問題
〔第1問〕(配点:100〔〔設問1〕,〔設問2〕及び〔設問3〕の配点の割合は,3:4:3〕)
次の文章を読んで,後記の〔設問1〕から〔設問3〕までに答えなさい。
Ⅰ
【事実】
1.甲土地は,平成22年5月当時,Aが所有しており,Aを所有権登記名義人とする登記がされていた。また,乙土地は,その頃,Bが所有しており,Bを所有権登記名義人とする登記がされていた。
2.Bは,医療機器の製造と販売を主たる事業としていたが,事業用の建物を賃貸して収益を得たいとも考えていた。Bは,事業用の建物を所有するのには甲土地が立地として適しているのに対し乙土地が必ずしも適さないことから,乙土地を売却処分して甲土地を取得したいと考え,Aとの間で甲土地の売買について交渉を試みた。この交渉において,Bは,Aに対し,代金を支払うための資金を乙土地の売却処分により調達する予定であることを説明し,Aは,その事情に理解を示すとともに,代金債務の担保として適当な連帯保証人を立てることを求めた。
3.この交渉の結果として,A及びBは,平成22年6月11日,代金を6000万円として甲土地をAがBに売る旨の契約を締結した。この契約においては,代金のうち1500万円は同月中にBがAに支払うこと,残代金4500万円の支払の期限は平成22年8月10日とすること並びに代金の全部が支払われた後に甲土地についての所有権の移転の登記及び甲土地の引渡しをするものとすることが約された。
4.また,保証人を立てることについて,Bは,Aに対し,Bの友人であるCを連帯保証人とすることを提案した。Bは,このことについてCの了解を得ていなかったが,Bと長く交友関係があったCに事情を説明すれば,甲土地を入手するためにCが協力をしてくれるものと想定していた。
Aは,Bの提案を了承し,【事実】3の売買契約が締結された平成22年6月11日,A及びBは,Cがその売買契約に係る代金債務の連帯保証人になる旨の書面を作成した。その書面は,2通作成され,それらの内容は同じものである。すなわち,そこには,【事実】3の売買契約に基づきBが負う代金債務についてCが連帯して保証する旨が記され,A及びBが署名し,Bの署名には,BがCの代理人である旨が示されていた。A及びBは,この書面をそれぞれ1通ずつ持ち帰ることとした。Bは,この書面を作成する際,Cが連帯保証人になることについて,Cから代理権を授与されてはいないが,Cの追認を速やかに得たい,とAに説明した。
5.Bは,平成22年6月15日,Cと会い,Cに対し,【事実】4の連帯保証の書面を示し,その書面に記されているとおり,【事実】3の売買契約に基づきBが負う代金債務についてCが連帯して保証する旨の契約をしたこと,及び連帯保証人になることについてのCの追認を後日に得たいとAに告げたことを説明した。その上で,Bは,Cに対し,Cを連帯保証人にする旨の契約をしたことを認めて欲しい,と要請した。Cは,これを承諾して,その席からAに電話をし,連帯保証人になることに異存はない旨を告げた。
6.【事実】3の売買契約の代金のうち1500万円は,平成22年6月25日,BがAに支払った。しかし,残代金の支払のためにBが進めた乙土地の売却処分は実現しないまま,やがて平成22年8月10日が到来した。そこで,Aは,同月18日,Bに対し残代金4500万円を速やかに支払うよう求めるとともに,Cに対し同じ額の支払を求めた。
これに対し,Cは,AC間の連帯保証契約は書面でされておらず,その効力を生じないからAの求めに応ずるつもりがないことを告げた。
〔設問1〕 【事実】1から6までを前提として,次の問いに答えなさい。
Aが,Cに対し,保証債務の履行を請求するには,どのような主張をする必要があるかを検討し,また,その主張に含まれる問題点を踏まえてその当否を論じなさい。
Ⅱ 【事実】1から6までに加え,以下の【事実】7から16までの経緯があった。
【事実】
7.その後,Bは,乙土地の売却について目途がついたことから,Aと話し合い,Aとの間において,【事実】3の売買契約の残代金を支払う期限を平成22年12月15日とすることに合意した。Bは,乙土地の売却処分によって得た資金を用い,平成22年12月10日,残代金をAに支払った。同日,甲土地はAからBへ引き渡され,また,同月18日,甲土地についてAからBへ売買を原因とする所有権の移転の登記がされた。
8.そこで,Bは,甲土地上に建物を建設するため,銀行であるD及び建設業を営む株式会社であるEと折衝を始めた。
まず,建設資金の融資をBから要請されたDは,平成23年1月頃,甲土地及びその上に建設される建物について第1順位の抵当権の設定を受けることを条件として,Bに対し,建物の建設資金として8000万円を融資する旨の意向を示した。
また,B及びEは,平成23年2月28日,Eが甲土地の上に建物を建設し,これに対する報酬としてBがEに1億3000万円を支払う旨の請負契約を締結した。
9.【事実】8の請負契約に基づき,Eは,甲土地上に建物を建設し,平成23年8月31日,Bに対し,この建物(以下「丙建物」という。)を引き渡した。同日,DはBに8000万円を貸し渡し,Bは,Bが別に用意した5000万円を加え,請負の報酬として1億3000万円をEに支払った。
10.また,DによるBへの金銭の貸渡しに係る消費貸借の返済条件は,毎月78万円の元利均等払で期間は10年とされた。また,この貸金の返済について2回の債務不履行がある場合にはBは期限の利益を失い,返済されていない額の全部を直ちにDに返済することも約された。
そして,B及びDは,この消費貸借に基づく貸金債権を担保するため,平成23年8月31日,甲土地について抵当権を設定する旨の契約を締結した。これに基づき,同日,甲土地について,Dを登記名義人とする抵当権の設定の登記がされた。この抵当権に優先する担保権の登記はされていない。
丙建物は,平成23年9月14日,Bを登記名義人とする所有権の保存の登記がされた。同日,B及びDは,上記の消費貸借に基づく貸金債権を担保するため,丙建物について抵当権を設定する旨の契約を締結し,これに基づき,Dを登記名義人とする抵当権の設定の登記がされた。この抵当権に優先する担保権の登記はされていない。
11.Bは,Fとの間において,平成23年10月1日,丙建物の1階部分について,コーヒーショップとして使用することを目的とし,賃料を月額40万円として,これをFに賃貸する旨の契約を締結した。この賃貸借契約においては,各月の賃料を前月の25日に支払うものとすることが約された。この賃貸借契約に基づき,同日,Bは,Fに対し丙建物の1階部分を引き渡した。
12.Bは,Gとの間において,平成23年11月1日,丙建物の2階部分について,学習塾として使用することを目的とし,賃料を月額30万円として,これをGに賃貸する旨の契約を締結した。この賃貸借契約においては,各月の賃料を前月の25日に支払うものとすることが約された。この賃貸借契約に基づき,同日,Bは,Gに対し丙建物の2階部分を引き渡した。
13.Fは,【事実】11の賃貸借契約の締結に当たり,丙建物の1階部分の内装について,飲食店の内装工事を専門とし,内装業を営むHに相談し,Bから丙建物の設計図を取り寄せるなどして,Hと共に内装の仕様及び施工方法を検討した。その上で,Fは,その検討結果の概要をBに説明し,それに従いHに内装工事を行わせることについてBの承諾を得た。これを受けて,Fは,平成23年10月3日,Hに内装工事を発注し,同月25日に工事が完了した。そこで,Fは,平成23年11月1日,丙建物の1階部分において,営業を始めた。
14.平成24年2月末頃,丙建物の1階部分で雨漏りが発生するようになった。
15.Fから雨漏りを防ぐ措置を求められたBは,Eに調査を依頼した。この調査の結果,【事実】13の工事の際にHが誤って丙建物の一部に亀裂を生じさせたことが雨漏りの原因であることが明らかとなった。
16.Bは,このままでは丙建物の維持に支障が生じると考え,Eに【事実】15の亀裂の修繕を発注し,その修繕の工事は,平成24年3月20日に完了した。そこで,Bは,それに対する報酬として100万円をEに支払った。このBがEに支払った報酬の額は,【事実】15の亀裂の修繕に要する工事の対価として,適正なものである。
〔設問2〕 【事実】1から16までを前提として,Bは,【事実】16においてEに支払った報酬に相当する金銭の支払をFに対し求めるために,どのような主張をすることが考えられるか。また,それに対し,Fは,どのような主張をすることが考えられるか。それぞれの主張の根拠を説明し,いずれの主張が認められるかを検討しなさい。
Ⅲ 【事実】1から16までに加え,以下の【事実】17及び18の経緯があった。
【事実】
17.その後,Bは,医療機器の製造販売の事業に失敗して,資金が不足するようになり,Dに対する平成24年6月分及び7月分の貸金の返済について遅滞が生じた。そこで,Dは,抵当権に基づく物上代位によって貸金の回収を図ることを考え,差し当たり丙建物の2階部分の賃料について,丙建物を目的とする【事実】10の抵当権に基づく物上代位による貸金の回収を始めることとした。また,丙建物の1階部分の賃料については,【事実】16の修繕費用をめぐる問題が解決してから,同様の手順を採ることを考えた。
そこで,Dは,平成24年9月18日,抵当権に基づく物上代位権の行使として,BがGに対して有する賃料債権のうち,平成24年9月25日以降に弁済期が到来する同年10月分から平成25年9月分までについて差押えの申立てをした。この差押えに係る差押命令は,平成24年9月21日,B及びGに送達された。
18.この送達がされる前の平成24年9月初旬,大型で強い台風が襲い,丙建物の2階部分は,暴風のため窓が損傷し,外気が吹き込む状態となった。そのままでは丙建物の2階部分で児童や生徒に対し授業をすることにも支障が生ずるため,Gは,すぐにこの状況をBに知らせようとしたが,Bの所在を把握することができなかった。
Gは,やむなくEに連絡を取って相談をし,E及びGは,平成24年9月8日,Eが丙建物の2階部分の修繕をし,それに対する報酬としてGがEに対し30万円を支払うことを約した。この報酬の額は,修繕に要する工事の対価として,適正なものである。翌9日にEがこの修繕を完了したことから,同日,Gは,Eに対し30万円を支払った。
〔設問3〕 【事実】1から18までを前提として,次の問いに答えなさい。
平成24年12月7日,Dは,同年10月分から同年12月分までの賃料(それぞれ同年9月25日,同年10月25日及び同年11月25日に弁済期が到来したもの)の合計額である90万円の支払をGに対して求めたが,Gは,【事実】18の報酬の相当額である30万円を差し引き,60万円のみを支払うと主張した。これに対して,Dは,「まず,Gが,報酬の相当額を支払うようBに対し請求する権利を有することについて,説明して欲しい。また,仮にそのような権利があるとしても,判例によれば,それと賃料債権を相殺することをもって,Dに対抗することはできないから,GはDに対して90万円全額の支払義務を負うはずである。」と反論した。Dが依拠する判例とは,下記に【参考】として示すものである。
このDの反論を踏まえた上で,Gがどのような主張をしたらよいか,理由を付して説明しなさい。
【参考】
最高裁判所第三小法廷平成13年3月13日判決・最高裁判所民事判例集55巻2号363頁
〔事案の概要〕
PがQに対して負う貸金債務を担保するため,Pが所有する建物について根抵当権が設定され,その登記がされた後,当該建物の1階部分について,Pを賃貸人とし,第三者Rを賃借人とする賃貸借契約が締結され,3150万円の保証金がRからPに預託された。
その後,P及びRは,当該建物の1階部分について,それまでの賃貸借契約をいったん解約し,改めて賃料を月額33万円とする賃貸借契約を締結し,その際,保証金を330万円に減額した。その結果,Pは,Rに対し差額の2820万円の返還債務を負った。しかし,この返還債務をPが履行することができなかったため,PがRに対して負う保証金返還債務の一部については,以後3年間,RがPに対して負う賃料債務と,賃料支払期日ごとに対当額で相殺することがPR間で合意された。
さらにその後,Qは,上記の根抵当権に基づく物上代位権の行使として,PがRに対して有する賃料債権のうち,差押命令送達時以降900万円に満つるまでのものを差し押さえ,差押命令がP及びRに送達された。
そして,Qは,Rに対し,5か月分の賃料の支払を求めて訴えを提起したが,これに対して,Rは,Pとの相殺合意に基づく相殺を主張して争った。
第1審及び第2審では,いずれもQが勝訴し,Rの上告を受けた最高裁判所は,次のとおり判示して上告を棄却する判決を言い渡した。
〔判旨〕
「抵当権者が物上代位権を行使して賃料債権の差押えをした後は,抵当不動産の賃借人は,抵当権設定登記の後に賃貸人に対して取得した債権を自働債権とする賃料債権との相殺をもって,抵当権者に対抗することはできないと解するのが相当である。けだし,物上代位権の行使としての差押えのされる前においては,賃借人のする相殺は何ら制限されるものではないが,上記の差押えがされた後においては,抵当権の効力が物上代位の目的となった賃料債権にも及ぶところ,物上代位により抵当権の効力が賃料債権に及ぶことは抵当権設定登記により公示されているとみることができるから,抵当権設定登記の後に取得した賃貸人に対する債権と物上代位の目的となった賃料債権とを相殺することに対する賃借人の期待を物上代位権の行使により賃料債権に及んでいる抵当権の効力に優先させる理由はないというべきであるからである。」
練習答案
以下民法についてはその条数のみを記す。
[設問1]
Aが、Cに対し、保証債務の履行を請求するには、当該保証契約の成立、主たる債務の存在、期限の到来の3つを主張する必要がある。事実3で示されているように甲土地をAがBに売る契約が締結されているので、BがAに代金を支払うという債務が存在している。同時履行の抗弁権は付着していない。そしてその債務の期限は平成22年8月10日であり、事実6の時点でその日は到来している。主たる債務は甲土地の売買の残代金4500万円である。
このように、主たる債務の存在と期限の到来に関しては問題点がない。問題点があるのは保証契約に関してである。以下では論点別にそれらを検討する。
1.代理
本件保証契約はBがCを代理して締結された。しかもCから代理権を授与されていない無権代理である。ただ、事実5で示されているように、CがBの無権代理を追認し、それを相手方であるAに通知している。よって第113条により、本件保証契約はAとCの双方にとって効力を生じる。その効力は契約の時にさかのぼって生じる(第116条)。第三者の権利を害するという事情もない。
2.書面
事実6でCが主張しているように、「保証契約は、書面でしなければ、その効力を生じない。」(第446条第2項)。本件ではBがCを代理して締結した保証契約は書面でなされているが、その代理(無権代理)のCによる追認は口頭でなされている。この場合に、保証契約を書面でしたことになるかが問題となる。
保証契約は書面でしなければその効力を生じないと規定されているのは保証人を保護する趣旨である。人間関係のしがらみから断りづらい状況で、主たる債務が返済されるだろうから大丈夫だと安易に保証契約を結んで効力が生じてしまわないようにするためである。本件がまさにそのよな状況である。確かにBがCを代理して締結した保証契約は書面でなされており、Cの追認によりこれが有効になってはいるが、Cが事実上の意思表示を行ったのは口頭であるから、上記の保証人を保護する趣旨からして本件の保証契約は書面でされているとは言えない。Aはこうした事情をすべて知っていたのだから、そうなっても酷ではない。AはCの追認を得てからそれを書面にすることもできたはずである。
なお、本件保証契約は連帯保証契約なので、これが有効だとしたらCは催告の抗弁権(第452条)や検索の抗弁権(第453条)は有しない(第454条)。
[設問2]
本件では、BがFとの間において、丙建物の1階部分について賃貸借契約を締結している。また、FはHに内装工事を行わせており、これはFH間での請負契約に基づいていると推測できる。よって本来であればFが瑕疵修補請求権(第634条第1項)を行使してHにその修補をさせるべきところである。しかしBが丙建物の維持に支障が生じると考え、Hとは別のEに修繕の工事を発注し、その適正な対価を支払った。これらの事情を前提にして、以下ではBとFの主張を検討する。
1.Bの主張
①委任
BはFから雨漏りを防ぐ措置を求められたので、それが準委任(第656条、第643条)だとして費用の償還請求(第650条第1項)をすると主張することが考えられる。
②事務管理
①の委任が成立していないとしてもBは事務管理(第697条)をしたので、その費用の償還請求(第702条第1項)をすると主張することが考えられる。雨漏りを防ぐ工事はFにとって有益である。
③不法行為
Fが過失によりBが所有する丙建物を損壊したとして損害賠償を請求する(第709条第1項)を主張することが考えられる。ただし、注文者は、注文又は指図について注文者に過失があったときに限りその責任を負う(第716条)ので、そのこともあわせて主張しなければならない。
2.Fの主張
①委任
Fは賃貸人であるBに対して雨漏りを防ぐ措置を求めただけで、委任をした覚えはないと主張することが考えられる。
②事務管理
Fは事務管理の通知を受けていない(第699条)と主張することが考えられる。また、そもそもBには雨漏りを修繕する義務があると主張することも考えられる。
③不法行為
Fは注文者である自分の注文や指図に過失がなかったと主張することが考えられる。
④必要費(賃貸物の修繕等)
Fはそもそもこの雨漏りを防ぐ修繕はBが行わなければならないと主張することが考えられる。その根拠は第606条である。
3.結論
委任又は事務管理によりBの主張が認められる。というのも、本件修繕義務はHにあるのであってBにはない。つまり必要費(賃貸物の修繕等)には該当しない。そうなると委任の成立が認められる場合は委任が、そうでない場合は事務管理が成立することになる。
[設問3]
1.GのBに対する請求権
賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う(第606条第1項)。本件では台風という自然現象で窓が損壊したので、他に義務を負担する者はいない。そして賃借人であるGが賃借物について賃貸人であるBの負担に属する必要費を支出したので、直ちにその償還を請求することができる(第608条第1項)。
2.賃料債権との相殺
Dの反論を踏まえて、Gは、参考の判例とは事案が異なるので、賃料債権を相殺することができると主張したらよい。
参考の判例は、賃貸人と賃借人とがその合意によって賃借人の賃貸人に対する債権を発生させている。これは詐害的な行為である。よって無資力者からの債権回収という枠組みで処理されたのである。本件はそうではなく、相対的に劣位な賃借人固有の債権であり、他の債権と同列に並べるわけにはいかない。
修正答案
以下民法についてはその条数のみを記す。
[設問1]
Aが、Cに対し、保証債務の履行を請求するには、当該保証契約の成立、主たる債務の存在、期限の到来の3つを主張する必要がある。事実3で示されているように甲土地をAがBに売る契約が締結されているので、BがAに代金を支払うという債務が存在している。そしてその債務の期限は平成22年8月10日であり、事実6の時点でその日は到来している。主たる債務は甲土地の売買の残代金4500万円である。
このように、主たる債務の存在と期限の到来に関しては問題点がない。問題点があるのは保証契約に関してである。以下では論点別にそれらを検討する。
1.代理
本件保証契約はBがCを代理して締結された。しかもCから代理権を授与されていない無権代理である。ただ、事実5で示されているように、CがBの無権代理を追認し、それを相手方であるAに通知している。よって第113条により、本件保証契約はAとCの双方にとって効力を生じる。その効力は契約の時にさかのぼって生じる(第116条)。第三者の権利を害するという事情もない。
2.書面
事実6でCが主張しているように、「保証契約は、書面でしなければ、その効力を生じない。」(第446条第2項)。本件ではBがCを代理して締結した保証契約は書面でなされているが、その代理(無権代理)のCによる追認は口頭でなされている。この場合に、保証契約を書面でしたことになるかが問題となる。
保証契約は書面でしなければその効力を生じないと規定されているのは、保証人の慎重で主体的な意思表示を要求することにより、保証人を保護する趣旨である。人間関係のしがらみから断りづらい状況で、主たる債務が返済されるだろうから大丈夫だと安易に保証契約を結んで効力が生じてしまわないようにするためである。本件がまさにそのよな状況である。確かにBがCを代理して締結した保証契約は書面でなされており、Cの追認によりこれが有効になってはいるが、Cが事実上の意思表示を行ったのは口頭であるから、上記の保証人を保護する趣旨からして本件の保証契約は書面でされているとは言えない。Aはこうした事情をすべて知っていたのだから、そうなっても酷ではない。AはCの追認を得てからそれを書面にすることもできたはずである。
[設問2]
本件では、BがFとの間において、丙建物の1階部分について賃貸借契約を締結している。また、FはHに内装工事を行わせており、これはFH間での請負契約に基づいていると推測できる。よって本来であればFが瑕疵修補請求権(第634条第1項)を行使してHにその修補をさせるべきところである。しかしBが丙建物の維持に支障が生じると考え、Hとは別のEに修繕の工事を発注し、その適正な対価を支払った。これらの事情を前提にして、以下ではBとFの主張を検討する。
1.Bの主張
①債務不履行
Bは債務不履行(415条)を原因としてFに対して損害賠償請求を主張することが考えられる。
②事務管理
Bは事務管理(第697条)をしたので、その費用の償還請求(第702条第1項)をすると主張することが考えられる。
③不法行為
Fが過失によりBが所有する丙建物を損壊したとして損害賠償を請求する(第709条第1項)を主張することが考えられる。
2.Fの主張
①債務不履行
Fに債務不履行がないこと、仮にあったとしても帰責性がないことを主張することが考えられる。
②事務管理
Fは事務管理の通知を受けていない(第699条)と主張することが考えられる。また、そもそもBには雨漏りを修繕する義務があると主張することも考えられる。
③不法行為
Fは注文者である自分の注文や指図に過失がなかったので賠償責任を負わない(716条)と主張することが考えられる。
3.主張の当否
①債務不履行
「債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる」(415条前段)。同条後段の類推適用及び419条3項の反対解釈から、この債務不履行の損害賠償には債務者の帰責性が要求される。
賃借人の一義的な債務は賃料の支払いであるが、賃貸借の性質から賃借物の保管義務も付随的な債務として認められる。よって、丙建物が毀損され、Fに帰責性があれば、BがFに対して債務不履行の損害賠償を請求することができる。
本件においては、Hが誤って丙建物の一部に亀裂を生じさせたことが雨漏りという丙建物の毀損の原因であった。これがFの帰責性と言えるかが問題となる。HはFが選んだ内装業者であり、Fの履行補助者であると言える。確かにBはFがHに内装工事を行わせることを承諾しているが、Fが主導者であり、Bは受動的に承諾しているに過ぎない。HはFが選んだF側の人物である。実際、本件亀裂の修繕をBはHではなくEに依頼している。よってFの履行補助者であるHの帰責性はFの帰責性と同視することができる。Fは、Bから債務不履行の損害賠償を請求されたとしても、Hに求償をすることができる。HはBよりもFと近しい関係にあるので、BがHに賠償を請求すべきだとするよりも、FがHに求償すべきだとしたほうが合理的である。
②事務管理
「賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う」(606条1項)ので、Bには本件雨漏りを修繕する義務がある。よって通知を検討する以前に事務管理には該当しない。
③不法行為
本件雨漏りは、請負人であるHがその内装の仕事について第三者であるBに加えた損害である。よって716条が適用される。注文者であるFに過失があったとは認められないので、Fは賠償責任を負わない。
④結論
以上より、債務不履行の損害賠償というBの主張が認められる。
[設問3]
1.GのBに対する請求権
賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う(第606条第1項)。暴風のため窓が損傷し、外気が吹き込む状態となり、そのままでは丙建物の2階部分で児童や生徒に対し授業をすることにも支障が生じている。よって、賃貸人Bは、賃借人Gが丙建物の2階部分の使用及び収益をするために必要な修繕をする義務を負う。そして賃借人であるGがこのBの負担に属する必要費を支出したので、直ちにその償還を請求することができる(第608条第1項)。
2.賃料債権との相殺
Dの反論を踏まえて、Gは、参考の判例とは事案が異なるので、賃料債権を相殺することができると主張したらよい。
参考の判例は、貸金債務間の優劣は登記の先後で決するというルールを述べたものである。判例のように判断しないとRのような抜け駆けの債権回収を許すことになり、登記によって抵当権を公示する機能が骨抜きにされてしまう。PがRに負う債務は敷金返還債務であるが、当事者の合意により敷金という名目で金銭を貸し付けることは容易であるため、貸金債務と同視してもよい。
他方で本件でBがGに対して負っている債務は必要費返還債務であり、貸金債務と同視することはできない。建物の効用を維持するためには速やかに使用及び収益に必要な修繕をすることが望ましく、必要費を立て替えてもすぐに返還されるという安心感を賃借人に与えて、賃貸人よりも先に修繕の必要性に気づくであろう賃借人に速やかに修繕をしてもらうことが合理的である。このような必要費返還請求権を貸金債権と同列に並べて登記の先後で優劣を決するべきではない。
以上より、Gは上記の理由で30万円を差し引き,60万円のみを支払うと主張したらよい。
感想
[設問1]はよいとしても、[設問2]と[設問3]は全然わかっていませんでした。