問題
(〔設問1〕から〔設問5〕までの配点の割合は,8:16:4:14:8)
司法試験予備試験用法文を適宜参照して,以下の各設問に答えなさい。
〔設問1〕
弁護士Pは,Xから次のような相談を受けた。
【Xの相談内容】
「私の父Yは,その妻である私の母が平成14年に亡くなって以来,Yが所有していた甲土地上の古い建物(以下「旧建物」といいます。)に1人で居住していました。平成15年初め頃,Yが,生活に不自由を来しているので同居してほしいと頼んできたため,私と私の妻子は,甲土地に引っ越してYと同居することにしました。Yは,これを喜び,旧建物を取り壊した上で,甲土地を私に無償で譲ってくれました。そこで,私は,甲土地上に新たに建物(以下「新建物」といいます。)を建築し,Yと同居を始めました。ちなみにYから甲土地の贈与を受けたのは,私が新建物の建築工事を始めた平成15年12月1日のことで,その日,私はYから甲土地の引渡しも受けました。
ところが,新建物の完成後に同居してみると,Yは私や妻に対しささいなことで怒ることが多く,とりわけ,私が退職した平成25年春には,Yがひどい暴言を吐くようになり,ついには遠方にいる弟Aの所に勝手に出て行ってしまいました。
平成25年10月頃,Aから電話があり,甲土地はAに相続させるとYが言っているとの話を聞かされました。さすがにびっくりするとともに,とても腹が立ちました。親子なので書類は作っていませんが,Yは,甲土地が既に私のものであることをよく分かっているはずです。平成16年から現在まで甲土地の固定資産税等の税金を支払っているのも私です。もちろん母がいるときのようには生活できなかったかもしれませんが,私も妻もYを十分に支えてきました。
甲土地は,Yの名義のままになっていますので,この機会に,私は,Yに対し,所有権の移転登記を求めたいと考えています。」
弁護士Pは,【Xの相談内容】を受けて甲土地の登記事項証明書を取り寄せたところ,昭和58年12月1日付け売買を原因とするY名義の所有権移転登記(詳細省略)があることが明らかとなった。弁護士Pは,【Xの相談内容】を前提に,Xの訴訟代理人として,Yに対し,贈与契約に基づく所有権移転登記請求権を訴訟物として,所有権移転登記を求める訴えを提起することにした。
以上を前提に,以下の各問いに答えなさい。
(1) 弁護士Pが作成する訴状における請求の趣旨(民事訴訟法第133条第2項)を記載しなさい。
(2) 弁護士Pは,その訴状において,「Yは,Xに対し,平成15年12月1日,甲土地を贈与した。」との事実を主張したが,請求を理由づける事実(民事訴訟規則第53条第1項)は,この事実のみで足りるか。結論とその理由を述べなさい。
〔設問2〕
上記訴状の副本を受け取ったYは,弁護士Qに相談した。贈与の事実はないとの事情をYから聴取した弁護士Qは,Yの訴訟代理人として,Xの請求を棄却する,贈与の事実は否認する旨記載した答弁書を提出した。
平成26年2月28日の本件の第1回口頭弁論期日において,弁護士Pは訴状を陳述し,弁護士Qは答弁書を陳述した。また,同期日において,弁護士Pは,次回期日までに,時効取得に基づいて所有権移転登記を求めるという内容の訴えの追加的変更を申し立てる予定であると述べた。
弁護士Pは,第1回口頭弁論期日後にXから更に事実関係を確認し,訴えの追加的変更につきXの了解を得て,訴えの変更申立書を作成し,請求原因として次の各事実を記載した。
① Xは,平成15年12月1日,甲土地を占有していた。
②〔ア〕
③ 無過失の評価根拠事実平成15年11月1日,Yは,Xに対し,旧建物において,「明日からこの建物を取り壊す。取り壊したら,甲土地はお前にただでやる。いい建物を頼むぞ。」と述べ,甲土地の登記済証(権利証)を交付した。〔以下省略〕
④ Xは,Yに対し,本申立書をもって,甲土地の時効取得を援用する。
⑤〔イ〕
⑥ よって,Xは,Yに対し,所有権に基づき,甲土地について,上記時効取得を原因とする所有権移転登記手続をすることを求める。
以上を前提に,以下の各問いに答えなさい。
(1) 上記〔ア〕及び〔イ〕に入る具体的事実を,それぞれ答えなさい。
(2) 上記①から⑤までの各事実について,請求原因事実としてそれらの事実を主張する必要があり,かつ,これで足りると考えられる理由を,実体法の定める要件や当該要件についての主張・立証責任の所在に留意しつつ説明しなさい。
(3) 上記③無過失の評価根拠事実(甲土地が自己の所有に属すると信じるにつき過失はなかったとの評価を根拠付ける事実)に該当するとして,「Xは平成16年から現在まで甲土地の固定資産税等の税金を支払っている。」を主張することは適切か。結論とその理由を述べなさい。
〔設問3〕
上記訴えの変更申立書の副本を受け取った弁護士Qは,Yに事実関係の確認をした。Yの相談内容は次のとおりである。
【Yの相談内容】
「私は,長男Xと次男Aの独立後しばらくたった昭和58年12月1日,甲土地及び旧建物を前所有者であるBから代金3000万円で購入して所有権移転登記を取得し,妻と生活していました。
その後,妻が亡くなってしまい,私も生活に不自由を来すようになりましたので,Xに同居してくれるよう頼みました。Xは,甲土地であれば通勤等が便利だと言って喜んで賛成してくれました。私とXは,旧建物は私の方で取り壊すこと,甲土地をXに無償で貸すこと,Xの方で二世帯が住める住宅を建てることを決めました。
しかし,いざ新建物で同居してみると,だんだんと一緒に生活することが辛くなり,平成25年春,Aに頼んでAの所で生活をさせてもらうことにしました。
このような次第ですので,私が甲土地上の旧建物を取り壊して甲土地をXに引き渡したこと,Xに甲土地を引き渡したのが新建物の建築工事が始まった平成15年12月1日であり,それ以来Xが甲土地を占有していること,Xが新建物を所有していることは事実ですが,私はXに対し甲土地を無償で貸したのであって,贈与したのではありません。平成15年12月1日に私とXが会って新築工事の話をしましたが,その際に甲土地を贈与するという話は一切出ていませんし,書類も作っていません。私には所有権の移転登記をすべき義務はないと思います。」
弁護士Qは,【Yの相談内容】を踏まえて,どのような抗弁を主張することになると考えられるか。いずれの請求原因に関するものかを明らかにした上で,当該抗弁の内容を端的に記載しなさい(なお,無過失の評価障害事実については記載する必要はない。)。
〔設問4〕
第1回弁論準備手続期日において,弁護士Pは訴えの変更申立書を陳述し,弁護士Qは前記抗弁等を記載した準備書面を陳述した。その後,弁論準備手続が終結し,第2回口頭弁論期日において,弁論準備手続の結果の陳述を経て,XとYの本人尋問が行われた。本人尋問におけるXとYの供述内容の概略は,以下のとおりであった。
【Xの供述内容】
「私は,平成15年11月1日,旧建物に行き,Yと今後の相談をしました。その際,Yは,私に対し,『明日からこの建物を取り壊す。取り壊したら,甲土地はお前にただでやる。いい建物を頼むぞ。』と述べ,甲土地の登記済証(権利証)を交付してくれました。私は,Yと相談して,Yの要望に沿った二世帯住宅を建築することにし,Yが住みやすいような間取りにしました。新建物は,仮にYが亡くなった後も,私や私の妻子が末永く住めるよう私が依頼して鉄筋コンクリート造の建物としました。
平成15年12月1日,更地になった甲土地で新建物の建築工事が始まることになり,Yと甲土地で会いました。Yは,『今日からこの土地はお前の土地だ。ただでやる。同居が楽しみだな。』と言ってくれ,私も『ありがとう。』と答えました。
私はその日に土地の引渡しを受け,工事を開始し,新建物を建築しました。その後,私は,甲土地の登記済証(権利証)を保管し,平成16年以降,甲土地の固定資産税等の税金を支払い,Yが勝手に出て行った平成25年春までは,その生活の面倒も見てきました。
新建物の建築費用は3000万円で,私の預貯金から出しました。移転登記については,いずれすればよいと思ってそのままにし,贈与税の申告もしていませんでした。なお,親子のことですから,贈与の書面は作っていませんが,Yが事実と異なることを言っているのは,Aと同居を始めたからに違いありません。」
【Yの供述内容】
「私は,平成15年11月1日,旧建物で,Xと今後の相談をしましたが,その際,私は,Xに対し,『明日からこの建物を取り壊す。取り壊したら,甲土地はお前に無償で貸す。いい建物を頼むぞ。』と言ったのであって,『譲渡する』とは言っていません。Xには,生活の面倒を見てもらい,甲土地の固定資産税等の支払いをしてもらい,正直,私が死んだら,甲土地はXに相続させようと考えていたのは事実ですが,生前に贈与するつもりはありませんでしたし,贈与の書類も作っていません。なお,甲土地の登記済証(権利証)を交付しましたが,これは旧建物を取り壊す際に,Xに保管を依頼したものです。
平成15年12月1日,更地になった甲土地で新建物の建築工事が始まることになり,Xと甲土地で会いましたが,私が言ったのは,『今日からこの土地はお前に貸してやる。お金はいらない。』ということです。その日からXが新建物の工事を始め,私の意向を踏まえた二世帯住宅が建ち,私たちは同居を始めました。
しかし,いざ新建物で同居してみると,Xらは私を老人扱いしてささいなことも制約しようとしましたので,だんだんと一緒に生活することが辛くなり,平成25年春,別居せざるを得なくなったのです。Xには,誰のおかげでここまで来れたのか,もう一度よく考えてほしいと思います。」
本人尋問終了後に,弁護士Qは,次回の第3回口頭弁論期日までに,当事者双方の尋問結果に基づいて準備書面を提出する予定であると陳述した。弁護士Qは,「Yは,Xに対し,平成15年12月1日,甲土地を贈与した。」とのXの主張に関し,法廷におけるXとYの供述内容を踏まえて,Xに有利な事実への反論をし,Yに有利な事実を力説して,Yの主張の正当性を明らかにしたいと考えている。
この点について,弁護士Qが作成すべき準備書面の概略を答案用紙1頁程度の分量で記載しなさい。
〔設問5〕
弁護士Qは,Yから本件事件を受任するに当たり,Yに対し,事件の見通し,処理方法,弁護士報酬及び費用について一通り説明した上で,委任契約を交わした。その際,Yから「私も高齢で,難しい法律の話はよく分からない。息子のAに全て任せているから,今後の細かい打合せ等については,Aとやってくれ。」と言われ,弁護士Qは,日頃Aと懇意にしていたこともあったため,その後の訴訟の打合せ等のやりとりはAとの間で行っていた。
第3回口頭弁論期日において裁判所から和解勧告があり,XY間において,YがXに対し甲土地の所有権移転登記手続を行うのと引換えにXがYに対し1500万円を支払うとの内容の和解が成立したが,弁護士Qは,その際の意思確認もAに行った。また,弁護士Qは,和解成立後の登記手続等についても,Aから所有権移転登記手続書類を預かり,その交付と引換えにXから1500万円の支払を受けた。さらに,弁護士Qは,受領した1500万円から本件事件の成功報酬を差し引いて,残額については,Aの指示により,A名義の銀行口座に送金して返金した。
弁護士Qの行為は弁護士倫理上どのような問題があるか,司法試験予備試験用法文中の弁護士職務基本規程を適宜参照して答えなさい。
練習答案(実際の試験での再現答案)
(F評価)
以下民法についてはその条数のみを示す。
[設問1]
(1) 被告は、原告に対し、甲土地について、所有権移転登記をせよ。訴訟費用は被告の負担とする。
(2) 結論として、この事実のみでは足りない。贈与により所有権を移転するためには、贈与者が所有権を有していなければならない。よってYが平成15年12月1日に甲土地の所有権を有していたとの事実を主張しなければならない。しかし、ある時点で所有権を有していることを立証するのは極めて困難である。そこで、それより前の時点の所有を示せば、それ以降所有が継続していることが推定される。以上より、本件では昭和58年12月1日付けでYが甲土地を所有していたとの事実を主張すればよい。
[設問2]
(1) [ア]Xは、平成25年12月1日、甲土地を占有していた。
[イ]登記上、Yが甲土地の所有権者になっている。
(2) 十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する(第162条第2項)のであり、所有の意思、平穏、公然は推定されるので、十年間の占有を示せばよい。十年間ずっと占有していたことを示すのは極めて困難なので、最初の時点と最後の時点で占有していたことを示せば、その間の占有は推定される。よって①と②の事実を主張する必要がある。これは、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったとき(第162条第2項)のことなので、③で無過失の評価根拠事実を示している。そして、時効は、当事者が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない(第145条)ので、④で時効取得を援用している。所有権移転登記手続を求めるのであれば、被告に所有権がなければならないので、⑤の主張をしている。以上より、①から⑤までの各事実について、請求原因事実としてそれらの事実を主張する必要があり、かつ、これで足りる。
(3) 適切である。固定資産税等の税金を支払っていることから、Xが甲土地が自己の所有に属すると信じていたことが推測できるからである。
[設問3]
弁護士Qは、XとYとの間で、甲土地の使用貸借契約が成立していたとの抗弁を主張することになると考えられる。というのも、[設問2]の①と②から自己所有の意思が推定されるが、使用貸借契約が成立しているとその推定が覆されるからである。
[設問4]
Xは贈与契約に基づいて甲土地の所有権移転登記を求めているが、これは認められない。YはXに対し、「甲土地はお前に無償で貸す」と言ったのであるから、贈与ではなく使用貸借契約が成立している。贈与の書面が作られていないのであるし、移転登記もそのままにされていたのである。しかもXは贈与税の申告もしていなかった。納税は国民の義務であり、税金を納めないでいると後で余計に払わされることもあるので、通常人は税金が発生しているのに払わないということをしない。
また、仮に使用貸借契約ではなく贈与契約が成立していたとしても、それは負担付贈与である。XがYの生活の面倒を見るということで、甲土地が贈与されたのである。そうなると双務契約に関する規定が準用され(第553条)、Yの生活の面倒を見るという債務をXが適切に履行しなかったので、Yは本件負担付贈与契約を解除したのである(第541条)。本件ではもちろん、相当の期間を定めてその履行の催告をしていたと考えられる。
Xが甲土地の固定資産税等を支払っていたことは、使用貸借契約であれば借用物の通常の必要費なので借主であるXが負担する(第595条第1項)のであるし、負担付贈与であればその負担の内容の一部である。
[設問5]
以下では弁護士職務基本規定についてその条数のみを示す。
1.報酬分配の制限(第12条)
弁護士QがAに返金した後で、Aが自らの報酬を差し引いてYに返金するなら、報酬分配の制限(第12条)違反になる。
2.依頼者の意思の尊重(第22条)
本件ではYの意思に基づいてQはAとやり取りしていたのであるが、少なくとも和解の内容という重要なことに関してはYの意思を確認すべきであった。依頼者が高齢のためにその意思を十分に表明できないときであっても、適切な方法を講じて依頼者の意思の確認に努める(第22条第2項)とされている。
3.処理結果の説明(第44条)・預り金等の返還(第45条)
Qは、委任の終了に当たり、依頼者であるYに対し、事件処理の状況又はその結果に関し、必要に応じ法的助言を付して説明をしていないし、預り金の返還もしていない。これは処理結果の説明(第44条)・預り金等の返還(第45条)に違反する。
以上
修正答案
以下民法についてはその条数のみを示す。
[設問1]
(1)
被告は、原告に対し、甲土地について、平成15年12月1日贈与を原因とする所有権移転登記手続をせよ。
(2)
この事実のみで足りる。訴訟物は贈与契約に基づく所有権移転登記請求権であり、贈与契約は諾成契約である(549条)ので物の引き渡しを主張する必要はない。また、物権に基づいて所有権移転登記を求めているわけではないので、現在Y名義の登記が存在することを主張する必要はない。
[設問2]
(1)
〔ア〕 Xは、平成25年12月1日経過時、甲土地を占有していた。
〔イ〕 甲土地について、昭和58年12月1日付け売買を原因とするY名義の所有権移転登記(詳細省略)がある。
(2)
訴訟物は、Xの時効取得した甲土地の所有権に基づく物権的所有権移転登記請求権(妨害排除請求権)なので、妨害があることを主張する必要がある(⑤)。現にYの登記が存在していることは妨害である。
十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する(162条2項)。
占有者は、所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ、公然と占有をするものと推定する(186条1項)ので、これらを請求原因事実として主張する必要はない。他人の物でなければ時効取得できない(自己の物であれば時効取得できない)とする合理的な理由はないので、他人の物であることを示す必要はない。前後の両時点において占有をした証拠があるときは、占有は、その間継続したものと推定する(186条2項)ので、占有開始時の占有と、一定の期間(ここでは10年)経過後の占有を示せば、その間の占有が推定される(①、②)。過失がないことそのものは規範であるので、③のようなそれを根拠付ける具体的事実を主張すればよい。「時効は、当事者が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない」(145条)ので、時効援用の主張が必要である(④)。
以上より、上記①から⑤までの各事実について、請求原因事実としてそれらの事実を主張する必要があり、かつ、これで足りると考えられる。
(3)
不適切である。無過失は占有開始時(平成15年12月1日)において判断されるところ、「Xは平成16年から現在まで甲土地の固定資産税等の税金を支払っている。」という事実は占有開始時より後のことなので、主張自体失当である。
[設問3]
弁護士Qは、時効取得を原因とする所有権に基づく所有権移転登記請求の請求原因に関して、Xの主張する占有は自己が所有する意思をもってしたのではなかったという抗弁を主張することになる。
[設問4]
まず、贈与契約の存在を直接根拠付ける証拠は存在していない。Xの弟など他の子との間で後々もめ事になることは容易に想像できるので、いくら親子の間とはいっても、本当に贈与したのであれば書面を残しておくのが通例であるのに、それが存在しないということは贈与契約がなかったことを窺わせる。
Xは甲土地の登記済証(権利証)の交付を受けそれを保管してきたことを贈与を推認させる事情として主張しているが、旧建物を取り壊して新建物を建築する際に必要になるであろうからこれをYがXに交付しただけである。その後もYが返還を求めなかったのは、どうせ同じ屋根の下にあって必要になればすぐに使える状態にあり、Xが保管したままであっても特段問題が生じないと思ったからである。
Xは固定資産税を支払ってきたことも根拠として主張しているが、これは子の親への扶養義務の一環と見ることもできるし、無償で甲土地を使用させてもらうことへの対価と捉えることもできる。かえって贈与税の申告をしていないことが、贈与はなかったことを推認させる。
Xが自己の費用で堅固な新建物を建築したことも、普通に生活している限りは甲土地の使用貸借契約が継続して、貸主のYが死亡した際には相続で同土地を手に入れられる見込みの高いという本件の状況下では、甲土地が贈与されていなければ起こりえないような事実ではない。
[設問5]
1.依頼者の意思の尊重義務違反(弁護士職務基本規程(以下「規程」とする)22条1項)
弁護士は、委任の趣旨に関する依頼者の意思を尊重して職務を行うものとする(規程22条1項)。Yから「私も高齢で、難しい法律の話はよく分からない。息子のAに全て任せているから、今後の細かい打合せ等については、Aとやってくれ。」と言われたとのことであるが、本件和解は難しい法律の話ではなく細かい打合せどころかむしろ大きな方針に関わるものなので、QはYの意思を確認して尊重すべきであった。同2項で適切な方法を講じて依頼者の意思の確認に努めると定められているのに、QがYの意思を確認しようとする努力をした形跡がない。
2.預かり金の返還義務違反(規程45条)
規程45条に明記されてはいないが、預り金の返還は依頼人に対して行うのが原則である。場合によっては代理人に返還することも許されようが、本件のように相続がらみの紛争で、しかも代理人であるAが勝手に和解をしたような場合には、YとAとの間でトラブルが発生することも想像される。無用なトラブルを防止するために、Qとしては預り金を確実に依頼人であるYに返還すべきであり、そうせずに安易にAに返還したことは、預り金の返還義務に違反している。
以上
感想
要件事実の理解が弱いので学習に励みたいです。
この科目の問題を初めて見ましたが面白いですね。
浅野さんが要件事実の理解が弱い気は全くしないのですが。こんなに書けたら楽勝でAとれる気がしてしまいます。
設問2
(1)イ
・「昭和58年12月1日付け売買を原因とする」
→ちょっとわからないですが、この部分まで必要なんですか?
原因にかかわらず、甲土地のY名義の登記があれば十分所有権侵害に当たると思うので、登記原因の特定まではいらない気もします。たいしたことではありませんが。
(2)
・「過失がないことそのものは規範であるので」
→もう少し説明したほうが良いかもしれません。
設問5
これって法曹倫理ですかね?
・民訴の知識と絡めて、和解は確定判決と同一の効力という強い効果が生じてしまうことや、特に本人の意思を問う必要があるため特別委任事項になっていることを合わせて指摘しても良いかもしれません。法曹倫理はよくわかりません。
通りすがり様
さすがに修正答案は調べてから書いていますからね。[設問1]から[設問3]のようなはっきりとした答えがある問題を本番に解くときのプレッシャーは半端ないです。
>原因にかかわらず、甲土地のY名義の登記があれば十分所有権侵害に当たると思うので、登記原因の特定まではいらない気もします。
不動産登記法59条3号及び61条から、登記原因の特定まで必要だと物の本で読んだことがあります。
>もう少し説明したほうが良いかもしれません。
「過失がないことは法的な評価を経て現れる規範であるので、それそのものを主張するのではなく、③のようなそれを根拠付ける具体的事実を主張すればよい。」くらいでいかがでしょうか。
>これって法曹倫理ですかね?
そうです。民訴の知識と絡めるのはいいですね。一瞬脳裏をよぎったのですが、最後の設問で疲れていたのでスルーしてしまいました。後から考えると書いたほうがよいと思います。
・「不動産登記法59条3号及び61条から、登記原因の特定まで必要だと物の本で読んだことがあります。」
間違っているかもしれませんが私の考えを述べてみようと思います。
司法試験とは全く関係がないので無視していただいてもかまいません。
登記原因の特定が必要と物の本で書かれてあったのは、たぶん請求の趣旨の記載における原告がこれから行う登記の登記原因の特定であって、被告が過去に登記名義を取得した際の登記原因の特定の意味ではない気がするのです。
設問1は贈与契約に基づく所有権移転登記請求なので登記原因は「年月日贈与」になると思われます。この旨の登記をするには贈与の証明が必要になるので、登記原因証明情報として判決書を出す場合、判決の中に何年何月何日に誰から誰に贈与があったことが書かれてある必要があります。そのため、設問1の(1)の請求の趣旨においては登記原因の特定の記載が必要になると思われます。
そして設問2で問題になるのは、時効取得を原因とする所有権移転登記手続です。この場合登記原因は「年月日時効取得」となると思われます。
そのため、何月何日に時効取得をしたことを証明すればよいのですが、相手方が過去に登記名義を取得した際の登記原因が何であろうと時効取得の証明には関係ないと思われます。つまり、判決主文に年月日時効取得を原因とする所有権移転登記手続をせよって書いてあれば登記原因証明情報として十分だと思われます。そのため、設問2の請求原因において相手方が過去に登記名義を取得した際の登記原因を記載する必要はないかと思われます。
さらに、本件では判決を得ているので不動産登記法63条の判決による登記をすることになると思われます。この場合、判決理由中では足りず、判決主文に登記原因が記載してなければならないとされています(登記実務らしい)。なので、不動産登記法の条文は、請求原因に相手方が過去に登記名義を取得した際の登記原因の特定が必要なことの理由付けにはならないと思います。
そしてもう一つ、不動産登記においては、登記面上明らかなものの証明は不要とされていると思います。相手方の登記原因はもうすでに登記上に書かれてあるため、登記の際にわざわざ証明する必要はないかと思います。
私の考えは以上になりますが、どうでしょうか?
一応、気になって、「要件事実論30講」の第2版(古いですが)を見てみました。第24講不動産物権変動のP350に「本件山林について、Y名義の所有権移転登記がある。」と記載されており、被告名義の登記の登記原因の記載はありませんでした。でももしかしたら実務では相手方の登記原因を訴状に記載する慣例みたいのがあるかもしれません。
通りすがり様
おっしゃる通りです。勘違いしていました。詳細な説明をしていただいたので理解できました。請求の趣旨の記載における原告がこれから行う登記の登記原因の特定が必要だということを強く意識しすぎて、それと今回ご指摘いただいた点とを混同しておりました。
これで登記関係の部分の理解も深まり記憶も定着したので、改めてお礼を申し上げます。
私も感覚的に思ったことを文章化したことで理解が進んだ気がします。
こちらこそありがとうございました。