検討する前提としても明らかにしておく必要がありますので,よく調べてお答えすることにいたします。まずは採石法と採石法施行規則の関係規定から調べますが,B県では要綱も定めているのですね。
職員E:はい。採石業は,骨材,建築・装飾用材料,工業用原料等として用いられる岩石を採取する事業ですが,岩石資源は単価が安く,また,輸送面での制約があるため,地場産業として全国各地に点在しており,小規模事業者の比率が高い点に特徴があります。ところが,跡地防災措置は多額の費用を必要とし,確実に行われないおそれがあります。そのような背景から,本件要綱は,採石認可の申請者はC組合の跡地防災保証を受けなければならないとし,保証書を採石認可申請の際の添付書類として規定しています。本件要綱のこうした規定によれば,C組合の保証を受けない者による採石認可申請を拒否できることは,当然のようにも思われるのですが。
弁護士F:御指摘の要綱の定めは,法律に基づく政省令等により,保証を許認可の要件として規定する場合とは,法的な意味が異なります。御指摘の本件要綱の規定が,採石法や採石法施行規則との関係でどのような法的性質をもち,どのような法的効果をもつか,私の方で検討しましょう。
職員E:お願いします。
弁護士F:ところで,他の都道府県でも,本件要綱と同じように,特定の採石事業協同組合による保証を求めているのですか。
職員E:その点は,都道府県によってまちまちです。保証人は申請者以外の複数の採石業者でもよいとしている県もありますし,跡地防災措置のための資金計画の提出を求めるのみで,保証を求めていない県もあります。しかし,B県では,跡地防災措置が適切になされない例が多く,跡地防災措置を確実に履行させるためには,地元のC組合による保証が必要と考えています。
弁護士F:なるほど。今までのお話を踏まえて,Aからの反論も想定した上で,仮にAがC組合による保証を受けずに採石認可申請をした場合,B県知事が申請を拒否することが適法といえるかどうか,まとめておきます。
職員E:今後の私たちの採石認可業務にも参考になりますので,よろしくお願いします。
弁護士F:承知しました。ところで,Dが行政訴訟を起こそうとしていることも伺いました。B県としては,保証が必要と考えておられるのでしたら,Aに対して何らかの処分をすることは考えておられないのですか。
職員E:Aに対して保証を受けるように指導はしているのですが,今のところ,Aの財務状況は良好で,岩石の採取をやめさせる処分を直ちに行う必要はないと考えています。それに,こんな事例は初めてで,どのような処分が可能なのか,やはり詰めて考えたことがないのです。
弁護士F:そうですか。それでは,Dが求めているように,Aに対し岩石の採取をやめさせる処分が可能なのか,検討しておく必要がありますね。Dは,Aの主張とは逆に,仮にC組合による跡地防災保証がなければ,Aからの採石認可申請は拒否すべきであったと主張するでしょうから,こうした主張を前提にして考えてみます。検討の前提として伺いますが,認可されたAの採取計画には,跡地防災保証についても記載されているのですか。
職員E:採取計画には,法令上,跡地防災措置について記載する必要があると考えられ,Aの採取計画にも,採取跡地について掘削面の緑化等の措置を行うことが記載されていますが,跡地防災保証については,法令上,採取計画に定める事項とはされておらず,Aの採取計画にも記載されていません。跡地防災保証については,申請書に添付された保証書によって審査しています。しかし,採取計画と保証書とは一体であると考えていまして,保証によって跡地防災措置が確実に履行されることを前提として,採取計画を認可しています。
弁護士F:分かりました。今のお話を踏まえ,採石法の関係する規定に照らして,Aに対し岩石の採取をやめさせるために行うことのできる処分について,様々な可能性を検討してみます。
職員E:お願いします。ただ,素朴に考えると,認可の審査の際に前提としていた保証がなくなってしまったわけですから,認可の取消しは,採石法の個々の規定にかかわらず当然できるように思うのですが,いかがでしょうか。
弁護士F:なるほど。まずは採石法の個々の規定を綿密に読む必要がありますが,御指摘の点も検討しておく価値がありますね。
職員E:お願いします。ところで,Aに対して何らかの処分を行うことが可能だとしても,処分を行うか否かはB県知事が判断することだと思うのですが,Dが裁判で求めるようなことができるのですか。
弁護士F:Dがどのような訴えを起こすのか,現時点では確かではありませんが,法定抗告訴訟を提起する可能性が高いと思いますので,法定抗告訴訟として考えられる訴えの例を具体的に一つ想定し,Dの訴えが訴訟要件を満たすか否かについて,もちろん法令の関係する規定を踏まえて,検討しておきます。Dは,行政訴訟に併せて仮の救済も申し立ててくると思いますが,仮の救済の問題は,今回は検討せず,次の段階で検討することにします。

【資料2関係法令】

○採石法(昭和25年12月20日法律第291号)(抜粋)

(目的)
第1条 この法律は,採石権の制度を創設し,岩石の採取の事業についてその事業を行なう者の登録,岩石の採取計画の認可その他の規制等を行ない,岩石の採取に伴う災害を防止し,岩石の採取の事業の健全な発達を図ることによつて公共の福祉の増進に寄与することを目的とする。
(採取計画の認可)
第33条 採石業者は,岩石の採取を行なおうとするときは,当該岩石の採取を行なう場所(以下「岩石採取場」という。)ごとに採取計画を定め,当該岩石採取場の所在地を管轄する都道府県知事の認可を受けなければならない。
(採取計画に定めるべき事項)
第33条の2 前条の採取計画には,次に掲げる事項を定めなければならない。
 一 岩石採取場の区域
 二 採取をする岩石の種類及び数量並びにその採取の期間
 三 岩石の採取の方法及び岩石の採取のための設備その他の施設に関する事項
 四 岩石の採取に伴う災害の防止のための方法及び施設に関する事項
 五 前各号に掲げるもののほか,経済産業省令で定める事項
(認可の申請)
第33条の3 第33条の認可を受けようとする採石業者は,次に掲げる事項を記載した申請書を都道府県知事に提出しなければならない。
 一 氏名又は名称及び住所並びに法人にあつては,その代表者の氏名
 二 登録の年月日及び登録番号
 三 採取計画2前項の申請書には,岩石採取場及びその周辺の状況を示す図面その他の経済産業省令で定める書類を添附しなければならない。
(認可の基準)
第33条の4 都道府県知事は,第33条の認可の申請があつた場合において,当該申請に係る採取計画に基づいて行なう岩石の採取が他人に危害を及ぼし,公共の用に供する施設を損傷し,又は農業,林業若しくはその他の産業の利益を損じ,公共の福祉に反すると認めるときは,同条の認可をしてはならない。
(認可の条件)
第33条の7 第33条の認可(中略)には,条件を附することができる。
2 前項の条件は,認可に係る事項の確実な実施を図るため必要な最小限度のものに限り,かつ,認可を受ける者に不当な義務を課することとなるものであつてはならない。
(遵守義務)
第33条の8 第33条の認可を受けた採石業者は,当該認可に係る採取計画(中略)に従つて岩石の採取を行なわなければならない。
(認可の取消し等)
第33条の12 都道府県知事は,第33条の認可を受けた採石業者が次の各号の一に該当するときは,その認可を取り消し,又は六箇月以内の期間を定めてその認可に係る岩石採取場における岩石の採取の停止を命ずることができる。
 一 第33条の7第1項の条件に違反したとき。
 二 第33条の8の規定に違反したとき。
 三 (中略)次条第1項の規定による命令に違反したとき。
 四 不正の手段により第33条の認可を受けたとき。
(緊急措置命令等)
第33条の13 都道府県知事は,岩石の採取に伴う災害の防止のため緊急の必要があると認めるときは,採取計画についてその認可を受けた採石業者に対し,岩石の採取に伴う災害の防止のための必要な措置をとるべきこと又は岩石の採取を停止すべきことを命ずることができる。
2 都道府県知事は,(中略)第33条若しくは第33条の8の規定に違反して岩石の採取を行なつた者に対し,採取跡の崩壊防止施設の設置その他岩石の採取に伴う災害の防止のための必要な措置をとるべきことを命ずることができる。
第43条 次の各号の一に該当する者は,1年以下の懲役若しくは10万円以下の罰金に処し,又はこれを併科する。
 一 (略)
 二 (前略)第33条の12,第33条の13第1項若しくは第2項又は(中略)の規定による命令に違反した者
 三 第33条又は第33条の8の規定に違反して岩石の採取を行なつた者
 四 (略)

○採石法施行規則(昭和26年1月31日通商産業省令第6号)(抜粋)

(採取計画に定めるべき事項)
第8条の14 法(注:採石法)第33条の2第5号の経済産業省令で定める事項は,次に掲げるとおりとする。
 一 岩石の賦存の状況
 二 採取をする岩石の用途
 三 廃土又は廃石のたい積の方法
(認可の申請)
第8条の15 (略)
2 法第33条の3第2項の経済産業省令で定める書類は,次に掲げるとおりとする。
 一 岩石採取場の位置を示す縮尺五万分の一の地図
 二 岩石採取場及びその周辺の状況を示す図面
 三 掘採に係る土地の実測平面図
 四 掘採に係る土地の実測縦断面図及び実測横断面図に当該土地の計画地盤面を記載したもの
 五 (略)
 六 岩石採取場を管理する事務所の名称及び所在地,当該事務所の業務管理者の氏名並びに当該業務管理者が当該岩石採取場において認可採取計画に従つて岩石の採取及び災害の防止が行われるよう監督するための計画を記載した書面
 七 岩石採取場で岩石の採取を行うことについて申請者が権原を有すること又は権原を取得する見込みが十分であることを示す書面
 八 岩石の採取に係る行為に関し,他の行政庁の許可,認可その他の処分を受けることを必要とするときは,その処分を受けていることを示す書面又は受ける見込みに関する書面
 九 岩石採取場からの岩石の搬出の方法及び当該岩石採取場から国道又は都道府県道にいたるまでの岩石の搬出の経路を記載した書面
 十 採取跡における災害の防止のために必要な資金計画を記載した書面
 十一 その他参考となる事項を記載した図面又は書面

【資料3B県採石法事務取扱要綱(抜粋)】

第7条 法(注:採石法)第33条の認可を受けようとする採石業者は,法第33条の2第4号により採取計画に定められた跡地防災措置(岩石採取の跡地で岩石採取に起因する災害が発生することを防止するために必要な措置をいう。以下同じ。)につき,C組合を保証人として立てなければならない。
2 前項の保証人は,その保証に係る採石業者が破産等により跡地防災措置を行わない場合に,その採石業者に代わって跡地防災措置を行うものとする。
第8条 採取計画の認可を受けようとする採石業者は,法第33条の3第1項の申請書に,法施行規則第8条の15第2項第11号の図面又は書面として,次に掲げる書類を添付しなければならない。
 一 第7条の保証人を立てていることを証する書面
 二~五(略)

 

練習答案

 以下行政事件訴訟法についてはその条数のみを示す。

〔設問1〕

第1 本件要綱の性質及び効果
 本件要綱は形式上、法律でも政省令でもない。法律や政省令に基づき許認可等を判断する際に参照する審査基準(行政手続法5条)だと考えられる。国民の権利を制限しあるいは義務を課すには法律に基づかなければならないので、審査基準によってそうすることはできない。あくまでも法律の内容を明確にする効果を有するにとどまる。

第2 採石法(以下「法」という)及び採石法施行規則(以下「規則」という)の関係する規定の趣旨及び内容
 法の目的は、岩石の採取計画の認可等を行い、岩石の採取に伴う災害を防止し、岩石の採取の事業の健全な発達を図ることによって公共の福祉の増進に寄与することである(法1条)。それを受けて、岩石の採取に伴う災害の防止のための方法及び施設の関する事項を定めた採取計画を定め、それを提出し、都道府県知事の認可を受けなければならないと規定されている(法33条、33条の2第4号、33条の3第1項3号)。その際に添付しなければならない書類は、規則で定められている(法33条の3第2項)。その規則には、採取跡における災害の防止のために必要な資金計画を記載した書面が挙げられている(規則8条の15第2項10号)。これは、事業者の財政状況も考慮して防災を確実にするという趣旨である。

第3 採石認可拒否処分(以下「本件処分」という)の適法性
 ここまでのところからして、本件要綱は、事業者の財政状況も考慮して防災を確実にするという法の趣旨を明確にするという範囲内で有効である。本件を取り巻く状況からすれば、Aは採石業者の中では大規模な事業者の部類に入るとはいえ、大企業とまではいえず、また他の採石業者から保証を受けたとしてもその採石業者も倒産したりすれば防災措置を確実にすることができないので、C組合の保証がなければ認可しないという本件処分は適法である。

〔設問2〕

第1 緊急措置命令等
 都道府県知事は、第33条若しくは第33条の8の規定に違反して岩石の採取を行った者に対し、採取跡の崩壊防止施設の設置その他岩石の採取に伴う災害の防止のための必要な措置をとるべきことを命ずることができる(法33条の13第2項)。〔設問1〕での検討からして、C組合の保証は、採取計画の一部を成す。Aはその保証契約を解除した。よって採取計画の遵守義務(法33条の8)の規定に違反している。以上より、B県知事は、岩石の採取に伴う災害の防止のための必要な措置として、Aに対し、岩石の採取をやめるように命じることができる。

第2 認可の取り消し等
 都道府県知事は、第33条の認可を受けた採石業者が次の各号の一に該当するときは、その認可を取り消し、又は六箇月以内の期間を定めてその認可に係る岩石採取場における岩石の採取の停止を命ずることができる(法33条の12柱書)。第1で述べたように、Aは法33条の8の規定に違反したといえるので、同条2号に該当する。また、すぐにCとの保証契約を解除するつもりで、申請時に表面的に保証書面を用意したことは、不正の手段により第33条の認可を受けたとき(法同条4号)にも該当する。よってB県知事は、認可の取り消し又は岩石の採取の停止を命ずることで、Aに対し岩石の採取をやめさせることができる。

第3 罰則
 第1及び第2のように命じたとしてもAが従わない場合は、法43条第2号及び3号に該当することになるので、1年以下の懲役若しくは10万円以下の罰金に処し、又はこれは併科することで、Aに対し岩石の採取をやめさせることができる。

〔設問3〕

第1 訴えの例
 本問において考えられる訴えの例は、いわゆる非申請型義務付けの訴え(3条6項1号)である。

第2 訴訟要件
(1) 義務付けの訴えの要件
 第三条第六項第一号に掲げる場合において、義務付けの訴えは、一定の処分がされないことにより重大な損害が生ずるおそれがあり、かつ、その損害を避けるために他に適当な方法がないときに限り、提起することができる(37条の2第1項)。この判断をするに当たっては、損害の回復の困難の程度を考慮し、損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質をも勘案するものとする(37条の2第2項)。本問での処分がされないことにより、Dの所有する森林が土砂災害により被害を受けるおそれがある。Dはそこに居住してはいないが、林業を営んでいるので、仕事で立ち入ることは十分に考えられ、その時に土砂災害が発生すればDの生命・身体が危険にさらされる。森林という財産がき損されることは言うまでもない。生命・身体の回復は不可能あるいは困難である。他方で本問で検討している処分は採石をやめさせることである。以上より、重大な損害が生ずるおそれがあると言える。また、本件では民事訴訟よりも義務付けの訴えのほうがC組合の保証のことを適切に扱えるので、他に適当な方法がないときでもある。以上より、義務付けの訴えの要件を満たす。
(2) 原告適格
 第一項の義務付けの訴えは、行政庁が一定の処分をすべき旨を命ずることを求めるにつき法律上の利益を有する者に限り、提起することができ、その判断については9条2項の規定が準用される(37条2第3項、4項)。9条の法律上の利益とは、一般的な公益に解消されない個々人の個別具体的な利益のことである。そして処分の相手方以外の者については9条2項に沿って判断される。
 Dは処分の相手方以外の者である。法の目的には防災があり、そのために岩石採取場関係の図面の提出が要求されている(規則8条の15各号)。これからすると、本件採取場から下方に約10メートル離れた土地に森林を所有しているDの個別具体的な利益が法及び規則によって保護されていると解される。以上よりDには原告適格が認められる。
(3) 結論
 (1),(2)より、訴訟要件を満たす。

以上

 

修正答案

 以下行政事件訴訟法についてはその条数のみを示す。

〔設問1〕

第1 本件要綱の性質及び効果
 本件要綱は形式上、法律でも政省令でもないし、法律の委任を受けたものでもない。よって国民の権利を制限しあるいは義務を課す法規命令ではなく、行政規則である。その行政規則のうちで、裁量の範囲内に含まれれば外部的な効果をもつ審査基準(行政手続法5条)であり、含まれなければ外部的な効果をもたない行政指導指針(行政手続法36条)である。
 そこで本件要綱が裁量の範囲内に含まれるかどうかを検討する。採石法(以下「法」という)33条の4には、「都道府県知事は…公共の福祉に反すると認めるときは,同条の認可をしてはならない」とある。「公共の福祉に反すると認めるとき」という抽象的な基準が法で定められており、また、「岩石の採取に伴う災害を防止し,岩石の採取の事業の健全な発達を図る」(法1条)という目的を達成するためには、地域の事情を考慮する必要があるため、都道府県知事に一定の裁量が与えられると解釈できる。その裁量を一定程度明確にしたものが本件要綱であり、審査基準であると言える。

第2 採石法及び採石法施行規則(以下「規則」という)の関係する規定の趣旨及び内容
 法の目的は、岩石の採取計画の認可等を行い、岩石の採取に伴う災害を防止し、岩石の採取の事業の健全な発達を図ることによって公共の福祉の増進に寄与することである(法1条)。それを受けて、岩石の採取に伴う災害の防止のための方法及び施設の関する事項を定めた採取計画を定め、それを提出し、都道府県知事の認可を受けなければならないと規定されている(法33条、33条の2第4号、33条の3第1項3号)。その際に添付しなければならない書類は、規則で定められている(法33条の3第2項)。その規則には、採取跡における災害の防止のために必要な資金計画を記載した書面が挙げられている(規則8条の15第2項10号)。これは、事業者の財政状況も考慮して防災を確実にするという趣旨である。

第3 採石認可拒否処分(以下「本件処分」という)の適法性
 ここまで述べたところからして、本件要綱は、事業者の財政状況も考慮して防災を確実にするという法の趣旨から導かられる都道府県知事の裁量の範囲内で有効である。本件要綱はあくまでもその裁量の基準を示したものであり、国民の権利義務を直接定めたものではないため、必ずしも機械的に運用しなければならないものでもない。以上を踏まえて、本件処分が裁量権の逸脱・濫用に当たらないかを検討する。
 本件を取り巻く状況からすれば、Aは採石業者の中では大規模な事業者の部類に入るとはいえ、大企業とまではいえず、また他の採石業者から保証を受けたとしてもその採石業者も倒産したりすれば防災措置を確実にすることができないので、C組合の保証がなければ認可しないという本件処分はB県知事の裁量の範囲内であり、適法である。

〔設問2〕

第1 緊急措置命令等
 都道府県知事は、第33条若しくは第33条の8の規定に違反して岩石の採取を行った者に対し、採取跡の崩壊防止施設の設置その他岩石の採取に伴う災害の防止のための必要な措置をとるべきことを命ずることができる(法33条の13第2項)。〔設問1〕での検討からして、C組合の保証は、採取計画の一部を成す。Aはその保証契約を解除した。よって採取計画の遵守義務(法33条の8)の規定に違反している。以上より、B県知事は、岩石の採取に伴う災害の防止のための必要な措置として、Aに対し、岩石の採取をやめるように命じることができる。なお、具体的な危険が現れていない本件では「緊急の必要」があるとは認められないので、法33条の13第1項に基づくことはできない。

第2 認可の取り消し等
 都道府県知事は、第33条の認可を受けた採石業者が次の各号の一に該当するときは、その認可を取り消し、又は六箇月以内の期間を定めてその認可に係る岩石採取場における岩石の採取の停止を命ずることができる(法33条の12柱書)。C組合との保証契約を継続することを法33条の7の条件だと解釈することができるので、その条件に違反したという同条1号に該当する。また、第1で述べたように、Aは法33条の8の規定に違反したといえるので、同条2号に該当する。さらに、すぐにCとの保証契約を解除するつもりで、申請時に表面的に保証書面を用意したことは、不正の手段により第33条の認可を受けたとき(法同条4号)にも該当する。よってB県知事は、認可の取り消し又は岩石の採取の停止を命ずることで、Aに対し岩石の採取をやめさせることができる。

第3 法に明文の定めのない撤回
 本件認可は当初適法であったから、職権取消しの余地はない。そこで、その後の本件保証契約の解除を原因とする本件認可の撤回の可否を検討する。一般に、法に明文の根拠がなくても、処分行政庁は撤回をすることができると解されている。しかしながら、名宛人の信頼保護なども考慮しなければならず、受益的行為を撤回する場合は、名宛人の同意か不正行為がなければならない。本件認可は受益的処分である。〔設問1〕におけるB県知事の採石認可拒否処分は適法であるという考え方を前提とすると、C組合との保証契約を解除したことは名宛人Aの不正行為である。よって、行政庁たるB県知事は、法に明文の定めがなくても、本件認可を撤回し、それによりAに対し岩石の採取をやめさせることができる。

〔設問3〕

第1 訴えの例
 本問において考えられる訴えの例は、いわゆる非申請型義務付けの訴え(3条6項1号)である。

第2 訴訟要件
(1) 義務付けの訴えの要件
 第三条第六項第一号に掲げる場合において、義務付けの訴えは、一定の処分がされないことにより重大な損害が生ずるおそれがあり、かつ、その損害を避けるために他に適当な方法がないときに限り、提起することができる(37条の2第1項)。この判断をするに当たっては、損害の回復の困難の程度を考慮し、損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質をも勘案するものとする(37条の2第2項)。本問での処分がされないことにより、Dの所有する森林が土砂災害により被害を受けるおそれがある。Dはそこに居住してはいないが、林業を営んでいるので、仕事で立ち入ることは十分に考えられ、その時に土砂災害が発生すればDの生命・身体が危険にさらされる。森林という財産がき損されることは言うまでもない。生命・身体の回復は不可能あるいは困難である。他方で本問で検討している処分は採石をやめさせることであり、せいぜいが一定程度の財産的損害である。以上より、重大な損害が生ずるおそれがあると言える。また、本件では民事訴訟よりも義務付けの訴えのほうがC組合の保証のことを適切に扱えるので、他に適当な方法がないときでもある。以上より、義務付けの訴えの要件を満たす。
(2) 原告適格
 第一項の義務付けの訴えは、行政庁が一定の処分をすべき旨を命ずることを求めるにつき法律上の利益を有する者に限り、提起することができ、その判断については9条2項の規定が準用される(37条2第3項、4項)。「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであるが、当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益をもつぱら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、このような利益も右にいう法律上保護された利益に当たる。そして処分の相手方以外の者については9条2項に沿って判断される。
 Dは処分の相手方以外の者である。法の目的には防災があり、そのために岩石採取場関係の図面の提出が要求されている(規則8条の15各号)。これからすると、本件採取場から下方に約10メートル離れた土地に森林を所有していて、そこに立ち入る可能性のあるDの生命や身体という個別具体的な利益が法及び規則によって保護されていると解される。また、法33条の4の認可の基準に林業の利益も明記されており、Dが営む林業及びその基盤となる森林の所有権も保護されていると解される。以上よりDには原告適格が認められる。
(3) 結論
 (1),(2)より、訴訟要件を満たす。

以上

 

 

 




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